Laurence Hélix, L’Ancien français en 18 textes et 18 leçons, Armand Colin, 2014 をもとにまとめた résumé. 諸注意は最初のエントリを参照のこと.前回までのエントリ:第 1 課前半・後半,第 2 課前半・後半.
名詞と同様,形容詞も AF では 2 つの格に曲用する.名詞との違いは中性形があることで,これはたとえば中性代名詞の属詞として用いられる.
AF では 2 つの型の形容詞を区別する:多いのは 2 形 biforme と呼ばれるもので,男性と女性で異なる形を示す.もうひとつは性無変化 invariable en genre で,男性と女性でほとんど同形である.
1. 2 形 (または「性変化」) 形容詞 Les adjectifs biformes (ou « variables en genre »)
2 形形容詞は多くラテン語の -us, -a, -um〔第 1・第 2 変化形容詞〕に由来する.男性と女性でそれぞれの 1 型名詞のように曲用する.中性は無変化で〔語尾に〕s をとらない.
注意:過去分詞 participe passé はすべてこの型の変化をする;第 8 課で詳しく見るが,分詞 perduz の例を示しておく.
2. 性無変化形容詞 Les adjectifs invariables en genre
2 形形容詞には 3 つの特徴があることを見た:1. 男性で e をとらない;2. 女性で e をとる;3. 1 つしか語基 base をもたない.そういうわけで「性無変化」形容詞のなかで 4 つの型を区別する習慣である:1 型と 2 型は男性形が -e (1 型) または -re (2 型) で終わる;3 型は女性で e をとらない;4 型は 2 つの異なる語基をもつ.
―〔1 型:〕男性が -e の形容詞
変遷:AF と FM のあいだで,この型はほとんど変化しなかった;sage, jeune, noble, amable (FM aimable), humble 等々は今日も両性で語末の e をもつ.
―〔2 型:〕男性が -re の形容詞
この型は男性主格単数で s がないことで前者〔=1 型〕と区別される.しかし男性名詞 2 型 (pere, frere, ...) と同様,この形容詞も,ほかの形容詞との類推 analogie によって,男性主格単数で s をとる傾向がある.
変遷:前者と同様,FM で両性とも語末の e を保っている.
―〔3 型:〕女性で -e がない形容詞
この型の代表例の大部分は,ラテン語ですでに男性と女性が同形であった通性 épicène 形容詞に由来している.
変遷:中世以来,女性の語末に e がないのは話し手には奇妙に思われたらしく e が加えられた.FM では,grand-mère のような若干の決まった連語において,grant/d が無変化であった名残を残している.
―〔4 型:〕2 つの語基をもつ形容詞
2 つの語基をもつ形容詞の大部分は,ラテン語の総合的比較級 comparatif synthétique [訳注] からきている;これらは AF でそれほど数は多くないので,使用頻度の高いものを記憶するとよい:graindre/graignor, mieudre/meillor, mendre/menor, maire/maior, pire/peior. このカテゴリはまた,形容詞として用いられた若干の普通名詞を含む.
変遷:〔3 型の〕grant や fort と同様,女性の語末に e がないのは中世の人々には奇妙に感じられたらしい.
[訳注] 語基に男・女性 -ior, 中性 -ius の接尾辞を付したり,まったく異なる語基を用いたりすることによって,1 語で比較級を表す形.対義語は分析的 analytique で,英語の more, 現代フランス語の plus + 原級形容詞のような,2 語による比較級の作りかたを指す.
副詞は AF でも FM と同様に無変化で,動詞や形容詞やほかの副詞の意味を修飾する語である.
1. -ment で終わる副詞 Les adverbes en -ment
仕方 manière の説明のさいラテン語では,mens, mentis, f. の奪格 mente とそれに一致する形容詞とからなる副詞句 locution adverbiale を用いた.
オイル語はロマンス語の多くと同様,この副詞句を継承したが,7–8 世紀ころ,形容詞と名詞 mente との一体化が起こった.例:bona mente > bonement.
無変化形容詞では,e のない女性形の改変に伴って,対応する副詞も改変された:fortment > fortement, grantment > grandement.
