mardi 12 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (6)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 21 課から第 24 課までを扱う。



第 21 課 ω 動詞の能動相アオリストの分詞,μι 動詞の能動相現在および第 2 アオリストの分詞,分詞の用法(つづき)


練習 21


1. 人は死すべきものであると私は知っている。

2. だがもしぶどう酒がもはやないならばキュプリス (=アプロディーテー) はいない。〔独立属格。〕

3. そのとき彼はほかの誰にも知られずに涙を流していた。〔λείβων が男性単数なので主語は「彼」。〕

4. 多くない (=小勢の) ラケダイモーン人たちの軍勢がちょうどイストモス (=コリントス地峡) まで進出していた。〔οὐ πολλή は緩叙法「多くない=少数の」で、女性単数なので στρατιᾱ́ を修飾している。細かいことだが「ラケダイモンの」Λακεδαίμονος ではなく「ラケダイモン人たちの」Λακεδαιμονίων であることにも注意 (わかったうえで省略するのは構わない)。〕

5. 彼らは自分たちを戦うように説き伏せたとしてペリクレースを責めていた。〔ἐν αἰτίᾳ ἔχειν「責める」。πείσαντα の男性単数対格は τὸν Περικλέᾱ に一致している。これは πείθω のアオリスト能動分詞。σφᾶς は間接再帰で主文の主語 (責めている人たち=ペリクレスに説得された人たち) を指している。間接再帰というのは少しわかりにくい用語だが、いまこの代名詞の含まれる分詞句 ὡς πείσαντα ... の主語はペリクレスであるから、主語じしんへのふつうの再帰的指示とは違うのである。すなわちもし「ペリクレスが自分 (彼じしん) を納得させた」という場合ならこれを直接再帰と呼ぶのに対して、その枠を越えた外側の主語に返っているから間接再帰と称する。〕

6. 神が与えるならば、嫉妬はなんら力をもたない。(神が) 与えないならば、苦労はなんら力をもたない。〔θεοῦ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει φθόνος, καὶ μὴ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει πόνος. のようにコンマを足したほうがわかりやすい。すなわち οὐδέν は διδόντος の目的語ではない。なぜそれがわかるかというと、前半と後半で διδόντος と μὴ διδόντος が対比されているわけだが、後者で分詞句の目的語たるには否定辞 μή にあわせて μηδέν でないといけないから、翻って前者でも同じ構造と判断できる。ἰσχῡ́ω は「力が」というより「価値・意味がある (ない)」としたほうが通りよいかもしれない。これは自動詞なので、 οὐδέν は目的語ではなく限定の対格「いかなる点でも〜ない」ととる。与える目的語は漠然と「恵み、恩寵」などと考えればよいか。神の助けなくしては何事も達成されないのだから人間の働きだけでは無意味ということ。〕

7. ホメーロスという後世の記憶への伝達者を得ていたことで、アキッレウスは幸福であったとアレクサンドロスは考えた。〔Ὁμήρου と κήρῡκος は同格の説明。「ホメーロスが伝達者だったので」という独立属格ではなく (そうだとしたら ὄντος が必要)、たんに ἔτυχε の属格目的語。〕

8. 多くの者が戦争において仲間や家族を助けたことで傷を負って死んだのに対して、(助ける) べきだったのに助けなかった者たちは健康 [無傷] で帰ったのか。〔δέον は直前の動詞 βοηθεῖν の繰りかえしを避けたものと解した。ὑγιεῖς は主語に一致した男性複数主格で、副詞的に訳す。〕

9. キオス人たちとほかの同盟者たちはラケダイモーンへと使節を送った。それらのことを伝えてリューサンドロスを船団の上に (=指揮者に) 要請するために。〔ἐροῦντας と αἰτήσοντας が目的を表す未来能動分詞・男性複数対格 (前者は形の上では現在分詞だが、λέγω を基準とみなせば未来分詞に相当する)。〕

