vendredi 29 avril 2022

田中・松平『ギリシア語入門』練習問題解答 (18)

田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』(岩波書店、新装版 2012 年) の練習問題の解答例。このページでは第 69 課と第 70 課を扱う。これが最終回である。

さらにべつの教科書で基礎固めを続けたい人のために、水谷『古典ギリシア語初歩』の解答田中『新ギリシャ語入門』の解答も用意してあるので、あわせてお役立ていただきたい。



LXIX μι 動詞の変化 (5) — ἵστημι の完了 II.φημί, εἰμί, εἶμι の変化


§618. 練習問題 134


1. それを私は見ながら立っていた。〔直過完能 1 単。完了および過去完了は自動詞で、「立てられた」結果いま (または過去のある時点まで)「立っている/いた」の意。〕

2. アレクサンドロスはテーバイの都を奪うと、ピンダロスの家だけに立っていることを許した。〔ἑστάναι 不完能。ἑλών は αἱρέω のアオ能分・男単主。紀元前 335 年のできごと。コリントス同盟にもかかわらず反乱を起こしたこの都市をアレクサンドロス大王は攻略し、ピンダロスの生家 (と神殿) 以外はすべて破壊しつくした。〕

3. 君が以前何者であったか言うのではなく、いま何者であるかを言え。

4. 将軍が命ずるならばどこへであれ行かねばならぬことを、私たちは全員知っている。

5. 魂は (人が生きて) そこにあるときにも (死んで) 離れ去るときにも見られない (=見えない)。〔出典はクセノポン『キュロスの教育』8.7.20。ラテン語では « Animus, nec cum adest nec cum discedit, apparet. » と言う;これはキケロ『老年について』80 章より。〕

6. 哲学者とつきあう人はより (道徳的に) すぐれた者として [になって] 離れる。〔数ある ἀγαθός の比較級のうち、βελτῑ́ων はとくに道徳的にすぐれたさまを言うとよく注記されているが (cf. 高津基礎 §34.6.a; シュタウブ §33 (3); 水谷 §70)、The Cambridge Greek Lexicon, s.v. βελτῑ́ων はかならずしも人格に限らず身分や能力などについても言うと認めている。とはいえここではそう思って差しつかえない。〕

7. 敵どもに向かっていこうではないか。〔勧奨の接続法。〕

8. 私は親しい友といっしょなら火のなかへさえ行くだろう。

9. 悪人たちが不正な道を行っているとき、彼らといっしょに行ってはならない。〔中間は独立属格句。〕

10. 立ち去ろう;すでに立ち去る時間だから。〔これも勧奨の接続法。〕

§619. 練習問題 135


1. εὖ ἴστε, ὅτι πειστέον τοῖς γονεῦσιν.〔πείθομαι の動詞的形容詞は LXII 課の練習問題で与えられている。〕

2. (ἐκεῖνος) μετὰ τῆς φίλης μητρὸς κ῍ᾱν διὰ πυρὸς ἴοι.

3. ἤδη τέθνηκεν ὁ βασιλεύς, ὥς φᾱσιν.

4. πιστεύσω σοι, ὅστις ἂν σὺ ᾖς.

5. ἡμῖν ἰτέον, ὅπῃ ἂν κελεύῃ ὁ βασιλεύς.


LXX μι 動詞の変化 (6) — ῞ῑημι, κεῖμαι, κάθημαι


§622. 練習問題 136


1. 動物たちはそれぞれがべつべつの声を発する。〔ἄλλην は φωνήν に一致している。〕

2. 君は私の言うことをよく理解してくれるが、彼らは理解していないし理解できもしないのだ。

3. アテーナイ人たちはラケダイモーン人たちに、陸上での主導権は進んで委ねたが、制海権は彼ら自身が (もつことに) 執着した。

4. 彼は明白なことを放置して不確かなことを追求していた。〔ἀφείς アオ能分・男単主。ἀφανής は巻末語彙集から漏れており補遺として 298 頁に載っている。〕

5. メソポタミアーはエウプラーテース [ユーフラテス川] とティグレース [ティグリス川] のあいだに横たわっていることから名づけられている。〔ὠνόμασται 直完受 3 単。〕

6. みずから不正を行うな、またほかの人に不正を行わせてもおくな。〔ἀδίκει, ἐφῑ́ει ともに命現能 2 単。〕

7. スパルタでは臆病者にはきわめてつらい罰が課せられていた。

8. 車の上に座ってキューロスは行軍していた。〔出典はクセノポン『アナバシス』1.7.20。〕

9. ちょうど弓と同じように、心もあるときは張っていてあるときは緩めておく必要があるのだ。

10. 異国の人よ、ラケダイモーン人たちに伝えてくれ。ここにわれらは眠る、彼らの言葉 [命令] に従いて。〔ἄγγειλον 命アオ能 2 単。水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題 25.7 とほぼ同文だが、そちらでは不能現 ἀγγέλλειν とされており命令を表す不定詞だと説明されている。また ξεῖνος (= ξένος) と κεῖνος (= ἐκεῖνος) はイオニア方言形であるとの解説がある。〕

§623. 練習問題 137


1. ἡ χώρᾱ κεῖται μεταξὺ ποταμοῦ καὶ ὄρους.

2. μὴ ἀφῑ́ετε τοὺς νέους ἀλλήλους ἀδικεῖν.

3. τοῦτο ποίησον μόνον τὰ ἄλλα ἀφείς.

4. ὁ Μελάμπους συνῑ́ει τᾱ̀ς φωνᾱ̀ς τῶν ὀρνῑ́θων.

5. ἐπὶ τοῦ τείχους καθήμενοι οἱ παῖδες αὐτοὺς λίθοις ἔβαλλον.〔λίθοις は道具 (手段) の与格 (§633)。投げるという動作を石でもって行うということ。〕

§624. アッリアーノス『アレクサンドロス東征記』第 2 巻第 3 章


(1) さてアレクサンドロスがゴルディオンに滞在していたとき、頂に上ってゴルディオスの車と、車の軛の縛めを見たいという欲望が彼をとらえる。〔λαμβάνει は歴史的現在ととるのがよく、過去形に訳してもよい。ἀνελθόντα アオ能分・男単対。θεᾱ́σασθαι 不アオ中。〕

(2) その車については次のように語られていた。

(3) かつてプリュギアーにはゴルディオスという、貧乏で働くためのわずかな土地と 2 対の牛 (だけ) をもつ男がいた。〔δύο は中複対 ζεύγη に一致しており、βοῶν にかかる属格 δυοῖν ではない。つまり 2 頭からなる組が 2 つであって牛は全部で 4 頭。〕

(4) そしてあるとき耕していた彼のところへ鷲がきて軛の上に止まり、同じその場所に日暮れまでとどまった。〔αὐτοῦ はここでは副詞として「まさにその場所に」の意;これは古典期にはすでに廃れている場所の属格の名残である (高津 §227.2)。ἔμεινε 直アオ能 3 単。〕

(5) このできごと (の意味) に (彼が) 悩んでいると、預言者たちは (神々の) 王ゼウスに犠牲を捧げるよう命じて、大きな希望を吹きこんだ。犠牲を捧げると彼にはミダースという名の息子が生まれた。〔ἐμβάλλοντες 現能分・男複主は ἐκέλευσαν に同時的な動作なので、直訳すれば「吹きこみつつ命じた」だが、自然に通るよう語順のとおり訳した。最後の ὄνομα は限定の対格で、「名の点ではミダスという息子」。その前の αὐτῷ は ἐγένετο の利益を与える対象=ゴルディオスを指しており、「犠牲を捧げる」の間接目的「ゼウスに」ではない。さて注にあるとおりこのテクストはアドルフ・ケーギが初心者向けに書きなおしたものというが、この箇所はとくに簡略化が著しいので、アッリアノスの原文に従ってもう少し経緯を補足しよう。鷲が止まるという不思議なできごとに驚いたゴルディオスは、神意の解釈を伺うため預言者の一族が住むテルミッソスの村に向かったところ、村の近くで水汲みをしていた一族の女の子に出会い、なすべきこと・供犠の手順を教えてもらう (つまり実際に指示した「預言者」は 1 人)。そして彼女と結婚してミダスが生まれるのである。〕

(6) ミダースが美しく立派な男に (なり)、プリュギアー人たちがある内戦で苦しめられていたとき、彼らに (次のような) 予言がなされた:車が彼らに王を連れてくるであろう、そしてこの人が彼らのために内戦を終わらせるであろう、と。〔ἐμαντεύθη 直アオ受 3 単。ἄξει, παύσει はともに直未能 3 単。〕

(7) まだ彼らがそれらのことについて相談していたときに、ミダースがその父と母とともに、集会へ当の車を駆ってやってきた。〔冒頭は独立属格句。αὐτῇ ἁμάξῃ は道具の与格。〕

(8) そこで彼はプリュギアー人たちの王に選ばれ、内戦を終わらせる。〔これも歴史的現在。〕

(9) それからその父の車を土地の人々は、(神々の) 王ゼウスへの献納物として頂で守りつづけた。〔ἀνάθημα は τὴν ... ἅμαξαν に同格。〕

(10) またこの車については次のことも語られていた:その軛の縛めを解いた者がいれば誰であれ、その者はアシアーを支配するであろうと。縛めには終わりも始まりも [終端も始端も] 見えなかった。〔実現可能な未来の仮定〈ἐᾱ́ν + 接続法,直説法未来〉の文が間接話法になって引用されており、そのため後文の動詞 ἄρξειν は不定法未来、前文の λῡ́σειε は主文の伝達動詞 ἐλέγετο が副時称のため接続法から希求法に変えられ ἄν は落ちている (cf. 水谷 §128.2)。ちなみに λύσειε にマクロンがないのは誤植。〕

(11) そこでアレクサンドロスもこの縛めを解こうと試みたができなかった。解かれないままにしておきたくなかった彼は、剣を抜いて縛めを両断し、それが解かれてあると宣言した。〔ここの現能分 φάσκων の訳しかたも (5) と同様。〕

(12) するとその夜に雷火が天より兆しとして生じた。このことにもとづいて翌日アレクサンドロスは、兆しと縛めを解いたこととを顕してくれた神々に犠牲を捧げた。〔φήνᾱσι は φαίνω のアオ能分・男複与。〕

§625. プラトーン『クリトーン』(43a1–c3)


(1) ソ:なぜこんな時間に来ているのだ、クリトーンよ。それとももう早朝ではないのか。〔ἀφῖξαι 直完中 2 単。〕

(2) ク:いや、全然そのとおり (まだ早朝だ)。

(3) ソ:正確には何時だ。〔本書の語彙集では μάλιστα の語義を「[時]きっかり」と与えているのであるが、田中秀央訳注『クリトーン』(大学書林語学文庫) はこの文を「大体何時頃だ」と訳しており、大きく異なる印象を与える。田中秀央による訳注は次のように説明している:「μάλιστα ‘大体’ はおよその所を表わすのによく用いられるが,それでも比較的正確な返答を求めているのである」。〕

(4) ク:夜明けの直前だ。

(5) ソ:どうして牢番が君に耳を貸そうと思ったのか不思議だよ。〔ἠθέλησε 直アオ能 3 単。ὑπακοῦσαι 不アオ能。〕

(6) ク:(牢番は) もう僕とはなじみなんだ、ソークラテース、頻繁にここへ通っているからね。それになんやかや親切にもしてきているから。〔εὐεργέτηται は直完受 3 単で、直訳は「私によって親切にされてきてある」。ちなみに親切にというのは要するに心づけ、賄賂を渡しているということ。〕

(7) ソ:で、たったいま来たところなのか、それとも前から (いるのか)。

(8) ク:だいぶ前からいるよ。

(9) ソ:ではどうしてすぐに僕を起こさないで、黙ってそばに座っていたのだ。〔ἐπήγειρας のアオリストに対して παρακάθησαι は真の現在だが、日本語では接続助詞「て」の前だけを過去にすることはできないのでやむなく「座っていた」とした (前半を「*起こさなかって」のように表現できればいいのだが;「起こさなかったうえで」はまどろっこしいし)。与格 σῑγῇ はここでは副詞的に「黙って、静かに」;これは具格的与格の一種で「沈黙とともに」ということ (田中・松平文法 §226)。〕

(10-1) ク:(起こすだなんて) とんでもない、ソークラテース、それに僕だったらそれほどの不眠と苦悩のうちにいたくはないものだ。〔この文章全体でいちばん難しい箇所! これはじつは「現在の事実に反する仮定」の文で、その後文のため ἤθελον は直説法未完了になっているのである。前文すなわち条件節のかわりになるのは αὐτός の 1 語で、「もし私じしん (が君の立場) であったら」ということ。〕

(10-2) それなのに君が心地よく眠っているのを認めて僕は君に (さきほどから) ずっと驚いている。〔現中分 αἰσθανόμενος は理由を表す分詞節。〕

(10-3) それでわざと君を起こそうとしなかったのだ、君がなるたけ心地よく過ごせるように。〔ἤγειρον の未完了は過去における始動「しようとした」。ἵνα の導く目的節で διάγῃς は接続法になっている。過去における目的なので希求法にしてもよいところだが、あえて接続法で言うことで現在においてもなお変わらぬ目的、目覚めたいまでもソクラテスに気持ちよく過ごしていてほしいというクリトンの願いが聞こえてくるようである。〕

(11) それに僕は全生涯のなかで以前にもしばしば君をその性格ゆえに幸福と思ったが、いま現にある災難において (これまでで) もっとも著しく (そう思っているよ)。君がたやすく穏やかにそれ (=災難) に耐えているものだから。〔παρεστώσῃ は παρίστημι の完能分・女単与。〕

