mercredi 25 octobre 2017

Eisegesis の訳語について

聖書解釈の分野に eisegesis という言葉があることを最近知った.鋭い人ならつづりからただちに見てとるかもしれないが,これはギリシア語に由来する exegesis の接頭辞 ex- (ἐξ- = ἐκ-, 外へ) を反対の eis- (εἰσ-, 中へ) に置きかえたつくりになっている.

その意味は,英語版 Wikipedia によれば「テクストもしくはその一部分を解釈するさい,自分自身のもつ前提や意図あるいは偏見を,そのテクストの中に/上に取り入れる解釈手続き」である.Exegesis のほうは本来の著者が意図した意味あいをその文脈に即して読みとる作業で,正しく運用すればなにぶんか「客観的」な手続きであるが,対して eisegesis は多分に主観的である.そして eisegesis をする人を意味する eisegete という言葉は「少し軽蔑的に用いられる」と言うが,それはこれらの単語が「その解釈は勝手な前提を読み込んでいるよ」という非難を含んで使われるのだから当然のなりゆきだろう.

これは余談めくが,英語版 Wikipedia によれば eisegesis の英語での発音は /ˌaɪsəˈdʒiːsəs/ だという.英語で ei をアイと発音するのはわりと例外的なことで,eight, weight, freight のようにエイと読むか,either や seize のようにイーというのが普通だろう (もっとも either はアイザーと読む場合もあるようだが).聖書学はドイツの影響も大きいのでドイツ語の干渉だろうか?

さて聖書学で exegesis はふつう「釈義」と訳されることになっているが,eisegesis のほうには日本語の定訳がないようだ.この言葉を日本語の文献で目にする機会は少ないが,少し調べてみると「恣意的な読み込み」や「主観的釈義」のような説明的な訳語でまかなっているように見える.英語でも ‘reading into’ と言うとおりたしかに「読み込み」でも十分意味は伝わると思うが,原語が eisegesis というギリシア語ふうのお堅い字面であることと,exegesis と対になる単語であるという事情に鑑みれば,どうにか訳語でも「釈義」との対応を見た目に感じられる漢字 2 文字の熟語で表したいところである.これがここで私のとる翻訳方針である.

そのためまず exegesis の「釈義」という訳語に立ち戻って検討してみよう.「釈」という漢字の意味は「解釈」や「注釈」に見られるとおり「ときあかす」であり,「義」とはもちろんここでは「ただしい」ではなく「字義」や「原義」に見られる「意味」という意味である.すなわち「釈義」とはテクストの「意味を解き明かす」ことを言う.

一方そもそも exegesis とはギリシア語 ἐξήγησις に由来し,この大元は ἐξηγεῖσθαι という動詞である.すでに触れたようにこれは ἐξ-「外へ」という前つづりと,ἡγεῖσθαι なる動詞 (これは中・受動態不定詞で,直・中受・1 単にすると ἡγοῦμαι) からなっているが,この動詞の意味は「前を行く,先行する」あるいはそこから「導く,先導する」ということであるから,あわせて ἐξηγεῖσθαι は「導き出す」の意である.その名詞形である ἐξήγησις はもちろん「導き出し=導出」のことであって,じつはこのなかに「意味=義」という字 (その意味に対応する形態素) はないことがわかる.

だからといってもはや固まった訳語である「釈義」の「義」は余計だというわけにはいかず,これはこれですっきりと完成された用語というべきだろう.したがってわれわれはこの「義」の字を尊重しつつ,「○義」という形で eisegesis の訳語を提案することが正道であるように思われる.

テクストから意味を「外に取り出す」ことが exegesis であった.この反対に「中に入り込む」ことが前つづり eis- のイメージであるから,このようなニュアンスを感じさせる 1 文字が望ましい.「侵入」「侵略」の「侵」という字を使って「侵義」というのはいかがだろうか.この字は「中へ攻め入る」という方向性と同時に「そこを侵し傷つける」という意味を両立しており,eisegesis の「前提や先入観を含んだ意味の恣意的な読み込み」すなわち本来の意図の侵害・毀損という含意をなにほどか表しえているように自負している.あるいは「込」の字に音読みがあれば「込義」も可能だったかもしれないが,この字は国字なのでそうはゆかなかった.

