mercredi 23 septembre 2020

中山『ラテン語練習問題集』の難所および疑問点 (第 21 課から)

前回の記事の続きで、中山恒夫『ラテン語練習問題集』(白水社、1995、新装版 2009) を最後まで解き終わったので、第 21 課以降で私が引っかかった箇所や誤記と思われる箇所について覚え書きを残しておく。


練習問題 XXI


1. 3) eō は指示代名詞 is の男性単数奪格で、quod adest の先行詞となり原因の奪格。

1. 12) « G. (= Gāius) Iūlius Caesar » とあるが、イニシャルで書く場合は C. の間違い (cf. 第 16 課 5 節、練習問題 XIX 3. 1).)。

1. 14) 問題文の pugnāvērunt は語幹の ū にマクロンが欠けている……と思ったが、べつの本では pugnō だったりする。だがこの本の単語集では pūgnō で立項されているし、これまでの説明や問題文 (たとえば第 8 課 6 節、練習問題 VIII 4. 8) などなど。また練習問題 X 4. 3) などにおける expūgnō も同様) も一貫してそうだったはずである。

2. 4) 問題文は vēre「春に」なのに解答の訳が「夏に」になっている。

2. 20) « Fugientēs urbibus receptī sunt. »「逃げる人々は町々に迎え入れられた」。私は奪格 urbibus を「町々から」と思いこんだのと、単語集で recipiō が「取り戻す」の語義しか載っていなかったこともあいまって、「町から逃げる人々は取り戻された=ふたたび捕まった」のかと考えた。このように読むには ab urbibus と前置詞が必要だろうか?

5. 9) « Discite, dum occāsiō discendī est ! » いちおう est を選んで正解はしたが、選択肢にある未来 erit は絶対にだめなのだろうか? 「学ぶ機会があるかぎりずっと」でも通りそうなものだが。

練習問題 XXII


2. 4) および 5) 接続法の時制の使いかたがどうもわからない。ut 節には完了は来ないのだろうか? 「順風がなかった」(前半が過去完了) とか「橋はきわめて早く完成した」(前半は完了) とか一回的なできごとなので、過去完了や完了だと思って habuisset, perfectus sit と書いてしまったが、正解はどちらも接続法未完了 habēret, perficerētur だった。未完了が過去の同時性であることは当然わかるが、とくに後者はアスペクト的に腑に落ちない。

5. 例.cōpiās の o にマクロンがついていない。

7. 4) 例および残りの 4 問のように主文の主語を奪格にするのではないところが難しい。かならず主文の主語をそうするのかと思って、完了受動分詞で Lēgātō ā nūllō hoste prohibitō と書いたが、そうすると後半の動詞 potuit が浮いてしまう。しかしこれも不定の 3 人称複数 potuērunt に変えればいけるだろうか?(文意からして不定主語は不可能?)

練習問題 XXIII


2. 1) ここまでずいぶん類題をこなしてきたが、そもそもこの分詞構文などに書きかえよという問題ではどれくらい同じ意味・ニュアンスが保たれているのか、解答集には書きかえ前の訳文しか載っていないのでわからない。書きかえられるということはもちろんおおむね同義のはずだが、今回の問題は本当にそうなのか疑わしい。« Carthāginiēnsēs, quamquam pācem petīverant, impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » に対して « Carthāginiēnsēs pāce petītā impetum in nāvēs Rōmānās fēcērunt. » というのが模範解答だが、前者では「講和」を求めているのは明らかにカルタゴ人であるのに対し、後者の「講和が求められていながら」という絶対奪格からは、講和を求めていたのがカルタゴ人だったことが本当に読みとれるだろうか。この後者の文だけを切りとって見ると、むしろローマ側もしくは不定一般の世論によって平和が求められているところをカルタゴ人が一方的に攻撃したような感じを受けないか。もしそうだとすればこの書きかえという問題はどうして可能になるか。

