小脇光男『聖書ヘブライ語文法 改訂版』(青山社,2013) の練習問題解答を自習がてらに作ってみました.とりあえず第 1 課から第 4 課まで (本文 pp. 10–32) です.続くかはわかりません.またヘブライ文字や翻字に入力ミスの多数あることを恐れます (入力方法に慣れが必要で,たとえば בְּרֵאשִׁית と表示するには .b.ir_e'.u^sIt と打つためです).お気づきの点があればコメント欄またはメールにてお知らせください.
dimanche 6 septembre 2015
mercredi 29 juillet 2015
諸外国の書籍の購入方法
本を買う趣味が嵩じて国内のものでは飽きたらなくなり,いつしか諸外国から書籍を買い集めるようになりました.もちろん以下のどの言語も読めるというわけではないですが,それでも自分が専門に勉強してきた分野の本や,ほかの言語がテーマになる語学書ならば,まったくわからないということはなく,語学学習の励みになります.
以下では言語別に,私が本を購入したことのあるオンラインストアを,注文までのさまざまなアドバイスや,送料や所要日数などのレポートつきであげていきます.各国とも複数のオンラインストアがありますが,とくに先進国以外では日本への発送を受けつけていないサイトが多いため選択肢は限られます.決済手段はいずれも VISA または MasterCard のクレジットカードが使えます.カード決済に JCB が使える場合は特記します.また,PayPal 経由で JCB が使える場合があります.
ジャンプ:英語,ドイツ語,フランス語,イタリア語,スペイン語,ルーマニア語,ロシア語,ポーランド語,セルビア語,クロアチア語,リトアニア語,ラトビア語,エストニア語,トルコ語,ギリシャ語,ヘブライ語.
ジャンプ:英語,ドイツ語,フランス語,イタリア語,スペイン語,ルーマニア語,ロシア語,ポーランド語,セルビア語,クロアチア語,リトアニア語,ラトビア語,エストニア語,トルコ語,ギリシャ語,ヘブライ語.
英語 (アメリカ・イギリス・カナダ),ドイツ語 (ドイツ),フランス語 (フランス),イタリア語 (イタリア),スペイン語 (スペイン).―― よほど専門的なものでもないかぎり,新本ならば原則として各国の Amazon (Amazon.com, Amazon.co.uk, Amazon.de, Amazon.fr, Amazon.it, Amazon.es, Amazon.ca) で間にあいます.
ただし送料がバカにならないので,このうち英語およびドイツ語の書籍については,日本の Amazon.co.jp から購入したほうが安上がりになる場合が多いです.とくに英語の書籍は日本に在庫していることが多く,デジタルパブリッシングで日本国内の印刷が委託されている場合もあり,すぐに手に入ります.同じ英語でも版元がカナダの書籍だけは,日本でもアメリカ経由でもなく直接カナダから取り寄せたほうが安いことがあります (個人的な経験ではクリー語についての本).ドイツのものはなぜだか不明ですが .co.jp の値段が多くの場合安く,「2〜3 週間以内に発送」という表示であれば直接取寄と同程度です.為替リスクを避けられるという利点もあります.
仏・伊・西の書籍については,日本 Amazon では商品のページが存在しないか,あってもほとんどは注文不可能もしくは「一時的に在庫切れ」となっており,後者の場合注文じたいは可能ですが 3, 4 ヶ月後に取寄不可能だったとのメールがきます.これらの国の本のうち日本 Amazon から注文が可能なまれな例外は,ごく大衆的な本です (有名な文学作品のペーパーバックなどで,この場合はドイツと同様 .co.jp を通しての注文が安いことがあります).
ちなみに,英語以外の書籍を日本 Amazon で検索するには,直接日本 Amazon で検索するのではなく,まず当該国のサイトに行って気になる本を見繕ったあと,その ISBN をコピーして検索 (もしくは URL バーから直接ジャンプ) することをおすすめします.その理由は書籍のタイトルに含まれる文字で,日本 Amazon では仏・伊・西の書籍がアクサンやセディーユつきの文字が文字化けしたまま登録されていることが少なくないこと,また独の書籍ではウムラウトつきの文字,たとえば ä が ae と代用表記されていたり,されずに a となっていたりすること,あるいは語尾変化のファジィ検索が日本のデータベースでは弱い [注] といった理由から,正しいタイトルで検索をしても見つからない場合に自分の手落ちなのかそもそも商品ページが存在しないのかわかりかねるためです.求める内容の書籍にどんなものがあるのかという最初の調査を日本 Amazon でするべきでないのも同じ理由です.
アメリカの Amazon を例外として,各国とも送料は固定 10 ユーロ強 (イギリスはポンド換算) に冊数分の上乗せがかかるので,ある程度の冊数をまとめて買うほうが得です.Amazon.com は例外的に 1 冊での送料がかなり安いので,1 冊からの注文もよくします.注文手続きに入ると,Amazon Currency Converter というサービスによって円建てで支払うか,ドル・ポンド・ユーロで決済するかを選べますが,通常のレートより約 5 円も高くなるので,よほど為替が不安定な局面を除いては現地通貨での決済のほうがよいのではないでしょうか.
到着までの日数はというと,追加で数千円出すと 2, 3 日で届くという驚くべきオプションもありますが,いちばん安い通常配送でも注文から 12〜14 日といったところです.注文の冊数が少なく小さな包みになる場合では,同じいちばん安い手段で 8, 9 日で届くことがありました.以上はヨーロッパの話ですが,アメリカだけは非常に遅く,早いほうでも 18 日程度はかかります.いずれにせよ早めの注文を心がけるべきでしょう.
古書では Amazon の関連サイトである上記各国の AbeBooks が役に立つことがあり,たいていの出品者は海外発送をしてくれます.Amazon のマーケットプレイスも重要ですが,これは国内向けの発送が多いです.いずれも国ごとにデータベースは共有されていないようなので,言語が違ってもダメもとで検索してみる必要があります.あるとき英語の絶版本で日米英の AMP ではどこも価格が 3 万円程度に高騰していたものが,なぜかフランスの AMP ですごく安く手に入ったことがあります.
ルーマニア語 (ルーマニア).―― elefant.ro. ルーマニアは EU 加盟国ですがまだユーロを導入しておらず,現在の通貨はレウ (2005 年のデノミ後の新レウ:RON) で,書籍も送料も非常に安いです (15 冊 6.9 kg で送料 50 レイ:約 1 500 円).発送はあまり早くなく,私の場合では注文から発送まで 10 日,そこから到着まで 8 日を要しましたが,発送の時点で通知のメールがなく心配でした (ただ,到着してみれば,最初の注文確定メールに書いてあった到着予定日とほぼ同じ (予定日より 1 日遅れ) でした.こういうものはクレームのつかないよう余裕をもった遅めの予定日を書くものだと思うのですが).梱包はダンボールの箱に,ダンボールを網状に裁断したウェーブクッションを緩衝材として十分に入れてあり,エコで丁寧な印象を受けます.
ロシア語 (ロシア).―― Лабиринт (www.labirint.ru) というサイトでは JCB が使えて重宝します.ロシアの通貨はルーブル (RUB) で,書籍じたいもそう高くありません.ショッピングカートとウィッシュリストが別個に保存できるので購入候補の管理に便利です [注].ここは発送も異常に早く,単価千円程度の小さな本を 20 冊ほど買ったときは,通常の配送手段なのに注文確定からたったの 4 日と数時間で届いて驚きました.梱包はずいぶん簡素で,書籍じたいも新本にしては汚れている印象を受けましたが.
代替的な手段としては,日本国内にも日ソ (www.nisso.net) とナウカ (www.naukajapan.jp) という 2 大ロシア書籍専門店があり,多少割高にはなりますが,本選びから注文まで日本語で行うことができます.ただしリストにある多くの品は国内に在庫がないのが難点です.いちど買うとしばらくカタログ (分野別に原題・その日本語訳・値段を列挙した小冊子) を定期的に送ってくれるので,ロシアの最新の出版情報もわかります.
もうひとつはアメリカの Amazon.com で,一部のロシア語書籍が手に入ります.難点は書籍のタイトルがラテン翻字のため,たとえば я が ya だったり ja だったりして検索が困難です.
また,ロシアの出版事情を含む一般的な情報について,東京大学のスラヴ語スラヴ文学研究室のサイトが詳しく,参考になると思います.そちらでロシアの 2 大ネット書店として紹介されている OZON と Alib はいまのところ利用したことがないので紹介できません.
ポーランド語 (ポーランド).―― 日本から注文できるポーランド国内の書店としては merlin.pl が唯一です (ほかに,アメリカに本拠を置きポーランドの書籍を扱っている書店もありますが,品ぞろえも劣りますしドル建てで非常に高価になります).ポーランドの通貨はズウォティ (PLN) で,書籍の値段が尋常でなく安いです.ただし日本への送料が本代と同じくらいかかるので,そこまでお得ではありません (それでも安いです).ショッピングカートとウィッシュリストがあり,しかもその間の移動がワンクリックで非常に便利です (どちらの方向にもでき他方からは消えます.Amazon の「カートに保存 (後で買う)」に似ています).
この書店の最大の注意点は,「24 時間以内に発送」が大嘘だということです.何度か注文しましたが,これらのうちほとんどの本は在庫しておらず,注文から 2, 3 日たつと「入手まで日数がかかりますが,1. 待ちますか,2. キャンセルしますか」,あるいは「一部の本だけ発送できますが,1. すべてそろうまで待ちますか,2. 一部のみ発送しほかをキャンセルしますか,3. すべてキャンセルしますか」と選ばせるメールがきます.とはいえそんなに驚くほど待つことにはならず (都合 5〜7 日くらい),発送から到着まではかなり迅速でした.発送メールはなぜか同じものが何度もきました.
Amazon.com にも少なからずポーランド語の書籍の登録がありますが,データがあるだけで実際に (AMP でなく Amazon から直接) 注文できるものは見たことがありません.
(2015 年 8 月 17 日追記) Merlin.pl さんに 3 度めの注文をしました.今回は注文から 2 日後の発送,さらに 5 日後つまり注文からは 7 日と 17 時間で手もとに到着しました.今回はメール通知も,注文直後の確認メール,翌日の出荷準備の連絡,翌々日の発送メールと手際よく重複もなく,また 10 冊の注文にもかかわらず遺漏がなく,最初の 2 度の注文での不手際が嘘のようでした.
ところで今回はまたべつの問題も経験しました.今回,操作をどこで間違えたのかある本の注文数量が 2 冊になってしまったのですが,注文の変更やキャンセルがサイト上ではできず,定められた連絡先に直接メールをするように書かれています.そこでメールで変更のお願いを書き送ったところ,相手方のメールボックスがいっぱいだとかでメールが弾かれ (2 度試し,2 度めは極力サイズを小さくするようプレーンテキストで短い文にしましたが),結局変更はできないままその本は 2 冊届いてしまいました.
セルビア語 (セルビア),クロアチア語 (クロアチア).―― Knjižara.com (www.knjizara.com) がおそらくこれも唯一日本への発送を行っているのではないでしょうか.セルビアの通貨はディナール (RSD) ですが,日本への発送を選ぶとユーロ建てに切りかわります.品ぞろえはわりと豊富で,ほとんど同じ言語を話す隣国クロアチアの出版物も購入できます.それに加えてセルビア国内のセルビア語でもキリル文字とラテン文字が併用されている事情から,本ごとにどちらの文字表記かが示されているのがおもしろいところです.発送は迅速で,輸送日数もヨーロッパからの平均的な長さ (注文から 10 日内外) でした.
ここにははじめ注文がうまくいかずメールで問いあわせたのですが,英語で非常にきめ細かに対応していただきました (注文品のリストを伝えてくれれば金額を見積もるので銀行振込で発送できるとのこと.最終的にサイト上でうまくいったので不要でしたが).注意点として,ロシア語の項で触れましたが,ショッピングカートの中身が時間経過で消えます.
リトアニア語 (リトアニア).―― knygos.lt. 発送時にメール通知がきます.国外への配送は TNT Express という業者がやっていて,トラッキングサービス (説明は英語) で荷物の所在地をリアルタイムで確認できます (カウナスから発送されたあと翌日にヴィリニュス,そこから国外に出て 4 日 (初日を入れると 5 日め) でポーランドのアンノポル, 5 日でドイツのハノーヴァー,7 日でフランクフルトを経て,8 日で成田に到着したようです.そのあと税関などでもう 3 日かかっています).発送から到着までは 11 日でした.リトアニアは 2015 年元日に 19 ヵ国めのユーロ導入国となっています.クレジットカードによる支払はどのカードでも PayPal アカウントの登録が必要になるらしく,VISA も MC も JCB も使えます.梱包は適切でした.
ラトビア語 (ラトビア).―― Zvaigzne ABC (www.zvaigzne.lv) にはいちど大量の本を注文したのですが,消印によると注文の 2 日後には発送され,なんとその 5 日後には届きました (ただし注文確認メールのあと発送の連絡はありませんでした).国外への配送オプションは 2 通りありましたが安いほうでこれだけ早いのは驚きです.梱包はあまり親切ではなく,かなり隙間のある大きなダンボールに緩衝材もなく詰めこまれているだけでした.送料の計算は冊数ではなく重量のみによっており,階級別なので軽い本なら何冊か追加しても送料が変わらないことがあります (送料は注文画面に入らずともカートで随時確認できます).私は試していませんが電子書籍も充実しているようです.ラトビアでは 2014 年の元日に 18 ヵ国めのユーロ導入国となっています.ラトビアも本が比較的に安く,私が買ったなかではラトビア語–ポーランド語辞典,B5 判に近い大きさで 1 550 ページ,本体重量 2 kg を超える大部のもの (それも版権切れのリプリントではなく,インターネットなどの用語も入った最新のもの) が,たったの 10 ユーロというのが最大の驚きでした.
エストニア語 (エストニア).―― エストニアには 4 つのオンライン書店があるようで,そのどれも日本への配送が可能です.ここではそのうち 2 つを紹介します.見たかぎりではどちらか一方でしか売っていない本も多く,共通部分では価格の差もあるので,両方を調べてうまく使いわけるのがよいでしょう.エストニアの通貨は 2011 年元日よりユーロです.
注意すべきこととして,ここで紹介しないサイトも含めてどのストアもアカウント作成ができません.その理由はエストニアの国民番号制で,エストニアでは行政から日常生活に至るまでかなり広範に国民 ID を使用しているらしく,アカウント作成時にもその入力が必須のため私たちには不可能です.ユーザ登録をしなくても注文は可能です.
Apollo (www.apollo.ee) は,日本語によるエストニア (語) 紹介のウェブサイトでよくあげられているので,いちばん老舗なのかもしれません.もうひとつは Rahva Raamat (www.rahvaraamat.ee) で,スタイリッシュで現代的なページデザインが目を引きます.送料はどちらもかなり割高ですが,前者のほうが固定部分が大きくある程度まとまった冊数まで変わらず,後者は冊数に応じて微調整されるようでした.注文から到着までの日数は前者が 14 日,後者が 9 日でしたが,発送後配送に要した日数はどちらも 6 日ほどのようです.梱包は後者のほうが丁寧に感じましたが,もともとの書籍の状態がどちらもとてもきれいで,私のこれまでの 100 回を超える海外取引のなかでもこれほど美しい状態の本に出会ったことはありません (エストニアの出版社・印刷所の品質管理が厳格なのか,ただの幸運な偶然なのかはわかりませんが).
トルコ語 (トルコ).―― paNdora (www.pandora.com.tr). トルコの通貨はリラ (TRY) で,書籍はかなり安いです.注文から到着までは 11 日でした (発送連絡がないので発送までの日数はわかりませんが,商品ごとに在庫状況が書いてあり注文時におおよその日数がわかります.今回の場合はおそらく発送までに 5 日,配送に 6 日というところだったでしょう).
ギリシャ語 (ギリシャ).―― Bibliohora (www.bibliohora.gr). ギリシャ国内最大手と見られる Books.gr が発送を行っていないので,これも選択肢は限られます.ギリシャは近年財政破綻の危機に揺らいでいますが,通貨はいまのところユーロ (EUR) で,送料も書籍もかなり割高に感じられます (いっそのことドラクマに戻ってもらえば激安で買えそうですが).この書店は発送通知のメールをくれず,到着まで 17 日ほども待ったので,本当に商品が届くのか不安でした.
ギリシャ語の書籍は各国 Amazon での取り扱いは非常に限定的ですが,姉妹サイトの Book Depository では若干のギリシャ語書籍が購入可能です.ギリシャ語のまま検索ができるので,ラテン文字転写に関わる問題は生じません.こちらは日本円での取引ができ,送料込の値段も比較的安いので,購入可能なものはこちらのほうがいいかもしれません.
すでに述べたとおり一般の書籍はそう安くありませんが,ギリシャでは大部の高校生向け教科書が単価 3〜6 ユーロくらいの破格の安さで市販されており,とくにギリシア史や古典ギリシア語のものなどは,ギリシア語を学ぶ日本の私たちが手もとにもっていてもおもしろいのではないでしょうか.
ヘブライ語 (イスラエル).―― מאגנס (www.magnespress.co.il) はヘブライ大学の出版局にあたるようです.インターナショナル版 (英語版) への切りかえができ,メールでの連絡も英語でできます.支払いはドル建てでした.発送は平均的な対応ですが,エルサレムから日本への配達が予想よりずっと早くて驚きました (発送メールから 4, 5 日くらい).サイトにもよく読むと注意書きがありますが,各書籍の重量が記載されていて,合計が何 kg だかを超えると配送手段の都合で送料が跳ねあがり,その場合は同じものを 2 度にわけて注文するほうが安上がりになります.
都合 2 度こちらから本を購入しましたが,2 度とも問題が発生してメールでクレームを入れる事態になりました.1 度めは買った本の一部 (計 16 ページ) が印刷不良で完全な白紙になっており,交換を申しこんだところ返品不要で新しいものをお送りいただきました.2 度めは 6 冊注文したうち 1 冊が入っていなかったのですが,前回のことがあったぶんなんだか申し訳なく,まったくこちらの落ち度ではないのにあきらめてしまいました (4 千円くらいの損).
ただし送料がバカにならないので,このうち英語およびドイツ語の書籍については,日本の Amazon.co.jp から購入したほうが安上がりになる場合が多いです.とくに英語の書籍は日本に在庫していることが多く,デジタルパブリッシングで日本国内の印刷が委託されている場合もあり,すぐに手に入ります.同じ英語でも版元がカナダの書籍だけは,日本でもアメリカ経由でもなく直接カナダから取り寄せたほうが安いことがあります (個人的な経験ではクリー語についての本).ドイツのものはなぜだか不明ですが .co.jp の値段が多くの場合安く,「2〜3 週間以内に発送」という表示であれば直接取寄と同程度です.為替リスクを避けられるという利点もあります.
