Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.
第 3 課 Lesson III
1. 文法 Grammar
(A) 単数与格 The Dative Singular
(1) 形態
(a) 名詞:男性・中性名詞の語幹には単数与格で -i をつける.女性名詞は語尾 -u をとるが,単音節の語幹ではこの語尾はしばしば現れない.女性語幹が 2 音節 bisyllabic のとき,u-語尾は一般に現れるが,ここでも若干の変異がある (gersimi「宝物 treasure」型の女性名詞については第 9 課).
(b) 形容詞:単数与格の男性名詞を修飾するときには形容詞語尾は -um であり,女性では -ri, 中性では -u である.基本語幹が長母音で終わるときには女性語尾の r は二重化する:(há-) 単与 hárri, (nýj-) 単与 nýrri.
(2) 用法
(a) 手段を表す instrumental〔訳注:つまり具格の吸収〕,たとえばふつう英語の前置詞 with によって表される用法.例:búinn hjálmi「兜を身につけた equipped with a helmet」,hlaðinn gulli「金を積んだ laden with gold」,rekinn silfri「銀が散りばめられた inlaid with silver」.
(b) 動詞の目的語:多くの動詞,とりわけ因果を表すものは,与格目的語をとる.例:sigla/stýra skipi「船を出す/舵を取る sail/steer a ship」,bana úvini「敵を殺す」,eyða borg「町を荒らす lay waste a city」.
(c) 前置詞の目的語:特定の前置詞,とりわけ方向や場所を示すものは,与格目的語をとる.例:frá landi「陸から from land」,at hausti「秋に」,á vári「春に」.
(B) a : ǫ の交替 (u-ウムラウト)
u-ウムラウト (の影響) としても知られる a → ǫ の変化は,基底語幹の強勢のある短い a に次の音節の u が後続するとき起こる.それゆえ形容詞の男性と中性の単数与格語尾 -um, -u は表層形にこれを起こす.(skarp-)「鋭い sharp」男単主 skarpr, 男単与 skǫrpum; 中単主 skarpt, 中単与 skǫrpu. u-ウムラウトの手続きはまた同じ条件で名詞と動詞にも起こる.第 2 課 1.A.3 で述べたように〔訳注:理由は述べていない〕,昔あった u がすでに語尾から失われている場合にもこの交替は起こる:根 root が子音で終わる女性名詞の単数主格・対格,形容詞女性形の単数主格のみ,中性名詞および形容詞の複数主格・対格.例:女性名詞 (hall-i-), 単主 hǫll, 単与 hǫllu または hǫll; (marg-)「多い many」女単主および中複主・対 mǫrg; (land-) 複主・対 lǫnd; (skarp-) 女単主および中複主・対 skǫrp.
(C) 語幹の長短 Long v. Short Stems
(1) 短い語幹とは,強勢のある長母音または二重母音で終わるか,強勢のある短母音に子音がひとつ後続して終わるものである (j および v-加音と幹母音はこのさい数えられない)〔訳注:要するに発音編で見た「文法上短い音節」のこと〕.短い語幹の例:(stað-i-)「町,場所」,(skip-), (mjað-u-), (miðj-), (nýj-), (hverj-)「あらゆる,おのおのの every, each」.
(2) 長い語幹とはそれ以外のもので,以下のタイプがある:
(a) 短母音に 2 つ以上の子音が後続する (やはり j と v の加音は数えない):(fagr-)「美しい fair」,(sigl-i/j-)「航海する to sail」,(bekk-i-)「長椅子 bench」.
(b) 長母音または二重母音に 1 つ以上の子音が後続する:(spjót-), (vápn-), (góð-), (frægj-), (brauð-).
(c) 2 音節以上:(rekin-)「散りばめられた inlaid」,(timbrað-)「木造の timbered」.
(D) 加音のある語幹 Augmented Stems
第 2 課では j-加音のある語幹について見たが,v-加音もある.これらは語幹音節の長さの決定には数えられず,表層形に現れるのは非常に限られた条件でのみである.中性名詞語幹は,男性および女性の a-幹と同様,加音が起こりうる.形容詞・動詞・代名詞語幹も同様である.加音が屈折形に現れるのは以下の条件である:
(1) j-加音
(a) j が現れるのは,後母音 (a または u) が直接後続する短音節語幹のあとである.前母音 (i) や子音やゼロが後続するときには消失する.それゆえ (miðj-)「中央の middle」は男単主 miðr, 与 miðjum; 女単主 mið, 複主 miðjar; 中単主 mitt, 与 miðju, 等々となる.(hverj-) は男単主 hverr, 複主 hverir; 女複主 hverjar, 単与 hverri; 中単与 hverju, 複主 hver, 等々.
