mardi 10 mai 2022

アポロドーロス『ギリシア神話』(3) I.3.1–6

アポロドーロス『ギリシア神話』の翻訳と文法メモ。この記事では第 I 巻第 3 章を扱う。テクストは Perseus で見られるフレイザーによる Loeb 版を利用した。

目次リンク:第 1 回を参照。


[1] Ζεὺς δὲ γαμεῖ μὲν Ἥραν, καὶ τεκνοῖ Ἥβην Εἰλείθυιαν Ἄρην, μίγνυται δὲ πολλαῖς θνηταῖς τε καὶ ἀθανάτοις γυναιξίν.

さてゼウスはヘーラーを娶って、ヘーベー、エイレイテュイア、アレースをもうける一方、多くの死すべき者と不死なる者の女たちと交わる。

→ εω 型の現在、οω 型の現在、-νῡμι 動詞の現在。

ἐκ μὲν οὖν Θέμιδος τῆς Οὐρανοῦ γεννᾷ θυγατέρας ὥρας, Εἰρήνην Εὐνομίαν Δίκην, μοίρας, Κλωθὼ Λάχεσιν Ἄτροπον,

そしてウーラノスの娘テミスからは、娘として〈時の巡りの女神〉ホーラーたち〔複ホーライ〕すなわち〈平和〉エイレーネー、〈秩序〉エウノミアー、〈正義〉ディケーと、〈運命の女神〉モイラたち〔複モイライ〕すなわちクロートー、ラケシス、アトロポスを生み、

→ Perseus 版では ὥρας のあとがピリオドになっているが、コンマの誤記。

ἐκ Διώνης δὲ Ἀφροδίτην, ἐξ Εὐρυνόμης δὲ τῆς Ὠκεανοῦ χάριτας, Ἀγλαΐην Εὐφροσύνην Θάλειαν, ἐκ δὲ Στυγὸς Περσεφόνην, ἐκ δὲ Μνημοσύνης μούσας, πρώτην μὲν Καλλιόπην, εἶτα Κλειὼ Μελπομένην Εὐτέρπην Ἐρατὼ Τερψιχόρην Οὐρανίαν Θάλειαν Πολυμνίαν.

またディオーネーからはアプロディーテーを、オーケアノスの娘エウリュノメーからは〈優美の女神〉カリスたち〔複カリテス〕すなわちアグライエー、エウプロシュネー、タレイアを、ステュクスからはペルセポネーを、ムネーモシュネーからは〈芸術の女神〉ムーサたち〔複ムーサイ〕、すなわち長女としてカッリオペー、続いてクレイオー、メルポメネー、エウテルペー、エラトー、テルプシコレー、ウーラニアー、タレイア、ポリュムニアーを。

★ すでに 1 章 4 節で注意したとおりアプロディーテーがゼウスの娘になっている。またここではペルセポネーの母もデーメーテールではなくステュクスとされているが、それにもかかわらずのちの 5 章ではデーメーテールが失踪したペルセポネーを探して心を痛める。


[2] Καλλιόπης μὲν οὖν καὶ Οἰάγρου, κατ᾽ ἐπίκλησιν δὲ Ἀπόλλωνος, Λίνος, ὃν Ἡρακλῆς ἀπέκτεινε, καὶ Ὀρφεὺς ὁ ἀσκήσας κιθαρῳδίαν, ὃς ᾄδων ἐκίνει λίθους τε καὶ δένδρα.

カッリオペーとオイアグロスから、しかし名目上はアポッローンから、ヘーラクレースが殺したリノスと、歌うことで石や木を動かしたキタラーの弾き語り手オルペウスが (生まれた)。

→ 関係代名詞、鼻音幹の第 1 アオリスト、εω 型のアオリスト (の能動分詞)、現在能動分詞、εω 型の未完了過去。なお Perseus 版の ᾁδων は ᾄδων の誤記 (アクセントの欠如と気息記号が逆)。

ἀποθανούσης δὲ Εὐρυδίκης τῆς γυναικὸς αὐτοῦ, δηχθείσης ὑπὸ ὄφεως, κατῆλθεν εἰς Ἅιδου θέλων ἀνάγειν αὐτήν, καὶ Πλούτωνα ἔπεισεν ἀναπέμψαι.

彼の妻エウリュディケーが蛇に咬まれて死んだとき、彼は彼女を連れ戻すことを欲してハーイデースへと下っていき、(彼女を) 送りかえすようプルートーンを説得した。

→ 絶対属格句、第 2 アオリスト能動分詞、αὐτός の人称代名詞用法、アオリスト受動分詞と行為者を表す ὑπό、ἔρχομαι の第 2 アオリスト、歯音+σ アオリストの音韻変化。

ὁ δὲ ὑπέσχετο τοῦτο ποιήσειν, ἂν μὴ πορευόμενος Ὀρφεὺς ἐπιστραφῇ πρὶν εἰς τὴν οἰκίαν αὑτοῦ παραγενέσθαι:

