アポロドーロス『ギリシア神話』の翻訳と文法メモ。この記事では第 I 巻第 4 章を扱う。テクストは Perseus で見られるフレイザーによる Loeb 版を利用した。
目次リンク:第 1 回を参照。
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[1] τῶν δὲ Κοίου θυγατέρων Ἀστερία μὲν ὁμοιωθεῖσα ὄρτυγι ἑαυτὴν εἰς θάλασσαν ἔρριψε, φεύγουσα τὴν πρὸς Δία συνουσίαν:
コイオスの娘たちのうちアステリアーは鶉に似たものと化して海へ身を投げた。ゼウスとの交わりを逃れるためだった。
→ 再帰代名詞。
καὶ πόλις ἀπ᾽ ἐκείνης Ἀστερία πρότερον κληθεῖσα, ὕστερον δὲ Δῆλος.
そして彼女 (の名) から以前アステリアーと呼ばれた市がのちにデーロスとなった。
→ 副詞の比較級 (というか中性形の副詞用法)。
Λητὼ δὲ συνελθοῦσα Διὶ κατὰ τὴν γῆν ἅπασαν ὑφ᾽ Ἥρας ἠλαύνετο, μέχρις εἰς Δῆλον ἐλθοῦσα γεννᾷ πρώτην Ἄρτεμιν, ὑφ᾽ ἧς μαιωθεῖσα ὕστερον Ἀπόλλωνα ἐγέννησεν.
レートーはゼウスと交わったがヘーラーによってあらゆる地の上を追われつづけた。デーロスにたどりついて最初にアルテミスを生み、彼女によって助産せられて次にアポッローンを生むまで。
→ 第 2 アオリスト分詞、(ἅ)πας の変化、時量的加音、αω 型の現在、関係代名詞、述語的同格 (前の文と違って今度の ὕστερον は副詞ではない、形容詞の男性単数対格)。
Ἄρτεμις μὲν οὖν τὰ περὶ θήραν ἀσκήσασα παρθένος ἔμεινεν, Ἀπόλλων δὲ τὴν μαντικὴν μαθὼν παρὰ Πανὸς τοῦ Διὸς καὶ Ὕβρεως ἧκεν εἰς Δελφούς, χρησμῳδούσης τότε Θέμιδος:
さてアルテミスは狩りに関する事柄を行い、処女のままとどまった。アポッローンのほうはゼウスとヒュブリスとの子パーンのもとで予言 (の術) を学んでデルポイにやってきたが、(そこでは) 当時テミスが神託を与えていた。
→ 冠詞による前置詞句の名詞化、鼻音幹アオリスト、絶対属格。
ὡς δὲ ὁ φρουρῶν τὸ μαντεῖον Πύθων ὄφις ἐκώλυεν αὐτὸν παρελθεῖν ἐπὶ τὸ χάσμα, τοῦτον ἀνελὼν τὸ μαντεῖον παραλαμβάνει.
神託の座を守っているピュートーンという蛇が、彼が大穴へと近づくことを妨げていたので、これを排除して神託の座を受けつぐ。
→ εω 型の現在能動分詞、説明の同格名詞、第 2 アオリスト分詞。κωλύω「妨げる」の従える不定詞には μή がつくことが多いはずだが (田中・松平 §587)、ここでは使われていない。
★ χάσμα「大穴、裂け目」とはデルポイの巫女が神がかりとなるためそこから湧くガスを吸っていたと伝えられるところのもの。
κτείνει δὲ μετ᾽ οὐ πολὺ καὶ Τιτυόν, ὃς ἦν Διὸς υἱὸς καὶ τῆς Ὀρχομενοῦ θυγατρὸς Ἐλάρης, ἣν Ζεύς, ἐπειδὴ συνῆλθε, δείσας Ἥραν ὑπὸ γῆν ἔκρυψε, καὶ τὸν κυοφορηθέντα παῖδα Τιτυὸν ὑπερμεγέθη εἰς φῶς ἀνήγαγεν.
