mardi 13 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (3)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第二週前半 (第一日〜第四日) を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第一日


74 頁 4 行め、ἐκεῖνος の中性複数与格が ἐκείνιος となっているが ἐκείνοις の誤植。


練習 31. (76 頁)


3. ἔσχον は格言のアオリスト (46 頁)。

4. (女性単数の) 属格 αὐτῆς は前に出た女性「あの少女」を受ける 3 人称代名詞のかわりをする用法だが、(男性複数の) 主格 αὐτοί は κατελάβομεν に隠れている主語「私たち」に対する強意の用法である。とはいえ時代が下っていくと (たとえば新約聖書のギリシア語では) 主格もたんなる 3 人称代名詞「彼らは」の意味でふつうに使われるようになる。

5. ἔφυγον は φεύγω の、ἀπέθανον は ἀποθνῄσκω の第 2 アオリスト 3 人称複数。

6. ἔτεκον は τίκτω の 2 アオ 3 複。そして ἄν があることで、明示されていないが「もし避けなかったならばそうなっただろう」という、過去の事実に反する条件文の気もちが出ている。英訳するとすればこの ἔτεκον ἄν はただの過去ではなく would bring のように仮定法で訳すことになる。

10. τέ に限らずすでに見た μὲν ... δὲ ... などほかの後置辞でも同様であるが、Α τε καὶ Β「Α と Β と」という形で Α が複数の語からなる場合、1 語めの次に τε が挟まる。したがってこの τοξοτῶν τε ἀγαθῶν καὶ αὐλητῶν というのは τοξοτῶν ἀγαθῶν と αὐλητῶν というふうに分けられる。ただ今回の場合 ἀγαθῶν は結局ぜんぶにかかっていく (2 つめ以降は省略されている) と考えられる。


79 頁 μέγας の曲用表で女性単数与格 μεγάλη は μεγάλῃ、女性複数与格 μελάλαις は μεγάλαις の誤り。


練習 33. (79 頁)


単語欄 χαλεπός, ή, ον の中性語尾を όν に改める。

1. λελύσθαι は完了受動不定詞であるから、もちろん壊されるものが主語である。すなわち τὴν γέφῡραν がそれである (対格だからといって目的語と早とちりしないように。これは ἐκέλευσαν から見れば命じる対象=目的語であるが、λελύσθαι に対しては主語の関係にある)。

2. ἐλαύνω, 完受 ἐλήλαμαι はアッティカ式畳音 (55 頁) のもうひとつの例である:ἐλ に対して ἐλ-ηλ という形。

3. ἐτέθυτο は θῡ́ω の過去完了受動態 3 単 (πολλὰ θηρία は中性複数なので単数扱い)。完了・過去完了では υ が短くなることに注意。

5. 不定詞は中性単数名詞扱いなので述語 χαλεπόν が中性単数主格になっている。

6. διαρπάσαι は διαρπάζω の第 1 アオリスト不定詞。

9. 65 頁注 (ニ) ではあたかも Α τε καὶ Β と καὶ Α καὶ Β とは同じであるかのように説明されていたが、実際には後者のほうが強いのであって、前者を「Α も Β も」ほどに訳すと少々行きすぎになりやすい (Smyth, Greek Grammar, §2974)。模範解答のとおり、καὶ κατὰ γῆν καὶ κατὰ θάλατταν は「地上においても海上においても」という感じだが、σωτηρίᾱς τε καὶ ἐλευθερίᾱς のほうは「安寧をも自由をも」ほどの強さはないのでたんに「安全と自由」と訳されているわけである。


練習 34. (80 頁)


4. 後半は模範解答がおかしい。まず μεγαλὴν というアクセントは μεγάλην に直すべきであるが、そのうえで μεγάλην τῑμὴν ἦν αὐτοῖς という対格は変である。動詞が ἦν なら主語は主格 μεγάλη τῑμὴ でないといけない。あるいは対格はそのままで ἦν αὐτοῖς を εἶχον または ἔσχον に改めるのでもよい。


第二日


練習 35. (82 頁)


3. σεσώκατε は σῴζω の完了能動 2 複。

8. 誤字:ὑμῶν → ῡ̔μῶν。

10. ἄρξει は未来なので解答は「始めるだろう」に修正したほうがよかろう。この ἄρχω は属格目的語をとる (42 頁) ので μεγάλων κακῶν が属格になっているのである。


