jeudi 5 août 2021

Chapman『古アイスランド語読解演習』第 2 課

Kenneth G. Chapman, Graded Readings and Exercises in Old Icelandic, 1964 の Lesson 2 の翻訳。ここに現れる「エギルのサガ」第 50 章は、Byock and Gordon では Lesson 3 で使われており、そこの本文の節立てはやはり本課と酷似して 3.1「独立定冠詞」、3.2「弱変化形容詞の男性単数」、3.3「弱変化男性名詞単数」、3.4「名詞 sonr (-son)」、3.5「2 音節の形容詞と名詞」となっている。違いは、そちらでは主格と属格だけでなく与格・対格もすべて扱われていることと、説明が懇切丁寧になっていること、そして 3.6 節以降に続けて新たな文法事項が盛りこまれていることであるが、やはり Chapman を下敷きにしている点は疑えないようだ。

「エギルのサガ」の翻訳は谷口幸男訳『アイスランド サガ』(新潮社、1979 年) に所収のようだが、やはりこれも絶版で入手しづらくあいにく参照できなかった (まだ参考に必要なほど難しい文章ではないけれども、前後も読んでみたいしぜひともほしいのだが)。



第 2 課
エギル・スカッラ゠グリームスソンのサガ (第 50 章) より

Elfráðr inn ríki réð fyrir Englandi; hann var fyrstr einvaldskonungr yfir Englandi; þat var á dǫgum Haralds ins hárfagra, Nóregs konungs. Eptir hann var konungr í Englandi sonr hans Játvarðr; hann var faðir Aðalsteins ins sigrsæla, fóstra Hákonar ins góða.

エルフラーズ大〔王〕はイングランドを治めていた;彼はイングランドの最初の君主だった;それはノルウェー王であるハラルド美髪〔王〕の日々〔=時代・治世〕のことだった。彼のあとにイングランドの王であったのは彼の息子ヤートヴァルズだった;彼はアザルステイン勝利〔王〕の父だった、〔そしてアザルステインは〕ハーコン善〔王〕の養父だった。

〔訳注:エルフラーズは英語ではアルフレッド (大王)、ヤートヴァルズはエドワード (長兄王)、アザルステインはアゼルスタンである。同格の説明が多く、とくに最後の一文は繰りあげて訳せば「彼はハーコン善王の養父アザルステイン勝利王の父だった」ということになるが、原文の語順を尊重し、かつその順番に提示するほうが親子・年代の関係が見やすくなると考えて上のように訳しておいた。ちなみにアゼルスタンがハーコン善王の養父、言いかえるとハーコンは幼いころアゼルスタンの宮廷に送りこまれていたという話は、このサガのごとくノルウェー側の文献にのみ言われており、同時代のアングロサクソン側の資料にそれを裏づける記述はいっさいないらしい。〕

2.1—独立定冠詞


定冠詞の単数主格および属格の形はそれぞれ inn と ins であり、-nn に終わる強変化名詞・形容詞の形に対応している (e.g. Þorsteinn, vænn〔とそれらの属格形を比べよ〕)。定冠詞はそれが形容詞に先行するとき独立した位置に立つ。

2.2—弱変化形容詞の男性単数主格・属格


形容詞が定冠詞もしくはほかの限定する語 (指示代名詞や所有形容詞) に先立たれるとき、伝統的に「弱変化」形と呼ばれている形をとる。弱変化形容詞の語尾は強変化形容詞のそれとは異なっており、男性単数主格では -i、男性単数属格では -a である:inn ríki, ins góða。

2.3—弱変化男性名詞の単数主格・属格


形容詞の弱変化に対応するのは弱変化名詞の屈折である:主格 hǫfðingi (読解 1)、属格 fóstra。これらの名詞はいずれも男性である。多くの男性の名前は弱変化である、たとえば Helgi, Gísli, Ingi;属格 Helga, Gísla, Inga。弱変化男性名詞の単数主格・属格の語尾は、弱変化形容詞の対応する語尾と同一であることに注意せよ。

2.4—変化表の復習:弱変化男性名詞・形容詞の単数主格・属格


   名詞 形容詞
主格 -i   -i
属格 -a  -a

2.5—名詞 sonr (-son)


息子を意味する語の単数主格形は不規則である。それが人名の属格形にくっついて現れる場合 (たとえば Egilsson など)、決して通常の男性単数主格語尾 -r をとらない。独立に現れる場合 (読解 2 にあるように)、しばしば語尾をもつ。単数属格形はつねに sonar である。

2.6—2 音節の形容詞


2 音節の形容詞が母音の語尾をとる場合、第 2 音節の母音は消失する。たとえば mikill の弱変化男性単数主格形は〔*mikili ではなく〕mikli である。これは第 2 音節に -að- をもつ分詞形 (cf. 4.5 節) を例外として、すべての形容詞について正しい。

練習問題


1. 必要ならば語尾を埋めなさい:

a) Mað__ hét Helgi. Hann var sonr Hákon__, Nóreg__ konung__. Helgi var væn__ mað__ ok vitr__.

b) Móðir Helg__ hét Ásgerðr, dóttir Þorstein__ in__ auðg__, rík__ mann__ ok góð__.

c) Aðalstein__ var sonr Harald__ in__ góð__, hersi__ rík__ í Nóregi.

d) Játvarð__ in__ góð__ var góð__ mað__ ok sigrsæl__.

e) Egil__ in__ mikl__ hét hersi__, sonr Þorstein__ in__ mikl__.

2. 適した名前と形容詞を埋めなさい:

a) ______i ___n ______i hét ______r. Hann var sonr ______s ___s ______a, ______s ___s ok ______s.

b) 2 つの名前を入れかえ、異なる形容詞を用いて a) をやりなおしなさい。

〔解答〕


1. a) Maðr hét Helgi. Hann var sonr Hákonar, Nóregs konungs. Helgi var vænn maðr ok vitr.
    b) Móðir Helga hét Ásgerðr, dóttir Þorsteins ins auðga, ríks manns ok góðs.
    c) Aðalsteinn var sonr Haralds ins góða, hersis ríks í Nóregi.
    d) Játvarðr inn góði var góðr maðr ok sigrsæll.
    e) Egill inn mikli hét hersir, sonr Þorsteins ins mikla.

2. a) Helgi inn auðgi hét konungr. Hann var sonr Egils ins ríka, góðs manns ok væns.
    b) Gísli inn mikli hét hersir. Hann var sonr Gríms ins vitra, gǫfugs manns ok ágæts.
〔別解多数。ただし、b) の問題は a) で使った 2 つの名前を入れかえよという指示であるが、指定されている語尾が前半の文では主格 -i、つまり弱変化の名前で、後半では属格 -s、つまり強変化の名前になるから、この指示に従うことは不可能である。語尾を無視して記入してよいなら (私の解答例では) Egill と Helga。〕

語彙の復習


名詞 (すべて男性) faðir「父」、fóstri「養父」、konungr「王」、Nóregr「ノルウェー」、sonr「息子」

形容詞 fyrstr「最初の、第 1 の」、góðr「よい」、sigrsæll「勝利の」

代名詞 hann「彼を〔対格〕」、hans「彼の〔属格〕」、þat「それ」

前置詞 eptir「〜の後に」

句 á dǫgum「日々に」、í Englandi「イングランドで」、konungr yfir「〜の王」、hann réð fyrir「彼は〜を治めた・支配した」

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