水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 9 課から第 12 課までを扱う。
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第 9 課 第 3 変化名詞:子音幹,限定の対格および与格
練習 9
1. 感謝は感謝を生む。〔「好意は好意を」でもよい。〕
2. 老人は 2 度子ども (である、になる)。〔本当の幼少期と、老年になって世話が必要になった時期のこと。εἰσίν「〜である」または γίγνονται「〜になる」省略。〕
3. 海も女も激情において (=怒ったときには) 同一のものである。〔ὀργῇ は限定 (観点) の与格。主語は 2 つの女性名詞だが ἴσον は中性単数なので、形容詞ではなく名詞用法。〕
4. おまえは耳においても心においても目においても盲目である。
5. ギリシア人たちはギリシアから冬のあいだに逃げた。
6. ある者らは金銭によって説得され、またある者らは言葉によって (説得される)。〔受動態みたいに訳したが、主語はむろん χρήματα と λόγοι であり、2 つの τούς が目的語である。これは定冠詞の代名詞的用法であり、§19.5 で述べられた ὁ μὲν ... ὁ δὲ ... の男性複数対格版。もっと自然な日本語にするなら「金銭で動く者もいれば言葉で動く者もいる」といったところか。〕
7. 老人たちにとってさえ知恵を学ぶことはよいことである。〔やはり ἐστίν が省略されており、σοφὰ μανθάνειν イコール καλόν という文。〕
8. 悪い希望は、ちょうど悪い案内人のように、過ちへと導いていく。
9. クセルクセースは鞭でヘッレースポントスを打つことを命じた。〔第二次ペルシア戦争のおり、行軍のためヘレスポントス海峡に架けた橋が嵐でめちゃめちゃになったさいにそうしたという。「ところが架橋が終り通路が出来上った直後、猛烈な嵐が起って完成したばかりの橋をことごとく破壊しバラバラにしてしまった。その知らせをうけたクセルクセスは、ヘレスポントスに対して大いに怒り、家臣に命じて海に三百の鞭打の刑を加え……」(松平千秋訳、岩波文庫版下巻 39 頁)。〕
10. 夜は盗人たちのものであるが、光は真実のものである。
第 10 課 第 3 変化名詞:子音幹(つづき),母音融合を行う第 1・第 2 変化形容詞
練習 10
1. 1 日は 1 年の短い一部分である。
2. 火が黄金を (判定する) ように、危機が友人たちを判定する。〔「火が黄金を試す」という表現は ignis aurum probat というラテン語の形でも知られている。炎に耐えることによって本物の黄金が証明されるように、危機においても残るのが本当の友人ということ。この本では καιρός の語義が「好機」としか与えられていないが、これではまずい。καιρός は好都合・不都合を問わず重大な機会や局面のこと。〕
3. 真理の言葉は単純である。
4. 青銅が姿の (=姿を映す) 鏡であり、酒が心の (鏡)。〔冠詞がないので主述は逆にして「姿の鏡は青銅だが、心の (鏡) は酒である」とも訳せる。〕
5. 真実を言うことは自由人の (務め) である。
6. 壁の高さと川の深さが兵士たちを阻んだ。
7. 教育とは黄金の冠に似ている;名誉をもつとともに多大の出費もかかるから。〔「名誉をもつ」というのは少々直訳すぎるが、τῑμὴν ἔχειν とは「尊敬を受ける」の意。〕
8. マラトーンでの戦いにおいて君たちの父たちは少数だったが勇敢だった。〔もちろん日本語は「マラトンの戦い」でいいが、細かいことを言えば μάχῃ が与格なのでこれが ἐν の目的語であり、τῇ Μαραθῶνι は与格だけで場所「マラトンで」を表している。〕
9. なぜなら神は木の壁を信ずるようテミストクレースに命じたから。〔デルポイの神託に下されたこの不明瞭な表現は、文字どおり「木造の市壁」にて籠城することと解することもできたが、テミストクレスはこれを「船」と解してサラミスの海戦にてペルシア軍を撃退した。〕
