dimanche 9 décembre 2018

フェーロー語強変化動詞の分類

フェーロー語 (フェロー語) はアイスランド語に比べれば変化が進んでいるとはいえ、ゲルマン祖語にあった強変化動詞の 7 分類をアイスランド語と同じくそれと明瞭に見てとれる形で現在も残している古風な言語である。

私はゲルマン語一般の研究および研究史についてはとんと暗いほうなので、前記事で紹介したラスクによる 1811 年のアイスランド語文法以来どのようにして動詞の活用分類が現行の形と順番に落ちついたのか知るよしもないが、わかっているのは遅くとも Prokosch による 1938 年の定評あるゲルマン語比較文法の時点ではすでにそのとおり完成されているということである。

現代のフェーロー語文法を手当たりしだいに見比べてみると、少なくとも強変化動詞については、Prokosch や Gordon and Taylor に見るようなゲルマン祖語・古ノルド語文法におけるアプラウト系列の分類・番号づけをそのまま継承した呼び名になっているように見える。

フェーロー語文法として以下のもの (並びは刊行年の新しい順) を参照し、略号として著者名の頭文字を用いる:
  • [TPJH] Höskuldur Thráinsson, Hjalmar P. Petersen, Jógvan í Lon Jacobsen, and Zakaris Svabo Hansen (2012). Faroese: An Overview and Reference Grammar.
  • [DM] Kári Davidsen og Jonhard Mikkelsen (2011). Ein ferð inn í føroyskt. 2. útg.
  • [PA] Hjalmar P. Petersen and Jonathan Adams (2009). Faroese: A Language Course for Beginners. Grammar.
  • [AD] Paulivar Andreasen og Árni Dahl (1997). Mállæra.
  • [H] Jeffrei Henriksen (1983). Kursus i færøsk II.
  • [L] William B. Lockwood (1955). An Introduction to Modern Faroese.
  • [K] Ernst Krenn (1940). Föroyische Sprachlehre.
これらのうち、古いほうに属する K および L を除いて、すべての文法で強変化動詞はゲルマン祖語・アイスランド語のそれと一致する 7 分類が行われている。すなわち、強変化 I 類とは (2 番めに現在単数を入れる 5 項の書きかたもあるがここでは除いて) 不定法・過去単数・過去複数・完了分詞の順に í–ei–i–i というアプラウトのパターンを呈するもの、II 類とは ú/ó–ey–u–o、III 類とは代表的には e–a–u–u/o、といった要領で、番号づけも同じものを使っているのである。

(注 1) ここでゲルマン語・古ノルド語の知識がある人には II 類過去単数の ey がひっかかったかもしれないが、古ノルド語の二重母音 au は規則的にフェーロー語の ey に対応するのでこれでよいのである (たとえば中性複数代名詞 ON. þau 対 Før. tey「それら」や、基数詞の「7」ON. sjau 対 Før. sjey、名詞 ON. auga 対 Før. eyga「目」といった基本的な例が挙げられる)。

(注 2) 非常に古い K (これは実質的には 1908 年の Jákup Dahl のフェーロー語文法の翻訳だとも言われる) はしかたないとして、L がかなり大雑把な分類をしていることは少し不思議である。彼の分類では I 類から III 類までは現在主流のものに一致し、そのうち III 類は 3-1 と 3-2 に細かく分けているのだが、その次に来るのが ‘Miscellaneous vowel changes’ として現行の IV 類から VII 類までをすべてごちゃまぜにした ‘Class 4’ なのである。

なお K はどうかというと、これは意外にも番号が違うだけでほぼ現在の分類と平行している。すなわち K の言う強変化第 1 類は現在の III 類、第 2 類が IV 類と V 類の合併、第 3 類は VI 類、第 4 類が I 類、第 5 類が II 類、そして第 6 類 (これは 6A と 6B に細分されているが) は VII 類にあたっている。

ただし分類がそのとおり祖語や古語のアプラウトの 7 系列に沿って行われているとしても、現代フェーロー語の個別の動詞がどの類に属することになるかは共時的な記述の問題である。たとえば古ノルド語で IV 類とされていたある動詞に対応する同じ語が現代語でもかならず IV 類にあたるとは限らない。実際には類間の移動どころか強変化だったものが弱変化になることさえままあるのである。