5. 例.書きかえ後の fīliī が書きかえ前では filiī となっている (マクロン欠)。

6. 3) および 7) 解答が ut ... nōn になっているが、願望文や目的文が否定の場合 nē を使うのではなかったのか?(cf. 第 9 課 4, 6 節)

練習問題 XXIV


2. 2, 6, 7) 問題がこのとおりならば、対応する第 24 課 2 節 (ferō の複合語) の説明がよくない。その節では 2) に現れる intulit < īnferō が一覧から漏れているほか、differō には「延ばす」、cōnferō は「比べる」の語義が与えられているところ、問題では「異なる」および「集める」の意味で使われている (cōnferō は 9) では「比べる」の意味に使われているからまだしも、differō「延ばす」はこの練習問題 XXIV 全体を通してどこにもない)。ついでに 7) の問題文で ūnum のマクロンが欠けている。

3. 8) ラテン語がわかるだけでは解けない問題。というのは aestāte exeunte「夏の終わりに」と ineunte vēre「春の初めに」の現在分詞を入れる空欄は、交換して「夏の初めに」「春の終わりに」のように埋めても文法的に成り立つから。一方で動詞 abit と redeunt の欄は主語の数 (magna avium pars の単数と omnēs の複数) が異なるためちゃんと決まるのでよい。

4. 2) metuī は第 4 変化名詞 metus, -ūs, m.「恐怖」の与格と同形だが、そうではなくここは動詞 metuo, -ere, -uī「恐れる」の不定法受動態現在である (直説法能動態完了 1 単とも同形でたいへんややこしい)。

4. 8) « cum nōlueris, nōn potuistī. »「欲しなかったからできなかったのだ」は理由の cum なので接続法完了 (第 10 課 3 節)。

5. 2) 解答の訳文が「ぼくは」となっているが、faciēmus (直・能・未来 1 複) なので「ぼくたちは」。

5. 3) 問題文 fīliī のマクロン 1 つ欠 (解答のほうは正しい)。

練習問題 XXV


1. 8) ここが初出でもないのでいまさら書くことではないのだが、いま気づいたので。単語集で「flūmen, -imis, n. 川,流れ」となっているが、これでは属格が *flūmimis になってしまう。-inis の誤植。

練習問題 XXVI


3. 2) 問題文 longitūdinem のマクロン欠。

4. 3) 問題の指示が直説法未完了過去だったので patiēbantur と書いたのだが、解答が paterentur (接続法未完了過去) になっていた。これは解答の誤り。

5. 3) fēceris は直説法未来完了ではなく接続法完了、間接疑問のため (第 25 課 4 節)。

9. 1, 2, 3)「主格を属格か奪格のどちらかに変えなさい」という問題で、問題文の括弧内は単数なのに解答は複数になっている。4) と 5) では括弧内が複数主格の dīvitiae, iniūriae になっているとおり、数を変えろとは書かれていないのだから問題文を複数に直すべき。

9. 2) Nē glōriātus sīs は接続法完了だが、この完了は禁止の言いかたであって過去の意味はない (第 24 課 6 節。また松平・国原『新ラテン文法』§613 によればこれは nōlī + 不定法現在に比べてより強制的なニュアンスという)。

練習問題 XXVII


2. 5) « Caesar metuit, nē hostēs noctū ex oppidō (profugere). » の動詞を適切な時制の接続法に変えよという問題。だが主文の動詞 metuit は 3 単では直説法現在と完了が同形であり、そのうえ文意から副文は同時でも以前でも成りたつため、4 通りの答えが可能のように思われる:つまりカエサルは敵が夜のうちに町から「逃げないかと恐れる/恐れた」「逃げてしまったのでないかと恐れる/恐れた」、順に接続法現在 profugiant, 未完了過去 profugerent, 完了 profūgerint, 過去完了 profūgissent。ちなみに模範解答は 2 番めで私も正解したが、それは前問までの流れから見て未完了を書かせたいだろうなという忖度による。

