mardi 10 août 2021

Chapman『古アイスランド語読解演習』第 7 課

Kenneth G. Chapman, Graded Readings and Exercises in Old Icelandic, 1964 の Lesson 7 の翻訳。「オーラーヴ・トリュッグヴァソンのサガ」はスノッリの『ヘイムスクリングラ』に含まれている版で、邦訳は谷口訳『ヘイムスクリングラ—北欧王朝史— (二)』(プレスポート、2009 年;Kindle 版あり) に収められている。私はこれにはよらず、Finlay and Faulkes (2011) と Hollander (1964) の英訳を参照し、とくに前者の脚注は大いに参考になった。



第 7 課
オーラーヴ・トリュッグヴァソンのサガ (第 108 章) より

Þá mælti Eiríkr jarl við þann mann, er sumir nefna Finn, en sumir segja, at hann væri finnskr—sá var inn mesti bogmaðr—: “Skjóttu mann þann inn mikla í krapparúminu.” Finnr skaut, ok kom ǫrin á boga Einars miðjan í því bili, er Einarr dró it þriðja sinn bogann. Brast þá boginn í tvá hluti. Þá mælti Óláfr konungr: “Hvat brast þar svá hátt?” Einarr svarar: “Nóregr ór hendi þér, konungr.” “Eigi mun svá mikill brestr orðinn,” segir konungr, “tak boga minn ok skjót af”—ok kastaði boganum til hans. Einarr tók bogann ok dró þegar fyrir odd ǫrvarinnar ok mælti: “Of veikr, of veikr allvalds bogi”—ok kastaði aptr boganum, tók þá skjǫld sinn ok sverð ok barðisk.

そのときエイリーク侯は話しかけた、ある者たちがフィンと名づけており、またある者たちは彼がフィン人であると言っているところの男に。彼は最大の弓使いだった。「〔敵船の〕弓座にいるあの大男を射よ」〔と侯は命じた〕。フィンは射た、すると矢はエイナル〔=大男・敵の射手〕の弓の中央にあたった、エイナルが 3 度めに弓を引いたその瞬間に。その弓は 2 つの部分に壊れた。そのときオーラーヴ王が言った:「そこでそれほど大きな音を立てて壊れたのは何か」。エイナルが答える:「ノルウェーがあなたの手から、王よ」。「それほど大きな破壊〔音〕が起こったようではないが」と王が言う、「余の弓をとり、〔それ〕で射よ」と。そして〔王は〕弓を彼〔=エイナル〕に投げた。エイナルは弓をとり、すぐに矢の点を越えるまで引いて、言った:「あまりに弱い、あまりに弱い、最高権者の弓は」と。そしてその弓を投げ返し、それから自分の盾と剣とをとり、〔みずから〕戦った。

〔訳注:「弓座」と暫定的に訳しておいた語 krapparúm は文字どおりには「狭い空間」の意。Finlay and Faulkes の注によれば、船尾にあってふつう操舵手もしくは船長が立つ fyrirrúm のそばにあるスペースのようだ。Chapman では ‘bow-room’ と語釈されており、実際に射手エイナルが陣取っている場所であることを考慮して意訳しておいた。

さて章の途中からなので状況がわかりにくいが、この抜粋のまえにエイナルが 2 度弓を射ており、エイリーク侯に直撃しかけている。それゆえ「エイナルが 3 度めに弓を引いた」というのは「3 射めを撃とうとしていた」という意味である。その瞬間、弓の中央を狙撃して弓を真っ二つに折ったというのだから、まさにわが国の那須与一を思わせる神業である。屋島の戦いは 1185 年だが、ここに描かれている戦いはちょうど西暦 1000 年にあったスヴォルドの海戦である。エイナルの口を借りて「ノルウェーがあなたの手から (落ちて壊れたのです)」と語られているように、この戦いでオーラヴ王は戦死、このとき乗っていた自慢の船は勝者エイリークの所有となり、領地はさまざまな勢力に分割された。〕