仏・伊・西の書籍については,日本 Amazon では商品のページが存在しないか,あってもほとんどは注文不可能もしくは「一時的に在庫切れ」となっており,後者の場合注文じたいは可能ですが 3, 4 ヶ月後に取寄不可能だったとのメールがきます.これらの国の本のうち日本 Amazon から注文が可能なまれな例外は,ごく大衆的な本です (有名な文学作品のペーパーバックなどで,この場合はドイツと同様 .co.jp を通しての注文が安いことがあります).
ちなみに,英語以外の書籍を日本 Amazon で検索するには,直接日本 Amazon で検索するのではなく,まず当該国のサイトに行って気になる本を見繕ったあと,その ISBN をコピーして検索 (もしくは URL バーから直接ジャンプ) することをおすすめします.その理由は書籍のタイトルに含まれる文字で,日本 Amazon では仏・伊・西の書籍がアクサンやセディーユつきの文字が文字化けしたまま登録されていることが少なくないこと,また独の書籍ではウムラウトつきの文字,たとえば ä が ae と代用表記されていたり,されずに a となっていたりすること,あるいは語尾変化のファジィ検索が日本のデータベースでは弱い [注] といった理由から,正しいタイトルで検索をしても見つからない場合に自分の手落ちなのかそもそも商品ページが存在しないのかわかりかねるためです.求める内容の書籍にどんなものがあるのかという最初の調査を日本 Amazon でするべきでないのも同じ理由です.
[注] たとえば言語名の -isch, -ische, -ischen といった形はタイトルのつけかたによって変わりますが,こうしたものをドイツの検索エンジンではどれからでも引いてくれる一方,日本では想定していないのでいちどでうまくひっかかりません.各言語の単複も同様です.英語についてはすでに融通が利くようなのですが.
アメリカの Amazon を例外として,各国とも送料は固定 10 ユーロ強 (イギリスはポンド換算) に冊数分の上乗せがかかるので,ある程度の冊数をまとめて買うほうが得です.Amazon.com は例外的に 1 冊での送料がかなり安いので,1 冊からの注文もよくします.注文手続きに入ると,Amazon Currency Converter というサービスによって円建てで支払うか,ドル・ポンド・ユーロで決済するかを選べますが,通常のレートより約 5 円も高くなるので,よほど為替が不安定な局面を除いては現地通貨での決済のほうがよいのではないでしょうか.
到着までの日数はというと,追加で数千円出すと 2, 3 日で届くという驚くべきオプションもありますが,いちばん安い通常配送でも注文から 12〜14 日といったところです.注文の冊数が少なく小さな包みになる場合では,同じいちばん安い手段で 8, 9 日で届くことがありました.以上はヨーロッパの話ですが,アメリカだけは非常に遅く,早いほうでも 18 日程度はかかります.いずれにせよ早めの注文を心がけるべきでしょう.
古書では Amazon の関連サイトである上記各国の AbeBooks が役に立つことがあり,たいていの出品者は海外発送をしてくれます.Amazon のマーケットプレイスも重要ですが,これは国内向けの発送が多いです.いずれも国ごとにデータベースは共有されていないようなので,言語が違ってもダメもとで検索してみる必要があります.あるとき英語の絶版本で日米英の AMP ではどこも価格が 3 万円程度に高騰していたものが,なぜかフランスの AMP ですごく安く手に入ったことがあります.
ルーマニア語 (ルーマニア).―― elefant.ro. ルーマニアは EU 加盟国ですがまだユーロを導入しておらず,現在の通貨はレウ (2005 年のデノミ後の新レウ:RON) で,書籍も送料も非常に安いです (15 冊 6.9 kg で送料 50 レイ:約 1 500 円).発送はあまり早くなく,私の場合では注文から発送まで 10 日,そこから到着まで 8 日を要しましたが,発送の時点で通知のメールがなく心配でした (ただ,到着してみれば,最初の注文確定メールに書いてあった到着予定日とほぼ同じ (予定日より 1 日遅れ) でした.こういうものはクレームのつかないよう余裕をもった遅めの予定日を書くものだと思うのですが).梱包はダンボールの箱に,ダンボールを網状に裁断したウェーブクッションを緩衝材として十分に入れてあり,エコで丁寧な印象を受けます.
ロシア語 (ロシア).―― Лабиринт (www.labirint.ru) というサイトでは JCB が使えて重宝します.ロシアの通貨はルーブル (RUB) で,書籍じたいもそう高くありません.ショッピングカートとウィッシュリストが別個に保存できるので購入候補の管理に便利です [注].ここは発送も異常に早く,単価千円程度の小さな本を 20 冊ほど買ったときは,通常の配送手段なのに注文確定からたったの 4 日と数時間で届いて驚きました.梱包はずいぶん簡素で,書籍じたいも新本にしては汚れている印象を受けましたが.
[注] なにをあたりまえのことをと思われるかもしれませんが,ID を登録してクッキーも有効なのにもかかわらず時間が経つとショッピングカートが空になるというサイトも海外にはあります.不慣れな言語で本を探すのは大変で,せっかく気になる本をいろいろ見つけてカートに入れたのに消えて探しなおしになったということが何度かあり,すぐには買わないとなるとブラウザのブックマークで 1 冊ごとに管理することになります.
代替的な手段としては,日本国内にも日ソ (www.nisso.net) とナウカ (www.naukajapan.jp) という 2 大ロシア書籍専門店があり,多少割高にはなりますが,本選びから注文まで日本語で行うことができます.ただしリストにある多くの品は国内に在庫がないのが難点です.いちど買うとしばらくカタログ (分野別に原題・その日本語訳・値段を列挙した小冊子) を定期的に送ってくれるので,ロシアの最新の出版情報もわかります.
もうひとつはアメリカの Amazon.com で,一部のロシア語書籍が手に入ります.難点は書籍のタイトルがラテン翻字のため,たとえば я が ya だったり ja だったりして検索が困難です.
また,ロシアの出版事情を含む一般的な情報について,東京大学のスラヴ語スラヴ文学研究室のサイトが詳しく,参考になると思います.そちらでロシアの 2 大ネット書店として紹介されている OZON と Alib はいまのところ利用したことがないので紹介できません.
ポーランド語 (ポーランド).―― 日本から注文できるポーランド国内の書店としては merlin.pl が唯一です (ほかに,アメリカに本拠を置きポーランドの書籍を扱っている書店もありますが,品ぞろえも劣りますしドル建てで非常に高価になります).ポーランドの通貨はズウォティ (PLN) で,書籍の値段が尋常でなく安いです.ただし日本への送料が本代と同じくらいかかるので,そこまでお得ではありません (それでも安いです).ショッピングカートとウィッシュリストがあり,しかもその間の移動がワンクリックで非常に便利です (どちらの方向にもでき他方からは消えます.Amazon の「カートに保存 (後で買う)」に似ています).
この書店の最大の注意点は,「24 時間以内に発送」が大嘘だということです.何度か注文しましたが,これらのうちほとんどの本は在庫しておらず,注文から 2, 3 日たつと「入手まで日数がかかりますが,1. 待ちますか,2. キャンセルしますか」,あるいは「一部の本だけ発送できますが,1. すべてそろうまで待ちますか,2. 一部のみ発送しほかをキャンセルしますか,3. すべてキャンセルしますか」と選ばせるメールがきます.とはいえそんなに驚くほど待つことにはならず (都合 5〜7 日くらい),発送から到着まではかなり迅速でした.発送メールはなぜか同じものが何度もきました.
Amazon.com にも少なからずポーランド語の書籍の登録がありますが,データがあるだけで実際に (AMP でなく Amazon から直接) 注文できるものは見たことがありません.
(2015 年 8 月 17 日追記) Merlin.pl さんに 3 度めの注文をしました.今回は注文から 2 日後の発送,さらに 5 日後つまり注文からは 7 日と 17 時間で手もとに到着しました.今回はメール通知も,注文直後の確認メール,翌日の出荷準備の連絡,翌々日の発送メールと手際よく重複もなく,また 10 冊の注文にもかかわらず遺漏がなく,最初の 2 度の注文での不手際が嘘のようでした.
ところで今回はまたべつの問題も経験しました.今回,操作をどこで間違えたのかある本の注文数量が 2 冊になってしまったのですが,注文の変更やキャンセルがサイト上ではできず,定められた連絡先に直接メールをするように書かれています.そこでメールで変更のお願いを書き送ったところ,相手方のメールボックスがいっぱいだとかでメールが弾かれ (2 度試し,2 度めは極力サイズを小さくするようプレーンテキストで短い文にしましたが),結局変更はできないままその本は 2 冊届いてしまいました.
セルビア語 (セルビア),クロアチア語 (クロアチア).―― Knjižara.com (www.knjizara.com) がおそらくこれも唯一日本への発送を行っているのではないでしょうか.セルビアの通貨はディナール (RSD) ですが,日本への発送を選ぶとユーロ建てに切りかわります.品ぞろえはわりと豊富で,ほとんど同じ言語を話す隣国クロアチアの出版物も購入できます.それに加えてセルビア国内のセルビア語でもキリル文字とラテン文字が併用されている事情から,本ごとにどちらの文字表記かが示されているのがおもしろいところです.発送は迅速で,輸送日数もヨーロッパからの平均的な長さ (注文から 10 日内外) でした.
ここにははじめ注文がうまくいかずメールで問いあわせたのですが,英語で非常にきめ細かに対応していただきました (注文品のリストを伝えてくれれば金額を見積もるので銀行振込で発送できるとのこと.最終的にサイト上でうまくいったので不要でしたが).注意点として,ロシア語の項で触れましたが,ショッピングカートの中身が時間経過で消えます.
リトアニア語 (リトアニア).―― knygos.lt. 発送時にメール通知がきます.国外への配送は TNT Express という業者がやっていて,トラッキングサービス (説明は英語) で荷物の所在地をリアルタイムで確認できます (カウナスから発送されたあと翌日にヴィリニュス,そこから国外に出て 4 日 (初日を入れると 5 日め) でポーランドのアンノポル, 5 日でドイツのハノーヴァー,7 日でフランクフルトを経て,8 日で成田に到着したようです.そのあと税関などでもう 3 日かかっています).発送から到着までは 11 日でした.リトアニアは 2015 年元日に 19 ヵ国めのユーロ導入国となっています.クレジットカードによる支払はどのカードでも PayPal アカウントの登録が必要になるらしく,VISA も MC も JCB も使えます.梱包は適切でした.
ラトビア語 (ラトビア).―― Zvaigzne ABC (www.zvaigzne.lv) にはいちど大量の本を注文したのですが,消印によると注文の 2 日後には発送され,なんとその 5 日後には届きました (ただし注文確認メールのあと発送の連絡はありませんでした).国外への配送オプションは 2 通りありましたが安いほうでこれだけ早いのは驚きです.梱包はあまり親切ではなく,かなり隙間のある大きなダンボールに緩衝材もなく詰めこまれているだけでした.送料の計算は冊数ではなく重量のみによっており,階級別なので軽い本なら何冊か追加しても送料が変わらないことがあります (送料は注文画面に入らずともカートで随時確認できます).私は試していませんが電子書籍も充実しているようです.ラトビアでは 2014 年の元日に 18 ヵ国めのユーロ導入国となっています.ラトビアも本が比較的に安く,私が買ったなかではラトビア語–ポーランド語辞典,B5 判に近い大きさで 1 550 ページ,本体重量 2 kg を超える大部のもの (それも版権切れのリプリントではなく,インターネットなどの用語も入った最新のもの) が,たったの 10 ユーロというのが最大の驚きでした.
エストニア語 (エストニア).―― エストニアには 4 つのオンライン書店があるようで,そのどれも日本への配送が可能です.ここではそのうち 2 つを紹介します.見たかぎりではどちらか一方でしか売っていない本も多く,共通部分では価格の差もあるので,両方を調べてうまく使いわけるのがよいでしょう.エストニアの通貨は 2011 年元日よりユーロです.
注意すべきこととして,ここで紹介しないサイトも含めてどのストアもアカウント作成ができません.その理由はエストニアの国民番号制で,エストニアでは行政から日常生活に至るまでかなり広範に国民 ID を使用しているらしく,アカウント作成時にもその入力が必須のため私たちには不可能です.ユーザ登録をしなくても注文は可能です.
Apollo (www.apollo.ee) は,日本語によるエストニア (語) 紹介のウェブサイトでよくあげられているので,いちばん老舗なのかもしれません.もうひとつは Rahva Raamat (www.rahvaraamat.ee) で,スタイリッシュで現代的なページデザインが目を引きます.送料はどちらもかなり割高ですが,前者のほうが固定部分が大きくある程度まとまった冊数まで変わらず,後者は冊数に応じて微調整されるようでした.注文から到着までの日数は前者が 14 日,後者が 9 日でしたが,発送後配送に要した日数はどちらも 6 日ほどのようです.梱包は後者のほうが丁寧に感じましたが,もともとの書籍の状態がどちらもとてもきれいで,私のこれまでの 100 回を超える海外取引のなかでもこれほど美しい状態の本に出会ったことはありません (エストニアの出版社・印刷所の品質管理が厳格なのか,ただの幸運な偶然なのかはわかりませんが).
トルコ語 (トルコ).―― paNdora (www.pandora.com.tr). トルコの通貨はリラ (TRY) で,書籍はかなり安いです.注文から到着までは 11 日でした (発送連絡がないので発送までの日数はわかりませんが,商品ごとに在庫状況が書いてあり注文時におおよその日数がわかります.今回の場合はおそらく発送までに 5 日,配送に 6 日というところだったでしょう).
ギリシャ語 (ギリシャ).―― Bibliohora (www.bibliohora.gr). ギリシャ国内最大手と見られる Books.gr が発送を行っていないので,これも選択肢は限られます.ギリシャは近年財政破綻の危機に揺らいでいますが,通貨はいまのところユーロ (EUR) で,送料も書籍もかなり割高に感じられます (いっそのことドラクマに戻ってもらえば激安で買えそうですが).この書店は発送通知のメールをくれず,到着まで 17 日ほども待ったので,本当に商品が届くのか不安でした.
ギリシャ語の書籍は各国 Amazon での取り扱いは非常に限定的ですが,姉妹サイトの Book Depository では若干のギリシャ語書籍が購入可能です.ギリシャ語のまま検索ができるので,ラテン文字転写に関わる問題は生じません.こちらは日本円での取引ができ,送料込の値段も比較的安いので,購入可能なものはこちらのほうがいいかもしれません.
すでに述べたとおり一般の書籍はそう安くありませんが,ギリシャでは大部の高校生向け教科書が単価 3〜6 ユーロくらいの破格の安さで市販されており,とくにギリシア史や古典ギリシア語のものなどは,ギリシア語を学ぶ日本の私たちが手もとにもっていてもおもしろいのではないでしょうか.
ヘブライ語 (イスラエル).―― מאגנס (www.magnespress.co.il) はヘブライ大学の出版局にあたるようです.インターナショナル版 (英語版) への切りかえができ,メールでの連絡も英語でできます.支払いはドル建てでした.発送は平均的な対応ですが,エルサレムから日本への配達が予想よりずっと早くて驚きました (発送メールから 4, 5 日くらい).サイトにもよく読むと注意書きがありますが,各書籍の重量が記載されていて,合計が何 kg だかを超えると配送手段の都合で送料が跳ねあがり,その場合は同じものを 2 度にわけて注文するほうが安上がりになります.
都合 2 度こちらから本を購入しましたが,2 度とも問題が発生してメールでクレームを入れる事態になりました.1 度めは買った本の一部 (計 16 ページ) が印刷不良で完全な白紙になっており,交換を申しこんだところ返品不要で新しいものをお送りいただきました.2 度めは 6 冊注文したうち 1 冊が入っていなかったのですが,前回のことがあったぶんなんだか申し訳なく,まったくこちらの落ち度ではないのにあきらめてしまいました (4 千円くらいの損).
mercredi 15 juillet 2015
Valfells and Cathey『古アイスランド語入門課程』第 3 課
Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.
第 3 課 Lesson III
1. 文法 Grammar
(A) 単数与格 The Dative Singular
(1) 形態
(a) 名詞:男性・中性名詞の語幹には単数与格で -i をつける.女性名詞は語尾 -u をとるが,単音節の語幹ではこの語尾はしばしば現れない.女性語幹が 2 音節 bisyllabic のとき,u-語尾は一般に現れるが,ここでも若干の変異がある (gersimi「宝物 treasure」型の女性名詞については第 9 課).
(b) 形容詞:単数与格の男性名詞を修飾するときには形容詞語尾は -um であり,女性では -ri, 中性では -u である.基本語幹が長母音で終わるときには女性語尾の r は二重化する:(há-) 単与 hárri, (nýj-) 単与 nýrri.
(2) 用法
(a) 手段を表す instrumental〔訳注:つまり具格の吸収〕,たとえばふつう英語の前置詞 with によって表される用法.例:búinn hjálmi「兜を身につけた equipped with a helmet」,hlaðinn gulli「金を積んだ laden with gold」,rekinn silfri「銀が散りばめられた inlaid with silver」.
(b) 動詞の目的語:多くの動詞,とりわけ因果を表すものは,与格目的語をとる.例:sigla/stýra skipi「船を出す/舵を取る sail/steer a ship」,bana úvini「敵を殺す」,eyða borg「町を荒らす lay waste a city」.
(c) 前置詞の目的語:特定の前置詞,とりわけ方向や場所を示すものは,与格目的語をとる.例:frá landi「陸から from land」,at hausti「秋に」,á vári「春に」.
(B) a : ǫ の交替 (u-ウムラウト)
u-ウムラウト (の影響) としても知られる a → ǫ の変化は,基底語幹の強勢のある短い a に次の音節の u が後続するとき起こる.それゆえ形容詞の男性と中性の単数与格語尾 -um, -u は表層形にこれを起こす.(skarp-)「鋭い sharp」男単主 skarpr, 男単与 skǫrpum; 中単主 skarpt, 中単与 skǫrpu. u-ウムラウトの手続きはまた同じ条件で名詞と動詞にも起こる.第 2 課 1.A.3 で述べたように〔訳注:理由は述べていない〕,昔あった u がすでに語尾から失われている場合にもこの交替は起こる:根 root が子音で終わる女性名詞の単数主格・対格,形容詞女性形の単数主格のみ,中性名詞および形容詞の複数主格・対格.例:女性名詞 (hall-i-), 単主 hǫll, 単与 hǫllu または hǫll; (marg-)「多い many」女単主および中複主・対 mǫrg; (land-) 複主・対 lǫnd; (skarp-) 女単主および中複主・対 skǫrp.
(C) 語幹の長短 Long v. Short Stems
(1) 短い語幹とは,強勢のある長母音または二重母音で終わるか,強勢のある短母音に子音がひとつ後続して終わるものである (j および v-加音と幹母音はこのさい数えられない)〔訳注:要するに発音編で見た「文法上短い音節」のこと〕.短い語幹の例:(stað-i-)「町,場所」,(skip-), (mjað-u-), (miðj-), (nýj-), (hverj-)「あらゆる,おのおのの every, each」.