10. ゼウスとアポッローンは弓術について争っていた。アポッローンが弓を張り矢を放つと、ゼウスはアポッローンが射たのと同じほど (の距離) を一跨ぎした。〔τόξον, ου, τό「弓」が語彙集から漏れているようである。ἀφέντος は ἀφίημι の 2 アオ能分・男性単数属格。〕


第 22 課 接続法能動相現在およびアオリスト,主文における接続法の用法,接続法を用いた条件文


練習 22


1. 私に反対するな。

2. その男が逃げるのを放っておくまい。

3. 犬どもは知らない人々を見れば吠えかかる。〔ὧν は牽引を受けており、論理的には省略されている先行詞が属格 τούτων となるべきところ。またこの〈関係代名詞 + ἄν + 接続法〉は条件文の代わりをしているので (§117)、たんに「知らない人に」よりは「知らない人がいれば、いようものなら」などと訳すほうがニュアンスが伝わる。〕

4. 食べよう、飲もう。明日には私たちは死ぬのだから。〔前半は勧奨の接続法。出典はパウロと書かれているが、パウロがこうした刹那主義的な主張をしているのではなく悪い例として彼は挙げているのである。〕

5. 馬鹿は笑うべきでないときでさえ笑う。

6. もし君が彼に金銭を与え彼を説得するならば、彼は君をも賢くするだろう。〔この話し手はソクラテスであり、相手である君とはヒポクラテスという名の青年 (著名な医学の祖とは別人)、そして彼とはプロタゴラス。青年はプロタゴラスに報酬を支払うので自分を賢くしてくれと依頼したところ断られて、ソクラテスに助けを求めにきている。〕

7. 不運について誰をも非難するな。なんとなれば運命とは (誰にでも) 共通であり未来は目に見えないのだから。

8. バラの盛りは短い。(ひとたび盛りが) 過ぎ去ったならば、求めたところで見つかるのはバラではなく茨であろう。〔βαιὸν χρόνον は期間の対格。ἤν は ἐᾱ́ν の別形。ζητῶν は ζητέω の現在能動分詞で、主語である「君」に一致した男性単数主格であり譲歩を表す:「探し求めるとしても」。εὑρήσεις は εὑρίσκω の直説法未来 2 単。〕

9. すべての (男) が結婚において不運なわけでもなく、(すべての男が) 幸運なわけでもない。だが悪い妻を得たならば不運である。よい (妻) を得れば幸運であるが。〔かなり難しい問題! 7. で名詞の τύχη「偶然、運命」を出した直後にひっかけてきているが、今度の τύχῃ, τυχών は名詞ではなく動詞 τυγχάνω (ここでは「属格のものを得る」の意) の、それぞれ接続法能動アオリスト 3 単とアオリスト能動分詞・男単主である。前者は名詞の単数与格とまったく同形。しかし後者は複数属格だとするとアクセントが τυχῶν にならねばならないので、そこでおかしいと気づく必要がある。〕

10. 儚き者たちよ! ある者が何であるか、また何でないか。影の (見る) 夢なのだ、人間とは。だが光輝が天与のものとして到来するとき、輝ける光と平穏なる生涯とが人々の上にある。〔冒頭の ἐπᾱ́μεροι は男性複数呼格ととる。ἔλθῃ は ἔρχομαι の接続法アオリスト 3 単。〕


第 23 課 希求法能動相現在・未来・アオリスト,主文における希求法の用法,目的文


練習 23


1. 君が幸福であるように。

2. キューロスが生きていればなあ。

3. あの手紙を送らなかったらなあ。〔前問の注を見よ。〕

4. 不正な者たちは罰せられないように逃げた。

5. おお不幸な人よ、あなたは (自分が) 誰であるか決して知ることのないように。〔出典が『オイディプス王』ということで察せられると思うが、発言者は妃イオカステで、あなた=オイディプスがみずからの父を殺し母と交わったのだという真相を知るべきでないということ。〕