3. 4) 問題・解答ともに mīlle のマクロン欠。

5. 5) ヘルウェーティイー族とゲルマーニー人の 2 民族が出てくるが、日本語ではどちらも「彼ら」と訳しうる代名詞のうち、指示代名詞の eōs, eōrum は一貫して G. のほうを指し、文の主語である H. は再帰所有形容詞 suīs か強意代名詞 ipsī で受けられている。このうち副文中 2 つめの aut の次に出る ipsī は主語の述語的同格「自分たち自身でも」。主文の cottīdiānīs ferē proeliīs「ほとんど毎日の戦闘で」は奪格だと思うが正確に何の奪格かはわからない (時や場所? 手段?)。ちなみにこの問題文は『ガリア戦記』I 巻 1 章 4 節を少し改変したもの。

5. 6) commīsērunt < committō は単語集では「(悪事などを)行なう,犯す」としか書いておらず、解答の訳文にある「開始する」の意味が載っていない (水谷羅和には 4 番めの語義として挙げられており、「proelium [pugnam] committō 会戦する」というイディオムとしても出ている)。

練習問題 XXVIII


2. 2) ānserēs Iūnōnī sacrī「ユーノーに捧げられたガチョウ」を見ると sacer に「〔与〕に捧げられた」の意味があることがわかるが、単語集には「神聖な」としかなく自力でこのようには訳せない。最終段 Rōmānīs はふつうの利害の与格「ローマ人にとって」、salūtī fuit は目的の与格「救いであった」(第 18 課 6 節の例にはないが、『標準ラテン文法』§62 [4] b.)。

2. 4) trānseundus は trānseō の動形容詞の男性単数主格で Rhodanus に一致しており、Helvētiīs は行為者の与格 (第 19 課 3 節)。

2. 5) centuriō「百人隊長」が解答の訳文で「百人隊」になっている (脱字)。この原文は『ガリア戦記』V 巻 44 章 4 節。先行詞 pars hostium が関係文のなかにとりこまれたもので、主文では対格であるべきところ。Kelsey のテクストでは主文に in eam と方向の対格が補われている。

練習問題 XXIX


1. 1) 単語集にミスあり。「pulvis, -is, m. 砂」となっており、これでは属格形が pulvis になってしまう。正しくは pulveris なので pulvis, -eris。

2. 12) quō には先行詞がなく、関係代名詞の奪格というよりは「そこへ」という副詞ととるのがよいかもしれない:「そこへ投げ槍が届きうる (ところの範囲) よりも遠く離れてはいなかった」。原文は『ガリア戦記』II 巻 21 章 3 節改変。

2. 13) 関係文のなかの主語 (非難される対象) は tū かと思い reprehendāris としてしまったが、quae が主格 (= inertia tua) だからそれは不可能か。

練習問題 XXX


1. 9) 問題文 virtūte のマクロン欠。

2. 2) postulāta は中性複数対格 (少なくとも旧版の単語集では postulātum が補遺に隔離されていて見つけづらい)。出典は『ガリア戦記』I 巻 44 章 1 節および 7–8 節省略改変。

2. 3) 出典はリーウィウス『ローマ建国史』XXXIV 巻 11 章 5–6 節改変、ただし冒頭のみ『ガリア戦記』I 巻 31 章 2 節と混合している。第 2 文の repulsos ab Rōmānīs は不定法句の対格主語 sē に一致した男性複数対格で、「追い返されたら」という条件を与えている述語的分詞句 (第 23 課 1 節)。第 3 文 speī は nihil にかかる配分の属格 (第 15 課 5 節、および練習問題 XV の 7. 4) と関連)。

2. 4) 出典はスエートーニウス『ローマ皇帝伝』II 巻 (アウグストゥスの巻) 28 章 5 節改変。quam は urbem < urbs を受ける関係代名詞の女性単数対格で、関係文のなかの latericiam は述語的分詞のかわりをする形容詞「煉瓦造りであるときに (であるものとして)」か。

2. 5) 出典は『ガリア戦記』IV 巻 16 章 5–6 節一部省略。reliquī は temporis にかかる中性単数属格であって、relinquō の完了 relīquī とは第 2 音節の長短が違う。最後の futūrum は未来不定法の esse が省略されたもの (主語は対格の id なので未来分詞が中性単数対格)。

