古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第二週前半 (第一日〜第四日) を扱う。
目次リンク:第 1 回を参照のこと。
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第一日
74 頁 4 行め、ἐκεῖνος の中性複数与格が ἐκείνιος となっているが ἐκείνοις の誤植。
練習 31. (76 頁)
3. ἔσχον は格言のアオリスト (46 頁)。
4. (女性単数の) 属格 αὐτῆς は前に出た女性「あの少女」を受ける 3 人称代名詞のかわりをする用法だが、(男性複数の) 主格 αὐτοί は κατελάβομεν に隠れている主語「私たち」に対する強意の用法である。とはいえ時代が下っていくと (たとえば新約聖書のギリシア語では) 主格もたんなる 3 人称代名詞「彼らは」の意味でふつうに使われるようになる。
5. ἔφυγον は φεύγω の、ἀπέθανον は ἀποθνῄσκω の第 2 アオリスト 3 人称複数。
6. ἔτεκον は τίκτω の 2 アオ 3 複。そして ἄν があることで、明示されていないが「もし避けなかったならばそうなっただろう」という、過去の事実に反する条件文の気もちが出ている。英訳するとすればこの ἔτεκον ἄν はただの過去ではなく would bring のように仮定法で訳すことになる。
10. τέ に限らずすでに見た μὲν ... δὲ ... などほかの後置辞でも同様であるが、Α τε καὶ Β「Α と Β と」という形で Α が複数の語からなる場合、1 語めの次に τε が挟まる。したがってこの τοξοτῶν τε ἀγαθῶν καὶ αὐλητῶν というのは τοξοτῶν ἀγαθῶν と αὐλητῶν というふうに分けられる。ただ今回の場合 ἀγαθῶν は結局ぜんぶにかかっていく (2 つめ以降は省略されている) と考えられる。
79 頁 μέγας の曲用表で女性単数与格 μεγάλη は μεγάλῃ、女性複数与格 μελάλαις は μεγάλαις の誤り。
練習 33. (79 頁)
単語欄 χαλεπός, ή, ον の中性語尾を όν に改める。
1. λελύσθαι は完了受動不定詞であるから、もちろん壊されるものが主語である。すなわち τὴν γέφῡραν がそれである (対格だからといって目的語と早とちりしないように。これは ἐκέλευσαν から見れば命じる対象=目的語であるが、λελύσθαι に対しては主語の関係にある)。
2. ἐλαύνω, 完受 ἐλήλαμαι はアッティカ式畳音 (55 頁) のもうひとつの例である:ἐλ に対して ἐλ-ηλ という形。
3. ἐτέθυτο は θῡ́ω の過去完了受動態 3 単 (πολλὰ θηρία は中性複数なので単数扱い)。完了・過去完了では υ が短くなることに注意。
5. 不定詞は中性単数名詞扱いなので述語 χαλεπόν が中性単数主格になっている。
6. διαρπάσαι は διαρπάζω の第 1 アオリスト不定詞。
9. 65 頁注 (ニ) ではあたかも Α τε καὶ Β と καὶ Α καὶ Β とは同じであるかのように説明されていたが、実際には後者のほうが強いのであって、前者を「Α も Β も」ほどに訳すと少々行きすぎになりやすい (Smyth, Greek Grammar, §2974)。模範解答のとおり、καὶ κατὰ γῆν καὶ κατὰ θάλατταν は「地上においても海上においても」という感じだが、σωτηρίᾱς τε καὶ ἐλευθερίᾱς のほうは「安寧をも自由をも」ほどの強さはないのでたんに「安全と自由」と訳されているわけである。
練習 34. (80 頁)
4. 後半は模範解答がおかしい。まず μεγαλὴν というアクセントは μεγάλην に直すべきであるが、そのうえで μεγάλην τῑμὴν ἦν αὐτοῖς という対格は変である。動詞が ἦν なら主語は主格 μεγάλη τῑμὴ でないといけない。あるいは対格はそのままで ἦν αὐτοῖς を εἶχον または ἔσχον に改めるのでもよい。
第二日
練習 35. (82 頁)
3. σεσώκατε は σῴζω の完了能動 2 複。
8. 誤字:ὑμῶν → ῡ̔μῶν。
10. ἄρξει は未来なので解答は「始めるだろう」に修正したほうがよかろう。この ἄρχω は属格目的語をとる (42 頁) ので μεγάλων κακῶν が属格になっているのである。
練習 36. (83 頁)
3. 模範解答が何点か誤っている。まず条件節の否定は οὐ ではなく μή (37 頁)。また δικώκω という動詞はないし、1 複なので διώκομεν である。最後に、μόνον はこのままでもありかもしれないが、「我々だけでも」という感じなら主語に同格の男複主 μόνοι のほうがよりよいと思う。μόνοι であれば唯一に限定されるのは「我々」だが、μόνον——これは中性単数対格の副詞用法である——だと文全体にかかる副詞なので「我々が彼らを追跡するだけだ」という意味になる。
4. ἀρέσκω の未来は ἀρέσω となることに注意。一般に、-(ι)σκω というのは現在幹 (現在と不完了過去) 特有の接尾辞であって、ほかの時制では消えるので、その未来は -σξω のようにはならない。ほかの例として εὑρίσκω「見つける」の未来は εὑρήσω、διδάσκω「教える」は διδάξω、ἀποθνῄσκω「死ぬ」は ἀποθανοῦμαι、など。なお (私のもっている版では) ἡ διάνοιά μου の 2 つめのアクセントがかすれてほとんど見えないので注意。
