Edmund Goodwin 編、Robert Thomson 改訂の First Lessons in Manx (初版 1901 年、改訂版 1965 年) によってマン島語 (マニン・ゲール語) の文法を勉強するノート。副読本として適宜 J. Kewley Draskau, Practical Manx (Liverpool U.P., 2008) および G. Broderick, A Handbook of Late Spoken Manx (De Gruyter, 1984–86) をも参考にした。
以前 §20 でも前置詞 ec について見たが、今回 §32 では ayns と人称代名詞との結合形が出てくる。このようなものをマン島語のみならずケルト諸語では前置詞的代名詞 (prepositional pronoun) または活用する前置詞 (conjugated preposition) と呼ぶ。前置詞が「活用」するというのは面妖に聞こえるかもしれないが、語尾が人称・数によって変化するというのはまさしく動詞の活用と同じなのでそのように呼べるわけである。
目次リンク:第 1 回を参照のこと。
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32. §139 によって前置詞 ayns (英 in) と人称代名詞との結合を学べ。〔単 aynym, aynyd, ayn, aynjee; 複 ayn/ayndooin, ayndiu, ayndoo/ayndaue。〕単数の冠詞を伴う ayns yn はしばしば ’syn に縮約し、また子音のまえでは ’sy となる。
33.「ある、存在する」という意味のとき、マン島語では ayn「それのなかに (英 in it)」を必要とする:
cha nel eeym ayn バターはない
vel arran ayn? パンはあるか
Cf. Anglo-Manx ‘I never knew the like was in.’
34. 前置詞と人称代名詞との結合は、§13 で見た人称代名詞のように、特定の接尾辞 (§137) を加えて示される強勢形をもつ:shoh yn lioar ayms, cha nee yn lioar echeysyn「これは私の本であって、彼のではない」。
〔単純形に接尾辞として単 ’s, ’s, syn, ish, 複 yn, ish, syn を加える。上例の ayms は ec の 1 単 aym (§20) に s がついたもの、echeysyn は ec の 3 単男 echey に syn がついたもの。また shoh「これ」は §40 で説明されるとおり、be 動詞なしで用いられる。〕
35.〔語彙。どうも編集がまずいのか、実際にはこの問題に出てこない語が多いので、それらには × を付した。ここよりあとの問題では出てくる場合があるので、おそらく移動したのに単語をろくに整理していないためだろう。〕
balley [男] 町
çheer [女] 国、田舎
thalloo [男] 土地、地面
foast まだ
〔×〕agh しかし
〔×〕shenn 老いた
aeg 若い
〔×〕oor 新鮮な、できたての、真水の (英 fresh)、塩気のない〔英 fresh は多義的であるが、併記されている unsalted と比べると「真水の」の意味に解せよう。しかし §102 ではパンが「焼き立て」という意味で現れる。また「新しい、新鮮な」の意味もあることは同源のアイルランド語 úr, スコットランド・ゲール語 ùr と同様。〕
giare 短い、背が低い
liauyr 長い、背が高い
〔×〕ooir [女] 土
〔×〕seihll [男] 世界
toallee, thollee 頑健な
lajer 強い
faase 弱い
〔×〕annoon 弱った、虚弱な
ushtey [男] 水
faarkey [男] 海
keayn [男] 海、大洋
〔×〕mooir [男] 海、潮
çhing 病気の
slayntoil 健康な
〔×〕follan 健康な、万全の
〔×〕erbee まったく (英 at all)
quoi? 誰
〔×〕quoi-erbee 誰であれ
cre? 何
〔×〕cre-erbee 何であれ
cre-veih?, cre-voish? どこから
nish いま、現在
〔×〕eisht そのとき、当時
〔×〕neesht 〜もまた
reesht ふたたび
foddey 遠い
faggys, er-gerrey 近い
feer とても、非常に (次の形容詞を軟音化)
〔×〕ro とても、あまりに (軟音化)
magh 外へ (運動の動詞のあとで)
mooie 外で (静止の動詞のあとで)
stiagh 中へ (運動の動詞のあとで)
sthie 中で (静止の動詞のあとで)
〔補遺。oie [女] 夜、laa [男] 昼、日。〕
36.〔日本語に訳せ。〕
Hie ad magh. 彼らは外へ行った。〔hie は goll の過去独立形。〕
V’ad mooie. 彼らは外にいた。
Hie ad stiagh. 彼らは中へ行った (=入った)。
V’ad sthie. 彼らは中にいた。
