水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 29 課から第 32 課までを扱う。
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第 29 課 希求法中・受動相現在,希求法中動相アオリスト・未来
練習 29
1. 君の言葉には従えない。
2. 君は星々を眺めている、わがアステールよ。私は天に/なれたらいいのに。多くの目で君を見られるように。〔γενοίμην は γίγνομαι の希アオ中 1 単。πολλοῖς ὄμμασιν は手段の与格。βλέπω は直現と同形だが接現 1 単ととり、ὡς の導く目的文。〕
3. その場所にキューロスは王宮と、野生の獣に満ちた大きな猟園をもっていた。それらを彼 (=キューロス) は、自分自身と馬たちとを鍛えたいときにはいつも、馬から [馬に乗って] 狩っていたものだった。〔Κῡ́ρῳ は所有の与格。γυμνάσαι は不アオ能。βούλοιτο は βούλομαι の希現中 3 単で、過去の一般的な仮定の文に準ずる (§§124.2, 125)。ちなみに「その場所」とはプリュギアのケライナイという大きな町。〕
4. ペルシア人たちの国勢 [厄介さ] の増大は、クロイソスをして悲嘆を止めさせ、(次のような) 考えへと立ち至らせた:いかにしてペルシア人たちが強大になるまえに、彼らの力が増大することを抑止できるかと。〔πρᾱ́γματα には「面倒、迷惑」といった意味もありそのように訳すこともできる。現在中動分詞・中複主 αὐξανόμενα は述語位置なので状況説明的で、構文を直訳するなら「ペルシア人たちの面倒さは、それが増大しつつあることで、悲嘆を止めさせた」。なおクロイソスの「悲嘆」とは当時彼が息子を失って喪に服していたことを指す。δύναιτο は δύναμαι の希現中 3 単で、主文が過去のため間接話法の希求法 (§127.2)。πρίν が (対格主語と) 不定詞をとることは前課で見たとおりで (§150.1)、γενέσθαι は γίγνομαι の不アオ中。καταλαβεῖν は καταλαμβάνω の不アオ能で、「やめる」系の動詞なので (対格主語と) 分詞をとっている (§110.1)。〕
5. ソークラテース:不正を働くことは悪いことのなかでも最大のものにあたる。ポーロス:本当にそれが最大ですか。不正を受けることのほうがより大きいのではないですか。ソ:まったくそうではない。ポ:とすればあなたは不正を働くことよりもむしろ受けるほうを望むというのですか。ソ:私はといえばどちらも望みたくはないが。もし不正を働くことか受けることか (の二者択一) が不可避となれば、不正を働くよりは受けることをむしろ選ぶだろう。〔1 行めは τυγχάνω なので分詞を要求しているが (中性名詞扱いの不定詞に一致した中単主 ὄν)、τυγχάνει ὂν (英 happens to be) をただの ἐστὶ (is) に置きかえてみれば簡単。2 行め ἀδικεῖσθαι は不現受。4–5 行め βούλοιο/βουλοίμην ἄν は可能性の希求法 (§121.2)。5–6 行め εἰ ... εἴη ..., ἑλοίμην ἄν は実現の可能性の少ない未来の仮定 (§124.1)。〕
第 30 課 受動相アオリストおよび未来,行為者を表す ὑπό+属格,手段・方法の与格
練習 30
1. ソーソスとソーソーが、救い主よ、汝にこをば奉献せり;ソーソスは救われたるがゆえに、ソーソーはソーソスの救われたるがゆえに。〔ἀνέθηκαν は注のとおり ἀνέθεσαν の別形で、これは ἀνατίθημι の直アオ能 3 複。σωθείς はアオ受分・男単主、ἐσώθη は直アオ受 3 単。ὅτι はここでは理由を表す接続詞で、これと μὲν ..., δ’ で結ばれ対比されているので前半の分詞節も理由ととる。〕
2. もし私が死の影の只中を歩むとしても、災いを恐れはしないだろう。あなたが私とともにいる [行く] のだから。〔πορευθῶ は接アオ受 1 単、φοβηθήσομαι は直未受 1 単で、実現可能な未来の仮定 (§116.1)。εἶ は直現 2 単で εἰμί と εἶμι が同形なのでどちらともとれる。〕
