mercredi 29 décembre 2021

Gordon and Taylor『古ノルド語入門』(1) §§1–10

気が向いたら訳すシリーズ。E. V. Gordon and A. R. Taylor, An Introduction to Old Norse, 1956, pp. 265–267 より、「古ノルド語小文法」§§1–10。気分が乗ったら続きをやります、これくらい気楽なほうが結果的にはよいかもしれないというか、なにもやらないよりは少しでも進めたほうがいいというか。もちろん翻訳そのものは真剣にやっています、だからこそ気力が必要。

いくつか注意。まず図表については再現が難しいもしくは面倒なので基本的に割愛していきます。たぶん古ノルド語を勉強したい人はこの本をもっていることが多いと思うので、それを見ていただくということで。語形論——まで到達するかはべつとして——に入ったら変化表もいちいち書かないと思います。出版でもさせてもらえるならそのときに作業しますが……。最後に、訳語のうち「変異」というのはまあウムラウトのことなんですけども、本が Umlaut ではなく mutation としか言わないものだからそれに従っています。それでもウムラウトと書いたほうがわかりやすいかな? 要検討。

目次リンク:ここもあとで暇だったら編集。


序論


1. 古ノルド語 (Old Norse) は、北ゲルマン諸民族 (スカンディナヴィア人) によって、ノルド語がはじめてほかのゲルマン諸民族の言葉から区別されるようになった時期、すなわち大略 100 年ころから 1500 年ころまで話されていた言語である。古ノルド語の歴史のなかで、その発展段階に応じて時期を区切っておくと便利である:原ノルド語 (Primitive Norse) 100–700 年、ゲルマン語の母音と語尾がまだよく保存されていた時期;ヴァイキング・ノルド語 (Viking Norse) 700–1100 年、非強勢母音が消失し変異が完了した、最大の音声変化の時期;文語古ノルド語 (Literary Old Norse) 1100–1500 年。最初の 2 つの時期の言語はもっぱらルーン碑文において記録されている。

2. 古ノルド語における諸方言はヴァイキングの時期に発達したが、その差は 1000 年ころまでは軽微であった。この年代までに、ノルウェーとその植民地で話されていた西ノルド語と、スウェーデン・デンマークおよびその植民地で話されていた東ノルド語とのあいだの差異が画され、続く時期においてそれらは急速に分岐した。11 世紀ころにはまた、アイスランド語とノルウェー語のあいだ、またスウェーデン語とデンマーク語のあいだに最初の差異が発達したが、それらの区別は 2, 3 世紀後まではまだ目立たなかった。方言的差異の詳細は後掲 §187 以下に与えられる。古ノルド語諸方言の関係は次のように図示しうる:

〔省略。共通ノルド語 (Common Norse) が西ノルド語と東ノルド語に分かれ、またそれぞれのなかで古ノルウェー語と古アイスランド語、古スウェーデン語と古デンマーク語に分かれる。〕

3. 古アイスランド語の記録はほかのどのノルド語方言よりもはるかに豊富であり、かつ興味も大きい:幾分とも価値のある古ノルド語文献のほぼすべてはアイスランド語で書かれている。古アイスランド語はまたもっとも保守的な方言であったから、古ノルド語文法研究においてはこれを基礎にとるのが便利である。本書の説明ももっぱら、大部分の古ノルド語文献がはじめて書きとめられた「古典期」1150–1350 年のアイスランド語に関わる。採用される綴り字は 1250 年ころにアイスランドで用いられていたものの標準化した形である。最初期アイスランド語写本のつづりとの主要な違いは以下 §§8, 9, 21, 204 で言及される。ほかの古ノルド語の方言は、それらが古アイスランド語との重要な差異を呈するかぎりにおいてのみ記述される。


第 1 部 アルファベットと発音


4. 古ノルウェー語とアイスランド語のアルファベットは、ラテン・アルファベットを古英語が採用したことに基礎をもっていた;それはラテン文字にルーン文字 þ および改変した文字 ð, ǫ, ø を加えたものからなっている。これらの追加的な文字のうち þ と ð は古英語から借用された。ルーン文字 þ はすでに知られていたが、写本における使用はイングランドから来たのである。

母音


5. 母音は長または短でありうる。標準化されたテクストでは、また散発的には写本においても、長母音は鋭アクセント (´) によって識別されている。例外は æ と œ で、これらはつねに長い。12 世紀の作品、いわゆる『第一文法論文』が、それらの発音の案内を与えてくれている。以下の表において古アイスランド語の母音および二重母音の近似した発音はキーワードと国際音声字母による記号で示してある。

〔省略。あとで暇だったら載せる。ただ ø₁ [ø], œ [øː], ø₂ [œ] はとくに注意しておく。〕

6. 注意すべきは æ が ę の、œ が ø₁ の長音であることである。13 世紀までに e は、アイスランドにおいては、より開いたものになっており ę の音と同一であった。この本のテクストでは区別をしていない。また i, o, u といったほかの短母音も、13 世紀には低まりの傾向があったということはありうる。ほかのノルド語諸方言において ę の音は æ で表されており、それゆえ長い æ は記号によって識別されねばならない〔訳注:ǣ のようにマクロンを付すということ〕。

7. 13 世紀の後半のあいだに ǫ は前方化され、ø₂ の音 (ふつう e の w-変異) と同一になった。標準化されたテクストでは区別されず、現代アイスランド語におけるようにどちらも ö と印刷されることがある;ø₁ はふつう e へと非円唇化された—— kømr は kemr になり、œ は音において æ と同一になった。

8. 1250 年までに á は唇の丸めを発達させ、音において ǫ́ と同一であった。のちには á という綴り字が両方に用いられた。本書でも同様。また y と ý を非円唇化し、それらをそれぞれ i, í と水平化する傾向が、すでに 13 世紀の末までに始まっていたことを示唆する証拠もある。

9. 非強勢音節における i と u の音質は不確かである。12 世紀の写本では e と o がこれらの位置で普通であった。単数与格 skipeno「船へ」=のちの skipinu のように。おそらく 13 世紀にはこれらの i と u は強勢音節における i と u よりも低く、それぞれ英語 pity の y、good の oo に似ていたのだろう。

10. 12 世紀の後半まで、アイスランド語の母音および二重母音は、鼻子音の直前直後にあるとき、またはすでに失われていた原ノルド語あるいはことによるとゲルマン〔祖〕語における鼻子音が直後にあったとき、鼻音化して現れてもいた。こうして sýna、mér「私に」、í (原ノルド語 in)、fær (ゲルマン語 *fanh-) は鼻母音をもっていた。この鼻音の性質は最初に非強勢音節において失われ、それから長い音節に続く母音において、そして短い音節に続く母音において失われた。

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