dimanche 19 septembre 2021

シンオウ神話翻訳集成 (4) トバリの しんわ

旧作『ダイヤモンド/パール』における「シンオウ神話」の読みなおしを期して、ここに日本語版と欧米 5 言語版との翻訳比較ならびに考察を試みる。この記事では「トバリの しんわ」を扱う。


最初に「トバリの神話」という題について一言はっきりさせておくと、こういう名前の神話が「シンオウ神話」と別立てに存在するのではなくて、トバリとはシンオウ地方の一都市の名前なのだから、総称としてのシンオウ神話のうちに含まれる一エピソードなのである。それはちょうど出雲神話や日向神話が日本神話の一部であるのと同じことである。

各言語版のテクストは以下の各国語版ポケモン wiki より引用した (閲覧した版はこの記事時点における最新版)。ただし改行位置などについて細かな改変をとくに断らずに加えた場合がある。


日本語版:トバリの しんわ

つるぎを てにいれた わかものがいた
それで たべものとなる ぽけもんを
むやみやたらと とらえまくった
あまったので すててしまった
つぎのとし なにもとれなかった
ぽけもんは すがたをみせなくなった
わかものは ながいたびのあと
ぽけもんを みつけだし たずねた
どうして すがたをかくすのか?
ぽけもんは しずかにこたえた
おまえが つるぎをふるい
なかまを きずつけるなら
わたしたちは つめときばで
おまえのなかまを きずつけよう
ゆるせよ わたしのなかまたちを
まもるために だいじなことだ
わかものは さけんだ
おまえたち ぽけもんがいきていること
つるぎをもってから わすれていた
もうこんな やばんなことはしない
つるぎも いらない
だから ゆるしてほしい
わかものは つるぎをじめんに
たたきつけて おってみせた
ぽけもんは それをみると
どこかに きえていった
つとに指摘されているようにこの物語は、かつて人間は「つるぎ」をもってポケモンを直接に殺傷していたがそれを放棄したのだという筋書きを通して、現代の人間がポケモンと直接戦わなくなったという慣行の起源を説明する役割を果たしている。これもまた、現在成り立っている社会の慣習や制度を架空の物語によって合理化するあるいは基礎づけるという、神話の典型的な機能にあてはまるといえる。

テクストそのものを見たときまず気づかれるのは、「ぽけもん」という単語がひらがなで表記されていることである。このことはおそらく、この『トバリのしんわ』という本が未就学児童向けに書かれた絵本かなにかであることを示唆していよう。したがってこの物語は大元の「トバリの神話」の全容をありのままに語っているとは限らない。現実の神話をベースにした子ども向けの再話もそうであるように、このポケモンの虐殺を含むエピソードは実際にはもっとショッキングな形であったものがマイルドに、かつ教訓がわかりやすいように教育的配慮を通して書きなおされていると考えるのが自然である。6 歳以下の子どもに理解できないと思われる事柄は除去さえされているかもしれない。とはいえ大まかな筋書きについては正しく伝えられているとみなしてよいだろう。

じつはこの神話には明確な下敷きがある。アイヌの神謡がひとつ「梟の神が自ら歌った謡『コンクワ』」である。短い話なので各位読んでいただいたほうが早いが、知里幸恵編訳『アイヌ神謡集』によってとくに共通部分に注意しつつその梗概を説明してみると次のとおり。

あるとき「人間の世界に饑饉があって人間たちは今にも餓死しようとしている」という由々しき問題が起こった。それは天界にいる「鹿を司る神様と魚を司る神様とが相談をして鹿も出さず魚も出さぬことにした」がために、「人間たちは猟に山へ行っても鹿も無い,魚漁に川へ行っても魚も無い」という事態が生じたのだ。なぜそんな意地悪をするのかと、人間たちを守護する梟の翁神が天界へ使者を送って問いただしてみるに、じつは人間に非があったということがわかった。すなわち「人間たちが鹿を捕る時に木で鹿の頭をたたき,皮を剥ぐと鹿の頭をそのまま山の木原に捨ておき,魚をとると腐れ木で魚の頭をたたいて殺す」という、頂いた獲物に対しまったく敬意を欠く粗末な取り扱いをしていたことが元凶であり、そのようにして殺され神のもとへ帰った鹿や魚たちがそれぞれの神様に泣きつき神様が怒ったのである。こういう事情を知った守護神の梟神は「以後は,決してそんな事をしない様に」と人間たちに「教えてやったら,人間たちも悪かったという事に気が付き」行動を改めた。するとまた獲物がとれるようになって一件落着という話である。