3. こうして彼 (=キューロス) は危難に遭い侮辱されたのち去ったので、もはや決して兄の掌中にはおるまいと、いやもしできることなら彼 (=兄) にかわって王位に就こうと考えはじめる。〔ἀπῆλθε 直アオ能 3 単。κινδῡνεύσᾱς アオ能分・男単主。ἀτῑμασθείς アオ受分・男単主。βουλεύεται 直現中 3 単はこれまでと同様に歴史的現在で過去の意味だが、配慮・努力を表す動詞なので ὅπως 節の ἔσται, βασιλεύσει は直説法未来となっている (§144)。ἤν は ἐᾱ́ν の別形。δύνηται 接現中 3 単。〕
4. なんとなれば、歴史からもし誰かが「何のゆえに」や「いかにして」や「何のためにそのなされたことはなされたのか」、そして「結果は合理的であったか否か」(といった疑問) を取り去ったならば、残されるのはそれ (=歴史) の作品コンクールであって、学問ではない。それは直近には楽しませるにしても、未来に対してはまったくなんらの益もない。〔ἱστορίᾱς は分離の属格 (練習 16.5 の注)。ἀφέλῃ は ἀφαιρέω の接アオ能 3 単で、現在の一般的な仮定 (§116.2)。διὰ τί と τίνος χάριν は訳しわけにくいが、前者は原因、後者は目的や動機のことらしい。ἐπρᾱ́χθη は直アオ受 3 単、πρᾱχθέν はアオ受分・中単主。ἔσχε は ἔχω の直アオ能 3 単で、ここでは「〜である」の意。〕
5. オルペウスの妻エウリュディケーは、蛇に咬まれたことで死んだ。そこでオルペウスは冥府へ下っていき、彼女を送りかえすようプルートーンを説得した。すると彼 (=プルートーン) は、オルペウスが行く途中で家に到着するまで振り向かなかったならばそうすると約束した。だが彼 (=オルペウス) は従わず振り向いて妻を見てしまい、彼女はふたたび冥府へと連れ去られた。〔δηχθεῖσα は δάκνω のアオ受分・女単主。κατελθών は κατέρχομαι のアオ能分・男単主。ὑπέσχετο 直アオ中 3 単。ποιήσειν 不未能。ἐπιστραφῇ 接アオ受 3 単。ἐπιστραφείς アオ受分・男単主。ἐθεᾱ́σατο 直アオ中 3 単。〕
第 31 課 能動相完了・過去完了・未来完了
練習 31
1. 詩人たちのうちのある者たちは、いかに生きるべきかという忠言を残してある。〔καταλελοίπᾱσιν は καταλείπω の直完能 3 複。〕
2. そして諸君らが私に有罪投票をしたという、この事象が起きてあるのは私にとって意外ではない。〔主語は τὸ γεγονὸς τοῦτο「起きてあるこのこと」(上では事象と訳した)、動詞は直完能 3 単 γέγονεν であり、形容詞 (οὐκ) ἀνέλπιστον は述語的に働いている:「予期に反してではないものとして起きてある=起きたのは意外ではない」。対応箇所は岩波文庫版 (久保訳) では 25 章 (57 頁)。〕
3. ソークラテースは夜明けになりはじめ太陽が昇るまで立っていた。それから太陽に祈りを捧げて立ち去った。〔εἱστήκει は ἵστημι の直過完能 3 単。ἕως はここでは名詞「夜明け、暁」。ἀνέσχεν は ἀνέχω の直アオ能 3 単。ᾤχετ’ は οἴχομαι の直未完中 3 単。ἀπιών は ἄπειμι の現能分・男単主。〕
4. われわれは神々 (へ) の誓いを堅持しているが、敵どもは偽誓をし、誓いに反して休戦条約を破ってある。
5. しかるに私が恐れてあるのは、もしひとたびわれわれが怠惰に生きることや豊富なもののなかで暮らすこと、メーディアー人やペルシア人たちの美しく背の高い女たち・乙女たちとつきあうことを覚えてしまったならば、あたかもロートパゴイのごとく、家に帰る道を忘れてしまうのではないかということである。〔δέδοικα 直完能 1 単。῎ᾱν は ἐᾱ́ν の別形、μάθωμεν は μανθάνω の接アオ能 1 複で、ここは実現可能な未来の仮定の前文 (§116.1)。ᾱ̓ργοί は隠れた主語「私たち」に同格の男複主。ἐπιλαθώμεθα は接アオ中 1 複で、これが条件文の後文なのに接続法なのは、危惧・恐怖を表す主文に従っている未来の懸念の内容であるから (§139.2)。〕
