mercredi 30 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (8)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 15 課と第 16 課の解答例。同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と同じ文を発見できたかぎりで指示を与えている。

そういえば第 9 課を最後に語形変化の練習問題をぱったり見なくなったが、この第 15 課こそ接続法の活用を練習させてもよかったのではなかろうか。先のほうを見てみると今後も最後までこの種の練習はもう現れないようだ。このへんまで来ればあとはやる人が勝手にやれというわけか。

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第 15 課


和訳


1. 誰かが言うかもしれない、このことを成しとげるために十分な金が私たちにはないと。しかしパトロンがあらゆる手段で私たちを支援してくれると私は思いたい。〔最初の dīcat と最後の putāverim が可能性の接続法 (後者は完了だがどちらも現在の意味)。ad hanc rem cōnficiendam は「成しとげられるべきこのことのために=このことを成しとげるために」の意、こういう目的のときに動詞の不定法は用いない (小林『独習者のための楽しく学ぶラテン語』§233)。後半の iuvātūrum は esse が省略されている未来不定法。〕

2. (受けた) 親切のために両親にお礼を伝えようではないか。〔『練習問題集』XXIV 2. 5) とやや類似。〕

3. 神々が私を友人たちから守りますように;敵たちからは私を私自身が守るだろう。〔明らかな敵からは自衛できるが、友人の裏切りは自力ではどうしようもないということ。前者は現在の実現可能な願望、または 3 人称命令「守りたまえ」、後者は可能性の接続法、または直説法未来でもよい。細かいことだが ipse は主格なので隠れた主語 ego の同格であって、mē の同格「私自身を」ではない。〕

4. すべての民族が自分たちの法律を持ち、平和を享受し、義務を果たすことができたらいいのに。〔possent は接続法未完了過去で、現在の非現実願望。〕

5. 君は自分の親切を自慢するな。〔練 XXVI 9. 2) と同文。〕

6. 私たちの祖先のことを思いだそうではないか。〔練 XXVIII 1. 4) と同文。māiōrēs が「祖先」という意味の複数名詞で meminī の属格目的語。いまさら māior をわざわざ引く人は少なかろうから落とし穴である。〕

7. みなが私を見捨てた。私はどうしたらいいだろう。どこへ向かえばいいだろう。〔ためらい (懐疑) の接続法。〕

8. クラウディアは本当のことを言ったと私はなんらの疑い [ためらい] なしに断言するだろう。〔練 XXIX 3. 3) とほぼ同文。穏やかな主張。〕

9. アテーナイの住民たちはテーセウスをすでに長いこと待っており願っている:「テーセウスがミーノータウロスを征服していますように。」〔実現可能な過去の願望。〕

10. 病人たちは担架で庭へ運ばれよ。〔練 XXIV 1. 4) と同文。3 人称命令。〕

11. 君が私のところに来ていたらなあ。〔実現不可能な過去の願望。〕

12. 町は略奪されたと人は考えたかもしれない。〔過去の可能性の接続法。dīreptam esse は不定法受動態完了で、相対時制なので考えた以前のできごと。〕

13. 君がいなければなにも楽しくないはずだ。〔現在の非現実。〕

14. 君がいなければ私は助からなかったはずだ。〔過去の非現実。servātus (nōn) essem は接続法受動態過去完了。〕

15. カエサルを私は殺すべきではなかったか。〔過去の懐疑。〕

16. 誰をも軽蔑しないことだ [しないでもらいたいものだ]。〔2 人称に対する禁止は現在の意味でも〈nē + 接続法完了〉だが、ここは現在であるから [1] b. 不特定の 2 人称への警告、または [7] a. 現在の実現可能な願望と見ることができる。ただし松平・国原『新ラテン文法』§614 によれば接続法現在による禁止も「詩の中または初期の作家」に限っては見られるという。〕

17. これらはなるほど間違ってはいる;(だが) 恥ずべきものでは決してない。〔譲歩の接続法。〕

18. 年長の牛によって耕しかたを年少の (牛) は学ぶべきだ (=に学ばしめよ)。〔3 人称命令、または願望。原典はアエソープス (=アイソーポス=イソップ) の寓話 50 番「父と息子」(‹ Dē patre et fīliō ›) 10 行。〕

19. 君が君にされたいと思わないことを、ほかの人たちにしてはならない。〔fēceris は接続法完了で禁止。〕

20. 嘘をつくことは醜い [不名誉だ] ということを誰があえて否定するか。〔可能性の接続法。mentīrī が形式受動の不定法で、turpe は turpis の中性単数対格 (対格不定法)。〕

21. 国を先導する者は、ほかのすべての者たちに徳の点で優っているべきだ。〔praestet は praestō の接続法現在で、3 人称命令または願望。〕

22. 逆境を辛抱強く耐えようではないか。〔練 XXIV 1. 3) と同文。勧奨の接続法。〕

作文


1. (Utinam) dī nautās ex perīculō servent!

2. Lēgēs observentur et ā rēgibus et ā populīs.

3. Vērum dīcere nē timeāmus!

4. Nē aliīs maledīxerit!

5. Moneam [Moneāmus] an abeam [abeāmus]?


第 16 課


和訳


1. マールクスは友人に、なぜ自分を信じてくれないのか尋ねる。〔crēdō は与格目的語をとる。〕

2. 誰がローマを建設したか私に言ってくれ。

3. 友人たちはいつユーリウスが自分たちを訪ねてくるつもりか知らない。

4. 父は母に、息子はまもなく戻ってくるだろうかと尋ねた。

5. ヘルウェーティイー族はローマ人たちの防壁を突破できるかどうか試みた。〔『練習問題集』28 課 3 節 4) の例文と同文。〕

6. 私の計画はよいと君が思っているかどうか、私に書き送ってくれ。

7. 材料なしに家が建てられることはありえない、ということが疑われることはありえない。

8. 船乗りたちは船が嵐によって岩に投げ出されないようにと神々に懇願した。

9. カエサルは兵士たちに、荷物を一箇所に集めるようにと命じた。〔練 XXIV 2. 7) と同文。〕

10. なぜ君は友人が助けてくれないのではないかと恐れるのか。

11. 将軍は軍隊とともに川を渡った、敵たちを攻撃し彼らの不法に復讐するために。〔練 XXVI 6. 5) と同文。〕

12. 私はより多くを書くことを悲しみによって妨げられている。〔練 XXX 1. 1) と同文。〕

13. アリオウィストゥスはカエサルのところに来ることを拒んだ。〔練 XXX 1. 2) と同文。〕

14. ゲルマーニア人は武器をもって戦うことを拒まなかった。〔練 XXX 1. 5) と同文。〕

15. ソローンは債権者たちに、債務者たちを奴隷として売ることを禁じた。

16. 急げ、君が行きたいところのそこへいっそう早く到達できるように。

17. もう少しで敵たちが陣営を占領するところだった。〔練 XXX 1. 10) と同文。〕

18. 最低の身分に生まれた男たちが最高の顕職に到達するということがしばしば起こる。〔練 XXII 2. 1) と同文。〕

19. ハンニバルは何物も勇気 [武勇] によって克服されえないほどに困難ではないと思っていた。〔練 XXX 1. 9) と同文。〕

20. 要塞内には誰も傷つけられていない (=負傷していない) 兵士はいなかった。〔mīlitum は部分の属格「兵士たちのうち誰も」。〕

21. キケローは追放先の地にいたときに、ほとんど一日たりとも友人のアッティクスに手紙を書かずには過ごさなかった。〔esset は歴史的 cum (§72 B. [1]) のため接続法未完了。これまた未説明の事項を先取りする不注意。〕

22. 誰も自分たちの (仲間) を見分けることができないほど、それほどの大勢だった。

23. おのおのがおのおののことについて何を聞いたかを旅人たちから聞きだす、というのがガリア人たちの習慣だった。〔『ガリア戦記』IV 巻 5 章 2 節の要約。説明の ut。quid 以下は間接疑問なので接続法過去完了。〕

24. 被告はすべてのことに耐え、仲間たちの名を言わないほどだった (=仲間たちの名を言うよりはむしろすべてのことに耐えた)。

作文


1. Nesciō, utrum Mārcus redīret necne.〔練 XXVIII 3. 10) と同文。〕

2. Pater fīlium interrogāvit, sī quid scrīpsit.〔sī のあとなので aliquid でなく短形 (§55 [3])。〕

3. Ōrō tē, ut librum mihi dōnēs.〔練 IX 5. 1) と同文。〕

4. Timeō, nē pater mē pūniat.〔練 XXVII 2. 1) と同文。〕

5. Puer tam aegrōtus est, ut medicus vocētur. / Cum puer aegrōtus sit, medicus vocātur.〔理由の cum は次の課の §72 B. [3] で説明される。〕

mardi 29 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (7)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 13 課と第 14 課の解答例。同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と共通する文をなるべく探してすべて対応させるよう心がけているが、完璧とはいかないのでこれまでの課も含めてお気づきの点があればコメントでお知らせいただきたい (だが今回の第 13 課はこれまでと違い問題集で見た覚えのない文が多かったので、見逃していても 1 つ 2 つかと思う)。ラテン語著作の原典の検索についても同様、出典があるのに残念ながら私が気づいていないことは多々あるだろう。

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第 13 課


本文 §61 [5] に multitudō とあるのは multitūdō の誤り。

和訳


1. カティリーナにとってキケローが殺されることははなはだ重要であった。〔magnī は価値の属格。〕

2. テーバイ人たちにはポリュネイケースの遺体を地面で覆う (=埋葬する) ことは許されていなかった。〔ソポクレース『アンティゴネー』26 行以下:「ところが悲惨な最期を遂げたポリュネイケスの亡骸は、町じゅうにもうお布令を出して、けして葬いをして葬ってはいけない、また泣き悼んでもいけない……」(呉茂一訳。ただし絶版のため前掲リンクはかわりに中務哲郎訳)。〕

3. 君は務めをおろそかにしてはいけない。〔officiī は neglegēns の属格目的語。〕

4. 私は自分の愚かさに腹が立つばかりか、恥ずかしい。〔出典はキケローの『わが家について』(Dē Domō Suā) という作品の 29 節改変。原文では ut 節なので動詞が接続法 pigeat, pudeat.〕

5. 病気になった人には医者が必要である。〔morbō afficī「病気で影響を受ける=病気になる」の完了時。quī は関係文のなかでは受動の主語で主格だが、その外側の主文における格をはっきりさせるため、opus est が要求する与格の指示代名詞 eī が置かれている。cf. 松平・国原『新ラテン文法』§247.〕

6. 平和という名前は快い。〔説明の属格。〕

7. 悪人たちを大目に見る者は善人たちに害をなす。〔第 7 課和訳 15. を能動文に直したもの。〕

8. 青年たちはオリュンピアでしばしば大きな栄誉を自分たちにも自分たちの国のためにも手に入れた。

9. アッロブロゲース族にとって自由を失ったことは悲しみであった;なぜなら (彼らは) 自由を熱望していたから。〔dolōrī は目的の与格。lībertātis は cupidus の属格目的語。〕

10. 両親を愛することは私たちの (義務・本分) だ。

11. 親たちの愛は子どもたちから報酬 (=見返り) を要求しない。

12. 人民の暴君への憎しみは正当である。〔populī も tyrannī も属格なので主語的か目的語的かは意味を考えて選ぶしかない。〕

13. マールクス・ポルキウス・カトーは辛辣な舌の (=毒舌の・舌鋒鋭い) 人だった。〔性質の属格。『練習問題集』XXVII 3. 2) と同文。〕

14. ローマ人たちは武器・戦争・戦闘を愛していた;(彼らは) 武器と戦争と戦闘に熟達しており、名誉を熱望していた。

15. 君たちのうち誰が私たちを覚えているか。〔どちらも人称代名詞の属格だが、vestrum は部分の属格、nostrī は属格目的語の形なので、反対に「私たちのうち誰が君たちを〜」ととることは不可能。〕

16. ローマ人たちは小さな剣と大きな盾をもっていた。〔所有者の与格。〕

17. 君たち (について) の記憶をいつまでも私は保持するだろう。〔文脈からも明らかだが、vestrī は目的語的属格なので「君たちがもっている記憶」memoriam vestram とは違う。〕

18. アウグストゥスの時代にローマ帝国には確固とした平和があった;アウグストゥスのすぐれた法律は国 [市民たち] にとって救い [安全] であった。〔前半 aetāte は時の奪格、imperiō Rōmānō は所有者の与格、したがって erat < sum は存在ととる。〕

