田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』(岩波書店、新装版 2012 年) の練習問題の解答例。このページでは第 53 課から第 56 課までを扱う。
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LIII 可能性を示す希求法.数詞
§511. 練習問題 102
1. おお息子よ、おまえが父よりも幸運であるように、そしてほかの点では同様であるように。そうすればおまえは悪くない評判をとるだろう。〔途中までは XLIV 課和訳 1. と同文。〕
2. だがおそらく誰かが (こう) 言うだろう:私たちは一隻も船をもっていないのだから、いかにしてそうすることができようか、と。
3. 教育のないまま全生涯を終えることのかわりに、教育されてあることを誰が選ばないだろうか (=選ばない者がいるだろうか)。
4. どうしてそのことが起きたのかよく知っているけれども、私はあなたがたに話さないだろう。
5. 私を置いていかないでくれ、神々にかけて [お願いだから];私はひとりでいられないだろうから。
6. ああ、どうか父が私を見ないように。——だが君は父に知られずにいないだろう。
7. というのも、もし 1 人 (だけ) が彼らを堕落させ、ほかの者たちは (彼らを) 助けるならば、青年たちにはある大きな幸福がある (ことになる) だろう。〔『ソクラテスの弁明』12 章 (25b–c)。ソクラテスの裁判において、彼だけが若者たちを堕落させ、彼以外の市民は善導している、と言われた (というか言わせた) ことを受けた反論。〕
8. そうであればよいが、しかし私はその反対のことが起こりはしないかと恐れてある。〔『エウテュプロン』3a。〕
9. 牝獅子は、1 頭を産む [1 頭しか産まない] ことについて狐から非難されて、言った:「(たしかに) 1 頭だ、だが獅子の仔だ」。〔アイソーポス (イソップ) の寓話のひとつ。数よりも質ということ。私は以前に「谷口訳『中世アルメニア寓話集』「雌獅子と狐」の誤訳」という記事で、同じ寓話の中世アルメニア語版を読んで検討したことがある。寓話じたいはたいへん短いもので、記事の最後に翻訳のまとめがあるので、アルメニア語に関心のないかたは途中は飛ばしてご覧になるとよい。〕
§512. 練習問題 103
1. πῶς ἂν τὰ πολλὰ ποιεῖν δυναίμεθα ἐν βραχεῖ χρόνῳ ;
2. ἴσως (δ’) ἂν λέγοις τόδε.
3. τίς οὐκ ἂν ἥδοιτο ἐπαινούμενος ὑπὸ τῶν ἄλλων.
4. ἔτι νέῳ ὄντι σοι οὐκ ἂν πρέποι ταῦτα ποιεῖν.
5. πολλάκις ἐξ ἑνὸς ἁμαρτήματος γίγνονται πολλαὶ συμφοραί.
LIV 形容詞の不規則な比較
§515. 練習問題 104
1. 名声や名誉よりも徳は美しい。
2. 若者たちは老人たちよりも希望をより美しいものとしてもっている。
3. その娘たちは母よりも容姿の点で美しいと彼らは言っている。〔τὴν ἰδέᾱν は限定 (観点) の対格。cf. XLIV 課注 3。〕
4. 敵がより多いほど、それだけいっそうそいつらを討ったときの諸君にとっての栄誉は大きいだろう。
5. 諸国家にとって内乱よりも大きな悪は存在しない。
6. あらゆる快楽よりもソークラテースはよりよい;他方多くの者たちは快楽よりも悪い。
7. しばしば貧乏は人間をよりよいものにする。〔しかし「貧すれば鈍する」という言葉のとおり、逆のことも多いのではないか。〕
8. 優れた者たちよりも、より劣った者たちが時によるとより幸運である。
9. 足は速いが、風はもっと速く、精神はもっとも速い。
10. 何者も時より優れた忠告者ではない。〔なにか決断や行動を起こすまえに時間を置けということだと思う。時間が経つことで考えが変わったとすれば、それは時間が忠告をくれたとも言える。〕
§516. 練習問題 105
1. τοῦ θανάτου οὐκ ἔστι μεῖζον κακὸν τοῖς πολλοῖς.
2. ἐμοῦ ἔχεις σὺ τὴν κόμην καλλῑ́ω [καλλῑ́ονα].
3. οἱ Πέρσαι πολλῷ πλείους [πλείονες] ἦσαν τῶν Ἑλλήνων.
4. ἕτοιμοί ἐσμεν μείζω [μείζονα] κίνδῡνον ὑπομένειν.
5. θᾱ́ττων ὁ νοῦς ἢ οἱ ἄνεμοι.
