mercredi 23 septembre 2020

中山『ラテン語練習問題集』の難所および疑問点 (第 21 課から)

前回の記事の続きで、中山恒夫『ラテン語練習問題集』(白水社、1995、新装版 2009) を最後まで解き終わったので、第 21 課以降で私が引っかかった箇所や誤記と思われる箇所について覚え書きを残しておく。


練習問題 XXI


1. 3) eō は指示代名詞 is の男性単数奪格で、quod adest の先行詞となり原因の奪格。

1. 12) « G. (= Gāius) Iūlius Caesar » とあるが、イニシャルで書く場合は C. の間違い (cf. 第 16 課 5 節、練習問題 XIX 3. 1).)。

1. 14) 問題文の pugnāvērunt は語幹の ū にマクロンが欠けている……と思ったが、べつの本では pugnō だったりする。だがこの本の単語集では pūgnō で立項されているし、これまでの説明や問題文 (たとえば第 8 課 6 節、練習問題 VIII 4. 8) などなど。また練習問題 X 4. 3) などにおける expūgnō も同様) も一貫してそうだったはずである。

2. 4) 問題文は vēre「春に」なのに解答の訳が「夏に」になっている。

2. 20) « Fugientēs urbibus receptī sunt. »「逃げる人々は町々に迎え入れられた」。私は奪格 urbibus を「町々から」と思いこんだのと、単語集で recipiō が「取り戻す」の語義しか載っていなかったこともあいまって、「町から逃げる人々は取り戻された=ふたたび捕まった」のかと考えた。このように読むには ab urbibus と前置詞が必要だろうか?

5. 9) « Discite, dum occāsiō discendī est ! » いちおう est を選んで正解はしたが、選択肢にある未来 erit は絶対にだめなのだろうか? 「学ぶ機会があるかぎりずっと」でも通りそうなものだが。

練習問題 XXII


2. 4) および 5) 接続法の時制の使いかたがどうもわからない。ut 節には完了は来ないのだろうか? 「順風がなかった」(前半が過去完了) とか「橋はきわめて早く完成した」(前半は完了) とか一回的なできごとなので、過去完了や完了だと思って habuisset, perfectus sit と書いてしまったが、正解はどちらも接続法未完了 habēret, perficerētur だった。未完了が過去の同時性であることは当然わかるが、とくに後者はアスペクト的に腑に落ちない。

5. 例.cōpiās の o にマクロンがついていない。

7. 4) 例および残りの 4 問のように主文の主語を奪格にするのではないところが難しい。かならず主文の主語をそうするのかと思って、完了受動分詞で Lēgātō ā nūllō hoste prohibitō と書いたが、そうすると後半の動詞 potuit が浮いてしまう。しかしこれも不定の 3 人称複数 potuērunt に変えればいけるだろうか?(文意からして不定主語は不可能?)

練習問題 XXIII


2. 1) ここまでずいぶん類題をこなしてきたが、そもそもこの分詞構文などに書きかえよという問題ではどれくらい同じ意味・ニュアンスが保たれているのか、解答集には書きかえ前の訳文しか載っていないのでわからない。書きかえられるということはもちろんおおむね同義のはずだが、今回の問題は本当にそうなのか疑わしい。« Carthāginiēnsēs, quamquam pācem petīverant, impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » に対して « Carthāginiēnsēs pāce petītā impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » というのが模範解答だが、前者では「講和」を求めているのは明らかにカルタゴ人であるのに対し、後者の「講和が求められていながら」という絶対奪格からは、講和を求めていたのがカルタゴ人だったことが本当に読みとれるだろうか。この後者の文だけを切りとって見ると、むしろローマ側もしくは不定一般の世論によって平和が求められているところをカルタゴ人が一方的に攻撃したような感じを受けないか。もしそうだとすればこの書きかえという問題はどうして可能になるか。

5. 例.書きかえ後の fīliī が書きかえ前では filiī となっている (マクロン欠)。

6. 3) および 7) 解答が ut ... nōn になっているが、願望文や目的文が否定の場合 nē を使うのではなかったのか?(cf. 第 9 課 4, 6 節)

練習問題 XXIV


2. 2, 6, 7) 問題がこのとおりならば、対応する第 24 課 2 節 (ferō の複合語) の説明がよくない。その節では 2) に現れる intulit < īnferō が一覧から漏れているほか、differō には「延ばす」、cōnferō は「比べる」の語義が与えられているところ、問題では「異なる」および「集める」の意味で使われている (cōnferō は 9) では「比べる」の意味に使われているからまだしも、differō「延ばす」はこの練習問題 XXIV 全体を通してどこにもない)。ついでに 7) の問題文で ūnum のマクロンが欠けている。