そしてまもなくティテュオスをも殺す。これはゼウスとオルコメノスの娘エラレーとの息子であった。彼女をゼウスは、一緒になったあと、ヘーラーを恐れて地の下へ隠し、孕まれた巨大な子ティテュオスを光のなかへ連れだしたのだった。
→ 期間の対格、緩叙法、アオリスト受動分詞。
οὗτος ἐρχομένην εἰς Πυθὼ Λητὼ θεωρήσας, πόθῳ κατασχεθεὶς ἐπισπᾶται: ἡ δὲ τοὺς παῖδας ἐπικαλεῖται καὶ κατατοξεύουσιν αὐτόν.
彼はピュートーに来ていたレートーを見て、欲望に囚われて (彼女を) 引き寄せる。だが彼女は子どもたちを呼びだし、彼らが彼を弓矢で撃ち倒す。
→ 原因の与格、αω 型の現在中動態。
κολάζεται δὲ καὶ μετὰ θάνατον: γῦπες γὰρ αὐτοῦ τὴν καρδίαν ἐν Ἅιδου ἐσθίουσιν.
彼は死後にも懲らしめられている。というのはハゲタカどもが彼の心臓を冥府で食べているのである。
→ 単音節の唇音幹第 3 変化名詞。
[2] ἀπέκτεινε δὲ Ἀπόλλων καὶ τὸν Ὀλύμπου παῖδα Μαρσύαν.
またアポッローンはオリュンポスの子マルシュアースをも殺した。
οὗτος γὰρ εὑρὼν αὐλούς, οὓς ἔρριψεν Ἀθηνᾶ διὰ τὸ τὴν ὄψιν αὐτῆς ποιεῖν ἄμορφον, ἦλθεν εἰς ἔριν περὶ μουσικῆς Ἀπόλλωνι.
というのは彼は笛を発見して——これはアテーナーが彼女の容貌を見苦しくするというので投げ落としたのである——、音楽についてアポッローンと争うに至った。
★ 笛を吹くときに頬をふくらませた顔が滑稽だということ。
συνθεμένων δὲ αὐτῶν ἵνα ὁ νικήσας ὃ βούλεται διαθῇ τὸν ἡττημένον, τῆς κρίσεως γινομένης τὴν κιθάραν στρέψας ἠγωνίζετο ὁ Ἀπόλλων, καὶ ταὐτὸ ποιεῖν ἐκέλευσε τὸν Μαρσύαν:
彼らは勝者が欲するとおりのことを敗者に処するということで合意すると、判定がなされるときキタラーを (上下) 転倒してアポッローンは公演しだし、同じことをするようマルシュアースに命じた。
→ 絶対属格、τίθημι のアオリスト中動分詞と接続法アオリスト、完了中動分詞、クラシス。
τοῦ δὲ ἀδυνατοῦντος εὑρεθεὶς κρείσσων ὁ Ἀπόλλων, κρεμάσας τὸν Μαρσύαν ἔκ τινος ὑπερτενοῦς πίτυος, ἐκτεμὼν τὸ δέρμα οὕτως διέφθειρεν.
彼ができないでいるとアポッローンがより優れているとみなされ、マルシュアースをある背高の松の木から吊り下げて、皮膚を切りとって (=生皮を剥いで) 殺害した。
→ εω 型の現在能動分詞、不規則な比較級、νῡμι 動詞のアオリスト、不定代名詞。
★ 弦楽器と違って縦笛は当然上下ひっくりかえしたら音が鳴らない。明らかに不当な勝負。
[3] Ὠρίωνα δὲ Ἄρτεμις ἀπέκτεινεν ἐν Δήλῳ. τοῦτον γηγενῆ λέγουσιν ὑπερμεγέθη τὸ σῶμα: Φερεκύδης δὲ αὐτὸν Ποσειδῶνος καὶ Εὐρυάλης λέγει. ἐδωρήσατο δὲ αὐτῷ Ποσειδῶν διαβαίνειν τὴν θάλασσαν.