練習 36. (83 頁)


3. 模範解答が何点か誤っている。まず条件節の否定は οὐ ではなく μή (37 頁)。また δικώκω という動詞はないし、1 複なので διώκομεν である。最後に、μόνον はこのままでもありかもしれないが、「我々だけでも」という感じなら主語に同格の男複主 μόνοι のほうがよりよいと思う。μόνοι であれば唯一に限定されるのは「我々」だが、μόνον——これは中性単数対格の副詞用法である——だと文全体にかかる副詞なので「我々が彼らを追跡するだけだ」という意味になる。

4. ἀρέσκω の未来は ἀρέσω となることに注意。一般に、-(ι)σκω というのは現在幹 (現在と不完了過去) 特有の接尾辞であって、ほかの時制では消えるので、その未来は -σξω のようにはならない。ほかの例として εὑρίσκω「見つける」の未来は εὑρήσω、διδάσκω「教える」は διδάξω、ἀποθνῄσκω「死ぬ」は ἀποθανοῦμαι、など。なお (私のもっている版では) ἡ διάνοιά μου の 2 つめのアクセントがかすれてほとんど見えないので注意。


練習 37. (85 頁)


単語欄の誤字:ἀναρίθμητος のアクセント、ἐρυθρός, ᾱ́, όν の女性・中性語尾のアクセント、κρῑ́νω のアクセントが抜けている。

2. ἀνετρέφετο は ἀνατρέφω の不完了受動 3 単。

4. φυλαχθήσεται は φυλάττω の未来受動 3 単。

10. 4 つの方角のうち τᾱ̀ς ἀνατολᾱ́ς「東」だけ定冠詞つきの複数で言われているが、辞書によれば無冠詞の πρὸς ἀνατολᾱ́ς もあるし、複数が普通だが単数もないわけではないようだ。τῇ ἐρυθρᾷ θαλάττῃ, τῷ Εὐξένῳ πόντῳ 等々は道具の与格「〜によって」。


第三日


練習 39. (91 頁)


3. 解答に脱字:あなたを → あなたがたを。

5. φῦσαι は φύω の第 1 アオリスト不定詞。なお φύω の υ は、後代の詩人を別として基本的に母音の前では短く、それ以外では長い。したがって現在 φῠ́ω や不完了 ἔφῠον では短く、未来 φῡ́σω, 1 アオ ἔφῡσα, 完了 πέφῡκα では長い。

10. 主文は Σωκράτης ἔλεγεν だけで、残りは言っている内容の従属文。対格不定法で言われているその内容は μέν と δέ で対比されており、後半のほうでは ἀρίστην の女性対格から ἀρχήν の省略を読みとる。また動詞 εἶναι も 2 度めは省略されている。τὸ は中性名詞扱いの不定詞 γιγνώσκειν が後半の主語——従属文の主語なので対格——であることを示す。なお ἑαυτόν のアクセントは ἑαυτὸν に改める。


練習 40. (91 頁)


3. ἐλευθέρων は ἐλεύθερος の複数属格であるが、「自由にふさわしい」なら ἀξίους τῆς ἐλευθερίᾱς のほうが自然だと思う。

5. 解答で Ἀλκιβιάδην のアクセントが落ちている。


練習 41. (96 頁)


1. ἡμέρᾱς のアクセントが落ちている。

2. ἐρρῑ́πτοντο は ῥῑ́πτω の不完了中間態 3 複「自分を投げこんでいた=自分から飛びこんでいた」。もちろん受動態とも同形なので「投げこまれていた」も可。

4. ἐγένετο は γίγνομαι の第 2 アオリスト中間態 3 単。

6. 後半は同じ動詞の 3 複 ἕπονται が省略。


練習 42. (97 頁)


5. 模範解答の ἔλθομεν は ἤλθομεν の誤り。


第四日


98 頁の曲用表に誤字:φύλαξι(υ) → φύλαξι(ν)。


練習 43. (99 頁)