7.1—弱変化男性名詞・形容詞の単数与格・対格


弱変化男性名詞と形容詞は、与格・対格いずれも -a に終わる:boga (与・対);inum óœðra (読解 6)〔与格〕;mann þann inn mikla〔対格〕。

冠詞が弱変化名詞にくっつくとき、最初の i- は名詞の末母音のあとで消失する:主格 boginn、与格 boganum、対格 bogann (cf. 3.3.4, 6.7 も見よ)。

7.2—変化表の復習:弱変化男性名詞・形容詞の単数語尾 (cf. 2.4 節)


   名詞 形容詞
主格 -i   -i
属格 -a  -a
与格 -a  -a
対格 -a  -a

7.3—弱変化形容詞の中性単数与格・対格


弱変化形容詞の中性単数与格・対格も -a で終わる。対格形は読解 7 に例示されている:it þriðja sinn。これは主格形でもある、というのはこの点でも中性の主格と対格は同一だからである (cf. 3.2.3, 3.3.1)。中性の主格と対格の変化はどんな場合も同一である。弱変化形容詞の中性単数与格形も -a で終わる:

マグヌス・エルリングスソンのサガ (第 16 章) より

Eysteinn var vígðr á sama ári ok Ingi konungr fell.

エイステインはインギ王が倒れたのと同じ年に叙任された。

7.4—変化表の復習:弱変化形容詞の中性単数語尾 (cf. 3.4 節)


主格 -a
属格 -a
与格 -a
対格 -a

7.5—弱変化中性名詞


弱変化男性名詞・形容詞の変化との類比によって、弱変化中性形容詞の変化とまったく同じ語尾をもつ弱変化中性名詞の変化もあることが期待されよう。そういう弱変化中性名詞も存在はするのだが、ほんの少数であって、いずれもこれまでの読解には現れたことがなく、またそれらの大部分は身体部位を意味するものである:hjarta「心臓」、auga「目」、eyra「耳」、lunga「肺」など。

7.6—命令法


動詞の命令法 2 人称単数形は裸の現在幹である:tak (不定詞 taka)、skjót (不定詞 skjóta)。代名詞 þú はときに命令形の後ろにつき、しばしばそれと同化する:skjóttu = skjót + þú。

7.7—語幹の変形


アイスランド語の少なからぬ単語の語幹は -v- または -j- に終わり、いかなる〔変化〕形においてもその出現はそれに後続する語尾の音声的性質によって決定される。われわれはこのことの例をすでに見ている。a) 名詞:主格 ǫr、属格〔定形〕ǫrvarinnar;b) 動詞:不定詞 segja、現在 3 単 segir、過去 3 単 sagði;不定詞 biðja、現在 3 単 biðr、過去 3 単 bað。

可変語幹末の -j- は〔上例では segja, biðja という動詞だけだったが〕名詞でも現れる。たとえば、

 男性:niðr「親戚」(複数属格 niðja)
 女性:ey「島」(複数属格 eyja)
 中性:ríki「力」(複数属格 ríkja)

可変語幹末の -v- は〔上例では名詞 ǫr だけだったが〕動詞でも現れる。たとえば、

 不定詞 syngva「歌う」(現在 3 単 syngr、過去 3 単 sǫng)

幹末の -j-, -v- の出現の規則:

 1—-j- も -v- も、それが語幹にあるときは、語尾 -a の前に生じる。
 2—-j- は -i の前には生じない;-v- は -u の前には生じない。
 3—-j- も -v- も、子音語尾の前には生じない。
 4—-j- も -v- も、語尾がないときには生じない。

幹末の -j-, -v- はいくつかの形容詞や代名詞でも現れる:miðr「真ん中の」からの miðjan (-an という語尾の説明は第 8 課)、þriði「第 3 の」からの þriðja;代名詞 hverr は幹末に -j- をもつ (読解 8 の諸形を見よ)。