6. 誰でも噂好きの者は、友人に出くわすようなことがあると、すぐさま微笑んで尋ねる:「どこから来たんだい、調子はどうだい、このことについてなにか新しい話があるかい」と。そして答える隙も与えずに言う:「なんだって、なにも聞いていないのか。(では) 僕が君を新しい噂で楽しませてあげるのがいいだろうね」。〔ἐρωτῆσαι 不アオ能。πῶς ἔχεις ; は元気かどうか調子を尋ねる挨拶。その次の ἔχεις は不定詞とともに「〜できる」の意 (εἰπεῖν は λέγω の不アオ能)。ἐᾱ́σᾱς アオ能分・男単主。ἀποκρῑ́νασθαι 不アオ中。ἀκήκοας 直完能 2 単。〕
第 32 課 中・受動相完了・過去完了・未来完了,行為者の与格
練習 32
1. われわれは休戦条約によって解放された。
2. 敵どもはすでに破られて [敗北して] あった。〔直過完中 3 複。〕
3. 戦闘は (すでに) 終わってあると彼は言う。〔直完中 3 単。〕
4. もはや考えている (べき) 時ではなく、考えを済ませてある (べき時である)。なにせ今夜のうちにはそれらいっさいがなされておかれねばならないのだ。〔βουλεύεσθαι 不現中。βεβουλεῦσθαι 不完中。πεπρᾶχθαι は πρᾱ́ττω の不完受。〕
5. アテーナイ人トゥーキューディデースは、ペロポンネーソス人たちとアテーナイ人たちとが互いに戦った戦争を記述した。(この戦争が) 立ちあがるなりただちに (記述を) 始め、(それ=この戦争が) 重大であり、以前に起こってあるものよりもいっそう記録に値するものとなるであろうことを予期したのである。〔2 つの分詞 ἀρξάμενος と ἐλπίσᾱς は男単主で、主文の主語 Θ. の行動を補足説明している。前者は ἄρχω の現中分で中動なので「始める」の意で、注のとおりアオリスト不定詞 τοῦ ξυγγράψαι を補う (ἄρχομαι は属格目的語をとる。定冠詞 τοῦ を要するのは、これが主文で言われたその当の記述行為を指していることを明示:「Θ. は……戦争を記述した、(この記述を) 始めたのは開戦と同時で〜」という感じ)。次の分詞 καθισταμένου は καθίστημι の現中分・男単属であり、この次に τοῦ πολέμου を補えという注があるが、これらが独立属格句になっている:「戦争が起こると同時に」。ἐλπίσᾱς の目的語も τὸν πόλεμον が省略されている、というのは μέγαν が男性単数対格なのでわかるのである。ἔσεσθαι 不未中。προγεγενημένων は προγίγνομαι の完中分・男複属で、言うまでもなく πολέμων が省略されており、これは比較の対象の属格。〕
6. ソークラテースは、アルキビアデースが富に理性を曇らされ、(財産の) 潤沢さならびにわけても (広大な) 農地によって思いあがっているのを見て、世界地図のある平板が掲示されていたポリスのとある場所へと彼を連れていき、アルキビアデースにそこでアッティカ地方を探しだすよう指示した。彼が見つけると、(ソークラテースは) 彼に自分の農地を精査するよう指示した。(アルキビアデースが)「いや、どこにも書かれていない」と言うと、(ソークラテースは) 言った:「すると君は、地のうちの無 (に等しい) 部分であるものに (恃んで) 思いあがっているのか」。〔μέγα φρονεῖν で「思いあがる」の意。ἤγαγεν は ἄγω の直アオ能 3 単。ἀνέκειτο は ἀνάκειμαι の直未完中 3 単。εὗρε は εὑρίσκω の直アオ能 3 単。διαθρῆσαι 不アオ能。τοῦ (δὲ) εἰπόντος は独立属格で、δέ で主語が交代するのでアルキビアデスを指す。γεγραμμένοι εἰσίν 直完受 3 複。指示代名詞 τούτοις は関係節 οἵπερ 以下を先取りしたもの。〕
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