mercredi 25 novembre 2020

Guiraud, 有田訳『ギリシア文法 [改訳新版]』誤植訂正

シャルル・ギロー著、有田潤訳『ギリシア文法 [改訳新版]』(白水社、2003 年) の誤植訂正。底本は 2010 年 5 月 30 日第 2 刷。行数の表記にある上矢印 ↑ はページの下から数えることを意味し、その場合脚注の行数は含めないものとする。

  • 2 頁 11 行:「方法よって」→「方法よって」
  • 7 頁 3 行:「――「幹母音」F voyelle thématique」の後ろに閉じるダッシュが欠。前後のページにおけるダッシュの使いかたと比べれば脱字と思われる。
  • 15 頁脚注 1:「(「閉じた」F fermé」の後ろに閉じ括弧「)」が欠。
  • 17 頁 7 行:「べつとば」→「〜すれば」または「ば」
  • 17 頁脚注 1:「[エイ,エ]」、伸ばし棒が漢数字の 1 になっている。
  • 19 頁 ↑6 行:「17 ペジ参照」、同上。
  • 24 頁 8 行:「まぬれる」→「まぬれる」または「まぬれる」(140 頁 9 行には後者の例あり)
  • 25 頁 9 行:「εμι」→「εμι」
  • 25 頁脚注 2:「「或る(人,物)」意味する語」→「〜意味する語」
  • 26 頁 11 行:「κ (ἐξ)」→「κ (ἐξ)」
  • 27 頁 ↑6 行:「γὼ」→「γὼ」
  • 27 頁脚注 1:「θεος + κῦδος」、「θεός」に鋭か重のアクセントがほしい気がするが、原書はどうか。
  • 33 頁 8 行:「この曲用にに従う」→「〜従う」
  • 34 頁 ↑4 行:「にいて一言述べておきたい」→「にいて〜」
  • 35 頁 10 行:「「神殿」を意味る」→「〜意味る」
  • 36 頁 6 行:「ἀδρός」→「ἀνδρός」
  • 37 頁脚注 2:「18 ペジ参照」、漢数字の 1
  • 38 頁 11 行:「38 ページ参照」→「36 ページ参照」
  • 38 頁脚注 1:末尾に句点「.」欠
  • 39 頁 ↑9 行:中性複数主格「*ἀληθές-α」→「*ἀληθέσ-α」
  • 40 頁 10 行:「属 αίδοῦς (<*αίδόσ-ος)」→「属 αδοῦς (<*αδόσ-ος)」。鋭アクセントを無気記号に。
  • 41 頁 ↑10 行:複数対格「παρέρες」→「πατέρες」
  • 41 頁脚注 1:「Morphologoe」→「Morphologie
  • 42 頁 7 行:「対 ἄνδ-ρα」→「対 ἄνδρ-α」
  • 45 頁 6 行:「ώτ-ός」→「τ-ός」
  • 48 頁 ↑6–2 行:複数および双数のすべての格で「ἰ」の無気記号が鋭アクセント「ί」に間違えられている (計 9 ヶ所)。さらに双数直格では「ίξθῦ」→「ἰχθῦ」。
  • 50 頁脚注 2:「Ju-, Ju- の部分」とあるが、同じ「Ju-」の重複を 1 つ削除、または後者がマクロンつき「Jū-」の誤りか。
  • 58 頁 ↑7 行:「-ις- ではなく,-ιοσ- の形で」→「-ισ- 〜」
  • 59 頁 3 行:「最 ἔχθίσ-τος」→「最 ἔχθισ-τος」
  • 59 頁 ↑11 行:「νδοξότερος」→「νδοξότερος」
  • 60 頁 14 行:「最上級は -αίοτατος ではなく」→「〜 -αιότατος 〜」
  • 60 頁 ↑9 行:「ἴσος「等しい」,比 ἰσαίτερος,最 ἰσαίτατος」。直前の例 μέσος の提示法と比べても、またコンマがあることから見ても丸括弧は不要。
  • 61 頁 ↑5 行:中性双数主・対格「τ」→「τώ
  • 62 頁 1 行:「οτος「この,これ,その,それ」」→「οτος 〜」
  • 62 頁 3 行:「κεῖνος「あの,あれ」」→「κεῖνος 〜」
  • 62 頁 10 行:「οτος」、2 つ上と同じ。
  • 62 頁 ↑5 行:「これは *ταυτῶν となるはずであった」。不確かだが、男・中性形 τούτων と比べればアクセントは「*ταύτων」ではないのか? それとも第 1 変化として -ῶν に推定する意図?
  • 63 頁 12 行:「幹母音式語幹がが」→「〜が」
  • 64 頁 ↑8 行:「ὁ αὐτος πολίτης」→「ὁ αὐτς πολίτης」
  • 64 頁 ↑6 行:「ギリシア語の関係詞 ς」→「〜 ς」
  • 65 頁 7 行:「ホメーロスにある ὅσ τε」→「〜 ὅς τε」
  • 65 頁 15 行:「E that, D daβ」→「〜 daß」または「dass」、ベータとエスツェットはぜんぜん違う文字。
  • 65 頁 ↑9 行:「ντινων」→「ντινων」
  • 65 頁 ↑1 行:「ἄττα = τινά」、ここでは前接語の不定代名詞として言われているのでアクセントなしの「τινα」(前頁 3 行も参照)。
  • 65 頁脚注 1:「lre partie」→「1re partie」、L ではなく数字の 1
  • 68 頁 9 行:「今げられた」、旧字を使っているのはここだけ。
  • 68 頁 10–11 行:「直接指す(いわゆる「再帰的」用法)である」、「か」が重複。
  • 69 頁 11 行:「αὐτούς, -ς, -ά」→「〜 -άς, 〜」
  • 70 頁 2 行:「αὐτον, -ήν, -ό」→「αὐτόν, 〜」
  • 70 頁 10 行:「この ἑ- は αὐτσ́ν の諸形と結合する」→「〜 αὐτόν 〜」。どうやって打ったのか不思議だがシグマにアクセントは乗らない。
  • 70 頁 ↑3 行:女性 1 人称複数属格「μῶν αὐτών」→「μῶν αὐτν」
  • 71 頁 ↑3 行:「-ον́」→「-όν」。2 つ上に同じ。
  • 71 頁脚注 2:「*sewo-s>ἑός, *sewo-s>ὅς」、後者は「*swo-s」。
  • 72 頁 12 行:「μέτερος「われわれの」」→「μέτερος 〜」
  • 73 頁 (表を除き) 7 行:「*ἑμός, *ἑμι となるはず」→「〜 *ἑμί 〜」
  • 73 頁脚注 1:「A tennatative Grammar of Mycenean Greek- Götenorg, 1960」→ tentative, Mycenaean, ハイフンをコンマに、Göteborg。
  • 75 頁 ↑8 行:「ἑπτά「7」にたいする ἕβδομος「第 7 の」,ὀκτώ「8」にたいす ὄγδοος「第 8 の」」、後半は「たいす」の脱字。
  • 75 頁 ↑3 行:「ες, κατά+対格」→「ες 〜」
  • 78 頁脚注 2:「フランス文法式に「先立未来」F futur antérieur と称する」。フランス語学の用語では「未来」が支配的。前未来・前過去を先立未来・先立過去とも呼ぶのはイタリア語学だけではないか? 古い呼びかたかとも考え念のため田辺『フランス文法大全』(白水社、1955 年) にもあたったが「前未来」の名しか確認できなかった。
  • 79 頁脚注 1:文末が閉じ括弧」で終わっているが、対応する開き括弧がなく、句点「.」の誤りか。
  • 81 頁 ↑8–7 行:「1) 第 1 次語尾は現在系および接続法に,第 2 次語尾は過去系および希求法に用いられる」とあるが、「1)」だけがあって「2)」がないので、たぶん「第 2 次語尾は〜」のまえに必要。
  • 81 頁脚注 2:第 1 次語尾のうちに「未来完了」が欠けている。
  • 82 頁 2 行:「過完 -λελύκη」→「〜 -λελύκη」
  • 82 頁 ↑8 行:「似二重母音 ει」。このほうがふつうの漢字表記だと思うが、これまで本書は一貫して「似」と書いている (17 頁脚注 1、19 頁 ↑6 行および ↑3 行、27 頁 ↑6 行)。以降同じものの指摘は省略するが、全体を通して統一されるべき。
  • 83 頁 10 行:節の最後にもかかわらず「ἐψαυκέναι,」とコンマで終わっている。もしこの続きに訳し抜けがあるのでなければ、ピリオドの誤り。また、その上の行の末尾には本来コンマがあったかもしれない。
  • 83 頁 ↑3 行:複数 3 人称「δίδο-ᾱσι(ν)」→「διδό-ᾱσι(ν)」
  • 85 頁 5 行:複数 2 人称「δίδοτε」はハイフンでなくおそらく en ダッシュになっている。あまり細かいことを言うようだが、実際の紙面では表中で並んでいるなか 1 つだけ違うので悪目立ちしている。
  • 86 頁 1–5 行:「λύ-ωμεν」以下 5 ヶ所。同上。
  • 86 頁 1–3 行:「διδῶμεν」以下 3 ヶ所。こちらは語基と活用語尾を区別するハイフンがすっぱり抜けている。
  • 86 頁 ↑7 行:双数 2 人称「λυ-ο-ίην」→「λύ-ο-ιον」
  • 87 頁 ↑2 行:「名詞的尾辞」→「〜尾辞」
  • 87 頁脚注 3:「p. 129-134」→「pp. 129–134」
  • 88 頁 8 行:女性単数属格「λυούσης」、ハイフンに
  • 88 頁 ↑11 行:「接続接続する」
  • 90 頁 ↑2 行:双数 2 人称「λυ-ο-ί-σθην」→「λύ-ο-ι-σθον」、「διδο-ί-σθην」→「διδο--σθον」
  • 92 頁 12 行:双数 2 人称「ἐ-λυ-έην」→「ἐ-λύ-εον」、「ἐ-διδόην」→「ἐ-δίδοον」
  • 93 頁 10 行:双数 2 人称「ἐ-λυ-έ-σθην」→「ἐ-λύ-ε-σθον」、「ἐ-διδό-σθην」→「ἐ-δίδο-σθον」
  • 95 頁 12 行:複数 2 人称「ἐλύ-σ-α-τε」→「ἐ-λύ-σ-α-τε」
  • 95 頁 14 行:双数 2 人称「ἐ-λυ-σ-άην」→「ἐ-λύ-σ-αον」
  • 96 頁 15 行:単数 2 人称「λύ-σ-ειας」。このアイオリス風希求法は分析が難しいのかもしれないが、複数 3 人称が「λύ-σ-εια-ν」とされているのに比べれば「λύ-σ-εια-ς」になるはず。
  • 96 頁 ↑4 行:双数 2 人称「λυ-σ-α-ίην」→「λύ-σ-α-ιον」
  • 97 頁 1 行:「λύσ-αι」は前後と比べてハイフンを削除。
  • 97 頁 ↑8 行:単数 1 人称「έδόθην も同様」→「δόθην 〜」
  • 97 頁 ↑2 行:双数 2 人称「ἐ-λυήην」→「ἐ-λύηον」
  • 97 頁脚注 1:「Chatraine」→「Chantraine」
  • 99 頁 8 行:双数 2 人称「λυ-θε-ίην」→「λυ-θε-ον」
  • 99 頁 9 行:双数 3 人称「λυ-θε--την」→「λυ-θε-ί-την」
  • 99 頁 ↑2–1 行:「ἐμίγην「混合された」(μείγνυμι「混合する」)」という一文が脈絡なく現れているが、次頁 6 行以下にもあるのでおそらく誤って混じったものか。
  • 100 頁脚注 3:「A. Préυot」→「A. Prévot」。なお検索すると o もシルコンフレクスのついた Prévôt の表記も見つかり、どちらが正しいか要調査。
  • 100 頁脚注 4:「この -οκ-」→「この -σκ-」
  • 101 頁 13 行:複数 2 人称「ἐλύ-σ-α-σθε」→「ἐ-λύ-σ-α-σθε」
  • 101 頁 15 行:双数 2 人称「ἐ-λυ-σ-ά-σθην」→「ἐ-λύ-σ-α-σθον」
  • 104 頁 ↑8 行:双数 2 人称「όην」→「οον」、「ό-σθην」→「ο-σθον」
  • 105 頁 15 行:単数 3 人称「δ」→「δ
  • 106 頁 ↑2 行:双数 2 人称、語尾のまえにハイフン
  • 108 頁 ↑1 行:「-*ᾰνσι」、アスタリスクをハイフンのまえに
  • 108 頁脚注 1:「ἐπιθόημν」→「ἐπιθόμην」
  • 109 頁 5 行:「δεδώκωδεδώκῃς,. . .」、コンマに
  • 110 頁脚注 3:「στημι」→「στημι」
  • 111 頁 4 行:女性単数属格「τεθνεσης」→「τεθνεώσης」
  • 112 頁 15 行:「を有し未完了と同様に」、コンマに
  • 113 頁 9 行:双数 3 人称「σ-την」→「σ-την」
  • 114 頁 9 行:「語内の yod -y」、ハイフンに
  • 115 頁 6–9 行:ほとんどぜんぶアクセントが間違っている。単数の 3 つは ἥ- でなく ἧ-、複数の 3 つおよび双数 2 人称は εἵ- でなく εἷ-。双数 3 人称 εἵτην のみが正しい。8–9 行の > の後ろも同様に直すこと。計 9 ヶ所。
  • 116 頁 ↑6 行:接続法現在単数 2 人称「ς」→「ς」
  • 116 頁 ↑2 行:希求法現在双数 2 人称「ετην」→「ετον」
  • 116 頁脚注 1:「Mycenean」→「Mycenaean
  • 117 頁 7 行:未完了双数 2 人称「στην」→「στον」
  • 118 頁 11 行:接続法現在単数 2 人称「ἴς」→「ἴς」
  • 118 頁 ↑3 行:未完了双数 3 人称「την」→「την」
  • 119 頁 3–4 行:「アクセントは 25 ページ」と注記し、また 116 頁の εἰμι の諸形の表示に倣うならば、φῄς 以外のアクセントはすべて削除。逆にもしそうでないなら 8 行「*φανσι > φᾱσι」の後者にはアクセントが必要。
  • 120 頁 3 行:「完了の語尾 -θα-」、後ろのハイフンは不要
  • 120 頁 ↑4 行:「受動」→「受動
  • 120 頁 ↑3 行:「. . .」を削除
  • 120 頁脚注 2:「ἦν δ’ἐγώ」と「ἦ δ’ὅς」、δ’ の後ろにスペース
  • 125 頁 ↑11 行:単数 3 人称「ἐλᾷς」→「ἐλᾷ」
  • 127 頁脚注 2:「d’Homère Euripide」→「d’Homère à Euripide
  • 132 頁脚注 4:「έρήνην」→「εἰρήνην」
  • 133 頁 14 行:「δει」→「δει」
  • 134 頁脚注 2:「Oxford, Clarendon, Press」、第 2 のコンマを削除
  • 136 頁 2 行:「οὐ πυθόμην」の次にコンマを追加
  • 140 頁 ↑10 行:「F subiectum」→「L 〜」
  • 141 頁 ↑3–2 行:ここでは感嘆詞「おお」が「ὤ」となっているが、次頁では 3 ヶ所とも「ὦ」で、どちらのアクセントも実在するようではあるがなぜ断りもなくまちまちに使うのかわからない。原書のとおり?
  • 144 頁 ↑11 行:「τό δῆγμα」→「τ 〜」
  • 147 頁 3 行:「κατέρων」→「κατέρων」
  • 147 頁 ↑10–2 行:動詞が列挙されているが、-ειν, -σθαι の不定詞と -ω, -μι, -μαι の現在 1 人称単数が混在しており気もちが悪い。たとえ原書がそうだとしてもこれは直すべきところ。以降の頁を考慮すれば不定詞に統一するほうがよい (その場合計 3 ヶ所)。
  • 148 頁 7 行:「それは部分属格であろうかそれとも奪格的属格であろうか ラテン語〜」、最初の疑問符のあとにも全角スペースを追加
  • 150 頁 1 行:同上
  • 150 頁 9 行:「ἐπί「〜のうえで」,μετά「〜とともに」,ἄχρι「まで」」、「まで」にも「〜」を追加
  • 150 頁脚注 2:「λαθρᾳ,λαθρῃ」→「λάθρᾳ,λάθρῃ」
  • 152 頁脚注 1:「148 ペジ」、漢数字の 1
  • 152 頁脚注 2:「comitatatif」→「comitatif」
  • 156 頁 4 行:「ο τοὺς νόμους」→「ο 〜」
  • 156 頁 12 行:「163 ペジ参照」、漢数字の 1
  • 157 頁 10 行:疑問符のあとにスペース
  • 158 頁 2 行:「これ対して」→「これ対して」
  • 158 頁脚注 1:「D Konjunkiv」→「D Konjunktiv」
  • 158 頁脚注 4:「F éventualité」、F 以外はローマンに (161 頁 6 行も参照)
  • 159 頁 ↑4 行:「μὴ ο θεμιτὸν 」→「μὴ ο θεμιτὸν 」。後者は下書きのイオタだけでなく気息記号も逆。
  • 161 頁 13 行:疑問符のあとにスペース
  • 162 頁 ↑8 行:「εθε」→「εθε」
  • 162 頁 ↑4 行:「εἰ γαρ」→「εἰ γάρ」
  • 163 頁 ↑5 行:「δ’ἂν」、δ の後ろにスペース
  • 164 頁脚注 2:「たとえ」→「たとえ」、「βούλεται(直説法). . . を」→「βούλεται . . .(直説法)を」
  • 167 頁脚注 1:「εναι」→「εναι」
  • 168 頁 13 行:「143 ペジ」、漢数字の 1
  • 170 頁 12 行:「ερημένα」→「ερημένα」
  • 174 頁 ↑2 行:「正していただい」→「正していただい