3. 8) ラテン語がわかるだけでは解けない問題。というのは aestāte exeunte「夏の終わりに」と ineunte vēre「春の初めに」の現在分詞を入れる空欄は、交換して「夏の初めに」「春の終わりに」のように埋めても文法的に成り立つから。一方で動詞 abit と redeunt の欄は主語の数 (magna avium pars の単数と omnēs の複数) が異なるためちゃんと決まるのでよい。

4. 2) metuī は第 4 変化名詞 metus, -ūs, m.「恐怖」の与格と同形だが、そうではなくここは動詞 metuo, -ere, -uī「恐れる」の不定法受動態現在である (直説法能動態完了 1 単とも同形でたいへんややこしい)。

4. 8) « cum nōlueris, nōn potuistī. »「欲しなかったからできなかったのだ」は理由の cum なので接続法完了 (第 10 課 3 節)。

5. 2) 解答の訳文が「ぼくは」となっているが、faciēmus (直・能・未来 1 複) なので「ぼくたちは」。

5. 3) 問題文 fīliī のマクロン 1 つ欠 (解答のほうは正しい)。

練習問題 XXV


1. 8) ここが初出でもないのでいまさら書くことではないのだが、いま気づいたので。単語集で「flūmen, -imis, n. 川,流れ」となっているが、これでは属格が *flūmimis になってしまう。-inis の誤植。

練習問題 XXVI


3. 2) 問題文 longitūdinem のマクロン欠。

4. 3) 問題の指示が直説法未完了過去だったので patiēbantur と書いたのだが、解答が paterentur (接続法未完了過去) になっていた。これは解答の誤り。

5. 3) fēceris は直説法未来完了ではなく接続法完了、間接疑問のため (第 25 課 4 節)。

9. 1, 2, 3)「主格を属格か奪格のどちらかに変えなさい」という問題で、問題文の括弧内は単数なのに解答は複数になっている。4) と 5) では括弧内が複数主格の dīvitiae, iniūriae になっているとおり、数を変えろとは書かれていないのだから問題文を複数に直すべき。

9. 2) Nē glōriātus sīs は接続法完了だが、この完了は禁止の言いかたであって過去の意味はない (第 24 課 6 節。また松平・国原『新ラテン文法』§613 によればこれは nōlī + 不定法現在に比べてより強制的なニュアンスという)。

練習問題 XXVII


2. 5) « Caesar metuit, nē hostēs noctū ex oppidō (profugere). » の動詞を適切な時制の接続法に変えよという問題。だが主文の動詞 metuit は 3 単では直説法現在と完了が同形であり、そのうえ文意から副文は同時でも以前でも成りたつため、4 通りの答えが可能のように思われる:つまりカエサルは敵が夜のうちに町から「逃げないかと恐れる/恐れた」「逃げてしまったのでないかと恐れる/恐れた」、順に接続法現在 profugiant, 未完了過去 profugerent, 完了 profūgerint, 過去完了 profūgissent。ちなみに模範解答は 2 番めで私も正解したが、それは前問までの流れから見て未完了を書かせたいだろうなという忖度による。

3. 4) 問題・解答ともに mīlle のマクロン欠。

5. 5) ヘルウェーティイー族とゲルマーニー人の 2 民族が出てくるが、日本語ではどちらも「彼ら」と訳しうる代名詞のうち、指示代名詞の eōs, eōrum は一貫して G. のほうを指し、文の主語である H. は再帰所有形容詞 suīs か強意代名詞 ipsī で受けられている。このうち副文中 2 つめの aut の次に出る ipsī は主語の述語的同格「自分たち自身でも」。主文の cottīdiānīs ferē proeliīs「ほとんど毎日の戦闘で」は奪格だと思うが正確に何の奪格かはわからない (時や場所? 手段?)。ちなみにこの問題文は『ガリア戦記』I 巻 1 章 4 節を少し改変したもの。

5. 6) commīsērunt < committō は単語集では「(悪事などを)行なう,犯す」としか書いておらず、解答の訳文にある「開始する」の意味が載っていない (水谷羅和には 4 番めの語義として挙げられており、「proelium [pugnam] committō 会戦する」というイディオムとしても出ている)。

練習問題 XXVIII


2. 2) ānserēs Iūnōnī sacrī「ユーノーに捧げられたガチョウ」を見ると sacer に「〔与〕に捧げられた」の意味があることがわかるが、単語集には「神聖な」としかなく自力でこのようには訳せない。最終段 Rōmānīs はふつうの利害の与格「ローマ人にとって」、salūtī fuit は目的の与格「救いであった」(第 18 課 6 節の例にはないが、『標準ラテン文法』§62 [4] b.)。

2. 4) trānseundus は trānseō の動形容詞の男性単数主格で Rhodanus に一致しており、Helvētiīs は行為者の与格 (第 19 課 3 節)。