単語欄の誤字:ᾱ̓ετός, οῦ, ὁ の冠詞の気息記号、ならびに πιστός, ή, όν の中性語尾のアクセントを欠く。

2. τῶν νήσων は部分の属格「島々のうちの」で、これが女性名詞なので ταῖς πολλαῖς が女性。

8. 以前練習 16-8. で説明したように、μὲν ... δὲ を構造決定の手がかりにするとよい。μέν よりも前にある ἡ ἀρετή が共通の主語であり、μέν の直前の語から枝分かれが始まる:すなわち ἡ ἀρετή は (1) ἀγαπητὴ συνεργός である、τεχνίταις にとっては;(2) πιστὴ φύλαξ οἴκων である、δεσπόταις にとっては;(3) ἀγαθὴ συλλήπτρια である……;(4) βεβαίᾱ ... σύμμαχος である……。

10. ὀργῇ は限定 (観点) の与格「怒りという点では」。主語は女性名詞 2 つなので、ἴσον が中性なのは名詞扱い「同じもの」と考える。


練習 44. (101 頁)


3. 解答に誤字:πέρδρικα → πέρδικα。

5. 問題文に誤字:τῑμήν → τῑμὴν。


練習 45. (104 頁)


単語欄に誤字:θρηνέω-ῶ の融合後の曲アクセントを欠く。

2. ᾤκουν は οἰκέω の不完了能動 3 複。

3. ᾐτοῦντο は αἰτέω の不完了中間 3 複。この中間態は「自分たちのために」の間接再帰で、求める行為が自分たちに関わることである、もっといえば目的語の τὴν ψῡχήν の定冠詞が事実上の所有形容詞「自分たちの」の意味であることを明確化している。ποιέω は英 make や仏 faire のように、対格を 2 つとって「A を B にする」の用法がある。

5. τὸ は中性名詞扱いの不定詞 ἄρχεσθαι にかかっており、これが主語であることを示す。

6. βούλει は βούλομαι の現在中間 2 単。δεῖ は非人称の 3 単で、「(不定詞) することが必要である、せねばならない」という使いかたをする。

8. περὶ τῶν τῆς πόλεως は、属格 τῆς πόλεως「国家の」に中性複数の定冠詞 τὰ がつくことで「国家の事柄、国事」という名詞句となったものに、属格を支配する前置詞 περί がついた形。なお πόλεως というのは最終音節が長いのにアクセントが 3 番めまで遡っており規則に違反しているが、このわけはずっとあとで説明される (170 頁脚注 2)。

10. ηὐλήσαμεν は αὐλέω の 1 アオ能動 1 複、ὠρχήσασθε は ὀρχέομαι の 1 アオ中動 2 複。


練習 46. (106 頁)


1. πρὸ のアクセントが落ちている。

4.「求めた」なのでアオリスト ᾔτησαν でもいいだろう。さらにさきの練習 45-3. のように中間態で ᾐτοῦντο / ᾐτήσαντο と言っても構わないと思う。

5. δεῖ では意味上の主語 (必要・義務のある、せねばならない人) は与格に置かれる。

dimanche 11 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (2)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第一週後半 (第五日〜第七日、週末訳読) を扱う。なお誤字脱字については私のもっている平成 16 (2004) 年 9 月 10 日第 26 版を基準としている。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第五日


練習 18. (43 頁)


まず問題のまえの単語欄に「ὁδός, ου, ἡ 道」とあるが、属格語尾のアクセント οῦ が抜けているのを直しておく。

呼格は基本的に主格と同形で、違いは冠詞がないということだけなので繰りかえさず、異なる場合のみ括弧書きした。

単 ἡ ἱκανὴ σκιᾱ́, τὴν ἱκανὴν σκιᾱ́ν, τῆς ἱκανῆς σκιᾶς, τῇ ἱκανῇ σκιᾷ,
両 τὼ ἱκανᾱ̀ σκιᾱ́, τοῖν ἱκαναῖν σκιαῖν,
複 αἱ ἱκαναὶ σκιαί, τᾱ̀ς ἱκανᾱ̀ς σκιᾱ́ς, τῶν ἱκανῶν σκιῶν, ταῖς ἱκαναῖς σκιαῖς.

単 ἡ κοινὴ συμφορᾱ́, τὴν κοινὴν συμφορᾱ́ν, τῆς κοινῆς συμφορᾶς, τῇ κοινῇ συμφορᾷ,
両 τὼ κοινᾱ̀ συμφορᾱ́, τοῖν κοιναῖν συμφοραῖν,
複 αἱ κοιναὶ συμφοραί, τᾱ̀ς κοινᾱ̀ς συμφορᾱ́ς, τῶν κοινῶν συμφορῶν, ταῖς κοιναῖς συμφοραῖς.