またオーリーオーンをアルテミスはデーロス (島) で殺した。彼は大地から生まれ体が巨大だったと言われている。だがペレキューデースは彼をポセイドーンとエウリュアレーとの (息子) と言っている。彼にポセイドーンは海を渡る (力) を授けた。
→ 間接話法と対格不定法、観点の対格。
οὗτος πρώτην μὲν ἔγημε Σίδην, ἣν ἔρριψεν εἰς Ἅιδου περὶ μορφῆς ἐρίσασαν Ἥρα:
彼はシーデーを最初の妻としたが、彼女を容姿について争ったことでヘーラーが冥府へ落とした。
→ 述語的同格。
αὖθις δὲ ἐλθὼν εἰς Χίον Μερόπην τὴν Οἰνοπίωνος ἐμνηστεύσατο. μεθύσας δὲ Οἰνοπίων αὐτὸν κοιμώμενον ἐτύφλωσε καὶ παρὰ τοῖς αἰγιαλοῖς ἔρριψεν.
今度は彼はキオスへ来てオイノピオーンの娘メロペーに求婚した。だがオイノピオーンは彼を酔わせ、眠っている彼を盲目にして海辺に捨てた。
ὁ δὲ ἐπὶ τὸ Ἡφαίστου χαλκεῖον ἐλθὼν καὶ ἁρπάσας παῖδα ἕνα, ἐπὶ τῶν ὤμων ἐπιθέμενος ἐκέλευσε ποδηγεῖν πρὸς τὰς ἀνατολάς.
だが彼はヘーパイストスの鍛冶場へ来て 1 人の子どもを攫い、肩のうえに乗せて、日が昇るほうへ案内するよう命じた。
→ 数詞 1 の変化。
ἐκεῖ δὲ παραγενόμενος ἀνέβλεψεν ἐξακεσθεὶς ὑπὸ τῆς ἡλιακῆς ἀκτῖνος, καὶ διὰ ταχέων ἐπὶ τὸν Οἰνοπίωνα ἔσπευδεν.
たどりついたそこで太陽の光線によって治癒せられて視力を回復し、すばやくオイノピオーンのところへ急行した。
[4] ἀλλὰ τῷ μὲν Ποσειδῶν ἡφαιστότευκτον ὑπὸ γῆν κατεσκεύασεν οἶκον, Ὠρίωνος δ᾽ Ἠὼς ἐρασθεῖσα ἥρπασε καὶ ἐκόμισεν εἰς Δῆλον:
しかし彼のためにはポセイドーンが、地の下にヘーパイストスによる家を建ててやった。だがオーリーオーンにエーオースが欲情して攫い、デーロスへ連れ去った。
ἐποίει γὰρ αὐτὴν Ἀφροδίτη συνεχῶς ἐρᾶν, ὅτι Ἄρει συνευνάσθη.
というのは彼女に対しアプロディーテーが、間断なく愛を抱くように仕向けたからである。(エーオースが) アレースと共寝したということで。
[5] ὁ δ᾽ Ὠρίων, ὡς μὲν ἔνιοι λέγουσιν, ἀνῃρέθη δισκεύειν Ἄρτεμιν προκαλούμενος, ὡς δέ τινες, βιαζόμενος Ὦπιν μίαν τῶν ἐξ Ὑπερβορέων παραγενομένων παρθένων ὑπ᾽ Ἀρτέμιδος ἐτοξεύθη.
それでオーリーオーンは、ある者たちの言うところでは、円盤投げでアルテミスに挑戦したために滅ぼされたと、またある者たちによると、ヒュペルボレオイ人たちのところから来ていた処女たちのうちの 1 人オーピスを暴行したためにアルテミスによって射られたと言われている。
→ アオリスト受動態と ὑπὸ+行為者、部分の属格。
Ποσειδῶν δὲ Ἀμφιτρίτην τὴν Ὠκεανοῦ γαμεῖ, καὶ αὐτῷ γίνεται Τρίτων καὶ Ῥόδη, ἣν Ἥλιος ἔγημε.
ポセイドーンはオーケアノスの娘アンピトリテーを娶り、彼にはトリートーンとロデーが生まれる。この後者はヘーリオスが妻とした。