(12) ソ:だってクリトーン、もう死なねばならないほどの年齢であるなら、苛々するのは似つかわしくないだろう。〔ἄν ... εἴη は可能性の希求法。τηλικοῦτον ὄντα は δεῖ の省略された対格主語に一致する状況説明で、εἰ 節のなかに入れて考える。〕

(13) ク:だがソークラテース、ほかにも同じほどの年齢でこのような災難に見舞われる者はあるが、なんら年齢は彼らに、現前する運命に苛立つことを消し去りはしない。〔ἄλλοι は英語の無冠詞の others と同じで、ほかの人全員ではなく中にはそういう人たちもいるということだから、日本語で「ほかの人たちは」とすると誤解を招く。οὐδέν は限定の対格「いかなる点でも〜ない」。μὴ οὐχί については注のとおり:οὐδέν がなくて主文が肯定なら μή だけで「苛立たないよう解消する」だが、主文が否定なので従属文も反転して「苛立たなくないよう解消しない、解消しないので苛立たないようにならない=苛立つ」という理屈。〕

mercredi 27 avril 2022

田中・松平『ギリシア語入門』練習問題解答 (17)

田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』(岩波書店、新装版 2012 年) の練習問題の解答例。このページでは第 65 課から第 68 課までを扱う。



LXV μι 動詞の変化 (1) — τίθημι


§597. 練習問題 126


1. キリストは人間たちに、互いを愛するという (ただ) 1 つの法を置いた [定めた]。

2. 私たちはよい見本を若者たちに提示する、徳へと向かう功名心を (若者たちの心に) 鼓吹するために。

3. 敵どもが夜間に諸君を襲ってくることのないように見張っておれ。〔ἐπιθῶνται 接アオ中 3 複。νυκτός は期間の属格。〕

4. 公共の安寧よりも自己の利益を重視するような輩は、当然誰からも憎まれることであろう。〔μῑσηθήσεται は μῑσέω の直未受 3 単。〕

5. よい人から悪い人を作る [に作りかえる] ことは、悪い人からよい人を作るよりも容易である。〔τινα κακόν は男性単数対格としかとれないので、物ではなく人。κακόν だけなら中単、τινα だけなら中複ともとれるが、そうするとどちらかが宙に浮いてしまう。〕

6. よきもののうちで富を最後に置け。〔最優先の反対で、いちばん後回しにせよということ。〕

7. 現在あるものに加えるだけでなく、出費のうちからも減らす (人々) はいっそう裕福になる。

8. 君はどんな種類のおかずを食事に供するつもりか。〔παραθήσεις 直未能 2 単。〕

9. そこにおいて (子どもたちの) おのおのが体力をも徳をも明らかにするような競技を子どもたちは開催するべきである。〔προθετέον は προτίθημι の動詞的形容詞・中単で非人称的用法。意味上の主語は与格に置かれる。οἷς の先行詞は ἀγῶνας。なお問題文で ἰσχῡ̀ν のマクロンが抜け落ちている誤植。〕

10. 「ある種の諸法は書かれざるものである」とソークラテースは言った。「それらは人間が自分たちのために定めたのではなく、神々がそれらを人間たちに定めたのだと私は思う」。〔οὕς の先行詞は νόμοι τινές。ἔθεντο の中動は主語の人間たちが自分たちのためにという意。〕

§598. 練習問題 127


1. φοβούμεθα μὴ ἡμῖν ἐπι(τι)θῶνται οἱ πολέμιοι.〔接現と接アオどちらでもいけそうな気がするが、和訳 3. にあわせるなら τι- のない接アオか。〕

2. προτιθέᾱσι τὸ ἴδιον κέρδος τῆς κοινῆς σωτηρίᾱς.

3. πολλὰ ὄψα ἐν τῷ δείπνῳ ἡμῖν παρέθηκεν.

4. νομοθέτης καλεῖται (οὗτος) ὃς νόμους τιθέᾱσιν.

5. πειρῶμαι τοῦτον τὸν παῖδα θεῖναι βελτῑ́ονα / βελτῑ́ω [ἀμείνονα / ἀμείνω].


LXVI μι 動詞の変化 (2) — δίδωμι


§601. 練習問題 128


1. 誰にも悪に対して悪を返すな。

2. 不遇において自然は私たちに涙という慰めを [涙を慰めとして] 与える。〔τὰ δάκρυα と παραμῡθίᾱν は同格。〕

3. 乞食にはすぐに与えよ。明日来るようにとは言うな。〔εἴπῃς は λέγω の接アオ能 2 単。ἐλθεῖν は ἔρχομαι の不アオ能。〕

4. 気違いにナイフを与えることと悪人に権力を (与えること) は似ている。

5. 法律を破る者は罰せられよ。〔命現能 3 複。〕

6. 毎日私たちには神から無数のよきものが与えられている。

7. 善意とともに与えられるものは最大のものである。

8. もし不正を行う者が罰せられないとすれば、国家が救われることはない。〔〈ἐᾱ́ν + 接現,直現〉という現在の普遍的想定の条件文だが、後文が可能性の希求法になっている。〕

9. ある人がもっていないものをべつの人に与えることはできない。

10. オリュンピアーにおいて勝者たちにはオリーブから (作られた) 冠が与えられていた。〔νῑκήσᾱσι アオ能分・男複与。〕

§602. 練習問題 129


1. οἱ θεοὶ διδόᾱσιν ἡμῖν ἅπαντα τὰ ἀγαθά.

2. οἱ τοὺς ἄλλους ἀδικοῦντες δίκην διδόᾱσιν.〔分詞に冠詞をつけるだけで「〜する人は誰でも」という一般化された意味になる (§642)。〕

3. εἰ τοῦτο εἶχον, ἡδέως σοι ἂν ἐδίδουν.

4. ὁ βασιλεὺς τῷ νῑκήσαντι ἔδωκε δακτύλιον χρῡσοῦν.

5. αἰσχρόν ἐστι τὴν πατρίδα προδοῦναι.


LXVII μι 動詞の変化 (3) — ἵστημι


§605. 練習問題 130


1. ギリシア人たちは自分たちの勝利の記念碑を建ててから撤収していった。〔στησάμενοι 1 アオ中分・男複主。1 アオなので他動詞「立てる」。ἀπεχώρουν 直未完能 3 複。〕

2. アリストゴラースはイオーニアー人たちを (ペルシア) 王から離反するよう説得した。

3. 多くの人は支配的地位に据えられると支配される人々に対し傲慢にふるまう。

4. 不運は人々をより賢くさせる。

5. テーバイ人はラケダイモーン人を破ると、ギリシア人の指導者の地位についた。〔κατέστησαν は 1 アオと 2 アオで 3 複が同形であり、ここでは 2 アオで自動詞。〕

6. 離反したナクソス島民たちとアテーナイ人たちは戦っていた。〔ἀποστᾶσιν 2 アオ能分・男複与 (直現能 3 複と同形なので注意)。〕

7. その将軍は民主制をイオーニアー人たちの諸都市に樹立していた。〔καθῑ́στη 直未完能 3 単。〕

8. 神は動物たちのうちで人間だけをまっすぐに立たせた [直立させた]。〔ἀνέστησε 直 1 アオ能。〕

9. 唯一ラケダイモーン人たちの国制は 500 年間変えられなかった。

§606. 練習問題 131


1. οἱ Ἕλληνες τρόπαιον ἔστησαν (ἐν / ἐπὶ) ἄκρῳ τῷ ὄρει.

2. οἱ Νάξιοι ἀπέστησαν ἀπὸ τῶν Ἀθηνῶν.

3. ὁ στρατιώτης ἀναστᾱ̀ς ἔλεξε [εἶπε] τούτων οὐκ εἶναι αἴτιος.

4. τίς πρῶτος δημοκρατίᾱς εἰς ταύτᾱς τᾱ̀ς πόλεις κατέστησεν ;〔他動詞なので 1 アオ。2 アオ κατέστη は不可。〕


LXVIII μι 動詞の変化 (4) — δείκνῡμι


§613. 練習問題 132


1. 手本を用いずに徳を示すことは難しい。

2. 時だけが正しい人を示す。

3. 水によって火は消される。

4. 怒っている人は [人は怒っているときには] 何物をもよく知りえない。〔可能性の希求法の否定。〕

5. もし私がなにか間違っていたら許してください。

6. イエスは祈ろうとして [祈るために] 山に登った。〔目的を表す未来分詞。〕

7. 召使たちのうちの 1 人が夜間に逃げ去った。

8. 汝自身を知れ。

9. この人生において (さまざまな) 快楽は (さまざまな) 苦悩に混ぜられている。

10. 君の意見を述べよ。

§614. 練習問題 133


1. ῡ̔μῖν πρῶτον συμβουλεύω γνῶναι ῡ̔μᾶς αὐτούς.

2. οἱ πολέμιοι νυκτὸς διέβησαν τὸν ποταμόν.

3. ἐᾱ̀ν σὺ τὴν γνώμην σου ἀποδεικνύῃς, καὶ ἐγὼ τὸ βούλημά μου δηλώσω.

4. ὁ δοῦλος ἀποδρᾱ̀ς ἀνέβη εἰς τὸ ὄρος.

5. ἡδέως ἄν σοι συγγνοίη.

dimanche 24 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (9)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 33 課から第 36 課までを扱う。これが最終回である。

さらにべつの教科書で基礎固めを続けたい人のために、田中・松平『ギリシア語入門』の解答田中『新ギリシャ語入門』の解答も用意してあるので、あわせてお役立ていただきたい。



第 33 課 命令法:ω 動詞


練習 33


1. ゆっくり急げ。〔ラテン語で Festīnā lentē. 「急がば回れ」のこと。〕

2. 自分たちが裁かれないよう、(自分たちも他人を) 裁くな。〔κρῑ́νετε は命現能 2 複、κριθῆτε は接アオ受 2 複。〕

3. 見かけだけをではなく罪を清めよ。

4. 「ごきげんよう、友よ」と彼は言った、「そして私に頻繁に (手紙を) 書いてくれ」。

5. 人々にソローンは次のように忠告した:「誓いよりも人柄の立派さをより誠実なものとしてもて。嘘をつくな。まじめなことを行え。友人たちを拙速に得ようとするな。得られたならばその人たちを邪険にするな。まず支配されることを学んでから支配せよ。もっとも快いことをではなく、もっとも善いことを忠告せよ。理性をみずからの導き手とせよ。悪い者たちとつきあうな。神々を尊重し、両親を敬え」。〔ψεύδου 命現中 2 単。μελέτᾱ 命現能 2 単。κτῶ は κτάομαι の命現中 2 単、κτήσῃ は接アオ中 2 単で、οὓς δ’ ἂν ... の文は実現可能な未来の仮定 (§116.1)。μαθών アオ能分・男単主。ποιοῦ 命現中 2 単で、この中動は「自分のために」理性を導き手とせよの意。〕

6. 「もし誰かがほかのことをよりよいと見るならば、その者に言わしめよ (=その者は言え)」。すると誰も反対しなかったので、(クセノポーンは) 言った:「誰であれこのことがよいと思う者は、手を挙げよ」。(こうして) このことが決まった。「さてかくなるうえは」と彼は言った、「(われわれは) 立ち去って [撤退して]、決まったことを行わねばならない。そして、諸君らのうち家族に会うことを切望する者は誰であれ、(自分が) 勇敢な男であることを覚えておれ。ほかの方法でそれを得る (=目的を達する) ことは不可能なのだから。また生きることを切望する者は誰であれ、勝利するよう努力せよ」。
〔λεξάτω 命アオ能 3 単。不定関係代名詞 ὅτῳ は δοκεῖ「よいと思う」の意味上の主語で、この関係節全体 (先行詞 οὗτος 省略) が主文の主語 (=手を挙げる者) になっている。ἀπιόντας は ἄπειμι のアオ能分・男複対であり、これは省略されている対格主語 ἡμᾶς に一致している。δεδογμένα は δοκέω の完受分・中複対。ἰδεῖν は ὁράω の不アオ能。μεμνήσθω 命完中 3 単。ἀνὴρ ἀγαθὸς εἶναι が主格不定法になっていることに注意、すなわち主文の主語=ὅστις 節全体がこの「勇敢な男である」の主語である。ἔστιν は不定詞を従え (不) 可能を表す用法で、τυχεῖν は τυγχάνω の不アオ能。πειρᾱ́σθω は πειράομαι の命現中 3 単。〕


第 34 課 命令法:μι 動詞


練習 34


1. 私が立つような場所を私に与えよ、さすれば私は大地を動かそう。〔στῶ は ἵστημι の接続法第 2 アオリスト能動態 1 単。2 アオなので自動詞「立つ」の意 (§89.3)。〕

2. カイサルのものはカイサルに返せ、神のものは神に (返せ)。〔属格に中性の冠詞をつけて「〜のもの」と名詞化している。〕

3. おおギリシアの子らよ、行け/祖国を解放せよ/子らを、女らを、父祖伝来の神々の座所を解放せよ/また祖先の墓所をも。いまこそすべてのための戦いだ。〔ἕδη は ἕδος の中複対。〕