(b) 長音節の語幹のあとでは j-加音は i として実現するか,現れないか,特殊な条件のもとで j として実現する.
- 長い名詞語幹,たとえば中性 (kvæðj-)「詩 poem」や (ríkj-)「領地 dominion」,男性 (hersj-)「首領 chieftain」では,j-加音は子音またはゼロの前で i として現れる.それゆえ単・複主 (kvæðj- + zero) → kvæði, (ríkj- + zero) → ríki, また単主 (hersj-a- + -r) → hersir.(格) 語尾が母音で始まるとき加音は現れない.それゆえ男単与 (hersj-a- + -i) → hersi, 複主 (hersj-a- + -r) → hersar, また中単与 (kvæðj- + -i) → kvæði. しかし長音節語幹が軟口蓋音 k, g で終わる場合には,加音 j は後続する a または u の前で現れる.それゆえ複与 (ríkj- + -um) → ríkjum.
- 長い形容詞語幹では j-加音は現れない.唯一の例外は,k か g で終わる語幹の後にあり,a か u が後続するときである.それゆえ (frægj-) は男単主 (frægj- + -r) → frægr, 複主 (frægj- + -ir) → frægir, 単与 (frægj- + -um) → frægjum. (こうした j-加音をもつ長音節の形容詞語幹は古風 archaic である;のちの OI の形では j はしばしば完全に落ち,たとえば女複主 frægar.)
(2) v-加音
v-加音は,語幹が長短いずれでも,後続母音が u 以外であれば現れる.それゆえ中性名詞語幹 (ǫlv-) からは単主 (ǫlv- + zero) → ǫl, 与 (ǫlv- + -i) → ǫlvi; 形容詞語幹 (rǫskv-)「勇敢な,精力的な brave, vigorous」からは男単主 (rǫskv- + -r) → rǫskr, 複主 (rǫskv- + -ir) → rǫskvir, 女単主 (rǫskv- + zero) → rǫsk, 複主 (rǫskv- + -ar) → rǫskvar, 中単主 (rǫskv- + -t) → rǫskt, 単与 (rǫskv- + -u) → rǫsku, 等々.
(E) 語順
(1)〔第 1 課で見た内容.形容詞が名詞に先行するとより強調的になるが,構文の反復や単調さを避ける文体論上の要請からそうなることもある.副詞もまた文頭に立てると卓立 prominence 的であるが以下同様〕
(2) 同格 apposition の語句はそれが修飾する名詞とつねに格が一致し,名詞に後続する.
Hverr víkingr er hermaðr góðr, búinn fǫgrum hjálmi, skǫrpu sverði, ok hvǫssu spjóti. あらゆるヴァイキング [男単] はよい戦士 [男単] であり,美しい〔(fagr- + -um) → fǫgrum〕兜 [男単与],鋭い剣 [中単与],そしてとがった槍 [中単与] を身につけている [男単主].
Skjǫldr hans er silfri eða gulli rekinn. 彼〔ら〕の盾 [男単] は銀 [中単与] または金 [中単与] が散りばめられている [男単主]〔Hans「彼の」は前文の「あらゆるヴァイキング every viking」を受けているので,形の上では単数だが日本語としては「彼ら」とすべきだろう〕.
Hann siglir skipi sínu, traustu ok fǫgru, frá landi á vári hverju. 彼〔ら〕は彼〔ら〕の,信頼できる美しい船で [中単与],毎年春に [中単与] 陸 [中単与] から航海する〔sínu < sín は 3 人称の再帰所有代名詞で単複を問わないので「彼〔ら〕」と断る必要がないようだが (第 11 課),受けている名詞はやはり hann と同じものなので,煩雑でもこのほうが一貫するだろう〕.
Í suðri eru mǫrg vǫldug ríki. 南 [中単与] には活発で有力な多くの〔もの〕[中複主] がある.
Þar eru frægjar borgir, stórar hallir, ok mikil klaustr. そこには有名な都市 [女複主],大きな広間 [女複主],そして多くの修道院 [中] がある.
Í langri ferð sinni ferr hann víða með úfriði. 彼〔ら〕の長い旅 [女単与] のなかで彼〔ら〕は闘争 [男単与] とともにいろいろのところへ行く.
Hann banar mǫrgum úvini ok eyðir margri borg á Englandi ok Vallandi. 彼〔ら〕は多くの敵 [男単与] を殺し,イングランド [中単与] とフランス [中単与] で多くの町を荒らす〔bana「殺す」および eyða「荒らす」の目的語が対格でなく与格であるのは本文 A.2.b〕
At hausti stýrir hann skipi sínu, hlǫðnu gulli ok annarri gersimi, heim. 秋 [中単与] には彼〔ら〕は彼〔ら〕の,金 [中単与] とその他の宝物 [女単与] を積んだ船を [中単与],故郷へと進める〔stýra「操舵する steer」もまた与格目的語 (ここでは skip) をとる〕.