19. カエサルという名前はゲルマーニア人たちにとって最高の威厳をもつ名称とされた [となった]。〔Caesaris は説明の属格、summae dīgnitātis は性質の属格。factum est は fīō の完了=faciō の受動態完了で、この文は「nōmen ... を vocābulum ... とする」という二重対格の能動文を受動にした二重主格。〕

20. 君にとって損になることは、君の敵たちにとって喜びとなるだろう。

21. 君は私に何をしてくれるのか。〔利害または関心の与格。日本語では「くれる」だけで mihi の感じが出るので、とくに関心なら「私に」は不要かも。〕

22. ミルティアデースはアテーナイ人への裏切りのかどで告訴された;死刑は免除されたが、多額の金銭で罰せられた (=多額の罰金を科された)。〔Athēniēnsis は主格・属格が同形なので、ここでは prōditiō にかかる目的語的属格として訳したが、ミルティアデースの同格として「アテーナイ人ミルティアデースは裏切りのかどで〜」ととることもできるだろう。〕

23. 私に向かって叫ぶな。〔関心または方向の与格?〕

24. 航行している者から見れば、立って (=静止して) いるもの (のほう) が動いているように見える。〔nāvigantibus は判断者の与格。movērī「動く」は moveō の不定法受動態現在で、いわゆる中動態的受動態 (§28 [3])。〕

25. 怠け者は価値が低い:一文の価値もない。〔価値の属格。前半は松平・国原 §419 にほぼ同文あり。〕

作文


1. Auxiliō mihi opus est.

2. Eum paenitet sceleris suī.

3. Valētūdō tua mihi magnae cūrae est.

4. Parentum amor līberōrum magnus est.

5. Hunc librum plūrimī [maximī] aestimō.


第 14 課


和訳


1. 先生は少年たちに文字 (または文学・学問) を教える。〔『練習問題集』V 3. 13) とほぼ同文。〕

2. カエサルは 15 フィートの幅の堀を 2 つ作った。それらの後ろに 12 フィートの高さの防柵を築いた。〔練 XXVI 3. 1) と同文。〕

3. カエサルは騎兵たちの大部分に川を渡らせた。

4. 元老院は外国の諸民族の元首たちを、ローマ国民に対する大きな功績のために、友人かつ同盟者と呼ぶ習慣であった。〔練 XXVIII 1. 2) と同文。〕

5. 青年たちは体育館でさまざまな方法で互いに競っていた。〔練 XXI 1. 11) とほぼ同文、また練 XIII 2. 3) にも類似。〕

6. 下女たちは女主人の賞賛をとても喜ぶ。〔練 XXI 1. 1) と同文。〕

7. カティリーナは高貴な家柄の生まれで、精神力も体力も大きかったが、性格 [品行] が悪かった。〔練 XXI 1. 6) とほぼ同文。genere < genus, vī < vīs, mōribus < mōs すべて性質の奪格。mōrēs は「品行」でも通りそうだが、問題集の解答は「性格」としている。〕

8. ゲルマーニアは外見の点でイタリアと大きく異なっている。〔練 12 課 1 節の例文と同文、さらに練 XXV 6. 8) にも同文。speciē は関係 (限定) の奪格。〕

9. 適切な場所でカエサルは戦闘隊列を築いた。〔練 XXVI 1. 4) と同文。場所の奪格。〕

10. コルネーリアは最高の賞賛に値する。

11. 包囲された町の住人たちは迅速な救援を必要としていた。

12. 町じゅうで家々や神殿が燃えていた。

13. ガリアの住人たちは言語・制度・法律の点で互いに異なっていた。〔練 XXIV 2. 6) と類似。原典は『ガリア戦記』I 巻 1 章 2 節改変。〕

14. エピダウロス (の町) は有名なアエスクラーピウス (=アスクレーピオス) の神殿でにぎわっていた。〔原因の奪格。〕

15. 父の死の 3 年後に母が亡くなった。〔程度の奪格。〕

16. カエサルは最高の才能をもった男で、身長は高く、色は白く、目は黒かった。〔summī ingeniī は性質の属格、残りは性質の奪格。〕

17. 私たちは有名な戦いを戦った。〔同族対格。〕

18. おお、人間たちの希望のあてにならないことよ。〔感嘆の対格。〕

19. あの家は高く売られたが、価値はまったくない。〔magnō は価格の奪格、nihilī は価値の属格。〕

20. 生活費はかつて少ししかかからなかったが、いまでは商品はもっと高い。〔parvō は価格の奪格、plūris も意味は価格だが比較級なので属格。動詞 sunt が複数なので、mercēs は mercēs, mercēdis, f.「報酬」ではなく merx, mercis, f.「商品」の複数主格とわかる。〕

21. 私はこのことを君に説得したい、逆境においては大いに不屈 (の心) が力を持つということを。〔中性単数対格 hoc は真の目的語である不定法句を予示するもので、cōnstantiam posse がその対格不定法の主語と動詞。multum「大いに」は形容詞の中性単数対格が副詞となったもので (松平・国原『新ラテン文法』§352)、私はここからが不定法句と解した。volō にかけて「大いに説得したい」ととれなくもないが、それなら volō の前に立つのが自然である (副詞はそれがかかる動詞に前置されることが原則:松平・国原 §355、ダンジェル『ラテン語の歴史』邦訳 154–55 頁)。〕

22. ゲルマーニア人の女たちは下腕と上腕 (=腕全体) をむきだしにしていた。〔関係の対格。〕

作文


1. Graecī decem annōs Trōiam oppūgnāvērunt.

2. Senātus Augustum patrem patriae appellāvit [vocāvit].

3. Quis ab cūrīs līber est?

4. Tarquinius magnam superbiam et crūdēlitātem habēbat.

5. Quantī habitātis? ― Permagnō habitāmus.

lundi 28 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (6)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 11 課と第 12 課の解答例。問題には同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と共通する文が少なくないのだが、じつは問題をただ解くよりもこれを探して照合するのにけっこうな時間がとられている。『ガリア戦記』などのラテン文の出典箇所を探す作業もしかり。そのぶんだけ後の学習者の手間を減らせていてほしいものだが。

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第 11 課


和訳


1. 祖父は少女たちが祭壇をバラで飾っているのを見ていた。

2. 君たちの友人たちが危機にあることを私たちは悲しむ;君たちが私たちのところにいることを私たちは喜ぶ。〔『練習問題集』VI 5. 3–4) とほぼ同文 (2 問に分割)。〕

3. 兄は隣人が自分にいくつかの果物をくれたと言った。〔間接再帰 sibi = frātrī ≠ vīcīnō。間接再帰というのはラテン語のおもしろい特徴で、たとえば現代のフランス語で同じことを言うなら « Mon frère m’a dit que son voisin lui avait donné plusieurs pommes. » のように 3 人称代名詞でなければならず、もしここに再帰代名詞を置けば隣人が隣人じしんにあげたことになってしまう。しかし日本語には似たようなところがあり、授受の方向がはっきり出てしまう「くれた」では無理だがべつの動詞、たとえば「兄は隣人が自分を殴ったと言った」ならこの「自分」は兄=間接再帰と隣人=直接再帰の両方に読めるだろう。〕

4. 私は君が旅をすることを望む。

5. ガリア人たちはもっとも強かったと考えられている。ガリア人たちはもっとも強かったと伝えられた。〔後半は練 XXVII 4. 4) の問題文とほぼ同文、前半はその書きかえ後の解答とほぼ同文。〕

6. カエサルは兵士たちに橋を作るよう命じた。カエサルは橋が作られることを命じた。兵士たちは橋を作ることを命じられた。橋が作られることが命じられた。〔第 2 文は練 XXVII 4. 7) の問題、第 4 文はその解答と同文。〕

7. 暴君に対する陰謀が準備されたと伝えられた。

8. ハンニバルはローマ人たちが自分によって破られるであろうことを期待していた;ローマ人たちは自分たちが彼によって破られるであろうとは思っていなかった。〔未来不定法の受動態は目的分詞なので語形変化しないことに注意。〕

9. その間にユグルタは大きな配慮とともに (=細心の注意を払って) すべてのことを準備し、急ぎ、軍隊を集めた。〔歴史的不定法。§51 [3] c.  原典はサッルスティウス『ユグルタ戦争』66 章冒頭の抜粋。〕

10. 畑をよく手入れするとはどういうことか。―― よく耕すこと (である)。〔原典は大カトー『農業論』61 章。〕

11. アリオウィストゥスは誰も自分の破滅なしに自分と争った (=自分と争って自分が破滅しなかった) 者はいないと自慢した。〔sēcum の sē は間接再帰=アリオウィストゥス、これに対し sine suā perniciē の suā は直接再帰=争った当人。こういうことができるのは驚きで、混乱を避けるなら一方だけを再帰代名詞とし、他方は ēius, illīus や ipsīus のようなべつの代名詞を使うはずのところだろう (間接再帰のない現代語では後者が再帰代名詞、前者が 3 人称代名詞となる:たとえばドイツ語訳 „dass noch niemand ohne sein Verderben gegen ihn gekämpft habe“ やチェコ語訳 „nikdo že s ním beze své záhuby v boj se nepustil“ における代名詞の使いかたに注目せよ)。不定法句の部分は原典『ガリア戦記』I 巻 36 章 6 節。〕

12. 母は娘が間もなく自分のところに来るだろうと思った。〔練 XXIII 5. 6) とほぼ同文。〕

13. 私たちの町には 173 858 人の市民が住んでいる。〔練 XIX 2. 7) と同文。〕

14. ガーイウス・ユーリウス・カエサルはキリスト紀元前 100 年に生まれた;(彼は) キリスト紀元前 44 年に殺された。〔練 XIX 3. 1) の前半と同文。〕

15. 海は町からおよそ 14 マイル離れている。〔練 XXVI 3. 3) と同文。〕

16. ハエドゥイー族は何度もゲルマーニア人と戦闘した。〔semel atque iterum で「何度も、繰り返して」というイディオム。〕

17. アレクサンドロス大王の死後 2 年で彼の遺体はエジプトに移送された。

18. 年をローマ人たちは都の建設された年から数えていた。それ (=建国紀元年) はキリスト紀元前の 753 年であった。

19. 4 かける 4 は 16、5 かける 8 は 40。

20. ローマでは毎年 2 人ずつ執政官が選ばれた。〔問題文の Romae は Rōmae の誤記。この格は地格 (§24)。〕

作文


1. Avum ā medicō sānārī nōn potuisse dolēmus.〔練 XIII 2. 5) と同文。〕

2. Spērant sē mox in urbem Neāpolim adventūrōs esse.〔練 XXIII 4. 7) とほぼ同文。〕

3. Concēdō sapientiam tuam māiōrem esse quam meam.

4. Hannibal nōnāgintā mīlia (XC) peditum et duodecim mīlia (XMM) equitum Hibērum trādūxit.〔練 XXI 4. 2) と同文。〕

5. Duōbus lītigantibus tertius gaudet.


第 12 課


和訳


1. ヘルウェーティイー族との戦争が終わると、全ガリアの使節たちがカエサルのもとへお祝いを言うために集まってきた。〔『練習問題集』XXVI 8. 2) とほぼ同文。出典は『ガリア戦記』I 巻 30 章 1 節一部省略。〕

2. 困難な状況においてはもっとも勇敢 (=大胆) なことがすべてもっとも安全なのだ。〔原典はリーウィウス『ローマ建国史』XXV 巻 38 章 18 節一部省略。原文は « in rēbus asperīs et tenuī spē fortissima quaeque cōnsilia tūtissima sunt »「状況が困難で希望がかすかなときには、なんであれもっとも大胆なる決定 [計画] がもっとも安全なのだ」。問題文は cōnsilia を消したせいでかえって言葉足らずでわかりにくくなっている。〕

3. 人はみな自分をいちばん気にかけるものだ。〔練 XXIX 1. 3) と同文。〕

4. もし誰かが幸せならば、かならず (べつの) 誰かがその人を妬む。〔練 XXIX 1. 6) と同文。〕

5. クロイソスは誰も自分自身より幸せではない (=自分より幸せな者は誰もいない) と言った。〔練 XXIX 1. 14) と同文。〕

6. 私たちのうちの誰ひとり罪を犯さない者はいない:私たちは人間であって、神ではない。〔練 XV 7. 2) と同文。〕

7. 君たちのうちどちらがこれをしたのか。なぜなら一方がこれをしたことは明らかだから。―― 私たちのうちのどちらもしていない;私たちのうちどちらも無実だ。

8. 敵たちはある者が他の者にとって (=互いが互いにとって) 邪魔になっていた。〔impedimentō esse「〔与〕の妨げになる」。これは次の課 (§62 [4]) で利害の与格と目的の与格 (述語的与格) との二重与格として説明される。〕