4. 与えられた有限の直線 (=線分) を 2 つ [2 等分] に切ること。
 ΑΒ が与えられた有限の直線であるとせよ。ここで有限の直線 ΑΒ を 2 つに切らねばならない。
 それの上に等辺の三角形 (=正三角形) ΑΒΓ が置かれてあれ。そして ΑΓΒ によって (作られた) 角が直線 ΓΔ によって 2 つに切られてあれ。(このとき) 直線 ΑΒ は点 Δ において 2 つに分けられてあるといえる。
 なんとなれば、ΑΓ は ΓΒ に等しく、ΓΔ は共通であるから、2 つの (線分) ΑΓ, ΓΔ おのおのは 2 つの (線分) ΒΓ, ΓΔ おのおのに等しい。そして角 ΑΓΔ は角 ΒΓΔ に等しい。ゆえに底辺 ΑΔ は底辺 ΒΔ に等しいからである。
 したがって、与えられた有限な直線 ΑΒ は点 Δ において 2 つに分けられてある。まさにこれがなされるべきであった。
〔δοθεῖσαν は δίδωμι のアオ受分・女単対。τεμεῖν 不アオ能 (不未能も同形)。συνεστάτω 命完能 3 単。τετμήσθω 命完受 3 単。第 4 段落では、2 つの三角形において 2 辺とそのあいだの角が等しければもう 1 つの辺も等しいという事実が使われているが、このことは命題 1.4 としてこれ以前に証明されてある。〕


第 35 課 μι 動詞型の変化をする第 2 アオリスト,動形容詞,動詞の主要部分


練習 35


1. 汝自身を知れ。〔命アオ能 2 単。〕

2. 愚か者は受けてから知る。〔「愚者は経験に学ぶ」。παθών は πάσχω のアオ能分・男単主。ἔγνω 直アオ能 3 単、ここでは格言的アオリスト (練習 7.9 の注)。〕

3. 私は昨日アリストーンの (息子) グラウコーンとともにペイライエウスへ下っていった。

4. 私はアーゲーシラーオスの徳と栄誉とにふさわしい称賛を書くことは容易ではないと知っているが、それでもやはり試みらるべきである。〔主語は中性名詞扱いの不アオ γράψαι で、ῥᾴδιον はそれに一致した中単主の述語。γράψαι の目的語として ἔπαινον は対格になっており、ἄξιον はこれに一致した男単対、その目的語 (何にふさわしいか) が ἀρετῆς τε καὶ δόξης の属格で示されている。クセノポンはスパルタ王アゲシラオス 2 世にやたらと心酔しており、これは彼を絶賛するために書いた伝記の書きだし。〕

5. 私はといえばアテーナイ人たちを、ちょうどほかのギリシア人たちが (そう言うの) と同じように、賢明であると言っている。さて私の見るところでは、いつであれ私たちは民会に、建築について国家がなにかを行わねばならないようなときには、建築家たちを建造物についての相談相手として遣いをやって召集するし、また造船についてとなれば船大工たちを (召集する)、そして学ばれかつ教えられうると考えられるほかのすべてのこともこのようにして (行っている)。しかるに国家の運営に関することについて協議せねばならないようなときには、(民会で) 立って彼らにこのことについて助言するのは (あるときは) 大工であり、また同じように鍛冶屋や靴屋、商人に船主、富める者も貧しき者も、高貴な者も下賤な者も (同じように助言する)、そうしてこれらの人たちに対して何人たりとも次のように非難することはない:「(この人は国家運営について) どこで学んだこともなく、1 人の教師もなく、それでいて助言を試みている」(などとは)。明らかにそれは教えられうることだとは考えられていないのである。
〔συλλεγῶμεν 接現能 1 複。δέῃ は δεῖ の接現能 3 単。τοὺς οἰκοδόμους と τοὺς ναυπηγούς は συλλεγῶμεν の目的語。μεταπεμπομένους はそれに一致した男複対なので、ここでは受動分詞で「遣いを送られた」ととる (文主語の「私たち」は主格なので、これを行為者とする中動分詞と解すのは無理)。μαθητά τε καὶ διδακτά は中複対で、ὅσα に (ひいては τἆλλα πάντα に) 対する述語であり、ἡγοῦνται の従える対格不定法句 (考える主語は一般の人々、厳密に言えばアテナイ人たちか)。βουλεύσασθαι 不アオ中。第 3 文に入って、περὶ τῶν τῆς πόλεως διοικήσεως は複属の冠詞 τῶν のあとに単属の名詞しかないことに注意、すなわちこれは「国家の運営について」ではなく、「国家の運営の」という属格をさらに名詞化したもの。それが主文で περὶ τούτων と中複属で繰りかえされる。ἀνιστάμενος は ἀνίστημι の現中分・男単主で、続きに列挙される主語のひとつひとつ (直接的には直近の τέκτων) に同格の状況説明。ὄντος διδασκάλου οὐδενὸς αὐτῷ は所有の存在文が独立属格句になったもの。〕


第 36 課 数詞


練習 36


1. 牝獅子は、いつでも 1 頭を産む [1 頭しか産まない] ことについて狐から非難されて、言った:「(たしかに) 1 頭だ、だが獅子 (の仔) だ」。〔τῷ は名詞扱いの不定詞 τίκτειν にかかっており、この不定詞が与格扱いで ἐπί の目的語であることを明示している。アイソーポス (イソップ) の寓話のひとつで、数よりも質という寓意。私は以前に「谷口訳『中世アルメニア寓話集』「雌獅子と狐」の誤訳」という記事で、同じ寓話の中世アルメニア語版を読んで検討したことがある。寓話じたいはたいへん短いもので、記事の最後に翻訳のまとめがあるので、アルメニア語に関心のないかたは途中は飛ばしてご覧になるとよい。〕

2. 軍勢はアウリス (港) に集まっていた。船はぜんぶで 1013 隻、指揮官は 43 人 (だった)。

3. 私、カッリクラテイアは 29 人の子どもを産んで/1 人の息子も 1 人の娘も死を見なかった/105 年 (もの歳) を過ごしても/杖に震える手を載せることはなかった。〔ἐδρακόμην, διηνυσάμην の 1 単より主語はあくまで「私は」で、Καλλικράτεια はそれに同格の名前。τεκοῦσα は τίκτω の、ἐπιθεῖσα は ἐπιτίθημι のアオ能分・女単主。〕

4. 起こることはこんなふうであった。おのおのが陶片をとり、市民たちのうちで追放したいと思うところの者 (の名前) を書いて、アゴラーの 1 つの場所へもっていった。指導者たちがまず陶片の総数を数えあげていった。というのはもし書いた者たちが 6 千よりも少なかったとしたら、追放は無効だったからである。それから彼らは (書かれた) 名前のうちの各々を別々に置いて、最大多数によって (名前を) 書かれた者に対し 10 年にわたる追放を宣言したものだった。
 さて陶片が書かれていた当時、文盲でありまったくの田舎に住んでいたうちのある者が、アリステイデース (の名前) を書きいれるために、偶然行きあった者の 1 人としてアリステイデースに陶片を渡して、手助けを求めたと言われている。そこで彼 (=アリステイデース) は驚いて、彼に対してなにか悪いことをアリステイデースはしてしまったのかと尋ねると、「なにも」と彼は言った、「それに俺はその人を知ってもいない。だがそこらじゅうでその『正義の人 (=アリステイデース)』の話を聞くのでうんざりしている」。これを聞いたアリステイデースはなにも言いかえさず、(自分の) 名前を陶片に書きいれて返してやった。
〔λαβών, γράψᾱς アオ能分・男単主。μεταστῆσαι 不 1 アオ能。διηρίθμουν 直未完能 3 複。これらの未完了過去はすべて過去の習慣を表す。ἑξακισχῑλίων は比較の属格。εἶεν は希現 3 複で、過去の一般的な仮定 (§124.2)。ἰδίᾳ はここでは副詞として「別々に」の意。θέντες は τίθημι のアオ能分・男複主で、省略されている主語は οἱ ἄρχοντες である。
 段落変わって冒頭は独立属格句。λέγεται に続く部分は間接話法になっており、τινα が対格主語で、ἀναδόντα アオ能分・男単対により付帯状況を示したあと、不定法 παρακαλεῖν が引用内容の動詞である。ὡς の次の ἑνί は τῷ Ἀριστείδῃ に同格の与格。ἐγγράψειε 希アオ能 3 単は過去の目的節のため希求法。次の文は δέ で主語が変わって τοῦ はアリステイデスを表し、2 つの分詞が並ぶ独立属格句。πυθομένου アオ中分・男単属。πεποίηκεν 直完能 3 単。最終行 τὸ ὄνομα は定冠詞だけで主語自身の所有を表す (§19.2)。〕

samedi 16 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (8)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 29 課から第 32 課までを扱う。



第 29 課 希求法中・受動相現在,希求法中動相アオリスト・未来


練習 29


1. 君の言葉には従えない。

2. 君は星々を眺めている、わがアステールよ。私は天に/なれたらいいのに。多くの目で君を見られるように。〔γενοίμην は γίγνομαι の希アオ中 1 単。πολλοῖς ὄμμασιν は手段の与格。βλέπω は直現と同形だが接現 1 単ととり、ὡς の導く目的文。〕

3. その場所にキューロスは王宮と、野生の獣に満ちた大きな猟園をもっていた。それらを彼 (=キューロス) は、自分自身と馬たちとを鍛えたいときにはいつも、馬から [馬に乗って] 狩っていたものだった。〔Κῡ́ρῳ は所有の与格。γυμνάσαι は不アオ能。βούλοιτο は βούλομαι の希現中 3 単で、過去の一般的な仮定の文に準ずる (§§124.2, 125)。ちなみに「その場所」とはプリュギアのケライナイという大きな町。〕

4. ペルシア人たちの国勢 [厄介さ] の増大は、クロイソスをして悲嘆を止めさせ、(次のような) 考えへと立ち至らせた:いかにしてペルシア人たちが強大になるまえに、彼らの力が増大することを抑止できるかと。〔πρᾱ́γματα には「面倒、迷惑」といった意味もありそのように訳すこともできる。現在中動分詞・中複主 αὐξανόμενα は述語位置なので状況説明的で、構文を直訳するなら「ペルシア人たちの面倒さは、それが増大しつつあることで、悲嘆を止めさせた」。なおクロイソスの「悲嘆」とは当時彼が息子を失って喪に服していたことを指す。δύναιτο は δύναμαι の希現中 3 単で、主文が過去のため間接話法の希求法 (§127.2)。πρίν が (対格主語と) 不定詞をとることは前課で見たとおりで (§150.1)、γενέσθαι は γίγνομαι の不アオ中。καταλαβεῖν は καταλαμβάνω の不アオ能で、「やめる」系の動詞なので (対格主語と) 分詞をとっている (§110.1)。〕

5. ソークラテース:不正を働くことは悪いことのなかでも最大のものにあたる。ポーロス:本当にそれが最大ですか。不正を受けることのほうがより大きいのではないですか。ソ:まったくそうではない。ポ:とすればあなたは不正を働くことよりもむしろ受けるほうを望むというのですか。ソ:私はといえばどちらも望みたくはないが。もし不正を働くことか受けることか (の二者択一) が不可避となれば、不正を働くよりは受けることをむしろ選ぶだろう。〔1 行めは τυγχάνω なので分詞を要求しているが (中性名詞扱いの不定詞に一致した中単主 ὄν)、τυγχάνει ὂν (英 happens to be) をただの ἐστὶ (is) に置きかえてみれば簡単。2 行め ἀδικεῖσθαι は不現受。4–5 行め βούλοιο/βουλοίμην ἄν は可能性の希求法 (§121.2)。5–6 行め εἰ ... εἴη ..., ἑλοίμην ἄν は実現の可能性の少ない未来の仮定 (§124.1)。〕


第 30 課 受動相アオリストおよび未来,行為者を表す ὑπό+属格,手段・方法の与格


練習 30


1. ソーソスとソーソーが、救い主よ、汝にこをば奉献せり;ソーソスは救われたるがゆえに、ソーソーはソーソスの救われたるがゆえに。〔ἀνέθηκαν は注のとおり ἀνέθεσαν の別形で、これは ἀνατίθημι の直アオ能 3 複。σωθείς はアオ受分・男単主、ἐσώθη は直アオ受 3 単。ὅτι はここでは理由を表す接続詞で、これと μὲν ..., δ’ で結ばれ対比されているので前半の分詞節も理由ととる。〕

2. もし私が死の影の只中を歩むとしても、災いを恐れはしないだろう。あなたが私とともにいる [行く] のだから。〔πορευθῶ は接アオ受 1 単、φοβηθήσομαι は直未受 1 単で、実現可能な未来の仮定 (§116.1)。εἶ は直現 2 単で εἰμί と εἶμι が同形なのでどちらともとれる。〕

3. こうして彼 (=キューロス) は危難に遭い侮辱されたのち去ったので、もはや決して兄の掌中にはおるまいと、いやもしできることなら彼 (=兄) にかわって王位に就こうと考えはじめる。〔ἀπῆλθε 直アオ能 3 単。κινδῡνεύσᾱς アオ能分・男単主。ἀτῑμασθείς アオ受分・男単主。βουλεύεται 直現中 3 単はこれまでと同様に歴史的現在で過去の意味だが、配慮・努力を表す動詞なので ὅπως 節の ἔσται, βασιλεύσει は直説法未来となっている (§144)。ἤν は ἐᾱ́ν の別形。δύνηται 接現中 3 単。〕