Hann lendir síðan skipi sínu í Nóregi eða Danmǫrku, í Svíþjóð eða á Íslandi, en þaðan koma allir rǫskvir víkingar. 彼〔ら〕はそうしてノルウェー [男] またはデンマーク [女],スウェーデン [女] またはアイスランド [中] に彼〔ら〕の船で上陸するが,そこからすべての勇猛なヴァイキングたちは来る.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
v-加音は,語幹が長短いずれでも,後続母音が u 以外であれば現れる.それゆえ中性名詞語幹 (ǫlv-) からは単主 (ǫlv- + zero) → ǫl, 与 (ǫlv- + -i) → ǫlvi; 形容詞語幹 (rǫskv-)「勇敢な,精力的な brave, vigorous」からは男単主 (rǫskv- + -r) → rǫskr, 複主 (rǫskv- + -ir) → rǫskvir, 女単主 (rǫskv- + zero) → rǫsk, 複主 (rǫskv- + -ar) → rǫskvar, 中単主 (rǫskv- + -t) → rǫskt, 単与 (rǫskv- + -u) → rǫsku, 等々.
(E) 語順
(1)〔第 1 課で見た内容.形容詞が名詞に先行するとより強調的になるが,構文の反復や単調さを避ける文体論上の要請からそうなることもある.副詞もまた文頭に立てると卓立 prominence 的であるが以下同様〕
(2) 同格 apposition の語句はそれが修飾する名詞とつねに格が一致し,名詞に後続する.
3. 氷文英訳 (和訳) Text
Hverr víkingr er hermaðr góðr, búinn fǫgrum hjálmi, skǫrpu sverði, ok hvǫssu spjóti. あらゆるヴァイキング [男単] はよい戦士 [男単] であり,美しい〔(fagr- + -um) → fǫgrum〕兜 [男単与],鋭い剣 [中単与],そしてとがった槍 [中単与] を身につけている [男単主].
Skjǫldr hans er silfri eða gulli rekinn. 彼〔ら〕の盾 [男単] は銀 [中単与] または金 [中単与] が散りばめられている [男単主]〔Hans「彼の」は前文の「あらゆるヴァイキング every viking」を受けているので,形の上では単数だが日本語としては「彼ら」とすべきだろう〕.
Hann siglir skipi sínu, traustu ok fǫgru, frá landi á vári hverju. 彼〔ら〕は彼〔ら〕の,信頼できる美しい船で [中単与],毎年春に [中単与] 陸 [中単与] から航海する〔sínu < sín は 3 人称の再帰所有代名詞で単複を問わないので「彼〔ら〕」と断る必要がないようだが (第 11 課),受けている名詞はやはり hann と同じものなので,煩雑でもこのほうが一貫するだろう〕.
Í suðri eru mǫrg vǫldug ríki. 南 [中単与] には活発で有力な多くの〔もの〕[中複主] がある.
Þar eru frægjar borgir, stórar hallir, ok mikil klaustr. そこには有名な都市 [女複主],大きな広間 [女複主],そして多くの修道院 [中] がある.
Í langri ferð sinni ferr hann víða með úfriði. 彼〔ら〕の長い旅 [女単与] のなかで彼〔ら〕は闘争 [男単与] とともにいろいろのところへ行く.
Hann banar mǫrgum úvini ok eyðir margri borg á Englandi ok Vallandi. 彼〔ら〕は多くの敵 [男単与] を殺し,イングランド [中単与] とフランス [中単与] で多くの町を荒らす〔bana「殺す」および eyða「荒らす」の目的語が対格でなく与格であるのは本文 A.2.b〕
At hausti stýrir hann skipi sínu, hlǫðnu gulli ok annarri gersimi, heim. 秋 [中単与] には彼〔ら〕は彼〔ら〕の,金 [中単与] とその他の宝物 [女単与] を積んだ船を [中単与],故郷へと進める〔stýra「操舵する steer」もまた与格目的語 (ここでは skip) をとる〕.
Hann lendir síðan skipi sínu í Nóregi eða Danmǫrku, í Svíþjóð eða á Íslandi, en þaðan koma allir rǫskvir víkingar. 彼〔ら〕はそうしてノルウェー [男] またはデンマーク [女],スウェーデン [女] またはアイスランド [中] に彼〔ら〕の船で上陸するが,そこからすべての勇猛なヴァイキングたちは来る.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
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