単 ἡ ἀξίᾱ ἀρετή, τὴν ἀξίᾱν ἀρετήν, τῆς ἀξίᾱς ἀρετῆς, τῇ ἀξίᾳ ἀρετῇ,
両 τὼ ἀξίᾱ ἀρετᾱ́, τοῖν ἀξίαιν ἀρεταῖν,
複 αἱ ἄξιαι ἀρεταί, τᾱ̀ς ἀξίᾱς ἀρετᾱ́ς, τῶν ἀξίων ἀρετῶν, ταῖς ἀξίαις ἀρεταῖς.

単 ἡ δικαίᾱ ἡδονή, τὴν δικαίᾱν ἡδονήν, τῆς δικαίᾱς ἡδονῆς, τῇ δικαίᾳ ἡδονῇ,
両 τὼ δικαίᾱ ἡδονᾱ́, τοῖν δικαίαιν ἡδοναῖν,
複 αἱ δίκαιαι ἡδοναί, τᾱ̀ς δικαίᾱς ἡδονᾱ́ς, τῶν δικαίων ἡδονῶν, ταῖς δικαίαις ἡδοναῖς.

単 ἡ μακρᾱ̀ ὁδός, (呼 μακρᾱ̀ ὁδέ), τὴν μακρᾱ̀ν ὁδόν, τῆς μακρᾶς ὁδοῦ, τῇ μακρᾷ ὁδῷ,
両 τὼ μακρᾱ̀ ὁδώ, τοῖν μακραῖν ὁδοῖν,
複 αἱ μακραὶ ὁδοί, τᾱ̀ς μακρᾱ̀ς ὁδούς, τῶν μακρῶν ὁδῶν, ταῖς μακραῖς ὁδοῖς.

単 ἡ καλὴ πλάτανος, (呼 καλὴ πλάτανε), τὴν καλὴν πλάτανον, τῆς καλῆς πλατάνου, τῇ καλῇ πλατάνῳ,
両 τὼ καλᾱ̀ πλατάνω, τοῖν καλαῖν πλατάνοιν,
複 αἱ καλαὶ πλάτανοι, τᾱ̀ς καλᾱ̀ς πλατάνους, τῶν καλῶν πλατάνων, ταῖς καλαῖς πλατάνοις.

ὁδός と πλάτανος は女性名詞ではあっても第二曲用なので、単数呼格語末が -ε となる*。また πλάτανος は ἄνθρωπος 型でアクセント規則に従い、単主・呼と複主・呼以外ではアクセントが 1 つ後ろに引かれることにも注意。

* 細かいことを言うとこの ε は正確には格語尾ではなくて語幹に属するのであり、呼格の語尾はゼロである (高津『ギリシア語文法』62 頁)。裸の語幹 ὁδε- に「何もつけない」という操作を行ってできあがったものが呼格形 ὁδέ、と考えるのが正しい。であるから、「語末 (単語の終わり) が ε」と言うことはできるが「語尾が ε」と言うと不正確になる。


練習 19. (43 頁)


1. 属格 ψῡχῆς は前後どちらにかかってもよいし、冠詞がないので φωνή と σκιᾱ́ どちらが主語であってもよい。したがって (1) 声は魂の影、(2) 魂の影は声、(3) 魂の声は影、(4) 影は魂の声、以上 4 通りどれも可能であって、あとは意味を勘案して好きに決めるとよい。

4. 文の主語は Πίνδαρος, 動詞は λέγει であって、残りの部分は彼が言っている内容である。その内容は τὸν οἶνον イコール δρόνον τῆς ἀμπέλου だという主張であって、ここまでに習った範囲で考えれば λέγω が二重対格をとって「Α を Β と言う」という文型と解すしかないけれども、まだ習っていないが be 動詞の不定形 εἶναι が省略されている間接話法の文とも見ることができる (のちの練習 27-10. で詳しく説明する)。

5. 後半では同じ動詞 ἄρχουσι の繰りかえしを避けて省略されている。

6. 2 つめの ἡ は、これ以下が ἡ ὁδός にかかる修飾句であることを示すもの。内側に入れて ἡ ἐκ τῆς Μεσσένης εἰς τὴν Ἀρκαδίᾱν ὁδός と言うことも可能であり、こうすると ἡ は 1 個で済むが、これでは大枠をなす ἡ と ὁδός とが離れすぎてしまい読みにくいので、ばらして後ろにつけているわけである。

