E. V. Gordon and A. R. Taylor, An Introduction to Old Norse, pp. 267–270,「古ノルド語小文法」§§11–29. 第 1 部「アルファベットと発音 (承前)」はここまで。今回の最後のあたりはいまひとつ釈然としない部分が残ったのでそのうち調べなおしたい。続きを読んでいくうちにわかるか?
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子音
11. 二重子音はそのあとに母音が続くとき二重に発音される;したがって drekka の kk は〔英語の〕book-keeping のように。一方 dreki の k は〔英〕bookie のように単音で。語末にある、もしくは同一音節内にべつの子音が続くとき、二重子音は長く発音され、そうして hamarr (主格) は hamar (対格) から、また munnr「口」は munr「精神」から区別される。
12. d, t, n, l (§13 を見よ) は舌の尖端を歯にあてて、フランス語やドイツ語のように発音される。英語のように舌の先端を歯茎にあてるのではない。無声の l と n は語頭では hlaupa, hnipinn のように hl, hn と綴られる。l と n はまた、vatn, hasl におけるように無声子音に続く語末、もしくは vatns のように無声子音のあいだに立つときにも無声である (この後者はおそらく 13 世紀には vats のような音になった)。
13. l は語頭、d, n, l, r の隣に立つとき、または非アクセント母音に後続するときには、フランス語やドイツ語の l のような音であった:land, falla, halda, aðal。それ以外の位置では (無声の場合を除いて) l は、英 people のもっとも一般的に使われる発音におけるように、舌の背が u の位置へと高められるときの、後舌の響きをもっていた。
14. n は ng または nk (まれ) の組みあわせにおいて、英 single, sink におけるように発音された。
15. f は語頭、または無声子音が後続するとき、英 fat のように無声であった:fara, gaft。それ以外の位置では f は英 v の有声音であった:gefa, gaf。有声の f は n が後続するとき鼻音化される。jafn におけるようにで、これはしばしば jamn と綴られた。
16. v は 12 世紀には、ドイツ語 quelle の u やスペイン語 saber の b のような有声両唇摩擦音だった;13 世紀のあいだに v は英語の v のような唇歯音、アイスランド語の語中および語末の f と同じ音になった。こうして ævi のような語がしばしば æfi と綴られた。hv という組みあわせでは v は無声であったが、14 世紀には hv はいくつかの方言で kv となった。
17. p は英語におけると同様に発音された。例外は s または t が後続するときで、無声両唇摩擦音であり §15 の無声の f と同一であった:lopt, keypta (kaupa の過去分詞)。もっとも近い音は英 loft の f である。
18. r はつねにスコットランド方言のような強い舌先のふるえ音である。dagr のような単語の語末の r は成節的ではなかった;〔つまり〕この単語全体は単音節語であった。drykkr のように無声子音に続くとき、r は無声だった。語頭においては無声の r は hringr のように hr と綴られた。
19. ʀ は文献以前の時代にのみ現れ、のちには §18 の r と同一になった。これはゲルマン語の z に由来し、文献以前期におけるその発音は決定するのが難しい。たぶんその発達は z から r の音色を帯びた z へ、そこから硬口蓋化した r へ、そしてふるえ音の r へと至ったかもしれない。
20. s はつねに英 blast のように無声である:blása「吹く」。
21. þ は最古のアイスランド語写本において、英 thin の無声の th 音と then の有声音との両方に用いられた。1225 年ころ ð が導入され、段階的に þ は語頭のみ、そして ð はそれ以外の位置において用いられるようになった。すると þ は無声音だけを表すようになり、一方 ð は、無声子音に後続するとき (その場合 ð はふつう t になったので稀だが) を除いて、有声であった:faðir, við。
22. z は ts の音をもっていた:beztr, Vestfirzkr。
23. j は英 young の y のような音だった:Jórk「ヨーク York」、liggja。
24. h はふつう気息音だったが、j の前では英 hue におけるような前寄りの気音であった:hjarta「心臓」。hl, hn, hr は無声の l, n, r だった。hv という組みあわせでは h は独立した音価 (おそらく独 ach における後寄りの無声の気音) をもっていたことは、hv から kv への後代の発達により示されている。