この神謡がどのように「トバリの神話」の土台となったかはおのずから明らかであろう。一方で最大の相違点として、人間と獲物=ポケモンとのあいだを仲介する守護神や使者などの介在がなく、「トバリの神話」では人間とポケモンとが直接相会している点をあげられる。神謡と異なり人間がみずから別世界=ポケモンの去った地まで旅をして探しにいくことも、ポケモンがみずからの判断で姿を隠したことも、さらには人間の言葉を用いて返答していることさえも、これらすべては登場人物を 2 者だけに削ぎ落として集約したことに起因すると言うことができる。

ひょっとするとこの違いは、先述したようにこの本が子ども向けに短く語りなおされているということで説明がつくのかもしれない。とりわけ、ポケモンが人間の言葉を話しているように見えるところは「トバリの神話」のもっとも特異な点であって、作中のほかの神話にそういうことは観察されないのである。もしこれが幼児向け絵本ゆえの脚色なのだとすれば、このエピソードもシンオウ一般の神話と整合的に理解できることになり、実際には神話時代にもポケモンが人語を話したことはないということになる。

とはいえもちろん「トバリの神話」は「梟の神が自ら歌った謡『コンクワ』」そのものとは違うのだし、そもそも神話というものは体系の内部で矛盾することがあっても一向にかまわないのだから、絵本の原典においてもポケモンがしゃべっているということを可能性として否定しない。あるいはこの若者が——それとも昔の人はみんな——『ブラック/ホワイト』の N のように特別な能力をもっていてポケモンの言葉を理解できたという想定も可能である。この本ひとつから古代シンオウの歴史的事実を読みとろうとするのは早計だろう。


英語版:Veilstone’s Myth

A young man, callow and foolish in innocence, came to own a sword.
With it, he smote Pokémon, which gave sustenance, with carefree abandon.
Those not taken as food, he discarded, with no afterthought.
The following year, no Pokémon appeared. Larders grew bare.
The young man, seeking the missing Pokémon, journeyed afar.
Long did he search. And far and wide, too, until one he did find.
Asked he, “Why do you hide?” To which the Pokémon replied...
“If you bear your sword to bring harm upon us, with claws and fangs, we will exact a toll.”
“From your kind we will take our toll, for it must be done.”
“Done it must be to guard ourselves and for it, I apologize.”
To the skies, the young man shouted his dismay.
“In having found the sword, I have lost so much.”
“Gorged with power, I grew blind to Pokémon being alive.”
“I will never fall savage again. This sword I denounce and forsake.”
“I plead for forgiveness, for I was but a fool.”
So saying, the young man hurled the sword to the ground, snapping it.
Seeing this, the Pokémon disappeared to a place beyond seeing...
ある若者がいた。未熟で無知ゆえに分別がつかないのに、剣を所有するようになってしまった。
それを用いて彼はポケモンたちを殺傷した。それは暮らしを支えるのに必要なことではあったが、気配りもせず放埒に行っていた。
それらを食べものにもせず彼は打ち捨てた。なんの反省もなしに。
その次の年、ポケモンは現れなかった。食糧庫は空になっていった。
若者はいなくなったポケモンたちを探してはるばる旅をした。
長いこと彼は探した。(旅路が) 広くまた遠くになったとき、ようやく 1 匹を見つけた。
彼は尋ねた、「なぜ隠れるのか?」それにポケモンは答えて言った。
「おまえがその剣を帯びてわれわれを害するなら、爪と牙とでわれわれはその代償を取り立てよう。
 おまえの種族からわれわれは代償をとろう。そうなされるべきだからだ。
 そうなされるべきなのだ、われわれが自身を守るために。そのことを私は詫びよう」
天に向かって若者は狼狽を叫んだ。
「剣を見いだしたことで、私はかくも多くのことを見失っていたものだ。
 力に満たされて、ポケモンが生きていることが見えなくなっていた。
 以後二度とこのような野蛮に堕するつもりはない。この剣を私は放棄し捨て去る。
 許しを請う、私は愚か者以外の何者でもなかった」
このように言い、若者は剣を地に叩きつけてへし折った。
これを見るとポケモンは見えない場所へと消えていった。
全体として日本語の原文にかなり忠実、変わったところはあまり多くはない。指摘しうるのは冒頭で若者について「未熟・無知・無分別」という点などで若干の修飾が加わっている* ことのほか、第 1 節の末尾で「食糧庫は空になっていった」と明言されて飢饉を明確に示唆していること、そして最後にポケモンが去っていくさき——日本語では「どこか」としか書かれていない——が a place beyond seeing「見ることの及ばない場所」と言われている点くらいか。