9. たしかに罪の意識はソクラテスにはひとつもなかった、しかし (彼は) なんらの逃亡の機会をも求めていなかった。〔quidem はここで出てきて不定代名詞・形容詞みたいな見かけをしておりながら小詞なのが詐欺。〕

10. どんな人間も間違うものである。(だが) 愚かでないならばどんな (人間) も間違いのなかにいつづけはしない。〔前半は cūiusvīs が形容詞として hominis にかかる男性単数属格であり、この属格は所有の属格の述語的用法 (第 13 課 §61 [3] b.)、つまり直訳は「間違うことはどんな人間のものでもある」。後半の nūllīus (hominis) nisi insipientis の属格も同様で、est が省略されている。〕

11. ある人たちが伝えるところでは、キケローはある本のなかで自分の評判を歌っていたという。〔trādunt の形から quīdam は複数主格とわかる。〕

12. 幾人かの悪い男たちが国家の基礎を破壊した。〔練 XI 6. 6) と同文。〕

13. ある者たちが美徳であるとみなしているところのもの、それと同じものをまたある者たちは愚かさであると言う。〔前半は aliī putant の目的語が quās = virtūtēs という同定文に相当する二重対格なので関係代名詞は女性複数に一致している。後半ではさらにこの全体が stultiam とイコールになるので女性単数になる。このような現象を牽引 (attraction) という。cf. 松平・国原『新ラテン文法』§245、また本書第 18 課 §78 [2] も参照。〕

14. 多くの危険が君によって耐えられねばならなかった (=君は多くの危険を耐えねばならなかった)。

15. 私にはこれほど多くの手紙を書く時間はない。〔練 25 課 7 節の例文とほぼ同文。〕

16. 敵たちは町を攻め落とすことと川を渡ることについて絶望した (=あきらめた)。〔動名詞は属格か裸の奪格でしか対格目的語をとれない、ここでは前置詞つき奪格のため動形容詞がかわりに使われている。練 XXV 7. 6) と同文。〕

17. 長い旅をしてきた両親は私たちに会うことを熱望している。〔練 XXV 7. 9) とほぼ同文。〕

18. 長い旅をしようとしている商人は、自分の家の番をするよう友人に委ねた。〔factūrus は facio の未来分詞で、主語 mercātor に一致してここではこの本で言う接合分詞 (§49) として用いられている。動形容詞の部分は直訳すると「友人によって番をされるべき自分の家」。〕

19. 富は上手に用いられねばならず、濫用されてはならない。〔練 XXVI 9. 4) と同文。〕

20. 耕す技術はかつてローマ人たちにとって支配 [指揮] する技術よりもなじみの少ないものではなかった。まれにではなく (=しばしば) 高貴な男たちが耕すことから戦うことと祖国を守ることのために呼びだされた。〔ad pūgnandum は動名詞、しかし ad patriam dēfendendam はやはり動名詞が対格目的語をとれないため動形容詞で代用されている。〕

21. 植民都市を作るための三人委員会が選ばれた。〔官職名を表す目的の与格の動形容詞 (§59 C. [3] a.)。〕

22. 私はそれを見ることを熱望している。

23. 敵たちに武器をとる機会は与えられない。

24. 親によって子どもに配慮されるべき (=親は子どもを気にかけるべき) である。〔動形容詞だが混乱を避けるため行為者が〈ā + 奪格〉で表されている例。〕

作文


1. Ab aliīs animī, ab aliīs corpora exercentur.

2. Et corporis et animī vīrēs exercendae sunt.〔練 XIX 6. 1) とほぼ同文。〕

3. In multīs discipulīs est magnum studium discendī, eī semper ad discendum parātī sunt.

4. Cōnsilium id faciendī nōn probāmus.〔中性代名詞が対格目的語なので動形容詞は不可。〕

5. Domum meam amīcō custōdiendam trādidī.〔練 25 課 7 節の例文とほぼ同文。本書付属の単語集では日羅の部で「渡す」に対し dō しか与えられていないが、上の和訳 18. を参考にすれば trādō を使えることがわかる。〕

dimanche 27 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (5)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 9 課と第 10 課の解答例。同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と共通する文が見つかっている場合はその箇所を指摘している。いよいよややこしい文が増えてきているが、このあたりまで来てやはり『標準』が難しすぎると感じる人は、さきに『問題集』に戻ってもしくは並行して進めるのもよい選択であろう。著者が同じなので用語法も本書と共通している点もおすすめの理由である。

目次リンク:第 1 課・第 2 課第 3 課・第 4 課第 5 課・第 6 課第 7 課・第 8 課・第 9 課・第 10 課・第 11 課・第 12 課第 13 課・第 14 課第 15 課・第 16 課第 17 課・第 18 課第 19 課


第 9 課


§44 練習


clārus : 比 clārior, clārius; 最 clārissimus, clārissima, clārissimum.〔有名な〕

tener : 比 tenerior, tenerius; 最 tenerrimus, -a, -um.〔柔らかい〕

piger : 比 pigrior, pigrius; 最 pigerrimus, -a, -um.〔怠惰な〕

audāx : 比 audācior, audācius; 最 audācissimus, -a, -um.〔大胆な〕

similis : 比 similior, similius; 最 simillimus, -a, -um.〔似ている〕

dubius : 比 magis dubius, -a, -um; 最 maximē dubius, -a, -um.〔疑わしい〕

和訳


1. ローマの町ではしばしば剣闘士の競技が行われていた。〔『練習問題集』XXII 1. 5) と同文。〕

2. 同じことを欲し同じことを欲さないのが友情である。

3. 大衆の意見を軽蔑するな。

4. 銅から多くの工芸品が作られる。〔練 XXII 1. 1) と同文。aes は本書付属の単語集では「銅,青銅」、さらに『練習問題集』の単語集ではこの 2 つと並んで「真鍮」まで載っているが、3 種の金属を区別しなくても昔の人は困らなかったのだろうか (精錬技術が低いため?)。ここではそちらの解答に倣って「銅」を選んだ。〕

5. 不正を堪え忍ぶよりもむしろ行うことを欲する人間は正しくない。〔homō を説明する quī 関係節が重いので文末に回っている形。練 XXIV 4. 1) にやや類似。〕

6. 私たちは欲するところのことを喜んで信ずる。〔カエサルの言葉として有名、出所は『内乱記』II 巻 27 章 2 節。〕

7. カトーは善いと思われることよりも (善く) あることをむしろ欲した。〔habērī は habeō の不定法受動態現在で、ここでは「と思う、みなす」の意。bonus は esse だけでなく habērī の補語ともなっている。原典はサッルスティウス『カティリーナの陰謀』54 章 6 節に出てくる表現 (原文は esse quam vidērī bonus mālēbat) で、Catō は小カトーのこと。〕

8. 君は私に小さな本を見せたいか。

9. 大きな事柄においては欲したこと (だけで) も十分である。〔原文はプロペルティウス『哀歌』II 巻 10 章 6 行。〕

10. (彼は) 牢から逃げ出すことを欲さず、喜んで死へ向かっていった。〔主語は明示されていないが、主語の述語的同格 laetus によって男性とわかる。ソクラテスのことか?〕

11. コリントスの町の住民たちはギリシアの他の町の (住民たち) よりも裕福だった。〔ここでは中性複数属格 aliōrum で第 2 変化と同じだから差し支えないとはいえ、代名詞的形容詞 alius の曲用は正式には第 12 課 §54 で初出なので不注意である。〕

12. 黄金時代には人間はそれ以後よりも幸福に暮らしていた。〔練 XVI 8. 4) と同文。〕

13. 昔の都市のうちでもっとも有名なのはアテーナイとローマだった。〔clārissimae は属詞 (述語) であって「アテーナイとローマはもっとも有名だった」という文型だが、テーマ/レーマ構造 (情報構造) を考えれば「もっとも有名なのは〜」のように訳すほうが適切である。cf. 遠山『対訳 カエサル「ガリア戦記」第 I 巻』1 章注 7 (3 頁)。〕

14. 多くの男たちが最下位の身分に生まれながら最高位の顕職に到達した。〔練 XX 4. 6) と同文、XXI 1. 4) ともほぼ同文。〕

15. ローマ人たちは、アルプスのこちら側の上部イタリアにいたガリア人たちの土地をガッリア・キサルピーナ (アルプスのこちら側のガリア) またはガッリア・キテリオル (内ガリア) と呼んでいた。アルプスの向こう側にあるガリアはガッリア・ウルテリオル (外ガリア) または (ガッリア・) トランサルピーナ (アルプスの向こう側のガリア) と呼ばれていた。〔表記ゆれが見苦しいが音訳の部分はガッリアとしておく。練 XX 5. 5–6) と同文 (2 問に分割)。〕

16. 私は姉に母の病気について知らせる。〔練 XXII 3. 1) と同文。〕

17. カエサルは自分の軍勢をもっとも近い丘の上へ導いた。丘の中腹に三重の戦列を築いた;丘の頂上に最近徴集していた二個軍団を配置した。〔練 XX 4. 1–2) と同文 (2 問に分割)。第 1 文はほぼ同じものが本書 §20 B. [3] にも歴史的現在の例文として出ている。その歴史的現在が大元の原文のとおりで、出典は『ガリア戦記』I 巻 24 章 1–2 節省略改変。〕

18. カエサルは夜明けに陣営の前に戦列を築いた。〔練 XXII 4. 3) と同文。『ガリア戦記』I 巻 22 章からの抜粋改変?〕

19. どうして鉄は人間にとって金や銀よりも必要であるか。

20. 300 人以上の敵が戦闘の直前に捕まった。〔paulō は第 14 課 §64 で登場する程度 (差異) の奪格だが、単語集にはこの形で副詞として立項されているのでいちおう訳せるようにはなっている。paulō ante の並びなので「直前、少し前に」ととるほうが素直だろうが、文頭の plūs も比較級であるからそちらにかければ「300 人を少し超える敵が戦闘の前に捕まった」と解せないこともない。〕

作文


1. Cūr hīc manēre quam abīre māvultis?〔練 XXIV 4. 3) とほぼ同文。また本書 §43 の例文ともよく似る。〕

2. Pōns in flūmine fit [factus est].〔練 XXV 8. 3) « Caesar pontem in flūmine Rhēnō faciendum cūrāvit. » を参考。「作られている」という日本語が進行とも完了とも解せる。〕

3. Nōlī(te) trepidāre.

4. Hodiē caelum serēnius est quam herī.〔練 XVI 5. 3) に類似。〕

5. Vēr pulcherrimum tempus annī est.〔練 XVI 6. 5) とほぼ同文。〕


第 10 課


和訳


1. ガリアの諸部族はカエサルの到来する前にはほとんど毎年のように互いのあいだで戦争するのが常であった。

2. もっとはっきりした声で話しなさい。〔『練習問題集』XXVI 5. 2) と同文。〕

3. 私たちが享受している生は短い。〔単語集には fruor は自動詞としか書かれていないが、水谷羅和にあたると目的語は奪格または対格とある。ここでは関係代名詞 quā がその奪格。〕

4. 悪い人たちを友人として付きあうな。〔ūtor も奪格目的語をとる。やはり水谷羅和によれば「交際する,つきあう」の意味あり。〕

5. 賢明に生きた者は平静な心で死ぬだろう。〔練 XXVI 4. 4) と同文。〕

6. 森のなかに見捨てられた (=無人の) 家があった;その場所へ共謀者たちは捕虜たちを運んだ。〔練 XIV 5. 10) と同文。〕

7. イーカロスは父から忠告されていたにもかかわらず太陽に近づきすぎた。〔練 XXIII 1. 5) と同文。〕

8. 将軍の考え (=戦略、または慎重さ) に兵士たちの勇気はかかっている。〔プーブリリウス・シュルスの格言。こういう洒落た語順の文が出てきたらかならず元ネタがある。〕

9. 暴君は祖国を圧迫されたものとしている (=圧迫した)。〔このような habēre/tenēre + 完了分詞という形式が文法化して後代のロマンス語の複合時制に至る (フランス語の複合過去、イタリア語の近過去、スペイン語の現在完了、ポルトガル語の完全過去複合形など;とくにポルトガル語は完了の助動詞に ter/haver の両方を使える)。松平・国原『新ラテン文法』§450、パトータ『イタリア語の起源』邦訳 157–59 頁、山田ほか『中級スペイン文法』561, 571–72 頁。〕