2. 6) 出典は『ガリア戦記』I 巻 31 章 3–5 節改変。最初のコロン以下、Haeduī et Arvernī は外置されているが次の cum 節の中にある主語で、歴史的または時の cum なので contenderent は接続法未完了。主文の動詞は factum esse であり、これは ut の導く名詞的結果文を伴う非人称の fit < fīō の完了時制の不定法である (第 22 課 2 節、ならびに練習問題 XXII 2. 3) をとくに参考。非人称なので中性単数、ディーウィキアークスの語る間接話法だから不定法句)。最後の trāductōs esse は不定法受動態完了・3 人称男性複数=plūrēs「いっそう多くの〔ゲルマーニー〕人たち」に一致。


終盤のほうで何度か問題文の出典箇所を探ることに努めたが、『ガリア戦記』からの採用がずいぶん多いことが見てとれる。解答上とくに注意点がなかったので触れなかったが、最後の大問では 1) も『ガリア戦記』I 巻 42 章 4 節である。

ラテン語の勉強のために『ガリア戦記』を読もうとする場合、ラテン語原文と比べるには岩波文庫の近山金次訳がいちばん直訳に近く忠実で便利かと思う。逆に講談社学術文庫の国原吉之助訳は日本語としてうますぎる箇所が多いため、対照のためよりは読書としてそのものを読むのに向いている、あるいは達意の訳文がゆえに高い目標として掲げるのもありかもしれない。平凡社ライブラリーの石垣憲一訳は両者の中間という感があり、前 2 者よりも後発かつ大人数の勉強会から生まれた産物というだけあって、まじめな作業を経た可もなく不可もなしという翻訳。ただし近山訳の注釈がずいぶん学問的にすぎるのに対して、この石垣訳は地理的その他の背景情報につきかゆいところに手が届く適切なレベルで初心者の目線に立っており親切である。岩波から出た単行本の高橋宏幸訳は現在最新の翻訳で評判も高いが私は現物未見。なお I 巻に限れば大学書林から遠山一郎訳注の対訳本も出ており、(言) 語学的な注解が豊富で役に立つ。以上のほかにも若干のものがあるがわざわざ言及に値しない。

vendredi 11 septembre 2020

中山『ラテン語練習問題集』の難所および疑問点 (第 20 課まで)

中山恒夫『ラテン語練習問題集』(白水社、1995、新装版 2009) の大半を解き終わったので (全 30 課のうちの 20 課。後のほうほど注記が長くなりそうなのでいったんここで切っておく)、その過程で私が間違えた箇所、難しいと感じた箇所について、たんなる覚え間違いや不注意のミスは除き、後続の学習者にも役に立つかもしれない点に絞って覚え書きを残しておく。

私の手元にあるのは新装版になるまえの旧版のおそらく最後の刷 (2005 年 3 月 30 日第 4 刷) であり、以下に記す誤植等の指摘のなかには新装版ですでに解消されているものもあるかもしれない。

ところで旧版の別冊解答・単語集が新装版では巻末に一体化されてしまったというが、何百回何千回と開かなければならない解答・単語集は別冊のほうが望ましいことは学習していれば誰でも実感されることであり、これは残念な改悪である。しかしもしこのために古本で手に入れようとする場合は、別冊や付録というものは失われていることが多いので注意されたい。



練習問題 I, II, III ― とくになし


練習問題 IV


6. 5) 問題文中 porcōrum < porcus, -ī, m.「豚」が単語集 P の欄に出ておらずミスかと思ったが、単語集最後のページの補遺に含まれていた。初刷では抜けていたものを追加したということだろうが、気づきにくい。新装版ではちゃんと順番どおりの箇所に入れられているとよいが。