この「見えない場所」とは最初に乱獲のあとポケモンたちが姿を隠した場所と同じであろうと思われるが、これにはこの世の裏側の世界=やぶれたせかいではないかとする推測がある。ちなみにやぶれたせかいのそもそものモチーフとして、「アイヌはあの世とこの世はお互い裏がえしの、逆転した世界と考えるのである」(山田孝子『アイヌの世界観』51 頁) と言われていることをあわせて紹介しておこう。同じ箇所で「あの世では、死んだ人びとはちょうどハエが天井に止まったように足をさかさにして歩いている」とも書かれており、これもやぶれたせかいの光景に似ている。

* 書きだしの描写に関連して、クセノポン『キュロスの教育』(3.1.38) から οὐ γὰρ κακονοίᾳ τοῦτο ποιεῖ, ἀλλ’ ἀγνοίᾳ「なぜなら彼は悪意からそれをするのではなく、無知によって (するのだから)」という一節を紹介しておくことはあながち興味なくもあるまい。そしてそれにはこう続く:ὁπόσα δὲ ἀγνοίᾳ ἄνθρωποι ἐξαμαρτάνουσι, πάντ’ ἀκούσια ταῦτ’ ἔγωγε νομίζω.「だが無知によって人が過ちを犯すのであるかぎり、それらの一切は (その人の) 意に反したものであると私は思う」。無知ゆえのこの若者の過ちもまた許されるべきであろうか。


ドイツ語版:Schleiedes Mythen

Ein junger Mann, naiv und unschuldig, kam in den Besitz eines Schwertes.
Mit diesem bedrohte er Pokémon aufs Grausamste, die ihm daraufhin aus Angst und Furcht Nahrungsmittel gaben.
Was er selbst nicht essen wollte, warf er achtlos, ohne einen zweiten Gedanken daran zu verschwenden, weg.
Im folgenden Jahr erschien kein einziges Pokémon. Seine Speisekammer blieb leer.
Der junge Mann machte sich auf die Suche nach den Pokémon und sein Weg führte ihn weit in die Ferne.
Er suchte lange. Und reiste immer weiter auf seiner Suche, bis er schließlich ein Pokémon fand.
Er fragte es: „Warum versteckst du dich?“ Worauf das Pokémon antwortete:
„Trägst du dein Schwert, um uns Gram zu bringen, so werden unsere Krallen und Zähne den Gram zurückzahlen.
Deinesgleichen wird für das Leid zahlen, das du uns verursachst. Denn dies muss getan werden.
Getan werden, um uns zu schützen. Und wir bedauern, dass es so kommen muss.“
Der junge Mann erhob seine Hände und rief bestürzt:
„Ich habe das Schwert gefunden, und so viel verloren.
Geblendet von der Macht, wurde ich blind gegenüber den Pokémon.
Ich werde niemals wieder den Blick verlieren. Ich verfluche dieses Schwert und gebe es auf.
Ich bitte um Vergebung. Vergebung, für einen von Macht geblendeten Narren.“
Und mit diesen Worten schwang der junge Mann sein Schwert und stieß es so heftig in den Boden, dass es zerbrach.
Das Pokémon sah dieses und verschwand an einen Ort, der sich jedem Auge entzieht...
ある若者がいた。純朴で無邪気だったのだが、剣を所有するようになった。
それでもって彼はポケモンたちをもっとも残虐なしかたでおびやかした。その結果それらは不安と恐怖から彼に食べものを与えた。
彼は自分が食べたいと思わないものは無頓着に投げ捨てた。それについて改めて考えを巡らすこともなかった。
その次の年、ただの 1 匹もポケモンは現れなかった。彼の食糧庫は空のままであった。
若者はポケモンを探しに出発し、その道のりはずっと遠くまで及んだ。
彼は長いこと探した。どんどん遠くまで探して旅した、とうとう 1 匹のポケモンを見つけるまで。
彼は尋ねた、「なぜ隠れるのか?」それにポケモンは答えて言った。
「おまえが剣を帯びてわれわれに悲嘆をもたらすならば、われわれの爪と牙がその悲嘆に報いるだろう。
 おまえと似た者が、おまえの引きおこすこの苦痛の報いを支払うだろう。そうなされねばならないからだ。
 そうなされるのだ、われわれ自身を守るために。残念だ、そうならねばならないことが」
若者は諸手を挙げ、狼狽して叫んだ。
「私は剣を見いだして、かくも多くのことを失ったものだ。
 力に目がくらみ、ポケモンに対して盲目になっていた。
 決して二度と見失うまい。この剣を呪い、私は放棄する。
 許してくれ。許してくれ、力に目がくらんでいた愚か者を」
これらの言葉とともに若者は剣を振り上げ、激しく地面に突き立てたので、その剣は砕け散った。
ポケモンはこれを見ると、あらゆる目から逃れる場所へと消えていった。
全体を 3 つの節に分けるとして、このドイツ語版の第 1 節ではポケモンを「殺す」という事実が他言語版よりも希薄になっている。ここでは剣による威嚇の Angst und Furcht「不安と恐怖」からポケモンたちは食料を差し出していることになっており、そのことの反映として第 3 節の 3 行めでは、ほかの版が「ポケモンが生きていること」のように言う部分から「生きている」や「命」に対応する語が唯一消えているのである。もちろん、aufs Grausamste「もっとも残虐なしかたで」という表現からは、この威嚇には殺害も含まれていたように推測されるが、婉曲であり後景に退いている (このことは次のフランス語版と対照するといっそう明白である)。