4. なんとなれば、歴史からもし誰かが「何のゆえに」や「いかにして」や「何のためにそのなされたことはなされたのか」、そして「結果は合理的であったか否か」(といった疑問) を取り去ったならば、残されるのはそれ (=歴史) の作品コンクールであって、学問ではない。それは直近には楽しませるにしても、未来に対してはまったくなんらの益もない。〔ἱστορίᾱς は分離の属格 (練習 16.5 の注)。ἀφέλῃ は ἀφαιρέω の接アオ能 3 単で、現在の一般的な仮定 (§116.2)。διὰ τί と τίνος χάριν は訳しわけにくいが、前者は原因、後者は目的や動機のことらしい。ἐπρᾱ́χθη は直アオ受 3 単、πρᾱχθέν はアオ受分・中単主。ἔσχε は ἔχω の直アオ能 3 単で、ここでは「〜である」の意。〕

5. オルペウスの妻エウリュディケーは、蛇に咬まれたことで死んだ。そこでオルペウスは冥府へ下っていき、彼女を送りかえすようプルートーンを説得した。すると彼 (=プルートーン) は、オルペウスが行く途中で家に到着するまで振り向かなかったならばそうすると約束した。だが彼 (=オルペウス) は従わず振り向いて妻を見てしまい、彼女はふたたび冥府へと連れ去られた。〔δηχθεῖσα は δάκνω のアオ受分・女単主。κατελθών は κατέρχομαι のアオ能分・男単主。ὑπέσχετο 直アオ中 3 単。ποιήσειν 不未能。ἐπιστραφῇ 接アオ受 3 単。ἐπιστραφείς アオ受分・男単主。ἐθεᾱ́σατο 直アオ中 3 単。〕


第 31 課 能動相完了・過去完了・未来完了


練習 31


1. 詩人たちのうちのある者たちは、いかに生きるべきかという忠言を残してある。〔καταλελοίπᾱσιν は καταλείπω の直完能 3 複。〕

2. そして諸君らが私に有罪投票をしたという、この事象が起きてあるのは私にとって意外ではない。〔主語は τὸ γεγονὸς τοῦτο「起きてあるこのこと」(上では事象と訳した)、動詞は直完能 3 単 γέγονεν であり、形容詞 (οὐκ) ἀνέλπιστον は述語的に働いている:「予期に反してではないものとして起きてある=起きたのは意外ではない」。対応箇所は岩波文庫版 (久保訳) では 25 章 (57 頁)。〕

3. ソークラテースは夜明けになりはじめ太陽が昇るまで立っていた。それから太陽に祈りを捧げて立ち去った。〔εἱστήκει は ἵστημι の直過完能 3 単。ἕως はここでは名詞「夜明け、暁」。ἀνέσχεν は ἀνέχω の直アオ能 3 単。ᾤχετ’ は οἴχομαι の直未完中 3 単。ἀπιών は ἄπειμι の現能分・男単主。〕

4. われわれは神々 (へ) の誓いを堅持しているが、敵どもは偽誓をし、誓いに反して休戦条約を破ってある。

5. しかるに私が恐れてあるのは、もしひとたびわれわれが怠惰に生きることや豊富なもののなかで暮らすこと、メーディアー人やペルシア人たちの美しく背の高い女たち・乙女たちとつきあうことを覚えてしまったならば、あたかもロートパゴイのごとく、家に帰る道を忘れてしまうのではないかということである。〔δέδοικα 直完能 1 単。῎ᾱν は ἐᾱ́ν の別形、μάθωμεν は μανθάνω の接アオ能 1 複で、ここは実現可能な未来の仮定の前文 (§116.1)。ᾱ̓ργοί は隠れた主語「私たち」に同格の男複主。ἐπιλαθώμεθα は接アオ中 1 複で、これが条件文の後文なのに接続法なのは、危惧・恐怖を表す主文に従っている未来の懸念の内容であるから (§139.2)。〕

6. 誰でも噂好きの者は、友人に出くわすようなことがあると、すぐさま微笑んで尋ねる:「どこから来たんだい、調子はどうだい、このことについてなにか新しい話があるかい」と。そして答える隙も与えずに言う:「なんだって、なにも聞いていないのか。(では) 僕が君を新しい噂で楽しませてあげるのがいいだろうね」。〔ἐρωτῆσαι 不アオ能。πῶς ἔχεις ; は元気かどうか調子を尋ねる挨拶。その次の ἔχεις は不定詞とともに「〜できる」の意 (εἰπεῖν は λέγω の不アオ能)。ἐᾱ́σᾱς アオ能分・男単主。ἀποκρῑ́νασθαι 不アオ中。ἀκήκοας 直完能 2 単。〕


第 32 課 中・受動相完了・過去完了・未来完了,行為者の与格


練習 32


1. われわれは休戦条約によって解放された。

2. 敵どもはすでに破られて [敗北して] あった。〔直過完中 3 複。〕

3. 戦闘は (すでに) 終わってあると彼は言う。〔直完中 3 単。〕

4. もはや考えている (べき) 時ではなく、考えを済ませてある (べき時である)。なにせ今夜のうちにはそれらいっさいがなされておかれねばならないのだ。〔βουλεύεσθαι 不現中。βεβουλεῦσθαι 不完中。πεπρᾶχθαι は πρᾱ́ττω の不完受。〕

5. アテーナイ人トゥーキューディデースは、ペロポンネーソス人たちとアテーナイ人たちとが互いに戦った戦争を記述した。(この戦争が) 立ちあがるなりただちに (記述を) 始め、(それ=この戦争が) 重大であり、以前に起こってあるものよりもいっそう記録に値するものとなるであろうことを予期したのである。〔2 つの分詞 ἀρξάμενος と ἐλπίσᾱς は男単主で、主文の主語 Θ. の行動を補足説明している。前者は ἄρχω の現中分で中動なので「始める」の意で、注のとおりアオリスト不定詞 τοῦ ξυγγράψαι を補う (ἄρχομαι は属格目的語をとる。定冠詞 τοῦ を要するのは、これが主文で言われたその当の記述行為を指していることを明示:「Θ. は……戦争を記述した、(この記述を) 始めたのは開戦と同時で〜」という感じ)。次の分詞 καθισταμένου は καθίστημι の現中分・男単属であり、この次に τοῦ πολέμου を補えという注があるが、これらが独立属格句になっている:「戦争が起こると同時に」。ἐλπίσᾱς の目的語も τὸν πόλεμον が省略されている、というのは μέγαν が男性単数対格なのでわかるのである。ἔσεσθαι 不未中。προγεγενημένων は προγίγνομαι の完中分・男複属で、言うまでもなく πολέμων が省略されており、これは比較の対象の属格。〕

6. ソークラテースは、アルキビアデースが富に理性を曇らされ、(財産の) 潤沢さならびにわけても (広大な) 農地によって思いあがっているのを見て、世界地図のある平板が掲示されていたポリスのとある場所へと彼を連れていき、アルキビアデースにそこでアッティカ地方を探しだすよう指示した。彼が見つけると、(ソークラテースは) 彼に自分の農地を精査するよう指示した。(アルキビアデースが)「いや、どこにも書かれていない」と言うと、(ソークラテースは) 言った:「すると君は、地のうちの無 (に等しい) 部分であるものに (恃んで) 思いあがっているのか」。〔μέγα φρονεῖν で「思いあがる」の意。ἤγαγεν は ἄγω の直アオ能 3 単。ἀνέκειτο は ἀνάκειμαι の直未完中 3 単。εὗρε は εὑρίσκω の直アオ能 3 単。διαθρῆσαι 不アオ能。τοῦ (δὲ) εἰπόντος は独立属格で、δέ で主語が交代するのでアルキビアデスを指す。γεγραμμένοι εἰσίν 直完受 3 複。指示代名詞 τούτοις は関係節 οἵπερ 以下を先取りしたもの。〕

jeudi 14 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (7)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 25 課から第 28 課までを扱う。



第 25 課 直説法中・受動相現在,直説法中動相未来,能動相欠如動詞,危惧・恐怖を表す文


練習 25


1. 時間によってすべてのことは判定される。

2. 私はつねに多くを学びながら老いていく。〔διδασκόμενος は現在中動分詞で、再帰的「自分に教える=学ぶ」。このソロンの言葉はキケロ『老年について』にも繰りかえされている。〕

3. 彼らは自分たち自身が同じことを受けはしないかと恐れた。〔πάθοιεν は πάσχω の希求法アオリスト 3 複。出典がなく詳細不明だが、田中・松平『ギリシア語入門』XLIII 課の和訳 5 にほぼ同文があり、そちらの暗示するところ「同じこと」とは彼らがある人たちを追放したことを指すのかもしれない。〕

4. なぜなら青春は速やかに夢のように君を通り越していくのだから。

5. 彼らは案内人が (彼らを) そこから出ることができなくなるようなところへ連れていくのではないかと恐れている。〔ἀγάγῃ は ἄγω の接続法アオリスト 3 単。ἔσται はここでは不定詞を伴って (不) 可能の意 (§52.4) で、ἐξελθεῖν は ἐξέρχομαι の不定法アオリスト。なぜか出典がついていないが、クセノポン『アナバシス』1.3.17 の改変だと思われる:「またキュロスのくれる案内人についてゆくのも恐ろしい、逃げ場のない場所へ連れてゆかれるかも知れぬからな」(松平千秋訳)。〕

6. 立法者は法律を作るが、民衆は法律を自分たちのために作る。

7. 異国の人よ、ラケダイモーン人たちに伝えてくれ。ここに/われらは眠る、彼らの言葉 [命令] に従いて。〔πειθόμενοι は主語「私たち」に一致した男性複数主格の現在中動分詞。〕

8. ある農夫が、その生を終えるにあたって、子どもたちが農業を経験していてほしいと思って、彼らを呼んで言った:「子どもたちよ、ぶどう畑には宝が隠されている」と。すると彼らは父の死後、鍬をとってぶどう畑の土をぜんぶ掘りかえした。そして宝は見つからなかったが、ぶどう畑のほうは、彼らがみごとに掘ったので、収穫をたくさん返した。この話が示すのは、苦労が人間にとって宝だということである。〔最初の文は 3 つの分詞を父の行動として順番に訳すとよい。父のセリフのあとの οἱ δὲ は主語の転換を示す (練習 14.10 の注)。λαβόντες は λαμβάνω の第 2 アオリスト分詞・男複主。εὗρον は εὑρίσκω の第 2 アオリスト 3 複。σκαψάντων は σκάπτω のアオリスト分詞・男複属で、ここは独立属格句になっている。ἀπέδωκεν は ἀποδίδωμι の第 2 アオリスト 3 単。ちなみに、この (ἀπ)έδωκα, -κας, -κε(ν) という形をこの本は第 2 アオリストと称しているけれども (§90)、田中・松平 (§600 ニ) は第 1 アオリストとして扱っているし、田中新 (§§293ff.) はその特例としてカッパつきアオリストと名づけている。また複数の ἔδομεν, ἔδοτε, ἔδοσαν の部分は田中新や堀川では第 3 アオリストと呼ばれる。このように一定しないのはそれだけ特殊で重要な変化だというわけで気をつける必要がある。〕


第 26 課 直説法中・受動相未完了過去,直説法中動相第 2 アオリスト,再帰代名詞,所有形容詞,配慮・努力を表す文


練習 26


1. 徳はそれ自身に従って (=それ自体で) 美しい。

2. 私はみじめに死んだ (も同然だ)。私はもう何物でもない。〔発言者はエレクトラ (δύστηνος は男女同形でありここでは女性単数主格)。父のための復讐において頼るべきただ 1 人の弟オレステスが事故死したと聞かされ嘆いているところ。〕

3. 君たちが自由にふさわしい男たちになるようによく考えたまえ。

4. アテーナイ人たちが向かっていくとシュラークーサイ人たちは退却していたが、(前者が) 退くと (後者は) 追撃したものだった。〔過去の一般的な仮定 (§124.2)。〕

5. 母は父よりもいっそうわが子を愛するものだ。なぜなら (母) は (息子が) 自分じしんの (生んだ子) であると知っているのに対して、(父) は (自分の子だろうと) 考える (しかない) からである。〔補うべき言葉が多く非常に難しい問題! 第 2 文は ἡ μὲν と ὁ δ’ で冠詞の性別から母と父が対比されている主語とわかる。文は分詞を用いた間接話法になっており、その引用内容は αὑτῆς ὄνθ’ というたった 2 語であるが、これで「息子が彼女じしんの (生んだ) ものである」ということ。ὄνθ’ は ὄντα が省音され後続の ὁ によって帯気音となっている、これが男性単数対格なので息子と確定する。したがって後半で省略されている父の考える内容は (対格主語も補えば) αὑτοῦ ὄντα τὸν παῖδα と復元できる。母にとって自分がお腹を痛めて生んだ子は間違いなく実の子だが、父にとっては決して推測以上には出ない、これを進化心理学では「父性の不確実性」と言っているのだが、その最古の定式化がこのメナンドロスであるかもしれない。〕

6. インド人たちは入ってくるとこう言った。インド人たちの王は、いったいなんの (理由) から戦争が (起こって) いるのかと尋ねるよう (自分たちに) 命じて、自分たちを派遣したのだと。〔主文の伝達動詞 ἔλεξαν がアオリストのため、引用内容の主文の動詞 πέμψειε は §127.2 に従って、また副文の動詞 εἴη は §128.2 に従って希求法とされている。ὅτου は不定関係代名詞・中性単数属格で οὗτινος の別形。〕

7. しかし彼らは、正しくかつ立派に熟慮しながら、名誉と尊敬とのために恐ろしいことごとに自身を与えることを欲していた。というのは、たとえ誰かが小部屋に自身を閉じこめて警戒していたとしても、たしかにあらゆる人間にとって生の終わりは死なのである。よき人々はつねにあらゆる立派なことごとを試みねばならぬ、またよき希望を全面に押し出して、神が与えることはなんであれ勇ましく耐えねばならぬ。