vendredi 30 octobre 2020

ファンタジー・創作のためのラテン語最短コース

はじめに——身近になったラテン語


いまに始まったことではなく、何十年もまえからゲームやファンタジー小説、ライトノベルなどの分野では、人名や地名、組織名といった固有名詞、魔法の名前や呪文の言葉などなどを、日本ではかなりの場合欧米の言語から借りて賄ってきている。英語は多くの人がすぐに意味を理解できて使いやすいし、フランス語はおしゃれな感じ、ドイツ語は堅苦しく強そうな印象を与えるのに便利だが、ラテン語もこれらに劣らず人気の選択肢でありつづけている。

それはこの言語が実際の西欧の歴史においてそうであるとおりに、権威と格式が高くて歴史の厚みが備わった感じを演出するのに効果的であることに加えて、フランス語やイタリア語の直接の祖先であることからくる洒落た感じ、それに英語などの近代語に多くの借用語を提供しているため私たちにもなんとなく意味が通じる単語も多いこと、つまり先述した英・仏・独それぞれの利点をどれも高い水準で満たしていることが大きな理由ではないだろうか。さらにラテン語は日本のみならず欧米においても現代人の母語ではないゆえに、あちらでも同じ用途に便利に使われている。その意味で国際的であり世界展開がたやすいがために、今後ゲームのビッグタイトルではいままで以上に使用頻度が高まることが予想される。