(2) 長い語幹とはそれ以外のもので,以下のタイプがある:
(a) 短母音に 2 つ以上の子音が後続する (やはり j と v の加音は数えない):(fagr-)「美しい fair」,(sigl-i/j-)「航海する to sail」,(bekk-i-)「長椅子 bench」.
(b) 長母音または二重母音に 1 つ以上の子音が後続する:(spjót-), (vápn-), (góð-), (frægj-), (brauð-).
(c) 2 音節以上:(rekin-)「散りばめられた inlaid」,(timbrað-)「木造の timbered」.
(D) 加音のある語幹 Augmented Stems
第 2 課では j-加音のある語幹について見たが,v-加音もある.これらは語幹音節の長さの決定には数えられず,表層形に現れるのは非常に限られた条件でのみである.中性名詞語幹は,男性および女性の a-幹と同様,加音が起こりうる.形容詞・動詞・代名詞語幹も同様である.加音が屈折形に現れるのは以下の条件である:
(1) j-加音
(a) j が現れるのは,後母音 (a または u) が直接後続する短音節語幹のあとである.前母音 (i) や子音やゼロが後続するときには消失する.それゆえ (miðj-)「中央の middle」は男単主 miðr, 与 miðjum; 女単主 mið, 複主 miðjar; 中単主 mitt, 与 miðju, 等々となる.(hverj-) は男単主 hverr, 複主 hverir; 女複主 hverjar, 単与 hverri; 中単与 hverju, 複主 hver, 等々.
(b) 長音節の語幹のあとでは j-加音は i として実現するか,現れないか,特殊な条件のもとで j として実現する.
- 長い名詞語幹,たとえば中性 (kvæðj-)「詩 poem」や (ríkj-)「領地 dominion」,男性 (hersj-)「首領 chieftain」では,j-加音は子音またはゼロの前で i として現れる.それゆえ単・複主 (kvæðj- + zero) → kvæði, (ríkj- + zero) → ríki, また単主 (hersj-a- + -r) → hersir.(格) 語尾が母音で始まるとき加音は現れない.それゆえ男単与 (hersj-a- + -i) → hersi, 複主 (hersj-a- + -r) → hersar, また中単与 (kvæðj- + -i) → kvæði. しかし長音節語幹が軟口蓋音 k, g で終わる場合には,加音 j は後続する a または u の前で現れる.それゆえ複与 (ríkj- + -um) → ríkjum.
- 長い形容詞語幹では j-加音は現れない.唯一の例外は,k か g で終わる語幹の後にあり,a か u が後続するときである.それゆえ (frægj-) は男単主 (frægj- + -r) → frægr, 複主 (frægj- + -ir) → frægir, 単与 (frægj- + -um) → frægjum. (こうした j-加音をもつ長音節の形容詞語幹は古風 archaic である;のちの OI の形では j はしばしば完全に落ち,たとえば女複主 frægar.)
(2) v-加音
v-加音は,語幹が長短いずれでも,後続母音が u 以外であれば現れる.それゆえ中性名詞語幹 (ǫlv-) からは単主 (ǫlv- + zero) → ǫl, 与 (ǫlv- + -i) → ǫlvi; 形容詞語幹 (rǫskv-)「勇敢な,精力的な brave, vigorous」からは男単主 (rǫskv- + -r) → rǫskr, 複主 (rǫskv- + -ir) → rǫskvir, 女単主 (rǫskv- + zero) → rǫsk, 複主 (rǫskv- + -ar) → rǫskvar, 中単主 (rǫskv- + -t) → rǫskt, 単与 (rǫskv- + -u) → rǫsku, 等々.
(E) 語順
(1)〔第 1 課で見た内容.形容詞が名詞に先行するとより強調的になるが,構文の反復や単調さを避ける文体論上の要請からそうなることもある.副詞もまた文頭に立てると卓立 prominence 的であるが以下同様〕
(2) 同格 apposition の語句はそれが修飾する名詞とつねに格が一致し,名詞に後続する.
Hverr víkingr er hermaðr góðr, búinn fǫgrum hjálmi, skǫrpu sverði, ok hvǫssu spjóti. あらゆるヴァイキング [男単] はよい戦士 [男単] であり,美しい〔(fagr- + -um) → fǫgrum〕兜 [男単与],鋭い剣 [中単与],そしてとがった槍 [中単与] を身につけている [男単主].
Skjǫldr hans er silfri eða gulli rekinn. 彼〔ら〕の盾 [男単] は銀 [中単与] または金 [中単与] が散りばめられている [男単主]〔Hans「彼の」は前文の「あらゆるヴァイキング every viking」を受けているので,形の上では単数だが日本語としては「彼ら」とすべきだろう〕.
Hann siglir skipi sínu, traustu ok fǫgru, frá landi á vári hverju. 彼〔ら〕は彼〔ら〕の,信頼できる美しい船で [中単与],毎年春に [中単与] 陸 [中単与] から航海する〔sínu < sín は 3 人称の再帰所有代名詞で単複を問わないので「彼〔ら〕」と断る必要がないようだが (第 11 課),受けている名詞はやはり hann と同じものなので,煩雑でもこのほうが一貫するだろう〕.
Í suðri eru mǫrg vǫldug ríki. 南 [中単与] には活発で有力な多くの〔もの〕[中複主] がある.
Þar eru frægjar borgir, stórar hallir, ok mikil klaustr. そこには有名な都市 [女複主],大きな広間 [女複主],そして多くの修道院 [中] がある.
Í langri ferð sinni ferr hann víða með úfriði. 彼〔ら〕の長い旅 [女単与] のなかで彼〔ら〕は闘争 [男単与] とともにいろいろのところへ行く.
Hann banar mǫrgum úvini ok eyðir margri borg á Englandi ok Vallandi. 彼〔ら〕は多くの敵 [男単与] を殺し,イングランド [中単与] とフランス [中単与] で多くの町を荒らす〔bana「殺す」および eyða「荒らす」の目的語が対格でなく与格であるのは本文 A.2.b〕
At hausti stýrir hann skipi sínu, hlǫðnu gulli ok annarri gersimi, heim. 秋 [中単与] には彼〔ら〕は彼〔ら〕の,金 [中単与] とその他の宝物 [女単与] を積んだ船を [中単与],故郷へと進める〔stýra「操舵する steer」もまた与格目的語 (ここでは skip) をとる〕.
Hann lendir síðan skipi sínu í Nóregi eða Danmǫrku, í Svíþjóð eða á Íslandi, en þaðan koma allir rǫskvir víkingar. 彼〔ら〕はそうしてノルウェー [男] またはデンマーク [女],スウェーデン [女] またはアイスランド [中] に彼〔ら〕の船で上陸するが,そこからすべての勇猛なヴァイキングたちは来る.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
v-加音は,語幹が長短いずれでも,後続母音が u 以外であれば現れる.それゆえ中性名詞語幹 (ǫlv-) からは単主 (ǫlv- + zero) → ǫl, 与 (ǫlv- + -i) → ǫlvi; 形容詞語幹 (rǫskv-)「勇敢な,精力的な brave, vigorous」からは男単主 (rǫskv- + -r) → rǫskr, 複主 (rǫskv- + -ir) → rǫskvir, 女単主 (rǫskv- + zero) → rǫsk, 複主 (rǫskv- + -ar) → rǫskvar, 中単主 (rǫskv- + -t) → rǫskt, 単与 (rǫskv- + -u) → rǫsku, 等々.
(E) 語順
(1)〔第 1 課で見た内容.形容詞が名詞に先行するとより強調的になるが,構文の反復や単調さを避ける文体論上の要請からそうなることもある.副詞もまた文頭に立てると卓立 prominence 的であるが以下同様〕
(2) 同格 apposition の語句はそれが修飾する名詞とつねに格が一致し,名詞に後続する.
3. 氷文英訳 (和訳) Text
Hverr víkingr er hermaðr góðr, búinn fǫgrum hjálmi, skǫrpu sverði, ok hvǫssu spjóti. あらゆるヴァイキング [男単] はよい戦士 [男単] であり,美しい〔(fagr- + -um) → fǫgrum〕兜 [男単与],鋭い剣 [中単与],そしてとがった槍 [中単与] を身につけている [男単主].
Skjǫldr hans er silfri eða gulli rekinn. 彼〔ら〕の盾 [男単] は銀 [中単与] または金 [中単与] が散りばめられている [男単主]〔Hans「彼の」は前文の「あらゆるヴァイキング every viking」を受けているので,形の上では単数だが日本語としては「彼ら」とすべきだろう〕.
Hann siglir skipi sínu, traustu ok fǫgru, frá landi á vári hverju. 彼〔ら〕は彼〔ら〕の,信頼できる美しい船で [中単与],毎年春に [中単与] 陸 [中単与] から航海する〔sínu < sín は 3 人称の再帰所有代名詞で単複を問わないので「彼〔ら〕」と断る必要がないようだが (第 11 課),受けている名詞はやはり hann と同じものなので,煩雑でもこのほうが一貫するだろう〕.
Í suðri eru mǫrg vǫldug ríki. 南 [中単与] には活発で有力な多くの〔もの〕[中複主] がある.
Þar eru frægjar borgir, stórar hallir, ok mikil klaustr. そこには有名な都市 [女複主],大きな広間 [女複主],そして多くの修道院 [中] がある.
Í langri ferð sinni ferr hann víða með úfriði. 彼〔ら〕の長い旅 [女単与] のなかで彼〔ら〕は闘争 [男単与] とともにいろいろのところへ行く.
Hann banar mǫrgum úvini ok eyðir margri borg á Englandi ok Vallandi. 彼〔ら〕は多くの敵 [男単与] を殺し,イングランド [中単与] とフランス [中単与] で多くの町を荒らす〔bana「殺す」および eyða「荒らす」の目的語が対格でなく与格であるのは本文 A.2.b〕
At hausti stýrir hann skipi sínu, hlǫðnu gulli ok annarri gersimi, heim. 秋 [中単与] には彼〔ら〕は彼〔ら〕の,金 [中単与] とその他の宝物 [女単与] を積んだ船を [中単与],故郷へと進める〔stýra「操舵する steer」もまた与格目的語 (ここでは skip) をとる〕.
Hann lendir síðan skipi sínu í Nóregi eða Danmǫrku, í Svíþjóð eða á Íslandi, en þaðan koma allir rǫskvir víkingar. 彼〔ら〕はそうしてノルウェー [男] またはデンマーク [女],スウェーデン [女] またはアイスランド [中] に彼〔ら〕の船で上陸するが,そこからすべての勇猛なヴァイキングたちは来る.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
mardi 14 juillet 2015
Valfells and Cathey『古アイスランド語入門課程』第 2 課
Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.
第 2 課 Lesson II
1. 文法 Grammar
(A) 名詞と形容詞の複数主格
(1) 名詞の複数主格:多くの男性・女性名詞は幹母音 -a-, -i-, -u- で特徴づけられ,これは特定の屈折形で最初の語幹音節 (「根」‘root’) と格語尾のあいだに現れる.「根」と屈折語尾とのあいだの幹母音を見せる形のひとつが複数主格である.
男性・女性名詞の複数種格語尾は -r である.それゆえ víkingr (víking-a-) の複数主格は víkingar で,幹母音が単数と複数を区別している.同様に (gest-i-)「客 guest」の単数主格は gestr で複数主格は gestir である.女性名詞の例は (veig-a-)「飲料,醸造酒 beverage, brew」で単数主格 veig, 複数主格 veigar. 中性名詞語幹は幹母音をもたず,中性複数主格語尾はゼロである.それゆえ hús や skip は単数でも複数でもある.
(2) 形容詞の複数主格:形容詞の複数主格語尾は,名詞の語尾と見かけは似るが,形容詞語幹は幹母音によって特徴づけられない.男性複数主格語尾はつねに -ir, 女性複数主格語尾はつねに -ar, 中性複数主格語尾はつねにゼロである.例:góðir víkingar, góðir gestir, góðar veigar, góð hús.
(3) a と ǫ の交替:幹母音 a と ǫ は名詞・形容詞の特定の女性・中性主格で交替する.(marg-) は女性単数主格と中性複数主格で mǫrg であり,(land-) は複数主格で lǫnd である.この交替については第 3 課でまた論じる.
(B) 動詞の 3 人称複数語尾
動詞の 3 人称複数語尾は -a. やはり be 動詞は不規則で,直説法現在 3 人称複数は eru.
(C) 加音のある語尾 Augmented Stems
語幹音節 (「根」) は幹末に j または v をもつことがある:(hersj-a-)「首領 chieftain」,(frægj-)「有名な」,(miðj-)「中間の,中央の」,(nýj-)「新しい」,(ǫlv-)「エール ale」.j-加音は,a または u が直接それに後続する特別な条件下で現れる:(miðj-) 男性複数主格 miðir, 女性 miðjar, 中性 mið. しかし (hersj-a-) の複数主格 hersar では j-加音は現れないし,(ǫlv-) の単数および複数主格も ǫl で v-加音がない.詳細は次の課.
(D) 語順
(1) 2 つの句または文が接続されるときは通常の語順がふつうである.両方が同じ動詞を含むときには,並列した構文で削除されることがある:‘Jarlar konungs eru margir, en frægir víkingar eru gestir hans.’ ‘Hús þeira eru hátimbruð ok salir konungs stórir.’
接続された構文において通常の語順の規則に対する重要な例外は,ok「と,そして」の場合に起こる.2 つの文が ok によって接続されるとき,この接続詞には直接第 2 文の動詞が後続する:‘Frægir víkingar eru gestir hans ok fœra þeir honum góðar gjafar.’ ‘Hús þeira eru hátimbruð ok (eru) salir konungs stórir.’
(2) 階級や地位を示す名詞のような,単一であるかあいまいさがない指示対象をもつ若干の名詞は,ふつう定冠詞をとらない:konungr「王 the king」,sól「太陽 the sun」.一般に,定冠詞は英語よりずっと使われない.所有表現では主部名詞は定冠詞を伴わない:jarlar konungs「王の伯爵たち the earls of the king」.属格におかれた名詞は指示対象の性質によって定冠詞をとることもとらないこともある:konungr Englands「イングランドの王」,konungr landsins「その国の王」〔訳注:あとで学ぶことだが,land-s-ins の -ins が単数属格の定形を表す語尾である.この形態は現代アイスランド語でも同様である〕.
3. 氷文英訳 (和訳) Text
〔新出の名詞の性はなるべく明記します.数および格とくに主格はしばしば明らかなので省略します.2 度出てくる接続詞 en は,語彙欄に ‘but’ とだけ載っているので逆説の「が」と訳していますが,いずれも不自然なので,むしろたとえばロシア語の а くらいのたんなる対比と思ってよいのかもしれません〕
Norskir víkingar eru djarfir ok sterkir. ノルウェーのヴァイキング [男複] は大胆かつ強い.
Norskir víkingar eru djarfir ok sterkir. ノルウェーのヴァイキング [男複] は大胆かつ強い.
Vápn þeira eru sverð, spjót, ok skjǫldr. 彼らの武具 [中] は剣 [中],槍 [中],盾 [男単] である〔中性では単複同形である:本文 A.1〕.
Hǫll konungs er hátimbruð ok salir konungs stórir. 王 [男単属] の広間 [男] は天井が高く,王の部屋 [男複] は広い〔本文 D.2 に konungs の形はあるが,単数属格の語尾は正式には第 7 課〕.
Borð ok bekkir eru húsbúnaðr þar, en langeldar brenna á miðju gólfi. テーブル [女単] と長椅子 [男複] は家具 [男単] でそこにあるが〔=家具 (調度品) はテーブルと長椅子があり?〕,長い火 [男複] が床 [中単与] の中央 [中単与] で燃えている〔前置詞 á は与格支配で,単数与格の語尾は第 3 課〕.
Jarlar konungs eru margir, en ríkir hersar ok frægir víkingar eru gestir hans ok fœra honum góðar gjafar. 王の伯爵 [男複] は多い [男複] が,有力な首領 [男複] と有名なヴァイキング [男複] は彼の客 [男複] で彼によい贈り物 [女複対] をもってくる〔女複対は複主と同形:第 6 課〕.
Matr þeira er ostr ok brauð, fuglar ok fiskar. 彼らの食べもの [男単] はチーズ [男単] とパン [中単],鳥 [男複] と魚 [男複] である.
Mjǫðr ok aðrar veigar eru drykkir þeirra. 蜂蜜酒 [男単] とその他 [女複主] の飲料 [女複主] は彼らの飲みもの [男複] である.
Mǫrg skáld koma til konungs ok kveða hátt ok vel. 多くの [中複] 詩人 [中複] が王 [男単属] のところへ来て,高く上手に朗唱する〔Mǫrg の基底形は (marg-) であり,a と ǫ が交替している:本文 A.3〕.
Konungr þakkar þeim kvæði þeirra ok allir drekka ok eru glaðir. 王は彼らに彼らの詩 [中複対] を感謝し,全員 [男複] は飲み喜ぶ〔Þakka「感謝する to thank」は与格の人に対格の事柄について感謝する〕.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
Valfells and Cathey『古アイスランド語入門課程』第 1 課
Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.
第 1 課 Lesson I
1. 文法 Grammar
(A) 名詞と形容詞の性 Gender in Nouns and Adjectives
古アイスランド語〔以下 OI〕の名詞のおのおのは男性・女性・中性のいずれかに属する.名詞を修飾する形容詞はその性に一致する.
(B) 名詞と形容詞の数 Number in Nouns and Adjectives
単数でのみ現れる少数の抽象名詞を除いて,OI の名詞のおのおのは単数または複数になりうる.形容詞は名詞の数に一致する.
(C) 語幹と語尾 Stems and Endings
(1) 名詞と形容詞:屈折する語の基本形は語幹 stem である.多くの名詞はその基本語幹 basic stem に続く幹母音 thematic vowel によって特徴づけられる:(víking-a-)「ヴァイキング」,(bœj-i-)「農場,開拓地 farm, settlement」.幹母音は実際の語につねに現れるわけではなく,しばしば基底形の音声的な形を変える.名詞および形容詞語幹には性数によって異なる,主格・対格・属格・与格の格語尾がつく.
この課で見る男性単数名詞,およびそれを修飾する形容詞は,単数主格に格語尾 -r をとる.女性単数名詞・形容詞は単数主格語尾をとらない (ゼロ語尾).中性単数は語尾 -t, または長い強勢母音のあとでは -tt をとる.