すると彼は、もしオルペウスが自分の家に帰りつくまで歩きながら振りかえらなかったならば、そうするであろうと約束した。

→ 不定法未来、〈ἐᾱ́ν+接続法,直説法未来〉で実現可能な未来の仮定、接続法アオリスト受動態 (第 2 受動)、πρίν の用法 (高津基礎 §186.f)、再帰代名詞、不定法アオリスト中動態。ὑπέσχετο は ὑπισχνέομαι のアオ中「約束した」とも ὑπέχω のアオ中「同意した、請けあった」ともとれる。この文はいかにも初級文法の総動員という感じで練習問題におあつらえ向き、現に水谷の練習 30.5 がやや改変してはいるがこの前後を長々と利用している。しかし水谷の πρίν の説明 (§150.2) は十分ではない:この文で πρίν に対する主文は μὴ ... ἐπιστραφῇ という否定であり、このとき「〜するまで」の意味では ἕως に倣うとして §149 を参照させているが、そこの説明に従えば πρίν 節の動詞は人称形でなければならず、不定詞を従えうることは述べられていないのである。

ὁ δὲ ἀπιστῶν ἐπιστραφεὶς ἐθεάσατο τὴν γυναῖκα, ἡ δὲ πάλιν ὑπέστρεψεν.

だが彼は信じられずに振りかえって妻を見た。それで彼女はふたたび戻っていってしまった。

→ アオリスト受動分詞 (第 2 受動)、αω 型のアオリスト、唇音+σ アオリストの音韻・綴字変化。

εὗρε δὲ Ὀρφεὺς καὶ τὰ Διονύσου μυστήρια, καὶ τέθαπται περὶ τὴν Πιερίαν διασπασθεὶς ὑπὸ τῶν μαινάδων.

それからオルペウスはディオニューソスの秘教をも発見し、狂女マイナスたち〔複マイナデス〕によって引き裂かれてピエリアーのあたりに埋葬されてある。

→ 完了受動態。


[3] Κλειὼ δὲ Πιέρου τοῦ Μάγνητος ἠράσθη κατὰ μῆνιν Ἀφροδίτης (ὠνείδισε γὰρ αὐτῇ τὸν τοῦ Ἀδώνιδος ἔρωτα), συνελθοῦσα δὲ ἐγέννησεν ἐξ αὐτοῦ παῖδα Ὑάκινθον,

クレイオーはアプロディーテーの怒りに従ってマグネースの息子ピエロスに欲情し——というのも (クレイオーは) 彼女をアドーニスへの愛のことで面罵したのだ——、(彼と) 一緒になって彼から息子ヒュアキントスを生んだ、

→ 時量的加音、デポネント動詞、歯音+σ アオリスト、第 2 アオリスト能動分詞。

οὗ Θάμυρις ὁ Φιλάμμωνος καὶ Ἀργιόπης νύμφης ἔσχεν ἔρωτα, πρῶτος ἀρξάμενος ἐρᾶν ἀρρένων.

この者にピランモーンとニュンペーのアルギオペーとの息子タミュリスが愛を抱き、(男が) 男たちを愛しはじめる最初の者となった。

→ ἔχω のアオリスト、述語的同格の形容詞、喉音+σ アオリスト、アオリスト中動分詞、αω 型の不定法現在。

ἀλλ᾽ Ὑάκινθον μὲν ὕστερον Ἀπόλλων ἐρώμενον ὄντα δίσκῳ βαλὼν ἄκων ἀπέκτεινε,

しかしヒュアキントスのことはのちにアポッローンが、恋人であった彼を円盤投げのさいに誤って殺してしまった。

→ 副詞の比較級、αω 型の現在受動分詞、εἰμί の現在分詞、道具の与格、述語的同格の形容詞。

Θάμυρις δὲ κάλλει διενεγκὼν καὶ κιθαρῳδίᾳ περὶ μουσικῆς ἤρισε μούσαις, συνθέμενος, ἂν μὲν κρείττων εὑρεθῇ, πλησιάσειν πάσαις, ἐὰν δὲ ἡττηθῇ, στερηθήσεσθαι οὗ ἂν ἐκεῖναι θέλωσι.

他方タミュリスは、美貌とキタラーの弾き語りにおいて際立っており、音楽についてムーサたちと競った。もし自分がより優れていると判明したならば彼女たち全員とねんごろになるということ、一方自分が劣ったとしたら彼女らの欲するところのものをなんであれ奪われるということに合意して。

→ 観点の与格、τίθημι の第 2 アオリスト (の中動分詞)、実現可能な未来の仮定、不規則な比較級、接続法アオリスト受動態、不定法未来受動態、関係代名詞+ἄν、接続法現在。

καθυπέρτεραι δὲ αἱ μοῦσαι γενόμεναι καὶ τῶν ὀμμάτων αὐτὸν καὶ τῆς κιθαρῳδίας ἐστέρησαν.

それでムーサたちが上を行ったので、彼から両目とキタラーの技とを奪った。

→ 規則的な比較級。


[4] Εὐτέρπης δὲ καὶ ποταμοῦ Στρυμόνος Ῥῆσος, ὃν ἐν Τροίᾳ Διομήδης ἀπέκτεινεν: ὡς δὲ ἔνιοι λέγουσι, Καλλιόπης ὑπῆρχεν.