フランス語版:Le Mythe de Voilaroc

Un jeune homme, nocif autant qu’innocent, reçut la garde d’une épée.
Ainsi armé, il pourfendit les Pokémon pour s’en repaître jusqu’à la lie.
Il abandonna sans une pensée les corps de ceux qu’il ne voulait pas manger.
L’année suivante, aucun Pokémon ne se montra. Les réserves s’épuisaient.
La damoiseau voyagea loin, en quête des Pokémon disparus.
Il chercha longtemps, épuisant les terriers, jusqu’à enfin en rencontrer.
« Pourquoi vous cacher ? », demanda-t-il. Ce à quoi le Pokémon répondit...
« Si tu sors ta lame pour nous frapper. Nos griffes et nos crocs te puniront.
Nous punirons les tiens sans hésiter, car c’est pour nous la seule solution.
La seule solution pour nous protéger, et je suis contraint de m’en excuser. »
Le jeune homme implora les cieux, criant son désarroi.
« En gagnant cette épée, j’ai perdu la raison.
Ivre de puissance, j’ai méprisé la vie des Pokémon.
Je regrette cette épée et renonce à jamais à la sauvagerie.
J’implore votre pardon, je n’étais qu’un imbécile. »
Et sur ces mots, le jeune homme abattit son épée vers le sol et la brisa.
Voyant cela, les Pokémon s’enfuirent en un lieu à l’abri des regards...
ある若者がいた。無邪気でありながらも有害な者が、剣の管理を任されてしまった。
そうして武器を得ると、彼はポケモンたちを叩き斬った。食料にするためではあったが、残らず徹底的なまでに。
彼は考えもなしに、食べたいと思わないものたちの死体を打ち捨てた。
次の年、ポケモンは 1 匹も現れなかった。備蓄は尽きていった。
若人は遠く旅をした。消えたポケモンたちを求めて。
彼は長いこと探した。あらゆる巣穴をしらみつぶしにして、とうとう出くわすまで。
「なぜ隠れるのだ?」と彼は尋ねた。これにポケモンは答えて言った。
「おまえが刃を抜いてわれわれを襲うのなら、われわれの爪と牙がおまえに報いるだろう。
 われわれはおまえの仲間たちを躊躇なく襲うだろう。それが唯一の手立てだからだ。
 自分たちを守る唯一の手立てなのだ。それを詫びろというなら詫びよう」
若者は狼狽を叫び、天に向かって懇願した。
「この剣を得て、俺は正気を失っていた。
 力に酔いしれて、ポケモンたちの命を軽んじてしまった。
 こんな剣など持たねばよかった。俺は野蛮を永久に捨て去る。
 どうか許してくれ、俺は愚物でしかなかった」
こう言ってから、若者は自分の剣を地面に打ちつけ砕いた。
それを見るとポケモンは、人目から隠された場所へと逃げ去った。
この若者はほかの諸言語訳よりもはるかに非道で救いがたい悪漢になっている。ポケモンに対しては pourfendre「叩き斬る、一刀両断にする」という無慈悲な攻撃を、しかも jusqu’à la lie「とことん、徹底的に」、文字どおりには「最後の (かす) ひとつまで」殺しつくして容赦をしない。その結果残されるのは当然犠牲となったポケモンたちの corps「死体」であることを仏訳者は隠さずに語る。若者はほかの欧米語訳ではあくまで無知・未熟のために分別がないとされていたところ、フランス語版では最初から nocif「有毒・有害な」と言われているのもむべなるかな。内容のむごたらしさもさることながら、表現も古めかしく難しい単語をいくつも用いており、とうてい幼児向きの読みものではなくなっている