語幹に語尾がつくとき,語の発音とつづり字の変化が非常にしばしば起こる.それゆえたとえば男性または女性名詞の幹母音は実際の単数主格形には決して現れず (中性語幹には幹母音がない athematic),男性単数主格語尾 -r はさまざまに変化する.基底形と実際の単数主格形とのあいだの以下の対応を見よ:
| 男性: | 名詞 | (víking-a- + -r) | víkingr「ヴァイキング」 |
| (mann- + -r) | maðr「男」 | ||
| (fugl-a- + -r) | fugl「鳥」 | ||
| (bœj-i- + -r) | bœr「農場,開拓地」 | ||
| 形容詞 | (norsk- + -r) | norskr「ノルウェーの」 | |
| (djarf- + -r) | djarfr「大胆な daring」 | ||
| 女性: | 名詞 | (kona- + zero) | kona「女,妻」 |
| (vík- + zero) | vík「入り江 bay」 | ||
| 形容詞 | (væn- + zero) | vœn「美しい handsome」 | |
| 中性: | 名詞 | (skip- + zero) | skip「船」 |
| (sumar- + zero) | sumar「夏」 | ||
| 形容詞 | (búin- + -t) | búit「用意された prepared」 | |
| (fríð- + -t) | frítt「美しい fair, beautiful」 | ||
| (kald- + -t) | kalt「冷たい,寒い cold」 | ||
| (góð- + -t) | gott「よい good」 | ||
| (mikil- + -t) | mikit「多い much, plentiful」 | ||
| (nýj- + -t) | nýtt「新しい」 |
(2) 動詞:動詞も語幹としばしばそれを特徴づける幹母音,そして屈折語尾からなる.動詞の幹母音はふつう実際の (表層の) 形に現れ,基本語幹の音声を変える.動詞語尾 -r は直説法現在 3 人称単数を表す.be 動詞は不規則で,その直説法現在 3 人称単数は er である.以下は若干の例:
| (finn- + -r) | finnr「見つける finds」 |
| (lif-i- + -r) | lifir「生きる lives」 |
| (land-i/j- + -r) | lendir「上陸する lands」 |
(D) 音韻の注意 Phonological Notes
上記のような基底形からの語の派生から,OI のいくつかの音韻規則が見てとれる:
(1) ð, d の同化 assimilation:ð と d は,t の前に生起するとき t になる.この同化の結果の tt は,これが第 3 の子音の後に生起するときには,単一の t に単純化される,というのも子音 + 二重子音という系列は OI では許されないからである.それゆえ kalt は実際には (kald- + -t) → (kaltt) → kalt という過程による.ð → t の変化については上記 fritt を見よ.(góð- + -t) → gott において母音が短くなるのは不規則である.
(2) 語幹末の l-: 男性単数主格 fugl において格語尾 -r は現れていない.これは基本語幹が子音 + l で終わるときにつねに起こる.他方,語幹が ll- で終わるときには男性単数主格の -r は現れる:(full- + -r) → fullr「いっぱいの full」.この同化の問題には第 IV 課で立ち戻る.
(3) 強勢のない音節における同化:第 1 強勢をもたない音節においてはある種の同化と単純化が起こる:(búin- + -t) → (búitt) → búit, (mikil- + -t) → (mikitt) → mikit.
(4) -r の前の nn: 語幹 (mann-) の単数主格形はつねに maðr である.この -r の前における nn の ð への同化はしばしば起こる,ただし多くの場合に両方の変種が使われる:munnr と muðr「口 mouth」,Unnr と Uðr (女性の個人名).
(5) 中性単数主格 -t の二重化 doubling:語尾 -t (その他の子音語尾も同様) は,第 1 強勢のある長母音の後ではつねに二重化する:(nýj- + -t) → nýtt, (há- + -t) → hátt「高い high」.
(E) 語順 Word Order
OI の宣言文 declarative sentence の基本構造は
主語 Subject + 動詞 Verb (+ 副詞 Adverb) (+ 目的語 Object)
である.‘Ingólfr Arnarson er norskr víkingr.’ 副詞または副詞句が第 1 位の主語にかわって文頭に立つことがある;動詞は第 2 位を保ち,
副詞 Adverb + 動詞 Verb + 主語 Subject (+ 目的語 Object)
の語順になる.例:‘Þar er fugl ok fiskr.’
名詞を修飾する形容詞は名詞に先行することも後続することもある.先行する場合はなんらか強調的であるか,名詞の属性としてより基本的なときである.名詞を修飾する形容詞の位置はしばしば,反復や単調さを避けるための文体論的な stylistic 目的で変わる:‘Ingólfr er norskr víkingr ok maðr ríkr ok djarfr.’
名詞と代名詞を含む所有詞句 possessive phrase では,代名詞に特別の強調が置かれる場合を除いてつねに,代名詞がそれの修飾する名詞に後続する:‘Skip hans er gott.’
3. 氷文英訳 (和訳) Text
Kona hans er Hallveig Fróðadóttir. 彼の妻はハッルヴェイグ・フローザドーッティルである〔現代の発音ではハットルヴェイグ〕.
Hon er góð kona ok væn. 彼女はよい妻で美しい.
Skip hans er gott ok vel búit. 彼の船 [男] は立派でよく装備が整っている.
Hann siglir sumar eitt frá Nóregi til vestrs ok finnr land eitt. 彼はある夏 [中] にノルウェーから出帆し,ある土地 [中] を見つける.
Þat er nýtt land ok engi maðr lifir þar. それは新しい土地で,誰もそこに住んでいない.
Þar er fugl ok fiskr nógr. そこには十分な鳥 [男] と魚 [男] がいる.
Vatn er þar bæði heitt ok kalt. 水 [中] はそこでは熱くも冷たくもある〔そこには熱い水も冷たい水もある〕.
Gras er grœnt ok mikit. 草 [女] は緑でたっぷりある.
Ingólfr lendir þar ok byggir hús. インゴールヴルはそこに上陸し家 [中] を建てる.
Margt fólk fylgir honum síðan til Íslands ok byggir þar víða. 多くの人々 [中] がそれからアイスランド [中] まで彼に従い,そこで多くの場所に〔家を〕建てる.
Bœr Ingólfs er kallaðr Reykjavík. インゴールヴルの開拓地 [男] はレイキャヴィーク [女] と呼ばれる.
Þar er nú hǫfuðstaðr Íslands. そこはいまではアイスランドの首都 [男] である.
〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕
lundi 13 juillet 2015
Valfells and Cathey『古アイスランド語入門課程』イントロダクション
Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.ここには訳出していませんが原著の冒頭のイントロダクションにもあるとおり,本書を伝統的な文法書から区別する特長のひとつは,段階的・漸進的な構成 (‘step-by-step progression’) をとっていることであり,訳者の知るかぎり,このあたりの事情は 30 余年を経た現在でも変わっていないように思われます.旅行者などの実際的な目的と,言語学者などによる研究上の目的との相半ばする,アイスランド語という言語の文法書には,現代語の参考書でさえ比較的にそうした伝統的・参照文法的な書物が多いのですが,とりわけ古語では避けうべくもなく,現在でも本書は貴重な例外でしょう.
とは言ったものの,いちばん最初のつづり字と発音の説明だけは段階的もなにもなく,まとめて覚えてしまわなければどうにもなりません.上に説明した本書の特長が生きるのは次回の本編からです.
とは言ったものの,いちばん最初のつづり字と発音の説明だけは段階的もなにもなく,まとめて覚えてしまわなければどうにもなりません.上に説明した本書の特長が生きるのは次回の本編からです.
古アイスランド語の音韻 Phonological Introduction
1. 子音 Consonants
古アイスランド語〔以下 OI〕の子音音素 consonantal phoneme は以下:
| 口腔 oral cavity | |||
|---|---|---|---|
| 唇音 labial | 前 front | 後 back | |
| 閉鎖音 stop | |||
| 無声 voiceless | p | t | k |
| 有声 voiced | b | d | g |
| 継続音 continuant | f | þ | h |
| 歯擦音 sibilant | s | ||
| 鼻音 nasal | m | n | |
| 流音 liquid | |||
| 継続音 continuant | l | ||
| ふるえ音 trilled | r | ||
標準化されたテクストのつづり字はおおむねこの音素に対応しているが,ð の文字が /þ/ の音声学的変種 phonetic variant〔=異音 allophone〕に対応することは例外である.z は t + s または ð + s, また x は k + s の省略つづりである.
2. 半母音 Semivowels
OI は 2 つの半母音 semivowel (わたり音 glide) をもつ:唇音 /v/, 硬口蓋音 /j/. 半母音は子音・母音双方の特徴をもつ.子音と同じく音節内での聞こえ sonority のピークはもたない.母音 u と i のように先行する強勢母音に影響し,ウムラウト umlaut をひきおこす.
3. 母音 Vowels
OI の母音は短または長である.
(A) 短母音は以下:
| 前舌 | 後舌 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 非円唇 | 円唇 | 非円唇 | 円唇 | ||
| 高 | i | y | u | 非低 | |
| 非高 | e | ø | o | ||
| a | ǫ | 低 | |||
(B) 長母音は以下:
| 前舌 | 後舌 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 非円唇 | 円唇 | 非円唇 | 円唇 | ||
| 高 | í | ý | ú | 非低 | |
| 非高 | é | œ | ó | ||
| æ | á | 低 | |||
5 つの基本母音 basic vowel a, e, i, o, u は長短いずれでも現れる.ほかの母音は本来 i-ウムラウトか u-ウムラウト,もしくはその両方に由来したもので,OI 文学の古典期には非対称的な母音体系を作っている.
(C) 二重母音:2 つの基本的な二重母音 au と ei, そして au の i-ウムラウトから派生した第 3 の二重母音 ey がある.その長さは二重母音と等しい.
4. 音節構造 Syllable Structure
単音節語は á ほど短いことも strauksk ほど長いこともある.頭子音結合 initial consonant cluster は,はじめが s の場合に最大で 2 子音 + 流音からなる.末子音結合 final consonant cluster は最大で,fannsk のように二重子音 + s + 子音からなる.
音節は最小では単一の母音からなりえ,強勢がなければ短い a, i, u, 強勢があれば長母音または二重母音である.音節の連続において短母音がべつの短母音に直接先行することはないことは注意に値する (二重母音はそれじたいが構成単位なのでこれにはあたらない).もし屈折した語形の構成部分が 2 つの短母音を連結させる場合,前者は脱落する.たとえば動詞語幹 lifi-「生きる」の直説法現在 3 人称単数 lifir は語幹 lifi- + 人称語尾 -r だが,1 人称複数 lifum と 3 人称複数 lifa では,語尾 -um, -a のまえの語幹末の i は失われている.
(強勢のある) 長母音が語末の短母音に直接先行するときには,特定の環境 (両者ともに前母音か後母音である場合) で後者の母音が脱落する.
OI の音節の音節は文法的に「短」か「長」かであり,その区別は母音とそれに後続する子音によって決まる.音節の (音声的ではなく) 文法的な長短を決めるには,その音節の母音に先行する子音の数は関係がない.短い音節とは短母音に 1 つ以下の子音が続くものか,長母音 (または二重母音) に子音が続かないものである.ほかの音節はすべて文法的に長い音節に分類される.短い音節の例は þat「あれ that」,skip「船 ship」,ey「島」,á「川」,strá「藁 straw」で,長い音節の例は ár「年 year」,øx (= øks)「斧」,þykk [女性形]「厚い thick」,land「土地 land」,austr「東 east」.音節の文法的長短は音韻論的規則の適用と屈折語形の構造において重要な要素である.
5. 母音交替 Vocalic Alternations
長短の基本母音 a, e, i, o, u と,2 つの部分的な母音同化 vowel assimilation の過程,i-ウムラウトと u-ウムラウトから生じる派生母音 y, ý, ø, œ, æ, ǫ とのあいだにはある対応がある:
(A) i-ウムラウトの結果,第 1 強勢のある primarily stressed 母音は後続する i または j によって前方化する fronted が,円唇性 roundness〔=円唇か非円唇か〕は変わらない.それゆえ以下の対応が起こる:
| 基底幹母音 | i-ウムラウトの結果 |
|---|---|
| a | e |
| o | ø |
| u | y |
| á | æ |
| ó | œ |
| ú | ý |
特定の ‘i’-母音だけがこの前方化 fronting をひきおこすことに注意せよ (第 XIII 課で詳細を見る).したがってたとえば,男性または中性名詞の格語尾として現れる i は i-ウムラウトをひきおこさないし,名詞曲用または若干の弱動詞の i-幹も同様にしない.i-ウムラウトがノルド語 Norse における規則的な音声特質であった時代にはこれらの母音は e であり,その e が i に推移したのは i-ウムラウトが機械的な音声過程でなくなったときである.
(B) u-ウムラウトの結果,第 1 強勢のある母音は後続する u または v によって円唇化する rounded が,前か後かは変わらない.こうして短い a は ǫ になる.しかし長い á は変わらない,というのも仮設される長・低・後舌円唇母音 (ǫ́) はこの体系に存在しないからである.OI のより初期の段階と古ノルド語〔以下 ON〕ではこの母音は u-ウムラウトの結果として存在したが,OI の文献時代の比較的初期の段階で長い á に吸収された.同様に,長短の i と e は u-ウムラウトによって円唇化して y/ý と ø/œ になるが,この過程の影響は OI においてさほど重要ではなく文法において周辺的にしか存在しない.
強勢のない a は u-ウムラウトの結果 u になる (非強勢音節では短母音 a, i, u しか生起しない).
(C) o と y のあいだにはもうひとつの交替が観察される.これは本来 i-ウムラウトの過程による u と y との規則的な交替であった.のちに特定の位置で u が o に低まるがその理由は OI ではもはや系統的でない.
すべての母音・二重母音は強勢音節に現れるが,強勢のない音節には a, i, u だけが現れる.OI の第 1 強勢は語幹の第 1 音節に落ちる.合成語では本来の第 1 強勢が,語頭位置でなくなったときに第 2 強勢 secondary stress になる.3 つの合成語では第 2 強勢は最後の強勢音節に落ち,第 3 強勢 tertiary stress が第 2 の強勢音節に落ちる.もとの要素で強勢のない音節があれば,合成語でも強勢をもたない.例:land「土地 land」,nám「占有,占領 occupation, seizure」, maðr「人 man」,¹land²nám「土地の定住 settlement of land」,¹land³náms²maðr「定住者 settler」.
歴史的な ON の方言が発音されていた実際の詳細は仮設的 hypothetical〔=再建的 reconstructed〕である.しかしかなり信頼のできる推測をしうる:
(A) 子音 Consonants
(1) 母音にはさまれた intervocalic 分節音 segment, および無声閉鎖音を含まない分節音の結合は,有声である.すなわち,gefa「与える give」,koma「来る come」,fara「行く,旅する go, journey」,tala「話す speak」,rœða「議論する discuss」などにおける継続音・鼻音・流音は有声である./þ/ だけがその有声の変種 ð を表す独立の文字をもつ.無声閉鎖音 p, t, k が語中の medial 結合に現れるときには隣接する流音と鼻音は無声である:brotna「壊れる break」,ætla「意図する intend」,akr「畑 field」.歯擦音 s は,母音間においてさえ,おそらくつねに無声であったという点で例外である.
(2) 軟口蓋音 velar k と g は前母音のまえで硬口蓋化 palatalize された.したがって後母音 a のまえの karl「男 man」や gaf「与えた gave」では英語の [k], [g] に似るが,kerling「老女 old woman, crone」や gefa「与える to give」は [kjerling], [gjeva] である [訳注].有声軟口蓋音 g はほかの変種をもっていた可能性がある:2 つの母音間では有声継続音 [ɣ] として発音されたかもしれない.
(3) k と g のまえでは n の発音は [ŋ] であった.
(B) 半母音 Semi-vowels
j は硬口蓋継続音であった.v は英語の w のような両唇音 bilabial であったか,英語 (と現代アイスランド語〔以下 MI〕) の v のような唇歯音 labio-dental であった.
(C) 母音 Vowels
(1) OI の母音は,音韻論的にも発音上〔=音声学的〕にも,長または短であった〔訳注:物理的な音声の長さとしても意味を区別する特徴としても 2 通りがあったということ〕.
(2) 13 世紀以来,アイスランド語の母音体系と長短 (母音の長さと音節の長さの両方) の基準に一連の変化が起こり,長母音と短母音のあいだの発音上の差はもはや量的ではなく質的になった.長母音はすべて二重母音化し,二重母音の発音にも若干の推移が起こった:
OI の œ はつづり字上も発音上も MI の æ [aj] に吸収された.短母音の体系において ø と ǫ は MI の ö として融合した.長短の y/ý は [I/ij] になった.
音韻表示は 2 種類ある.第 1 は基底音韻表示 underlying phonological representation で,以下の章ではつねに括弧に入れて示され,語を基本形 basic form とあわせて,屈折形 inflected form を特徴づける文法的特徴とともに示すものである.たとえば「広間,宮殿 hall, palace」を意味する語は基底音韻表示 (hall-i-) をもち,その単数主格形は hǫll である.括弧内の形の強勢母音はそれが基本形にあるように示されており,すべての女性強変化名詞語幹の主格単数形が機械的に適用される,a から ǫ への u-ウムラウトを経るまえの形である.幹母音の -i- は複数主格・対格でのみ表層に現れ,あるクラスの名詞を特徴づける.こうした基底音韻表示はかならずしも任意の実際の (表出する) 語形に対応するわけではなく,屈折形の基本的な音韻的 (かつ文法的) な特徴を表現する抽象的な形式である.他方,屈折した語の表層音韻表示 surface phonological representation, たとえば単数主格 hǫll や複数主格 hallir は,そのつづり字表示と完全に同じであり,すべての適当な音韻規則がその基底形に適用されたあとの語を示している.この表示はおおむねその語の音声的性質を示している.
〔§8 の後半および §9「参照ガイド:主要な音韻規則の要約」は省略〕
(B) u-ウムラウトの結果,第 1 強勢のある母音は後続する u または v によって円唇化する rounded が,前か後かは変わらない.こうして短い a は ǫ になる.しかし長い á は変わらない,というのも仮設される長・低・後舌円唇母音 (ǫ́) はこの体系に存在しないからである.OI のより初期の段階と古ノルド語〔以下 ON〕ではこの母音は u-ウムラウトの結果として存在したが,OI の文献時代の比較的初期の段階で長い á に吸収された.同様に,長短の i と e は u-ウムラウトによって円唇化して y/ý と ø/œ になるが,この過程の影響は OI においてさほど重要ではなく文法において周辺的にしか存在しない.
強勢のない a は u-ウムラウトの結果 u になる (非強勢音節では短母音 a, i, u しか生起しない).
(C) o と y のあいだにはもうひとつの交替が観察される.これは本来 i-ウムラウトの過程による u と y との規則的な交替であった.のちに特定の位置で u が o に低まるがその理由は OI ではもはや系統的でない.