10. 上の 6. と同様、ἡ πρὸς εὐδαιμονίᾱν ὁδός と言ってもいい。ἡ が 2 つあることによって修飾関係であることが明確になっており、したがって「幸福への道」という句が主語なのであって、「道は幸福へと続いている」のように訳すのは不可。次の練習 20-2. とも比較せよ。


練習 20. (44 頁)


1. 以前の練習 13-4.「恥ずべき行いは生まれのよい人にふさわしくない」とほぼ同じパターンの文であるが、そちらでは「生まれのよい人」は属格であったのに対し今回の模範解答では与格で書かれている。これはどちらも可だが、ニュアンスがどう違うかはわからない。

3. 中性では主格=対格なのでわかりにくいが、模範解答の場合 συμπόσιον と ὅμοιον は中性単数対格である。これは前の練習 19-4. のごとく二重対格もしくは対格不定法で言ったもの。しかし、練習 17-1. のように ὅτι を使って ἔλεγεν ὅτι συμπόσιον χωρὶς οἴνου ὅμοιον οἰκίᾳ χωρὶς θυρῶν. と言ってもよく、この場合は主格ということになる。


練習 22. (49 頁)


1. 模範解答にはアオリスト不定詞 διῶξαι と現在不定詞 διώκειν とが併記されている。前者を使った場合は「追う」という行為そのものを単純に示し (不定詞の場合、時間的に過去という含みはかならずしもない)、後者であれば「(時間をかけて) 追っていく」という継続あるいは「追いはじめる」という始動の感じが出てくるように思う。遂行せよと命じられている行為そのものは同一であって、あくまで話者がその行為をどのようにイメージしているかという問題。45 頁の動作態に関する説明を確認せよ。

2.「ものである」という問題文から格言のニュアンスを読みとりアオリストを使うのが出題の意図だが、もちろん μαστεύουσιν と現在で言っても間違いということはない。οἱ ἄνθρωποι という定冠詞ですでに「およそ人間というものは」という一般論の感じは含まれている。


第六日


練習 24. (53 頁)


5. また「ものである」という一般論ふうの言いかただが、解答は現在形を使っている。これは「しばしば」という副詞が習慣・反復を含意する現在時制と相性がよく、反面アオリストとは相性が悪いためであろう。


練習 25. (57 頁)


1. 主語を明示しない 3 人称複数の動詞によって、とくに誰ということもない「人々」による行為を表しており、日本語では解答のとおりあたかも受動態のように訳すと自然。

7. 模範解答に誤字:棒げて → 捧げて。

8. καταλιπεῖν は καταλείπω の第 2 アオリスト不定詞。

9. εἰσβαλεῖν は εἰσβάλλω の第 2 アオリスト不定詞。


練習 26. (58 頁)


1. 衍字:閉めてくおく → 閉めておく。

3. 同じ動詞 εἰσβάλλω を使っているにもかかわらず、前の練習 25-9. では τὴν χώρᾱν は裸の対格、こちらの解答では εἰς τὴν χώρᾱν と前置詞つきになっている。これは後者のほうが散文的でありふれた言いかたのように思える。


第七日


60 頁 4 行め「その森に美しい」とあるがもちろん「その森は」の誤字。


練習 27. (61 頁)


単語欄に誤字:ἕτοιμος 用意のてきた → できた。

3. μόνη は Δίκη に対する述語的同格で、「ディケーだけが・ディケーが唯一……免れえない」のように副詞的に訳せる。ἀπαραίτητος は男女同形で、-ος であろうとここは女性単数主格である。

9. この ἀβέβαιος, ἀβεβαίοις も上と同様、女性単数主格と女性複数与格。さきの ἀπαραίτητος もこれも、否定の接頭辞 ἀ- がついた派生語であってこういうものはたいてい男女同形。

10. 説明していないくせに対格不定法構文 (accusativus cum infinitivo) の間接話法を本格的に使いはじめた。λέγω のような伝達動詞はこのように、ὅτι (英 that) のような接続詞を使わなくても、対格の主語と不定詞の動詞でもって文を引用することができる。これは直接話法に直すと Πλάτων λέγει : « ἡ παιδείᾱ τοῖς ἀνθρώποις δεύτερος ἥλιός ἐστιν. » というところを、被引用文の主格主語 ἡ παιδείᾱ ならびにそれに一致する述語 δεύτερος ἥλιος を対格に、また定動詞 ἐστίν を不定詞に変えた間接引用の形である。