児童文学・ファンタジーとしてもはや古典の位置を占めていると言っていい、イギリス発の『ハリー・ポッター』シリーズに登場する数々の呪文はほとんどがラテン語をもじったものである。日本でもっとも有名な RPG シリーズであろう『ファイナルファンタジー』は、VIII のオープニングテーマにラテン語の歌詞を用意したほか、とくに近年の XIV や XV では人名や地名に大量にラテン語を用いているが、これはまさに前述の世界展開を背景とした採用の可能性がある。具体例は以下の解説のなかで逐一取りあげるので後回しとするが、これらほど一貫していなくとも、あらゆるゲームや小説等で断片的・部分的にピンポイントで使われたものを数えれば全容を把握するのも困難なほどである。

こうした環境のもとで、私たち一般人にとってもラテン語はひところよりなじみのあるものになってきつつある。こうした作品を享受する読者やプレーヤーとしてラテン語の名前の由来や意味を知りたがる人は数多く見受けられるし、さらに進んで小説の執筆やゲームの制作などの創作を手がける人も増えてきて、キャラ名などにラテン語を取り入れたいという需要は少なからず高まっているようだ。そうした層に向けたネーミング辞典がいくつか出ており、そのなかにはラテン語もかならずと言っていいほど確実に含まれている。


機械翻訳は使うな——それでも使いたい人へ


ここまで意図的に無視してきたが、Google 翻訳のような機械翻訳でラテン語を扱えるものが登場したことも、プロ・アマ問わず創作に気軽に採用する例が増えている大きな一因でありそうだ。そしてそれだけ大量の誤ったラテン語もどきが巷にあふれている。一昨年私は「ファイアーエムブレム Echoes のラテン語」という記事を書き、そこに見られる数多くの不出来な点を指摘した。詳しい根拠はそちらをご覧いただきたいが、そこに現れたラテン語の形のいびつさから、これは素人が機械翻訳を下手に用いたものだと確信している。

そもそもラテン語に限らず、その言語の知識のまったくない者が機械翻訳を闇雲に用いるべきではない。精度は向上してきているとはいえ、定型句でない自由な文や語句を翻訳させようとするとまだまだ確実にどこかしら間違え、非文法的でトンチンカンな結果を返してくる。そういうときに間違いは間違いであると見抜ける者でなければ、使っても使っていないのと同じ、結局所望の言語の訳文にはなっていないのだ。機械翻訳を使っていいのは、自力でも辞書や文法書と首っ引きになり悪戦苦闘すれば訳せるくらいには能力のある人が、時間や労力を節約する場合だけであり、そのさいも結果は鵜呑みにせずたたき台にするために使うのである。機械翻訳は道具であるが、道具を使うには訓練が必要で、適切な方法で用いなければ効果を発揮しない。キッチンと食材が与えられても料理の練習を経ていない人は生ゴミを生産してしまうだけだ。

そうは言っても必要な知識を得ることは一朝一夕にはできない。ただ使うなと言って放りだしたのでは濫用する人は減らないだろう。そこでこの記事では、ファンタジー系の創作にラテン語を使うための最小限の知識をまとめて解説する。前掲記事「Echoes のラテン語」における説明を再編し、ほかの事例を加えて不足している事項を適当に増補したような形になるだろう。内容は一記事に収まる程度に極力切りつめて提供するので、これだけでラテン語の文章が読めるようにはならないが、ちょっとしたキャラ名や武器名・魔法名などを正しく考えられるようになることを目標とする。

それでも文法は文法、途中で飽きて力尽きてしまう人もいるかもしれない。そうなるまえに急いで付け加えておく。最低限の知識も身につけずにどうしても機械翻訳を使いたいという人は、せめて日本語ではなく英語からラテン語に訳すように。これはフランス語やドイツ語などヨーロッパの言語が目標言語の場合はすべて同様である。それだけで生ゴミは減り食材の原形くらいはとどめたものになる、つまり誤りがだいぶ減ってマシになる。日本語とラテン語のような組みあわせでは翻訳機内部で英語を経由した重訳になっているせいである。そのさい英語は当然自力で書くこと。ほかにも機械翻訳を上手に使うためのコツやポイントはいくつもあるが、それはそれだけで一記事が書けるほどの問題なのでここでは深入りしない。(なお、どれだけ翻訳精度がまずいかについては、文法の解説をしたあと記事末尾で再度取りあげる。)


ラテン語の文字


ラテン語に使う文字をラテン文字という。誰もがおなじみの a, b, c, d, e, f, ... というあの文字である。英語などに使うのと同じ文字だが、「アルファベット」というのはこの文字の名前ではない。ギリシア文字 α, β, γ, δ, ε, ζ, ... だって、ロシア語などのキリル文字 а, б, в, г, д, е, ... だって「アルファベット」だし、ほかにも何種類もアルファベットはあるからだ (そもそもアルファベットとはアルファ α とベータ β をつなげた語、もし世に「アルファベット」と呼ばれるべきものが 1 つだけあるならそれはギリシア文字のことだ)。

さてそのラテン文字だが、ラテン語に使うものはとくに目新しいものはない。フランス語では ç や é, à のようなアクセントつきの文字、ドイツ語では ß や ä, ö, ü というウムラウトつきの文字を使ったりと、自分の言語に適合させるためいろいろの工夫を施しているが、ラテン語にはなにもこういうものはないので、新しく覚えることはない。ラテン文字は最初からラテン語のために作られた文字なのだから、それ以上工夫する必要がないのは理の当然だろう。

それどころかじつは 26 文字すら全部使うわけではない。まず w はない。それから y と z はギリシア語からの借用語にしか用いない。これで残り 23 文字である。さらに i と j、u と v はそれぞれもともと同じ文字であったから、本来のラテン語は 21 文字しか使わなかった。しかしここでは現代式に j と u も使うことにすれば、a, b, c, d, e, f, g, h, i, j, k, l, m, n, o, p, q, r, s, t, u, v, x の 23 文字がラテン語のアルファベットである。大文字は固有名詞の語頭、それから文頭に使ってもよい (べつに文頭は小文字で書いてもよい)。

なにも変な記号はつかないとさきほど言ったが、じつは母音には ā, ē, ī, ō, ū のように横棒を載せることがある。この棒をマクロンと呼び、長母音であることを示すものだが (つまり ā ならアでなくアー)、これはあくまで学習用の補助記号であって、ふつうにラテン語を表記するときには書かない。


ラテン語の発音とカナ表記——英語は世界標準ではない


ラテン語の発音ははなはだ簡単である。日本人が欧米の言語に触れるのはほとんどの場合英語が最初だから、どうしても英語を基準にして考えてしまいがちだが、英語という言語はこと発音とつづり字の関係に関するかぎり、世界でも有数の異常なほど複雑で奇妙な言語である。英語に比べればフランス語やドイツ語のほうが規則は単純だし、ラテン語とは天と地ほどの差がある。とにかく英語の色眼鏡は捨て去ってもらいたい。そのかわりに日本語のローマ字を思い出せば、それがほとんどそのままラテン語の発音規則である。

a と書いてエイと読むとか、i がアイだとか、e がイーだとか、そういう気が違ったようなことは英語以外ではありえない。ドイツ語でもイタリア語でもスペイン語でもそんな馬鹿なことはしない。a といったらア、i はイ、u はウ、e はエ、o はオこれが世界の常識である。トルコ語だろうとフィンランド語だろうとスワヒリ語だろうとラテン文字を使う言語はぜんぶ同じ、ラテン語ももちろん同じである。だからこそ日本語のローマ字もそうなったのだ。それゆえラテン語で mare〈海〉といったらマレ、portus〈港〉といったらポルトゥス。そのまんま、書いてあるとおりに文字を読む。英語話者だけはメアやポータスなどと読みそうだが、こんないかれた非常識はぜんぶ忘れるように。世界では通用しない。(なお、英語などという辺境の言語が普及してきたのはほんのここ百年ほどの話で、20 世紀初頭までは国家間の外交言語はフランス語、国際的な論文なども戦前は文理問わずたいていフランス語かドイツ語で書かれていた。そのさらに前にはもちろんラテン語だった。)

子音の説明をしないまま少し先走ってしまったが、こちらも注意点は多くはない。b, d, f, h, k, l, m, n, p, q, r, s, t, x はふつうの欧米語と同じ (日本語にあるものはローマ字と同じ)、br や st のような組みあわせも続けて読むだけで、ph, th, ch さえそうである (たとえば ph は p + h なのだからプフで、f の音にはならない。ただこの場合 h は無視してただの p, t, c と同じに読むことは許されている)。このなかで注意が必要なのは、s, x は決して濁らないように、rosa〈バラ〉はロサである。また、b は s, t の前では清音になる、つまり urbs〈都〉はウルブスではなくウルプス。

残っているのは c と g、それから j と v の 4 文字だ。といっても難しいのではなく逆に簡単すぎて現代語と違うのだ。英語やフランス語やイタリア語などでは、c, g は a, u, o の前ではカ行・ガ行、e, i の前ではサ行やチャ行・ヂャ行になるという場合分けがあるが (いやアホの英語にはその程度の規則性すらない:gi は gift ではギ、gist ではジ、giant はジャイだ)、ラテン語ではそういう面倒なことがない。いつでもカ行・ガ行である。ca はカ、ci はキ、cu はク、ce はケ、co はコ。とにかくそれだけである。g も同様、ガギグゲゴ。例外はない。

