mercredi 28 février 2018

アイスランド語の文法用語の略語

最近,アイスランド語版『星の王子さま』を本国から購入するついでに,何冊か興味のある本を同時注文したのだが (なにしろ送料がかなり高いので,何度も分けて注文することは避けたい),そのうちの 1 冊にアイスランド語のコンパクトな文法書,Björn Guðfinnsson 著 Eiríkur Hreinn Finnbogason 改訂の Íslensk málfræði という本がある.アイスランドの本なので当然説明もアイスランド語で書かれている.私のアイスランド語学習はまだまだ緒についたばかりなので,ところどころしか読めないが気晴らしによく開いて眺めている.

今回はその本の冒頭にある,文法用語の略号表を翻訳して掲載してみたい.あくまでこの本における略記法であるとはいえ,こういうものにさほどのばらつきはないであろう (といっても唯一のものでないことは言うまでもない.たとえば直説法 fh. は fsh. と書かれることもあるなど).掲載するのは自分用の便利なメモという目的が大きいが,なにかしら人の役にも立つかもしれない (日本人のアイスランド語学習者でこれを必要とするものはまれだろうが,文法用語の逆引きにも使える.あるいは逆にアイスランド人が日本語訳を知るきっかけになるかもしれない).


Nokkrar skammstafanir málfræðiheita.

afn.afturbeygt fornafn再帰代名詞
ao.atviksorð副詞
áfn.ábendingarfornafn指示代名詞
án gr.án greinis冠詞なし〔=不定形,未知形〕
bb.blönduð beyging混合変化 ‡
bh.boðháttur命令法
ef.eignarfall属格
efn.eignarfornafn所有代名詞
est.efsta stig最上級
et.eintala単数
fh.framsöguháttur直説法
fn.fornafn代名詞
fo.fallorð名詞類 *
frt.framtíð未来時制
fs.forsetning前置詞
ft.fleirtala複数
gm.germynd能動態
gr.greinir冠詞
hls.hliðstætt属詞的に †
hk.hvorugkyn中性
hhls.hálfhliðstætt半属詞的に †
kk.karlkyn男性
kvk.kvenkyn女性
lh.lýsingarháttur分詞 **
lh. nt.lýsingarháttur nútíðar現在分詞 **
lh. þt.lýsingarháttur þátíðar過去分詞 **
lo.lýsingarorð形容詞
m. gr.með greini冠詞つき〔=定形,既知形〕
mm.miðmynd中動態
mst.miðstig比較級 ¶
nf.nefnifall主格
nh.nafnháttur不定法
nhm.nafnháttarmerki不定法標識
nlt.núliðin tíð現在完了時制
no.nafnorð名詞
nt.nútíð現在時制
óáfn.óákveðið ábendingarfornafn不定指示代名詞
ófn.óákveðið fornafn不定代名詞
p.persóna人称
1. p.fyrsta persóna1 人称
2. p.önnur persóna2 人称
3. p.þriðja persóna3 人称
pfn.persónufornafn人称代名詞
sb.sterk beyging強変化 ‡
sfn.spurnarfornafn疑問代名詞
skt.skildagatíð条件時制 §
so.sagnorð動詞
smo.smáorð不変化詞 ¶¶
st.samtenging接続詞
tfn.tilvísunarfornafn関係代名詞
to.töluorð数詞
uh.upphrópun間投詞
vb.veik beyging弱変化 ‡
vh.viðtengingarháttur接続法
þf.þolfall対格
þft.þáframtíð過去未来時制
þgf.þágufall与格
þm.þolmynd受動態
þlt.þáliðin tíð過去完了時制
þst.þáskildagatíð過去条件時制 §
þt.þátíð過去時制


表にはない基本的な文法用語として,beyging「屈折」,fall「格」,kyn「性」,tala「数」,háttur「法」,mynd「態」,tíð「時制」を挙げておく.これに沿って,厳密には法や時制とは呼べないと考えられるものについても,基本的に原語を尊重して訳した.この原則をはずれる場合や,補足が必要と思われる場合についてはそれぞれ以下の注で述べる.

