lundi 9 mai 2022

アポロドーロス『ギリシア神話』(2) I.2.1–7

アポロドーロス『ギリシア神話』の翻訳と文法メモ。この記事では第 I 巻第 2 章を扱う。テクストは Perseus で見られるフレイザーによる Loeb 版を利用した。

なお、前回すでに言及してある文法事項についても重要と思われた場合には繰りかえすことがある (文法事項を説明する例文としてあとで拾いやすくするため)。

目次リンク:第 1 回を参照。


[1] ἐπειδὴ δὲ Ζεὺς ἐγενήθη τέλειος, λαμβάνει Μῆτιν τὴν Ὠκεανοῦ συνεργόν, ἣ δίδωσι Κρόνῳ καταπιεῖν φάρμακον,

さてゼウスが大人になると、オーケアノスの娘たる〈知恵〉メーティスを協力者として得る。彼女はクロノスに飲むための薬を与える。

→ アオリスト受動態 (γίγνομαι は古典期には中動型デポネントでアオ中 ἐγενόμην をふつう用いるが、新約など新しい時代になると受動形が一般的になる。cf. 田中新 §330 注 1; BDF §78。しかし 2 節以降見るように「生まれる」の意味では中動態 ἐγένετο, ἐγένοντο を使っている)。τὴν Ὠκεανοῦ で「〜の娘」を表している。

ὑφ᾽ οὗ ἐκεῖνος ἀναγκασθεὶς πρῶτον μὲν ἐξεμεῖ τὸν λίθον, ἔπειτα τοὺς παῖδας οὓς κατέπιε:

これによって強いられた彼は、最初にあの石を、それから呑みこんでいた子どもたちを吐きだす。

→ 関係代名詞とその格、アオリスト受動分詞、母音融合動詞 εω 型の現在。

μεθ᾽ ὧν Ζεὺς τὸν πρὸς Κρόνον καὶ Τιτᾶνας ἐξήνεγκε πόλεμον.

彼らとともにゼウスは、クロノスならびにティーターンたちに対する戦争を挙行した。

→ 冠詞の内側 (限定的位置) における前置詞句。加音によって前つづりが変わること (ἐξήνεγκε は ἐκφέρω の 2 アオ)。

μαχομένων δὲ αὐτῶν ἐνιαυτοὺς δέκα ἡ Γῆ τῷ Διὶ ἔχρησε τὴν νίκην, τοὺς καταταρταρωθέντας ἂν ἔχῃ συμμάχους:

彼らは 10 年間戦いつづけたが、ゲーはゼウスに、タルタロスに突き落とされた者たちを同盟者として持つならば勝利を (得るであろうと) 宣言した。

→ 絶対属格句、期間の対格、数詞 10、Ζεύς の格変化、ἐᾱ́ν (῎ᾱν は別形)+接続法現在で実現可能な未来の仮定。

ὁ δὲ τὴν φρουροῦσαν αὐτῶν τὰ δεσμὰ Κάμπην ἀποκτείνας ἔλυσε.

そこで彼は彼らの見張りをしているカンペーを殺して彼らの拘束を解いた。

→ εω 型の現在能動分詞、流音・鼻音幹第 1 アオリスト、アオリスト能動分詞。

καὶ Κύκλωπες τότε Διὶ μὲν διδόασι βροντὴν καὶ ἀστραπὴν καὶ κεραυνόν, Πλούτωνι δὲ κυνέην, Ποσειδῶνι δὲ τρίαιναν:

するとキュクロープスたちはそのとき、ゼウスには雷鳴 (ブロンテー) と雷光 (アストラペー) と雷電 (ケラウノス) を、プルートーンには兜を、ポセイドーンには三叉の槍を与える。

→ δίδωμι の現在。

οἱ δὲ τούτοις ὁπλισθέντες κρατοῦσι Τιτάνων, καὶ καθείρξαντες αὐτοὺς ἐν τῷ Ταρτάρῳ τοὺς ἑκατόγχειρας κατέστησαν φύλακας.