私は趣味でときどき Wikipedia の外国語版から日本語版への翻訳記事を作るという作業を細々と続けているのだが,英語版・ドイツ語版・オランダ語版など合計 8 言語で立項されている eisegesis の Wikipedia ページを見て今回のようなことを思いたったのであった.このうち英語版・アフリカーンス語版そしてなかんずくドイツ語版は翻訳されるに値する十分な内容をもった記事なのだが (私はウィキペディアンとしていわゆる包摂主義者なので),これを訳そうにも「読み込み」というふわふわした字面で立項するのは都合が悪いし (コンピュータ用語の ‘loading’ のこととも思われかねない),まして私が勝手に考案した新造語をページ名にするなどもってのほかである.いつの日か日本語版 Wikipedia で eisegesis の項目ができることを祈念して,そのたたき台としてこのようなことを web の片隅に書いておくのも無駄ではないだろう.

dimanche 22 octobre 2017

FEH 聖戦戦渦ピックアップでアイラを引ける確率

スマホアプリ『ファイアーエムブレムヒーローズ』(Fire Emblem Heroes, 以下 FEH) にて,去る 10 月 19 日に開始されたガチャ (11 月 6 日まで実施) およびそこで手に入るキャラクター「アイラ」のことが某掲示板や Twitter などで大問題になっているようだ.日本国内のみならず,英語圏ではたとえば reddit, フランス語では Jeuxvideo.com などと,だいたいどこに行っても同じような不満が聞かれる.

この問題についてここで詳しく論じることはしないが,本論にも関係するのでとりあえず目につく論点をひととおりまとめておこう.すでに知っている読者は次の見出しまで飛ばしてもかまわない.

まず従来,新キャラを実装するさいにはかならず予告動画があらかじめ公開され,「新英雄召喚」ガチャでまとめて引けるようになっていたのに,今回のアイラに関しては
  1. なんらの予告なく不意打ちでガチャが始まったこと,
  2. 従来どおりなら 3 日前からのシグルドらのガチャに含められるべきところを分割されたこと,
  3. その分割後のガチャがこれまた前例のない旧キャラとの抱きあわせで,しかも赤色が重複していたこと (そして戦渦ボーナスの格差から見て片方のハズレ扱いが否定できないこと)
が一方で問題となっている.これにもうひとつ付け加えるならば,
  1. 従来の大英雄戦や戦渦の傾向と,原作『聖戦の系譜』におけるアイラの立ち位置から推測して,大英雄戦もしくは戦渦報酬として配布されるであろうと期待されていたこと
も挙げられる.以上の 4 点は概して「従来の傾向からの順当な予想を外された問題」と集約できる.人々は不確実な未来に対してつねに現在までの情報をもとに期待 (予想) を形成して意思決定を行うものであって,今回の場合であればアイラがガチャになると考えていなかった人 (これは上述のとおりまったく合理的な予想だから,「勝手な推測で怒るな」とも言いがたい) にとっては,シグルドらのガチャにオーブを使いはたしたところからのだまし討ちに反感を抱くのももっともなことであろう.

ついでにこれらとは一種別口で問題になっているのが,アイラの登場によって (1) 総合値のインフレと (2) 継承不可の固有スキルという方針が蓋然性を高めてしまったことである.これによって初期からいるキャラはますます使いづらくなり,なおかつスキル継承もできないのでは救済にもなっていない.もっともこれらは総選挙 (とりわけ弓リン) やシグルドにも共通する問題ではあるのだが,本件でさらにそのスピードが上がったことには違いないのでまったく無関係と断ずることはできない.