それから j はドイツ語やオランダ語やチェコ語などと同じくヤ行、わかりにくければローマ字の y だと思ってよろしい。v はワ行すなわちワ (ウァ)・ウィ・ウ・ウェ・ウォで、これもわからなければローマ字の w だと思えばよい。両方を含む例として、juvenis〈青年〉はユウェニス。

子音字は 2 つ重なる場合は 2 つぶん、つまり日本語の促音や撥音のように読む。puella〈少女〉はプエッラ、annus〈年〉はアンヌスのように。このとおり、とにかく読まない字はラテン語にはいっさいないし、書いてあるとおりに読めばよい。特例として、子音 j が母音間にある場合は 1 文字で 2 つぶん読む。つまり major〈より大きい〉は maj·jor のようにマイヨル、ejus〈彼の、彼女の〉はエイユス。

以上でほとんどラテン語の発音は完璧だが、最後に重要なこととして、ラテン語には母音の長短の区別がある。これも日本語と同じである。日本語ではオバサンとオバーサンは別の単語だし、オーバサン (大場さん) もまた別人だ。伸ばすか伸ばさないかで意味が変わってしまう (なお、ここまでに例示した単語はどれも伸ばさないものを選んでいた)。どこを伸ばすかは単語によって決まっているので調べるしかないが、じつはそんなに困ることはない。

その理由を説明するまえに悪い例として、書籍化もされたなろう小説『トリニータス・ムンドゥス』を取りあげる。このタイトルはラテン語で trinitas〈三位一体〉、mundus〈世界〉をカタカナにしたものだが、トリニータスというのがたいへんまずい。正しくはトリーニタース、つまり最初の tri は伸ばし、次の ni は短く、最後の tas はまた伸ばすのが本当だが、よりにもよって 3 つの母音すべてで長短を間違えている。これでは大場さんを呼ぼうとしてお婆さ〜んと言ってしまったのと同じである。このようにタイトルでまでやらかした例は珍しいが、文中で同様のミスをしている例はいくらでも見受けられる。

したがって、長音符を入れるならばかならず正しい位置に入れなければならないのだが、ラテン語のカナ表記において長音符は必須なのではない。たとえばかのカエサルのフルネームはガーイウス・ユーリウス・カエサルというのが本当だが、ふつうはガイウス・ユリウス・カエサルと表記されている。カナ表記では慣習的に長音は省略してもよいのである。だからわからなければぜんぶ短で書いてもよろしい。しかし伸ばす場合には勝手なところでなくちゃんと調べて正しいところに入れないとお婆さんになってしまうので注意。


発音の補足——教会式発音その他


以上説明しきたったラテン語の発音は古典式、すなわちラテン文学がもっとも栄えていた紀元前 1 世紀ころの古代ローマで話されていた当時の発音である。だがラテン語の発音というのは時代と地域によって変遷し、複数の流儀がある (それらを網羅的に説明するのは煩雑に過ぎるので、ここではわずかな例示に留める)。欧米の人々は、なにしろ自分たちの言語にも同じラテン文字を用いていてその読みかたに慣れているものだから、ラテン語を読むに際してもその訛りで読んでしまう悪癖があるわけだ。まあ日本人とて、古文を現代式の発音で読んでいるのだから人のことを言えた義理ではない。千年まえには「あはれ」はアファレ、「いづれ」はイドゥレのような発音であったが、古典の教師さえアワレ、イズレと「現代訛り」で読んでいる。

ケーススタディとして今度は『ファイナルファンタジー XV』の主人公の名「ノクティス・ルシス・チェラム」を取りあげよう。この 3 語はいずれもラテン語だが、古典式と一致しているのはノクティス noctis だけである。一方チェラム caelum というのが英でも仏でも独でもないイタリア式=教会式を一部含んでいる、というのは教会式発音では ae, oe (古典式では無論アエ、オエ) をエーと読み、かつ c には例の場合分けが発生するので、caelum を教会式で読めばチェールムとなる。長短は捨象され、lu がラになってしまう点は英語訛りが混ざっているわけだ。だが教会式のように c をチャ行で読むなら lucis はルーチスとなるし、noctis の ti はツィになる。つまりこの名前はいったいどんな方式で読んでいるのか、破滅的に混乱してしまっている。

ラテン語の発音をカタカナ表記するとき、ある読みかたでは日本語の字面としてあまり格好よくないという場合があるかもしれない。彼の名前を古典式で一貫すればノクティス・ルーキス・カエルムというのが正しいが、どちらが FF の主人公という感じがするか。そのあたりの忖度から、発音が好き勝手に何語でもないふうに歪められてしまったのだろう。

しかし、作品全体としての美しさまで考えるなら、やはり全体の読みかたは (古典式、教会式、その他なんであれ) 統一されているほうが望ましい。もしあなたの選んだ流儀のなかで特定の単語の発音が不格好だと感じるなら、そこを場当たり式にいじる以外に、べつの単語を採用するという選択肢も考えてみるとよい。以上で文字と発音の説明を終える。


名詞の性と形容詞の一致


ここから本格的に文法の説明に入っていくが、すでに言ったようにこの記事ではラテン語文法の総解説などは意図しておらず、なにか気の利いたネーミングをするための非常に限られた事項しか紹介しないので、もうそんなに長くはならないだろう (ここが全体の真ん中あたり)。具体的には名詞と形容詞の語形変化についての基本、それを用いた修飾などの使いかた、これだけである。

まずラテン語の名詞には男性・女性・中性という分類がある点、現代のドイツ語やロシア語などと同様である。これは単語によって決まっているのでやはり覚える (調べる) しかない。語尾によってある程度の見当がつく場合は多いが、確実ではないためだ。

その性がなぜ重要かというに、修飾する形容詞の語形がこれによって決まってくるからである。さきに紹介した「Echoes のラテン語」でも最初に取りあげている間違いに、meridianus mare という例がある。mare というのは〈海〉を意味する中性名詞で、meridianus は〈南の〉という形容詞だが、それは男性名詞にかかる場合の形であって、中性ならば meridianum でなければならないのだ。ゆえに meridianus mare ではこの 2 語のあいだには結びつきがないことになるから、「南の海」という意味にはならない (無理に読めば「南の男は海を」となる)。ついでに言えば形容詞は後ろに置くほうが普通である。形容詞はそれが修飾する相手の名詞の性・数・格によって形が決まるので、その情報を見極めないといけない。ではどういう形になるか、それは後で説明しよう。


名詞の格変化——付:辞書の引きかた


ラテン語の名詞には 6 格がある。日本語にも「格助詞」というカテゴリがあり、それは「が」「の」「に」「を」といった特定の助詞をまとめたグループだが、その「格」と同じもので、文中での名詞の関係を表現するものである。「私が」なら「私」はなにか行為をする主体であって文の主語なのであろうし、「私の」なら後にはなにか「私」が所有するものなどが続くのだろう。

だが、ラテン語の文章を読みたいのでなければ、もはやこれ以上の説明は蛇足であろう。「が」を意味する主語の、もしくは何もつかない名前としての基本の格を主格、「の」という所属を意味する格を属格という。この 2 つで十分である。それだけあれば「嵐の王」でも「炎帝 (=炎の皇帝)」でも、厨二っぽい称号はあらかた立派に表現できる。

辞書などで単語を引くと、名詞なら tempestās, -ātis, f.「悪天候、嵐」のように載っている。最初の tempestās が単数の主格の形で、それが辞書の見出し語になっている。次の -ātis というのは tempestātis の略で、これが単数属格の形、主格と共通する部分はたいてい省略されて載っている。f. はこの単語が女性名詞であることを意味する。したがってもし tempestās を形容詞で修飾するならば女性単数主格形を作らないといけないことがわかる。他方「王」のほうは rēx, rēgis, m. で、これは共通する部分が短いため属格形 rēgis はフルで出ている。m. は男性名詞のこと。

するともう「嵐の王」はラテン語訳できる。ここで間違ってもただベタベタと tempestas rex のように主格形を並べてはいけない。そのようなタイプの誤りは「Echoes のラテン語」でさんざん指摘したが、もうひとつ FE シリーズの旧作『烈火の剣』から、終章に登場する槍「レークスハスタ」を引証しよう。レークスはいま見たとおり「王」、ハスタは「槍」hasta である。たぶん「王の槍」か「槍の王」のような、なんだかすごい槍を表したかったのだろうが、主格を並べただけでは修飾にはならないので (英語にも代名詞にだけ格変化が残っており、his lance「彼の槍」を he lance とは言わない)、これは be 動詞を省略した「王は槍なり」のような格言ふうの文になってしまう。

したがって、「嵐の王」なら正しくは「嵐の」を属格、「王」は主格で、rex tempestatis [レークス・テンペスターティス] とすればよい (すでに述べたように、ā などのマクロンはふつう書かない)。属格名詞は形容詞と同じく後ろに置くのが原則であるのでこの語順になる。「王の槍」なら「王の」のほうが属格で hasta regis [ハスタ・レーギス] である。なお、「王」が男性で「嵐」と「槍」は女性名詞だったが、これは名詞どうしなので性は一致していなくてよい。名詞は単語ごとに性が決まっているのだから、女性名詞を男性にしようなどとしても無駄である。


形容詞の変化——Wiktionary 活用のすすめ


ところが繰りかえしになるが、形容詞でもって修飾するのであれば性・数・格が一致していないといけない。かりに horridus〈恐ろしい〉という語を rex と tempestas それぞれにつけてみるとしよう。horridus を辞書で引くと horridus, -a, -um, adj. のように見出しされている。adj. すなわち形容詞の場合には、単数主格形が 3 性で異なる場合にはこのように 3 つ出ており、男性単数主格が horridus、女性単数主格が horrida、中性単数主格が horridum であることがここからわかる。したがって、「恐ろしい王」なら男性なので rex horridus、「恐ろしい嵐」なら女性なので tempestas horrida である。