2. 副詞のその他の特徴 Les autres marques de l’adverbe
― 標識 -e
AF では多くの副詞が,語末に e のない形とある形の交替を示していた:or/ore, voir/voire, encor/encore, onc/onque, ... かなり早い時期に,e のある形が副詞の「有標の marquée」形と感じられ,実際に語末の e は副詞の標識として現れた.
― 標識 -s
LC の副詞の多く (minus, magis, plus, ...) と,postius や *alioris のような後期ラテン語 bas latin のほかの副詞の形は,s で終わる.これらは現代に保たれている:moins, mais, plus, puis, ailleurs. その頻繁さのために,この s は中世に副詞の標識と考えられ,類推作用を及ぼした.たとえば semper に由来する *sempre は,ラテン語に存在しない語末の s を伴った sempres の形で AF に現れる.
NB : 語末の e と s を兼ね備えた onques, ores, lores の形もしばしば見られる.
― 標識 -ons
前置詞 a と -ons で終わる名詞からなる副詞句:a genoillons, a tatons, a chatons, a reculons, a croupetons. この形は AF ですでにまれであり,FM ではなおさらである:「手探りで à tâtons」や「後ずさりして à reculons」の決まり文句にのみ残っている.
〔音声変化の〕法則を学ぶまえに,ロマンス語学者 romaniste の音声記号 alphabet phonétique, より正確にはブルシエ Bourciez の記号,に親しんでおく必要がある.これはのちの課で説明するが,いまは以下の慣習を覚えてほしい:
第 3 課 品質形容詞と副詞/音声の問題 Les adjectifs qualificatifs et l’adverbe / la question de phonétique
第 1 部 品質形容詞 Les adjectifs qualificatifs
名詞と同様,形容詞も AF では 2 つの格に曲用する.名詞との違いは中性形があることで,これはたとえば中性代名詞の属詞として用いられる.
AF では 2 つの型の形容詞を区別する:多いのは 2 形 biforme と呼ばれるもので,男性と女性で異なる形を示す.もうひとつは性無変化 invariable en genre で,男性と女性でほとんど同形である.
1. 2 形 (または「性変化」) 形容詞 Les adjectifs biformes (ou « variables en genre »)
2 形形容詞は多くラテン語の -us, -a, -um〔第 1・第 2 変化形容詞〕に由来する.男性と女性でそれぞれの 1 型名詞のように曲用する.中性は無変化で〔語尾に〕s をとらない.
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | bons | bon | bone | bones | bon |
斜格 | bon | bons | bone | bones | bon |
注意:過去分詞 participe passé はすべてこの型の変化をする;第 8 課で詳しく見るが,分詞 perduz の例を示しておく.
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | perduz | perdu | perdue | perdues | perdu |
斜格 | perdu | perduz | perdue | perdues | perdu |
2. 性無変化形容詞 Les adjectifs invariables en genre
2 形形容詞には 3 つの特徴があることを見た:1. 男性で e をとらない;2. 女性で e をとる;3. 1 つしか語基 base をもたない.そういうわけで「性無変化」形容詞のなかで 4 つの型を区別する習慣である:1 型と 2 型は男性形が -e (1 型) または -re (2 型) で終わる;3 型は女性で e をとらない;4 型は 2 つの異なる語基をもつ.
―〔1 型:〕男性が -e の形容詞
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | sages | sage | sages | sages | sage |
斜格 | sage | sages | sage | sages | sage |
変遷:AF と FM のあいだで,この型はほとんど変化しなかった;sage, jeune, noble, amable (FM aimable), humble 等々は今日も両性で語末の e をもつ.
―〔2 型:〕男性が -re の形容詞
この型は男性主格単数で s がないことで前者〔=1 型〕と区別される.しかし男性名詞 2 型 (pere, frere, ...) と同様,この形容詞も,ほかの形容詞との類推 analogie によって,男性主格単数で s をとる傾向がある.
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | povre(s) | povre | povre | povres | povre |
斜格 | povre | povres | povre | povres | povre |
変遷:前者と同様,FM で両性とも語末の e を保っている.