7.8—過去分詞の作りかた


1—弱変化動詞

弱変化動詞の過去分詞は動詞の語幹に歯音接尾辞をつけることで作られ、過去形の作りかたの場合と同じ原則 (cf. 3.7.1) に従う。

形容詞として使われるとき、分詞の語幹はつねに適当な形容詞語尾をとる:víðgr (4.5 も見よ)。中性単数主格・対格では歯音接尾辞は語尾 -t- を付すまえにつねに脱落する。この形は hafa による複合時制でも使われる:hann hafði sagt「彼は言っていた〔過去完了〕」(歯音接尾辞は -ð-:sagði)、hann hafði mælt (歯音接尾辞は -t-:mælti)、hann hafði dœmt「彼は判定していた」(歯音接尾辞 -d-:dœmdi)、hann hafði kastat (歯音接尾辞 -ð- の前につなぎ母音:kastaði)。

2—強変化動詞

強変化動詞の過去分詞は規則的に、分詞語幹 (現在または過去単数幹と同じ母音をもつこともあるし、違う母音のこともある) に定冠詞と形において同一の語尾を付すことで作られる:verða から orðinn (読解 7 では男性名詞 brestr の単数主格形を修飾している)。弱変化動詞の場合と同様、中性単数主格形は複合時制に用いられる:hann hafði verit (c.f. 読解 4.7)。

練習問題


語尾を埋めなさい:

1. Egil__ stóð upp af in___ stór__ bekk__ ok kvadd__ mann____.

2. Eystein__ stóð á inu stór__ skip__ ok barðisk.

3. Einar__ kast__ð__ in___ sam__ bog__ aptr til Óláf__ konung__.

4. In__ stór__ bog__ brast.

5. Einar__ tók in__ veik__ bog__ ok dró h____.

6. Gísl__ bjó í in___ fegrst__ firð__ á Ísland__.

7. Gunnlaug__ var kalla___ ormstunga (蛇の舌).

8. Skip___ hafð__ ver___ kalla__ Ormrinn langi (長蛇).

9. 過去 3 単で与えられている以下の動詞の過去完了時制 3 単を書きなさい:hann horfði, hann lýsti, hann svaraði, hann sagði, hann nefndi, hann hafði, hann mælti, hann vígði.

10. 問題 9 の弱変化動詞の過去分詞の男性単数主格形を書きなさい。

11. 以下の不規則な弱変化動詞の現在 3 複、3 単、命令法 2 単の活用形を書きなさい (cf. 7.7, 7.6, 6.9.1, 4.8):hyggja, spyrja, kveðja, flytja, vekja, berja (hann ____, þeir ____, ____þú)。
〔3 複と 3 単が言葉の指示とは逆順で書かれているが、3 複が先のほうが簡単。また ____þú はスペースなしで書かれているが、同化に悩まず分離独立した命令法 2 単だけで答えてよい (同化するなら þ という指定は不可能だし、そもそも同化の規則が十分に説明されていないので;詳しいことを知りたい読者はたとえば Barnes, A New Introduction to Old Norse 1, p. 63 を見るとよい)。〕

12. 以下の強変化動詞の現在 3 複、3 単、命令法 2 単の活用形を書きなさい:biðja, þiggja, sitja, svíkja, liggja, sverja, deyja, hǫggva, søkkva, tyggva.

〔解答〕


1. Egill stóð upp af inum stóra bekk ok kvaddi manninn.

2. Eysteinn stóð á inu stóra skipi ok barðisk.

3. Einarr kastaði inum sama boga aptr till Óláfs konungs.〔読解にあるように kasta「投げる」の目的語は与格。〕

4. Inn stóri bogi brast.

5. Einarr tók inn veika boga ok dró hann.

6. Gísli bjó í inum fegrsta firði á Íslandi.

7. Gunnlaugr var kallaðr ormstunga.

8. Skipit hafði verit kallat Ormrinn langi.〔「長蛇」Ormrinn langi とはこの課の読解でオーラヴ王とエイナルが乗っている船の名前。〕

9. hann hafði horft, hann hafði lýst, hann hafði svarat, hann hafði sagt, hann hafði nefnt, hann hafði haft, hann hafði mælt, hann hafði vígt.