2. 5) centuriō「百人隊長」が解答の訳文で「百人隊」になっている (脱字)。この原文は『ガリア戦記』V 巻 44 章 4 節。先行詞 pars hostium が関係文のなかにとりこまれたもので、主文では対格であるべきところ。Kelsey のテクストでは主文に in eam と方向の対格が補われている。

練習問題 XXIX


1. 1) 単語集にミスあり。「pulvis, -is, m. 砂」となっており、これでは属格形が pulvis になってしまう。正しくは pulveris なので pulvis, -eris。

2. 12) quō には先行詞がなく、関係代名詞の奪格というよりは「そこへ」という副詞ととるのがよいかもしれない:「そこへ投げ槍が届きうる (ところの範囲) よりも遠く離れてはいなかった」。原文は『ガリア戦記』II 巻 21 章 3 節改変。

2. 13) 関係文のなかの主語 (非難される対象) は tū かと思い reprehendāris としてしまったが、quae が主格 (= inertia tua) だからそれは不可能か。

練習問題 XXX


1. 9) 問題文 virtūte のマクロン欠。

2. 2) postulāta は中性複数対格 (少なくとも旧版の単語集では postulātum が補遺に隔離されていて見つけづらい)。出典は『ガリア戦記』I 巻 44 章 1 節および 7–8 節省略改変。

2. 3) 出典はリーウィウス『ローマ建国史』XXXIV 巻 11 章 5–6 節改変、ただし冒頭のみ『ガリア戦記』I 巻 31 章 2 節と混合している。第 2 文の repulsos ab Rōmānīs は不定法句の対格主語 sē に一致した男性複数対格で、「追い返されたら」という条件を与えている述語的分詞句 (第 23 課 1 節)。第 3 文 speī は nihil にかかる配分の属格 (第 15 課 5 節、および練習問題 XV の 7. 4) と関連)。

2. 4) 出典はスエートーニウス『ローマ皇帝伝』II 巻 (アウグストゥスの巻) 28 章 5 節改変。quam は urbem < urbs を受ける関係代名詞の女性単数対格で、関係文のなかの latericiam は述語的分詞のかわりをする形容詞「煉瓦造りであるときに (であるものとして)」か。

2. 5) 出典は『ガリア戦記』IV 巻 16 章 5–6 節一部省略。reliquī は temporis にかかる中性単数属格であって、relinquō の完了 relīquī とは第 2 音節の長短が違う。最後の futūrum は未来不定法の esse が省略されたもの (主語は対格の id なので未来分詞が中性単数対格)。

2. 6) 出典は『ガリア戦記』I 巻 31 章 3–5 節改変。最初のコロン以下、Haeduī et Arvernī は外置されているが次の cum 節の中にある主語で、歴史的または時の cum なので contenderent は接続法未完了。主文の動詞は factum esse であり、これは ut の導く名詞的結果文を伴う非人称の fit < fīō の完了時制の不定法である (第 22 課 2 節、ならびに練習問題 XXII 2. 3) をとくに参考。非人称なので中性単数、ディーウィキアークスの語る間接話法だから不定法句)。最後の trāductōs esse は不定法受動態完了・3 人称男性複数=plūrēs「いっそう多くの〔ゲルマーニー〕人たち」に一致。


終盤のほうで何度か問題文の出典箇所を探ることに努めたが、『ガリア戦記』からの採用がずいぶん多いことが見てとれる。解答上とくに注意点がなかったので触れなかったが、最後の大問では 1) も『ガリア戦記』I 巻 42 章 4 節である。

ラテン語の勉強のために『ガリア戦記』を読もうとする場合、ラテン語原文と比べるには岩波文庫の近山金次訳がいちばん直訳に近く忠実で便利かと思う。逆に講談社学術文庫の国原吉之助訳は日本語としてうますぎる箇所が多いため、対照のためよりは読書としてそのものを読むのに向いている、あるいは達意の訳文がゆえに高い目標として掲げるのもありかもしれない。平凡社ライブラリーの石垣憲一訳は両者の中間という感があり、前 2 者よりも後発かつ大人数の勉強会から生まれた産物というだけあって、まじめな作業を経た可もなく不可もなしという翻訳。ただし近山訳の注釈がずいぶん学問的にすぎるのに対して、この石垣訳は地理的その他の背景情報につきかゆいところに手が届く適切なレベルで初心者の目線に立っており親切である。岩波から出た単行本の高橋宏幸訳は現在最新の翻訳で評判も高いが私は現物未見。なお I 巻に限れば大学書林から遠山一郎訳注の対訳本も出ており、(言) 語学的な注解が豊富で役に立つ。以上のほかにも若干のものがあるがわざわざ言及に値しない。

Aucun commentaire:

Enregistrer un commentaire