強変化・弱変化という名づけこそヤーコプ・グリムにちなむものの、アイスランド語の動詞活用の形式にこの二大分類を認めたのはやはりラスムス・ラスクが最初の人であった。彼はあの 1811 年のアイスランド語文法 Vejledning til det islandske eller gamle nordiske Sprog において、なるほど無味乾燥な名ではあるがそれを第 1 活用・第 2 活用 (弱のほうが第 1) と呼んだのであった (s. 111):
Den første af disse Konjugatsioner endes i 3. Person Imperf. paa -di eller -ti, og i Partis. Pass. paa -dr eller -tr, f. Eks. baka bage, bakadi, bakadr; brenna brænde, brenndi, brenndr; den anden gjør Imperf. til Enstavelsesord, som almindelig endes paa den Medlyd, der stod foran a i Infinitivet, og som tillige gjerne forandrer Selvlyden i den første Stavelse; i det passive Partisip endes den paa -inn, f. Eks. taka tage, tók, tekinn; renna rinde, rann, runninn.〔強調原文、ただしボールドとイタリックの区別は引用者による。〕
「これらの活用のうち第 1 のものは、未完了〔=過去〕3 人称が -di または -ti で、受動分詞が -dr [= -ðr] または -tr で終わる。例として baka「(パンなどを) 焼く」〔英 bake〕, bakadi, bakadr;brenna「燃やす」, brenndi, brenndr。第 2〔の活用〕は未完了〔=過去〕を単音節語で作り、それはふつう不定法〔語尾〕の a の前に立つ子音で終わるもので、かつまた概して第 1 音節における母音を変化させるものである。その受動分詞は -inn で終わる。例として taka「とる」〔英 take〕, tók, tekinn;renna「流れる、漏れる」〔英 run〕, rann, runninn。ところがラスクが間違えたと言ってよいものか、今日の目から見て不可解に思われるのは、彼が第 1 活用 (=弱変化) 動詞の最後のグループ「第 4 類」として次のような特徴をもつ動詞を含めていることである (s. 125):
45. §. Den fjerde Klasse bestaar af nogle faa Ord, der alle følge en og samme Lighedsregel, og med Imperf. høre til den første Forandringsmaade, med Partisippet derimod til den anden.〔強調は原文のゲシュペルト体。〕
「第 4 類は若干の少数の語からなる。それらはすべてひとつの同じ類似の規則に従っており、未完了では第 1 の変化様式に属し、〔過去〕分詞では反対に第 2 のものに属する。」この次にラスクは「そのうちもっとも重要なものは」(De vigtigste af dem ere) として snúa, núa, gróa, róa の 4 語の 4 基本形を表にして並べている。この例を見てわかるとおり、これは現在の分類で言うところの強変化 VII 類、別名を畳音動詞 (または重複動詞、ドイツ語で [というかほとんどラテン語だが] Reduplikationsverb) というものである (しかし VII 類のすべてではない、後述)。
強と弱の区別は過去時制形をアプラウトによって形成するか歯音接尾辞を付して作るかによるのであり、上に見たとおりラスク自身の定義もそうなっているように見える。またラスクはここで snúa–snýr–sneri–snúinn, róa–rœr–reri–róinn といった正しい変化形を把握している。にもかかわらず「未完了は第 1 変化に属する」と判断したのはなぜだろう。ラスクの定義に従えば過去単数が -di, -ti で終わるものがそれにあたるのであるから、ラスクは sneri, neri, greri, reri の -ri を -di の音韻変化したものと推測したのであろうか。
そこでちょうど第 1 変化の節は終わり、次のページから第 2 変化の分類が始まる (s. 126ff.)。ラスクの分類で第 2 変化第 1 類とされているのがほぼ現在普通の分類で言う強変化 III, IV, V 類を合併したものにあたる。ただし IV 類動詞の例は表のあとに続く説明の最後に出てくる bera しか見あたらないが。
ラスクの第 2 類は現在の VII 類の一部に相当するが、その基準は「〔過去〕分詞が不定法と同じ母音を保持している、ただし á が ng の前で現在形と同様に ei に変わることを除く」(Partisippet beholder i denne Klasse samme Selvlyd som Infin., undtagen at á foran ng forandres til ei, ligesom i Præsens) というもので、もともと VII 類はアプラウトのパターンが多様であることを思えばこれはかなり狭いグループになる。VII 類のうち snúa などが第 1 活用第 4 類とされて除外されることは上で見たとおりだが、さらにまたべつの若干の動詞は彼の言う第 2 活用第 4 類に入っている (後述)。
第 3 類はラスクが「もっとも単純なもののひとつ」(Denne Klasse er en af de allersimpleste) と呼ぶクラスで、現在の I 類と完全に一致しているようだ。彼の説明によれば「ここに属するすべての語は母音 i をもち、それは過去単数においてのみ変化する」(Alle dertil hørende Ord have Selvlyden i, som blot i Enkelt. af Imperf. forandres) と言うが、正しくは stíga–stígr–steig–stigu–stiginn のように í–í–ei–i–i という系列で i には長短の違いがある。
第 4 類は fara, standa, taka, draga, slá, vaxa などおおむね VI 類に見えるが、koma (IV 類) や búa, høggva など (VII 類) も含まれ混沌としている。そのことについてラスク自身「この類はこの変化様式〔=強変化〕のうちでもっとも多種多様で困難な語を含んでいる」(Denne Klasse indbefatter de forskjelligste og vanskeligste Ord af denne Forandringsmaade) と言うとおりである。
そして第 5 類はアプラウトの系列につき不定法では「アクセントつき母音または二重母音」(en aksentueret Selvlyd eller Tvelyd)、現在 ý、過去単数 au、過去複数 u、分詞 o と明快に説明しているように、ほぼ現在の II 類に一致しているも、ウムラウトを見抜けなかったためか søckva [= søkkva] (III 類) が混入している。
その後、ラスクは §54 (s. 133f.) において不規則性について言及し、sveria [= sverja], hiálpa [= hjálpa] など若干の動詞が強弱いずれもの活用形を呈することを説明している。
Aucun commentaire:
Enregistrer un commentaire