* Fallorð の直訳は「格-語」だが,これは英語の nominal すなわち「名詞類」のことである.なお名詞類とは格変化する語のことで,アイスランド語においては冠詞・名詞・代名詞・形容詞・数詞の総称.(→ is.Wikipedia: Fallorð)

** Lýsingarháttur は直訳すれば「形容法」とでもなろう.アイスランド語文法では動詞の法 (háttur) のひとつと数えられているようだ.しかしかえってわかりづらいので一般的な用語で訳した.現在分詞・過去分詞についても同様.(→ is.Wikipedia: Lýsingarháttur)

† 形容詞や指示代名詞の用法のことで,hliðstætt の対義語は sérstætt (実詞 [名詞] 的に).この「実詞的」「属詞的」というのは意訳であり,忠実に訳すならそれぞれ「自律的」「他律的」が近いだろうか.

Hálfhliðstætt のほうはこの著者の特殊な用語なのか,検索してもほとんど用例が見あたらない.本文 §§ 96ff. の説明を見るかぎり,修飾する対象 (意味上の主体,一致のコントローラ?) と一致しない形容詞の用法を言っているようである.たとえば Drengnum er kalt. Drengjunum er kalt.「少年 (たち) は寒い」という文では,男性与格定形単数/複数におかれた drengur に対して kaldur の中性単数が使われている.また Stúlkunni er órótt. Stúlkunum er órótt.「少女 (たち) は落ちつかない [不安である]」においても,女性与格定形単数/複数の「主語」にかかわらず órór は中性単数になっている.

‡ Beyging は名詞 (類) の「曲用」と動詞の「活用」の両方に用いられる術語すなわち「屈折」だが,「強屈折,弱屈折」ではいくぶんすわりが悪いので,より平易で通りのよい「変化」とした.

¶ 直訳では「中間級」だが,一般的な用語に改めた.

¶¶ Smáorð は直訳すれば ‘small word’ なので「小辞,小詞」と言いたくなるところである.また ‘function word’ (機能語) とする英訳もある.しかしアイスランド語文法における smáorð の定義は「格変化も時制変化もしない品詞」(本書 §12c) であって,その内訳は「前置詞,副詞,接続詞,間投詞および不定法標識」である (§13.また → is.Wikipedia: Smáorð).「小辞,小詞」ではもっぱら単音節の倚辞のような誤解を与えかねないし,とりわけ副詞が含まれていることもあって「機能語」にも大きな語弊があるので,ここでは「不変化詞」(uninflected word) とした.屈折しない品詞という前述の定義からも適当と考えられるが,これも完璧に誤解の余地がないとは言えない (というのも,たとえば外来語由来のために名詞や形容詞なのに曲用しないというケースが想定可能であり,これも uninflected word と呼ばれる場合があるから).

§ 条件「時制」とは見なれない名称であり,条件「法」と言いたくなるところだが,tíð なのですなおに訳した.アイスランド語ではこれらを含めて 8 つの時制をもつとされている.(→ is.Wikipedia: Tíðbeyging sagna「動詞の時制変化」)


補遺として,本文中に見られる (文法用語以外の) 一般の語句の略記を目につくかぎりまとめておく:

athgr.athugasemdir (?)注意 *
m. a.meðal annarsとりわけ (u. a.)
o. fl.og fleira/fleiriなど
o. s. frv.og svo framvegisなど (etc., usw.)
sbr.samanber比較せよ (cf., vgl.)
t. d.til dæmisたとえば (e. g., z. B.)
þ. e.það erすなわち (i. e., d. h.)
æf.æfing (?)練習問題

* 文脈から ‘note’ や ‘remark’ のような意味に見え,そこから athugasemdir と推測したが,定かでない.