水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 5 課から第 8 課までを扱う。
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第 5 課 ω 動詞:直説法能動相現在および未来
練習 5
1. 詩人たちはムーサたちに仕える。〔ギリシア語の現在は形のうえで進行相を区別しないので「仕えている」でも可。以下とくに断らない。〕
2. 私たちはつねに友人たちの言葉を信じる。
3. 裁判官たちは正義を追求するだろう。
4. 諸法をアテーナイ人たちは石に書く [刻む]。
5. 苦労は苦労に苦労を運ぶ。
6. 贈り物は神々をも説得するだろう。〔未来では θ が消えることに注意。今後どんどん、活用形から現在形 (辞書形) を見抜くことが難しいような例が増えてくるので、そういうとき辞書をちゃんと引けるために変化の仕組みを覚えねばならない……というのも今は昔の話で、いまどきは Wiktionary でも変化形をじかに検索すればそのまんま見つかってしまうのだが、理想的にはしっかり理解して覚えましょう。〕
7. よい人はよい蔵からよいものを取り出し、悪い人は悪い蔵から悪いものを取り出す。〔マタイ 12:35。ここで蔵にたとえられているのはもちろん心のことである。〕
8. 賢い弟子たちを教育することは容易であろう。
9. その若者は将軍の馬を平野を通って連れていくだろう。
10. 兵士たちはその村から逃げたがっている。
第 6 課 ω 動詞:直説法能動相未完了過去およびアオリスト,不定詞を用いた間接話法
練習 6
1. 戦いのあとで兵士たちはアテーナイへ逃げていった。〔§40 で触れられているとおり、未完了過去は過去における起動相ともとれるので「逃げはじめた」も可。〕
2. ナウシカアーとその侍女たちは海のそばで鞠で遊んでいた。〔オデュッセウスが旅の終盤にパイアケス人の島にたどりつき、王女ナウシカアと出会う直前の場面。〕
3. 人々はよき友人たちをもっていることはすばらしいことだと考えている。〔νομίζουσιν の後にあるが οἱ ἄνθρωποι は主格なので主文の主語 (=考える主体) である。考えている内容は (不定詞なので形がわかりにくいが) ἔχειν が中性名詞扱いの対格主語であり、καλόν が述語でそれに一致した中性単数対格になっている。〕
4. 賢い人たちは死は眠りであると考えている、と彼は言った。〔二重の入れ子の間接話法。主文の動詞は ἔφη なので主語は 3 人称単数 (だから「彼女」でも可)。言った内容の主語が τοὺς σοφούς であり、その人たちが考えている内容が τὸν θάνατον = ὕπνον ということ。〕
5. 彼は (自分が) 詩人ではなく詩人たちの裁判官 [判定者] なのだと言った。〔§41 は説明不足。不定詞の主語が主文と同じときは現れないと書いているが、このとき見えない主語と述語はじつは対格ではなく主格に置かれる。それゆえ間接話法の引用部で εἶναι が主語と結びつけている述語 ποιητής および κριτής は主格になっているのである。〕
6. その先生は長い手紙を弟子に書く、と彼は言う。
7. 博学は理性 [分別、知性] をもつことを教えない。〔ヘラクレイトスの言葉。ここで πολυμαθίᾱ「博学」と称するのは知識をたくさん蓄えていることであり (πολυ-「多く」+ μαθ- (μανθάνω「学ぶ」の語根))、それがただちにヌースには導かないということ。耳の痛い話である。〕
8. 主人はその奴隷に子どもたちを見守ることを命じた。〔τὸν δοῦλον と τὰ παιδία はともに対格なので逆にとることも無理ではないが、それでは語順が錯綜しすぎるので、やはり ἐκέλευσε に近い「奴隷」が命じる対象、φυλάξαι と隣りあう「子どもたち」が守る対象ととるのが自然。もちろん文意から考えても当然そうなるべきだろう。〕
9. ソークラテースは裁判官たちに嘆願をせず、(かの) 危険を冒していた。〔注にある cognate object とは日本語では同族目的語といい、「歌を歌う」や ‘sleep a sound sleep’ (熟睡する) のように、動詞が同じ語根の目的語をとること。ここで定冠詞つきの同族目的語を重ねている点には、「われわれのよく知るあの」、避けることもできた死刑へと導くことになる例の危険、という含みを読みとることもできる。〕
10. 平和は農夫を岩 (ばかりの不毛な土地) のなかでさえよく養うが、戦争は (農夫を) 平野においてさえ悪く (養う)。〔ここでギリシアの地勢を思いおこすことも無用ではなかろう:「土地は山がちで、平地の部分はたいへんすくなく、高い山と山とのあいだに小さな平野が点てんとちらばっているといったほうがよいかもしれません。〔……〕ギリシアの土地は、山がおおく、石灰岩質の土壌なので、肥沃だとはいえません。それに傾斜地がおおいので、土が雨に流されてしまうのです」(高津春繁・高津久美子『ギリシア神話』299–300 頁。高津春繁による巻末解説から)。〕
第 7 課 ω 動詞:直説法能動相第 2 アオリスト,結果文,時の表現
練習 7
1. ほんの数日のうちにギリシアは自由になるだろう。
2. 逃げないほどに彼はこのように勇敢だった。〔主語は明示されていないが述語 ἀγαθός が男性形なので「彼」である。〕
3. 川は兵士たちが渡るのを妨げるほどに激しかった。
4. 限りない雪が降って、武器をも寝ている男たちをも覆い隠した。〔χιών も ἄπλετος も無冠詞であって結びつきがあまり緊密でないから、この形容詞はむしろ述語的・副詞的にとって「雪が際限なく降った」のように訳すこともできると思う。〕
5. ダイダロスの息子イーカロスは海に落ちて死んだ。
6. 世界とは舞台であり、人生とは (そこへの) 登場である。君は来て、見て、去った。
7. ペルシア人たちは太陽と月と大地と風とに犠牲を捧げていた [捧げたものだった]。〔過去の習慣を表す未完了過去。〕
8. テミストクレースは艦隊を信頼するようアテーナイ人たちを説得した。
9. 隷属への道は快楽を通って続いている。〔ἡ εἰς τὴν δουλείᾱν は同じ性数格の定冠詞によって ἡ ὁδός を修飾することを明示している。前置詞句を内側に括って ἡ εἰς τὴν δουλείᾱν ὁδός とも言えよう。〕
10. 川に沿って兵士たちは食糧とぶどう酒とに満ちた多くの村々を発見した。その場所で彼らは 3 日間とどまった。
第 8 課 前接辞と後接辞,疑問代名詞と不定代名詞,動詞 εἰμί と φημί,所有の与格
練習 8
1. 私たちは (自分たちが) 哲学者であると言う。
2. キューロス (の麾下) には勇敢な兵士たちがいた。
3. 戦争において 2 度過つことはできない。〔1 度めの失敗で破滅するから。〕
4. いったいどんな言葉でもってその扇動家はアテーナイ人たちを説得したのか。〔τίσι λόγοις「どんな言葉で」は手段の与格。〕
5. 詩人たちも水夫たちも乗馬はうまくない。〔餅は餅屋ということか。〕
6. 君は昨日アゴラーにいなかったか。——たしかに私は一日じゅう (アゴラーに) いた。
7. なぜ君はいま戸を閉めるのか、家になにももっていないのに。
8. 少女たちよ、君たちは踊る用意ができているか。——私たちはまだ用意ができていません。
9. では人間とは何か。——死すべき神である。——では神とは何か。——不死なる人間である。
10. おそらく節制とはある種の秩序であり、ある種の快楽や欲望を自制することである。
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