またエウテルペーとストリューモーン河 (の神) からレーソス、この者をトロイアーにおいてディオメーデースが殺した。ただしある者たちが言うところでは彼 (レーソス) はカッリオペーから出た (=カッリオペーが母である) という。

Θαλείας δὲ καὶ Ἀπόλλωνος ἐγένοντο Κορύβαντες, Μελπομένης δὲ καὶ Ἀχελῴου Σειρῆνες, περὶ ὧν ἐν τοῖς περὶ Ὀδυσσέως ἐροῦμεν.

またタレイアとアポッローンからコリュバースたち〔複コリュバンテス〕が、メルポメネーとアケローイオス (河神) からセイレーンたち〔複セイレーネス〕が生まれた。この者たちについてはオデュッセウスについての箇所で語ろう。

→ λέγω の補充形未来。


[5] Ἥρα δὲ χωρὶς εὐνῆς ἐγέννησεν Ἥφαιστον: ὡς δὲ Ὅμηρος λέγει, καὶ τοῦτον ἐκ Διὸς ἐγέννησε.

ヘーラーは夫婦の床から離れてヘーパイストスを生んだ。ただしホメーロスが言うところでは彼をもゼウスから生んだ (=彼もゼウスとの息子である) という。

★ ヘーラーがヘーパイストスを単身で生んだエピソードが、アテーナーの誕生よりさきに置かれており、したがってここではヘーラーの動機が不明である。

ῥίπτει δὲ αὐτὸν ἐξ οὐρανοῦ Ζεὺς Ἥρᾳ δεθείσῃ βοηθοῦντα: ταύτην γὰρ ἐκρέμασε Ζεὺς ἐξ Ὀλύμπου χειμῶνα ἐπιπέμψασαν Ἡρακλεῖ, ὅτε Τροίαν ἑλὼν ἔπλει.

だが彼をゼウスは天から落とす。縛られたヘーラーを (ヘーパイストスが) 助けにきたときのことである。というのはゼウスは彼女をオリュンポスから吊るしたのだ、ヘーラクレースがトロイアーを奪取したあと航海していたさなかに (ヘーラーは) 嵐を送りこんだので。

→ νῡμι 動詞。Perseus 版の Ἥρα を Ἥρᾳ に改めた。χειμῶνα が期間の対格「冬のあいだ (吊るした)」に見えてまぎらわしい。

★ ヘーパイストスを落としたのはゼウスということになっており——それもかなり理由が明確で詳しい——、ヘーラーが落とした説はまったく語られていない点が注目に値する。

πεσόντα δ᾽ Ἥφαιστον ἐν Λήμνῳ καὶ πηρωθέντα τὰς βάσεις διέσωσε Θέτις.

ヘーパイストスはレームノス (島) に落ちて歩行が不自由にされたが、テティスが彼を救済した。

→ 観点の対格。


[6] μίγνυται δὲ Ζεὺς Μήτιδι, μεταβαλλούσῃ εἰς πολλὰς ἰδέας ὑπὲρ τοῦ μὴ συνελθεῖν, καὶ αὐτὴν γενομένην ἔγκυον καταπίνει φθάσας,

またゼウスはメーティスと交わる。彼女は一緒になるまいとして多くの姿に変じるが、ゼウスは孕ませた彼女を先んじて呑みこんだ。

→ μή+不定詞、冠詞+不定詞、男女同形の形容詞、φθάνω。

ἐπείπερ ἔλεγε Γῆ γεννήσειν παῖδα μετὰ τὴν μέλλουσαν ἐξ αὐτῆς γεννᾶσθαι κόρην, ὃς οὐρανοῦ δυνάστης γενήσεται. τοῦτο φοβηθεὶς κατέπιεν αὐτήν:

というのはゲーが言っていたからである、いま彼女 (=メーティス) から生まれんとする娘のあとに生まれるであろう息子は、天の支配者になるであろうと。彼はこのことを恐れて彼女を呑みこんだ。

→ 間接話法の対格不定法、不定法未来、αω 型の不定法現在受動態、未来中動態。

ὡς δ᾽ ὁ τῆς γεννήσεως ἐνέστη χρόνος, πλήξαντος αὐτοῦ τὴν κεφαλὴν πελέκει Προμηθέως ἢ καθάπερ ἄλλοι λέγουσιν Ἡφαίστου, ἐκ κορυφῆς, ἐπὶ ποταμοῦ Τρίτωνος, Ἀθηνᾶ σὺν ὅπλοις ἀνέθορεν.

誕生の時が至ったとき、彼の頭を斧でもってプロメーテウスが、あるいはほかの人たちの言に従えばヘーパイストスが撃つと、頭頂からトリトーン河の上にアテーナーが武具とともに飛びだした。

→ ἵστημι の第 2 アオリスト、絶対属格句、道具の与格。πλήξαντος αὐτοῦ だけ読んで絶対属格と早合点しそうになるが (じっさい τὴν κεφαλήν だけでも「彼の頭を」を意味しうるので)、そうではなく Προμηθέως ἢ ... Ἡφαίστου までが属格主語。

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