第 27 課 直説法中動相アオリスト,事実に反する仮定の条件文,過去の可能性を表す文


練習 27


1. もしあなたが若いうちに結婚していたら、あなたはすでにおじいさんになっていただろうに。〔過去の事実に反する仮定。ἔγημας は γαμέω の直説法アオリスト 2 単、ἦσθα は未完了 2 単 (εἰμί にアオリストはないので)。〕

2. どうしてその場におらず自国にとどまってもいなかった私が、君になんの害をなせるだろうか。〔παρών は πάρειμι の現在分詞。現在という時制だが、過去における現在なので日本語は「いなかった」と訳せる。ἠδίκησα は ἀδικέω のアオリスト 1 単。〕

3. 私たちは君たちのために笛を吹いたのに、君たちは踊らなかった。私たちは挽歌を歌ったのに、君たちは泣かなかった。

4. すなわち驚くことを通して人間はいまも最初も哲学することを始めたのである。〔ἤρξαντο は ἄρχω のアオリスト中動態 3 複で、中動では「始める」の意味がある。〕

5. 彼は (ティッサペルネースの讒言を) 信じて、キューロスを殺そうとして捕らえる。だが母が (キューロスの身柄を) 引き受けて彼をふたたびその領地に送りかえす。〔注のとおり練習 24.10 の続きであり、そちらと同様 πείθεται, συλλαμβάνει, ἀποπέμπει と続く現在はいずれも歴史的現在で過去の意味。πείθεται の中・受動は「従う」でもいいが、すなおに「説得されて、信じて」とも解せる。ἀποκτενῶν は目的を表す未来分詞 (§§101.6, 102) であり、ὡς は主語アルタクセルクセスの意図として「殺そうということで、殺す目的で」ということ (練習 21.5 の注を参照)。〕

6. もし人々の祈りに神が従う [聞き入れる] のであれば、すべての人間はひっきりなしに互いに対して多く困難なことを祈っているのだから、いっそう速やかに滅びるであろうに。〔κατηκολούθει と ἀπώλλυντο はいずれも直説法未完了中動態で、現在の事実に反する仮定の文。現在中動分詞 εὐχόμενοι をここでは理由として訳したが、いろいろとりようはある。〕

7. 諸法は言うかもしれない、「ソークラテースよ、私たちには大きな証拠があるのだ、私たちも国家もあなたの気に入っていたということの。なんとなれば、もし (国家すなわちアテーナイが) とくにあなたの気に入っていなかったなら、いったいあなたはほかのアテーナイ人たち全員とは異なってそれ (=国家) のうちにとどまっていなかっただろうから。」〔冒頭は可能性の希求法 (§121.2)。発言の最初の ἡμῖν ... ἐστιν は所有の表現。ここでは構文をとりやすいよう直訳を与えたが、動詞 ἀρέσκω「気に入る」の訳しかたはむしろ与格の σοι を主語「あなたが」、主格で表される気に入られるものを「〜を」としたほうが日本語として自然だろう。最後の文は ἐπεδήμεις, ἤρεσκεν ともに直説法未完了で、現在または過去の事実に反する仮定だが、前文の「気に入っていた」は明確に過去であるから、こちらも過去の仮定ととるのが道理。また条件文はどの型でも一般に前文の否定は μή, 後文の否定は οὐ ということもあわせて思い起こしたい (§116)。対応箇所は岩波文庫版 (久保訳) では 14 章 (96 頁)。〕


第 28 課 接続法中・受動相現在,接続法中動相アオリスト,ἕως, πρίν の用法


練習 28


1. もし君が欲するならばできるだろう。〔βούλῃ は βούλομαι の接現中 2 単、δυνήσῃ は δύναμαι の直未中 2 単で、実現可能な未来の仮定。〕

2. そして暗闇が生じるまで (=暗くなるまで) 彼らはそうしていた。〔松平千秋訳「そうこうしている内に、漸く夜に入った」のように、ギリシア語の語順のとおりに訳すほうができごとの順番とも一致して望ましいかもしれない。〕

3. 幸運であると思われる者を妬むな、(その人が) 死ぬのを見るまでは。〔現在能動分詞の名詞的用法 τὸν ... δοκοῦντα が目的語。θανόντ’ は θνῄσκω のアオ分・男単対、ἴδῃς は ὁράω の接アオ能 2 単。幸福かどうかは全生涯が終わってみるまで決まらないという同様の考えは、このエウリピデスのほかにもしばしば見いだされる:「人の一生は、その人が死ぬまでは、よかったか悪かったか言うことはできないのですよね」(ソポクレス『トラキニアイ』1)、「望ましい幸運に恵まれて一生を終えた者をこそ、幸福な人間と呼ぶべきであろう」(アイスキュロス『アガメムノン』928)、「人間死ぬまでは、幸運な人とは呼んでも幸福な人と申すのは差控えねばなりません」(ヘロドトス『歴史』1.32、松平千秋訳) など。柳沼重剛編『ギリシア・ローマ名言集』31–32 頁を参照。〕

4. まことに、ふさわしい分別をもたぬ悪い人間に富が伴うときはいつだって、飽満が傲慢を生みだすものである。〔κακῷ ... ἀνθρώπῳ と ὅτῳ とは καί で結ばれているが、2 種類の人間を並べたのではなくむしろ 1 つのものを表す二詞一意 (hendiadys) のように私は理解した (べつに 2 人でも文法上なんら問題ないが、「悪い人間」を独立に立てると漠然としすぎるので、それを明確化した表現ととるほうが自然に流れると思う)。ὅτῳ は関係節内では所有の与格として働いているが、外側でも ἕπηται の目的語の与格であって先行詞 τούτῳ が省略されている。〕

5. そして私は生きていてできるかぎりのあいだ止めはすまい、知を愛することを、また諸君らを督励し、諸君らのうち私が出くわした者にはいつだって誰にでもあれ宣言することを、私が (言うのを) 習慣にしてある次のようなことを言いつづけることを:「おお人々のうちもっとも優れたる者よ、知と力とにおいてもっとも大にしてもっとも高名なる国家の、アテーナイ人たる者よ、君は金銭を、また名声と尊敬とを、それが君になるべく多くあるようにと注意していることを恥じないが、思慮と真実と魂とを、それがなるべく良くあるようにとは注意も熟慮もしないのか」。〔ἕωσπερ は ἕως に強調の前接辞 περ がついたもの。παύσωμαι 接アオ中 1 単 < παύομαι「やめる」は補語に分詞をとる (§110.1)。そのやめる内容の分詞が φιλοσοφῶν, παρακελευόμενός τε καὶ ἐνδεικνύμενος, ならびに λέγων まで続いている。不定関係代名詞 ὅτῳ の与格はべつに牽引ではなく ἐντυγχάνω が与格目的語をとるからであるが、関係節の外で ἐνδείκνῡμι の示す相手の与格 (先行詞 τούτῳ 省略) もついでに兼ねているか。セリフに入って、長い 1 文だが大枠は (1) 呼びかけ、(2) 主文の前半部 χρημάτων μὲν ..., (3) 後半部 φρονήσεως δὲ ... に分けられ、対比の μὲν ..., δὲ ... に着目することでそれぞれの直前の語が分かれ目だという骨格がわかる。ちなみに A, B, and C のように 3 つ以上を並べるときギリシア語では A καὶ B καὶ C とかならず καί を繰りかえす (もしくは 1 つも使わない)、そのことからも φρονήσεως の前で切れることは判断できるのである。これらの属格は ἐπιμελέομαι が属格目的語をとるから。前後半それぞれにおいて ὅπως と直説法未来 ἔσται で目的が示されているが、ここに主語を補うとすれば前半は χρήματα なので πλεῖστα はそれに一致した中性複数主格で動詞は単数扱い (おそらくここの性数を混乱させないために、残り 2 つの目的語 καὶ δόξης καὶ τῑμῆς を後回しにしている)、後半は φρόνησις その他の女性名詞が続くのでそのひとつひとつが βελτίστη ἔσται と言ったものか。対応箇所は岩波文庫版 (久保訳) では 17 章のなかば (43–44 頁)。〕

mardi 12 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (6)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 21 課から第 24 課までを扱う。



第 21 課 ω 動詞の能動相アオリストの分詞,μι 動詞の能動相現在および第 2 アオリストの分詞,分詞の用法(つづき)


練習 21


1. 人は死すべきものであると私は知っている。

2. だがもしぶどう酒がもはやないならばキュプリス (=アプロディーテー) はいない。〔独立属格。〕

3. そのとき彼はほかの誰にも知られずに涙を流していた。〔λείβων が男性単数なので主語は「彼」。〕

4. 多くない (=小勢の) ラケダイモーン人たちの軍勢がちょうどイストモス (=コリントス地峡) まで進出していた。〔οὐ πολλή は緩叙法「多くない=少数の」で、女性単数なので στρατιᾱ́ を修飾している。細かいことだが「ラケダイモンの」Λακεδαίμονος ではなく「ラケダイモン人たちの」Λακεδαιμονίων であることにも注意 (わかったうえで省略するのは構わない)。〕

5. 彼らは自分たちを戦うように説き伏せたとしてペリクレースを責めていた。〔ἐν αἰτίᾳ ἔχειν「責める」。πείσαντα の男性単数対格は τὸν Περικλέᾱ に一致している。これは πείθω のアオリスト能動分詞。σφᾶς は間接再帰で主文の主語 (責めている人たち=ペリクレスに説得された人たち) を指している。間接再帰というのは少しわかりにくい用語だが、いまこの代名詞の含まれる分詞句 ὡς πείσαντα ... の主語はペリクレスであるから、主語じしんへのふつうの再帰的指示とは違うのである。すなわちもし「ペリクレスが自分 (彼じしん) を納得させた」という場合ならこれを直接再帰と呼ぶのに対して、その枠を越えた外側の主語に返っているから間接再帰と称する。〕

6. 神が与えるならば、嫉妬はなんら力をもたない。(神が) 与えないならば、苦労はなんら力をもたない。〔θεοῦ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει φθόνος, καὶ μὴ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει πόνος. のようにコンマを足したほうがわかりやすい。すなわち οὐδέν は διδόντος の目的語ではない。なぜそれがわかるかというと、前半と後半で διδόντος と μὴ διδόντος が対比されているわけだが、後者で分詞句の目的語たるには否定辞 μή にあわせて μηδέν でないといけないから、翻って前者でも同じ構造と判断できる。ἰσχῡ́ω は「力が」というより「価値・意味がある (ない)」としたほうが通りよいかもしれない。これは自動詞なので、 οὐδέν は目的語ではなく限定の対格「いかなる点でも〜ない」ととる。与える目的語は漠然と「恵み、恩寵」などと考えればよいか。神の助けなくしては何事も達成されないのだから人間の働きだけでは無意味ということ。〕

7. ホメーロスという後世の記憶への伝達者を得ていたことで、アキッレウスは幸福であったとアレクサンドロスは考えた。〔Ὁμήρου と κήρῡκος は同格の説明。「ホメーロスが伝達者だったので」という独立属格ではなく (そうだとしたら ὄντος が必要)、たんに ἔτυχε の属格目的語。〕

8. 多くの者が戦争において仲間や家族を助けたことで傷を負って死んだのに対して、(助ける) べきだったのに助けなかった者たちは健康 [無傷] で帰ったのか。〔δέον は直前の動詞 βοηθεῖν の繰りかえしを避けたものと解した。ὑγιεῖς は主語に一致した男性複数主格で、副詞的に訳す。〕

9. キオス人たちとほかの同盟者たちはラケダイモーンへと使節を送った。それらのことを伝えてリューサンドロスを船団の上に (=指揮者に) 要請するために。〔ἐροῦντας と αἰτήσοντας が目的を表す未来能動分詞・男性複数対格 (前者は形の上では現在分詞だが、λέγω を基準とみなせば未来分詞に相当する)。〕

10. ゼウスとアポッローンは弓術について争っていた。アポッローンが弓を張り矢を放つと、ゼウスはアポッローンが射たのと同じほど (の距離) を一跨ぎした。〔τόξον, ου, τό「弓」が語彙集から漏れているようである。ἀφέντος は ἀφίημι の 2 アオ能分・男性単数属格。〕


第 22 課 接続法能動相現在およびアオリスト,主文における接続法の用法,接続法を用いた条件文


練習 22


1. 私に反対するな。

2. その男が逃げるのを放っておくまい。

3. 犬どもは知らない人々を見れば吠えかかる。〔ὧν は牽引を受けており、論理的には省略されている先行詞が属格 τούτων となるべきところ。またこの〈関係代名詞 + ἄν + 接続法〉は条件文の代わりをしているので (§117)、たんに「知らない人に」よりは「知らない人がいれば、いようものなら」などと訳すほうがニュアンスが伝わる。〕

4. 食べよう、飲もう。明日には私たちは死ぬのだから。〔前半は勧奨の接続法。出典はパウロと書かれているが、パウロがこうした刹那主義的な主張をしているのではなく悪い例として彼は挙げているのである。〕

5. 馬鹿は笑うべきでないときでさえ笑う。

6. もし君が彼に金銭を与え彼を説得するならば、彼は君をも賢くするだろう。〔この話し手はソクラテスであり、相手である君とはヒポクラテスという名の青年 (著名な医学の祖とは別人)、そして彼とはプロタゴラス。青年はプロタゴラスに報酬を支払うので自分を賢くしてくれと依頼したところ断られて、ソクラテスに助けを求めにきている。〕