6. 強勢 Stress
すべての母音・二重母音は強勢音節に現れるが,強勢のない音節には a, i, u だけが現れる.OI の第 1 強勢は語幹の第 1 音節に落ちる.合成語では本来の第 1 強勢が,語頭位置でなくなったときに第 2 強勢 secondary stress になる.3 つの合成語では第 2 強勢は最後の強勢音節に落ち,第 3 強勢 tertiary stress が第 2 の強勢音節に落ちる.もとの要素で強勢のない音節があれば,合成語でも強勢をもたない.例:land「土地 land」,nám「占有,占領 occupation, seizure」, maðr「人 man」,¹land²nám「土地の定住 settlement of land」,¹land³náms²maðr「定住者 settler」.
7. 発音 Pronunciation
歴史的な ON の方言が発音されていた実際の詳細は仮設的 hypothetical〔=再建的 reconstructed〕である.しかしかなり信頼のできる推測をしうる:
(A) 子音 Consonants
(1) 母音にはさまれた intervocalic 分節音 segment, および無声閉鎖音を含まない分節音の結合は,有声である.すなわち,gefa「与える give」,koma「来る come」,fara「行く,旅する go, journey」,tala「話す speak」,rœða「議論する discuss」などにおける継続音・鼻音・流音は有声である./þ/ だけがその有声の変種 ð を表す独立の文字をもつ.無声閉鎖音 p, t, k が語中の medial 結合に現れるときには隣接する流音と鼻音は無声である:brotna「壊れる break」,ætla「意図する intend」,akr「畑 field」.歯擦音 s は,母音間においてさえ,おそらくつねに無声であったという点で例外である.
(2) 軟口蓋音 velar k と g は前母音のまえで硬口蓋化 palatalize された.したがって後母音 a のまえの karl「男 man」や gaf「与えた gave」では英語の [k], [g] に似るが,kerling「老女 old woman, crone」や gefa「与える to give」は [kjerling], [gjeva] である [訳注].有声軟口蓋音 g はほかの変種をもっていた可能性がある:2 つの母音間では有声継続音 [ɣ] として発音されたかもしれない.
[訳注] この音声表記は IPA と共通点は多いがそのものではないので,[g] が (表示環境にもよるが) 2 階建てのグリフになっていても問題はない (し,実際の書籍でもそうなっている).Cp. IPA の有声軟口蓋破裂音は [ɡ].
(3) k と g のまえでは n の発音は [ŋ] であった.
(B) 半母音 Semi-vowels
j は硬口蓋継続音であった.v は英語の w のような両唇音 bilabial であったか,英語 (と現代アイスランド語〔以下 MI〕) の v のような唇歯音 labio-dental であった.
(C) 母音 Vowels
(1) OI の母音は,音韻論的にも発音上〔=音声学的〕にも,長または短であった〔訳注:物理的な音声の長さとしても意味を区別する特徴としても 2 通りがあったということ〕.
(2) 13 世紀以来,アイスランド語の母音体系と長短 (母音の長さと音節の長さの両方) の基準に一連の変化が起こり,長母音と短母音のあいだの発音上の差はもはや量的ではなく質的になった.長母音はすべて二重母音化し,二重母音の発音にも若干の推移が起こった:
| OI | MI |
|---|---|
| í | [ij] |
| é | [je] |
| æ | [aj] |
| ú | [uw] |
| ó | [ow] |
| á | [aw] |
| ei | [ej] |
| ey | [ej] |
| au | [øj] |
8. 音韻表示,つづり字,標準化テクスト Phonological Representation, Orthography, and Normalized Texts
音韻表示は 2 種類ある.第 1 は基底音韻表示 underlying phonological representation で,以下の章ではつねに括弧に入れて示され,語を基本形 basic form とあわせて,屈折形 inflected form を特徴づける文法的特徴とともに示すものである.たとえば「広間,宮殿 hall, palace」を意味する語は基底音韻表示 (hall-i-) をもち,その単数主格形は hǫll である.括弧内の形の強勢母音はそれが基本形にあるように示されており,すべての女性強変化名詞語幹の主格単数形が機械的に適用される,a から ǫ への u-ウムラウトを経るまえの形である.幹母音の -i- は複数主格・対格でのみ表層に現れ,あるクラスの名詞を特徴づける.こうした基底音韻表示はかならずしも任意の実際の (表出する) 語形に対応するわけではなく,屈折形の基本的な音韻的 (かつ文法的) な特徴を表現する抽象的な形式である.他方,屈折した語の表層音韻表示 surface phonological representation, たとえば単数主格 hǫll や複数主格 hallir は,そのつづり字表示と完全に同じであり,すべての適当な音韻規則がその基底形に適用されたあとの語を示している.この表示はおおむねその語の音声的性質を示している.
〔§8 の後半および §9「参照ガイド:主要な音韻規則の要約」は省略〕
jeudi 9 juillet 2015
Portner, 片岡訳『意味ってなに? 形式意味論入門』誤植訂正
Paul H. Portner, 片岡宏仁訳『意味ってなに? 形式意味論入門』勁草書房,2015 をおととい購入しさっそく読了しました.原文のおそらくくだけた語り口を,よくこなれた親しみやすい日本語で訳されてあり,平易ながら興味深い内容にひきこまれてあっという間に読み終えてしまいました.詳細な感想はべつの機会と場所に譲るとして,このエントリはその typo などのメモです (底本は 2015 年 6 月 30 日第 1 刷).
以下,原文の誤りである可能性のあるものも,とくに区別せずあげてあります.l. は行数を表し,l. ↑n は下から数えて n 行めを意味するものとします.ほとんどは些細なミスですが,理解に影響するか混乱を招きそうな比較的重大なものを含む指示箇所を太字にしておきます.誤の側 (矢印やダッシュのまえ) に「?」を付したものはそれが誤りではないとも解釈できること,正の側に「?」を付したものは訂正案に確信がないことを示します.
以下,原文の誤りである可能性のあるものも,とくに区別せずあげてあります.l. は行数を表し,l. ↑n は下から数えて n 行めを意味するものとします.ほとんどは些細なミスですが,理解に影響するか混乱を招きそうな比較的重大なものを含む指示箇所を太字にしておきます.誤の側 (矢印やダッシュのまえ) に「?」を付したものはそれが誤りではないとも解釈できること,正の側に「?」を付したものは訂正案に確信がないことを示します.
- p. 2, ll. ↑4–3: “Dos Passos’USA”, “meeting?It’s”; p. 5, l. 10: ‘Quine1953’ ―― スペースの脱落.
- p. 22, l. ↑6: 「円が正方形のうつ側にある」
- p. 27, l. 10: 「どうやって利益を引き出しているんだろう 答え:」―― 疑問符 (と全角スペース) の脱落.
- p. 29, ll. 3, 7: 「意志決定」→「意思決定」
- p. 29, l. 12: 「スモールトーク」?―― カタカナ語として通じにくいので「世間話,おしゃべり」などとすべきでは?
- p. 30, l. 1: 「(11) 誰がシルヴィアのところに行ったの?」―― p. 30, l. 8: 「シルヴィアが人物 x のところに行った」や,p. 31, l. 2: 「シルヴィアがある人物のところに行ったものと仮定しよう」などに照らすと,主語が逆では?
- p. 43, ll. ↑8–7: 「『シェルビー』を範疇 NP に……」はべつの箇条では?
- p. 51, l. 3: 「一字一違わず」
- p. 54, l. ↑8: 「たしかに (8) はなかなか複雑そう」→ (7)
- p. 56, l. ↑1: 「同じようもの」
- p. 57, l. 7: 「取り去らならいと」
- p. 58, ll. 3–4: 「ぼくらの心はいったいどうやってこの文の意味が……にならないんだろう?」→「……にならないとわかるんだろう?」
- p. 63, l. ↑1: ‘the hammar’
- p. 68, ll. 3–4: 「図 3 (p.13)」→ 図 3 は p. 17.
- p. 72, l. ↑2: 「図 12 のようなお絵かきで表示できる (p.41)」→ 図 12 は p. 49.
- p. 78, ll. 11–12: 2 組の亀甲括弧〔 〕ではさまれた地の文「との比較が関与……ではない」のポイントが落ちている.
- p. 83, l. 5: 「出来事の時の記述している」→「……時を……」
- p. 83, l. ↑2: 「(8) は偽になる」; p. 84, l. 2: 「(8) は真でなきゃ」→「(8a) は……」
- p. 86, l. 4; p. 156, l. 2; p. 157, l. 10; p. 158, ll. 18, 22; p. 159, ll. 1, 5, 10, 14: 「下位集合」―― p. 26, l. 8; pp. 189f.; p. 199, ll. 6, 12; pp. 266–267, 269 のように「部分集合」としてある箇所も多くあります.(数学ではなく) 哲学や言語学よりの論理学では「下位集合」の訳語もふつうなのでしょうか.集合論を含む数学プロパーではまず言わないと思います (「開集合」と同音のためか.経済学・最適化理論では「下位集合」を別途 ‘sublevel set = lower contour set’ の意味で使うことがあります).
- p. 99, l. 5: 「分脈」→「文脈」
- p. 100, 原注 5: ‘Kripke (972)’
- p. 104, ll. 7–8: 「is the famous Chinese philosopher (その有名な中国人哲学者である)」→「is the most famous... (そのいちばん有名な……)」
- p. 107, l. 7: 「その指示に他ならないだというんだ」
- p. 110, l. 17: 「一つの教師」
- p. 116, l. ↑5: 「この練習問題の答えは巻末に掲載してある」―― ほかの 10 問のように番号 (no. 5) を明記していない.
- p. 137, l. 3: 「between three and six women (3〜5 人の女性たち)」
- p. 138, 「訳者の補足」のツリー:‘every child’ → ‘every baby’
- p. 141, ll. 1–2: 「(表の一列目にある)『すべての赤ちゃん』」→「……一行目……」
- p. 144, l. 8: ‘shelby’ → ‘Shelby’
- p. 144, l. ↑8: 「some『いくつかの』」―― 次の行で「つまり,少なくとも 1 つの……」とあるので,この some は「ある」のほうがはまるのでは?
- p. 146, l. ↑9: 「機能におって」?
- p. 149, ll. 1–2: インデントされている問いかけの 2 行「否定辞 not は……だろうか?」を水平線で囲む.
- p. 152, l. 3: ‘hyperhym’ → ‘hypernym’
- p. 152, l. ↑9: 「否定でない単純な文 (25a) は上方伴立にあたる」→ (23a)
- p. 153, ll. 11–19: 「〔every dog〕」のあとから「〔(25a) によって〕」までで地の文のポイントが落ちている.
- p. 154, 原注 7: ‘Kadmoon and Ladman’ → ‘Kadmon and Landman’
- p. 154, (26): every の行の最後のセル (第 2 の属性,上方伴立) は ‘No’ → ‘Yes’. また three についた ‘[8]’ は消し忘れ?
- p. 154, l. 2: 「させるもの他ならない」
- pp. 160ff.: これまでの章で「正方形の内側」であった ‘inside the square’ がここから「四角のなか」になります (同じ図を再掲しているので気になります).
- p. 166, l. 2: 「難しいもの 1 つ」
- p. 174, l. 3: 「例 (16) の場合だと、ぼくが物語を語る時点と、……」―― 読点.
- p. 174, ll. 8–9: 「次の等式を満たさなくてはいけない:R < S, R = E」→ 等式でないものがある.S のみイタリック (本当はこういう文字はすべてイタリックが正しいのですが,文系諸分野の出版物ではローマンが優勢と理解しています).
- p. 176, ll. 10–11: 「Es の場合はその逆の T ⊆ E もありうる」→ T ⊆ Es.
- p. 177, l. 14: 「もちろん,(18c) は有意味だ」→ (18a)
- p. 178, l. 6: 「考えを験してみよう」?―― 「ためして」と読めますが文体から浮いているように見え,脱字か誤変換 (表記ゆらぎ) の印象を受けます.
- p. 179, ll. 11–12: 「いちばん基本的なものだ他のおおむね……」―― 句点の脱落.
- p. 182, (25): T と S がイタリックだったりローマンだったりする.また,現在完了のセルの ‘E = S’ と過去完了のセルの ‘E < S’ は,それぞれ ‘T = S’, ‘T < S’ では?
- p. 185, l. ↑10: 「たんにたんに」
- p. 186, l. ↑3: 「この可能世界ではトラックは」→「……バスは」
- p. 189, l. 14: 「このトピックを検鏡してる」
- p. 190, (38): ‘onto Clarendon boulevard, not onto Wilson Boulevard.’
- p. 192, (39b): 「道徳により」「徳により」
- p. 192, l. ↑10: 「世界 1 から 3 つの矢がのびている」? また,図 45 を見ると世界 1 から 3 へ向かう矢印はないようである.
- p. 194, l. 14: 「他の自国に出発する」
- p. 198, ll. ↑2–1: 「(3) は w1 で偽,w2 で真だ」―― 例文 (3) が見あたらない (例文 (2) の主節の動詞 believes を wants に変えたものか?).
- p. 204, l. 7: 「聞き及んでいるもの」→「……ものの」
- p. 210, l. 11: 「心置きなく言える」―― 文末句点の脱落.
- p. 211, l. 3: 「たいして役立たない (9a) は」―― 句点またはコロンの脱落.
- p. 217, l. 9: 「場面にそう左右されるか」→「……どう……」
- p. 219, ll. 1–2: 「こまかい技術的な話をすると」―― 文脈から「……話を省略すると」などの脱字に見えるが,不明.
- p. 220, 訳注 1: 文末句点の脱落.
- p. 220, (8): 訳文に「また」の脱落.
- p. 221, (a): ‘she are ate an apple’
- p. 221, (c): この訳文のみ「りんご」がひらがな.
- p. 221, (e): 訳文に「も」の脱落.
- p. 223, l. 6: 「たとえば,:」
- p. 224, (19); ll. ↑11–10: 「ジョンは」→「ジョンも」
- p. 224, (21): 「φP プラス,φP のうち φ の」→「…… ψP のうち……」
- p. 229, (34): ‘Mary arrive’ → ‘Mary arrived’
- p. 232, (39): 右辺の括弧の数.
- p. 233, (41): 「ハンニバルは」→「ハンニバルも」
- p. 235, ll. ↑10–9: 「表現もする (……),」?―― 句点に,もしくは「する」を「するし」に.
- p. 236, l. 7: ‘illocutioanry’
- p. 242, l. 2: 「(2) は自然な応答になる」→ (a)
- p. 242, (54): ‘??’ がつくのは (b) でなく (a).
- p. 242, ll. 14–15: 「豚肉を食べる」が重複 (順番から前者を削除).
- p. 242, l. ↑4: 「話し手に魚を食べるってこと」→「話し手は……」,または「聞き手に……〔only は伝えている〕」?
- p. 242, (55): 「通常の意味」の ‘I eat FISH’ は小文字の ‘fish’ では?
- p. 244, 関係の格率:文末句点の脱落.
- p. 246, (5-i): 開きカギ括弧の重複.
- p. 247, (5-ix, xiv): 「S は」の重複.
- p. 249, l. ↑11: 「話し手は「3 つ食べた」と言っただろう」―― 二重カギ括弧に.
- p. 250, l. 12: 「分離不可能性が」?
- p. 251, l. 4: 「そうした生き物たちついて」
- p. 254, l. 11: 「W2 → {個体 no.2, 個体 no.4,}」―― 最後のコンマを削除.
- p. 254, l. ↑12: 「{W1, W2, ...} みたいな命題になるだろう」→「{W1, W3, ...} ……」
- p. 254, l. ↑9: 「構成的につくりあがられる」
- p. 261, l. 12: 「進める法がいい」
- p. 263, 原注 8: 「どれも Montague (1974) に採録されている」→「再録」?
- p. 264, l. ↑6: 「意味論研究者もふくめって」
- p. 265, l. 3: 「『〜にちがいない,」
- p. 267, 練習問題 3 の答え:いちばん下の関数が誤りで,正しくはどちらも F.
- p. 268, 練習問題 5 の答え:集合が [ ] で表されているが,正しくは { }.
- p. 269, 練習問題 9 の答え:‘λx.x. + x = 4, 2’ の 2 つめのドットを削除.ところで,2 つの TWO に文強勢をおかせるための答えは,変数が x 1 つのこの形でいいのだろうか.言いかえると,われわれが「なにたすなにで 4 になる?」という質問をするとき,(ありうべき回答の 1 つに ‘2 + 2’ を予期するとしても) はなから 2 つの「なに」は共通の値であることを前提にしているだろうか.
- p. 270, 練習問題 11 の答え,l. 5: “X’ + Hannnibal ate [...]” → “C’ ”
- p. 287, l. 10: 「集点」?
- p. 292, l. 5: ‘Jacknedoff, Ray (2007)’
(原著の) 参照文献の箇所は著者名で指示します (著者名じたいが誤っているときは重複するので省略).一見して気がついたところのみ指摘しますが,目で見るよりテキストデータで検索をかけ置換するほうが漏れがなく効率もよいでしょう.なお,こうした文献一覧では避けられない表記ゆれ (たとえば repr. と Repr.) と,英語の著作名の語頭大文字化 (ドイツ語では名詞のみ大文字,フランス語やイタリア語では最初の語と固有名詞を除いて大文字化しない) の不備については無視しています.
- p. 272: ‘Austin, J. L. (1962),’; ‘Cooper, R. [...] (1990),’; p. 274: ‘Gazdar, G. (1979),’; ‘Hamblin, C. L. (1973),’; p. 276: ‘Landman, F. (1992),’; ‘Lycan, W. G. (1984),’; p. 277: ‘Partee, B. (1973),’; p. 278: ‘Reichenbach, H. (1947),’; ‘Soames, S. (1990),’; p. 279: ‘Wittgenstein, L. (1953),’ ―― 出版年のあとのコンマをピリオドに.
- p. 272, Bach, E. (1986): ‘P. Weingartner, eds..’
- p. 272, Bach, E. (1989): ‘Albany, NY; SUNY Press’
- p. 272, Block, N. (1998): ‘E. Craig, ed..’
- p. 272, Burge, T. (1979): ‘[...] the mental-’
- p. 273, Davidson, D. (1967b): ‘N. Rescher, ed..’
- p. 273: ‘Dietrich, W, (1955). [...] Eine Aspet- und Tempusstudie’ → ‘Aspekt-’
- p. 273: ‘Evans, G. and J. McDowell, eds, (1976). Truth and Meaning;’
- p. 273, Fauconnier, G. (1975): ‘In F, Guenthner’
- p. 274, Gazdar, G. (1981): ‘A. EC Joshi’ → ‘A. K. Joshi’; ‘B. L. Webber, eds,.’
- p. 274, Groenendijk, J. and M. Stokhof (1982): ‘5,175–233’ ―― スペースの脱落.
- p. 274, Hausser, R. (1980): ‘In R Kiefer and J. Searle, eds..’ → ‘In R. Kiefer [...]’