10. 人間を体力の点でしのいでいる動物の数は多い。〔練 XIX 1. 6) と同文、XXI 1. 13) ともやや類似。〕

11. 春が近づくとハンニバルは軍勢を冬営陣から引き出した。〔練 XXII 5. 例と同文。〕

12. ハンニバルは敵の到着が知らされると陣営を撤収した。〔練 XXIII 1. 9) とほぼ同文。〕

13. キケローが執政官だったときにカティリーナの陰謀が暴かれた。〔練 XXII 6. 例とほぼ同文。〕

14. カエサルは彼の (麾下の) 全員が無傷のままクィーントゥス・キケローの陣営にたどりついた。〔所有形容詞の複数形 suī だけで「自分の仲間・味方・家族」などを表しうる (樋口・藤井『詳解ラテン文法』94 頁注 5)。原典は『ガリア戦記』V 巻 52 章 1 節改変。〕

15. 法務官は、カティリーナとともに国家を圧迫 [襲撃] しようとしていたケテーグスの家から、きわめて多数の短剣や剣を運び出した。

16. トロイアが攻略されてから 10 年後にウリクセース (=オデュッセウス) は祖国にたどりついた。〔練 XXV 6. 5) の前半と同文。〕

17. カエサルは兵士たちを労働へと励まして町を防柵で囲むことを始めた。

18. 木が倒されて倒れた、倒れながら倒す人を倒した。〔よく似ている他動詞 caedō, caedere, cecīdī, caesum「倒す」と自動詞 cadō, cadere, cecĭdī, cāsūrus「倒れる」が交錯するややこしい文。前半は主語 arbor に他動詞の完了受動分詞 caesa が同格+自動詞の完了時制 cecidit、後半は同じ主語に自動詞の現在能動分詞 cadēns が同格+他動詞の完了時制 cecīdit+その目的語として他動詞の現在能動分詞 caedentem の名詞的用法。〕

19. (彼は) 誰が助けることもなく (=誰の助けもなしに) これを成し遂げた。〔原典はキケロー『アントーニウス攻撃演説 (ピリッピカ)』第 10 演説 2 章。perfēcit は cōnfēcit の異読。〕

20. ガーイウス・スルピキウスとガーイウス・リキニウスが執政官のとき疫病があった。〔紀元前 364 年のこと。2 人の執政官の名前を結ぶのに et や -que はいらない (§84)。〕

作文


1. Prō amīcīs omnia patimur.

2. Rōmānī prō patriā, ubi nātī sunt, morī nōn cūnctantur.

3. Coniūrātī iūre damnātī sunt.

4. Nāvis frūmentō implēta ad ōram appropinquāvit.

5. Quiētā Galliā, Caesar in Italiam iter fēcit.〔『ガリア戦記』VII 巻 1 章 1 節 « Quiētā Galliā, Caesar, ut cōnstituerat, in Italiam ad conventūs agendōs proficīscitur. » を参考。〕

samedi 26 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (4)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 7 課と第 8 課の解答例。同じ著者による『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と似通った文がある場合気づいたかぎりで補足している;そのさい「同文」とは一字一句すべてが同じものだけを言い、「ほぼ同文」は動詞の時制や名詞の数、固有名詞、意味に違いを及ぼさない範囲の語順など、ごく細かい点が違っているときを指す (たとえば以下の第 7 課和訳 1. では人物の名前、4. では文頭に utrum があるかないかだけが違う)。それ以上に相違点のある場合は「類似」と称するが、それでも参考にできる程度には共通しているものを選んでいる。

目次リンク:第 1 課・第 2 課第 3 課・第 4 課第 5 課・第 6 課・第 7 課・第 8 課・第 9 課・第 10 課第 11 課・第 12 課第 13 課・第 14 課第 15 課・第 16 課第 17 課・第 18 課第 19 課


第 7 課


§33 練習


exercitus : exercitus, exercitūs, exercituī, exercitum, exercitū; exercitūs, exercituum, exercitibus, exercitūs, exercitibus.

genū : genū, genūs, genū, genū, genū; genua, genuum, genibus, genua, genibus.

spēs : spēs, speī, speī, spem, spē; spēs, (spērum), (spēbus), spēs, (spēbus).

faciēs : faciēs, faciēī, faciēī, faciem, faciē; faciēs, (faciērum), (faciēbus), faciēs, (faciēbus).

和訳


1. 君は何をするつもりか、クィーントゥスよ。―― 私は友人のマールクスを訪ねるつもりだ。〔『練習問題集』VI 1. 1) とほぼ同文。〕

2. 君は昨日森で散歩していたか。―― 森でではなく、川岸で散歩していた。〔練 VI 1. 5) と同文。〕

3. ローマの詩人たちのどんな名前が君たちになじみであるか。

4. マールクスは帰ってきたか否か。〔練 XXVIII 3. 9) とほぼ同文。〕

5. アレクサンデルは誰の生徒 [弟子] だったか。〔「どの生徒」ならば疑問形容詞は主格の quī discipulus でないといけない。〕

6. 市民たちの不和は国にとって妨げになるのではないか。

7. いったい市民たちの不和は国の役に立つだろうか。

8. 盗賊は服の下に持っていたナイフで商人たちを殺した。〔練 XX 7. 4) とほぼ同文。後発のそちらでは商人が単数の mercātōrem になっているが、さすがに 1 人の盗賊がナイフだけで複数の商人を殺すのは無理があると思って変更したのだろうか。〕

9. ダイダロスとイーカロスは、祖国へ船出することを許されていなかったので、翼を自分たちのために用意した。〔練 XII 4. 6) とほぼ同文。〕

10. 協調あるところにはつねに勝利あり。

11. 知恵において優れている者は国にとって役に立つだろう。〔この sapientiā は関係 (限定) の奪格だが、これは第 14 課 §64 まで説明されないので不親切。〕

12. 私は君が命じることはなんであれ行うつもりだ。

13. 私は君がそれであるところのものだった;君は私がそれであるところのものになるだろう。〔きわめて直訳調に訳したが、要するに「私は君だった、君は私になるだろう」で、墓碑銘に使われる文 (私=墓に眠る死者、君=それを読んでいる生者)。同義の « Tū fuī, ego eris. » の形のほうが有名かもしれない。〕

14. 黙っている者は同意しているものと見られる。〔知覚動詞構文 (対格不定法) を受動態にした形 (主格不定法) として説明できる。能動で「(私たちは) 彼が同意しているのを見る」は Eum cōnsentīre vidēmus. と書けるが、これを受動にすると Is cōnsentīre vidētur. となる。この is に関係文を付け加え is を消去すると問題の文になる。〕

15. 悪人たちを大目に見る者たちによって善人たちが害される。〔関係代名詞をわざとらしく直訳すれば、「その人によって悪人たちが大目に見られるところのその人によって〜」ということ。noceō, parcō ともに与格目的語をとるため非人称受動。能動文に直せば Quī malīs parcit, (is) bonīs nocet.〕

16. レーヌス (川) の向こうに住んでいたゲルマーニー人は、そのときガッリアにいたローマ人によって大いに恐れられていた。

17. 順境 (=順調な状況) においてのみならず、逆境においても私たちは友人たちへの誠実さを守る。〔練 XI 7. 1) とほぼ同文。〕

18. 友人たちに希望をかける者は、ときどき無駄に期待する (=期待が無駄になる)。〔この完了は普遍的現在の意味の格言的完了 (§20 B. [3]) ととるのがよいように思われる。〕

19. 祭日の日々の列 (=一連の祭日) をローマ人たちはフェーリアエ (休日) と呼んでいた。

20. 少年たちは喜んで戦功について聞く。〔rēs gestae「戦功、偉業」は文字どおりには「行われたこと」の意。〕

21. 港では大波の騒ぎが大きく、高い大波が船乗りたちの接近を妨げている。〔後半の flūctūs altī は単数属格にも複数主格にもとれるが、属格ととって「高波の接近を」とすると残る nautārum が浮いてしまう。それにしても portus, tumultus, flūctus, adventus と第 4 ばかり使ってこういう自然な文を作れるのはすごい。〕

22. 勝者は国家のすべての制度を変えた。

23. マールクス・ミヌキウス・ルーフスはクィーントゥス・ファビウス・マクシムスに名声の点で及ばなかった。〔この glōriā も限定の奪格。〕

24. 第二次ポエニー戦争のときルーキウス・アエミリウス・パウッルスとガーイウス・テレンティウス・ウァッローが執政官だった。

作文


1. Quid in tabulā vidētis?

2. Estne aegrōtus frāter tuus? ― Est.

3. Nōnne vōcem patris tuī audīvistī?

4. Procul nautae portum sinumque vidēbant [vīdērunt].〔未完了 vidēbant のほうが練 XI 4. 4) と同文。〕

5. Taurus duo cornua habet. / Taurō duo cornua sunt.〔後者のほうが日本語文に近いかもしれないが、所有者の与格 (第 13 課 §62) はまだ出てきていないのでいちおう別解とした。〕


第 8 課


§36 練習


cantō, cantāre, cantāvī, cantātum〔歌う〕

habeō, habēre, habuī, habitum〔持っている〕

lūdō, lūdere, lūsī, lūsum〔遊ぶ〕

faciō, facere, fēcī, factum〔する〕

vocō, vocāre, vocāvī, vocātum〔呼ぶ〕

legō, legere, lēgī, lēctum〔読む〕

stō, stāre, stetī, statum〔立っている〕

videō, vidēre, vīdī, vīsum〔見る〕

rīdeō, rīdēre, rīsī, rīsum〔笑う〕

agō, agere, ēgī, āctum〔追う〕

tangō, tangere, tetigī, tāctum〔触れる〕

iaciō, iacere, iēcī, iactum〔投げる〕

veniō, venīre, vēnī, ventum〔来る〕

sentiō, sentīre, sēnsī, sēnsum〔感ずる〕

§41 練習


clārus, clārē〔はっきりと〕。miser, miserē〔悲惨に〕。aeger, aegrē〔かろうじて〕。celer, celeriter〔速く〕。sapiēns, sapienter〔賢明に〕。brevis, breviter〔簡潔に〕。

和訳


1. カエサルは包囲をやめることを強いられた。〔obsidiōne は dēsistō の奪格目的語。〕

2. 多くの人が競技を見物するために劇場へ行った。〔『練習問題集』XXV 4. 1) と同文。〕

3. ギリシア人たちによって攻撃されたトロイアの記憶を詩人ホメーロスが私たちのために保存した。

4. たいていのことは言うに易しいが行うに難い。〔plēraque が中性複数の主語。練 XXV 4. 3) に類似。〕

5. キケローは執政官として選ばれた。

6. 嫉妬心が君たちによって克服されるまでは、君たちは幸福にはならないだろう。

7. その友人が大きな危険から救われたところの少年は神々に感謝していた。〔dīs は deus の複数与格の別形。cf. §11 [4].  この文は練 XII 4. 2) とほぼ同文だが、そちらでは主文がそのままで副文の動詞だけが受動態過去完了でなく完了 servātus est に変わっている。過去完了のほうが前後関係がはっきりしそうだが、どちらも同じ意味で言えるのだろうか。〕

8. マールクスよ、詩人ウェルギリウスの本を読め。

9. あまりに大きなものは避けるべし;小さなもので喜ぶことを忘れるべからず。

10. 兄に母の病気について (手紙を) 書くか、もしくは彼に知らせを送れ。

11. この手紙を君の父に持っていけ。

12. 正しいことを行い、本当のことを言え。〔rēctum は regō「支配する」の目的分詞・完了受動分詞とも同形でまぎらわしいが、ここは rēctus「正しい」の中性単数主格。〕

13. 黄金時代には地 (上) の住民たちは幸福に暮らしていた。〔練 XV 4. 3) とほぼ同文、XVI 8. 4) とも類似。〕

14. ソローンは商人として多くの国を知っていた。〔練 XVII 2. 4) とほぼ同文。mercātor は述語的同格。cognōverat は過去完了だが、完了 cognōvī が「知っている」という現在の意味 (§20 B. [2]) であるように、これは過去の意味。〕

15. すべての生徒たちが無傷で (=無事に) 川を泳ぎ渡った。

16. マールクスよ、君は上手に書く、だがルーキウスよ、君は下手に (書く)。〔練 XV 4. 5) とほぼ同文。〕

17. 奴隷たちは主人たちによってしばしば残酷に罰せられていた。〔練 XVIII 5. 9) と同文。〕

18. カエサルが最初にローマの軍勢をブリタンニアに渡らせた。

19. 使者たちは悲しみながら来たが、喜びながら去った。

作文


1. Medicīna ā medicō parāta est.

2. Haec mīrābilia audītū sunt.

3. Et animum et corpus exercē!〔練 XIX 6. 1) に類似。〕

4. Puerī puellaeque pulchrē cantāvērunt.〔練 XV 4. 4) とほぼ同文。〕

5. Frāter epistulam mātris prīmus lēgit.〔練 17 課 2 節の例文とほぼ同文。〕

vendredi 25 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (3)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 5 課と第 6 課の解答例。問題には同じ著者による解答つきの『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と同じ文が多くあるので、私がそれを見つけている場合は答えを全面的に信用してよい。といってもその答えを丸写ししているわけではなく、理解したうえで愚直な逐語訳にして学習者が検討しやすいように努めている。