さらに進んで「恐ろしい嵐の王」とするにはどうすればよいか。この日本語は少々曖昧で、恐ろしいのが嵐なのか王なのか 2 通りにとれる。しかしラテン語では性と格が違うのでそれらを区別できる。すなわち「嵐の王」rex tempestatis において「王」なら基本の男性単数主格なので先と同じく horridus でよいが、「嵐の」は女性単数属格になっているため、そちらにかかる場合は形容詞も女性単数属格の horridae になる必要があるのだ。

さてこの horridae という形は辞書には載っていない。ここで形容詞の性・数・格の変化という問題に戻ってくる (ついでに名詞の数と格の変化も)。名詞の格変化には第 1 から第 5 までのパターンがあり、形容詞にも第 1・第 2 変化と第 3 変化がある。が、こんなものをいちいちぜんぶ説明していたら結局ラテン語の入門書の厚さになってしまう。

まじめに勉強した人ならこれくらいは暗記しているが、べつに覚えなくたってみなさんは Wiktionary を見れば済む。Wiktionary の英語版にはふつう必要になるかぎりではラテン語の全単語が登録されていて、名詞や形容詞や動詞はすべての語形変化が一覧表になっている (日本語版はまだそこまで徹底されていないが、いずれはそうなるかもしれない)。rēx, rēgis, m.「王」と horridus, -a, -um, adj.「恐ろしい」なら次のようである:



名詞なら単数・複数それぞれ 6 格で 12 通り、形容詞は 3 性・2 数・6 格なので 36 通りに変化するわけで、そのとおり表ができている (同形の部分はまとめられている)。格については詳しく説明しなかったが、上から 2 段が主格 (nominative) と属格 (genitive) である。これさえあれば格変化のパターンなど理解しなくても適切に変化形を作ることができる。

名詞を複数形にする必要がある場合も大丈夫、この表で複数主格と複数属格の欄を見れば事足りる。王 rex は複数主格 reges, 複数属格 regum なので、たとえば「聖なる王たち」なら reges sacri [レーゲース・サクリー]、「王たちの道」なら via regum [ウィア・レーグム] とわかる。ここで形容詞 sacer〈聖なる〉が男性複数主格になることを改めて注意しておく。この一致を間違えたべつの例が『ファイナルファンタジー VIII』のオープニングテーマ Liberi Fatali である。liberi〈子どもたち〉は男性複数主格だが、fatali はそうなっていない。この語の基本形は fatalis〈運命の〉であって、その男性複数主格形は fatales である (これを第 3 変化形容詞という。一方もしもとの形が *fatalus だったら上掲 horridus と同じ第 1・第 2 変化で fatali になる。その凡ミスをしたわけだ)。ともあれ、いまどきは Wiktionary でちゃんと調べれば語形を間違えることはない。


形容詞の名詞用法


ラテン語では形容詞をそのまま名詞として使うことができる。英語でも the Immovable「動かざるもの」や the Inexhaustible「尽きざるもの」のように定冠詞+形容詞で名詞になることができるが、ラテン語には冠詞がなく、形容詞が単独で名詞としても働く。そのさい男性または女性形ならその性の人間、中性形なら物や概念を意味する。bonus, -a, -um〈よい〉という形容詞は、男性形 bonus と女性形 bona がそれだけで「善人」、中性形 bonum は「よきもの」もしくは「善」。

したがって「動かざるもの」という存在がいたらラテン語では Immobilis [インモービリス]、「尽きざるもの」という物は中性で Inexhaustum [イネクスハウストゥム] と訳すことができる。「はかなきもの」Evanidus, -a, -um、「永遠なるもの」Aeternus, -a, -um などなど、形容詞で言えるものはすべてこの方式で表せる。その存在が人間を指すなら男性・女性、物なら中性 (あるいは、その存在を指す名詞が念頭にあるならその性にあわせてもよい。たとえば女性名詞の槍 hasta を名づけた称号と決まっているなら女性形、など)、さらに複数なら複数形に変化させるのを忘れないこと。


完了分詞と現在分詞


この応用として、動詞の完了受動分詞 (英語の過去分詞にあたる) と現在能動分詞を使った表現も考えられる (短く完了分詞・現在分詞ともいう)。動詞の説明は省くので、その作りかたはやはり Wiktionary を見るのが手っ取り早い。amo〈愛する〉という動詞を引くと、大きな活用表の最後のほうに分詞 (participle) がいろいろ載っているが、必要なのは完了受動分詞 (perfect passive) と現在能動分詞 (present active) の 2 つだ。それぞれ amatus と amans と出ており、そこのリンクで飛ぶとやはりその分詞の語形変化が一覧表になっている。分詞は形容詞として機能し、形容詞と同じタイプの変化をする。

完了受動という名前から想像がつくとおり、amatus は「愛された」という意味で、これを形容詞の名詞用法で使えば amatus, -a, -um は「愛された者・物」の意味になる。同じく現在能動分詞 amans は「愛する・恋する者」(愛する相手ではなく主体のほう)。

つまりこれを利用すれば、動詞によって「〜するもの」や「〜されたもの」を意味する表現が可能になる。たとえば「打ち砕くもの」という武器は frango〈砕く〉という動詞の現在分詞で frangens [フランゲンス] と言えばいいし、完了分詞 fractus [フラークトゥス] なら「砕かれしもの」になる。「造られしもの」なら creo〈創造する〉の完了分詞で creatus [クレアートゥス] だ。(ただし現在分詞では進行・継続の感じも加わるため、「打ち砕くもの」の場合は動作者名詞 fractor [フラークトル] のほうがよいと思う。だがその構成法はまちまちでつねに作れるわけではなく応用が利きづらいので、どんな動詞からも機械的に作れて応用しやすい分詞を妥協案とする。amans「恋する者」や sapiens「分別をもつ者=賢者」のように、動詞によっては現在分詞の名詞化も自然である。)

これまでの総仕上げとして、分詞は形容詞として働くのだから、名詞を修飾することもできる。たとえば「燃える炎」は ardeo〈燃える〉の現在分詞を使って ignis ardens [イグニス・アールデンス] と表現できるし、「見捨てられし地」なら desero〈見捨てる〉の完了分詞で terra deserta [テッラ・デーセルタ] ということになる (cf. 英 desert〈砂漠、荒野〉)。何度でも言うが性・数に応じて語形を変化させることをゆめ忘れぬように。


おわりに——単語の調べかたと最後の仕上げ


以上の解説によって、名詞の主格と属格、それに形容詞、分詞を自在に組みあわせてラテン語のタイトルや地名や魔法名などを正しく作ることは可能になったことを期待する。ゲームに出てくるようなファンタジーっぽい言葉の翻訳例を示して説明してきたので、発想力豊かなみなさんなら同じように表現できそうな語句をもう何十何百も思いついているのではないだろうか。ぜひともそれを活かしてラテン語の名前を考えていただきたい。

しかし、発音と文法の基本についてはこれでひと通りわかったとしても、いったいラテン語の単語はどうやって知ればいいのだろうか。〈炎〉を意味する名詞 ignis や、〈燃える〉という動詞が ardeo であることはどうやって見つけるのか。それはもちろん和羅辞典や英羅辞典などを引くのが最善であって、前者については私も愛用している研究社の水谷『羅和辞典』をおすすめしておく (巻末に和羅の部がある)。あるいは、冒頭でも言及した創作向けのネーミング辞典のたぐい (たとえば新紀元社の『幻想ネーミング辞典』や学研の『創作ネーミング辞典』) でもいくぶんかの仕事は果たすと思うが、ああいうものは専門家が書いているわけではないので正確性には注意が必要。まあ安いので値段相応だし、ふつうの辞書よりファンタジーに特化しているぶん便利な面もある。

どうしても本を買いたくない人はしょうがないので Google 翻訳や Wiktionary でも使ってください (もちろん辞書と併用するのも可)。機械翻訳というのは機械学習の積み重ねにもとづいているので、AI が訳したことがないような語句を訳させるとたいてい失敗する。だから日常使わないファンタジーな言葉などもってのほかである。しかし単語を 1 つずつ訳させるだけならうまくいく場合もある。試しに英羅翻訳で fire と入れてみると ignis と出力されることをいま確認した (以下、翻訳結果は 2020 年 10 月 30 日現在のもの)。king は rex、children は liberi、どれも正しい。名詞 1 つだけならそこそこあてにできる。

ところが形容詞で beautiful を入れてみると pulchra と返してくる。意味は正しいが、それは女性形である。辞書にある見出し形は pulcher〈美しい〉なのにそれを出してくれないので、この時点で辞書としては機能しないことがわかる。しかも beautiful fire と並べてみると pulchra ignis と返してきたが、ignis は男性名詞なのでもう完全に失敗している。beautiful fire なんてふつうは訳さないのだからしょうがない。したがって、使う人はやはり上で説明した文法の基本を理解して適宜修正してやらないと、この程度のきわめて単純な語句さえ正解が得られないわけである。

もうひとつ、〈燃える〉という動詞が欲しくて burn を 1 語だけ入れてみるとどうか。結果は信じられないことに adolebitque というもの。どうしてそうなった? これは adoleo〈生贄を焼く〉という動詞の未来形 (!) 3 人称単数 adolebit に、〈そして〉を意味する -que のついたもので、「そして彼 (彼女) は生贄を焼くだろう」という意味であるが、予想を超えてひどい。しかし辞書的に使いたいなら動詞の場合は to burn のように to 不定詞の形で入れてやれば、uri といういちおう適当な結果が出てきた。あるいは burns とすると ardet という、ardeo の現在 3 単の形がちゃんと出てくるので、Wiktionary で語形変化を調べることもできる (Wiktionary ではたいていの場合変化形からも原形を発見できる。ただし adolebitque の場合は -que をとることを知らないと検索できない)。