7. 不運について誰をも非難するな。なんとなれば運命とは (誰にでも) 共通であり未来は目に見えないのだから。

8. バラの盛りは短い。(ひとたび盛りが) 過ぎ去ったならば、求めたところで見つかるのはバラではなく茨であろう。〔βαιὸν χρόνον は期間の対格。ἤν は ἐᾱ́ν の別形。ζητῶν は ζητέω の現在能動分詞で、主語である「君」に一致した男性単数主格であり譲歩を表す:「探し求めるとしても」。εὑρήσεις は εὑρίσκω の直説法未来 2 単。〕

9. すべての (男) が結婚において不運なわけでもなく、(すべての男が) 幸運なわけでもない。だが悪い妻を得たならば不運である。よい (妻) を得れば幸運であるが。〔かなり難しい問題! 7. で名詞の τύχη「偶然、運命」を出した直後にひっかけてきているが、今度の τύχῃ, τυχών は名詞ではなく動詞 τυγχάνω (ここでは「属格のものを得る」の意) の、それぞれ接続法能動アオリスト 3 単とアオリスト能動分詞・男単主である。前者は名詞の単数与格とまったく同形。しかし後者は複数属格だとするとアクセントが τυχῶν にならねばならないので、そこでおかしいと気づく必要がある。〕

10. 儚き者たちよ! ある者が何であるか、また何でないか。影の (見る) 夢なのだ、人間とは。だが光輝が天与のものとして到来するとき、輝ける光と平穏なる生涯とが人々の上にある。〔冒頭の ἐπᾱ́μεροι は男性複数呼格ととる。ἔλθῃ は ἔρχομαι の接続法アオリスト 3 単。〕


第 23 課 希求法能動相現在・未来・アオリスト,主文における希求法の用法,目的文


練習 23


1. 君が幸福であるように。

2. キューロスが生きていればなあ。

3. あの手紙を送らなかったらなあ。〔前問の注を見よ。〕

4. 不正な者たちは罰せられないように逃げた。

5. おお不幸な人よ、あなたは (自分が) 誰であるか決して知ることのないように。〔出典が『オイディプス王』ということで察せられると思うが、発言者は妃イオカステで、あなた=オイディプスがみずからの父を殺し母と交わったのだという真相を知るべきでないということ。〕

6. いったい誰であれいかにして小さな労苦で大きなものを得られようか。〔σμῑκροῖς πόνοις は手段の与格。ἕλοι は αἱρέω の希求法アオリスト 3 単。可能性の希求法。〕

7. それに私はわざと君を起こそうとしなかったのだ。君がなるだけ心地よく過ごせるように。〔死刑執行を目前にしたソクラテスを訪ねてきた友人クリトンが、牢屋で熟睡している彼を見て驚いたところ。ἤγειρον は ἐγείρω の未完了過去で、ここでは「〜しようとした」という用法 (§40)。目的文の ὡς が導入されたばかりだが、最上級を伴う「できるだけ〜」という意味も忘れずに。〕

8. もし君の召使たちのうちの誰かが病気であれば、君は (その人が) 死なないように医者たちを呼ぶだろうか。

9. どこかでヘーラクレイトスは言っている。万物は行き何物もとどまるものはないと。そして彼は在るものを川の流れになぞらえて言う、君は二度同じ川に踏み入ることはできないと。〔2 つめの καί のまえでいったん文が切れる。ἀπεικάζων は主語に一致した状況説明の分詞。ὡς はここでは ὅτι と同じ。〕

10. 僕は鏡でありたい/いつも君が僕を見てくれるように/僕は肌着になりたい/いつも君が僕を着てくれるように/僕は水になりたい/そうして君の肌を洗おう/妻よ、僕は香油になりたい/そうして僕が君を塗りつくそう。〔鏡だけで終わればよかったのに、ずいぶんと変態じみている。λούσω と ἀλείψω は直説法未来 1 単と同形だが接続法アオリスト 1 単ととるべき、しかし訳しかたはあまり変わらない。γύναι は γυνή の呼格。〕


第 24 課 希求法を用いた条件文,ὅτι, ὡς によって導入される間接話法,話法転換時の動詞の法の変化,間接疑問


練習 24


1. 彼は私を見るといつも逃げていた。〔ἴδοι は ὁράω の希求法アオリスト 3 単。〕

2. 彼はよいと思われたことをやっていた。〔δόξειεν は δοκέω の希求法アオリスト 3 単。〕

3. それゆえ彼は何を言おうかと困惑して黙っていた。

4. 彼はそんなことを言う者は誰であれたわごとを言っているのだと言った。

5. クロイソスは誰がその男のあとに 2 番めを見るかと尋ねていた。〔繁栄を極めたリュディア王クロイソスは自分が世界中でもっとも幸せな者だと考えていたが、賢者ソロンが 1 位はアテナイのテロスだと答えたのでそれに次ぐ 2 位は誰かと尋ねている。〕

6. もし私が恩人たちを追い出すようなことをすれば、彼は私を褒めないだろう。〔この「褒めない」も緩叙法でむしろ「非難する」くらいの意味か。〕

7. もし君が友人をもっているようであれば君は幸福だと私は思う。

8. 指揮官が (考慮せ) ねばならないようなことをクレアルコスだけが考慮していると彼らは見ている。〔δεῖ には不定詞 φρονεῖν が省略されていると見る。ἄρχων は本書の語釈には「支配者」しかないがここでは軍隊の「指導者、指揮官」の意。〕

9. ソークラテースは言った。ほかの人々は食べるために生きているが自分は生きるために食べていると。

10. だがダーレイオスが死んでアルタクセルクセースが王になったとき、ティッサペルネースがキューロスをその兄に対して彼への陰謀を企てているとして中傷 [讒言] する。〔κατέστη は καθίστημι の第 2 アオリスト 3 単。「その兄」とはキュロスの兄アルタクセルクセスのことであり、次の αὐτῷ も同じ者を指す。最後の ὡς は練習 21.5 の注と同様、この陰謀という話が書き手ではなく文中の主語ティッサペルネスの主張であることを含意している。〕

samedi 9 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (5)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 17 課から第 20 課までを扱う。



第 17 課 πᾶς, μέγας, πολύς の変化


練習 17


1. すなわち全地が著名なる人々の墓である。〔これだけでは理解しがたいと思うので、その前後を含めて原文を久保正彰訳で引用する。対応箇所は下線部:「いま安らぎを与えているこの土ばかりがかれらの骨を収めているのではない。かれらの英名は末ながく、わが国に思いをいたすものの言葉にも行ないにも、おりあるたびに語り伝えられる。世にしるき人々にとって、大地はみなその墓というべく、その功はふるさとにきざまれた墓碑にとどまらず、遠き異郷においても生ける人々の心に碑銘よりしるき不文の碑となって生きつづけていく。」(トゥキュディデス『戦史』中公クラシックス版 72 頁)〕

2. 大きな都市は大きな孤独である。

3. この人々は全員黒い武具をもっていた。

4. 恐ろしいものは多いが、何物も人間より恐ろしいものではない。

5. 哀れな母親たちはその速い船のなかにとどまるだろう。

6. 腹の快楽はあらゆるよきものの始めであり根である。

7. その当時、政治上のことごとの多くを 9 人の執政官が行っていた。〔同じトゥキュディデスからの引用だが、上掲の中公クラシックス版は抄訳であり残念ながらこのあたりは省略されている。岩波文庫版では上巻 169 頁、ちくま学芸文庫版では上巻 105 頁。前者の注によるとこれは、はるか昔の王政とトゥキュディデスの時代の民主政との中間の貴族政治のことを説明している。〕

8. 文献学者カッリマコスは、大きな本は大きな悪に等しいと言っていた。〔主文の動詞は ἔλεγεν。いまさら注意も不要だと思うが、間接話法の主語・述語なので τὸ μέγα βιβλίον と ἴσον は対格。〕

9. ひとつひとつの仕事において、より劣った者もいればより優れた者もいる。だが人々のうち誰一人としてその人自身が [単身で] あらゆることに長けた者はいない。

10. なぜなら 6 日のうちに主は天と地と海と、それらのうちにあるすべてのものとを作り、7 日めには休息したからである。このことのゆえに主は第 7 日を祝福し、それを聖なるものとした。〔出エジプト記 20:11。第 2 文「第 7 日」はふつうの日本語訳聖書では「安息日」を祝福したと書いてあるはずである。それはヘブライ語版と七十人訳ギリシア語聖書との違いのためである。〕


第 18 課 μι 動詞:ἵστημι と δίδωμι の直説法能動相現在・未完了過去・アオリスト


練習 18


1. 恩人たちには感謝を返すべきである。

2. 不運は人々をより賢明にさせる。

3. われわれは保証を与えることも受けることも欲している。

4. ソークラテースは多くの時間 (=長いあいだ) 履物なしに立った。〔πολὺν χρόνον は期間の対格 (cf. §46.1)。〕

5. 父 (なるゼウス) は彼に一方を与えたが、もう一方は拒んだ。

6. アテーナイ人たちにはその場所に立って戦うのがよいと思われた。〔ἐδόκει は δοκέω の未完了 3 単で、これだけで「(与格の人にとって) よいと思われる」、またはさらに進んで「〜することに決定する」の意。〕

7. なぜ君たちは橋のそばに見張りを立たせなかったのか。〔第 1 アオリストなので他動詞「立たせる」。〕

8. だがそのとき、ミーレートスを除いたイオーニアー地方の諸都市がキューロスのほうへと離反した (=寝返った)。〔今度は第 2 アオリストなので自動詞である。πρὸς Κῦρον は注のとおり。ミレトスも寝返ろうとしていたのだが、この一帯の統治をペルシア王から任されていたティッサペルネス——王弟キュロスを讒訴した彼の敵である——が現地にいたためそれができなかった。〕

9. 誰であれ友人を裏切らないような人は、私の考えるところ、人間たちにおいても神々においても大きな名誉をもつ (=大いに尊敬される)。〔μεγάλην は女性単数対格で τῑμήν にかかっている。〕

10. ある詩人は言う。神々は、動物たちを作ったときに、なんらかの贈り物をそれぞれに配分した。雄牛たちには角を与えた。馬たちには蹄を、鳥たちには翼を、そしてほかの者たちにはなにかほかのそういったものを (与えた)。しかし人間たちにはなにもそういうものを与えなかったが、男たちには徳を、女たちには美しさを (与えた)。このために、女がすべてのもののなかで最強なのである。なんとなれば、男たちは徳によってすべてのものに勝つが、女たちは美しさによって男たちに勝つからである。〔ἀρετή は訳しにくい言葉で、「徳」と訳したのではあまり意味がわからない (徳でどうやって牛や馬やその他の動物に勝つのか?)。これはそのもののあるべき資質や強みといったようなもので、鳥のアレテーは飛ぶこと、馬のアレテーは走りの速さ、などと例解できる。したがってこの男たちに関しては力強さや勇敢さ、あるいはそれこそ「男らしさ」と訳してもいい。そういう意味では——いまどきこういうことを言うとポリコレ的に問題になりそうだが、少なくともこの詩人の主張に沿うなら——女のアレテーは美しさであって、男だけがアレテーを与えられているのではない。〕


第 19 課 μι 動詞:τίθημι, ἵημι, εἶμι, δείκνῡμι


練習 19


1. 私たちはすぐに家へ立ち去る。

2. 君はその魚を放つべきだ。

3. 時だけが正しい人を示す。〔μόνος は χρόνος に一致した述語的同格で、副詞的に訳せる。〕

4. 君はチーズを革袋のなかへしまった。

5. 彼は若者たちに知恵への愛を吹きこんでいた。〔たぶんソクラテスのこと?〕

6. 牛たちはみな川へ行った。

7. ゆえに彼は手から剣を地面へと放した。

8. よいものから悪いものを作ることは、悪いものからよいものを (作る) よりも容易である。

9. 父ピリッポスはここに息子を 12 歳で埋葬した、大いなる希望ニーコテレースを。〔「十二のとしに おのが子を 父ピリッポス この塚に はうむりぬ、世にあまりある 望みをかけしニーコテレースを」(呉茂一訳『ギリシア・ローマ抒情詩選―花冠』52 頁)。δωδεκέτη は τὸν παῖδα に対して修飾ではなく述語的位置にある:「息子を埋葬した、そのとき息子は 12 歳であった」。〕

10. クセルクセースがギリシアに向けて進軍していたとき、ラケダイモーン人たちはテルモピュライで隘路を守っていた。そして戦闘のまえに同盟者のうちのある者が言った:「夷狄どもが矢を射かけるときはいつでも、太陽を大量の矢によって隠してしまう、それらの大量さはそれほどなのである」。そこでスパルタ人、名はディエーネケース (という者) が、言った:「客人よ、私たちにとってよいことのすべてをあなたは知らせている。というのももしメーディアー人どもが太陽を隠すなら、影の下で戦いは行われるだろう、日向ではなしに」。〔ὀνόματι は限定の与格「名前の点ではディエネケス」。豪胆で恐れ知らずの人物で、矢の雨が空を曇らすおかげで涼しい日陰で戦えるなら結構なことではないか、という冗談を言っている。〕


第 20 課 ω 動詞の能動相現在・未来・第 2 アオリストの分詞,分詞の用法


練習 20


1. 人間は死から逃げながら (それを) 追っている。

2. 私たちは心をひとつにすることで強くありつづけるだろう。〔μενοῦμεν は未来 1 複。現在分詞 ὁμονοοῦντες の男性複数主格は隠れた主語「私たち」に一致している。〕