練習 28. (62 頁)


2.「美しい樹木」は複数形 καλὰ δένδρα で訳しても悪いことはあるまい。そのさい中性複数の主語には 3 人称単数の動詞を使うので動詞は ἐστι であることに注意。

5. 前の練習 27-10. の解説を参照。主文の伝達動詞が不完了過去 ἔλεγε に変わっているが、被引用文の動詞は現在不定詞 εἶναι のままである。不定詞の時制はいわば相対時制であって、現在不定詞の表すできごとは話者から見た「現在時」ではなく、主文と「同時的」なできごと (この場合なら過去における現在) を表すのでこれでよい。そのためそもそも不完了過去の不定詞というのは存在しない。


練習 29. (65 頁)


4. 誤字:εἰναι → εἶναι。


練習 30. (65 頁)


5. これは模範解答がおかしい、というか問題文の括弧内がすでに変である。練習 29-1. と比べてみると、与格の人に ἦν ἔχθρᾱ「憎しみがあった」といえばもちろん与格の人が敵意の持ち主であるから、解答のとおりなら兄弟たちが主人を憎んでいたことになる。問題の本文を訳すなら τῷ δεσπότῃ ἦν ἔχθρᾱ τῶν ἀδελφῶν (または πρὸς τοὺς ἀδελφούς). が正しい。このさい ἔχθρᾱ に定冠詞 ἡ はかならずしも必要ではない、というより「兄弟への憎しみ」が新情報であるのだからつけないほうが日本語の感じに近いであろう。


週末訳読


金言集 (68 頁)


単語欄の誤字:ἀδόλεσχος → ᾱ̓δόλεσχος (問題文 6. では正しくマクロンがついている)。

7. κακόν が中性名詞として扱われており、δυσπάλαιστον はこれを修飾している。

10. τὰ χρηστὰ πρᾱ́ττειν「よいことを行うこと」が主語、ἔργον ἐλευθέρου が述語ととっているが、冠詞はない (τά は χρηστά を中性名詞化しているだけで、不定詞そのものは無冠詞) のでべつに逆にとってもかまわない:「自由人の (なすべき) 仕事は、よいことを行うことである」。

vendredi 9 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (1)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) は珍しくも練習問題の解答がついているギリシア語の学習書であるが、そのなかの一部、語形変化の練習をさせる問題 (練習 2, 5, 8, 15, 18) については、変化表のとおりとして解答が省略されている。ここではそれについて全問の解答を与えておく (この記事では第一週第四日までを扱い、練習 18 のみ次回に送る)。

また山ほどある希文和訳・和文希訳の問題についても、解答じたいは完備されているのだが最終的な答えだけで解説はないため、まったくの初心者にとっては説明不足に感じられるのではないかというおそれが多い。そこで、はなはだ不徹底ではあるが、私が思いつくままに解説めいたコメントをつけてみることにした。なるべく初心者のかゆいところに手が届くようにということを念じたが、どこまでくどくど説明すべきかは悩みどころで、一貫しない感じを与えるかもしれない。

目次リンク:[第一週] 第一日・第二日・第三日・第四日・第五日・第六日・第七日・週末訳読・[第二週] 第一日・第二日・第三日・第四日第五日・第六日・第七日・週末訳読


第二日


練習 2. (15 頁)


単 πρᾱ́ττω, πρᾱ́ττεις, πρᾱ́ττει, 両 πρᾱ́ττετον, πρᾱ́ττετον, 複 πρᾱ́ττομεν, πρᾱ́ττετε, πρᾱ́ττουσι(ν).

単 κελεύω, κελεύεις, κελεύει, 両 κελεύετον, κελεύετον, 複 κελεύομεν, κελεύετε, κελεύουσι(ν).

単 φεύγω, φεύγεις, φεύγει, 両 φεύγετον, φεύγετον, 複 φεύγομεν, φεύγετε, φεύγουσι(ν).

単 λέγω, λέγεις, λέγει, 両 λέγετον, λέγετον, 複 λέγομεν, λέγετε, λέγουσι(ν).

単 ἔχω, ἔχεις, ἔχει, 両 ἔχετον, ἔχετον, 複 ἔχομεν, ἔχετε, ἔχουσι(ν).