目次リンク:第 1 課・第 2 課第 3 課・第 4 課・第 5 課・第 6 課・第 7 課・第 8 課第 9 課・第 10 課第 11 課・第 12 課第 13 課・第 14 課第 15 課・第 16 課第 17 課・第 18 課第 19 課


第 5 課


§22 練習


fleō : 完了 flēvī, flēvistī, flēvit, flēvimus, flēvistis, flēvērunt; 過去完了 flēveram, flēverās, flēverat, flēverāmus, flēverātis, flēverant; 未来完了 flēverō, flēveris, flēverit, flēverimus, flēveritis, flēverint.〔第 2 活用、v 完了〕

pōnō : 完了 posuī, posuistī, posuit, posuimus, posuistis, posuērunt; 以下、過去完了と未来完了は省略。〔第 3 活用、u 完了〕

videō : 完了 vīdī, vīdistī, vīdit, vīdimus, vīdistis, vīdērunt.〔第 2 活用、母音延長完了〕

currō : 完了 cucurrī, cucurristī, cucurrit, cucurrimus, cucurristis, cucurrērunt.〔第 3 活用、子音重複完了〕

scrībō : 完了 scrīpsī, scrīpsistī, scrīpsit, scrīpsimus, scrīpsistis, scrīpsērunt.〔第 3 活用、s 完了〕

sum : 完了 fuī, fuistī, fuit, fuimus, fuistis, fuērunt; 過去完了 fueram, fuerās, fuerat, fuerāmus, fuerātis, fuerant; 未来完了 fuerō, fueris, fuerit, fuerimus, fueritis, fuerint.〔不規則活用〕

eō : 完了 iī, īstī, iit, īmus, īstis, iērunt; 過去完了 ieram, ierās, ierat, ierāmus, ierātis, ierant; 未来完了 ierō, ieris, ierit, ierimus, ieritis, ierint.〔不規則活用〕

ferō : 完了 tulī, tulistī, tulit, tulimus, tulistis, tulērunt; 過去完了 tuleram, tulerās, ...〔不規則活用〕

§23 練習


celer : 単主 celer + celeris + celere, 属 celeris, 与 celerī, 対 celerem + celere, 奪 celerī; 複主 celerēs + celeria, 属 celerium, 与 celeribus, 対 celerēs/īs + celeria, 奪 celeribus.

difficilis : difficilis + difficile, difficilis, difficilī, difficilem + difficile, difficilī; difficilēs + difficilia, difficilium, difficilibus, difficilēs/īs + difficilia, difficilibus.

sapiēns : sapiēns, sapientis, sapientī, sapientem + sapiēns, sapientī/e; sapientēs + sapientia, sapientium, sapientibus, sapientēs/īs + sapientia, sapientibus.

和訳


1. (かつて) 富を持っていたのに (いまは) 持っていないのはつらいことだ。〔『練習問題集』VII 4. 2) と同文。〕

2. 父は小さい息子を肩で (=に乗せて) 庭へ運んだ。〔練 XXIV 1. 8) と同文。〕

3. 勝利者の兵士たちは捕虜たちを花冠の下で (=奴隷として) 売った。捕虜たちは花冠の下で (=奴隷として) 売られた。〔練 XXIV 3. 13) と同文。〕

4. 私はブリタンニア人の風習・制度・法律を知っている。〔練 XXVIII 1. 1) の前半と部分的に一致。〕

5. 私は君たちのことをいつまでも覚えているだろう。

6. 私は君を非難する、なぜなら君は友人たちを嘲笑することをやめなかったから。

7. ギリシア人たちは、トロイアの町に侵入するや否や、建物に放火し人々を殺した。

8. 私たちは以前にいちどもいた (=行った) ことがなかったところに今日いた (=行った)。〔完了時制 fuimus の意味は、§20 B. [2] の説明を参考にすれば、今日行ったけれどもいまはすでにいないことを含意しそうである (だとすれば「来た」は不適切)。松平・国原『新ラテン文法』§219 の言いかたでは「話している時に,すでに終っている動作」。〕

9. まもなく私は長い手紙を書き終えるだろう。

10. 私は速く行ったにもかかわらず、友人に援助をもたらす (=友人を助ける) ことができなかった。

11. 少年たちは広場へ走っていった。〔練 XVI 1. 8) と同文。〕

12. 船乗りたちはパロス (島) に近づいていた。これほど大きな塔は彼らのうちの誰もそれ以前に見たことがなかった。〔練 XVIII 6. 3) と同文。〕

13. 明日君たちはどこへ行くのか。―― 明日私たちはアテーナイへ行く。

14. 君たちの伯父はどこに住んでいるか。―― 彼はメディオーラーヌムに住んでいる。〔練 XXVI 1. 3) と類似。〕

15. 君たちはどこから帰ったのか。―― 私たちはネアーポリスから帰った。

16. 父は家に留まっていない;家から出て息子を迎えに行く。すぐに息子とともに家に帰ってくるだろう。〔練 XXVI 1. 7) の後半とほぼ同文。〕

17. 裕福な人は貧しい人に古い衣服を与える。〔練 XVI 4. 2) と類似。〕

18. すべての動物は死すべきものである。〔練 XVIII 1. 9) と同文。〕

19. ギリシアは大胆な船乗りたちと慎重な商人たちの祖国であった。

20. 激しい悲しみはたいてい短いものだ。

作文


1. Dīvēs nōn semper beātī [fēlīcēs] sunt.

2. Hodiē domī nōn sum.

3. Incolae oppidī multās turrīs exstrūxērunt [aedificāvērunt].〔練 XVII 5. 2) と同文。〕

4. Ea verba neque dīxī neque scrīpsī.

5. Ubi prīmum librum lēgerō, domō exībō.


第 6 課


§27 練習


vocō (1) : 現在 vocor, vocāris, vocātur, vocāmur, vocāminī, vocantur; 未完了 vocābar, vocābāris, vocābātur, vocābāmur, vocābāminī, vocābantur; 未来 vocābor, vocāberis, vocābitur, vocābimur, vocābiminī, vocābuntur.

habeō (2) : 現在 habeor, habēris, habētur, habēmur, habēminī, habentur; 未完了 habēbar, habēbāris, habēbātur, habēbāmur, habēbāminī, habēbantur; 未来 habēbor, habēberis, habēbitur, habēbimur, habēbiminī, habēbuntur.

legō (3) : 現在 legor, legeris, legitur, legimur, legiminī, leguntur; 未完了 legēbar, legēbāris, legēbātur, legēbāmur, legēbāminī, legēbantur; 未来 legar, legēris, legētur, legēmur, legēminī, legentur.

capiō (3b) : 現在 capior, caperis, capitur, capimur, capiminī, capiuntur; 未完了 capiēbar, capiēbāris, capiēbātur, capiēbāmur, capiēbāminī, capiēbantur; 未来 capiar, capiēris, capiētur, capiēmur, capiēminī, capientur.

ferō : 現在 feror, ferris, fertur, ferimur, feriminī, feruntur; 未完了 ferēbar, ferēbāris, ferēbātur, ferēbāmur, ferēbāminī, ferēbantur; 未来 ferar, ferēris, ferētur, ferēmur, ferēminī, ferentur.

和訳


1. マールクスはルーキウスと同じ労苦を耐えている。〔『練習問題集』XV 1. 3) と類似。〕

2. この本の物語は私たちの気に入り、あの (本の物語) は気に入らない。〔練 XVII 4. 2) と同文。〕

3. 君のもっとも近い者 (=隣人) を君自身と同じように尊重しなさい。〔2 人称の未来時制は命令も意味する。cf. §18〕

4. 先生自身が私を助けてくれるだろう。

5. その (=君の) 助言に私たちは従わないだろう。

6. この馬は速いと同時に (=速いだけでなく) 美しい。

7. ハンニバルとスキーピオーは有名である:後者はローマ人、前者はカルタゴ人である。

8. 兵士たちはまさに城壁の下に立っている。

9. 君の高慢な言葉で私は怖がらないし怖がるつもりもない。

10. ローマ人たちによってメルクリウスは神々の使者と呼ばれていた。

11. 多くのローマ人たちの子どもたちがギリシア人の奴隷たちによって教育されていた。〔līberī は複数しかない名詞「子どもたち」。multōrum Rōmānōrum は複数属格なので、子どもたちを修飾する形容詞ではない。もちろんローマ市民の子はローマ市民だし、親が大人数なら子もそれ以上なので同じ結果になるだろうが、それはそれとして構文解析をあやふやにしてはならない。〕

12. いつ広場に行かれる (=行くことがなされる) のか。〔ībitur は eō の直説法受動態未来 3 人称単数で非人称受動。われわれあるいは人が広場に行くことになるのはいつか、という質問。練 XXIV 3. 4) とほぼ同文、そちらでは時制のみ完了 itum est で「いつ中央広場へ行ったのか」と訳されている。〕

13. シキリアはすべての方向から [を] 海で取り巻かれている。〔partibus < pars は「部分」だけでなく「方向、方面」の意味もあることに注意。marī < mare が手段の奪格。泉井『ラテン広文典』§395 に同文あり。〕

14. 戦いでは多くの人が捕まり、多くの人が殺される。

15. 冬には牛たちは家畜小屋に連れていかれる。

16. ガーイウスは君たちから謙虚だと思われている。〔Gāius は母音間に i があるが、短母音と半母音 2 つのガイユス Gaj-jus ではなく、i が母音でガーイウス Gā-i-us と読む例外 (風間『ラテン語・その形と心』25 頁、田中『ラテン語初歩』§9)。〕

17. 詩を読むことで心配は減らされるだろう。〔carminum は複数属格で目的語的属格、cūrae が複数主格で文の主語。〕

18. 誠実な友人たちから愛されることは喜ばしい。

19. オリュンピアの勝者たちはオリーブの枝で飾られたものだった。その褒美を多くのギリシアの青年たちが望んでいた。〔後半は id praemium が中性単数対格の目的語、主語は adulēscentēs。〕

20. 決して君は私たちから妬まれないだろう。〔練 XXVII 1. 6) と同文。invideō「妬む」は与格目的語をとる動詞で、それが受動態になっても妬まれる tibi は与格のままである。能動態に直すと Numquam tibi invidēbimus.〕

作文


1. Hic liber nōbīs placet, ille displicet.〔練 XVII 4. 1) と同文。〕

2. Difficile est sē ipsum nōscere.

3. Quotannīs ā Rōmānīs [ā populō Rōmānō] duo cōnsulēs creābantur [dēligēbantur].〔練 XIII 4. 2) と同文。〕

4. Amīcī magnō ex perīculō servābuntur.

5. (Tū) Lūcius ā nōbīs vocāris.

jeudi 24 septembre 2020

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (2)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 3 課と第 4 課の解答例。ここでは学習者が答えを照合しやすいよう可能なかぎりの直訳を意図している。問題には同じ著者による『ラテン語練習問題集』(白水社、1995 年、新装版 2009 年) と類似あるいはまったく同じ文がしばしば登場するので、私が気づいたかぎりでクロスリファレンスを指示していくことにする (2 回め以降「練」と略記する)。この『問題集』はとてもいい本で、本書よりもいくぶんか易しいし質・量ともに十分なトレーニングになるので、真剣にラテン語を学習したい人、そして『標準』のほうがやや厳しいと感じている人にはとくにおすすめできる。

目次リンク:第 1 課・第 2 課・第 3 課・第 4 課・第 5 課・第 6 課第 7 課・第 8 課第 9 課・第 10 課第 11 課・第 12 課第 13 課・第 14 課第 15 課・第 16 課第 17 課・第 18 課第 19 課


第 3 課


§13 練習


magnus : 男単 magnus, (呼格 magne), magnī, magnō, magnum, magnō; 複 magnī, magnōrum, magnīs, magnōs, magnīs; 女単 magna, magnae, magnae, magnam, magnā; 複 magnae, magnārum, magnīs, magnās, magnīs; 中単 magnum, magnī, magnō, magnum, magnō; 複 magna, magnōrum, magnīs, magna, magnīs.

