samedi 21 août 2021

下宮・金子『古アイスランド語入門』テキスト 4

下宮忠雄・金子貞雄『古アイスランド語入門——序説・文法・テキスト・訳注・語彙』(大学書林、2006 年)、テキスト編 4「ハラルド美髪王」(71 頁) の文法解説。



Haraldr, son Hálfdanar svarta, hafði tekit arf eptir fǫður sinn.


Haraldr (男) 単主「ハラルド (人名)」。

son (男) 単主「息子」。人名の属格形 (ここでは Hálfdanar) とともに使う場合は sonr にはならない (Chapman, Lesson 2)。

Hálfdanar (男) 単属 < Hálfdanr「ハールヴダン (人名)」。

svarta ↑男単属・弱 < svartr「黒い」。冠詞を伴っていないが、意味的に定である固有名詞を修飾しており弱変化。冠詞を補うとしたら Hálfdanar ins svarta。

hafði tekit 過完 3 単 < taka「とる」。tekit は過去分詞の中性単数で、このように完了形を作るときの中性の過去分詞をとくに完了分詞 (スピーヌム) と呼ぶ。

arf (男) 単対 < arfr「遺産」。

eptir 対格支配。「〜の後に」。

fǫður (男) 単対 < faðir「父」。

sinn ↑男単対。(再帰) 所有代名詞「自分の」。


Hann hafði þess heit strengt at láta eigi skera hár sitt né kemba fyrr en hann væri einvaldskonungr yfir Nóregi.


hafði ... strengt 過完 3 単 < strengja「固める」。

þess 中単属。指示代名詞。at 以下を予示する。at じたいは語形変化しようがないので、それを先取りして指示代名詞の属格形で示すことによって、heit にかかるという文中での役割がはっきりする。

heit (中) 単対「約束、誓約」。

láta 不「〜させる」(英 let)。

eigi 副。否定辞。

skera 不「切る」。

hár (中) 単対「髪」。skera と kemba の共通の目的語。

sitt ↑中単対 < sinn。

接「〜もない」(英 neither)。

kemba 不「くしけずる」。

fyrr 副「以前に」。次の比較を導く en とともに、「〜するより前に」の意。

en 接「〜より」。

væri 接・過 3 単 < vera。この接続法は、主文の時点ではまだ実現していない仮定上のできごとを表すため。

einvaldskonungr (男) 単主「統一王、単独王」。

yfir 与格支配。「〜の上に、全体に」

Nóregi (男) 単与。


Han[n] átti margar orrostur ok eignaðisk land alt.


hann 3 男単主。n が 1 つ足りていないが、『案内』では修正されている。

átti 過 3 単 < eiga「所有する」。ここでは「(勝利を) 得た」ということ。

margar ↓女複対 < margr「多くの」。

orrostur (女) 複対 < orrosta「戦い」。

eignaðisk 過 3 単・再帰 < eignask「所有者になる」。eigna 単独では「割りあてる、帰属させる」の意で、間接目的語の -sk によって「自分に割りあてる=所有する」ということ。

land (中) 単対。

alt ↑中単対 < allr「すべての」。


Þá tók Haraldr konungr laugar.


þá 副「そのとき、それから」。

tók 過 3 単 < taka。Cf. 英 take a bath。

konungr (男) 単主「王」。Haraldr に同格でこれを説明する語。

laugar (女) 複対 < laug「入浴」。


Hann lét þá ok greiða hár sitt, en áðr hafði verit óskorit ok ókembt tíu vetr.


lét 過 3 単 < láta。

greiða 不「整える」。

en áðr 接「〜する前には、するまでは」。

hafði verit 過完 3 単 < vera。完了によって主文の過去時制より前のことであるとはっきりしている。

óskorit 中単主 < óskorinn「切られていない」。この中性より主語は hár sitt「彼の髪」であることがわかる。

ókembt 中単主 < ókembðr「くしけずられていない」。理論上は -ðr が基本形だが、意味的に hár「髪」のことしか指しようがないので、この中性形 -t 以外には用例がないようだ。

tíu 不変化「10」。

vetr (男) 複対。期間を表す広がりの対格「10 年のあいだ」。


Nú var hann kallaðr Haraldr hinn hárfagri.


副「いまや」。

var 過 3 単 < vera。

kallaðr 過分・男単主 < kalla。

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