10. horfðr, lýstr, svaraðr, sagðr, nefndr, hafðr, mæltr, vígðr.

11.〔現在 3 複—現在 3 単—命令 2 単〕
    hyggja—hyggr—hygg〔弱変化 I 類:思う〕
 spyrja—spyrr—spyr〔I 類:尋ねる〕
 kveðja—kveðr—kveð〔I 類:呼び出す〕
 flytja—flytr—flyt〔I 類:動かす〕
 vekja—vekr—vek〔I 類:起こす〕
 berja—berr—ber〔I 類:殴る〕

12.〔現在 3 複—現在 3 単—命令 2 単〕
 biðja—biðr—bið〔強変化 V 類:求める〕
 þiggja—þiggr—þigg〔V 類:受けとる〕
 sitja—sitr—sit〔V 類:座る〕
 svíkja—svíkr—svík〔I 類:騙す〕
 liggja—liggr—ligg〔V 類:横たわる〕
 sverja—sverr—sver〔VI 類:誓う〕
 deyja—deyr—dey〔VI 類:死ぬ〕
 hǫggva—høggr—hǫgg〔VII 類:切り倒す〕
 søkkva—søkkr—søkk〔III 類:沈む〕
 tyggva—tyggr—tygg〔III 類:噛む〕
〔参考までに活用分類と意味を補足した。弱変化動詞は 3 類、強変化動詞は 7 類に分かれるのだが、この本ではそこまで説明されないので読み流してもよい。〕

語彙の復習


名詞 男性 bogi「弓」、bogmaðr「弓使い」、jarl「侯、伯」、oddr「点、先端」、skjǫldr「盾」
   女性 ǫr(-v-)「矢」
   中性 ár「年」、bil「瞬間」、sinn「回、度」、sverð「剣」

形容詞 finnskr「フィン人の」、mestr「最大の〔mikill の最上級〕」、miðr(-j-)「真ん中の」、samr「同じ」、sumir (複)「何人かの」、veikr「弱い」、þriði「第 3 の」、minn「私の」、sinn「彼の (主語〔と同じ人〕を指す)」

代名詞 sá「あの、その」

接続詞 er「〜するところの人・もの〔関係代名詞〕」、ok「〜と〔英 same as の as〕」

副詞 aptr「返して」、eigi「〜ない」、hátt「声高に、うるさく」、of「あまりに」、þegar「すぐに、ただちに」

前置詞 í (+対格)「〜の中へ」

動詞 (これ以後各課の動詞は不定詞・過去 3 単・過去分詞形を並べて示す)

強変化 bresta—brast—brostit「壊れる」
    draga—dró—dregit「引く、引っぱる」
    falla—fell—fallit「倒れる、落ちる」
    koma—kom—komit「来る」
    skjóta—skaut—skotit「撃つ、射る」
    taka—tók—tekit「とる」
    vera—var—verit「〜である」
    verða—varð—orðit「起こる、生じる」(注意:o の前で v が消失する)

弱変化 kasta—kastaði—kastat「投げる」
    mæla—mælti—mælt「話す」
    nefna—nefndi—nefnt「名づける、呼ぶ」
    segja—sagði—sagt「言う」
    svara—svaraði—svarat「答える」

句 at mæla við「〜に話す」
  ór hendi þér「あなたの手から」(〔þér は〕利害の与格)
  í því bili「その瞬間に」(því は þat の与格)
  hann barðisk「彼は戦った」

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