彼らはこれらによって武装せられてティーターンたちを圧倒し、彼らをタルタロスに押しこめて、ヘカトンケイルたちを番人に任じた。

→ 道具の与格、ἵστημι の第 1 アオリスト能動態 (ここでは第 2 とも同形で、意味が違うことにも要説明)。

αὐτοὶ δὲ διακληροῦνται περὶ τῆς ἀρχῆς, καὶ λαγχάνει Ζεὺς μὲν τὴν ἐν οὐρανῷ δυναστείαν, Ποσειδῶν δὲ τὴν ἐν θαλάσσῃ, Πλούτων δὲ τὴν ἐν Ἅιδου.

それから彼らは支配権についてくじを執り行い、ゼウスは天における権勢を、ポセイドーンは海における、プルートーンは冥府ハーイデースにおけるそれを引きあてる。


[2] ἐγένοντο δὲ Τιτάνων ἔκγονοι Ὠκεανοῦ μὲν καὶ Τηθύος Ὠκεανίδες, Ἀσία Στὺξ Ἠλέκτρα Δωρὶς Εὐρονόμη Ἀμφιτρίτη Μῆτις, Κοίου δὲ καὶ Φοίβης Ἀστερία καὶ Λητώ, Ὑπερίονος δὲ καὶ Θείας Ἠὼς Ἥλιος Σελήνη, Κρείου δὲ καὶ Εὐρυβίας τῆς Πόντου Ἀστραῖος Πάλλας Πέρσης,

ところで生まれたティーターンたちの子らは、オーケアノスとテーテュースからはオーケアニスたち〔複オーケアニデス〕つまりアシアー、ステュクス、エーレクトラー、ドーリス、エウロノメー、アンピトリーテー、メーティスであり、コイオスとポイベーからはアステリアーとレートー、ヒュペリーオーンとテイアーからは〈暁〉エーオース、〈太陽〉ヘーリオス、〈月〉セレーネー、そしてクレイオスからはポントスの娘エウリュビアーとのあいだにアストライオス、パッラース、ペルセース、

→ ここは名前の羅列のため特段新しい事項はないが、どの名が属格で親の名前であるか注意して訳したい。とりわけ最後の夫婦のところは「クレイオスとポントスの娘エウリュビアー……」とすると男 2 人の娘がエウリュビアーみたいに見えてしまう。

★ アンピトリーテーはオーケアニスではなくネーレーイスであって、ここにあるのは誤記であろうとされる。以下の 7 節ならびにヘーシオドス『神統記』349 行以下も参照。


[3] Ιαπετοῦ δὲ καὶ Ἀσίας Ἄτλας, ὃς ἔχει τοῖς ὤμοις τὸν οὐρανόν, καὶ Προμηθεὺς καὶ Ἐπιμηθεὺς καὶ Μενοίτιος, ὃν κεραυνώσας ἐν τῇ τιτανομαχίᾳ Ζεὺς κατεταρτάρωσεν.

それからイーアペトスとアシアーからはアトラース、この者は双肩にて天を担っている。ならびにプロメーテウスとエピメーテウスとメノイティオス、この (最後の) 者を〈巨神族との戦い〉ティーターノマキアーにおいてゼウスは雷霆で撃ちタルタロスへ突き落としたのだ。

→ Perseus 版では τιτανομαχία となっているが、τιτανομαχίᾳ の誤り。


[4] ἐγένετο δὲ καὶ Κρόνου καὶ Φιλύρας Χείρων διφυὴς Κένταυρος, Ἠοῦς δὲ καὶ Ἀστραίου ἄνεμοι καὶ ἄστρα, Πέρσου δὲ καὶ Ἀστερίας Ἑκάτη, Πάλλαντος δὲ καὶ Στυγὸς Νίκη Κράτος Ζῆλος Βία.

またクロノスとピリュラーから生まれたのが 2 つの性質をもつケンタウロスたるケイローンで、エーオースとアストライオスからは風たちと星たち、ペルセースとアステリアーからヘカテー、パッラースとステュクスから〈勝利〉ニーケー、〈体力〉クラトス、〈血気〉ゼーロス、〈暴力〉ビアー。

→ 説明の同格名詞。

★ διφυής「2 つの性質・形状をもつ」とはここでは半人半獣ということで、ケンタウロスのほかパーンやケクロプスについても用例がある。


[5] τὸ δὲ τῆς Στυγὸς ὕδωρ ἐκ πέτρας ἐν Ἅιδου ῥέον Ζεὺς ἐποίησεν ὅρκον, ταύτην αὐτῇ τιμὴν διδοὺς ἀνθ᾽ ὧν αὐτῷ κατὰ Τιτάνων μετὰ τῶν τέκνων συνεμάχησε.