練習 5. (19 頁)


両数ではつねに主=呼=対、属=与、複数では主=呼なので、見やすさのため重複は省略した。さらに中性名詞では三数ともつねに主=呼=対なのでこれも繰りかえさなかった。

単 ὄνος, ὄνε, ὄνον, ὄνου, ὄνῳ, 両 ὄνω, ὄνοιν, 複 ὄνοι, ὄνους, ὄνων, ὄνοις.

単 φίλος, φίλε, φίλον, φίλου, φίλῳ, 両 φίλω, φίλοιν, 複 φίλοι, φίλους, φίλων, φίλοις.

単 φόβος, φόβε, φόβον, φόβου, φόβῳ, 両 φόβω, φόβοιν, 複 φόβοι, φόβους, φόβων, φόβοις.

単 ῥόδον, ῥόδου, ῥόδῳ, 両 ῥόδω, ῥόδοιν, 複 ῥόδα, ῥόδων, ῥόδοις.

単 τόξον, τόξου, τόξῳ, 両 τόξω, τόξοιν, 複 τόξα, τόξων, τόξοις.

単 ἴον, ἴου, ἴῳ, 両 ἴω, ἴοιν, 複 ἴα, ἴων, ἴοις.

単 δένδρον, δένδρου, δένδρῳ, 両 δένδρω, δένδροιν, 複 δένδρα, δένδρων, δένδροις.


練習 6. (19 頁)


9. φόβον ἵππων「馬の恐怖」という句があったとき、その属格は「馬に対する恐怖=馬を恐れる」という目的語的属格と「馬が抱く恐怖=馬が恐れる」という主語的属格、いずれにもとれる。それは文脈しだいである。この文では動詞が ἔχετε という 2 人称複数であって、「君たちは馬が恐れているか」では意味が通らないので、「君たちは馬を〜」と理解できるわけである。

10. 注 (ニ) にあるとおり、この文の与格 φίλῳ は λέγει にかけて「友人に向かって言う」ともとれるし、πέμπειν にかけて「友人のために送る」とも、どちらで理解してもよいのである。後者であれば発言の相手が、前者なら送る相手が明示されていないということ。


練習 7. (20 頁)


2.「おそれる」という動詞はまだ習っていないので、前の練習 6-9. に倣って φόβον ἔχειν+属格で言えばいいと判断する。ちなみにこの文と続く 5. で、問題文は「友よ,」「子供たちよ,」と呼びかけで始まっているのに、模範解答では呼格 ὦ φίλε, ὦ τέκνα は文末に置かれていることにも注目しよう。前の練習 6-7. も同様で、じつはこれは偶然ではない。呼格は「アッティカ散文では文初にあることは例外で,この位置は強意を伴う」(高津『ギリシア語文法』251 頁)、すなわち文頭以外に置くほうがふつうの言いかたなのである。この文ではたとえば « ἔχεις, ὦ φίλε, φόβον ὄνων ; » のように文中に挟むことも可能である。


第三日


練習 8. (23 頁)


女性形はまだ出ていないので、形容詞は男性形と中性形のみ解答を与える。練習 5. と同様、同形の格はまとめる。

単 ζυγόν, ζυγοῦ, ζυγῷ, 両 ζυγώ, ζυγοῖν, 複 ζυγά, ζυγῶν, ζυγοῖς.

男・単 ἀγαθός, ἀγαθέ, ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθοί, ἀγαθούς, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.
中・単 ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθά, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.

男・単 κακός, κακέ, κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακοί, κακούς, κακῶν, κακοῖς.
中・単 κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακά, κακῶν, κακοῖς.

単 ποταμός, ποταμέ, ποταμόν, ποταμοῦ, ποταμῷ, 両 ποταμώ, ποταμοῖν, 複 ποταμοί, ποταμούς, ποταμῶν, ποταμοῖς.

男・単 μῑκρός, μῑκρέ, μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκροί, μῑκρούς, μῑκρῶν, μῑκροῖς.
中・単 μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκρά, μῑκρῶν, μῑκροῖς.