LV 普遍的または反復的想定をあらわす条件文
§521. 練習問題 106
1. あるいは哲学者が統治するか、あるいは王が哲学するかでなければ、諸国家にとって悪の止まることはない。〔プラトン『国家』473c–d をかなり短く切りつめた文。〕
2. なんであれやりはじめたことについてはカイレポーンは熱心だった。
3. 蝿や蚋が蜘蛛の巣に陥るといつでも捕まえられる。
4. ありとある言葉は、(対応する) 事物が存在しないならばいつでも、無意味に見える。〔それぞれの言葉に「対応する」と補ったのは私の解釈で、ヴィトゲンシュタインの写像理論のような主張かと理解している。「およそ事物というものが存在しない」という仮定だとしたら、普遍的想定ではなく反実仮想で表すのではないか?〕
5. ソークラテースにはあらゆるうまい飲みものがあった、なぜなら彼は渇かなければ (いつも) 飲もうとしなかったので。
6. もし君が若いときに苦労すれば、繁栄した老年をもつだろう。
7. もし知性がそこにないならば、学問は何物でもない。〔παρῇ は πάρειμι の接続法現在 3 単。〕
8. もし彼が大きく強かろうと、小さく弱かろうと、善良な人は幸福である。
9. そんなようなことをしている者は誰であれ死に値すると少なくとも私には思われる。
10. ミダース (王) が手であれ足であれ触れたものはなんでも黄金に変じたものだった。〔未完了過去は「〜したものだった」という習慣。〕
§522. 練習問題 107
1. δοκεῖ μοι μῶρος ὅστις ἂν τὰ τοιαῦτα λέγῃ.
2. ἐᾱ̀ν ὁ παῖς κλαίῃ, αὐτῷ ἡ μήτηρ δίδωσι τὸ μέλι τὸ γλυκύ.
3. ἐᾱ̀ν συμμάχους ἔχωμεν τοὺς θεούς, ᾱ̓εὶ νῑκῶμεν τοὺς πολεμίους.
4. ἐπίστευεν ὅστις δοκοίη αὐτῷ πιστός.
5. χρηστόν τί μοι συνεβούλευεν, ὅτε ἀποροίην.
LVI 副詞.副詞の比較
§528. 練習問題 108
1. (そのなかで) 有益な者たちが尊敬されているようならば (いつでも) その国家は非常によく治められている。〔τῑμῶνται は直説法と同形だが接続法現在にとり、ἄν とあわせて普遍的条件文に準ずる関係文 (§§519f.) とみなす。〕
2. まことに、そのときには誰かが私を正当にも裁判所へ訴えるだろう。〔『ソクラテスの弁明』17 章 (29a)。τότε「そのときには」を条件文の前文のかわりとみなせる。〕
3. すべての人間は幸せであることを欲する。〔注 2 に εὖ πρᾱ́ττω が語釈されているが、すでに XLIV 課の練習問題で学んだことなのに繰りかえす必要はない。もっとほかに注をつけてほしいところがいくらでもある。〕
4. ゆっくり急げ:よりゆっくり進んでいるとき (こそ) より速く進むのだから。〔ラテン語で Festina lente.「急がば回れ」のこと。〕
5. アリストテレースは感謝は早く老いると言っている。〔ディオゲネス・ラエルティオス『哲学者列伝』5.1.18。同じくアリストテレスの発言として、ずっとまえに XI 課和訳 3. で「教育の根は苦いがその果実は甘い」という言葉を見たがこれも同じ箇所が典拠で、その直後に続くのが本問の文。〕
6. 私たちは他人の過ちは自分の (過ち) よりもより容易に目のなかにもつ (=目につく)。
7. 私はあなたがたの栄誉を自分の危険よりもより少なく考慮することはしない。
8. われわれは現在では昔よりもより安全に、より危険少なく海を渡っている。
§529. 練習問題 109
1. ταῦτα ἄν σοι λέγοιμι σαφέστερον.
2. ἅμα τῇ ἡμέρᾳ θᾶττον πορεύσονται.
3. μᾶλλον φοβούμεθα τοὺς θεοὺς ἢ τοὺς ἀνθρώπους.
4. πᾶσιν ἀρέσκει ἡ ᾠδή, ἄριστα δὲ ταῖς Μούσαις.
5. ὡς ἂν τάχιστα ποιήσαιμεν [ποιοῖμεν] (ταῦτα) ἃ κελεύσειας [κελεύοις].
§530. ΠΙΘΗΚΟΙ ΟΡΧΗΣΤΑΙ〔猿の踊り子〕
(1) あるエジプト人の王がいつか猿たちに踊ることを教えた。
(2-1) するとその獣たちは、はなはだ熱心に人間たちを真似るので、たちまちに学んで立派に踊りだした、衣装と面をまとって;〔μαθόντα は μανθάνω の第 2 アオリスト能動分詞・中性複数主格。〕
(2-2) そして長いあいだこの猿たちは大いに好評を博していた;
(2-3) だが最後にさる機知のある見物人が、クルミの実を懐にもっていて、(猿たちの) 真ん中へ投げこんだ。
(3-1) すると (それを) 見た猿たちは踊りをやめ、踊り子ではなく (もとの) 猿になった;〔この箇所の注 5 も蛇足。「やめる」という動詞に分詞の補語を伴うことは LI 課の本文 §486 で、まさに同じ παύομαι + 現在分詞の例文で説明されてある。〕
(3-2) そして衣装も面も脱ぎ捨てて、クルミをめぐって互いに争いはじめた。
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