- p. 275, Jacobs, J. (1983): ‘der Gradpartikel’ → ‘der Gradpartikeln’
- p. 275, Kadmon, N. (2001): 行末ピリオドの脱落.
- p. 275: ‘Kadmon, N. and E Ladman’ → ‘Kadmon, N. and E. Landman’
- p. 275, Karttunen, L. (2003): ‘Vol. HI’ → ‘Vol. III’
- p. 275: ‘Kratzery A.’ → ‘Kratzer, A.’
- p. 276, Ludlow, P. (2000): ‘K. M. Jaszczolt, ed..’
- p. 276, Montague, R. (1970a): ‘Linguaggi nelia Sodeta e nella Tecnica: Edizioni di ComunitH. Milan: Edizioni di Comunita’ → ‘Linguaggi nella società e nella tecnica. Milano, Edizioni di Comunità’ (アッチェントの有無や大文字,言語による地名の違いは不問とする)
- p. 277, Montague, R. (1973): ‘In K. J. J, Hintikka, J. M. E, Moravcsik, and P, Suppes, eds..’
- p. 278, Sadock, J. (1978): ‘[...] conversational implicature-’
- p. 278, Searle, J. R. (1965): ‘New York; Allen and Unwin’
- p. 278, Searle, J. R. (1975b): ‘In F, Cole and J, L. Morgan, eds.’
- p. 279, Stalnaker, R. (1974): ‘P. Unger, eds..’
- p. 279, von Stechow, A. (1991): ‘Berlin; Walter de Gruyter’
- p. 279, Wittgenstein, L. (1953): ‘trans. G, E. M, Anscombe’
なお,あまりにも細かい (機械的な?) 事柄については記録を省きました.それはたとえば,
- p. 20, l. ↑3: 「これも 図 3 でいうと」などの「図」のまえの余分なスペースで,p. 31, l. 8 や p. 38, ll. 7, 14 など冒頭に同様の箇所若干.
- 逆に ‘p.13’ や ‘no.1’ のようにしばしば必要なスペースがない.
- p. 6, 原注 1 や p. 195, 原注 13 のように,論文の出版年が (括弧が二重にならない環境で) 裸になっている箇所がある.
- 変換ゆらぎ.同一ページ内かつ同じ生起環境で競合している例をあげると,p. 146, l. ↑8: 「S にあるモノすべてと H にあるものすべて」;p. 193: 「てらして」対「照らして」;p. 216, ll. 4–5: 「なにかを〔……〕その何かを」;p. 232: 「調った」対「ととのった」;p. 237: 「イヤな思い」対「いやな思い」など.
- p. 93, 原注 1 の 2 度の “Paul’s” が典型的で,アポストロフィの形状を見ると右引用符型のアポストロフィ ’ といわゆるタイプライタ・アポストロフィ ' とが混在している箇所がある.
- カギ括弧や丸括弧の閉じ括弧と句点との前後関係.カギ括弧について,たとえば p. 204 の最後の 1 組「『2 たす 2 は 4』は……ことになる.」と,同じページの残りの事例.
のようなことです.これらを逐一発見することも手作業の域を超え,また必要でもないと思われ,原稿ファイル上での一括置換が望ましいでしょう.
mardi 7 juillet 2015
松平・国原『新ラテン文法』練習問題解答 (旧 6)
松平千秋・国原吉之助『新ラテン文法』(東洋出版,1992) の羅文和訳問題の解答を順次作成していきます.前回までのリンク:第 III 課〜第 VI 課,第 VII 課〜第 VIII 課,第 IX 課〜第 X 課,第 XI 課〜第 XV 課,第 XVI 課〜第 XIX 課.
第 XX 課,練習問題 38第 XXI 課,練習問題 40第 XXII 課,練習問題 42
お気づきの点があればコメント欄またはメールにてお知らせください.
この資料は大学で友人たちと私的に行っているラテン語の勉強会にあわせて用意していたもので,各回の終了とともにここで公開する習慣でした.それは会が終わるまえに参加者が見てしまうと勉強にならず,また私の訳文に誤りがあっても見つからなくなる危険があると思われたためで,たびたびの更新の遅延は会のスケジュールの都合でした.その会がこのたび参加者の都合でしばらく休会となることが決定したので,ここでの連載もどうすべきか思案中です (とくに需要がなければ無期限停止).
この資料は大学で友人たちと私的に行っているラテン語の勉強会にあわせて用意していたもので,各回の終了とともにここで公開する習慣でした.それは会が終わるまえに参加者が見てしまうと勉強にならず,また私の訳文に誤りがあっても見つからなくなる危険があると思われたためで,たびたびの更新の遅延は会のスケジュールの都合でした.その会がこのたび参加者の都合でしばらく休会となることが決定したので,ここでの連載もどうすべきか思案中です (とくに需要がなければ無期限停止).
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〔2020 年 10 月 13 日追記〕5 年以上もこの更新を凍結してしまい申し訳なく思います。最近ラテン語の学習を本格的に再開し、同じく解答のついていない中山『標準ラテン文法』の解答例を先日完成させ、さらに引きつづいて田中『ラテン語初歩』の解答例も作り終えたのが近況です〔10 月 21 日再追記。樋口・藤井『詳解ラテン文法』の解答も完成しました。これで『新ラテン』を残し、日本の大学で使われている答えのない教科書はほぼ網羅したことになるでしょう〕。このような実績から、この松平・国原についても永久に更新停止というわけではなく、いずれ再開する意図が残っていることは申しあげることができます。
これが休止したのは上で当時述べたとおり勉強会休会という事情もありましたが、わざわざきれいに構文解析した PDF を作るという手間の問題もあったことは確かです。したがって再開の折にはおそらく前掲の『標準』や『初歩』のものと同様のフォーマットで答え (と可能ならいくばくのコメント) だけを書きつらねた形になりそうです。どちらにしても残念ながらいますぐにとはならないことをお詫びしておきます。
〔2021 年 11 月 24 日追記〕なぜなのかは不明ですが先月ころより、これら松平・国原ラテン語と水谷ギリシア語の解答ファイルへの共有許可を求めるメールを Google Drive 経由で頻繁に頂いております。2015 年の公開以来 6 年間、ファイルのアクセス権限について私のほうでなにか変更をしたことはいっさいないのですが、突然そういうことがここ最近に生じました。もしかすると Google Drive のほうでなにか規定の変更があったのかもしれません。ともかくこれを機に、古い不完全なものの公開は取りやめてしまおうかと考えております。現在見られないかたは申し訳ないのですがそういうことでご了承いただき、いつか作りなおすまでお待ちくださるようお願いいたします。
〔2022 年 4 月 8 日追記〕前回の追記で示唆していたとおり、古いファイルの掲載は正式に終了することに決定しました。そのうちに再開できればと心に期しておりますが、このところはギリシア語のほうがモチベーションが高く、ご不便をおかけしております。ギリシア語のほうは田中・松平『ギリシア語入門』の解答が完成間近、また水谷『古典ギリシア語初歩』の解答のリニューアル作業も開始しました。ご入用のかたはそれらのページをご覧ください。
Tonnet『現代ギリシア語の歴史』第 2 章
Henri Tonnet, Histoire du grec moderne, L’Asiathèque, 2011³ をもとにまとめた résumé (という名の全訳に近い).脚注は (本文理解の参考にはしたが) 訳出ではほとんど割愛しているので,気になる向きは原書を求められたい.
第 2 章 古代のギリシア語 Le grec ancien
1. 共通ギリシア語 Le grec commun
紀元前 2000 年ころ,最初のギリシア人たちが現在のギリシアのあたりに侵入したとき,まだギリシア語の未分化の indifférencié 形,ギリシア祖語 proto-grec を話していた.いずれにせよ,この共通ギリシア語 grec commun [訳注] はたしかにこの時代よりまえに存在した.ミュケーナイ語 le mycénien を含む,知られている古代ギリシア語諸方言に共通の特徴から復元されるこの言語は,それじしんインド・ヨーロッパ語〔以下,印欧語〕の一方言であった.ギリシア祖語は紀元前 3000 年から 2000 年までのあいだの長い期間に形成されたに違いなく,その期間にギリシア人の祖先は現在の〔ギリシア人の〕居住地の北で生活していた.
[訳注] フランス語で grec commun は proto-grec の別称のようである.「共通ギリシア語」との訳語はコイネーと混同しやすく危険なので,区別せず「祖語」と訳出してしまうほうがよいかもしれない.
ギリシア語は,サンスクリット le sanskrit, 古代ペルシア語 le vieux-perse, アルメニア語 l’arménien, 古スラヴ語 le vieux-slave, 共通ゲルマン語〔=ゲルマン祖語〕le germanique commun, ケルト語 le celtique, ラテン語 le latin などとともに印欧語族に属する.おそらくは同じ語族のほかの言語と比べてアルメニア語とより密接な関係があるであろう.
ここでは古代ギリシア語を描写することも,資料によって知られているその歴史 (紀元前 15 世紀以来) を語ることもしない.以降の変遷を説明しうるギリシア語の固有の特徴を簡単に提示することで満足せねばならない.
1.1 子音の弱さ Faiblesse des consonnes
印欧語のなかでのギリシア語の特徴の第一は,子音体系の相対的な弱さである.ギリシア語は印欧語の有声有気閉鎖音 occulsive sonore aspirée の系列 /bh/, /dh/, /gh/ を失い,これを無声 sourde 有気音 /ph/, /th/, /kh/ (φ, θ, χ) に変えている.ミュケーナイ語にはまだ存在した唇-軟口蓋音 labio-vélaire /kw/, /gw/, /gwh/ は,ラテン語では保たれているのに,歴史時代のギリシア語では消えている.印欧語の /kw/ はギリシア語では,あるときは /p/ にまたあるときは /t/ に対応する (lat. quinque = gr. πέντε, lat. quis = gr. τίς).
これらの子音の系列はほかの子音に合流し,子音体系の単純化 simplification の傾向を示している.
またべつの子音は単純に消えてしまった.それは語頭の /s/ と /j/ で,アッティカ方言 attique では気音 /h/ として生き残ったが,いたるところで無音化する s’amuïr ようになる.ラテン語 septem は古典ギリシア語 ἑπτά に対応し,これは [heptá] それから [eptá] と発音された.ドイツ語 Jahr は,意味は違うが形の上では ὥρα に対応し,これは [hóra] (この段階でラテン語に借用され,〔現代フランス語の〕heure のつづりを説明する),それから [óra] と発音された.
語末の子音は ς, ν, ρ を例外として消えた.語末の /t/ は,ラテン語では保たれている 3 人称単数の特徴だが,ギリシア語では落ちる.Lat. ferebat と gr. ἔφερε, また lat. aliud と gr. ἄλλο を比較せよ.中央ギリシア語 [原注 8] の以降の歴史において,語末の ρ と ν は消失に向かう.
[原注 8] ここで中央ギリシア語 grec central とは,ペロポネソスの方言と都市の urbaine 共通語で,現代の民衆語〔=ディモティキ〕démotique をもたらすものとする.中世に見られる,語末の子音 ν の維持と強化は,南イタリア,キプロス,ドデカネス諸島 Dodécanèse, キオス島 Chios の周縁のギリシア語においてまだ見られる.
1.2 母音体系の保存 Conservation du système vocalique
かわりに古代ギリシア語では母音に関しては非常に保守的である.サンスクリットでは /i/, /a/, /u/ しか保っておらず,ラテン語ではある場合の /o/ を失っていたのに対して,ギリシア語はほとんどそのまま印欧語の体系を見せている.ギリシア語だけがわれわれに,「与える donner」という動詞の語根 racine が母音 /o/ をもっていたことを教えてくれる;δίδωμι, δοῦναι, skr. dadāmi, lat. dare.
1.3 動詞語根の規則化の限られた傾向 Tendance limitée à la régularisation des racines verbales
古代ギリシア語では多くの動詞が不規則であった.ほかのものは現在・アオリスト・完了語幹のあいだに母音交替 alternance vocalique を含み,これは音韻変化の理由から規則化する傾向をもっていた:λείπω, ἔλιπον, λέλοιπα → λείπω, ἔλειψα. この傾向は決して動詞体系の完全な規則化には至らなかった.
1.4 アクセント体系の相対的単純化 Simplification relative du système de l’accentuation
印欧語のアクセントは,ゲルマン語 langues germaniques がいまだそれについて証しているが,あるものはアクセントの置かれうる accentogène, またべつのものはそうでない,形態素 morphème に結びついていた;それは制限を知らなかった,つまりアクセントは語のどんな音節にもあたりえたのである.
ギリシア語では,ラテン語のように,最後の 3 音節の上にアクセントが制限されることをもってこの体系を少し簡単化している.しかしアクセントは今日まで形態論的 morphologique にとどまった.アクセントの実現 réalisation の変遷にもかかわらず,ギリシア語はこの点に関して非常に保守的である.現代ギリシア語における若干のアクセントの移動 déplacement は印欧語の遺産である.今日でもなお,古代の第 3 変化の単音節語 monosyllabe に由来する若干の語または表現において,アクセントは斜格の語末に落ちる:ἑνός, παντός, φωτός, μηνός.
最近の語の創造でも,行為の名詞は行為者の名詞に対立させられている:行為者の名詞では語末アクセント,行為の名詞ではさかのぼるアクセント (ἡ σύνοδος, ἡ συνοδός).
1.5 曲用の単純化 Simplification de la déclinaison
印欧語は 8 つの格をもっていた:主格 nominatif, 呼格 vocatif, 対格 accusatif, 属格 génitif, 与格 datif, 奪格 ablatif, 具格 instrumental, 処格 locatif [訳注].古代ギリシア語はすでにこの体系を単純化して,しばしば前置詞句で置きかえられた後 3 者を除いている.ラテン語では ab + 奪格を用いた場合に,古代ギリシア語は ἀπό + 属格を使った.ラテン語が単独の格を用いたときに:exeo domo, 古典ギリシア語 grec classique は前置詞によって「明確化 préciser」する傾向があった:ἐξέρχομαι ἐκ τοῦ οἴκου.
格を前置詞句で置きかえるこの方法はのちに体系的になった (与格に代えて εἰς + 対格,属格-奪格に代えて ἀπό + 対格).その結果は斜格〔すべて〕を犠牲にした対格の一般化であった.
[訳注] サンスクリットでは与格 datif を為格と称することも一般的である.属格 génitif は gen- の意味からいけば生格が適当であろうが,この用語はもっぱらスラヴ語学でしか使われていない.また処格 locatif は訳語が非常に多く,ほかに地格,位格,所格などがあるが,位格は為格と同音であることと,処格と同じ「ところ」の字の所格は「所」に受身の意味 (所与や所定,またラテン語 dēpōnentia の訳語のひとつ「形式所相動詞」の「所相=受動態」などは端的にそれである) もありミスリーディングであるので,「場所」の意味がはっきりする処格か地格が望ましいだろう.
[訳注] サンスクリットでは与格 datif を為格と称することも一般的である.属格 génitif は gen- の意味からいけば生格が適当であろうが,この用語はもっぱらスラヴ語学でしか使われていない.また処格 locatif は訳語が非常に多く,ほかに地格,位格,所格などがあるが,位格は為格と同音であることと,処格と同じ「ところ」の字の所格は「所」に受身の意味 (所与や所定,またラテン語 dēpōnentia の訳語のひとつ「形式所相動詞」の「所相=受動態」などは端的にそれである) もありミスリーディングであるので,「場所」の意味がはっきりする処格か地格が望ましいだろう.
2. 古代ギリシア語の諸方言 Les dialectes grecs anciens
古代ギリシア語の方言の多くは,碑文 inscription によって以外私たちに知られていない.書き言葉は,現代ギリシア語の諸方言に比べたディモティキがそうなるであろうように,標準化された standardisé 方言である.ホメーロスの言語はどこでも話されなかったし,劇場の合唱隊 chœur のなかで読まれるドーリス方言 le dorien は人工的な言語の状態であった.方言間の重大な差異にもかかわらず,それぞれの方言 idiome を話すギリシア人たちは互いに理解していた.その例外は古代マケドニアで,かならずしもこの方言がギリシア語であったと言う必要はない.
ギリシア語が諸方言へ分化する原因となったものは知られていない.〔現在の〕ギリシアになるところの領土にすでに定住していた人々の存在であったかもしれない;この人口は,新たな到来者の言語を話しはじめるときに,それ以前に話していた言語によってさまざまにこれを歪めることになり,歪みは続く世代へ伝えられていく.〔分化の原因はまた〕毎回異なる発展段階のギリシア語をもたらすことになったギリシア人の相次ぐ到来―― 最近まで一般に,ドーリア人は紀元前 12 世紀の終わりに定住したものと考えられていた―― であったかもしれない.
古代ギリシア語の諸方言は 4 つの大きなグループに帰着する:1) アッティカ方言を含むイオニア方言群 ionien,2) アイオリス方言 l’éolien, 3) アルカディア・キプロス方言 l’arcado-cypriote, 4) ドーリス方言を含む西方方言群 occidental.
〔紀元前〕8–7 世紀の古代の植民地化 colonisation のために,しばしば互いに遠く隔たった地域で同じ方言が話されていた.ドーリア人はシチリア島と南イタリアに植民を送り,そこでもドーリス方言が話された.イオニア方言は小アジア,エウボイア島 Eubée, アッティカ Attique で話された.アイオリス方言はレスボス島 Lesbos, ボイオーティア Béotie, テッサリア Thessalie で使われた.ドーリス方言はラコーニア〔ラケダイモーニア=スパルタ〕Laconie, アルゴス Argos, コリントス Conrithe, クレタ島 Crète, ロードス島 Rhodes およびイタリアでもっともよく用いられた方言であった.
これらの方言は共通語 la langue commune (κοινὴ διάλεκτος) に顕著な影響を及ぼすことなくローマ時代に漸次消えていった.この後者〔コイネー〕はほとんどイオニア・アッティカ方言 l’ionien attique にのみ由来している.そして現代ギリシア語の諸方言はほとんどすべてこれに発している.顕著な例外はツァコニア語 le tsakonien であり,これはかつてパルノン Parnon およびアルカディア Arcadie の一部分で話されたもので,典型的なドーリス方言の特徴を保存している:η のかわりに α を,θ のかわりに σ を用い (cf. α σάτη = η θυγάτηρ),古代のディガンマ /w/ > /v/ の子音の形を保つ (ο βάνε = το αρνί).このことはおそらく現代ギリシア語の南イタリアにおける方言にとっても同様である.
ここに参考のため,古代の方言間の違いを数例あげておく.
ここに参考のため,古代の方言間の違いを数例あげておく.
- 定冠詞の複数主格は,アルカディア・キプロス方言とアッティカ方言で οἱ であり,その他では τοί である.