練習 9. (25 頁)


9. οὐ ... ἀλλὰ ... の対比を活かすならば、「我々が友人を知るのは言葉によってではなく行いによってだ」と訳してもかまわない。次の練習 10-3. の問題文と見比べよ。


練習 10. (25 頁)


2.「五頭の馬で」は与格であるが、πέντε の形は変える必要がない。1 から 4 までの数詞は性と格によって曲用するのだが、5 以上は無変化なので簡単であり、なぜ練習 6. 以来ずっとこの数字を使っているかというとそういう事情である。

4.「神々を恐れること」はもちろん ὁ φόβος τῶν θεῶν のように属格句を外側に出してもいい。5. も同様、οἱ λόγοι τῶν τέκνων も可。


練習 11. (29 頁)


1. τὰ τῶν φίλων は前頁 §24 にあるごとく、「友人たちの」という属格句に中性複数の冠詞をつけて物を表す名詞と化したもの。

4. φίλω は前頁 §25 で説明されている、「友人」ではなくて「いとしい (英語の dear)」という意味の形容詞の中性両数呼格形。


練習 12. (29 頁)


1. τὰ τέκνα と冠詞つきで言うことで「自分たちの子どもたち」という所有を含意している。練習 11. の注 (イ) のとおり。

3. 疑問詞はふつう文頭に置く (高津文法 384 頁)。

4. 呼格が文末にあることについてはすでに上で練習 7-2. について解説したことを参照。ἀδελφός の呼格のアクセント位置が ἀδελφέ でなく ἄδελφε となることは例外であって覚えるしかないが、第二曲用ではこれだけ。

5. κελεύω で命ずる相手は対格にとることは練習 6. の注 (ハ) で見た。


第四日


練習 13. (33 頁)


10. 最上級の絶対的用法。すなわち文字どおり「もっとも多くの」ではなく、とくに比較対象を定めずたんに「きわめて多くの」の意。


練習 14. (34 頁)


5. 解答で εἰκάζομεν のアクセントが抜けている。


練習 15. (37 頁)


ἀναφέρω:単 ἀνέφερον, ἀνέφερες, ἀνέφερε(ν), 両 ἀνεφέρετον, ἀνεφερέτην, 複 ἀνεφέρομεν, ἀνεφέρετε, ἀνέφερον.

ἀντέχω:単 ἀντεῖχον, ἀντεῖχες, ἀντεῖχε(ν), 両 ἀντείχετον, ἀντειχέτην, 複 ἀντείχομεν, ἀντείχετε, ἀντεῖχον.

διαφέρω:単 διέφερον, διέφερες, διέφερε(ν), 両 διεφέρετον, διεφερέτην, 複 διεφέρομεν, διεφέρετε, διέφερον.

συλλέγω:単 συνέλεγον, συνέλεγες, συνέλεγε(ν), 両 συνελέγετον, συνελεγέτην, 複 συνελέγομεν, συνελέγετε, συνέλεγον.

μεταγράφω:単 μετέγραφον, μετέγραφες, μετέγραφε(ν), 両 μετεγράφετον, μετεγραφέτην, 複μετεγράφομεν, μετεγράφετε, μετέγραφον.

ἐκπέμπω:単 ἐξέπεμπον, ἐξέπεμπες, ἐξέπεμπε(ν), 両 ἐξεπέμπετον, ἐξεπεμπέτην, 複 ἐξεπέμπομεν, ἐξεπέμπετε, ἐξέπεμπον.


練習 16. (37 頁)


8. Ἀλεξίθεος と ὁ Ἀθηναῖος は同格「アテーナイ人であるアレクシテオス」。μέν ... δέ は 2 つのものを対比し、そのさい対比する語句がそれぞれ 2 語以上であれば 1 語めの直後に置く、ということに注意して文の構造を理解する。したがってこの文全体の成り立ちは、まず Ἀλεξίθεος ὁ Ἀθηναῖος τῶν ἀνθρώπων までは共通で、次で枝分かれをして τοὺς χρηστοὺς ἐν τοῖς λόγοις と τοὺς ἀχρήστους κατὰ τὸν βίον との 2 つ* を対比しており、ここでまた合流して動詞 ᾔκαζε が両者を共通の目的語にとっているという形。

* この文の場合これら 2 者は別々のものではなく、同じ人々の 2 種の側面を言ったものと解せるが、μέν ... δέ では別個の 2 つを対比することも多いので、「枝分かれ」とイメージしておくと便利だと思う。対比される 2 者は形式上もパラレルになることがしばしばで、2 行に並べて書いてみると見やすい。今回ならどちらも τοὺς (ἀ)χρηστους+前置詞句という形。