さらに原作を愛する人々のなかには,(3)「瞬閃アイラの剣」という捏造武器を導入してまでアイラの強化を図られたことに嘆息する声も大きい.私は聖戦をプレイしたことがないので詳しくは知らないが,どうやら神器を扱える血統がとりわけ重要なストーリーであるらしく,そうでないアイラがたとえばセリスのティルフィングを超える謎の武器を携えて,子世代の彼をたやすく上回るステータスで登場したことが矛盾を生じているようだ.これらの 3 点はすべて「既存のキャラを過去のものにする問題」とまとめられるが,とりあえず本記事の確率計算とは関わらないのでこれ以上の深入りはやめておこう.


アイラが手に入る確率の計算法 The probability with which you get Ayra (or Eldigan)


それでは本題に入ろう.なお最初に触れたとおり本件は諸外国の掲示板でも話題となっており,FEH 公式 Twitter アカウントへのメンションにも海外ユーザからの声が多く見られる.その人たちが検索してくることも視野に入れて,内容を推測できるよう最小限の英訳を付しておく (表はほぼ数字なのでそのまま理解できるはずである).

まずしばしば誤解されているガチャの仕様についてのおさらいだが,「ピックアップ (以下 PU) キャラが 3.00 %, その他の ★5 が 3.00 %, ★4 が 58.00 %, ★3 が 36.00 %」という確率は,「赤色の召喚石を選んだあとに赤 PU が 3.00 % (つまり今回ならアイラとエルトシャンが 1.50 % ずつ),その他 ★5 が 30 人合計で 3.00 % 等々」というものではない

そうではなく,ガチャで手に入るキャラは「召喚するのボタンをタップした時点ですべて決まっており,表示される 5 つの召喚石はその 5 人の属性の色を見せているだけなのである.そのため召喚石の色も,じつは 4 色が均等に 25 % ずつ現れているわけではなく,実装されている英雄の数の偏りを反映している.アイラを含む今回のガチャの英雄数は次の表のとおりである:


このもとで,PU の 3 人は合計 3.00 % を等分するので 1.00 % ずつ,常設 ★5 は総勢 87 人が 3.00 % を等分するので 0.0345 % ずつ,というふうになっている.つまり,「召喚する」を押すまえの「事前確率」としてはアイラは 1.00 %, エルトシャンは PU の 1.00 % に加えて常設 ★5 からも現れるので 0.0345 % を足して 1.03 % で出現するわけである.

これで終われば話は簡単なのであるが,実際の人間の意思決定とはかならずしもこういうものではない.これはあくまで無条件の事前確率 (unconditional [ex ante] probability) なので,もしプレーヤーが「どんな色の召喚石が並ぼうと選り好みせずランダムに開ける」という奇妙なこだわりを持っている場合には上記の確率に従うわけだが,オーブが限られていてアイラだけがほしいという人はこのような行動はとらないだろう.

石油王でない一般のプレーヤーはまず後者のほうが多数派のはずだから,アイラがほしければ赤の召喚石を優先して開けるのが当然である (というか石油王でもアイラがほしければまずは赤から開けるだろう).それゆえわれわれは,赤の召喚石を選んだ場合にアイラが出てくる事後確率 ex post probability ≒ 条件つき確率 conditional probability」を計算することにしよう.


この表は,最初の表をもとに 16 個のカテゴリ (色 × レアリティ) の事前確率を与えたものである.上で計算したとおり,左上のセルの 2.00 % というのは「赤かつ PU」(つまりアイラまたはエルトシャン) が出る確率であって,それは PU の 3.00 % に赤が 2/3 で含まれていることから求められている.その下のセルの 1.03 % というのも同様に,常設 ★5 の 3.00 % のうち 30/87 が赤なので,その掛け算で求められる「赤かつ常設 ★5」の確率である.以下同様.

これを用いて「赤を選んだ場合に PU (厳密には赤かつ PU) が出る」条件つき確率を求められる.それは赤かつ PU の確率を赤全体の確率で割ったものであって,2.00/31.15 = 6.42 % である.こういったことを 16 通り行ったのが次の表である:


この表は縦方向にだけ意味があるものなので,右端に計の列はない.この見かたは,前段落で説明したとおり「赤を選んだとき PU が出る確率」が左上のセル 6.42 % で,その下の 3.32 % は「赤を選んだとき常設 ★5 が出る確率」等々という要領である.当該ガチャで青や緑には PU キャラがいないので,「青 (緑) を選んだとき PU が出る確率」は 0.00 % となっている.