とにかくこのように機械翻訳では 1 語を正しく得るにもいろいろなコツと工夫が必要になるものなので、決して最初に出てきた結果にすぐさま飛びつかないようにということは口を酸っぱくして忠告しておきたい。これはちゃんとした辞典を使う場合でも言えることで、1 つの日本語に対応するラテン語 (でもどんな外国語でも) の単語は何通りもあることが普通なのだから、今度は与えられたそのラテン語のほうを調べなおすという手間を省いてはならない。

そして適切に語形変化をさせてラテン語訳を完成できたと思えたならば、今度はそのラテン語の文字列でまたググって用例があるかを確かめてみる、これが最後の作業である。"ignis ardens" のように半角引用符 "..." で挟んで検索すると、その 2 語がその順で完全に同じ形で使われている例だけが出てくる (これを完全一致検索という)。これがどこかでつづりや性数の一致などを間違えていれば検索結果はゼロないしほんの数件になるので、用例がいっぱい見つかるならば少なくとも文法的には間違っていないことが確証される (とはいえみなさんの訳したいファンタジーな名称は正しくても用例がないことは多かろうから、ゼロ即間違いとは限らないが)。こういう作業を徹底できるならネットの検索だけでもそこそこ形になるはずである。


推薦図書——もっと学びたい人に


ラテン語をもう少し本格的に勉強してみたいという人で、教師なしに独習する場合には、手始めとしては次の 3 冊が簡単で説明も親切だと評判の高いものである:河島『基本から学ぶラテン語』(ナツメ社、2016 年)、有田『初級ラテン語入門』(白水社、1964 年)、山下『しっかり学ぶ初級ラテン語』(ベレ出版、2013 年)。いずれも解答つき、易しいほうから順に並べたつもりだが、私は実際に読んだわけではないので詳しいレビューはできない。

私じしんは大学で松平・国原『新ラテン文法』(東洋出版、1992 年) と中山『標準ラテン文法』(白水社、1987 年) を教科書として学んだ。田中『ラテン語初歩』(岩波書店、改訂版 2002 年) とあわせて、これらが日本じゅうの大学等で使われているラテン語教科書としては最大のシェアを占める定評ある 3 点であって信頼できるものだが、どれも練習問題に解答がついていないので初心者にはおすすめしづらい。

このなかで言えば田中『初歩』がはっきり易しいもので、答えがないとは言っても和訳問題と作文問題がかなり対応しているので独習が不可能ではない。残りの 2 つは指導者なしには厳しいだろう。しかしネット上には当サイトも含めてこれらの問題の解答を作って掲載しているブログ等がいくつかあり、鵜呑みにはできないにせよ参考程度には役立つので、やる気のあるかたはいずれ挑戦してみてほしい。ともかくこの 3 者くらいの本をあげればラテン語文法の基本は修めたといえるレベルに至る。

文字の上では必要ないと割りきって切り捨てたアクセントの説明をはじめ、この記事では扱わなかった文法事項は多岐にわたるので、1 人でも多くのかたが以上の入門書に進んでラテン語学習の楽しみに触れてくださるとうれしい。なお、上記で扱った事項のうち大半はどの本でも解説されているが、教会式発音についてだけはふつうの本にはない (すべて古典式) ので、その点を知りたいかたには土岐・井阪『楽しいラテン語』(教文館、2002 年) を紹介しておく。


〔2022 年 4 月 22 日追記〕本稿はもっぱら命名のために最低限のラテン語表現を自分で作れるようにという目的で書いてあるが、ゲームやイラストなどで小道具としてラテン語の文章を織りこみたいという向きに、実践編として手っ取り早い方法を補足する。それは実際のラテン語古典の一節をそのまま使うというものだ。単純な解決法だが、メリットはたくさんある。

第 1 に、それは言うまでもなくラテン語の真正のテクストであって、誰にもケチのつけようがない完璧なラテン語表現であるということ。文法が間違っていないかどうかなんて低レベルの問題に悩まされないどころか、言葉選びや文体に至るまで本物のラテン語なのだから堂々と見せられる。

第 2 に、そういった古典の主要なものは長年の西洋古典学者の努力によってとっくに日本語に訳されきっている (有名なものは何通りも翻訳がある) ので、意味がわかる。つまり、日本語で読んで気に入った一節を見つけてから、その対応箇所をラテン語原文で探してそっくりそのまま使えばよいのである (古典のエディションはたいてい章・節が細かく区切られており、対応箇所を見つけるのは容易)。自分の作品の雰囲気にあった古典を選べばしっくりくる一節がかならず見つかるはずで、そうすれば作品の受けとり手にラテン語を読まれたとしてもなんら恥じるところがない、どころかすばらしいフレーバーとして機能するだろう。

たとえば『ファイアーエムブレム 風花雪月』では序盤のムービーで、主人公ベレト/ベレスが開いている本に『ガリア戦記』の一節がそっくりそのまま使われているのが見える。士官学校の教師が読むものとしてはおあつらえ向きであって、それがわかる人に対しては雰囲気作りや設定の裏書きとして大きな効果を発揮するのである (なぜラテン文字がそのまま使われているのかという違和感も与えかねないがそれは今更だ、そんなことを言ったら命名にも現実の言語を使うべきではない)。

ラテン語の古典にはありとあらゆる分野の作品がある、これが第 3 のメリットである。歴史あり、哲学あり、神話の本もあるし宗教は言うまでもなくキリスト教のあらゆる著作がラテン語で書かれている。かと思えば恋愛詩もあるし卑俗な小説もある。科学・数学だって近代に至るまではラテン語で論文が書かれたのである。ファンタジー作品に使うためのラテン語を求めてここに来られたかたなら、役に立つものはきっとラテン語文献のなかに見つかるはずである。

そこにもうひとつ余禄がある。つまり、古代・中世に書かれたそういう本物のテクストを読むことは、創作物のクオリティを高めるのにかならず貢献するということだ。本物の歴史や文化、本物の古代・中世人の考えかたがそこには含まれている (むろんヨーロッパに偏りはするが)。

そして忘れてはならないもう 1 つの大きな利点は、費用がかからないということ。といっても日本語訳を買うにはお金がかかるが、ラテン語の原文に限って言えば、事実上ほぼすべてのラテン語テクストはネットで無料で公開されているといっても過言ではあるまい。Perseus Digital Library や The Latin Library には主要なラテン語著作が集められているし、Archive.org では昔の Loeb 叢書を含む著作権切れの本が全ページ掲載されている。閲覧が自由なだけでなく、ラテン語の文章ならどんなに長々と丸写ししたって著作権侵害の心配はないのだから。

mercredi 21 octobre 2020

樋口・藤井『詳解ラテン文法』練習問題解答 (9)

樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 33 課から第 35 課までの解答例。最後の第 36 課には練習問題がなく、今回が最終回となる。が、今回第 33 課の最後に唯一完全に理解できない文が現れてしまい、解答を名乗るうえで忸怩たるものがある。もし説明できるかたがいらっしゃればぜひともコメントでご教示いただきたい。

ともあれ、中山『標準ラテン文法』の解答田中『ラテン語初歩』初版および改訂版の解答に続いて、この 3 点め (4 冊め) も一応のこと完結させることができて肩の荷が下りた気分である。まだ何点か作りたいものはあったのだが、さすがにラテン語には少々疲れてしまったので、しばらくはべつのことに取りかかりたいと思う。



XXXIII. quōminus と quīn


§150.


1. 裏切り者を憎まないような者は誰もここにいないと私は信ずる。

2. ローマ人が野蛮人よりも強いということを知らぬ者は誰もいない。

3. キケローは唯一の自分の祖国を特別に愛していたという点で抜きん出ていたことを疑う者はない。

4. ときどき間違えることがないほどに賢い者はほとんど誰もいない。

5. 痛ましく恐怖させられた兵士たちは逃げないように束縛された。

6. カティリーナよりむしろキケローに好意を抱かないような者はそのときローマに誰もいなかった。

7. なぜ私たちは不公平な法律によって幸福であらんことを妨げられるのか。

8. そのようなことを聞くとき、私はときに私たちがほかの時代に生きていたらと欲しそうになる (lit. 〜と欲することから少ししか離れていない)。

9. 私たちが昨日出帆することを嵐が妨げた。

10. 私は彼を恐れないではいられない。

11. 少女は恐怖のために歯ががたがたするのをほとんど自制することができなかった。〔dentibus は限定の奪格「歯の点で」か。〕

12. 私たちの (軍) が勝ったことに疑いはなかった。〔以前にも説明した、所有形容詞だけで「〜の仲間・味方」などを意味する用法。〕

13. 君のせいで私たちは逃げられなかった。この戦闘で私たちの (軍) は約 5 万人が死に、ともすればあの日が戦争に終わりをもたらすところだった。〔hoc proelio からは Herbert Chester Nutting (1872–1934) によるラテン語読本 Ad Alpes (1927 年) の XVII 章 80–81 行 (p. 100)。第二次ポエニ戦争におけるカンナエの戦いのことが話題になっている。nostri でなく nostrum だったら人称代名詞の配分の属格「私たちのうち約 5 万人」で話は簡単だが、nostri なのが悩ませる。これは所有形容詞の男性複数主格で perierunt の主語になっているはずである (現にその本の脚注にも ‘nostrī: nom.’ と書いてある)。しかし浮いている数詞は名詞扱いの milia なので nostri を直接修飾することはできない。逆にもし nostri が所有形容詞として milia にかかるなら中性複数主格 nostra でないといけない。残る可能性としては、circiter quinquaginta milia が全体として不変化の数詞扱いで nostri にかかっているのか、広がりの対格のように副詞的に働いているかのどちらかかと思う。泉井『ラテン広文典』329 頁に « Ad [Circiter] ducentas domos incendio deletae sunt. » という例文があり、ここで domos は前置詞の目的語として複数対格なのだが、ad ... domos の全体は文の主語として複数主格扱いとなり完了分詞が deletae となっているおもしろい文である。関係があるかはさておき、ここで circiter が対格支配の前置詞でもあるという事実が判明する (本書の単語集では副詞のみ)。とにかくこの文は本書の説明では理解できない。私には nostrum の間違いとしか思えないのだが、作文した Nutting がわざわざ注をつけて主格だと明言していること、それを引いた本書の著者らも問題を感じていないことに鑑みれば、なにかこういう用法があるのかもしれない。いずれにせよ文意は上のようにならざるを得ないだろう。〕


XXXIV. gerundium と gerundīvum


§154.