そしてハーイデースの岩から流れるステュクスの水をゼウスは誓いの (しろ) となした。彼女にこの名誉を与えたのは、ティーターンたちに対する戦いで自分の子らといっしょにゼウスと共闘したことに対する酬いである。

→ δίδωμι の現在能動分詞。定冠詞だけで所有者を暗示すること (水谷 §19.2)。ἀνθ’ ὧν は正確に書けば ἀντὶ τούτων ὅτι。


[6] Πόντου δὲ καὶ Γῆς Φόρκος Θαύμας Νηρεὺς Εὐρυβία Κητώ. Θαύμαντος μὲν οὖν καὶ Ἠλέκτρας Ἶρις καὶ ἅρπυιαι, Ἀελλὼ καὶ Ὠκυπέτη, Φόρκου δὲ καὶ Κητοῦς Φορκίδες καὶ Γοργόνες, περὶ ὧν ἐροῦμεν ὅταν τὰ κατὰ Περσέα λέγωμεν,

また〈海洋〉ポントスとゲーからはポルコス、タウマース、ネーレウス、エウリュビアー、ケートーが。そしてタウマースとエーレクトラーからは〈虹〉イーリスとハルピュイアたち〔複ハルピュイアイ〕つまりアーエッローとオーキュペテーが、またポルコスとケートーからはポルキスたち〔複ポルキデス〕とゴルゴーンたち〔複ゴルゴネス〕、この者たちについてはペルセウスに関して話すとすればそのときに語るであろう。

→ 補充形未来 ἐρέω、接続法現在。なお ὅταν の ἄν+接続法にそこまで仮説的なニュアンスがアポロドーロスの時代に残っているかどうかは要調査。


[7] Νηρέως δὲ καὶ Δωρίδος Νηρηίδες, ὧν τὰ ὀνόματα Κυμοθόη Σπειὼ Γλαυκονόμη Ναυσιθόη Ἁλίη, Ἐρατὼ Σαὼ Ἀμφιτρίτη Εὐνίκη Θέτις, Εὐλιμένη Ἀγαύη Εὐδώρη Δωτὼ Φέρουσα, Γαλάτεια Ἀκταίη Ποντομέδουσα Ἱπποθόη Λυσιάνασσα, Κυμὼ Ἠιόνη Ἁλιμήδη Πληξαύρη Εὐκράντη, Πρωτὼ Καλυψὼ Πανόπη Κραντὼ Νεόμηρις, Ἱππονόη Ἰάνειρα Πολυνόμη Αὐτονόη Μελίτη, Διώνη Νησαίη Δηρὼ Εὐαγόρη Ψαμάθη, Εὐμόλπη Ἰόνη Δυναμένη Κητὼ Λιμνώρεια.

またネーレウスとドーリスからはネーレーイスたち〔複ネーレーイデス〕、この者たちの名はキューモトエー、スペイオー、グラウコノメー、ナウシトエー、ハリエー、エラトー、サオー、アンピトリーテー、エウニーケー、テティス、エウリメネー、アガウエー、エウドーレー、ドートー、ペルーサ、ガラテイア、アクタイエー、ポントメドゥーサ、ヒッポトエー、リューシアナッサ、キューモー、エーイオネー、ハリメーデー、プレークサウレー、エウクランテー、プロートー、カリュプソー、パノペー、クラントー、ネオメーリス、ヒッポノエー、イーアネイラ、ポリュノメー、アウトノエー、メリテー、ディオーネー、ネーサイエー、デーロー、エウアゴレー、プサマテー、エウモルペー、イオネー、デュナメネー、ケートー、リムノーレイアである。

→ オーケアニデスとかネーレーイデスとかいった「〜の子ら、娘ら」というグループ名、一種の父称というべきか、これの作りかたについての説明——というのが無理でもせめて一覧表を作って類推せしめる——にも 1 節を設けるべきかもしれない。

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