このような若者の無法ぶりに対応して、返答するポケモンの側の態度も辛辣で頑なになっている。ポケモンは若者の仲間・身内を「躊躇なく」攻撃すると宣言している。その最後のセリフ「詫びろというなら詫びよう」という箇所は例外的にずいぶん意訳してしまったのだが、直訳すれば「それについて詫びることを私は自分に強制する」、つまり嫌々詫びているのである。他言語版のこのポケモンは被害者でありながらも物わかりのいい態度・反撃することへのためらいを見せていたのが、フランス語版ではもはやその片鱗も見られない。

はたしてこれほど熾烈な対立、深刻な遺恨を残して物別れに終わった両者がこのさき関係を修復できるのだろうか。そのきっかけになりそうな唯一の手がかりは——これもフランス語版独自の点なのだが——後悔した若者がじつはそれまで perdre la raison「理性・正気を失う」という状態にあったらしいことだ。これではまるで呪いの剣のようではないか。だからといって若者の犯した所業が許されるわけでもないが、剣がなくなったことを確認してポケモンたちもいくらかは安堵したかもしれない。


イタリア語版:Il mito di Rupepoli

Un giovane, stolto e inesperto, entrò in possesso di una spada.
Con questa colpiva i Pokémon, che gli fornivano nutrimento, senza rimorso.
Quelli che non mangiava li gettava, senza alcun ripensamento.
L’anno successivo non apparve più nessun Pokémon e le riserve finirono.
Il giovane vagò alla ricerca di Pokémon.
Cercò e cercò, raggiungendo terre lontane, finché ne trovò uno.
Allora chiese, “Perché vi nascondete?”. Il Pokémon rispose...
“Se continui a girare con la spada e a farci del male, ci difenderemo con zanne e artigli.
A pagarne le conseguenze sarà la tua specie, perché così deve essere.
Questo deve essere fatto a nostra difesa e per questo ti chiedo scusa.”
Il giovane urlò rivolto al cielo per lo sgomento.
“Ho trovato questa spada, ma ho perso molto di più.
Avevo la pancia piena, ma non ho capito che i Pokémon si stavano estinguendo.
Non cederò mai più agli istinti. Abbandono qui questa rea spada.
Invoco il vostro perdono, perché sono stato stolto e sciocco.”
Così dicendo, il giovane scagliò la spada a terra, distruggendola in mille pezzi.
Vedendo ciò, il Pokémon sparì lontano, dove il giovane non poteva vederlo...
ある若者がいた。愚かで未熟なのに、剣を所有するようになってしまった。
これを用いて彼はポケモンたちを傷つけていた。それらは彼に食料を与えるものであり、良心の呵責はなかった。
彼は食べないポケモンは投げ捨てた、なんら深い考えもなしに。
その次の年、もはやポケモンは 1 匹も現れず、蓄えは尽きた。
若者はポケモンを探してさまよった。
探しに探し、はるかな土地まで至ったとき、ようやく 1 匹を見つけた。
そこで尋ねた、「なぜおまえたちは隠れるのか?」ポケモンは答えた。
「おまえが剣をもってうろつき、われわれに害をなすことを続けるなら、われわれは牙と爪で身を守ろう。
 (行いの) 結果に代償を支払うのはおまえの種族になろう。そうであらねばならない。
 防衛のためにそうなされねばならないのだ、そのことは許せよ」
若者は狼狽のために天を振り仰いでわめいた。
「私はこの剣を見いだしたが、それよりもずっと多くのことを見失っていた。
 腹は満たされていたが、ポケモンが滅びようとしているということを理解していなかった。
 もう二度と本能に屈することはしない。ここにこの邪悪な剣は捨て去る。
 どうか許してくれ、私が愚かで間抜けだったのだ」
このように言い、若者が剣を地に投げつけると、それは無数の破片に砕け散った。
それを見るとポケモンは、若者が見ることのあたわぬ遠くへと消えていった。
有意に異なる点は第 3 節に集中している。若者はこの長広舌の 2 行めで諸外国語版のように「力に溺れていた」と言うかわりに、まず自分たちが前年に飽食を経験していたことを明らかにしており、そのうえで彼の行いがポケモンの estinguersi「絶滅」を招こうとしていた、と認識している。これはただ現在目のまえにいて殺そうとしている個別的な「ポケモンが生きていること」の反省よりも数段高い視点であるが、理が勝ちすぎており倫理的に不満足であると感じる人もあるかもしれない。そして続く行において agli istinti cedere「本能に屈する」ことを以後は断つと誓っている。イタリア語版の若者はほかと比べて大局的な視野をもっており理知的であるという印象を受ける。