3. 学んだ [学のある] 人々を信頼するべきである。〔μαθοῦσιν は μανθάνω の第 2 アオリスト能動分詞・男性複数与格。能動なので学ぶ主体であり、「学んだこと (内容)」と訳すのは無理。〕

4. 愛する者たちの怒りはわずかな時間しか力をもたない [持続しない]。

5. というのもよい生まれでありながら悪い者は多いからだ。〔主語は πολλοί で ὄντες εὐγενεῖς は譲歩の分詞節。直訳は「多くの人が、よい生まれでありながら悪い」。κακός「悪い」はじつにあらゆる意味での悪さ——人格の邪悪な、能力の劣悪な、容貌の醜悪な、または勇敢さに欠ける臆病・卑怯など——を意味する。この箇所もかなり漠然とした、「見かけは高貴でも立派な人物とは限らない」という説教であり、エレクトラが生き別れの弟オレステス (まだ正体を隠している) と再会するシーンで、老臣が彼女に忠告しているところ。〕

6. およそ妻を娶らぬ男は、悪いものをもっていない (=もたずにすむ) のである。〔女というものは災い、結婚は人生の墓場 (現在通俗的な意味で) という謂い。〕

7. キュプリス (=アプロディーテー) はクニドスのキュプリス (像) を見て言った:「ああ、ああ、プラークシテレースはどこで裸の私を見たの」。〔ἰδοῦσα は ὁράω の第 2 アオリスト分詞・女性単数主格。εἶδε の直接目的語は με で、女性対格 γυμνήν はそれに対する述語的同格:「私が裸でいるところを見た」。〕

8. 人間が万物の尺度である。あるものについてはあることの、あらぬものについてはあらぬことの (尺度である)。〔ἐστίν のアクセントは ὡς, οὐκ のあとでは ἔστιν となる (§52.4)。この ἔστιν と ὄντων はかならずしも存在ととらなくても、「〜である」と解してもよいのではないか。つまり、とある (或る) ものが何々であるとか何々でないとかいうことは人間理性の判断する問題であるということ?〕

9. かつは若者たちを堕落させ、かつは国家の信ずる神々を信じずしてほかの新奇なる神霊どもを (信じている)、ソークラテースは正しくないことを行っている、と彼は言っている。〔主文の主語は φησίν で、対格主語 Σωκράτη が ἀδικεῖν しているというだけの文。残りのところは現在分詞 διαφθείροντα と νομίζοντα がソクラテスの男性対格に一致して彼の行状を説明している。〕

10. 生きることは悪いと言った者に対して、「生きることがではない」と犬儒派のディオゲネースは言った、「そうではなく、悪く生きることが (悪いのだ)」と。

vendredi 8 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (4)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 13 課から第 16 課までを扱う。



第 13 課 形容詞および副詞の比較,ἡδῑ́ων の変化


練習 13


1. 恋より甘いものはない。〔直訳は「何物も恋より甘くない」。〕

2. ピンダロスが言うように、水がもっともよい。〔ピンダロスによるオリュンピア祝勝詩 (紀元前 476 年のオリュンピア競技会において騎馬競争の部で優勝したシュラクサイのヒエロンを讃えたもの) の劈頭の句。しかしいったい何のなかで・どういう意味で水が最良だというのかは不詳である。William H. Race (1981), ‘Pindar’s “Best is water”: Best of What?’ によると、四大元素のうちで水が最良なのである、あるいは無条件に万物のうちで最良なのである、という有力な 2 つの解釈はいずれも正しくなく、人間の 3 つの条件のうち生命という点では水が最良なのだ (残り 2 つは、財産に関しては黄金が最良、そして名誉に関してはオリュンピア祭が最良、と続く)、という解釈がよいとする。〕

3. だが技術は必然 (の定め) よりもはるかに弱い。〔プロメテウスが人間に与えた技術は大神ゼウスには及ばず、そのゼウスでさえモイライの定める必然の運命には抗しえない。μακρῷ は差異の与格で、比較級・最上級を強める。これと同じく英語の by far も日本語の「はるかに」も、距離の長さ・遠さでもって差異の程度を強調するのはおもしろい。〕

4. 犬は人間にとってもっとも親しい。

5. 友よりも美しい財産はなにひとつ存在しない。

6. 母は父よりも 10 歳年下だと彼は言った。〔δέκα ἔτεσι「10 年だけ」も差異の与格。〕

7. 私たちは他人の過ちを自分の (過ち) よりも容易に目のなかにもつ (=目につく)。〔ῥᾷον は副詞の比較級。〕

8. 国家は、最善の国制をあたうかぎり速やかにかつ良く得たとき、もっとも幸福に過ごすだろう。〔τάχιστα, ἄριστα, εὐδαιμονέστατα は副詞の最上級。アオリスト分詞 λαβοῦσα の訳しかたは一意に決めがたい:「得たならば」という条件、「得ることで」という手段、あるいは現実に「得たので」という理由の説明でもありうる。分詞において時制はかならずしも時の違いを表すものではないので、アオリストでも「得る」のは現在または未来のできごとであってよいのである。〕

9. アポッローンの神託がデルポイにおいてなされた:ソポクレースは賢いが、エウリーピデースはさらに賢く、ソークラテースはすべての人たちのうちでもっとも賢い。

10. プロメーテウスはまず最初に人間たちと野獣たちを作った。次に彼は野獣たちがより多いことを見つつ、いくらかの (野獣) を人間に変えた。そしてそのことのゆえに、人間の身体と野獣の魂をもつ者たちがいまだにいるのである。〔第 2 文 ὁρῶν の現在分詞は、この動作が主文の動詞と同時的 (主文がアオリストなので時間的には過去のできごと) で、相としては継続的「見つつ、見ながら」であることを表す。第 3 文頭 τοῦτο は前文の内容を指す。οἵ の導く関係節のなかは、μὲν ... δὲ ... の対比を活かすなら「身体は人間だが魂は野獣である」のように訳すと自然。〕


第 14 課 母音融合動詞


練習 14


1. 時間は明らかでないことを明らかにする。

2. 1 羽のツバメは春を作らない。〔ことわざ。英語にも入っており ‘One swallow does not make a summer.’ と言う。1 羽来たからといってすぐに春 (夏) になるわけではないということ。〕

3. 神々が愛する者 (=神々に愛される者) は若くして死ぬ。〔νέος は述語的同格。死ぬという動作が起こるとき若い状態であるということ。〕

4. なぜなら彼は (自分が) 最良であるとみなされることをではなく (実際に最良で) あることを欲しているから。〔οὐ ... ἀλλὰ ... で 2 つのものを対比しており、それが δοκεῖν と εἶναι という 2 つの不定詞で、ἄριστος はそれらの述語として共有されている。難解に見えるが、ἄριστος εἶναι θέλει. だけにしてみれば誰でも簡単に読めるだろう。〕

5. シケリアーをローマ人たちはローマの蔵と呼んでいた。

6. ネストールの舌からは、ちょうど蜜のように言葉が流れ出たものだった。

7. よい友人が 1 人もいないような人は誰であれ生きる価値がない。〔マジすか。というのは置いといて、ὅτῳ は不定関係代名詞 ᾧτινι の別形で、役割は所有の与格。「その人のところによい友人がいない人は誰でも」。〕

8. 不正を働くこととは、ほかの人たちよりも多くを持とうと求めることである。

9. というのも、人々にとって嵐のときに船で海をゆくことよりも大きな危険があろうか。〔直訳すれば「どんな危険が……より大きいか」という疑問文だが、明らかに修辞疑問であって「それより大きな危険はない」の意。〕

10. あるアテーナイ人があるときペリクレースに尋ねた:「ペリクレースよ」と彼は言った、「支配者が心にもって [留めて] おかねばならない第 1 のことは何か」。すると (ペリクレースは答えて) 言った:「(その支配者じしんが) 人間であるということだ」。「では第 2 のことは何か」。「立派にかつ公正に支配せねばならないということだ」。また最後にその男は言った:「第 3 のことは何か」。するとペリクレースは言った:「いつまでも支配してい (られ) るわけではないということだ」。


第 15 課 流音・鼻音幹動詞の未来,人称代名詞


練習 15


1. 私はアルパにしてオー・メガ、始めであり終わりである。〔オー・メガ (オメガ) というのは中世以後の名称であり、古代ではたんにオー ὦ。ネストレ゠アーラント第 28 版にもあたってみたが、本文に採用していないばかりか異読資料欄にも μέγα の語はないので、古い写本にはいっさい見られないことがわかる。〕

2. 何者もあなたより賢くはない、ソークラテースよ。

3. 私にはこれが、あなたにはあれが気に入る。

4. すなわちわれわれの心は各人のうちにおいて神である。

5. 涙はわれわれにとって苦悩と災いの (=を癒やす) 薬である。

6. 君にこれを与える、というのは君は私の母を尊重しているから。

7. 誰が君たちとともにあの国にとどまるだろうか。〔μενοῦσιν は未来 3 複。〕

8. 君の私への手紙はなんと長かったか。〔ἡ πρὸς ἐμέ は ἡ ἐπιστολή への修飾句として冠詞がついている。〕

9. 君たちは君たちの父祖から得た徳を投げ捨てるつもりか。〔ἀποβαλεῖτε は未来 2 複、ἐλάβετε は第 2 アオリスト 2 複。〕

10. 敵たちを破ったある兵士たちはラッパ手を捕らえた。そしてまさに彼を殺さんとしたとき、「男たちよ」と彼は言った、「私を殺すな。なぜなら私はあなたがたのうちの誰をも殺さなかった。そのラッパ以外に、私はなにひとつ物をもっていないのを見てくれ」。すると (兵士たちは) 彼に向かって言った、「まさにそのことのゆえにおまえは死ぬにふさわしい。というのはおまえはみずからは戦わず、ほかの者たちを戦いに駆り立てているからだ」。〔ὁρᾶτε はここまでに習った事項では直説法現在 2 複「あなたがたは見ている」ととるしかないが、ここはむしろ命令法現在 2 複と解すほうが自然だろう。ἀποθανεῖν は ἀποθνῄσκω の第 2 アオリスト不定詞。〕


第 16 課 -ύς, -εῖα, -ύ 型および -ής, -ές 型の形容詞


練習 16


1. 経験のない者たちにとって戦争は甘美である。

2. その場所にはうまい水の泉がある。〔γλυκύς は味覚に快いということで、べつに砂糖のように甘い必要はない。英語の sweet も水について使うと fresh と同義で「悪くなっていない、大丈夫な」あるいは「真水の」の意味があるが、ギリシア語でも同様の用法がある。この文も「飲める水」くらいの意味かもしれない。〕

3. 彼はその人に、そのことは本当であるかどうかと尋ねる。

4. 好機は人間のところでは短い尺度をもつ。〔チャンスをつかめる時間は短いということ。〕

5. しばしば真実から嘘を分けることは困難である。

6. 詩人ヘーシオドスは徳の道を険しいと称していた。

7. 教育は、幸運な人々にとっては飾りであるが、不幸な人々にとっては避難所である。

8. 学問なき天性 [才能] は盲目であるが、天性なき学問は不完全にとどまる。

9. 足は速いが、風はもっと速く、思考はもっとも速い。

10. 人生は短いが、技術は長い。好機は速く (過ぎ去り)、経験は危うく (=あてにならず)、判断は難しい。〔最初の 2 項は ars longa, vita brevis というラテン語の形でも有名。ヒポクラテスの言葉なので、τεχνή「技術」(英 art) とは本来は医術について、それを修めるのにかかる時間の長さを言ったものだが、近代になって「芸術」の話に転用されるようになった。〕

jeudi 7 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (3)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 9 課から第 12 課までを扱う。



第 9 課 第 3 変化名詞:子音幹,限定の対格および与格


練習 9


1. 感謝は感謝を生む。〔「好意は好意を」でもよい。〕

2. 老人は 2 度子ども (である、になる)。〔本当の幼少期と、老年になって世話が必要になった時期のこと。εἰσίν「〜である」または γίγνονται「〜になる」省略。〕

3. 海も女も激情において (=怒ったときには) 同一のものである。〔ὀργῇ は限定 (観点) の与格。主語は 2 つの女性名詞だが ἴσον は中性単数なので、形容詞ではなく名詞用法。〕

4. おまえは耳においても心においても目においても盲目である。

5. ギリシア人たちはギリシアから冬のあいだに逃げた。

6. ある者らは金銭によって説得され、またある者らは言葉によって (説得される)。〔受動態みたいに訳したが、主語はむろん χρήματα と λόγοι であり、2 つの τούς が目的語である。これは定冠詞の代名詞的用法であり、§19.5 で述べられた ὁ μὲν ... ὁ δὲ ... の男性複数対格版。もっと自然な日本語にするなら「金銭で動く者もいれば言葉で動く者もいる」といったところか。〕

7. 老人たちにとってさえ知恵を学ぶことはよいことである。〔やはり ἐστίν が省略されており、σοφὰ μανθάνειν イコール καλόν という文。〕

8. 悪い希望は、ちょうど悪い案内人のように、過ちへと導いていく。

9. クセルクセースは鞭でヘッレースポントスを打つことを命じた。〔第二次ペルシア戦争のおり、行軍のためヘレスポントス海峡に架けた橋が嵐でめちゃめちゃになったさいにそうしたという。「ところが架橋が終り通路が出来上った直後、猛烈な嵐が起って完成したばかりの橋をことごとく破壊しバラバラにしてしまった。その知らせをうけたクセルクセスは、ヘレスポントスに対して大いに怒り、家臣に命じて海に三百の鞭打の刑を加え……」(松平千秋訳、岩波文庫版下巻 39 頁)。〕