- 長い /a/ は大部分の方言では α として残るが,イオニア方言ではどこでも η になり,アッティカ方言では ρ および母音 /e/, /i/ のあとでのみ α のまま残る:dor. ἁμέρα, ion. ἡμέρη, att. ἡμέρα.
- 1 人称複数の語尾は,アルカディア・キプロス方言とアッティカ方言で -μεν であり,その他はどこでも -μες である (lat. -mus と比較せよ).
dimanche 5 juillet 2015
Tonnet『現代ギリシア語の歴史』第 4 章
Henri Tonnet, Histoire du grec moderne, L’Asiathèque, 2011³ をもとにまとめた résumé (という名の全訳に近い).語例は半数あまりを省略し,脚注も (本文理解の参考にはしたが) 訳出ではすべて割愛しているので,気になる向きは原書を求められたい.
第 4 章 十分に資料のない時代 (6 世紀から 11 世紀まで) La période mal documentée (du VIe au XIe siècle)
6 世紀から 11 世紀まで,話し言葉に関する資料は非常にまれで短く,この時代に起こった重要な変化を確実にたどることはできない.
ギリシア語口語に関する資料がこのようにほとんど消えてしまっている理由は以下のとおりである.厳密な意味でのギリシアにおいて,6–7 世紀のスラヴ人の侵入と異教徒の文化の終わり (紀元後 529 年のアテネ大学 l’Université d’Athènes の閉鎖) は,文化の水準を下げないではおかなかった.アラブ人によるエジプトの征服 (紀元後 642 年,アラブ人によるアレクサンドリア占領) とともに,ギリシア語を話す grécophone エジプトの有産階級は,国を捨てるか庶民階級にまぎれこんだようである.いずれにせよ,ギリシア語での資料の生産は終わる.
それにもかかわらず,この時期の終わりには,ビザンティン帝国はそれをギリシア語の話される hellénophone 領域にほとんど一意に限定している小アジアを失う (マンツィケルトの戦い [訳注],1071 年).フランク人との直接の接触はギリシア人に,学問の言語であるラテン語に加えて俗語をも叙事詩 épopée, 叙情詩 lyrisme, 物語 roman において用いる文化を知らしめる.12 世紀のはじめ,またおそらくもう少し早くには,ギリシアの詩人は彼らじしん,話し言葉に近い簡単な言葉で作品を書きはじめる.
[訳注] bataille de Mantzikert. マラズギルトの戦いとも.
1. 語彙 Vocabulaire
俗ラテン語によるギリシア語の語彙の相当深い混交 contamination が認められる,とはいえこの現象はローマ人によるギリシアの占領から始まっていたのであるが.ギリシア語口語に影響を及ぼしたラテン語はまずは兵士たちのそれであった.ラテン語の影響の強まりはそれから,ローマ帝国の首都がビザンティウムへ移ったことで説明される.少なくとも 2 世紀のあいだ,王宮と行政機関ではラテン語が話された;10 世紀になってもなお王宮のラテン語の深い痕跡が,コンスタンティノス 7 世による『儀式の書 Livre des Cérémonies (Ἔκθεσις τῆς βασιλείου τάξεως)』に見られる.定住のラテン語人口や,ダルマチア,現在のルーマニア,ギリシアの放浪民も,ギリシア語の語彙に少し影響をした可能性がある.
若干の語例.οσπίτιν < hospitium「家」,πόρτα < porta「扉」,σκάλα < scala「はしご」,κάμπος < campus「平原,野原」,τίτλος < tit(u)lus「題名」,στράτα < strata (via)「通り,道」,βίγλα < vigilia「監視の持ち場」,σαγίττα < sagitta「矢」,τα άρματα < arma「武器,軍隊 armes」〔等々,まだまだ例が続くが,どう見てもギリシア語ふうではない雰囲気と,軍隊の関係の語が見てとれる〕.
スラヴ語の影響は地名 toponyme にとりわけ顕著である:Ζαγορά, Ζαγόρι「山の向こう」,Γρανίτσα「国境」,Γρεβενά「櫛」,Βοδενά「水」,Αράχοβα「梨 poirier」[訳注 1].しかし一般のギリシア語でも牧畜の語彙には見あたる:σανός「干し草」,στάνη「羊小屋」,τσέλιγκας「羊飼いのリーダー chef de bergers」,κοτέτσι「鶏小屋」,γουστερίτσα「トカゲ」,λόγγος「森」,βάλτος「湿地」[訳注 2].地方の方言の語彙にはよりスラヴらしさがあることがあるが,共通語にはほとんどない.κορίτσιν「若いお嬢さん」や αρκλίτσα「小箪笥」に見られる非常に生産的な接尾辞 -ίτσιν, -ίτσα はスラヴ起源に見えるが,接尾辞 -ίκι(ο)ν やラテン語のそれの口蓋化の可能性もある.
[訳注 1] ロシア語に対応する語句を探すと,順に,за горе, граница, гребень, вода であろう.Αράχοβα は調べがつかなかった.
[訳注 2] σανός はロシア語 сено に同根.στάνη はブルガリア語の стан「キャンプ」やルーマニア語 stână「羊小屋」に対応.τσέλιγκας はセルビア語・クロアチア語の челник/čelnik「リーダー」に対応するようである.κοτέτσι は Sr/Cr の котац/kotac「豚小家,汚い場所」に対応.γουστερίτσα は Sr/Cr やマケドニア語の гуштер/gušter に同根.λόγγος は調べがつかなかった.βάλτος はロシア語 болото などスラヴ語のすべてに同根語が残り,ルーマニア語 baltă, アルバニア語 baltë なども同じである.
2. 形態論 Morphologie
2.1 実詞 Le substantif
ラテン語の単語の同化,音声学的変化,および類推は,第 1 曲用の単純化をひきおこした.
ἡ θάλασσα, τῆς θαλάσσης のような第 1 変化の若干の実詞の属格における語末の音の変化は,語尾の [a] と [is] がきちんと区別して発音されていたので任意のようであった.最初にラテン語の借用語 emprunt の語尾で規則化がなされた:η πόρτα, της πόρτας. それからギリシア語にも敷衍された:η ήττα, της ήττας. こうした規則化は,音の交替を伴わない純粋な α の名詞 ἡ μοῖρα, τῆς μοίρας の曲用によって促進された.
第 3 曲用と第 1 との混同は,今日のような混合曲用をもたらすまで互いに続けられた.まだ遠慮がちの規則化が 2 世紀ないし 6 世紀にすでに見られた:την Καρανίδαν, τους θέλοντες. 9 世紀には,ο χειμώνας や οι Πέρσες のような形が,第 3 と第 1 曲用の完全な作りなおしを証している.それ以来,話し言葉ではこの型の曲用が使用された:ο χειμώνας, τον χειμώναν, του χειμώνα, οι χειμώνες, τους χειμώνες. しかし書かれた資料にこのような規則性が見られることはまったくない.
すべての中性の直格 cas direct [訳注] において -ν は一般化し,-ιν の中性も増える.
[訳注] 直格とは主格・呼格のことで,斜格 cas oblique に対立する語である.
2.2 動詞 Le verbe
時量的加音 augment temporel の用法において,音声学的変化に関係する不規則性が確認される.διοικῶ [diykó], 未完了 διῴκουν [diókun], の活用は,過去時制の語幹に [y] がなく,話し手にとってもはや自明とは思われなかった.そこで未完了は接頭辞のまえに音節的加音 augment syllabique を置いて規則化された:ἐδιοίκουν.
古代ギリシア語において母音のまえで母音衝突 hiatus を避けて発音を容易にした,母音で終わる vocalique 動詞形の語末の -ν は,過去時制の 3 人称単数のほとんどすべてで一般化された:έφαγεν, έβαλεν, εφόρειν.
古代の接続法の語尾は消失する.それらは直説法のそれ (-o, -is, -i, -omen, -ete, -ousi) に置きかえられる.
古代の接続法が古代の直説法から区別されていた形態的差異という方法―― テーマ母音 voyelle thématique の延長 allongement,λύωμεν, λύητε ≠ λύομεν, λύετε―― は,キリスト時代のころに母音の長短 quantité vocalique が消滅していらい機能しなくなった.若干の人称では存在しつづけた [i] ≠ [e] の音の対立は,ついにはいたるところでなくなった.しかしこのことは意味としての接続法の消失には対応しない,というのも時代の経過につれて,その時点を正確に特定することは不可能であるが,目的を表す final 古代の接続詞 ἵνα は単音節の前接辞 να になった;この形態素は,主節 principale および従属節 subordonnée において,新たな接続法の形成に使われ,それは不定詞と古代の未来にとってかわった;この後者は接続法と区別されず,継続 continu と synoptique [訳注] の 2 つの相 aspect で現れる.
[訳注] 訳語不明.語義としては「概観的な,要約の」という意味であることと,継続相との対として書かれていることを踏まえれば,完結相に似た意味だろうか.
3. 構文論 Syntaxe
与格は 10 世紀ころに使われなくなった,とはいえそれ以後も純粋な書き言葉には多く例が見られるが.与格とともに用いる動詞は,今日では対格または属格をとっている.ἐν + 与格の形式は εἰς + 対格に置きかえられる.
lundi 29 juin 2015
Hélix『古フランス語 18 課』第 3 課
Laurence Hélix, L’Ancien français en 18 textes et 18 leçons, Armand Colin, 2014 をもとにまとめた résumé. 諸注意は最初のエントリを参照のこと.前回までのエントリ:第 1 課前半・後半,第 2 課前半・後半.
名詞と同様,形容詞も AF では 2 つの格に曲用する.名詞との違いは中性形があることで,これはたとえば中性代名詞の属詞として用いられる.
AF では 2 つの型の形容詞を区別する:多いのは 2 形 biforme と呼ばれるもので,男性と女性で異なる形を示す.もうひとつは性無変化 invariable en genre で,男性と女性でほとんど同形である.
1. 2 形 (または「性変化」) 形容詞 Les adjectifs biformes (ou « variables en genre »)
2 形形容詞は多くラテン語の -us, -a, -um〔第 1・第 2 変化形容詞〕に由来する.男性と女性でそれぞれの 1 型名詞のように曲用する.中性は無変化で〔語尾に〕s をとらない.
注意:過去分詞 participe passé はすべてこの型の変化をする;第 8 課で詳しく見るが,分詞 perduz の例を示しておく.
2. 性無変化形容詞 Les adjectifs invariables en genre
2 形形容詞には 3 つの特徴があることを見た:1. 男性で e をとらない;2. 女性で e をとる;3. 1 つしか語基 base をもたない.そういうわけで「性無変化」形容詞のなかで 4 つの型を区別する習慣である:1 型と 2 型は男性形が -e (1 型) または -re (2 型) で終わる;3 型は女性で e をとらない;4 型は 2 つの異なる語基をもつ.
―〔1 型:〕男性が -e の形容詞
変遷:AF と FM のあいだで,この型はほとんど変化しなかった;sage, jeune, noble, amable (FM aimable), humble 等々は今日も両性で語末の e をもつ.
―〔2 型:〕男性が -re の形容詞
この型は男性主格単数で s がないことで前者〔=1 型〕と区別される.しかし男性名詞 2 型 (pere, frere, ...) と同様,この形容詞も,ほかの形容詞との類推 analogie によって,男性主格単数で s をとる傾向がある.
変遷:前者と同様,FM で両性とも語末の e を保っている.
―〔3 型:〕女性で -e がない形容詞
この型の代表例の大部分は,ラテン語ですでに男性と女性が同形であった通性 épicène 形容詞に由来している.
変遷:中世以来,女性の語末に e がないのは話し手には奇妙に思われたらしく e が加えられた.FM では,grand-mère のような若干の決まった連語において,grant/d が無変化であった名残を残している.
―〔4 型:〕2 つの語基をもつ形容詞
2 つの語基をもつ形容詞の大部分は,ラテン語の総合的比較級 comparatif synthétique [訳注] からきている;これらは AF でそれほど数は多くないので,使用頻度の高いものを記憶するとよい:graindre/graignor, mieudre/meillor, mendre/menor, maire/maior, pire/peior. このカテゴリはまた,形容詞として用いられた若干の普通名詞を含む.
変遷:〔3 型の〕grant や fort と同様,女性の語末に e がないのは中世の人々には奇妙に感じられたらしい.
[訳注] 語基に男・女性 -ior, 中性 -ius の接尾辞を付したり,まったく異なる語基を用いたりすることによって,1 語で比較級を表す形.対義語は分析的 analytique で,英語の more, 現代フランス語の plus + 原級形容詞のような,2 語による比較級の作りかたを指す.
副詞は AF でも FM と同様に無変化で,動詞や形容詞やほかの副詞の意味を修飾する語である.
1. -ment で終わる副詞 Les adverbes en -ment
仕方 manière の説明のさいラテン語では,mens, mentis, f. の奪格 mente とそれに一致する形容詞とからなる副詞句 locution adverbiale を用いた.
オイル語はロマンス語の多くと同様,この副詞句を継承したが,7–8 世紀ころ,形容詞と名詞 mente との一体化が起こった.例:bona mente > bonement.
無変化形容詞では,e のない女性形の改変に伴って,対応する副詞も改変された:fortment > fortement, grantment > grandement.
2. 副詞のその他の特徴 Les autres marques de l’adverbe
― 標識 -e
AF では多くの副詞が,語末に e のない形とある形の交替を示していた:or/ore, voir/voire, encor/encore, onc/onque, ... かなり早い時期に,e のある形が副詞の「有標の marquée」形と感じられ,実際に語末の e は副詞の標識として現れた.
― 標識 -s
LC の副詞の多く (minus, magis, plus, ...) と,postius や *alioris のような後期ラテン語 bas latin のほかの副詞の形は,s で終わる.これらは現代に保たれている:moins, mais, plus, puis, ailleurs. その頻繁さのために,この s は中世に副詞の標識と考えられ,類推作用を及ぼした.たとえば semper に由来する *sempre は,ラテン語に存在しない語末の s を伴った sempres の形で AF に現れる.
NB : 語末の e と s を兼ね備えた onques, ores, lores の形もしばしば見られる.
― 標識 -ons
前置詞 a と -ons で終わる名詞からなる副詞句:a genoillons, a tatons, a chatons, a reculons, a croupetons. この形は AF ですでにまれであり,FM ではなおさらである:「手探りで à tâtons」や「後ずさりして à reculons」の決まり文句にのみ残っている.
〔音声変化の〕法則を学ぶまえに,ロマンス語学者 romaniste の音声記号 alphabet phonétique, より正確にはブルシエ Bourciez の記号,に親しんでおく必要がある.これはのちの課で説明するが,いまは以下の慣習を覚えてほしい:
第 3 課 品質形容詞と副詞/音声の問題 Les adjectifs qualificatifs et l’adverbe / la question de phonétique
第 1 部 品質形容詞 Les adjectifs qualificatifs
名詞と同様,形容詞も AF では 2 つの格に曲用する.名詞との違いは中性形があることで,これはたとえば中性代名詞の属詞として用いられる.
AF では 2 つの型の形容詞を区別する:多いのは 2 形 biforme と呼ばれるもので,男性と女性で異なる形を示す.もうひとつは性無変化 invariable en genre で,男性と女性でほとんど同形である.
1. 2 形 (または「性変化」) 形容詞 Les adjectifs biformes (ou « variables en genre »)
2 形形容詞は多くラテン語の -us, -a, -um〔第 1・第 2 変化形容詞〕に由来する.男性と女性でそれぞれの 1 型名詞のように曲用する.中性は無変化で〔語尾に〕s をとらない.
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | bons | bon | bone | bones | bon |
| 斜格 | bon | bons | bone | bones | bon |
注意:過去分詞 participe passé はすべてこの型の変化をする;第 8 課で詳しく見るが,分詞 perduz の例を示しておく.
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | perduz | perdu | perdue | perdues | perdu |
| 斜格 | perdu | perduz | perdue | perdues | perdu |
2. 性無変化形容詞 Les adjectifs invariables en genre
2 形形容詞には 3 つの特徴があることを見た:1. 男性で e をとらない;2. 女性で e をとる;3. 1 つしか語基 base をもたない.そういうわけで「性無変化」形容詞のなかで 4 つの型を区別する習慣である:1 型と 2 型は男性形が -e (1 型) または -re (2 型) で終わる;3 型は女性で e をとらない;4 型は 2 つの異なる語基をもつ.
―〔1 型:〕男性が -e の形容詞
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | sages | sage | sages | sages | sage |
| 斜格 | sage | sages | sage | sages | sage |
変遷:AF と FM のあいだで,この型はほとんど変化しなかった;sage, jeune, noble, amable (FM aimable), humble 等々は今日も両性で語末の e をもつ.
―〔2 型:〕男性が -re の形容詞
この型は男性主格単数で s がないことで前者〔=1 型〕と区別される.しかし男性名詞 2 型 (pere, frere, ...) と同様,この形容詞も,ほかの形容詞との類推 analogie によって,男性主格単数で s をとる傾向がある.
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | povre(s) | povre | povre | povres | povre |
| 斜格 | povre | povres | povre | povres | povre |
変遷:前者と同様,FM で両性とも語末の e を保っている.
―〔3 型:〕女性で -e がない形容詞
この型の代表例の大部分は,ラテン語ですでに男性と女性が同形であった通性 épicène 形容詞に由来している.
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | granz | grant | granz | granz | grant |
| 斜格 | grant | granz | grant | granz | grant |
変遷:中世以来,女性の語末に e がないのは話し手には奇妙に思われたらしく e が加えられた.FM では,grand-mère のような若干の決まった連語において,grant/d が無変化であった名残を残している.
―〔4 型:〕2 つの語基をもつ形容詞
2 つの語基をもつ形容詞の大部分は,ラテン語の総合的比較級 comparatif synthétique [訳注] からきている;これらは AF でそれほど数は多くないので,使用頻度の高いものを記憶するとよい:graindre/graignor, mieudre/meillor, mendre/menor, maire/maior, pire/peior. このカテゴリはまた,形容詞として用いられた若干の普通名詞を含む.
| 男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | graindre | graignor | graindre | graignors | graignor |
| 斜格 | graignor | graignors | graignor | graignors | graignor |
変遷:〔3 型の〕grant や fort と同様,女性の語末に e がないのは中世の人々には奇妙に感じられたらしい.
[訳注] 語基に男・女性 -ior, 中性 -ius の接尾辞を付したり,まったく異なる語基を用いたりすることによって,1 語で比較級を表す形.対義語は分析的 analytique で,英語の more, 現代フランス語の plus + 原級形容詞のような,2 語による比較級の作りかたを指す.
第 2 部 古フランス語における副詞 L’adverbe en AF
副詞は AF でも FM と同様に無変化で,動詞や形容詞やほかの副詞の意味を修飾する語である.
1. -ment で終わる副詞 Les adverbes en -ment
仕方 manière の説明のさいラテン語では,mens, mentis, f. の奪格 mente とそれに一致する形容詞とからなる副詞句 locution adverbiale を用いた.