Vel oo sthie? 君は中にいるか。
Ta. はい。
Vel eh sthie? 彼は中にいるか。
Cha nel. いいえ。
Vel oo goll voish y thie? 君は家から出るか。
C’raad t’ou goll voish y thie? 君は家からどこへ行くのか。
Ta mee goll er y çheer. 私は田舎へ行く。
Vel oo goll foddey er y çheer? 君ははるばる田舎まで行くのか。
C’raad er y çheer t’ou goll? 田舎のどこへ君は行くのか。〔原文 Craad だが脱字と判断した。〕
Fow magh eh. 彼/それを見つけだせ。
Ta Juan aeg, t’eh liauyr, as t’eh gaase foast; t’eh lajer as slayntoil. ジョンは若く、背が高く、まだ成長している。彼は強く壮健だ。〔原文 lauyr は脱字か。gaase は §24 で出ている。〕
Ta Çhalse mooar as toallee; cha nel eh çhing nish. チャールズは大きく頑丈だ。彼はいま病気ではない。
Haink shiu veih’n thie. 君たちは家から来た。〔haink は çheet の過去独立形。〕
Cha daink shiu veih’n thie. 君たちは家から来なかった。
Cre voish haink oo? 君はどこから来るのか。〔Cre-voish にハイフンがないが、あったほうがいいのでは?〕
Veih çheer feer foddey, veih America. とても遠い国から、アメリカから。
Ren oo fakin y dooinney? 君はその男を見たか。
Honnick mee eh. 私は彼を見た。
Ta mish er y thalloo; as t’eshyn er y cheayn (on the sea). 私は陸上にいる。彼は海上にいる。〔ch- は keayn の軟音化だが、なんでそうなっているのかはわからない。同じ環境の thalloo のほうは軟音化していない。〕
“Ta’n oie foddey ceaut (spent), ta’n laa er-gerrey.” 夜は更けて、日が近づいた。〔ロマ書 13:12。〕
37.〔マン島語に訳せ。〕
彼は出ていった。Hie eh magh.
彼は外にいる。V’eh mooie.
彼らは外にいるか。Row ad mooie?
彼らは出ていった。Hie ad magh.
私は陸上にいて、彼は海上にいる。Ta mish er y thalloo, as t’eshyn er y cheayn.
遠くと近く。foddey as faggys
長いと短い。liauyr as giare
大きいと小さい。mooar as beg
彼女は弱い。T’ee faase.
私は強い。Ta mee lajer.
私は見る。Ta mee fakin.
私は言う。Ta mee gra.
私は見た。Ren mee fakin. / Honnick mee.
私は言った。Ren mee gra. / Dooyrt mee.
地と水。thalloo as ushtey
町と国。balley as çheer
君は田舎に行くのか。Vel oo goll er y çheer?
私は村を見た。Ren mee fakin balley beg.
彼は入ってきて、また出ていった。Haink eh stiagh, as hie eh magh reesht.
38. ve の未来は従属形と独立形とに用いる 1 つの形しかない。これまでに学んだ時制と異なる点は、1 人称単数ではつねに、また 1 人称複数でもしばしば、人称代名詞を主語としてもたず屈折語尾になることである:bee’m, beeym 私は〜だろう、bee oo 君は〜だろう、bee eh, bee ee, beemayd, bee shiu, bee ad。
1 人称の強勢形は beem’s と、よりまれな複数形 beemainyn。
39. 未来時制には動詞が関係的 (relative) であるときに用いられる特別の形がある。関係的とはすなわち疑問詞 (§35) または接続詞 my (英 if) のあとにあるとき、または主語ないし直接目的語が動詞に先行するときをいう。その形は vees で、vys と書くこともある。1 人称は例外で、単数 vee’m、複数 vees mayd である。
40. shoh これ (ら)、ayns shoh ここに、shen それ (ら)、ayns shen そこに、そのとき、shid あれ (ら)、ayns shid あそこに。
yn dooinney shoh この男、yn dooinney mooar shen その大きい男、yn dooinney beg shid あの小さい男。
これらの指示詞は、疑問詞と同様、現在時制においては動詞なしでのみ、名詞または代名詞とともに用いられる:
quoi oo? 君は誰だ
shoh eh これは彼/それだ;ここに彼がいる/それがある
shen yn dooinney あれがその男だ