また、7 分類そのものの大枠の特徴づけは一致しているとしても、フェーロー語の経た発達の結果として、パターンの記述が複雑になりがちなきらいはある。たとえば TPJH と PA は一致して強変化 V 類の「主な母音交替」(main vowel alternations) のパターンとして、1. e–a–ó–i, 2. i–á–ó–i, 3. e–á–ó–e, 4. ø–a–ó–ø, 5. i–á–ó–æ, 6. e–a–ó–e という 6 通りを掲げているが、これらに間違いなく共通しているのは過去複数の ó だけで、あとは過去単数でアクセント記号があったりなかったりする a/á、残りの不定法と完了分詞の母音では共通点を探すことも難しい (なおフェーロー語の ø は前舌ではない)。

このように、不定法 (や現在) ならびに完了分詞では母音のバリエーションが多様なため、H のように各類の特徴づけをただ過去単数と過去複数のみによって説明している本もある。以下の解説では AD (bls. 34) をベースにして各類のうちもっとも主要なるアプラウトパターンを最初に示し、細かな差異は都度補っていくこととする。

フェーロー語の強変化動詞 I 類は、í–ei–i–i という系列で特徴づけられる。これはラスクが対応するアイスランド語文法の「第 2 活用第 3 類」についてもっとも単純と評したとおり (前記事参照)、種々のバリエーションの例外というものに煩わされることのない簡単なパターンである。代表例は bíta「噛む」で、過去単数 beit, 過去複数 bitu, 完了分詞 bitið と活用する。ほか、blíva「〜になる」、grípa「つかむ」、skína「輝く」、svíkja「だます」などを全員が一致してここに挙げている。ドイツ語の ei–i–i (beißen–biß–gebissen, greifen–griff–gegriffen) あるいは ei–ie–ie (bleiben–blieb–geblieben, scheinen–schien–geschienen) と並行していることが見てとれる。

II 類は ú/ó–ey–u–o で、代表例は bróta「壊す」(現在 3 単 brýtur)、過単 breyt, 過複 brutu, 完分 brotið である。このように現在形で母音変異 (これはウムラウト) が起こる場合もあるので、親切な本 (DM や AD) は系列を ó–ý–ey–u–o のように 5 項で記している。またこの類に属する特殊な活用として、leypa–loypur–leyp–lupu–lopið「跳ぶ」が特別に言及されている場合がある (DA および L)。しかし現在で ó が ý に、ey が oy になるのは i-ウムラウトの規則的な適用であるから、それを知っていればじつは新しく覚えることはない (ただし VII 類に分類する人もいる。後述)。

III 類は e/i–a–u–u/o で、その 4 通りをすべて列挙すると brenna–brann–brunnu–brunnið「燃やす」、sleppa–slapp–sluppu–sloppið「逃げる」、binda–bant–bundu–bundið「縛る」、svimja–svam–svumu–svomið「泳ぐ」が見いだされる。brenna 型として drekka「飲む」や renna「流れる」、binda 型として finna「見つける」を代わりに用いてもよいであろう。

驚くことに、H はこの類に verða「なる、起こる」を含めている。これの時制変化は彼じしん書いているように varð–vórðu–vorðið であって過去複数が ó であるから、本当のところはすぐ下の IV 類に入れられるべきものである (DM と AD ではそうなっている)。なぜ H がそうしたのかは判然としないが、古ノルド語では verða は III 類に属していた (varð–urðu–orðinn) こととひょっとして関係があるのかもしれない。

IV 類は e–a–ó–o がもっとも典型的なパターンで、次の V 類との違いはもっぱら過去分詞の母音だけである (それゆえ前述のように K がこの 2 つの類を区別しなかったのは理由のないことではない)。代表に挙げられることの多い動詞は bera–bar–bóru–borið「運ぶ」または nema–nam–nómu/numu–nomið「とる」(独 nehmen)。また不定法の母音が o のパターンもあり、そこには sova–svav–svóvu–sovið「眠る」や koma–kom–komu–komið「来る」が属している。

最後の koma は過去単数が a でなく o になっているがこれは古ノルド語の時点からそうで、もと *kwam の wa が w の影響で wo に変わりのちに w が消失したのである (Gordon and Taylor, §§51, 63)。いま挙げた 4 つの動詞はすべて ON. でも IV 類であったが、しかし ON. sofa はさらに元来は V 類に属していたという (Ibid., §130)。

奇妙なこととして、AD は vera–var–vóru–verið (英語の be 動詞にあたる語) をこの IV 類に含めているのだが、これは他書 TPJH, PA, H では V 類である。すでに注意したとおり IV 類と V 類の違いは主に過去 (完了) 分詞の母音であるから、verið の e は IV 類の o よりは V 類の i に近いのではなかろうか?