オイル語はロマンス語の多くと同様,この副詞句を継承したが,7–8 世紀ころ,形容詞と名詞 mente との一体化が起こった.例:bona mente > bonement.
無変化形容詞では,e のない女性形の改変に伴って,対応する副詞も改変された:fortment > fortement, grantment > grandement.
2. 副詞のその他の特徴 Les autres marques de l’adverbe
― 標識 -e
AF では多くの副詞が,語末に e のない形とある形の交替を示していた:or/ore, voir/voire, encor/encore, onc/onque, ... かなり早い時期に,e のある形が副詞の「有標の marquée」形と感じられ,実際に語末の e は副詞の標識として現れた.
― 標識 -s
LC の副詞の多く (minus, magis, plus, ...) と,postius や *alioris のような後期ラテン語 bas latin のほかの副詞の形は,s で終わる.これらは現代に保たれている:moins, mais, plus, puis, ailleurs. その頻繁さのために,この s は中世に副詞の標識と考えられ,類推作用を及ぼした.たとえば semper に由来する *sempre は,ラテン語に存在しない語末の s を伴った sempres の形で AF に現れる.
NB : 語末の e と s を兼ね備えた onques, ores, lores の形もしばしば見られる.
― 標識 -ons
前置詞 a と -ons で終わる名詞からなる副詞句:a genoillons, a tatons, a chatons, a reculons, a croupetons. この形は AF ですでにまれであり,FM ではなおさらである:「手探りで à tâtons」や「後ずさりして à reculons」の決まり文句にのみ残っている.
第 3 部 歴史音声学の問題 La question de phonétique historique
〔音声変化の〕法則を学ぶまえに,ロマンス語学者 romaniste の音声記号 alphabet phonétique, より正確にはブルシエ Bourciez の記号,に親しんでおく必要がある.これはのちの課で説明するが,いまは以下の慣習を覚えてほしい:
- ラテン語とフランス語の語は下線 souligné またはイタリック italique にする.例:manducare または manducare ;
- 音声転写 transcription phonétique は角括弧 crochet droit に入れる.例:[mandukare] ;
- 記号 > は「に達する aboutit à」を意味する.
第 4 部 読解と翻訳:マルコ・ポーロ Marco Polo『世界の記述 Le Devisement du monde』(1298) (省略)
第 5 部 応用練習 (省略)
dimanche 28 juin 2015
Hélix『古フランス語 18 課』第 2 課後半
Laurence Hélix, L’Ancien français en 18 textes et 18 leçons, Armand Colin, 2014 をもとにまとめた résumé. 諸注意は最初のエントリを参照のこと.前回までのエントリ:第 1 課前半・後半,第 2 課前半.
第 2 課 (承前)
第 2 部 知っておくべき接続語 Les mots de coordination à connaître
1. ET, ラテン語 etiam (「もまた aussi」,「すら même」) に由来
中世の et は非常にしばしば FM の接続詞 et に対応する.しかしこの時代にはさまざまの要素が等位接続された coordonné ので,今日の言語では et をあてられない場合もある.
- 文頭の et はしばしば副詞 alors に相当する.例:Atant se leva. Et il prist la pucele par la main. (その瞬間彼は目覚めた.それで彼はその娘の手をつかんだ)
- Et はラテン語の語源となる語 etiam の意味を保っていることがある.例:Et je sai ou il converse. (私もまた彼がどこに住んでいるか知っている)
- Et は軽い逆接 adversatif の意味のことがある.例:Vos deüssiez combatre et de vos deduire toz jorz pensez. (あなたは戦わねばならないだろうに,あいかわらず楽しむことを考えている)
2. NE, ラテン語 nec に由来する,否定的文脈の接続語
否定的文脈 contexte négatif において et は ne に交替することがあり,ちょうど FM で et が ni に置きかわることと同じである.ただし AF ではその文脈は完全な肯定でないというだけで十分である (たとえば疑問の interrogatif あるいは仮定の hypothétique 文脈).
例 1 (疑問):Quel deables a ce dit a cest vilain ne de quoi s’entremet il ? (どんな悪魔がそんなことをあの野郎に言い,そしてあいつはなにをやらかそうというのか)
例 2 (否定):Je ne vos sai plus dire, ne je n’i os plus demorer. (私はあなたがなにをこのうえ言うのか知らないし,私はこれ以上ここにとどまるつもりはない)
NB : 接続詞の ne を否定の副詞 ne と混同しないこと.
3. MAIS (または mes), ラテン語 magis (「より多く plus」,「むしろ plutôt」) に由来
FM と同じく AF でも mais は 2 つの文の対立を表す.一定の文脈では mais はまた説明 explication や正当化 justification を導き,FM の「つまり cela dit」や「もっとも,たしかに……だが d’ailleurs」にあたる.
例:Il set bien que vos le querez, mais vos nel trouverez point, se il ne viaut. (彼はよく知っている,あなたがそれを探しているが,彼がそれを欲しないならばあなたはそれを見つけられないだろうことを) Mais tant me comenda il que je vos deisse que por noiant vos travailliez de lui querre. (もっとも,彼は私に対してあなたに言うことを命じた,あなたが苦労してそれを探しても無駄であるということを)
NB : 語源 magis の意味は AF において ne ... mais の表現を説明している (〔現代語の〕ne ... plus).
4. AINZ (または einz), ラテン語 ante (「前に avant」) の比較級 *antius に由来
語源から ainz は「前に avant」,「以前に auparavant」という時間の意味をひきついでいる.この意味 (「より早く plus tôt」) から「むしろ plutôt」の意味は容易にわかるし,さらに強い逆接の意味「まったく反対に bien au contraire」にもなる.
例:Ma vie ne me plaist point ; ainz pri Deu que la mort me doint. (私の人生は私を満足させない;それどころか私は神に,私に死を与えてくれるよう頼む)
NB : ainz の同義語に ainçois (または einçois) がある.13 世紀以降 ains というつづりも見かけるようになる.
5. CAR (または quar), ラテン語 quare (「なんとなれば c’est pourquoi」) に由来
Car は FM と同様 AF でも原因の causale 意味をもつ.文の副詞をして用いられることもある:節のはじめに置かれて,命令法または勧告の exhortatif 接続法の動詞の前で,命令をさらに強める.
例:Car conseilliez ceste chaitive ! (この不幸を助けてくれ!)
6. OR (または ore), ラテン語 *hac hora (「この時に à cette heure」) に由来
語源と同様,AF の or は時間の意味をもつ (意味は現在).文脈によっては直前の過去 passé immédiat および近い未来 futur proche のこともある.命令表現の前では,or は本来の意味 (「いま」) または,car のように強調 insistance の意味もある.
例:Or joing tes mains ! (さあ手をあわせなさい)
NB : or の現代の意味は中世の終わりに現れる.
例 1 (疑問):Quel deables a ce dit a cest vilain ne de quoi s’entremet il ? (どんな悪魔がそんなことをあの野郎に言い,そしてあいつはなにをやらかそうというのか)
例 2 (否定):Je ne vos sai plus dire, ne je n’i os plus demorer. (私はあなたがなにをこのうえ言うのか知らないし,私はこれ以上ここにとどまるつもりはない)
NB : 接続詞の ne を否定の副詞 ne と混同しないこと.
3. MAIS (または mes), ラテン語 magis (「より多く plus」,「むしろ plutôt」) に由来
FM と同じく AF でも mais は 2 つの文の対立を表す.一定の文脈では mais はまた説明 explication や正当化 justification を導き,FM の「つまり cela dit」や「もっとも,たしかに……だが d’ailleurs」にあたる.
例:Il set bien que vos le querez, mais vos nel trouverez point, se il ne viaut. (彼はよく知っている,あなたがそれを探しているが,彼がそれを欲しないならばあなたはそれを見つけられないだろうことを) Mais tant me comenda il que je vos deisse que por noiant vos travailliez de lui querre. (もっとも,彼は私に対してあなたに言うことを命じた,あなたが苦労してそれを探しても無駄であるということを)
NB : 語源 magis の意味は AF において ne ... mais の表現を説明している (〔現代語の〕ne ... plus).
4. AINZ (または einz), ラテン語 ante (「前に avant」) の比較級 *antius に由来
語源から ainz は「前に avant」,「以前に auparavant」という時間の意味をひきついでいる.この意味 (「より早く plus tôt」) から「むしろ plutôt」の意味は容易にわかるし,さらに強い逆接の意味「まったく反対に bien au contraire」にもなる.
例:Ma vie ne me plaist point ; ainz pri Deu que la mort me doint. (私の人生は私を満足させない;それどころか私は神に,私に死を与えてくれるよう頼む)
NB : ainz の同義語に ainçois (または einçois) がある.13 世紀以降 ains というつづりも見かけるようになる.
5. CAR (または quar), ラテン語 quare (「なんとなれば c’est pourquoi」) に由来
Car は FM と同様 AF でも原因の causale 意味をもつ.文の副詞をして用いられることもある:節のはじめに置かれて,命令法または勧告の exhortatif 接続法の動詞の前で,命令をさらに強める.
例:Car conseilliez ceste chaitive ! (この不幸を助けてくれ!)
6. OR (または ore), ラテン語 *hac hora (「この時に à cette heure」) に由来
語源と同様,AF の or は時間の意味をもつ (意味は現在).文脈によっては直前の過去 passé immédiat および近い未来 futur proche のこともある.命令表現の前では,or は本来の意味 (「いま」) または,car のように強調 insistance の意味もある.
例:Or joing tes mains ! (さあ手をあわせなさい)
NB : or の現代の意味は中世の終わりに現れる.
第 3 部 読解と翻訳:ジャン・ダラス Jean d’Arras『メリュジーヌ物語 Le Roman de Mélusine』(1393–1394) (省略)
第 4 部 応用練習 (省略)
Hélix『古フランス語 18 課』第 2 課前半
Laurence Hélix, L’Ancien français en 18 textes et 18 leçons, Armand Colin, 2014 をもとにまとめた résumé. 諸注意は最初のエントリを参照のこと.前回までのエントリ:第 1 課前半・後半.
1. 名詞の曲用 La déclinaison des noms
古フランス語 (AF) では古典ラテン語 (LC) のように名詞は曲用する se décliner が,AF には 2 つの格しかないので単純である:ラテン語の主格 nominatif に由来する主格 CS と,対格 accusatif に由来する斜格 CR である.また中性 genre neutre もないため簡単である:AF には男性名詞 nom masculin と女性名詞 nom féminin しかない.
― 男性名詞
AF には 3 種類の男性名詞がある.1 型 type 1 はもっとも多く,たいていラテン語の第 2 曲用に由来するものでただ 1 つの語基 base をもつ.単数主格と複数斜格では語根 radical に s が加わる (例:mur-s, moulin-s).しかし語根の末子音は s のつくとき修正を受けることがあるので注意せよ;例:port + s > porz.
無変化の特殊な場合:語根がはじめから s または z で終わっている cors, tens, mois のような語は曲用しない.「無変化 indéclinable」語はすべて,それが FM に残っている場合には,無変化のままである.
非常に少数の語が 2 型 type 2 を形成する:pere, maistre, frere 等々は 4 つの形に対して同一の語基をもつが,1 型の名詞に比べると単数主格で s をとらない.すべて -re で終わることに注意せよ (しかし sire や emperere のように,-re で終わっても 2 型でない名詞もある).
NB : 単数主格に peres の形を見ることもまれではない.これは類推現象 phénomène d’analogie である:AF には 1 型の名詞が非常に多いので,中世の人々は本来つかない語にも s をつける傾向があった.
3 型 type 3 の名詞は 2 つの異なる語基をもつ特徴がある.たとえば ber/baron, cuens/conte, huem/home, niés/neveu のように,日常語の多くはこの型であり,ふつう -ere (単数主格) または -eor(s) (その他の格) で終わる:emperere/empereor(s), contere/conteor(s), travaillere/travailleor(s), ... 3 型の名詞はすべて男性の人間を意味する.
NB 1 : 中世の接尾辞 -ere/-eor はラテン語の -ator/-atorem からきており,FM の接尾辞 -eur に対応する.
NB 2 : 複数では,やはり語末の t に s が続くとき z に変わる.
― 女性名詞
女性名詞も 3 つの型にわけられる.1 型がもっとも多い;たいていラテン語の第 1 曲用に由来し,ただ 1 つの語基をもち,e で終わり,複数では s がつく.1 型の名詞では主格と斜格の区別がない:唯一の区別は,s のない単数と s のある複数との対立だけである.
2 型の名詞は,語基は 1 つだが,e 以外の文字で終わり,それは子音または é である.単数主格と複数で語末に s がつく.
NB 1 : 男性 1 型と同様,s または z で終わる女性名詞も無変化である;例:paiz, croiz.
NB 2 : -é の女性名詞はすべて 2 型であり,単数主格と複数で z で終わる.
3 型の女性名詞は男性と同様 2 つの異なる語根をもつ.数はそれほど多くはない.
主格はその名詞が節の主語 sujet であるときまたは主語の属詞 attribut であるとき用いられる.呼びかけ apostrophe における名詞の大部分もまた主格である (しかし例外も多い).
例:Li mesagier errent par vaus et par montaignes. (使者は山を越え谷を越え旅する) 動詞 errer の主語 li mesagier は複数主格である.
斜格はそれ以外の機能すべてに用いられる:直接目的語 COD, 間接目的語 COI, 名詞の補語 complément du nom, 状況補語 complément circonstanciel, 等々.
例 1:La tor del chastel esgarde. (彼は城の塔を見る) 直接目的語 la tor (女性 2 型) と名詞の補語 del chastel (男性 1 型) が斜格である.AF ではしばしばあることだが,代名詞主語 il は明示されず COD が動詞に先行している.
例 2:Messire Gauvains cele nuit en une forest jut. (今夜ゴヴァン殿下は森のなかで休む) 時の補語 complément de temps である cele nuit (女性 2 型) と場所 lieu の補語である en une forest (女性 2 型) が斜格である.
第 2 課 名詞と格の用法/接続語 Les noms et l’emploi des cas / les mots de coordination
第 1 部 名詞の曲用と格の用法 La déclinaison des noms et l’emploi des cas
1. 名詞の曲用 La déclinaison des noms
古フランス語 (AF) では古典ラテン語 (LC) のように名詞は曲用する se décliner が,AF には 2 つの格しかないので単純である:ラテン語の主格 nominatif に由来する主格 CS と,対格 accusatif に由来する斜格 CR である.また中性 genre neutre もないため簡単である:AF には男性名詞 nom masculin と女性名詞 nom féminin しかない.
― 男性名詞
AF には 3 種類の男性名詞がある.1 型 type 1 はもっとも多く,たいていラテン語の第 2 曲用に由来するものでただ 1 つの語基 base をもつ.単数主格と複数斜格では語根 radical に s が加わる (例:mur-s, moulin-s).しかし語根の末子音は s のつくとき修正を受けることがあるので注意せよ;例:port + s > porz.
| 男性 1 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | murs | mur | porz | port |
| 斜格 | mur | murs | port | porz |
無変化の特殊な場合:語根がはじめから s または z で終わっている cors, tens, mois のような語は曲用しない.「無変化 indéclinable」語はすべて,それが FM に残っている場合には,無変化のままである.
非常に少数の語が 2 型 type 2 を形成する:pere, maistre, frere 等々は 4 つの形に対して同一の語基をもつが,1 型の名詞に比べると単数主格で s をとらない.すべて -re で終わることに注意せよ (しかし sire や emperere のように,-re で終わっても 2 型でない名詞もある).
| 男性 2 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | pere | pere | arbre | arbre |
| 斜格 | pere | peres | arbre | arbres |
NB : 単数主格に peres の形を見ることもまれではない.これは類推現象 phénomène d’analogie である:AF には 1 型の名詞が非常に多いので,中世の人々は本来つかない語にも s をつける傾向があった.
3 型 type 3 の名詞は 2 つの異なる語基をもつ特徴がある.たとえば ber/baron, cuens/conte, huem/home, niés/neveu のように,日常語の多くはこの型であり,ふつう -ere (単数主格) または -eor(s) (その他の格) で終わる:emperere/empereor(s), contere/conteor(s), travaillere/travailleor(s), ... 3 型の名詞はすべて男性の人間を意味する.
| 男性 3 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | sire | seigneur | enfes | enfant |
| 斜格 | seigneur | seigneurs | enfant | enfanz |
NB 1 : 中世の接尾辞 -ere/-eor はラテン語の -ator/-atorem からきており,FM の接尾辞 -eur に対応する.
NB 2 : 複数では,やはり語末の t に s が続くとき z に変わる.
― 女性名詞
女性名詞も 3 つの型にわけられる.1 型がもっとも多い;たいていラテン語の第 1 曲用に由来し,ただ 1 つの語基をもち,e で終わり,複数では s がつく.1 型の名詞では主格と斜格の区別がない:唯一の区別は,s のない単数と s のある複数との対立だけである.
| 女性 1 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | dame | dames | fille | filles |
| 斜格 | dame | dames | fille | filles |
2 型の名詞は,語基は 1 つだが,e 以外の文字で終わり,それは子音または é である.単数主格と複数で語末に s がつく.
| 女性 2 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | maisons | maisons | veritez | veritez |
| 斜格 | maison | maisons | verité | veritez |
NB 1 : 男性 1 型と同様,s または z で終わる女性名詞も無変化である;例:paiz, croiz.
NB 2 : -é の女性名詞はすべて 2 型であり,単数主格と複数で z で終わる.
3 型の女性名詞は男性と同様 2 つの異なる語根をもつ.数はそれほど多くはない.
| 女性 3 型 | 単数 | 複数 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|---|---|
| 主格 | nonne | nonnains | suer | serours |
| 斜格 | nonnain | nonnains | serour | serours |
2. 格の用法 L’Emploi des cas
主格はその名詞が節の主語 sujet であるときまたは主語の属詞 attribut であるとき用いられる.呼びかけ apostrophe における名詞の大部分もまた主格である (しかし例外も多い).
例:Li mesagier errent par vaus et par montaignes. (使者は山を越え谷を越え旅する) 動詞 errer の主語 li mesagier は複数主格である.
斜格はそれ以外の機能すべてに用いられる:直接目的語 COD, 間接目的語 COI, 名詞の補語 complément du nom, 状況補語 complément circonstanciel, 等々.
例 1:La tor del chastel esgarde. (彼は城の塔を見る) 直接目的語 la tor (女性 2 型) と名詞の補語 del chastel (男性 1 型) が斜格である.AF ではしばしばあることだが,代名詞主語 il は明示されず COD が動詞に先行している.
例 2:Messire Gauvains cele nuit en une forest jut. (今夜ゴヴァン殿下は森のなかで休む) 時の補語 complément de temps である cele nuit (女性 2 型) と場所 lieu の補語である en une forest (女性 2 型) が斜格である.
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