11. 1) 動詞 dōnō「…に〜を贈る」には、日本語の感覚で自然な「与格の人に対格の物を」だけでなく、「対格の人に奪格の物を」という語法がある。すぐ前の 8. では与格の puellīs に対格の pōma を与えていたこともあって、この問題の suam fīliam, ... fīliam vīcīnī pōmīs では (pōmīs が与格と奪格で同形ゆえ) 与格と対格が逆でないかと悩み時間をとられた。

練習問題 V, VI, VII ― とくになし


練習問題 VIII


1. 5) 受動文に変えるという問題。Quid が主語かと勘違いし対格目的語が見あたらず戸惑ったが、これが対格で主語は明示されていない不定の 3 人称複数だった。

6. 例の書きかえ後の文、ならびに 7. 6) 問題文の文末にピリオドがない。

練習問題 IX


4. 2) 動詞 sacrificāmus, sacrificēmus < sacrificō は付属の単語集によれば他動詞で「犠牲に捧げる、供える」とだけ出ているが、この問題文 (のみならず他のほとんどの箇所でも) には対格目的語 (捧げられるもの) が含まれていない。ここでは自動詞として使われているものと思われる。

練習問題 X


2. 4) および 5) 問題文で Troia, Troiam の o の上にマクロンがついていない。

3. 4) および 6) 問題文の重文が〈直説法完了,直説法未完了過去または完了〉となっているところ、cum を使う複文で〈Cum + 接続法過去完了,直説法未完了過去または完了〉に直すもので、どうやら副文中の接続法は相対時称ということを使うべき問題であった。だが正解がこうなるということは、直説法の問題文の意味はたんに完了時制の 2 つの動詞を並列するだけで (たとえば現代フランス語における単純過去のように) その順の時間的継起・先後関係が決まるのだろうか? それともこの 2 文ではたまたま文脈からそうなったということ?

練習問題 XI


1. 1) 解答が « Sī mūrus oppidī aedificātus, erit, incolae tūtī erunt. » となっており、erit の前のコンマが誤植。

4. 7) 解答の末尾が firmātī erat となっているが、主語 aditūs は複数だし完了受動分詞 firmātī も男性複数であるとおり、erant の間違いであろう。

練習問題 XII, XIII ― とくになし


練習問題 XIV


2. 5) 動詞 dīligitis < dīligō の訳語が解答では「選出する」となっているが、付属の単語集はもとより水谷『羅和辞典』にもそういう語義は載っていない。単語集の訳語「尊敬する,敬愛する」でもふつうに通る文なので、解答の誤りか (参考までに、のちの練習問題 XVI の 1. 3) にある類似の文では同じ動詞が「尊敬した」と訳されている)。〔追記:たぶん dēligō「選ぶ」と混同したのだろう。〕

練習問題 XV


1. 4) 問題文の quod, quae から推して答えは正しく書けたが、なぜそうなるのかはわからない。前半は中性単数対格、後半は中性複数対格のようだが、考える内容が複数?

練習問題 XVI


1. 5) melle < mel, mellis, n.「蜜」が付属の単語集 (補遺も含めて) に載っていない。

7. 4) 解答および単語集 (diū の項) ともに間違っており、比較級 diutius、最上級 diutissimē の ū は長い (cf. 練習問題 XXIV 1. 6) は正しく diūtius とつづっている)。

8. 1) 単語集には vacō, -āre の語義が「空いている;暇である」しか載っておらず、「((ā +) 奪) を欠いている・から免れている」がないと vacāre culpā の意味を正しくとれない (「罪によって暇である」かと勘違いした:職を失ったのか、それとも蟄居や禁固刑みたいなことか)。それを抜きにしてもこの文は、māius と sōlācium が離れていて述語形容詞 (「逆境において慰めは大きくない」) にも見えるため、nōn est が (非) 存在であることに気づくのがなかなか難しい。