1. ハンニバルは船の数の点で凌駕されていた、それで彼は策略によって戦わねばならなかった。

2. 教えて、お姉ちゃん、私に歌の技術を。

3. 哲学者たちは討論することに時間を費やしていた。

4. もう子どもたちにとっては寝にいく時間だ。〔cubitum eundi は目的分詞 + eo「〜しにいく」の動名詞属格。〕

5. 彼の馬についてもあることが言われねばならない。

6. たしかに皇帝ネローはまったくほめられるべきでなかった。

7. アウグストゥスは都を飾ることを始めた。

8. ユピテルにたしかに最大の感謝がなされねばならない、すべてのことがこれほど順調に起こったから。

9. まもなくローマへ向けて私たちは進発せねばならないだろう。

10. ハンニバルは、これほどの勝利で持ちあげられた [高揚した] が、熟考の時間を要求した。

11. 多数の人間の力はかろうじて象一頭の力に比されるべきである。

12. 象たちが泳いで対岸に渡ったと伝えるような人たちがいた。〔nando は no「泳ぐ」の動名詞奪格。〕

13. 私と妻はクィーントゥスとともにより早くパラーティウムに行かねばならない、遅滞なく私の到着について皇帝が知らされるように。〔パラティウムすなわちパラティヌスの丘には歴代の皇帝の宮殿があった。〕

14. 健全な精神が健全な身体のなかにあるように願われるべきである。〔「健全な精神は健全な肉体に宿る」というスローガンでよく知られているが、「事実ある、そうなる」という直説法の主張でなく、「あるように」という接続法で「願われるべき」内容として言われている。〕

15. (彼女は) はじめはおそらく戦う [抗う] だろう、そして「不快な人よ」と言うだろう;しかし戦う [抗う] ことで自分が征服されることを彼女は欲するだろう。〔improbe は男性単数呼格。pugnando は動名詞の奪格 (se = illa は女性なので、動形容詞だとするには男性の te が足りない)。樋口訳「初めはおそらく彼女は抵抗するであろう。また『いやな人』というかもしれない。彼女は、しかし、戦うときには征服されたがるものだ」(平凡社ライブラリー版 48 頁);沓掛訳「はじめのうちはきっと抗って、『失礼な人ね』と言うだろう。だが抗いながらも、女は征服されることを望んでいるのだ」(岩波文庫版 46 頁)。〕

16. 日々は落ちては戻ってくることができる。私たちにとって、ひとたび短い光が落ちたとき、眠られるべきただひとつの永遠の夜がある。〔sol は「1 日」の意味でも使い複数になりうる。occidit は直説法現在と完了が同形でどちらともとれる。dormienda は女性単数なので、非人称の「私たちは眠るべきである nobis dormiendum est」と解することはできず、あくまで nox に一致している。なお柳沼重剛『ギリシア・ローマ名言集』ローマの部 10 番 (86 頁) に同じ章節がとりあげられており、あまりうますぎて学習者の参考にはならないと思うが、次のように訳されている:「お日様は,沈んでも,また昇れます.ところがわれわれのつかの間の光は,一度沈んだら,あとは一続きの夜を眠るだけ.」〕


XXXV. 接続法の一般的な意味 (2),非現実の願望・条件文


§158.


1. もし万一私が君たちにすべてのことを語ろうと試みるなら、私から一日がなくなるだろう。

2. いま冷たい泉から (水を) 飲むことができたなら。

3. 君たちが安全に到着したことを私は喜ぶ;だがもし君たちがすぐに私のところに来たのだったら、君たちはもっと正しいことをしたのだったが。—— もし私たちがあなたの家を知っていたのだったらそうしていたでしょうが。

4. 君が順調に進歩するなら、いつか本物の詩人になれるだろう。

5. 子どもたちは、もし許されていたのだったら、きわめて喜んで遊び [見世物] のなかで遊んだのだったが。

6. カエサルが最初にブリタンニアに到達したとき私がそこにいたなら。

7. もしおまえがより近くに近づいたとするなら、私はおまえの目をえぐりだすかもしれない。おまえは戦いたいのか。〔tibi は関与者の与格 (§90 (1))。〕

8. もし今日君がふたたび叫びを上げるとするなら、君は君の最大の悪 [不幸、災難] によってそれをするだろう。〔単語集で tollo は「乗せる,もち上げる」としか載っておらず、これでは正しく訳せるわけがない。malum についてもしかり、こちらは名詞としての立項はなく形容詞「悪い」の語義だけなので、「君」が極悪な邪心から (いたずらで?) 叫ぶとしか考えられない。〕

9. ハンニバルはおそらく、もし彼が急ぐことを欲したのだったら、都そのものを占領することができた。

10. 君は何を疑っているのかすぐに私に言うべきだった。

11. そしてもしそれがなされていたのだったら、こうしたことは決して君に起こらなかったのだったが。〔quod = et id.〕

12. 君が幸福 [順調] でいるかぎり、君は多くの友人を数えるだろう;時 [状況] が曇ったものになったら、君は孤独になるだろう。


XXXVI. Ōrātiō Oblīqua


練習問題を欠く。〔完〕

mardi 20 octobre 2020

樋口・藤井『詳解ラテン文法』練習問題解答 (8)

樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 29 課から第 32 課までの解答例。



XXIX. ut と nē (ut nōn) の文句


§131.


1. 私たちは新しい軍勢が到着しないのではないかと恐れていた。

2. 将軍は兵士たちにひそかに逃げるよう説得した。

3. 誰かが心配しないように私はこれを書く。

4. 彼は私たちが泣きわめいたり絶望したりしないように私たちを励ました。

5. 水夫たちよ、どういうわけで私たちがこれほど迂回してイタリアへ旅することになっているのか。

6. なんらかの企みで君が欺かれることのないように、というまさにそのために私は君に忠告している。

7. キリスト教徒たちの愚かさは、私たちの神々に祈ることを欲しないというほど、それほどである。

8. 被告人が逃げ失せないようにということが最大の危険である。

9. そしてそのことを見ると、医者は、「彼の足が見えるようにせよ」と言った。

10. 君にお願いする、青年よ、私の商品を婦人たちに見せることが私に許されるように。

11. 婦人はプリーニウスに頼んでいた、(彼が) 自分から苦難を取り除くようにと、なぜなら船でなければ逃亡のなんらの希望もなかったから。

12. そのとき母は息子を大いに励ましはじめた、できるしかたで自分を守るようにと。

13. 神はミダースに命じた、(彼が) とある泉で身を洗うようにと。

14. 妻よ、君が元気であり、私たちの子どもたちを愛するように心がけてくれ。お元気で。ローマより送る、6 月 13 日 (lit. 6 月のイードゥースに)。〔Roma は奪格。〕

15. 彼らは友人たちが自分たちを発見しないことがないようにと [発見しないのではないかと] 恐れていた。

16. (彼女たちは) 見物をしに来る、(また) 彼女たち自身が見物されるために来る。〔樋口訳「彼女たちは見物しにくるのだが、自身人に見られるためにもきているのだ」(平凡社ライブラリー版 13 頁);沓掛訳「女たちは芝居見物にやってくるのだが、自分たちの姿を人に見られるためにもやってくるのだ」(岩波文庫版 13 頁)。〕


XXX. 比較;属格の用法


§142.


(1) 曲用練習


1. patiens : patientior, patientissimus.

2. similis : similior, simillimus.

3. brevis : brevior, brevissimus.

4. idōneus : magis idōneus, maximē idōneus.

5. amīcus : amīcior, amīcissimus.

6. bonus : melior, optimus.

7. grātus : grātior, grātissimus.

8. bene : melius, optimē.

9. pauper : pauperior, pauperrimus.

10. miserē : miserius, miserrimē.

