samedi 29 juin 2019

トリエステ方言訳『星の王子さま』を読む:第 3 章

トリエステ方言訳『星の王子さま』El Picio Principe の第 3 章の解説。凡例など詳しいことは序文を参照のこと。


P. 14


Ghe go messo ’sai tempo「多くの時間がかかった」――この文の残りの語も含めて、訳語の選択と語順まで N. Bompiani Bregoli による伊訳 «Ci misi molto tempo a capire da dove venisse» の敷き写しだが、これは仏原文からすればすなおな訳なので別段どうということもない。そこからも見てとれるように最初の ghe は伊 ci で、伊 metterci「費用・時間をかける」と同じように言えるらしい。

ma ’l pareva no sentir mai le mie「だが彼は私の〔質問〕をまったく聞いていないように見えた」――’l は el で、非強勢形の主語代名詞。誰に「見えた、思われた」pareva かを示す間接補語の「私に」はない。le mie は言うまでもなく所有代名詞「私のもの=質問」(前出 domande を受ける) でイタリア語と同じ。

Solo dele parole, [...], le me ga, [...], svelà tuto「ただ〔……〕言葉だけが私に〔……〕すべてを明らかにした」――コンマで何度も分断されているが、いま掲げた部分が骨格で、dele parole が主語、le はそれを受けてふたたび言われている非強勢形の主語代名詞で二重主語 (Zeper, 104、§8.1.5 の 1.)、me は間接補語、ga ... svelà が動詞で近過去の 3 人称複数である (2 単・3 単・3 複が同形。ga = 伊 a だからといって単数と間違えないように)。第 1 章で説明したとおり、前置詞 de であれば女性冠詞 le とは結合せず de le だが (Zeper, 52s.)、この dele は部分冠詞 (articolo partitivo) なので女性でも dela, dele となる (Zeper, 59)。


P. 15


Lu el me ga dito「彼は私に言った」――lu el の二重主語。3 人称の場合、主語代名詞の強勢形 lu と非強勢形 el の両方を省略することはできず、少なくとも一方は言われねばならない (Zeper, 104)。二重に言ったからといって特別にどうという記述は見いだせないが、Zeper, 106 (§8.1.6 の 1.) によれば「暗示されている場合も含め、強勢形の主語 (代名詞・名詞) の用法はイタリア語のそれと同一である」というから、lu があることそのものが、伊でわざわざ lui の言われる場合と同様の重みをもつと考えてよいと思う。

Te son cascà zo del cel「君は空から落ちたのか」――te は非強勢形の主語代名詞で、3 人称と異なり 2 人称単数では、ti te の両方を言う場合と非強勢形 te だけを言う場合の 2 通りのみが認められ、強勢形 ti だけというのと両方の省略とのパターンは許されない (Zeper, 95, 104, 107)。son cascà は cascar の近過去 2 単で、助動詞 esser の活用形 son は 1 単と同形 (3 人称と同じ ×te xe もあったが廃用。Zeper, 141)。zo は伊 giù。

Mi voio che le mie disgrazie vegni ciapade sul serio「私は私の不運がまじめに捉えられてほしいのだ」――vegni は vignir (伊 venire) の接続法現在 3 複。イタリア語 venire の場合と同じく、vignir を用いた受動態は単純時制でしか用いられない (Zeper, 170)。過去分詞 ciapade は女性複数なので性数一致している。

anche ti te vien del cel「君も空から来たのか」――これは過去の意味の現在というよりは、出身を表すふつうの現在と解すべきだろう。vegnir (不定形は vignir と 2 つの形がある) の直説法現在の活用は vegno, te vien, el vien, vegnimo, vegnì, i vien。ついでに 1 つ前で出た接続法現在は vegno, te vegni, el vegni, vegnimo, vegnì, i vegni。Zeper, 295s.

Go visto tutintun una luce「不意に光を見た」――tutintun「突然、不意に」(伊 all’improvviso) は標準イタリア語にパラレルな単語がないかもしれない。ひょっとして tutto a un tempo か?

Con ’sto trabicolo non te pol esser vignù de ’sai lontan「このおんぼろでは君はそう遠くから来たはずはない」――『小学館 伊和中辞典』を引くと伊 trabiccolo にも、「釣鐘状の輪骨入りの木枠」の次に、諧謔的として「がたのきた道具、がたがたの車」という語義が出ているが、トリエステ方言ではふつうに «veicolo vecchio e sgangherato»「古くて壊れそうな乗り物」の意味に使われているようだ。

ちなみにこの箇所はフランス語の原文では « C’est vrai que, là-dessus, tu ne peux pas venir de bien loin… » となっており、伊 NBB の訳 «Certo che su quello non puoi venire da molto lontano...» は全体を逐語的に移しているが、su quello とはどうも玉虫色の訳である。もともと仏の là-dessus からしてそれほど判明だとは言えないことは、日本語の内藤訳がここを「じゃ」と接続詞のように解したことにも影響を落としているが、それを加藤『自分で訳す星の王子さま』は内藤の誤訳と判定している。トリエステ方言訳 con ’sto trabicolo はこれらに反し、わかりやすく語句を修正したようである。また esser vignù という複合形の不定詞によって時間的先行を示したのもトリエステ独自の改変。


P. 16


’ndò che stago mi「僕のいるところ」――stago は star (伊 stare) の直説法現在 1 単。その他の人称の活用は te sta, el sta, stemo, ste, i sta。Zeper, 283.

Aucun commentaire:

Enregistrer un commentaire