練習問題 XVII


1. 8) 同じ語の省略と考えてどちらも属格 alterīus を埋めたが、正解は後者が与格 alterī だった。だが « Duae deae [...]. Herculēs alterīus cōnsilium neglēxit, alterīus autem (cōnsiliō) obtemperāvit. » でも通るのではなかろうか? じっさい、続く大問 4. のいくつもの文ではそのような省略をしている:たとえば 2) « Fābulae hūius librī nōbīs placent, illīus displicent. » の後半における属格 illīus など。obtemperō が人でなく助言を与格目的語にとれるかどうかがネックか。

練習問題 XVIII


1. 10) perīcula maris ingentis「巨大な海の危険」にあうよう ingēns「巨大な」を変化させる問題だが、私は「危険」が「巨大」なものかと思い中性複数対格 ingentia にしてしまった。同じく 5) の 3 つめの空所 scholīs philosophōrum (nōbilis → nōbilium)「有名な哲学者の学校」も、「学校」のほうが「有名」だと思えば nōbilibus になる。別解として可能かと思われる。

4. 5) temerē「無謀に」(水谷羅和では「3 無分別に,むこうみずに」) が、(その派生前と思われる語も含めて) 単語集に載っていない。

5. 8) custōdīrī の現在 3 単。解答が custōditur となっているが、custōdītur の誤りだろう。

練習問題 XIX


1. 3) 解答の訳文が「使者の亡骸」となっているが、corpus mortuī なので「死者」の誤変換。

1. 6) これはべつに間違いの話ではないが、quae (中性複数) と hominēs はどちらもそれぞれ主格と対格が同形だから、問題の関係文は「人間を体力で凌ぐ動物」だけでなく逆に「人間が〜」と解することも文法的には可能である。その場合は現在分詞句には書きかえられず、完了受動分詞を用いて numerus animālium ā hominibus vīribus corporis superātōrum とでもなろうか。ちなみに vīribus corporis「体力において」は関係・限定の奪格 (第 12 課 1 節)。

1. 8) 文頭の laetī は主語 (私たち) の精神状態を補足する述語的同格 (第 17 課 2 節)。

3. 素朴な疑問として、ローマ数字で書くとき基数と序数を書き分ける方法はラテン語にはないのか? たとえばドイツ語では序数には 21. Jahrhundert のように点をつけて区別するし、英語やフランス語その他では -th や -e といった語尾を数字につけて表すところだが (序数標識という)。

練習問題 XX


3. 1) magis necessārium の直後に est が省略されている。nōn sōlum sibi「自分にだけでなく」の sōlum が sibi にあわせた与格にならないのは nōn sōlum ... sed etiam ~ でイディオム化しているためか?

3. 3) Plūrēs equī が文の主語で、sunt は存在。したがって vīcīnō と patrī は所有者の与格 (第 10 課 6 節)。ぼさっと眺めて雰囲気で訳していると「隣人の馬は父のより多い」なのになぜ属格でないのだろうなどと悩むことになる。

4. 1) 解答は « Studium reī pūblicae virō Rōmānō maximē necessārius fuit. » となっているが、主語は中性単数 studium なので necessārium になるのではないのか。この magis, maximē によって分析的な比較級・最上級を作る場合に、もとの形容詞 (いまなら necessārius) のほうの語尾がどうなるのか労を厭わず説明してある本はきわめて少ないが *、探せば小林『独習者のための楽しく学ぶラテン語』§122 (120 頁) には magis, maximē idōneus (-a, -um) という記述が見つかった。そもそも先述の 3. 1) にも magis necessārium の形が出ている。

* 泉井『広文典』も呉『入門』も松平・国原『新ラテン』も樋口・藤井『詳解』も中山『標準』も、無精して -us の形しか書いていない。ためにこういうミスが生じるわけである。田中『初歩』と有田『インデックス式』には magis, maximē による分析的比較級について言及そのものがない。

4. 2) 同上。主語 plērīque canēs は男性複数なので、答えは maximē idōneus ではなく maximē idōneī になるはず。

5. 1) iī は指示代名詞 is の男性複数主格で、続く quī 関係節の先行詞となり文全体の主語。

5. 4) これも主動詞が存在の erat。私は文頭の Italiae を属格と思って次の空欄に īnferiōris を入れてしまった、というのはこの属格句が後ろの nōmen を限定し「下部イタリアの名前は……大ギリシアだった」というコピュラ文だと考えたから。これでもいちおう通るのでは?