25. g はアイスランド語で複数の異なった音価をもっていた:
(1) 英 got のような有声軟口蓋破裂音。語頭、ng の組みあわせ、および二重化したとき:góðr, ganga, ungr, grjót, liggja。
(2) ng または gg が s または t の前に立ったとき、k へと無声化された:ungs, ungt, eggs (unks, unkt, ekks と発音された)。
(3) 独 tage のような有声軟口蓋摩擦音。語中および語末で、直後に s または t が来る場合を除く。後者の場合は無声化してスコットランド方言 loch の ch の音になる。有声音は draga, dagr, 複 dagar, sagði, bjarg;無声音は単属 dags, 過分 sagt。
(4) すでに文献時代以前から、語中で i と j の前にあっては、(3) の有声軟口蓋摩擦音は硬口蓋音になり、ng もまた硬口蓋化された:degi, segja, genginn。この硬口蓋化は degi と genginn における語根母音の変異によって証拠づけられる (§38)。
(5) 前舌母音または j が後続するとき、(1) の語頭の軟口蓋破裂音は、13 世紀後半において硬口蓋化の過程のなかにあった:gefa, gil, gjǫf, geyja。
26. k は英 caught の c のような無声軟口蓋破裂音だった。語中で i と j の前のとき、これは文献以前期には硬口蓋音になっており (§38)、語頭では 13 世紀後半において、前舌母音と j の前で硬口蓋化の過程にあった。
音節
27. 任意の強勢音節 (stressed syllable) は、短母音で終わるか、または長母音であっても直後に短く弱い強勢 (weakly-stressed) の母音が続くとき、短い〔音節である〕。それゆえ geta, fara, konungr, búa, róa の第 1 音節は短い。búa の長母音が短くされることは、現代英語において動詞 ‘to do’ の母音が、‘do it!’ のように母音の直前に立つとき短くされることに比しうる。上記以外のすべての強勢音節は長い。kalla, kjósa, binda の第 1 音節、konungr, elskandi, ríkastr の第 2 音節、さらに単音節語 ungr, góðr, gott, bú におけるように。
28. §27 に与えた例は、ge-ta, kal-la, bin-da, seg-ja, stǫð-va というような、通常のゲルマン語の音節分けを前提しており、こうした音節分けが発話において普通であったことはほとんど疑いを容れない。しかしながらスカルド詩の韻文においては、韻が異なる慣習的な音節分けを呈し、それによって j と v を除く単子音が前の音節に属する、また 2 子音にしてもそれらが全変化表を通じているならば同様である:get-a, kall-a, bind-a, ey-jar, æ-vi, seg-ja, stǫð-va、しかし ham-arr からの ham-ri、gat-a からの gat-na〔は、格変化を通して共通していない部分なので、2 つめの子音は前の音節には入らない〕。この音節分けは慣習的に古アイスランド語テクストの印刷において踏襲されている。複合語では分節は kǫgur-sveinn のようにもとの要素のあいだに落ちる。
アクセント
29. アクセントは 3 段階を区別しうる:主 (primary)、副 (secondary)、弱 (weak) あるいは非アクセント (unaccented)。主アクセントはつねに第 1 音節にある。例外は fyrirbjóða のような派生動詞で、ここでは主アクセントは動詞要素の語根音節にあり、前つづりは弱アクセントである。副アクセントは複合語において現れ、me͞insằmir のように第 2 要素の語根音節に落ちる〔訳注:前半 mein- の ei にまたがってかかる上線の上にさらに鋭アクセントがあり、この二重母音に主アクセントが乗ることを表している〕。また派生語において、屈折語尾が付されうる接尾辞の上に落ちる:he͞ilā̀gri, he͞ilū̀g〔やはり ei にまたがるマクロンの上に鋭アクセント〕;jā́fnằði。しかしながら短い派生音節の上の副アクセントは、多くの語において詩語および古風でしかなかった。すべての語尾、接続詞、前置詞、接続副詞、およびたいていの代名詞は、弱アクセントであった。形容詞、副詞、名詞は強アクセントであったが、一方動詞は (古英語におけると同様) より弱い強勢をもっており、詩においてはときに非アクセントとして扱われた。〔訳注:accent(ed) はアクセント、stress(ed) は強勢と一貫して訳しわけたが、違いはいまいち判然としない。〕
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