残りはほぼ違いはないため省略。ただし meus の男性単数呼格は mee でなく mī であることだけ注意 (このことは第 2 課 §11 [3] で出てきている)。

和訳


1. ローマとウェローナは有名な都市である。

2. 歌うことは楽しい。〔動詞の不定法を名詞として扱う場合は中性単数。cf. 松平・国原『新ラテン文法』§499。この文は『練習問題集』II 10. 4) とほぼ同文。〕

3. 多くの人たちがギリシアとローマの詩人たちを愛している。

4. 詩人は小さいデーロス島と大きいロドス島を訪れる。〔練 III 5. 4) とほぼ同文。〕

5. 大洋は船乗りたちを多くの危険で脅かす。〔練 III 7. 6) とほぼ同文。〕

6. 農夫たちの富は大きい。〔練 IV 3. 2) と同文。〕

7. 先生は生徒に美しい本を贈る。〔dōnō には対格の人に奪格の物を与えるという語法もある。これは英語の present, provide, equip などの動詞が、与える・提供する相手の人を直接目的語=対格に、物を with 前置詞句=奪格に置くのとよく似ている。〕

8. 奴隷たちの生活は悲惨である。

9. 私たちは危険なしに川を右岸から左岸へ泳ぎきる。

10. 祖父は多くの美しい物語を語ることができる。〔練 XIII 2. 1) と同文。〕

11. 詩人たちは楽しませるか役に立つかする。

12. 子犬が食卓の下へ走りこむ。

13. 先生は生徒たちとともにローマの詩人たちと哲学者たちについての話を読む。

14. 少年たちは高い壁から下り、野へ走っていく。

15. 主人は奴隷たちの怠惰のために激怒する。

16. 少年たちは小舟で川を渡る。

17. 農夫は自分の娘にだけでなく隣人の娘にも果物を与える。〔練 IV 11. 1) とほぼ同文。〕

18. 私たちの友人たちは危険を私たちから遠ざける。

19. 君たちの援助は私たちの役に立つ。〔練 XIII 1. 1) と同文。〕

20. それらの言葉は彼 [彼女] にとって楽しい。

21. 君たちのうちの誰がアウグストゥスについて語るか。〔部分 (配分) の属格。〕

22. 私たちは君たちとともに神々に懇願する。

作文


1. Rōma oppidum magnum clārumque est.

2. Avus puerō librum novum [puerum librō novō] dōnat.

3. Poētae nōbīs pulchrās fābulās narrāre possunt.〔形容詞の前置は和訳の 10. に倣った語順。〕

4. Tibi librum dō.

5. Cum eā lūdō.〔eō, eā は人称・再帰代名詞ではないので eācum のようにはならない。〕


第 4 課


§18 練習


cantō : 未完了過去 cantābam, cantābās, cantābat, cantābāmus, cantābātis, cantābant; 未来 cantābō, cantābis, cantābit, cantābimus, cantābitis, cantābunt.

habeō : 未完了過去 habēbam, habēbās, habēbat, habēbāmus, habēbātis, habēbant; 未来 habēbō, habēbis, habēbit, habēbimus, habēbitis, habēbunt.

lūdō : 未完了過去 lūdēbam, lūdēbās, lūdēbat, lūdēbāmus, lūdēbātis, lūdēbant; 未来 lūdam, lūdēs, lūdet, lūdēmus, lūdētis, lūdent.

faciō : 未完了過去 faciēbam, faciēbās, faciēbat, faciēbāmus, faciēbātis, faciēbant; 未来 faciam, faciēs, faciet, faciēmus, faciētis, facient.

veniō : 未完了過去 veniēbam, veniēbās, veniēbat, veniēbāmus, veniēbātis, veniēbant; 未来 veniam, veniēs, veniet, veniēmus, veniētis, venient.

adsum : 未完了過去 aderam, aderās, aderat, aderāmus, aderātis, aderant; 未来 aderō, aderis, aderit, aderimus, aderitis, aderunt.

redeō : 未完了過去 redībam, redībās, redībat, redībāmus, redībātis, redībant; 未来 redībō, redībis, redībit, redībimus, redībitis, redībunt.

練習


pēs : pēs, pedis, pedī, pedem, pede; pedēs, pedum, pedibus, pedēs, pedibus.〔m. 足〕

nātiō : nātiō, nātiōnis, nātiōnī, nātiōnem, nātiōne; nātiōnēs, nātiōnum, nātiōnibus, nātiōnēs, nātiōnibus.〔f. 民族〕

corpus : corpus, corporis, corporī, corpus, corpore; corpora, corporum, corporibus, corpora, corporibus.〔n. 体〕

iter : iter, itineris, itinerī, iter, itinere; itinera, itinerum, itineribus, itinera, itineribus.〔n. 道〕

pater : pater, patris, patrī, patrem, patre; patrēs, patrum, patribus, patrēs, patribus.〔m. 父〕

senex : senex, senis, senī, senem, sene; senēs, senum, senibus, senēs, senibus.〔m.f. 老人〕

puppis : puppis, puppis, puppī, puppim, puppī; puppēs, puppium, puppibus, puppīs/ēs, puppibus.〔f. 船尾〕

exemplar : exemplar, exemplāris, exemplārī, exemplar, exemplārī; exemplāria, exemplārium, exemplāribus, exemplāria, exemplāribus.〔n. 見本〕

animal : animal, animālis, animālī, animal, animālī; animālia, animālium, animālibus, animālia, animālibus.〔n. 動物〕

fīnis : fīnis, fīnis, fīnī, fīnem, fīne; fīnēs, fīnium, fīnibus, fīnēs/īs, fīnibus.〔m. 終わり〕

nox : nox, noctis, noctī, noctem, nocte; noctēs, noctium, noctibus, noctēs/īs, noctibus.〔f. 夜〕

mōns : mōns, montis, montī, montem, monte; montēs, montium, montibus, montēs/īs, montibus.〔m. 山〕

和訳


1. 私の友人たちは農夫たちの勤勉さを褒めるだろう。

2. 奴隷たちの生活は悲惨であった。〔『練習問題集』V 3. 3) とほぼ同文。前の課の和訳 8. を未完了過去にしたもの。〕

3. 私たちはしばしば君たちに問うていた;君たちはいつも私たちに答えていた。〔練 VI 1. 9) とほぼ同文。〕

4. 主人は野生の馬を飼いならすことができるだろう。〔練 XIII 2. 4) と同文。〕

5. 明日ふたたび学校へ行き、多くのことを学びなさい。〔2 人称の未来は命令の意味がある (§18)。〕

6. 君たちの援助は私たちの役に立つだろう。〔前の課の和訳 19. を未来時制にしたもの。〕

7. ローマ人たちは多くの神と女神をもっていた;彼らは神々の神殿を金や銀で飾っていた。

8. 奴隷たちは多くの苦労と苦痛に耐えていた。〔練 XIII 6. 1) と同文。〕

9. 正義は判事の最高の義務である。〔練 XIII 3. 8) と同文。〕

10. (以下のような) ことわざがある:人間は人間にとって狼である。しかし私たちは人間のなかに人間を見ることに努めるだろう。〔前半は練 XIII 9. 4) と同文。〕

11. 船乗りたちは遠くに高い塔を見ていた;塔の中では炎が燃えていた。〔練 XVII 5. 1) を短く簡単にしたもの。XVIII 6. 2) にも類似。「塔の上で」と訳してもいいと思うが、そちらの 2 文の解答に倣った。〕

12. 古代には人間は深い海を恐れ、海岸のそばを航海していたものだった。〔altus は「高い」と「深い」を兼ねる、要するに鉛直方向に距離が大きいということか。現代語でもフランス語 haut やイタリア語 alto にはそれが残る:たとえば仏で haute montagne は「高い山」だが haute mer はもちろん「高い海」ではなく「沖合、遠洋」つまり「深い海」のこと。シュペルヴィエルの『沖の小娘』は水深 6 000 メートルの haut Atlantique の上に住んでいる。〕

13. 父たちと母たちの心配は大きい。〔練 XIII 8. 4) と同文。〕

14. 敵たちは市民たちの甚大な殺戮を行う。

15. 犬は骨を口で保持している (=くわえている)。〔os, ossis, n.「骨」と ōs, ōris, n.「口」の違いを学ばせようとする意図が明白。〕

16. アテーナイの町では学芸と文学が栄えており、ローマの町では法学が (栄えていた)。〔iūs と lēx はどちらも「法、法律」であり、「法と法の学」としたのでは違いがよくわからないが、水谷『羅和辞典』の語釈を見比べた感じでは iūs のほうが抽象的、lēx が具体的な法文・条文という印象を受けた (法哲学と実定法学のような?)。じっさいこの文では iūris が単数属格であるのに対し lēgum は複数属格である。だがさほどはっきりした違いはないかもしれない。なお本問は練 III 7. 8) と類似だが、そちらでは後半が「コリントスは富で」なので参考にはならない。〕

作文


1. Amīcī epistulam [litterās] legēbant.

2. Agricola cum servīs suīs frūmentum in urbem feret.

3. Pulchritūdō maris [marium] multōs dēlectat.

4. Lēgātī nūntium pācis afferunt.〔練 XXIV 2. 3) の前半とほぼ同文。〕

5. Vēre multī flōrēs flōrent.

中山『標準ラテン文法』練習問題解答 (1)

中山恒夫『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) 第 1 課と第 2 課の解答例。この本は全国の大学等で教科書としてよく使われているためか、すでに二三の同様のブログ記事が見つかるので屋上屋を架すの感も免れないが、いずれもすべての課をカバーはしていないうえ、私じしんも含めてみな所詮は学習者による試みであるから、間違いのクロスチェックのためにも複数あることは無駄ではなかろう。また、語形変化の練習とラテン語作文の問題はどのサイトも飛ばしているようなのでこの点はこのブログの独自色である。

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第 1 課


§6 練習


cantō (1) : cantō, cantās, cantat, cantāmus, cantātis, cantant; 不定法 cantāre.

habeō (2) : habeō, habēs, habet, habēmus, habētis, habent; habēre.

lūdō (3) : lūdō, lūdis, lūdit, lūdimus, lūditis, lūdunt; lūdere.

faciō (3b) : faciō, facis, facit, facimus, facitis, faciunt; facere.

veniō (4) : veniō, venīs, venit, venīmus, venītis, veniunt; venīre.

和訳


〔以下、現在形の動詞は文脈によって現在進行 (〜ている) のようにも訳せる。「『……する』か,『……している』かは文脈で判断することになる」(田中『ラテン語初歩』§28)。〕

1. 彼らは歌い笑う。

2. 私は書くのではなく読む。

3. 彼らは歌うだけでなく上手に踊りもする。

4. 君は読みも書きもしない。

5. 彼らは働くか遊ぶかする。

6. 君は黙っているが泣いていない。

7. 誰が歌い笑っているか。

8. 笑うことは許されていない。〔licet が 3 人称単数なのは不定法 rīdēre が主語の非人称表現。cf. 松平・国原『新ラテン文法』§539.〕

9. なぜ君たちは眠らないのか。

10. いつ君たちは歌うのか。―― 今日は私たちは歌わない。

作文


1. Nōn modo legit, sed etiam scrībit.

2. Neque flent neque rīdent.

3. Cūr nōn saltātis?

4. Hodiē nōn labōrō.

5. Tacēs et ambulās.


第 2 課


練習


〔主 (呼) 属与対奪の順。呼格は主格と異なる場合のみ括弧書きし、同じ場合は省略した。〕

puella : puella, puellae, puellae, puellam, puellā; puellae, puellārum, puellīs, puellās, puellīs.

poēta : poēta, poētae, poētae, poētam, poētā; poētae, poētārum, poētīs, poētās, poētīs.

discipulus : discipulus, (discipule), discipulī, discipulō, discipulum, discipulō; discipulī, discipulōrum, discipulīs, discipulōs, discipulīs.

fīlius : fīlius, (fīlī), fīliī (約音化 fīlī), fīliō, fīlium, fīliō; fīliī, fīliōrum, fīliīs, fīliōs, fīliīs.

gener : gener, generī, generō, generum, generō; generī, generōrum, generīs, generōs, generīs.

magister : magister, magistrī, magistrō, magistrum, magistrō; magistrī, magistrōrum, magistrīs, magistrōs, magistrīs.