5. 8) 解答が propius となっているが、これが修飾する castra は中性複数対格なので propiōra の間違いだろう。

7. 3) Mārcum ... agentem は現在分詞の男単対。ここは知覚動詞 vīdī < videō の目的語なので、対格不定法の agere にそのまま交換することもできようが、ニュアンスはどう違うか。松平・国原『新ラテン文法』§508 注 (176 頁) が参考になる。


〔2020 年 9 月 23 日追記〕第 21 課以降は次の記事に続く。

dimanche 5 juillet 2020

ロマンシュ語訳『星の王子さま』を読む:序文・第 1 章

Wikisource にてロマンシュ語版『星の王子さま』が公開されているのを見つけたので、それを素材に勉強してみることにする。ロマンシュ語には 5 つの方言と、その標準化を目指す人工的な文章語ルマンチュ・グリシュン (Rumantsch Grischun) があることが知られているが、今回扱うのはこのルマンチュ・グリシュン版である。

なおロマンシュ語訳『星の王子さま』はほかにもすでに諸方言のうちの 3 つ、すなわちスルシルヴァ方言 (1975 年)、スルミラン方言 (1977 年)、ヴァラーデル方言 (1979 年) に訳されていることがわかっているが、いずれも古くいまとなっては入手困難である。

ロマンシュ語の文法書は日本語では『スイス「ロマンシュ語」入門』(大学書林、2013 年) が唯一のものである。これは主にスルシルヴァ方言の文法を扱ったものだが、ルマンチュ・グリシュンについてもわずかながら記述がある。

以下の転載はライセンス CC BY-SA 3.0 に従う。


A LÉON WERTH

Jau dumond per perdun ils uffants d’avair deditgà quest cudesch ad in creschì. Jau hai ina stgisa seriusa: quest creschì è il meglier ami che jau hai sin quest mund. Jau hai anc in’autra stgisa: quest creschì è bun da chapir tut, perfin ils cudeschs per uffants. E la terza stgisa: quest creschì stat en Frantscha, nua ch’el ha fom e fraid. El ha grond basegn da vegnir consolà. Sche tut questas stgisas na tanschan betg, vi jau deditgar quest cudesch ad el cur ch’el era anc in uffant. Tut ils creschids èn stads uffants ina giada (dentant mo paucs sa regordan anc da quai). Jau curregel pia mia dedicaziun e scriv:

A Léon Werth
cur ch’el era anc in mattet


I

Cur che jau aveva sis onns, hai jau vis ina giada in grondius dissegn en in cudesch davart la tschungla. Il cudesch aveva num: ‹Istorgias vividas› ed il dissegn mussava ina boa che tragutteva in animal selvadi.

En il cudesch steva scrit: «Las serps boa traguttan lur preda entira ed entratga, senza mastegiar. Suenter n’èn ellas betg pli bunas da sa mover e dorman sis mais per digerir.»

Jau hai alura studegià ditg e lung davart las aventuras da la tschungla e la finala sun jau stà bun da far cun ina colur mes emprim dissegn.

Jau hai mussà mi’ovra d’art als creschids ed hai dumandà, sche mes dissegn als fetschia tema.

Els m’han respundì: «Pertge avess in chapè da far tema?»

Ma mes dissegn na represchentava betg in chapè. El mussava ina serp che digeriva in elefant. Alura hai jau dissegnà l’intern da la boa, per ch’ils creschids sajan buns da chapir. Els dovran gea adina explicaziuns.

Ils creschids m’han cusseglià da laschar star ils dissegns da serps boa avertas u serradas e da m’interessar plitost per la geografia, l’istorgia, ils quints e la grammatica. Uschia hai jau, cun sis onns, chalà da dissegnar ed hai qua tras manchentà ina grondiusa carriera da pictur. Jau era decuraschà, suenter che mes dissegns numer 1 e numer 2 n’avevan betg gì success. Ils creschids na chapeschan mai insatge tut sulets ed igl è stentus per ils uffants d’adina stuair declerar e declerar...

