mercredi 25 août 2021

下宮・金子『古アイスランド語入門』テキスト 9

下宮忠雄・金子貞雄『古アイスランド語入門——序説・文法・テキスト・訳注・語彙』(大学書林、2006 年)、テキスト編 9「花王子と白花姫」(84–88 頁) の文法解説。これで散文編はすべて終了となる。



II.1. En síðan, sem konungr kom heim, þá lét hann kalla saman alla sína fylgðarmenn ok skipti herfangi þeira vel ok sœmliga;


lét 過 3 単 < láta。

alla sína ↓男複対。

fylgðarmenn (男) 複対 < -maðr「従者、臣下」。

skipti 過 3 単 < skipta「分ける」。目的語は与格。

herfangi (男) 単与 < herfang「戦利品」。

þeira 3 男複属。「彼らの」。

sœmliga 副「名誉にふさわしく、公平に」。


ok dróttningu gaf hann konuna at sínum hlut, þá ena herteknu.


dróttningu (女) 単与 < dróttning「女王、王妃」。

konuna (女) 単対・定 < kona「女」。

þá 女単対。指示代名詞。

ena 冠・女単対。ina の別形。

herteknu 過分・女単対・弱 < hertaka「捕らえる」。指示代名詞や冠詞がついているため弱変化。


2. Dróttning varð því fegnari en engri gjǫf fyrri, ok bað hana vera sína fylgiskonu ok gæta kristni sinnar.


varð 過 3 単 < verða「〜になる」。

því 中単与。指示代名詞。前文の内容=捕らえられた女をもらったこと、を指す。

fegnari 比較級・女単主 < feginn「うれしい」。うれしい事柄 (感情の理由) は与格。

engri ↓女単与 < engi「何も〜ない」。

gjǫf (女) 単与「贈り物」。en を使うとき比較対象は同じ格に置かれるので、ここでは því と同じ与格。

fyrri 副「むしろ」。

bað 過 3 単 < biðja。頼む相手が対格、頼む内容や欲しがる物は (あれば) 属格になる。

hana 3 女単対。人称代名詞「彼女を」。

sína ↓女単対 < sinn。

fylgiskonu (女) 単対 < -kona「侍女」。これはコピュラ vera によって hana とイコールで結ばれるため、それと同じ対格になる。

gæta 不「守る、大切にする」。語彙集には書いていないが属格をとる (Zoëga)。

kristni (女) 単属「キリスト教」。1.「主の祈り」の 6:13 で見た freistni と同じく、単数すべての格で -i だが、本書で扱われていない。

sinnar ↑女単属 < sinn。


ok lét kenna henni valsku tungu, ok kendi henni aðrar.


henni 3 女単与。「彼女に」。2 回とも侍女を指す。

valsku ↓女単対 < valska「フランスの」。

tungu (女) 単対 < tunga「言葉、言語」。

aðrar 女複対 < annarr。訳文はごまかして「別のことば (スペイン語)」とあたかも単数のように言っているが、ここはテクストに難点があって、aðrar が正しいなら女性複数で tungur が省略されているはずである。これが複数であるのは「異様だ」(auffällig) と、下宮・金子のこのテクストの引用元である Kölbing のエディションの異読資料欄に書いてある;教えられるのは王妃の母語であるスペイン語だけのはずだろうと。そこで女単対 aðra というべつの写本の読みが優先されるべきだと言われている。あるいはアラビア語も教えたのかもしれないが、キリスト教の信仰を堅持せよという指令とはいささかちぐはぐに響く。


[III.]4. Nú ræðr konungr syni sínum, at nema þá bók, er heitir grammaticam;


ræðr 現 3 単 < ráða。ここでは「忠告する」の意。

syni (男) 単与 < sonr。

bók (女) 単対「本」。

grammaticam ラテン語で正しくは grammatica と言うべきところ (-m は対格)。


en hann grét ok svaraði: “Lát Blankiflúr nema með mér, þvíat ek fæ eigi numit, nema hon nemi með mér, ok engan lærdóm fæ ek numit, ef ek sé eigi hana.”


grét 過 3 単 < gráta「泣く」。

lát 命・2 単 < láta。

nema 1 つめは前文と同じ動詞「とる、学ぶ」だが、2 つめの nema は同じつづりでも接続詞の「〜でなければ」。

現 1 単 < fá「得る」。過去分詞とともに用いると「〜できる、遂行する」の意になる。Cf. 英 get it done。

numit 完分 < nema。

nemi 接・現 3 単 < nema。

engan ↓男単対 < engi。

lærdóm (男) 単対 < lærdómr「学問、知識」。

現 1 単 < sjá。


XXIII.14. Þá mælti Blankiflúr: “Segja vil ek yðr heit mitt, er ek hét, þá er ek kom í Babilón, ok ek hugðumz þik aldri sjá mundu;


yðr 2 複与。王子に対する尊厳の複数と思われるが、この続きでは単数と入り乱れる。

heit (中) 単対「誓約」。

mitt ↑中単対 < minn。

hugðumz 過 1 単・再帰 < hyggja「思う、考える」。後接されている mik が対格主語である対格不定法構文。動詞は mundu。

þik 2 単対。主語ではなく sjá のふつうの目的語。

aldri 副「決して〜ない」。


en ef vit fyndumz, þá hét ek því, at innan fimm vetra skylda ek skiljaz við þik ok fara til hreinlífis, nema þér takið kristni.


vit 1 双主。「私たち 2 人が」。

fyndumz 接・過 1 複・再帰 < finna「見いだす」。双数の活用は複数を用いる。再帰は相互用法で、「互いに互いと会う」意。ただし 1 複なら本来 fyndimsk になるはずだが、u なのは 1 単 fyndumk の類推か?

innan 属格支配。「〜以内に」。

fimm 不変化「5」。

skylda 過 1 単 < skulu。

skiljaz 不・再帰「(við 〜と) 別れる」。

hreinlífis (中) 単属 < -lífi「純潔な生活」。

þér 2 複主。ここからまた複数に戻る。

takið 接・現 2 複 < taka。直・現 2 複も同形だが、nema の後なので接続法にとっておこう (さきの nema hon nemi もそうであった)。


Nú kjósið annathvárt!”


kjósið 命・2 複 < kjósa。

annathvárt 中単対 < annarrhvárr「2 つのうちのどちらか、一方か他方か」。


Flóres mælti: “Nú á þessum degi vil ek við kristni taka.”


þessum ↓男単与 < sjá「この」。指示代名詞。

degi (男) 単与 < dagr。「では,今日から」という訳は曖昧。nú が「では」にあたるのだとしたら、そこで前域が終わって nú vil ek ... と置きたくなる気がするが、そうではないので nú と á þessum degi は同じものを言っていて「今日この日に」という感じではないか (もちろんそのうえで「では」も言ったって構わないが)。

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