―〔3 型:〕女性で -e がない形容詞
この型の代表例の大部分は,ラテン語ですでに男性と女性が同形であった通性 épicène 形容詞に由来している.
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | granz | grant | granz | granz | grant |
斜格 | grant | granz | grant | granz | grant |
変遷:中世以来,女性の語末に e がないのは話し手には奇妙に思われたらしく e が加えられた.FM では,grand-mère のような若干の決まった連語において,grant/d が無変化であった名残を残している.
―〔4 型:〕2 つの語基をもつ形容詞
2 つの語基をもつ形容詞の大部分は,ラテン語の総合的比較級 comparatif synthétique [訳注] からきている;これらは AF でそれほど数は多くないので,使用頻度の高いものを記憶するとよい:graindre/graignor, mieudre/meillor, mendre/menor, maire/maior, pire/peior. このカテゴリはまた,形容詞として用いられた若干の普通名詞を含む.
男性単数 | 男性複数 | 女性単数 | 女性複数 | 中性 | |
---|---|---|---|---|---|
主格 | graindre | graignor | graindre | graignors | graignor |
斜格 | graignor | graignors | graignor | graignors | graignor |
変遷:〔3 型の〕grant や fort と同様,女性の語末に e がないのは中世の人々には奇妙に感じられたらしい.
[訳注] 語基に男・女性 -ior, 中性 -ius の接尾辞を付したり,まったく異なる語基を用いたりすることによって,1 語で比較級を表す形.対義語は分析的 analytique で,英語の more, 現代フランス語の plus + 原級形容詞のような,2 語による比較級の作りかたを指す.
第 2 部 古フランス語における副詞 L’adverbe en AF
副詞は AF でも FM と同様に無変化で,動詞や形容詞やほかの副詞の意味を修飾する語である.
1. -ment で終わる副詞 Les adverbes en -ment
仕方 manière の説明のさいラテン語では,mens, mentis, f. の奪格 mente とそれに一致する形容詞とからなる副詞句 locution adverbiale を用いた.
オイル語はロマンス語の多くと同様,この副詞句を継承したが,7–8 世紀ころ,形容詞と名詞 mente との一体化が起こった.例:bona mente > bonement.
無変化形容詞では,e のない女性形の改変に伴って,対応する副詞も改変された:fortment > fortement, grantment > grandement.
2. 副詞のその他の特徴 Les autres marques de l’adverbe
― 標識 -e
AF では多くの副詞が,語末に e のない形とある形の交替を示していた:or/ore, voir/voire, encor/encore, onc/onque, ... かなり早い時期に,e のある形が副詞の「有標の marquée」形と感じられ,実際に語末の e は副詞の標識として現れた.
― 標識 -s
LC の副詞の多く (minus, magis, plus, ...) と,postius や *alioris のような後期ラテン語 bas latin のほかの副詞の形は,s で終わる.これらは現代に保たれている:moins, mais, plus, puis, ailleurs. その頻繁さのために,この s は中世に副詞の標識と考えられ,類推作用を及ぼした.たとえば semper に由来する *sempre は,ラテン語に存在しない語末の s を伴った sempres の形で AF に現れる.
NB : 語末の e と s を兼ね備えた onques, ores, lores の形もしばしば見られる.
― 標識 -ons
前置詞 a と -ons で終わる名詞からなる副詞句:a genoillons, a tatons, a chatons, a reculons, a croupetons. この形は AF ですでにまれであり,FM ではなおさらである:「手探りで à tâtons」や「後ずさりして à reculons」の決まり文句にのみ残っている.
第 3 部 歴史音声学の問題 La question de phonétique historique
〔音声変化の〕法則を学ぶまえに,ロマンス語学者 romaniste の音声記号 alphabet phonétique, より正確にはブルシエ Bourciez の記号,に親しんでおく必要がある.これはのちの課で説明するが,いまは以下の慣習を覚えてほしい:
- ラテン語とフランス語の語は下線 souligné またはイタリック italique にする.例:manducare または manducare ;
- 音声転写 transcription phonétique は角括弧 crochet droit に入れる.例:[mandukare] ;
- 記号 > は「に達する aboutit à」を意味する.