10. おおソローンよソローンよ、汝らギリシア人たちはつねに子どもであって、老いたるギリシア人はいない。〔みな精神が若々しいからということ。ἐστε が 2 人称複数であるから、Ἕλληνες は隠れた主語「汝ら」に同格の補語。最後の οὐκ ἔστιν という 3 単は (非) 存在を表すものととる (アクセントについては §52.4 を見よ)。〕
第 11 課 第 3 変化名詞:母音幹,関係代名詞
練習 11
1. 神官たちは神々に牛たちを捧げた。
2. 誰であれ財産と理性 [分別] をもつ者は幸いである。
3. 王は妻を美しいと思っている、と彼は言った。〔間接話法の二重の入れ子。「妻」か一般の「その女」かは文脈によるので、この文だけでは判断しようがない。〕
4. 市民たちが公正であるような国家は盤石である。
5. 人間は本性において政治的な動物である。
6. 私たちが見ているところの友人を私たちは信ずる。〔ᾧ の与格は先行詞 τῷ φίλῳ に牽引された形で、理屈としては対格 ὅν であるべきところ。〕
7. アテーナイ人たちの町には立派な城砦があった。
8. なんとなれば国とは人々であって、人々ぬきの市壁や船団ではない。
9. スピンクスは女の顔、獅子の胸と尾、鳥の翼をもっていた。〔μὲν ... δὲ ... の対比の感じをちゃんと出すなら「顔は女だが、胸と尾は獅子、翼は鳥のものだった」のように訳せる。εἶχε は ἔχω の未完了過去。〕
10. 時間はそれのなかに好機があるものだが、好機はそれのなかにわずかな時間しかないものである。〔οὐ πολύς は緩叙法 (litotes) で、文字どおりには「多くない」だが実際には「非常に少ない」という意味。〕
第 12 課 指示代名詞,強意代名詞 αὐτός
練習 12
1. 友人とは何か。ほかの [もう 1 人の] 自分自身である。
2. ほかのものはほかの人たちの気に入る。〔人の好みはそれぞれということ。「ほかの」という訳語では理解しにくいが、「べつのものはべつの人たちに」ならもう少し通りやすい。あるいはそれこそ「それぞれの」と訳してしまってもかまわない。田中・松平 LXX 課和訳 1. の注をも参照。〕
3. そういうことを彼は言ったが、行ったのは次のことだった。〔言行不一致。〕
4. アポッローンは彼に、犠牲を捧げるべきところの神々を託宣した。〔αὐτῷ「彼に」は神託を求めたクセノポンを指す。答えた内容が ἀνεῖλεν の直接目的語であるから、θεοῖς は論理上 θεούς であるべきところ、後ろの関係代名詞 οἷς に引かれた逆の牽引を起こしていると考えられる。ἔδει の未完了は主文のアオリストに対する時制の一致で、過去における現在を表す。〕
5. 同じ諸原因からつねに同じことごとが結果するわけではない。
6. この若者たちはあの女を信じたがらない。
7. それらのことのあとで、詩人みずからが奴隷たちに、あの竪琴を彼女の家へと運ぶことを命じた。
8. われわれのうちの各人は、(みずからが) その点で賢いところの事柄においては優れているが、他方その点で無知であるところの事柄においては劣っている。〔注のとおり文中の対格、具体的には ταῦτα = ἅπερ と ἅ = ταῦτα の 4 つがすべて限定の対格と解する。主語は ἕκαστος ἡμῶν であって、したがって残る ἀγαθός, σοφός, ἀμαθής, κακός が男性単数主格であるのはこの人を形容しているのである。〕
9. 同じ両親の子どもたちにしばしば同じ性格があるわけではない。〔τοῖς ... παισί は所有の与格 (§55)。〕
10. かつてアテーナイの市民であったドラコーンは、かくも賢く公正であったので、アテーナイ人たちは彼が法律を書くことを望むほどだった。しかし彼が書いた法律は厳しかった。というのもその法律にはただ 1 つの罰、死 (刑) だけがあったのだ。それゆえアテーナイ人たちは、ドラコーンの法律は人間のものではなく竜 (ドラコーン) のものだ、と言っていた。
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