和訳


1. 詩人は娘に物語を語る。

2. 詩人たちの物語は少女たちの気に入る。

3. 詩人は少女たちに物語によって喜びを与える。

4. 少女たちは詩人たちを愛し詩人たちの物語を記憶せねばならない。

5. 君たちはどこへ行くのか。

6. 農夫の娘はこちらへバラを運ぶ。

7. ブリタンニアとシキリアは島である。

8. 私は考える、ゆえに私はある。

9. 生きることは戦うことである。

10. 祖父は少年にしばしば物語を語る;すると少年はとても喜ぶ。

11. なぜ君は本を読まないのか、マールクスよ。

12. 君たちは友人たちに援助をもたらす。

13. 少女は庭を彫像で飾る。

14. 生徒たちは先生の言葉に喜んで従う。

15. 奴隷たちは主人たちの命令に従う、主人たちを愛しているためか、罰を恐れているためかで。

作文


1. Magister discipulō librum dat.

2. Epistula poētae fīliae placet.〔手紙を litterae とする場合は動詞は 3 複 placent。気に入る人が与格で、気に入られる物が主格の主語のため。このことは現代語、たとえばフランス語 plaire やイタリア語 piacere でも同様。〕

3. Fīlia poētae hūc rosās [rosam] fert.

4. Puella fābulam agricolae memoriā tenet.

5. Quō īs?〔この問題文を見ると、ヨハネ 13:36 (ギリシア語 ποῦ ὑπάγεις; の訳) に由来しシェンキェーヴィチによる歴史小説のタイトルとしてもよく知られている Quō vādis? を思いつきやすいだろうが、この動詞 vādō は本書付属の単語集に載っていないので使わなかった。〕

mercredi 23 septembre 2020

中山『ラテン語練習問題集』の難所および疑問点 (第 21 課から)

前回の記事の続きで、中山恒夫『ラテン語練習問題集』(白水社、1995、新装版 2009) を最後まで解き終わったので、第 21 課以降で私が引っかかった箇所や誤記と思われる箇所について覚え書きを残しておく。


練習問題 XXI


1. 3) eō は指示代名詞 is の男性単数奪格で、quod adest の先行詞となり原因の奪格。

1. 12) « G. (= Gāius) Iūlius Caesar » とあるが、イニシャルで書く場合は C. の間違い (cf. 第 16 課 5 節、練習問題 XIX 3. 1).)。

1. 14) 問題文の pugnāvērunt は語幹の ū にマクロンが欠けている……と思ったが、べつの本では pugnō だったりする。だがこの本の単語集では pūgnō で立項されているし、これまでの説明や問題文 (たとえば第 8 課 6 節、練習問題 VIII 4. 8) などなど。また練習問題 X 4. 3) などにおける expūgnō も同様) も一貫してそうだったはずである。

2. 4) 問題文は vēre「春に」なのに解答の訳が「夏に」になっている。

2. 20) « Fugientēs urbibus receptī sunt. »「逃げる人々は町々に迎え入れられた」。私は奪格 urbibus を「町々から」と思いこんだのと、単語集で recipiō が「取り戻す」の語義しか載っていなかったこともあいまって、「町から逃げる人々は取り戻された=ふたたび捕まった」のかと考えた。このように読むには ab urbibus と前置詞が必要だろうか?

5. 9) « Discite, dum occāsiō discendī est ! » いちおう est を選んで正解はしたが、選択肢にある未来 erit は絶対にだめなのだろうか? 「学ぶ機会があるかぎりずっと」でも通りそうなものだが。

練習問題 XXII


2. 4) および 5) 接続法の時制の使いかたがどうもわからない。ut 節には完了は来ないのだろうか? 「順風がなかった」(前半が過去完了) とか「橋はきわめて早く完成した」(前半は完了) とか一回的なできごとなので、過去完了や完了だと思って habuisset, perfectus sit と書いてしまったが、正解はどちらも接続法未完了 habēret, perficerētur だった。未完了が過去の同時性であることは当然わかるが、とくに後者はアスペクト的に腑に落ちない。

5. 例.cōpiās の o にマクロンがついていない。

7. 4) 例および残りの 4 問のように主文の主語を奪格にするのではないところが難しい。かならず主文の主語をそうするのかと思って、完了受動分詞で Lēgātō ā nūllō hoste prohibitō と書いたが、そうすると後半の動詞 potuit が浮いてしまう。しかしこれも不定の 3 人称複数 potuērunt に変えればいけるだろうか?(文意からして不定主語は不可能?)

練習問題 XXIII


2. 1) ここまでずいぶん類題をこなしてきたが、そもそもこの分詞構文などに書きかえよという問題ではどれくらい同じ意味・ニュアンスが保たれているのか、解答集には書きかえ前の訳文しか載っていないのでわからない。書きかえられるということはもちろんおおむね同義のはずだが、今回の問題は本当にそうなのか疑わしい。« Carthāginiēnsēs, quamquam pācem petīverant, impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » に対して « Carthāginiēnsēs pāce petītā impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » というのが模範解答だが、前者では「講和」を求めているのは明らかにカルタゴ人であるのに対し、後者の「講和が求められていながら」という絶対奪格からは、講和を求めていたのがカルタゴ人だったことが本当に読みとれるだろうか。この後者の文だけを切りとって見ると、むしろローマ側もしくは不定一般の世論によって平和が求められているところをカルタゴ人が一方的に攻撃したような感じを受けないか。もしそうだとすればこの書きかえという問題はどうして可能になるか。

5. 例.書きかえ後の fīliī が書きかえ前では filiī となっている (マクロン欠)。

6. 3) および 7) 解答が ut ... nōn になっているが、願望文や目的文が否定の場合 nē を使うのではなかったのか?(cf. 第 9 課 4, 6 節)

練習問題 XXIV


2. 2, 6, 7) 問題がこのとおりならば、対応する第 24 課 2 節 (ferō の複合語) の説明がよくない。その節では 2) に現れる intulit < īnferō が一覧から漏れているほか、differō には「延ばす」、cōnferō は「比べる」の語義が与えられているところ、問題では「異なる」および「集める」の意味で使われている (cōnferō は 9) では「比べる」の意味に使われているからまだしも、differō「延ばす」はこの練習問題 XXIV 全体を通してどこにもない)。ついでに 7) の問題文で ūnum のマクロンが欠けている。

3. 8) ラテン語がわかるだけでは解けない問題。というのは aestāte exeunte「夏の終わりに」と ineunte vēre「春の初めに」の現在分詞を入れる空欄は、交換して「夏の初めに」「春の終わりに」のように埋めても文法的に成り立つから。一方で動詞 abit と redeunt の欄は主語の数 (magna avium pars の単数と omnēs の複数) が異なるためちゃんと決まるのでよい。

4. 2) metuī は第 4 変化名詞 metus, -ūs, m.「恐怖」の与格と同形だが、そうではなくここは動詞 metuo, -ere, -uī「恐れる」の不定法受動態現在である (直説法能動態完了 1 単とも同形でたいへんややこしい)。

4. 8) « cum nōlueris, nōn potuistī. »「欲しなかったからできなかったのだ」は理由の cum なので接続法完了 (第 10 課 3 節)。

5. 2) 解答の訳文が「ぼくは」となっているが、faciēmus (直・能・未来 1 複) なので「ぼくたちは」。

5. 3) 問題文 fīliī のマクロン 1 つ欠 (解答のほうは正しい)。

練習問題 XXV


1. 8) ここが初出でもないのでいまさら書くことではないのだが、いま気づいたので。単語集で「flūmen, -imis, n. 川,流れ」となっているが、これでは属格が *flūmimis になってしまう。-inis の誤植。

練習問題 XXVI


3. 2) 問題文 longitūdinem のマクロン欠。

4. 3) 問題の指示が直説法未完了過去だったので patiēbantur と書いたのだが、解答が paterentur (接続法未完了過去) になっていた。これは解答の誤り。

5. 3) fēceris は直説法未来完了ではなく接続法完了、間接疑問のため (第 25 課 4 節)。

9. 1, 2, 3)「主格を属格か奪格のどちらかに変えなさい」という問題で、問題文の括弧内は単数なのに解答は複数になっている。4) と 5) では括弧内が複数主格の dīvitiae, iniūriae になっているとおり、数を変えろとは書かれていないのだから問題文を複数に直すべき。

9. 2) Nē glōriātus sīs は接続法完了だが、この完了は禁止の言いかたであって過去の意味はない (第 24 課 6 節。また松平・国原『新ラテン文法』§613 によればこれは nōlī + 不定法現在に比べてより強制的なニュアンスという)。

練習問題 XXVII


2. 5) « Caesar metuit, nē hostēs noctū ex oppidō (profugere). » の動詞を適切な時制の接続法に変えよという問題。だが主文の動詞 metuit は 3 単では直説法現在と完了が同形であり、そのうえ文意から副文は同時でも以前でも成りたつため、4 通りの答えが可能のように思われる:つまりカエサルは敵が夜のうちに町から「逃げないかと恐れる/恐れた」「逃げてしまったのでないかと恐れる/恐れた」、順に接続法現在 profugiant, 未完了過去 profugerent, 完了 profūgerint, 過去完了 profūgissent。ちなみに模範解答は 2 番めで私も正解したが、それは前問までの流れから見て未完了を書かせたいだろうなという忖度による。

3. 4) 問題・解答ともに mīlle のマクロン欠。

5. 5) ヘルウェーティイー族とゲルマーニー人の 2 民族が出てくるが、日本語ではどちらも「彼ら」と訳しうる代名詞のうち、指示代名詞の eōs, eōrum は一貫して G. のほうを指し、文の主語である H. は再帰所有形容詞 suīs か強意代名詞 ipsī で受けられている。このうち副文中 2 つめの aut の次に出る ipsī は主語の述語的同格「自分たち自身でも」。主文の cottīdiānīs ferē proeliīs「ほとんど毎日の戦闘で」は奪格だと思うが正確に何の奪格かはわからない (時や場所? 手段?)。ちなみにこの問題文は『ガリア戦記』I 巻 1 章 4 節を少し改変したもの。

5. 6) commīsērunt < committō は単語集では「(悪事などを)行なう,犯す」としか書いておらず、解答の訳文にある「開始する」の意味が載っていない (水谷羅和には 4 番めの語義として挙げられており、「proelium [pugnam] committō 会戦する」というイディオムとしても出ている)。

練習問題 XXVIII


2. 2) ānserēs Iūnōnī sacrī「ユーノーに捧げられたガチョウ」を見ると sacer に「〔与〕に捧げられた」の意味があることがわかるが、単語集には「神聖な」としかなく自力でこのようには訳せない。最終段 Rōmānīs はふつうの利害の与格「ローマ人にとって」、salūtī fuit は目的の与格「救いであった」(第 18 課 6 節の例にはないが、『標準ラテン文法』§62 [4] b.)。

2. 4) trānseundus は trānseō の動形容詞の男性単数主格で Rhodanus に一致しており、Helvētiīs は行為者の与格 (第 19 課 3 節)。

2. 5) centuriō「百人隊長」が解答の訳文で「百人隊」になっている (脱字)。この原文は『ガリア戦記』V 巻 44 章 4 節。先行詞 pars hostium が関係文のなかにとりこまれたもので、主文では対格であるべきところ。Kelsey のテクストでは主文に in eam と方向の対格が補われている。

練習問題 XXIX


1. 1) 単語集にミスあり。「pulvis, -is, m. 砂」となっており、これでは属格形が pulvis になってしまう。正しくは pulveris なので pulvis, -eris。

2. 12) quō には先行詞がなく、関係代名詞の奪格というよりは「そこへ」という副詞ととるのがよいかもしれない:「そこへ投げ槍が届きうる (ところの範囲) よりも遠く離れてはいなかった」。原文は『ガリア戦記』II 巻 21 章 3 節改変。

2. 13) 関係文のなかの主語 (非難される対象) は tū かと思い reprehendāris としてしまったが、quae が主格 (= inertia tua) だからそれは不可能か。

練習問題 XXX


1. 9) 問題文 virtūte のマクロン欠。

2. 2) postulāta は中性複数対格 (少なくとも旧版の単語集では postulātum が補遺に隔離されていて見つけづらい)。出典は『ガリア戦記』I 巻 44 章 1 節および 7–8 節省略改変。

2. 3) 出典はリーウィウス『ローマ建国史』XXXIV 巻 11 章 5–6 節改変、ただし冒頭のみ『ガリア戦記』I 巻 31 章 2 節と混合している。第 2 文の repulsos ab Rōmānīs は不定法句の対格主語 sē に一致した男性複数対格で、「追い返されたら」という条件を与えている述語的分詞句 (第 23 課 1 節)。第 3 文 speī は nihil にかかる配分の属格 (第 15 課 5 節、および練習問題 XV の 7. 4) と関連)。

2. 4) 出典はスエートーニウス『ローマ皇帝伝』II 巻 (アウグストゥスの巻) 28 章 5 節改変。quam は urbem < urbs を受ける関係代名詞の女性単数対格で、関係文のなかの latericiam は述語的分詞のかわりをする形容詞「煉瓦造りであるときに (であるものとして)」か。