10. 夜は盗人たちのものであるが、光は真実のものである。


第 10 課 第 3 変化名詞:子音幹(つづき),母音融合を行う第 1・第 2 変化形容詞


練習 10


1. 1 日は 1 年の短い一部分である。

2. 火が黄金を (判定する) ように、危機が友人たちを判定する。〔「火が黄金を試す」という表現は ignis aurum probat というラテン語の形でも知られている。炎に耐えることによって本物の黄金が証明されるように、危機においても残るのが本当の友人ということ。この本では καιρός の語義が「好機」としか与えられていないが、これではまずい。καιρός は好都合・不都合を問わず重大な機会や局面のこと。〕

3. 真理の言葉は単純である。

4. 青銅が姿の (=姿を映す) 鏡であり、酒が心の (鏡)。〔冠詞がないので主述は逆にして「姿の鏡は青銅だが、心の (鏡) は酒である」とも訳せる。〕

5. 真実を言うことは自由人の (務め) である。

6. 壁の高さと川の深さが兵士たちを阻んだ。

7. 教育とは黄金の冠に似ている;名誉をもつとともに多大の出費もかかるから。〔「名誉をもつ」というのは少々直訳すぎるが、τῑμὴν ἔχειν とは「尊敬を受ける」の意。〕

8. マラトーンでの戦いにおいて君たちの父たちは少数だったが勇敢だった。〔もちろん日本語は「マラトンの戦い」でいいが、細かいことを言えば μάχῃ が与格なのでこれが ἐν の目的語であり、τῇ Μαραθῶνι は与格だけで場所「マラトンで」を表している。〕

9. なぜなら神は木の壁を信ずるようテミストクレースに命じたから。〔デルポイの神託に下されたこの不明瞭な表現は、文字どおり「木造の市壁」にて籠城することと解することもできたが、テミストクレスはこれを「船」と解してサラミスの海戦にてペルシア軍を撃退した。〕

10. おおソローンよソローンよ、汝らギリシア人たちはつねに子どもであって、老いたるギリシア人はいない。〔みな精神が若々しいからということ。ἐστε が 2 人称複数であるから、Ἕλληνες は隠れた主語「汝ら」に同格の補語。最後の οὐκ ἔστιν という 3 単は (非) 存在を表すものととる (アクセントについては §52.4 を見よ)。〕


第 11 課 第 3 変化名詞:母音幹,関係代名詞


練習 11


1. 神官たちは神々に牛たちを捧げた。

2. 誰であれ財産と理性 [分別] をもつ者は幸いである。

3. 王は妻を美しいと思っている、と彼は言った。〔間接話法の二重の入れ子。「妻」か一般の「その女」かは文脈によるので、この文だけでは判断しようがない。〕

4. 市民たちが公正であるような国家は盤石である。

5. 人間は本性において政治的な動物である。

6. 私たちが見ているところの友人を私たちは信ずる。〔ᾧ の与格は先行詞 τῷ φίλῳ に牽引された形で、理屈としては対格 ὅν であるべきところ。〕

7. アテーナイ人たちの町には立派な城砦があった。

8. なんとなれば国とは人々であって、人々ぬきの市壁や船団ではない。

9. スピンクスは女の顔、獅子の胸と尾、鳥の翼をもっていた。〔μὲν ... δὲ ... の対比の感じをちゃんと出すなら「顔は女だが、胸と尾は獅子、翼は鳥のものだった」のように訳せる。εἶχε は ἔχω の未完了過去。〕

10. 時間はそれのなかに好機があるものだが、好機はそれのなかにわずかな時間しかないものである。〔οὐ πολύς は緩叙法 (litotes) で、文字どおりには「多くない」だが実際には「非常に少ない」という意味。〕


第 12 課 指示代名詞,強意代名詞 αὐτός


練習 12


1. 友人とは何か。ほかの [もう 1 人の] 自分自身である。

2. ほかのものはほかの人たちの気に入る。〔人の好みはそれぞれということ。「ほかの」という訳語では理解しにくいが、「べつのものはべつの人たちに」ならもう少し通りやすい。あるいはそれこそ「それぞれの」と訳してしまってもかまわない。田中・松平 LXX 課和訳 1. の注をも参照。〕

3. そういうことを彼は言ったが、行ったのは次のことだった。〔言行不一致。〕

4. アポッローンは彼に、犠牲を捧げるべきところの神々を託宣した。〔αὐτῷ「彼に」は神託を求めたクセノポンを指す。答えた内容が ἀνεῖλεν の直接目的語であるから、θεοῖς は論理上 θεούς であるべきところ、後ろの関係代名詞 οἷς に引かれた逆の牽引を起こしていると考えられる。ἔδει の未完了は主文のアオリストに対する時制の一致で、過去における現在を表す。〕

5. 同じ諸原因からつねに同じことごとが結果するわけではない。

6. この若者たちはあの女を信じたがらない。

7. それらのことのあとで、詩人みずからが奴隷たちに、あの竪琴を彼女の家へと運ぶことを命じた。

8. われわれのうちの各人は、(みずからが) その点で賢いところの事柄においては優れているが、他方その点で無知であるところの事柄においては劣っている。〔注のとおり文中の対格、具体的には ταῦτα = ἅπερ と ἅ = ταῦτα の 4 つがすべて限定の対格と解する。主語は ἕκαστος ἡμῶν であって、したがって残る ἀγαθός, σοφός, ἀμαθής, κακός が男性単数主格であるのはこの人を形容しているのである。〕

9. 同じ両親の子どもたちにしばしば同じ性格があるわけではない。〔τοῖς ... παισί は所有の与格 (§55)。〕

10. かつてアテーナイの市民であったドラコーンは、かくも賢く公正であったので、アテーナイ人たちは彼が法律を書くことを望むほどだった。しかし彼が書いた法律は厳しかった。というのもその法律にはただ 1 つの罰、死 (刑) だけがあったのだ。それゆえアテーナイ人たちは、ドラコーンの法律は人間のものではなく竜 (ドラコーン) のものだ、と言っていた。

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (2)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 5 課から第 8 課までを扱う。



第 5 課 ω 動詞:直説法能動相現在および未来


練習 5


1. 詩人たちはムーサたちに仕える。〔ギリシア語の現在は形のうえで進行相を区別しないので「仕えている」でも可。以下とくに断らない。〕

2. 私たちはつねに友人たちの言葉を信じる。

3. 裁判官たちは正義を追求するだろう。

4. 諸法をアテーナイ人たちは石に書く [刻む]。

5. 苦労は苦労に苦労を運ぶ。

6. 贈り物は神々をも説得するだろう。〔未来では θ が消えることに注意。今後どんどん、活用形から現在形 (辞書形) を見抜くことが難しいような例が増えてくるので、そういうとき辞書をちゃんと引けるために変化の仕組みを覚えねばならない……というのも今は昔の話で、いまどきは Wiktionary でも変化形をじかに検索すればそのまんま見つかってしまうのだが、理想的にはしっかり理解して覚えましょう。〕

7. よい人はよい蔵からよいものを取り出し、悪い人は悪い蔵から悪いものを取り出す。〔マタイ 12:35。ここで蔵にたとえられているのはもちろん心のことである。〕

8. 賢い弟子たちを教育することは容易であろう。

9. その若者は将軍の馬を平野を通って連れていくだろう。

10. 兵士たちはその村から逃げたがっている。


第 6 課 ω 動詞:直説法能動相未完了過去およびアオリスト,不定詞を用いた間接話法


練習 6


1. 戦いのあとで兵士たちはアテーナイへ逃げていった。〔§40 で触れられているとおり、未完了過去は過去における起動相ともとれるので「逃げはじめた」も可。〕

2. ナウシカアーとその侍女たちは海のそばで鞠で遊んでいた。〔オデュッセウスが旅の終盤にパイアケス人の島にたどりつき、王女ナウシカアと出会う直前の場面。〕

3. 人々はよき友人たちをもっていることはすばらしいことだと考えている。〔νομίζουσιν の後にあるが οἱ ἄνθρωποι は主格なので主文の主語 (=考える主体) である。考えている内容は (不定詞なので形がわかりにくいが) ἔχειν が中性名詞扱いの対格主語であり、καλόν が述語でそれに一致した中性単数対格になっている。〕

4. 賢い人たちは死は眠りであると考えている、と彼は言った。〔二重の入れ子の間接話法。主文の動詞は ἔφη なので主語は 3 人称単数 (だから「彼女」でも可)。言った内容の主語が τοὺς σοφούς であり、その人たちが考えている内容が τὸν θάνατον = ὕπνον ということ。〕

5. 彼は (自分が) 詩人ではなく詩人たちの裁判官 [判定者] なのだと言った。〔§41 は説明不足。不定詞の主語が主文と同じときは現れないと書いているが、このとき見えない主語と述語はじつは対格ではなく主格に置かれる。それゆえ間接話法の引用部で εἶναι が主語と結びつけている述語 ποιητής および κριτής は主格になっているのである。〕

6. その先生は長い手紙を弟子に書く、と彼は言う。

7. 博学は理性 [分別、知性] をもつことを教えない。〔ここで πολυμαθίᾱ「博学」と称するのは知識をたくさん蓄えていることであり (πολυ-「多く」+ μαθ- (μανθάνω「学ぶ」の語根))、それがただちにヌースには導かないということ。耳の痛い話である。〕

8. 主人はその奴隷に子どもたちを見守ることを命じた。〔τὸν δοῦλον と τὰ παιδία はともに対格なので逆にとることも無理ではないが、それでは語順が錯綜しすぎるので、やはり ἐκέλευσε に近い「奴隷」が命じる対象、φυλάξαι と隣りあう「子どもたち」が守る対象ととるのが自然。もちろん文意から考えても当然そうなるべきだろう。〕

9. ソークラテースは裁判官たちに嘆願をせず、(かの) 危険を冒していた。〔注にある cognate object とは日本語では同族目的語といい、「歌を歌う」や ‘sleep a sound sleep’ (熟睡する) のように動詞が同じ語根の目的語をとること。ここで定冠詞つきの同族目的語を重ねている点には、「われわれのよく知るあの」、避けることもできた死刑へと導くことになる例の危険、という含みを読みとることもできる。〕

10. 平和は農夫を岩 (ばかりの不毛な土地) のなかでさえよく養うが、戦争は (農夫を) 平野においてさえ悪く (養う)。〔ここでギリシアの地勢を思いおこすことも無用ではなかろう:「土地は山がちで、平地の部分はたいへんすくなく、高い山と山とのあいだに小さな平野が点てんとちらばっているといったほうがよいかもしれません。〔……〕ギリシアの土地は、山がおおく、石灰岩質の土壌なので、肥沃だとはいえません。それに傾斜地がおおいので、土が雨に流されてしまうのです」(高津春繁・高津久美子『ギリシア神話』299–300 頁。高津春繁による巻末解説から)。〕


第 7 課 ω 動詞:直説法能動相第 2 アオリスト,結果文,時の表現


練習 7


1. ほんの数日のうちにギリシアは自由になるだろう。

2. 逃げないほどに彼はこのように勇敢だった。〔主語は明示されていないが述語 ἀγαθός が男性形なので「彼」である。〕

3. 川は兵士たちが渡るのを妨げるほどに激しかった。

4. 限りない雪が降って、武器をも寝ている男たちをも覆い隠した。〔χιών も ἄπλετος も無冠詞であって結びつきがあまり緊密でないから、この形容詞はむしろ述語的・副詞的にとって「雪が際限なく降った」のように訳すこともできると思う。〕

5. ダイダロスの息子イーカロスは海に落ちて死んだ。

6. 世界とは舞台であり、人生とは (そこへの) 登場である。君は来て、見て、去った。

7. ペルシア人たちは太陽と月と大地と風とに犠牲を捧げていた [捧げたものだった]。〔過去の習慣を表す未完了過去。〕

8. テミストクレースは艦隊を信頼するようアテーナイ人たちを説得した。

9. 隷属への道は快楽を通って続いている。〔ἡ εἰς τὴν δουλείᾱν は同じ性数格の定冠詞によって ἡ ὁδός を修飾することを明示している。前置詞句を内側に括って ἡ εἰς τὴν δουλείᾱν ὁδός とも言えよう。〕

10. 川に沿って兵士たちは食糧とぶどう酒とに満ちた多くの村々を発見した。その場所で彼らは 3 日間とどまった。


第 8 課 前接辞と後接辞,疑問代名詞と不定代名詞,動詞 εἰμί と φημί,所有の与格


練習 8


1. 私たちは (自分たちが) 哲学者であると言う。

2. キューロス (の麾下) には勇敢な兵士たちがいた。

3. 戦争において 2 度過つことはできない。〔1 度めの失敗で破滅するから。〕

4. いったいどんな言葉でもってその扇動家はアテーナイ人たちを説得したのか。〔τίσι λόγοις「どんな言葉で」は手段の与格。〕

5. 詩人たちも水夫たちも乗馬はうまくない。〔餅は餅屋ということか。〕

6. 君は昨日アゴラーにいなかったか。——たしかに私は一日じゅう (アゴラーに) いた。

7. なぜ君はいま戸を閉めるのか、家になにももっていないのに。

8. 少女たちよ、君たちは踊る用意ができているか。——私たちはまだ用意ができていません。

9. では人間とは何か。——死すべき神である。——では神とは何か。——不死なる人間である。

10. おそらく節制とはある種の秩序であり、ある種の快楽や欲望を自制することである。