練習 37. (85 頁)
単語欄の誤字:ἀναρίθμητος のアクセント、ἐρυθρός, ᾱ́, όν の女性・中性語尾のアクセント、κρῑ́νω のアクセントが抜けている。
2. ἀνετρέφετο は ἀνατρέφω の不完了受動 3 単。
4. φυλαχθήσεται は φυλάττω の未来受動 3 単。
10. 4 つの方角のうち τᾱ̀ς ἀνατολᾱ́ς「東」だけ定冠詞つきの複数で言われているが、辞書によれば無冠詞の πρὸς ἀνατολᾱ́ς もあるし、複数が普通だが単数もないわけではないようだ。τῇ ἐρυθρᾷ θαλάττῃ, τῷ Εὐξένῳ πόντῳ 等々は道具の与格「〜によって」。
第三日
練習 39. (91 頁)
3. 解答に脱字:あなたを → あなたがたを。
5. φῦσαι は φύω の第 1 アオリスト不定詞。なお φύω の υ は、後代の詩人を別として基本的に母音の前では短く、それ以外では長い。したがって現在 φῠ́ω や不完了 ἔφῠον では短く、未来 φῡ́σω, 1 アオ ἔφῡσα, 完了 πέφῡκα では長い。
10. 主文は Σωκράτης ἔλεγεν だけで、残りは言っている内容の従属文。対格不定法で言われているその内容は μέν と δέ で対比されており、後半のほうでは ἀρίστην の女性対格から ἀρχήν の省略を読みとる。また動詞 εἶναι も 2 度めは省略されている。τὸ は中性名詞扱いの不定詞 γιγνώσκειν が後半の主語——従属文の主語なので対格——であることを示す。なお ἑαυτόν のアクセントは ἑαυτὸν に改める。
練習 40. (91 頁)
3. ἐλευθέρων は ἐλεύθερος の複数属格であるが、「自由にふさわしい」なら ἀξίους τῆς ἐλευθερίᾱς のほうが自然だと思う。
5. 解答で Ἀλκιβιάδην のアクセントが落ちている。
練習 41. (96 頁)
1. ἡμέρᾱς のアクセントが落ちている。
2. ἐρρῑ́πτοντο は ῥῑ́πτω の不完了中間態 3 複「自分を投げこんでいた=自分から飛びこんでいた」。もちろん受動態とも同形なので「投げこまれていた」も可。
4. ἐγένετο は γίγνομαι の第 2 アオリスト中間態 3 単。
6. 後半は同じ動詞の 3 複 ἕπονται が省略。
練習 42. (97 頁)
5. 模範解答の ἔλθομεν は ἤλθομεν の誤り。
第四日
98 頁の曲用表に誤字:φύλαξι(υ) → φύλαξι(ν)。
練習 43. (99 頁)
単語欄の誤字:ᾱ̓ετός, οῦ, ὁ の冠詞の気息記号、ならびに πιστός, ή, όν の中性語尾のアクセントを欠く。
2. τῶν νήσων は部分の属格「島々のうちの」で、これが女性名詞なので ταῖς πολλαῖς が女性。
8. 以前練習 16-8. で説明したように、μὲν ... δὲ を構造決定の手がかりにするとよい。μέν よりも前にある ἡ ἀρετή が共通の主語であり、μέν の直前の語から枝分かれが始まる:すなわち ἡ ἀρετή は (1) ἀγαπητὴ συνεργός である、τεχνίταις にとっては;(2) πιστὴ φύλαξ οἴκων である、δεσπόταις にとっては;(3) ἀγαθὴ συλλήπτρια である……;(4) βεβαίᾱ ... σύμμαχος である……。
10. ὀργῇ は限定 (観点) の与格「怒りという点では」。主語は女性名詞 2 つなので、ἴσον が中性なのは名詞扱い「同じもの」と考える。
練習 44. (101 頁)
3. 解答に誤字:πέρδρικα → πέρδικα。
5. 問題文に誤字:τῑμήν → τῑμὴν。
練習 45. (104 頁)
単語欄に誤字:θρηνέω-ῶ の融合後の曲アクセントを欠く。
2. ᾤκουν は οἰκέω の不完了能動 3 複。
3. ᾐτοῦντο は αἰτέω の不完了中間 3 複。この中間態は「自分たちのために」の間接再帰で、求める行為が自分たちに関わることである、もっといえば目的語の τὴν ψῡχήν の定冠詞が事実上の所有形容詞「自分たちの」の意味であることを明確化している。ποιέω は英 make や仏 faire のように、対格を 2 つとって「A を B にする」の用法がある。
5. τὸ は中性名詞扱いの不定詞 ἄρχεσθαι にかかっており、これが主語であることを示す。
6. βούλει は βούλομαι の現在中間 2 単。δεῖ は非人称の 3 単で、「(不定詞) することが必要である、せねばならない」という使いかたをする。
8. περὶ τῶν τῆς πόλεως は、属格 τῆς πόλεως「国家の」に中性複数の定冠詞 τὰ がつくことで「国家の事柄、国事」という名詞句となったものに、属格を支配する前置詞 περί がついた形。なお πόλεως というのは最終音節が長いのにアクセントが 3 番めまで遡っており規則に違反しているが、このわけはずっとあとで説明される (170 頁脚注 2)。
10. ηὐλήσαμεν は αὐλέω の 1 アオ能動 1 複、ὠρχήσασθε は ὀρχέομαι の 1 アオ中動 2 複。
練習 46. (106 頁)
1. πρὸ のアクセントが落ちている。
4.「求めた」なのでアオリスト ᾔτησαν でもいいだろう。さらにさきの練習 45-3. のように中間態で ᾐτοῦντο / ᾐτήσαντο と言っても構わないと思う。
5. δεῖ では意味上の主語 (必要・義務のある、せねばならない人) は与格に置かれる。
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