スペイン語版:El mito de Ciudad Rocavelo

Un joven, imprudente en su inocencia, recibió una espada.
Con ella, atacaba despreocupadamente a Pokémon, que le daban sustento.
Los que no se comía, los desechaba sin pensárselo dos veces.
Al año siguiente, no apareció ningún Pokémon. Las despensas menguaron.
El joven viajó muy lejos en busca de los Pokémon desaparecidos.
Anduvo durante mucho tiempo por incontables lugares, y encontró uno.
Le preguntó: “¿Por qué os escondéis?”. Y el Pokémon respondió:
“Si blandes tu espada contra nosotros para hacernos daño, nos defenderemos con uñas y dientes”.
“Nuestra venganza caerá sobre tu pueblo, porque así debe hacerse”.
“Debemos guardarnos de quien nos ataque y, por ello, te pido perdón”.
El joven gritó a los cielos desesperadamente.
“Al encontrar esta espada, he perdido demasiado”.
“Cegado por el poder, ignoré que los Pokémon tienen vida”.
“Nunca volveré a ser cruel. Rechazo y maldigo esta espada”.
“Os pido perdón, pues he sido un estúpido”.
Y al decir esto, el joven lanzó la espada al suelo y la partió.
Y así, el Pokémon desapareció y se marchó a un lugar inaccesible...
ある若者がいた。無知にあって無分別なのに、剣を受けとってしまった。
それを用いて彼は無頓着にポケモンたちを攻撃した。それが生活の糧を与えてくれるからだが、
食べないものについては、改めてよく考えもせずに捨ててしまっていた。
その次の年、ポケモンは 1 匹も現れなかった。食料の蓄えは減っていった。
若者はずっと遠くまで旅した、消えてしまったポケモンたちを探して。
数えきれないほどの場所を通って長らく歩きつづけ、1 匹に出会った。
そのポケモンに尋ねた、「なぜ隠れるのか?」するとポケモンは答えた。
「おまえが剣を振りかざしわれわれを傷つけるなら、われわれは爪と歯で身を守るだろう。
 われわれの報復はおまえの民に降りかかるだろう。そのようになされねばならない。
 われわれは攻撃してくる者から身を守らねばならない、そのことについては詫びよう」
若者は必死に天に叫んだ。
「剣と出会って、私はあまりに多くのことを失っていた。
 力に目がくらんで、ポケモンに命があることを無視してしまった。
 二度とふたたび残酷にはなるまい。私はこの剣を拒み、呪う。
 おまえたちには許してくれ、私が愚かだったのだ」
このように言って、若者は剣を地面に投げつけて折った。
するとポケモンは消え、人の近づけない場所へと立ち去っていった。
英語版とさしたる違いはないが、1 点だけ興味を引くのがポケモンの返事のなかで tu pueblo「おまえの民」と言われていることである。ポケモンから見た「おまえの民族=人間」と解することもできるとは思うが、一方でこの若者が指導者あるいは王として従える「民・国民」のようにも聞こえる。それでなくとも強力な武器をもち、有り余るほどの糧を得て人々の暮らしを支えられる者が指導的立場となるのは古代社会において自然な成りゆきだろう。


総括

  • 人間がポケモンと直接戦わない理由を説明した神話。
  • 日本語版は幼児向けの本だが、言語によっては大人向きのものもある。
  • ポケモンが人語を話しているように見えるのは本来の神話にない創作かもしれない。
  • ポケモンが身を隠したさきはこの世から見えない場所=やぶれたせかい?
  • ポケモンは殺されて食肉にされたのではなく、脅されて食料を奪われた解釈も可能。
  • ポケモンは絶滅の危機に瀕するまで殺されたとする解釈も有力。
  • 若者は人間の代表者=王であった?

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