V 類を特徴づけるアプラウトパターンはとりあえず e–a–ó–i と言っておく。しかし前述したとおり TPJH と PA はこの「主な母音交替」を 6 通り掲げるなど、一言で説明するのが難しい一筋縄でいかないグループである。e–a–ó–i 型の代表例は geva–gav–góvu–givið「与える」あるいは drepa–drap–drópu/drupu–dripið「殺す」が挙げられることが多い。

そのほか、分詞が e になる e–a–ó–e 型 (すぐ上で注記した vera が属する)、さらに過去単数が á になる e–á–ó–e 型 (eta–át–ótu–etið「食べる」)、最初と最後が i になる i–a–ó–i 型 (sita–sat–sótu–sitið「座る」や biðja–bað–bóðu–biðið「請う」) と、同じく最初と最後が ø である ø–a–ó–ø 型の kvøða–kvað–kvóðu–kvøðið「歌う、詠唱する」、そしてこれらと比べればかなり特異に見える í–á–ó–æ の交替を示す síggja–sá–sóu–sæð/sætt「見る」がある。

ただしこの最後のものについては困難があること、TPJH, p. 146 が「síggja『見る』の母音交替はまったく不規則であり、この動詞がそもそもここに挙げられたほかの動詞といっしょに分類されるべきかどうかすら議論の余地がある」(The vowel alternations of síggja ‘see’ are quite irregular, so it is debatable whether the verb should at all be classified with the other verbs listed here.) と評価するとおりである。

私見では、ø–a–ó–ø の kvøða とてかならずしも納得しやすいわけではない。共時態を見るとき、フェーロー語において e や i がなんらかの作用によって ø に変わることはありえないのであるから、これはむしろ IV 類の o–a–ó–o の特殊例とみなしたほうが理解しやすい気がする。しかし事実を言うとこれは古ノルド語の kveða (e–a–ó–e, すなわち V 類) から変化して生じた語形であるからここに属せしめることが正当なのである。この動詞を V 類とすることでは TPJH, PA, H が一致しており異論はない (DM および AD には見いだされない。また K では第 2 類 [= IV+V 類]、L では第 4 類 [= IV+V+VI+VII 類] の粗い分類だが少なくとも反対的ではない)。

VI 類は a–ó–ó–a のほか、細かく言えば a–ó–ó–i, á–ó–ó–i, ø–ó–ó–o というパターンが主にあるが、いずれにせよ過去単数・複数がともに ó であるという特異な性質を共有している。代表例は fara–fór–fóru–farið「(乗り物で) 行く」、standa–stóð–stóðu–staðið「立つ」、taka–tók–tóku–tikið「とる」など重要で基本的な単語が多い。不定法が á の例は sláa–sló–slógu–sligið「殴る」、ø の例は svørja–svór–svóru–svorið「誓う」がある。

VII 類にアプラウト系列の規範を立てようとすることはほとんど不可能に見える。TPJH, PA は 8 種類の下位分類を設けているが、これはほとんど無秩序に観察事実を並べただけのように見える。ともあれその 8 つのうち最初に置かれているのが a–e–i–i という系列で、これは AD も bls. 34 では VII 類の代表のように言っているが、同書は実際に活用を論じる bls. 126 に至ってはパターンを挙げることを断念している。DM および H はこの類に母音交替の型を示さず、ただこのグループを畳音動詞 (重複動詞、tvífaldanarsagnorð, reduplikationsverb) と呼んでいる。

例としては halda–helt–hildu–hildið「保つ;考える」、ganga–gekk–gingu–gingið「行く、歩く」、falla–fall–fullu–fallið「落ちる」、fáa–fekk–fingu–fingið「得る」、eita–æt–itu–itið「〜という名である」、lata–læt–lótu–látið「させる」などがある。古ノルド語の対応語を示すと、順に halda, ganga, falla, fá, heita, láta/lata である。TPJH, PA および H はなぜかここに leypa を含めているが、これはすでに検討したように II 類として説明可能である。おそらく古ノルド語の hlaupa(–hljóp–hljópu–hlaupinn, VII 類) を意識しての分類ではないか。

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