Jau hai damai stuì tscherner in auter mastergn ed hai emprendì da pilotar aviuns. Jau sun sgulà per tut il mund enturn. E la geografia, quai è vair, m’ha propi gidà. Jau era bun da distinguer cun l’emprima egliada tranter la China e l’Arizona. Quai è fitg pratic, sch’ins è sa pers durant la notg.

Tras quai hai jau gì en il decurs da mia vita blers contacts cun ina massa glieud seriusa. Jau hai vivì bler cun ils creschids ed als hai pudì observar fitg damanaivel. Quai n’ha betg meglierà fitg mi’opiniun. Cur che jau entupava in creschì che ma pareva in pau pli scort, fascheva jau l’emprova cun mes dissegn numer 1 che jau aveva tegnì en salv. Jau vuleva savair, sch’el era abel da chapir. Ma mintga giada survegniva jau la resposta: «Quai è in chapè.» Alura na discurriva jau ni da boas, ni da tschunglas, ni da stailas. Jau ma metteva sin il medem stgalim cun el. Jau discurriva da bridge, da golf, da politica e da cravattas. E la persuna creschida era fitg cuntenta d’enconuscher in um uschè raschunaivel...


ロマンス語――もっぱらフランス語とイタリア語――の知識があれば、この原文を与えられただけで少なくとも以下の文法事項を容易に推定できる:
  • 定冠詞・男単 il, 男複 ils, 女単 la, 女複 las (il と la は母音の前では l’)。不定冠詞・男 in, 女 ina (母音の前で in’)。
  • 主語人称代名詞 1 単 jau, 3 単男 el, 3 複男 els, 女 ellas。
  • 指示形容詞「この」男単 quest, 女複 questas。
  • 所有形容詞 1 単・男単 mes, 男複 mes, 女単 mia。
  • 名詞の複数形は uffant → uffants「子ども」、cudesch → cudeschs「本」、stgisa → stgisas「言い訳」のように -s がつく。creschì → creschids「大人」は過去分詞由来の名詞 (cf. 伊 crescere「成長する」) なのでそれと同じように変化する。
  • 形容詞はふつう ina stgisa seriusa のように後置。しかしときに grond basegn, ina grondiusa carriera のように前置されることもある。
  • être 動詞:直説法現在 1 単 sun, 3 単 è, 3 複 èn ; 半過去 3 単 era ; 過去分詞 stà。
  • avoir 動詞:直説法現在 1 単 hai, 3 単 ha, 3 複 han ; 半過去 1 単・3 単 aveva, 3 複 avevan ; 不定形 avair。
  • 規則動詞:不定形に少なくとも -ar, -er, -ir の類がある。直説法現在 1 単は語尾をもたない (e.g. jau dumond, jau curregel)。半過去は幹母音 + 3 単 -va (e.g. mussava, tragutteva)。
  • 複合時制の助動詞はほかのロマンス語と同様 avair と esser を使いわける。後者の例として jau sun sgulà「私は飛んだ」、tut ils creschids èn stads uffants「すべての大人は子どもだった」;したがって esser はフランス語と違いイタリア語と同様に esser を助動詞にとる。
  • 過去分詞は -ar 動詞なら -à (e.g. deditgà, consolà) で、ほかに -ì (e.g. creschì) になるものもある。これらは語末の -d が落ちていると思われ、男単以外では女単 -da, 男複 -ds (creschida, creschids) のように復活する (これはトリエステ方言にもあった現象)。
  • 受動態にはイタリア語と同じく〈esser + 過去分詞〉と〈vegnir + 過去分詞〉という 2 つの形式がある。
  • 否定はフランス語のように na (母音の前では n’) と betg で (助) 動詞をはさむ。
  • 副詞 (句) や副文など主語以外の要素が文頭に出たとき倒置が容易に起こる。