以上の準備のもとで,われわれが赤を選んだときアイラを得られる確率を求められるようになった.最後の作業は簡単で,PU のうちアイラとエルトシャンは等確率なので,6.42 % (より詳しくは 6.4206 %) を折半した 3.21 % が答えである.エルトシャンが得られる確率は常設 ★5 からも出るためもう少し複雑で,この 3.210 % に加えて常設 ★5 の 3.321 % のうちの 30 分の 1 が足されるので,あわせて 3.32 % がそれである.

ただし,実際の召喚場面ではそもそも赤石が 1 つも出ないという可能性も小さくない.2 番めの表に戻ると,1 つの召喚石が赤である確率は 31.15 % であったから,1 つも赤が出ない確率は 68.85 % の 5 乗で 15.47 % だけある.このことをも考慮に入れると,アイラがほしいプレーヤー (赤があれば優先して選び,なければ残念,という戦略をとる) が「召喚するボタンを押す時点でアイラを得られる確率は,赤が 1 つでも出る確率 84.53 % を先の 3.21 % に乗じて 2.71 % が最終的な結果である (「なければ残念」の部分の詳細はどうでもよろしい.残る 3 色から無差別に選ぼうが,ラケシスがいるから白を優先しようが,アイラに関する確率には影響しない).

(注 1) 次の話題に進むまえに急いで付言しておくと,ハズレが続くことによる確率上昇や,1 度の召喚で 2 個以上の召喚石を開ける場合についてはここでまったく考慮していない.というのも,巷間で議論になっているのは今回の分割新旧同色抱きあわせというガチャの出しかたに問題があるのではないかという点なので,ガチャがもし違った形であれば現行のものと比べてどうであったかという比較を試みるにあたって,これらのことはたいして差異を生じないからである.

もしこれらが必要であれば,前者なら出発点の 3.00 % を 3.25 % 等々に変えて同じ手順で計算しなおす,後者なら赤石の個数が p = 0.3115 (31.15 %), n = 5 の二項分布に従うことにもとづき,赤石をすべて開けるという条件でアイラが 1 人もいない確率をさきに求めてからその余事象の確率を出せばよい (答え,すなわち 3.00 % のとき「召喚する」を押すまえの時点で,出た赤は全部開けるというもとでアイラが 1 人以上得られる確率は 4.90 %.ガチャを回すかどうかの意思決定に役立てられたい).

(注 2, 細かいので読み飛ばし可) ここでわれわれは 3 種類の確率を区別していることを注意しておく.ひとつは「無条件の確率」1.00 %, それから「赤石を選んだもとでの事後確率」3.21 %, 最後に「赤石が出れば選ぶ,という戦略を決めたもとでの召喚前の確率」2.71 % である.このうち最初のものには実際的な意味がないことはすでに述べた.それゆえ以下で比較に用いるのは残りの 2 つである.

この 2 者はいずれも広い意味で「条件つき確率」であるから,2.71 % のほうを「事前確率」と呼ぶのはいささか語弊があるが,次節では召喚以前以後という尺度で「事前・事後確率」と名づけなおすことにしよう.ゲーム理論の言葉で言えば,自分のタイプだけが決まった状況という類推から「事前」と「事後」の中間の ‘interim probability’ (定訳なし) と呼んでもいいかもしれない.

事前・中間・事後と,条件を加えていくにしたがって確率が上がっていることを確認しよう.事前とはまったくなにも考えていない状態,中間はそこから赤を選ぶと決めたが実際に赤が出るかはわからない段階,事後は赤が見えたので赤を選ぶという段階,このそれぞれにおいて評価したアイラの出る確率である.繰りかえすが実際上意味があるのは後 2 者であって,誰だって確率を検証しようという人もお金を使ってランダムに選ぼうとはしないだろう.このように「なるべく赤を選ぶ」と決めた場合の確率というのもちゃんと計算ができるのである.