6. いったい誰であれいかにして小さな労苦で大きなものを得られようか。〔σμῑκροῖς πόνοις は手段の与格。ἕλοι は αἱρέω の希求法アオリスト 3 単。可能性の希求法。〕

7. それに私はわざと君を起こそうとしなかったのだ。君がなるだけ心地よく過ごせるように。〔死刑執行を目前にしたソクラテスを訪ねてきた友人クリトンが、牢屋で熟睡している彼を見て驚いたところ。ἤγειρον は ἐγείρω の未完了過去で、ここでは「〜しようとした」という用法 (§40)。目的文の ὡς が導入されたばかりだが、最上級を伴う「できるだけ〜」という意味も忘れずに。〕

8. もし君の召使たちのうちの誰かが病気であれば、君は (その人が) 死なないように医者たちを呼ぶだろうか。

9. どこかでヘーラクレイトスは言っている。万物は行き何物もとどまるものはないと。そして彼は在るものを川の流れになぞらえて言う、君は二度同じ川に踏み入ることはできないと。〔2 つめの καί のまえでいったん文が切れる。ἀπεικάζων は主語に一致した状況説明の分詞。ὡς はここでは ὅτι と同じ。〕

10. 僕は鏡でありたい/いつも君が僕を見てくれるように/僕は肌着になりたい/いつも君が僕を着てくれるように/僕は水になりたい/そうして君の肌を洗おう/妻よ、僕は香油になりたい/そうして僕が君を塗りつくそう。〔鏡だけで終わればよかったのに、ずいぶんと変態じみている。λούσω と ἀλείψω は直説法未来 1 単と同形だが接続法アオリスト 1 単ととるべき、しかし訳しかたはあまり変わらない。γύναι は γυνή の呼格。〕


第 24 課 希求法を用いた条件文,ὅτι, ὡς によって導入される間接話法,話法転換時の動詞の法の変化,間接疑問


練習 24


1. 彼は私を見るといつも逃げていた。〔ἴδοι は ὁράω の希求法アオリスト 3 単。〕

2. 彼はよいと思われたことをやっていた。〔δόξειεν は δοκέω の希求法アオリスト 3 単。〕

3. それゆえ彼は何を言おうかと困惑して黙っていた。

4. 彼はそんなことを言う者は誰であれたわごとを言っているのだと言った。

5. クロイソスは誰がその男のあとに 2 番めを見るかと尋ねていた。〔繁栄を極めたリュディア王クロイソスは自分が世界中でもっとも幸せな者だと考えていたが、賢者ソロンが 1 位はアテナイのテロスだと答えたのでそれに次ぐ 2 位は誰かと尋ねている。〕

6. もし私が恩人たちを追い出すようなことをすれば、彼は私を褒めないだろう。〔この「褒めない」も緩叙法でむしろ「非難する」くらいの意味か。〕

7. もし君が友人をもっているようであれば君は幸福だと私は思う。

8. 指揮官が (考慮せ) ねばならないようなことをクレアルコスだけが考慮していると彼らは見ている。〔δεῖ には不定詞 φρονεῖν が省略されていると見る。ἄρχων は本書の語釈には「支配者」しかないがここでは軍隊の「指導者、指揮官」の意。〕

9. ソークラテースは言った。ほかの人々は食べるために生きているが自分は生きるために食べていると。

10. だがダーレイオスが死んでアルタクセルクセースが王になったとき、ティッサペルネースがキューロスをその兄に対して彼への陰謀を企てているとして中傷 [讒言] する。〔κατέστη は καθίστημι の第 2 アオリスト 3 単。「その兄」とはキュロスの兄アルタクセルクセスのことであり、次の αὐτῷ も同じ者を指す。最後の ὡς は練習 21.5 の注と同様、この陰謀という話が書き手ではなく文中の主語ティッサペルネスの主張であることを含意している。〕

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