cre shen? それは何だ
しかし〔過去では動詞ありで〕quoi v’eh? 彼は誰だったか
〔というのだが、Broderick §103 (I:67) には kweː tau? [Quoi t’ou?] という例も載っており、現在時制で動詞を用いてはならないという説明は見あたらない。Kewley Draskau, pp. 139f. ではむしろ、こういった疑問詞や指示詞とコピュラの現在時制の場合「省略されることがある (may be omitted)」という言いかたをしている。〕
41.〔語彙。〕
jiu 今日
jea 昨日
mairagh 明日
〔×〕nuyr あさって
yn nah laa 次の日、翌日
〔×〕noght 今夜
〔×〕riyr 昨夜
〔×〕arroo-y-riyr おとといの夜
arroo-y-jea おととい
〔×〕traa [男] 時間
〔×〕moghrey [男] 朝
〔×〕fastyr [男] 晩
〔×〕mean [男] 中間
〔×〕mean-oie [男] 真夜中
〔×〕munlaa [男] 真昼、正午
〔×〕grian [女] 太陽
〔×〕eayst [女] 月
〔×〕rollage [女] 星
〔×〕soilshean 輝く
dys shen, gys shen そこへ
veih shen そこから
Doolish ドゥリシュ (=ダグラス、マン島の首府のある町)
Purt-ny-Hinshey ポート・ナ・ヒンジャ (=ピール、マン島の町)
Ramsaa, Rhumsaa ルムゼー (=ラムジー、マン島の町)
Balley-Chashtal バレ・ハシチャル (=カッスルタウン、マン島の町)
42.〔日本語に訳せ。〕
Cha nel oo ayns Purt-ny-Hinshey nish. 君はいまポート・ナ・ヒンジャにいない。
Va mee ayns shen jea. 私は昨日そこにいた。
Vel oo goll thie jiu? 君は今日家に行くか。
Ta. / Cha nel. はい/いいえ。
R’ou ayns shen jea? 君は昨日そこにいたか。
Va. / Cha row. はい/いいえ。
Bee ad ayns shen mairagh? 彼らは明日そこにいるか。
Bee. / Cha bee. はい/いいえ。
Ta mee çheet voish Rhumsaa jiu. 私は今日ルムゼーから来る。
Ta mee goll dys Balley-Chashtal nish. 私はいまバレ・ハシチャルへ行くところだ。
Vel ad goll dys shen? 彼らはそこへ行くか。
Bee ad ayns shen mairagh. 彼らは明日そこへ行くだろう。
Vel oo goll dys çheer foddey? 君は遠い国へ行くか。
Ta mee goll dys Sostyn. 私はイングランドへ行く。
Ta mee goll dy-valley nish, ta mee goll gys Purt-ny-Hinshey. 私はいま町へ行く。私はポート・ナ・ヒンジャへ行く。
V’ad ayns shoh jiu, as va mee ayns shen arroo-y-jea. 彼らは今日ここにいた。私はおとといそこにいた。
Vaik mee dy row eh ayns shen? 私は彼がそこにいたことを見たか。〔vaik は fakin の過去従属形。〕
Foddey as gerrit. 遠くと近く。
43.〔マン島語に訳せ。〕
彼らはピールにいるか。Vel ad ayns Purt-ny-Hinshey?
彼らはダグラスにいる。T’ad ayns Doolish.
彼はここにいるか。Vel eh ayns shoh?
彼はそこにいる。T’eh ayns shen.
彼らはあそこにいる。T’ad ayns shid.
これは何だ。Cre shoh?
それは何だったか。Cre va shen?
彼は明日ここにいるだろう。Bee eh ayns shoh mairagh.
彼女は昨日そこにいて、明日またここにいるだろう。V’ee ayns shen jea, as bee ee ayns shoh reesht.
私は今日ここにいる。Ta mee ayns shoh jiu.
私は明日カッスルタウンにいて、翌日戻ってくる (=またここにいる) だろう。Bee’m ayns Balley-Chashtal mairagh, as bee’m ayns shoh reesht yn nah laa.
私は私がピールにいると言う。Ta mee gra dy vel mee ayns Purt-ny-Hinshey.
私は私がダグラスにいたと言った。Ren mee gra [Dooyrt mee] dy row mee ayns Doolish.
彼は私がそこにいたと言ったか。Ren eh gra [Dooyrt eh] dy row mee ayns shen?
彼は君がそこにいたとは言わなかった。Cha dooyrt eh dy r’ou ayns shen.
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