もし抱きあわせでなかったら


さて,本稿のはじめに触れたように,今回のガチャに対しては内外でさまざまな不満が渦巻いているのであるが,それに関してガチャの確率は具体的にどう変わっているのか,つまりユーザは本当に損をしているのかと,しているならどれくらい損害を受けているのかを検討して締めくくることにする.冒頭の問題点のうち 2. と 3. に即して,2 通りの ‘if’ を考えてみることにしよう.


もしアイラがシグルドらと同じガチャだったら What if Ayra were also featured in the previous focus (New Heroes of ‘World of Holy War’) together with Sigurd and the others

最初の表の 1 行め,すなわち PU キャラクターの数を 2, 0, 0, 1 から 2, 1, 1, 0 (アイラ,シグルド,ディアドラ,ティルテュ) に変えるだけなので,結果だけ記しておく.


この場合,事前確率は赤の PU が 1.50 %, 赤の総計が 30.65 % になるので,赤の召喚石を選んだもとで PU が出る事後確率は 4.894 % である.これはアイラとシグルドの確率を合算したものなので,それぞれの確率はこれを等分した 2.45 % となる.召喚石の赤比率 30.65 % より,赤石が 1 つ以上出る確率は 83.96 % なので,「召喚する」ボタンを押すまえの段階でアイラが手に入る事前確率は 2.05 % である.

PU が色かぶりに加えて 4 人での分割になるので,現状の事後確率 3.21 % および事前確率 2.71 % よりはもちろん低くなる.ただしここで低くなっているのはあくまでアイラ単独の確率であり,もし 16 日の段階でこの 4 人が新英雄としてまとめてピックアップされていたならば多くのプレーヤーはシグルドとアイラのどちらを引いても喜んでいただろうことには留意する必要がある.

まとめると,アイラだけを引きたい場合には現状の分割ガチャのほうが有利なのだが,旧キャラですでに持っている人も多いエルトシャンをハズレとみなすかどうかでプレーヤーの満足度が大きく変わるだろうということである.ただし有利というのは 2 つのガチャを並べて見ればという後知恵の話なので,オーブ温存の意思決定に関わる不意打ちの問題はやはり褒められた売りかたではなかったといえる.

一方でこのような 4 人ガチャにした場合には副作用としてディアドラやティルテュの排出率が大きく下がるので,シグルドもアイラも欲していないユーザにとっては嬉しくないことになる.ここまでの計算でわかるとおり,PU 人数の差の影響は大きい.それは単純に無条件の事前確率が 1 人あたり 1.00 % から 0.75 % に下がるせいであって,たとえば緑を開けたもとでディアドラが出る事後確率は,実際に実施された 3 人ガチャでは 5.23 % のところ,アイラを混ぜた 4 人ガチャの場合は上表のとおり 3.97 % と,優に 1.26 ポイント (割合にして 24 %) も下がる.こうした副次的効果まで考慮すれば,一概にどちらがよかったと決めることはきわめて難しいだろう.

(注 3) これは本筋とは関係のない話だが,「パーセント」の比較と「ポイント」という単位について.5.23 % から 3.97 % に下がるのを「1.26 % 減」というと大間違いであって,これは「1.26 ポイント減」またはパーセントで言うなら「24.1 % 減」である (かりに 5.23 % から「1.26 % 減」なら 5.16 % になる).1.00 % から 0.75 % になるのも「0.25 ポイント減」または「25.0 % 減」(比率で見れば低下率は 25.0 % と 24.1 % とほぼ連動していることが見てとれる).こうしたことは奇しくも本日行われた衆院選のニュースで支持率や議席率などの増減がどう表現されているか注意深く聞いていればご存知だろう.ちなみに「ポイント」というのは略称であり本来は「パーセンテージポイント」という.