2. 5) 出典は『ガリア戦記』IV 巻 16 章 5–6 節一部省略。reliquī は temporis にかかる中性単数属格であって、relinquō の完了 relīquī とは第 2 音節の長短が違う。最後の futūrum は未来不定法の esse が省略されたもの (主語は対格の id なので未来分詞が中性単数対格)。

2. 6) 出典は『ガリア戦記』I 巻 31 章 3–5 節改変。最初のコロン以下、Haeduī et Arvernī は外置されているが次の cum 節の中にある主語で、歴史的または時の cum なので contenderent は接続法未完了。主文の動詞は factum esse であり、これは ut の導く名詞的結果文を伴う非人称の fit < fīō の完了時制の不定法である (第 22 課 2 節、ならびに練習問題 XXII 2. 3) をとくに参考。非人称なので中性単数、ディーウィキアークスの語る間接話法だから不定法句)。最後の trāductōs esse は不定法受動態完了・3 人称男性複数=plūrēs「いっそう多くの〔ゲルマーニー〕人たち」に一致。


終盤のほうで何度か問題文の出典箇所を探ることに努めたが、『ガリア戦記』からの採用がずいぶん多いことが見てとれる。解答上とくに注意点がなかったので触れなかったが、最後の大問では 1) も『ガリア戦記』I 巻 42 章 4 節である。

ラテン語の勉強のために『ガリア戦記』を読もうとする場合、ラテン語原文と比べるには岩波文庫の近山金次訳がいちばん直訳に近く忠実で便利かと思う。逆に講談社学術文庫の国原吉之助訳は日本語としてうますぎる箇所が多いため、対照のためよりは読書としてそのものを読むのに向いている、あるいは達意の訳文がゆえに高い目標として掲げるのもありかもしれない。平凡社ライブラリーの石垣憲一訳は両者の中間という感があり、前 2 者よりも後発かつ大人数の勉強会から生まれた産物というだけあって、まじめな作業を経た可もなく不可もなしという翻訳。ただし近山訳の注釈がずいぶん学問的にすぎるのに対して、この石垣訳は地理的その他の背景情報につきかゆいところに手が届く適切なレベルで初心者の目線に立っており親切である。岩波から出た単行本の高橋宏幸訳は現在最新の翻訳で評判も高いが私は現物未見。なお I 巻に限れば大学書林から遠山一郎訳注の対訳本も出ており、(言) 語学的な注解が豊富で役に立つ。以上のほかにも若干のものがあるがわざわざ言及に値しない。

vendredi 11 septembre 2020

中山『ラテン語練習問題集』の難所および疑問点 (第 20 課まで)

中山恒夫『ラテン語練習問題集』(白水社、1995、新装版 2009) の大半を解き終わったので (全 30 課のうちの 20 課。後のほうほど注記が長くなりそうなのでいったんここで切っておく)、その過程で私が間違えた箇所、難しいと感じた箇所について、たんなる覚え間違いや不注意のミスは除き、後続の学習者にも役に立つかもしれない点に絞って覚え書きを残しておく。

私の手元にあるのは新装版になるまえの旧版のおそらく最後の刷 (2005 年 3 月 30 日第 4 刷) であり、以下に記す誤植等の指摘のなかには新装版ですでに解消されているものもあるかもしれない。

ところで旧版の別冊解答・単語集が新装版では巻末に一体化されてしまったというが、何百回何千回と開かなければならない解答・単語集は別冊のほうが望ましいことは学習していれば誰でも実感されることであり、これは残念な改悪である。しかしもしこのために古本で手に入れようとする場合は、別冊や付録というものは失われていることが多いので注意されたい。



練習問題 I, II, III ― とくになし


練習問題 IV


6. 5) 問題文中 porcōrum < porcus, -ī, m.「豚」が単語集 P の欄に出ておらずミスかと思ったが、単語集最後のページの補遺に含まれていた。初刷では抜けていたものを追加したということだろうが、気づきにくい。新装版ではちゃんと順番どおりの箇所に入れられているとよいが。

11. 1) 動詞 dōnō「…に〜を贈る」には、日本語の感覚で自然な「与格の人に対格の物を」だけでなく、「対格の人に奪格の物を」という語法がある。すぐ前の 8. では与格の puellīs に対格の pōma を与えていたこともあって、この問題の suam fīliam, ... fīliam vīcīnī pōmīs では (pōmīs が与格と奪格で同形ゆえ) 与格と対格が逆でないかと悩み時間をとられた。

練習問題 V, VI, VII ― とくになし


練習問題 VIII


1. 5) 受動文に変えるという問題。Quid が主語かと勘違いし対格目的語が見あたらず戸惑ったが、これが対格で主語は明示されていない不定の 3 人称複数だった。

6. 例の書きかえ後の文、ならびに 7. 6) 問題文の文末にピリオドがない。

練習問題 IX


4. 2) 動詞 sacrificāmus, sacrificēmus < sacrificō は付属の単語集によれば他動詞で「犠牲に捧げる、供える」とだけ出ているが、この問題文 (のみならず他のほとんどの箇所でも) には対格目的語 (捧げられるもの) が含まれていない。ここでは自動詞として使われているものと思われる。

練習問題 X


2. 4) および 5) 問題文で Troia, Troiam の o の上にマクロンがついていない。

3. 4) および 6) 問題文の重文が〈直説法完了,直説法未完了過去または完了〉となっているところ、cum を使う複文で〈Cum + 接続法過去完了,直説法未完了過去または完了〉に直すもので、どうやら副文中の接続法は相対時称ということを使うべき問題であった。だが正解がこうなるということは、直説法の問題文の意味はたんに完了時制の 2 つの動詞を並列するだけで (たとえば現代フランス語における単純過去のように) その順の時間的継起・先後関係が決まるのだろうか? それともこの 2 文ではたまたま文脈からそうなったということ?

練習問題 XI


1. 1) 解答が « Sī mūrus oppidī aedificātus, erit, incolae tūtī erunt. » となっており、erit の前のコンマが誤植。

4. 7) 解答の末尾が firmātī erat となっているが、主語 aditūs は複数だし完了受動分詞 firmātī も男性複数であるとおり、erant の間違いであろう。

練習問題 XII, XIII ― とくになし


練習問題 XIV


2. 5) 動詞 dīligitis < dīligō の訳語が解答では「選出する」となっているが、付属の単語集はもとより水谷『羅和辞典』にもそういう語義は載っていない。単語集の訳語「尊敬する,敬愛する」でもふつうに通る文なので、解答の誤りか (参考までに、のちの練習問題 XVI の 1. 3) にある類似の文では同じ動詞が「尊敬した」と訳されている)。〔追記:たぶん dēligō「選ぶ」と混同したのだろう。〕

練習問題 XV


1. 4) 問題文の quod, quae から推して答えは正しく書けたが、なぜそうなるのかはわからない。前半は中性単数対格、後半は中性複数対格のようだが、考える内容が複数?

練習問題 XVI


1. 5) melle < mel, mellis, n.「蜜」が付属の単語集 (補遺も含めて) に載っていない。

7. 4) 解答および単語集 (diū の項) ともに間違っており、比較級 diutius、最上級 diutissimē の ū は長い (cf. 練習問題 XXIV 1. 6) は正しく diūtius とつづっている)。

8. 1) 単語集には vacō, -āre の語義が「空いている;暇である」しか載っておらず、「((ā +) 奪) を欠いている・から免れている」がないと vacāre culpā の意味を正しくとれない (「罪によって暇である」かと勘違いした:職を失ったのか、それとも蟄居や禁固刑みたいなことか)。それを抜きにしてもこの文は、māius と sōlācium が離れていて述語形容詞 (「逆境において慰めは大きくない」) にも見えるため、nōn est が (非) 存在であることに気づくのがなかなか難しい。

練習問題 XVII


1. 8) 同じ語の省略と考えてどちらも属格 alterīus を埋めたが、正解は後者が与格 alterī だった。だが « Duae deae [...]. Herculēs alterīus cōnsilium neglēxit, alterīus autem (cōnsiliō) obtemperāvit. » でも通るのではなかろうか? じっさい、続く大問 4. のいくつもの文ではそのような省略をしている:たとえば 2) « Fābulae hūius librī nōbīs placent, illīus displicent. » の後半における属格 illīus など。obtemperō が人でなく助言を与格目的語にとれるかどうかがネックか。

練習問題 XVIII


1. 10) perīcula maris ingentis「巨大な海の危険」にあうよう ingēns「巨大な」を変化させる問題だが、私は「危険」が「巨大」なものかと思い中性複数対格 ingentia にしてしまった。同じく 5) の 3 つめの空所 scholīs philosophōrum (nōbilis → nōbilium)「有名な哲学者の学校」も、「学校」のほうが「有名」だと思えば nōbilibus になる。別解として可能かと思われる。

4. 5) temerē「無謀に」(水谷羅和では「3 無分別に,むこうみずに」) が、(その派生前と思われる語も含めて) 単語集に載っていない。

5. 8) custōdīrī の現在 3 単。解答が custōditur となっているが、custōdītur の誤りだろう。

練習問題 XIX


1. 3) 解答の訳文が「使者の亡骸」となっているが、corpus mortuī なので「死者」の誤変換。

1. 6) これはべつに間違いの話ではないが、quae (中性複数) と hominēs はどちらもそれぞれ主格と対格が同形だから、問題の関係文は「人間を体力で凌ぐ動物」だけでなく逆に「人間が〜」と解することも文法的には可能である。その場合は現在分詞句には書きかえられず、完了受動分詞を用いて numerus animālium ā hominibus vīribus corporis superātōrum とでもなろうか。ちなみに vīribus corporis「体力において」は関係・限定の奪格 (第 12 課 1 節)。

1. 8) 文頭の laetī は主語 (私たち) の精神状態を補足する述語的同格 (第 17 課 2 節)。

3. 素朴な疑問として、ローマ数字で書くとき基数と序数を書き分ける方法はラテン語にはないのか? たとえばドイツ語では序数には 21. Jahrhundert のように点をつけて区別するし、英語やフランス語その他では -th や -e といった語尾を数字につけて表すところだが (序数標識という)。

練習問題 XX


3. 1) magis necessārium の直後に est が省略されている。nōn sōlum sibi「自分にだけでなく」の sōlum が sibi にあわせた与格にならないのは nōn sōlum ... sed etiam ~ でイディオム化しているためか?

3. 3) Plūrēs equī が文の主語で、sunt は存在。したがって vīcīnō と patrī は所有者の与格 (第 10 課 6 節)。ぼさっと眺めて雰囲気で訳していると「隣人の馬は父のより多い」なのになぜ属格でないのだろうなどと悩むことになる。

4. 1) 解答は « Studium reī pūblicae virō Rōmānō maximē necessārius fuit. » となっているが、主語は中性単数 studium なので necessārium になるのではないのか。この magis, maximē によって分析的な比較級・最上級を作る場合に、もとの形容詞 (いまなら necessārius) のほうの語尾がどうなるのか労を厭わず説明してある本はきわめて少ないが *、探せば小林『独習者のための楽しく学ぶラテン語』§122 (120 頁) には magis, maximē idōneus (-a, -um) という記述が見つかった。そもそも先述の 3. 1) にも magis necessārium の形が出ている。

* 泉井『広文典』も呉『入門』も松平・国原『新ラテン』も樋口・藤井『詳解』も中山『標準』も、無精して -us の形しか書いていない。ためにこういうミスが生じるわけである。田中『初歩』と有田『インデックス式』には magis, maximē による分析的比較級について言及そのものがない。

4. 2) 同上。主語 plērīque canēs は男性複数なので、答えは maximē idōneus ではなく maximē idōneī になるはず。

5. 1) iī は指示代名詞 is の男性複数主格で、続く quī 関係節の先行詞となり文全体の主語。

5. 4) これも主動詞が存在の erat。私は文頭の Italiae を属格と思って次の空欄に īnferiōris を入れてしまった、というのはこの属格句が後ろの nōmen を限定し「下部イタリアの名前は……大ギリシアだった」というコピュラ文だと考えたから。これでもいちおう通るのでは?

5. 8) 解答が propius となっているが、これが修飾する castra は中性複数対格なので propiōra の間違いだろう。

7. 3) Mārcum ... agentem は現在分詞の男単対。ここは知覚動詞 vīdī < videō の目的語なので、対格不定法の agere にそのまま交換することもできようが、ニュアンスはどう違うか。松平・国原『新ラテン文法』§508 注 (176 頁) が参考になる。


〔2020 年 9 月 23 日追記〕第 21 課以降は次の記事に続く。