もしアイラガチャに色かぶりがなかったら What if there were another unit with non-red colour instead of Eldigan in the focus concerned (‘Genealogy of Light Tempest Trials’)

現状のアイラガチャで,エルトシャンのかわりにたとえばユリアのように,赤以外の旧キャラが入っていた場合はどうだろうか (赤でなければ誰であっても赤の確率には影響しないので,人選についてはとやかく言わないこと).この場合も 1 つめの表の 1 行めをたとえば 1, 0, 1, 1 に変えるだけなので,結果だけ記す.


このとき,赤を選んでアイラを得られる事後確率は,赤がアイラ 1 人なので表のとおり 3.32 % である.また「召喚する」を押すまえの段階では 2.77 % である.

現行のガチャと PU 人数が同じで色かぶりがなくなるので,直感的に予想されるとおり現状の 3.21 %, 2.71 % と比べて若干高くなる.しかしその差は意外にも微々たるものであることが見てとれるだろう.少なくとも,色かぶりがあるからといって確率が半減しているわけではないことが確認できる.とはいえ現実に下がっていることには違いがないので,色かぶりを擁護できることにもならないだろう.

またすでにエルトシャンのピックアップは,登場時の「兄妹の絆」に加えて「獅子奮迅スキル」「騎馬タイプピックアップ」と 2 度も行われていることは指摘されるべきである.都合 4 度めの PU となる彼の人選に関しては,前項で検討したような 4 人ガチャのように一長一短というわけでもなく,必然性なくアイラの確率を下げるためにピックアップされたと邪推されることも無理からぬところであろう.もっとも事実は単純に聖戦親世代で実装されているキャラが他にこの兄妹しかいなかったゆえだろうが,タイミングが悪かったと言わざるをえない.


あとがき


冒頭で述べたとおり,今回のガチャの売りかたには多数の難点が指摘されているのだが,こうした批判のなかにはガチャの仕様の理解や客観的な数値の裏づけなしに,この分割抱きあわせによってアイラの確率が半減しているというような誤解や,反対に具体的な数字抜きにほとんど変わっていないと主張するだけの再反論も散見される.これでは水掛け論に陥るばかりである.

この背景には,ガチャの仕様についてプレーヤー間であまり周知が徹底されていないこと,また仕様を理解していても複雑な確率の計算法がわからないか,あるいはこれらすべてをわかっていてもそれを論敵に一から説明することがきわめて面倒であるという事情があろう (某掲示板や Twitter のように短文を良しとする場ではなおさらそうである).

そこで批判にせよ擁護にせよ,実際にどれくらいの違いが生じているのかを正しく見極めたうえで態度を決定することが大事だと考え,この解説記事を公開することにした.本稿の貢献は,「もし新英雄が 4 人まとめて出ていたら」や「もし色かぶりがなかったら」という場合の数字をきちんと与えて比較し,なおかつディアドラらへの副次的影響といった見えにくい点にも言及して,なるべく公平に賛否両論に配慮した判断材料を提供するところにある.

ここではアイラを具体例にとって 3 種の確率の違いとその計算法を順序立てて説明しているので,今回のガチャが終わったあとでも (仕様が変更されないかぎり) 同じようにガチャの確率に関する解説として役立てられるはずである.細かな注の部分を除き,高校 1 年程度の数学の知識があれば理解できるよう心がけたが,条件つき確率 (数 C 相当) に関する説明だけはやや簡素すぎたかもしれない.

理論上の計算は以上のとおりだが,実際の出かたが本当にそのとおりになっているかの検証については必要なら他の人に譲ることとする.ちなみに私はいまだにアイラを入手できていません.お後がよろしいようで.

〔2019 年 1 月 10 日追記〕正月フリーズ狙いからのすり抜けではじめてアイラを引けました.じつに 1 年 3 ヶ月ごしですね.どうでもいいことですがアクセス解析によるといまだにこの記事がちょくちょく見られているようなので無事を報告しておきます.いま見るとほとんどスキル素材にもならないし,使っている人じたいまったくと言っていいほど見かけないので,インフレが騒がれていたころとは隔世の感があります.