(2) 和訳


1. 古いことわざにおけるように、始めることは成就することよりはるかに易しい。

2. たとえ君が年上であって、私のほうがより強い。

3. おお、解かれた心配 (=心配からの解放) より幸福なこととは何か。〔solutis は solvo の完了分詞で文末の curis にかかる。〕

4. この女性たちについて何かを言ってくれ;何物もそれより楽しいことはない。

5. 君が勤勉に働くほど、それだけ君は裕福になる。

6. 遠くないところに医者が住んでいる、それより優れたものはローマにおいてさえほとんど見いだされえないほどの。〔quo は medicus を先行詞とし、比較の奪格「その人より」。Romae は地格「ローマで」。〕

7. 少年は美しい花々をまったく評価していなかった。

8. 私と息子たちはあまり長くないあいだ船のなかで散歩するつもりだ。

9. そしてその叫びを聞くと (lit. 叫びが聞かれると)、母は、眠りから振り落とされ、明かりを灯して娘の寝台へできるだけ早く駆けつけた。〔quo = et eo で、eo clamore audito は独立奪格。excussa は女性単数主格で母に一致。〕

10. 机を主人は彼が所有していたあらゆる最良のもので熱心に積み上げていた。

11. カエサルはイタリアからできるだけ早く出発して、アレシアへガリア人たちの考えより早く到達した。

12. 皇帝ネローについて君はかなり多くのことを読んだか。—— 本当に多くのことを (読んだ);彼はカリグラと等しく馬に熱心だった。

13. もうおしまい! (私の) 連れあいはどこ? 私の哀れなこと! なにかしら悪いことが彼に起きたのだわ。

14. 私たちの伯父の畑は君の (畑) より 5 倍だけ大きい。

15. 都でははるかによい生きかたができる (lit. よく生きられている)。だから君は私とともに家を出発することを欲するのではないのか。

16. 銀は金よりも安い、金は美徳よりも (安い)。

17. 私は人間である:人間に関する何事も私に無縁ではないと私は考える。

18. 彼らのうちそれぞれ最初に来た者は来るやいなや城壁の下に整列していき、そして戦いながら自分たち (の仲間) の数を増していった。〔近山訳「敵はそこへ着くとまず防壁の下に止まり、戦いながら数を増して行った」、国原訳「彼らは到着するはしから、めいめい思い思いに城壁の下に持場を取り、戦友の数を刻々にふやした」、石垣訳「最初に到着した者が防壁の下に陣取ってからはどんどん戦う人数が増えていって大軍になった」。この問題に付されている注が正しいとすれば、正確に訳出しているのは 3 つのうち国原訳のみ。近山訳は切りつめすぎていて理解しているのか怪しく、少なくとも primus を到着順ではなく「まず」という到着後の行動に取り違えている (そうではなく主格で quisque に同格なので、venerat を補足する副詞的な述語的同格なのは明らか)。石垣訳は ut も quisque もごまかして訳せておらず、最初の者が 1 人だけに見える。〕


XXXI. 関係詞と接続法


§145.


1. 私は食料を買うような金をまったくもっていない。

2. 手荷物を兵士たちは残した [放棄した]、それによってより速く急行するために。

3. カエサルは不正に容赦するような者ではなかった。

4. カエサルは水を求めるための者を送った。

5. 私たちが夕食をとるような場所がない。

6. 敵たちは将軍の到着を知らなかったので川を渡った。

7. カエサルはそのことを疑っていたにもかかわらず人質たちを放った。

8. かつてはまったく読むことを学んでいないような多くの市民たちがいた。

9. 執政官は、じっさい前もって警告されていたために、このことを待っていた。

10. 誰もあのことを信じるほど愚かではなかった。

11. (彼は) 大きな勇気のために褒美を受けとるに値する。

12. これらの本は少女たちが読むのに適している。

13. この国ではその人たちにとって新しい法律が以前の (法律) に比べてより公正であるとみなされるような人たちは少ない。

14. 誰がそれほど愚かであるか、勇敢に戦うことがローマ人の兵士たちの (本分) であることを知らないほどに。

15. 私は君たちが聞きたがっているような多くのことをまったく知らないことを [知らないのではないかと] 恐れている。〔haud が否定語なので、§128 の nē nōn の場合と同じ型。〕

16. 君と同じように感じる若干の人々がいつもいた。

17. 手紙を手渡せ、奴隷よ、そして台所へ行け、そこでおまえの食べるようなものをおまえは見つけるだろう。

18. キケローはあまりに多くの賛辞で自分のなしたことを持ち上げた、と思うような者がいるのではないか。

19. 君は何かを私たちに語りたいのではないかね、それによってより楽しい時間が過ぎるような。

20. 私がその助言を与えたということでその私に (彼は) 感謝した。〔dedissem の接続法によって、助言が感謝の理由であることは「私」の考えではなくその当人の主張であることがわかる。〕

21. 王はその者たちの助言によってすべてのことを行うために年長者のうちから百人を選び、その者たちを老年のゆえに元老 (院議員) と名づけた。


XXXII. 主文に用いられる接続法


§147.


1. 君は私たちを憐れまないように。

2. ここへ近寄れ、子どもたちよ;帆の陰に座っていよう、私が君たちに獅子についての話を語っているあいだ。

3. 君が書いたものを聞こう。

4. いつまでも生きませ、おお王よ。

5. なにか催し物を見物したいのですが。役者たちをさえ舞台の上でかつて見たことがないのです。

6. 哀れな私はどこへ向かったらいいのだ。〔懐疑の接続法。se vertere「赴く、向かう」、比喩的に「どちらの側に加担する」の意味の場合もある。〕

7. よければ説明しよう、どんなふうにして独裁官カエサルがアレクサンドレイアで敵たちにより包囲されていたとき水の不足を軽減したか。

8. 私たちは死のう、戦闘のただなかに突っこもう。敗者たちにとって唯一の救いは、なんらの救いをも望まないことだ。〔media の訳しかたについては 36 頁注 1 (中山『標準ラテン文法』§46 の言葉では「部分を表す述語的同格」)。victis は vinco の完了分詞「破られた者」の複数与格。〕

9. すべてに愛は打ち勝つ、私たちもまた愛に応じよう。

10. かつて愛したことのない者に明日愛させよう。愛したことのある者みなにも明日愛させよう。

11. 名もなき川と森とを私は愛そう。

12. たとえ私にとって貧乏が、君といっしょなら楽しかろうとも、ネアエラよ、君なしには王たちの贈り物をもなんら私は欲しない。

13. 君を眺めんことを、私に最期の時が訪れるときに。そして死にながら衰える手で (君を) 抱きしめんことを。〔suprema は行末の hora にかかる。moriens は主語 (私) に同格の接合分詞。deficiente manu は奪格。なお 60 行頭は Loeb 版では et でなく te teneam となっている。〕

lundi 19 octobre 2020

樋口・藤井『詳解ラテン文法』練習問題解答 (7)

樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 25 課から第 28 課までの解答例。



XXV. 動詞の活用 (10) —接続法—


§112.


〔問題の指示には態 (この本の用語では相) がないが、補っておく。〕

1. rapiāris : rapiō の接続法・現在・受動態・2 人称・単数。

2. advēnissem : adveniō の接続法・過去完了・能動態・1 人称・単数。

3. transigātis : transigō の接続法・現在・能動態・2 人称・複数。

4. illāta sint : inferō の接続法・完了・受動態・3 人称・複数・(中性)。

5. parāverit : parō の接続法・完了・能動態・3 人称・複数、または直説法・未来完了・能動態・3 人称・複数。

6. transīte : transeō の命令法・現在・能動態・2 人称・複数。

7. subiacērem : subiaceō の接続法・過去・能動態・1 人称・単数。

8. dēsit : dēsum の接続法・現在・能動態・3 人称・単数。

9. secūta essēs : sequor の接続法・過去完了・(デポネント)・2 人称・単数・(女性)。

10. hortātus sim : hortor の接続法・完了・(デポネント)・1 人称・単数・(男性)。

11. āfuerō : absum の直説法・未来完了・能動態・1 人称・単数。

12. mentīrēre : mentior の接続法・過去・(デポネント)・2 人称・単数。

13. morī : morior の不定法・現在・(デポネント)。

14. fierem : fīō の接続法・過去・(能動態)・1 人称・単数。

15. nōluissēmus : nōlō の接続法・過去完了・能動態・1 人称・複数。

16. fēcissent : faciō の接続法・過去完了・能動態・3 人称・複数。

17. miserērentur : misereor の接続法・過去・(デポネント)・3 人称・複数。

18. agitis : agō の直説法・現在・能動態・2 人称・複数。

19. accēperitis : accipiō の接続法・完了・能動態・2 人称・複数、または直説法・未来完了・能動態・2 人称・複数。

20. perīrēmus : pereō の接続法・過去・能動態・1 人称・複数。


XXVI. 接続法の一般的な意味 (1),Cum の用法,その他


§119.


1. こうしたことを聞いたとき王は何をしたのか。—— 彼は、私たちの (仲間) が脱走したことを知るや否や、軍隊が一ヶ所に集められることを命じた。

2. ローマ人たちは、旅 [行軍] で疲れ果てていたとはいえ、戦闘隊列を整えた。

3. 君が正しいというまさにその理由で私は君をほめる。

4. 私たちがとどまっているとき、最近別荘 [荘園] から都へ呼び寄せられていたところの田舎者の奴隷が入ってきた。

5. これらの言葉は貴族たちに (気に入った) と同様に平民たちにさえも気に入った。

6. 朝に私たちは急いで食事をとってしまうと、馬車によって草原や川で心地いい場所を通って運ばれた。

7. 主人は自分の別荘が最近放火されたといって嘆いている。

8. 勇気においてさえ生存のなんらの希望がないというので、私たちの (仲間) は極度の落胆に達した。〔in virtute はよくわからない、「勇猛果敢な行動をとってさえ」ということ?〕

9. ほかの乗客たちによって起こされるまえには、予言者は熟睡のために何も聞いていなかった。

10. 最近私たちがローマにいたとき、私は壮麗な建物や広い道々にほとんど十分に驚嘆することができなかった。

11. 私たちが去るまえに医者が招かれることを私は欲する。

12. (彼らが) こうしたしかたで互いに話しているあいだに、一日が過ぎた。

13. プリーニウスと母は伯父の健康 (または生存) について知らせが届かないうちにはそこから去ることを欲しなかった。

14. 裕福な者が愛想よく貧しい者に話しかけるとき、それは無分別ではない。〔なにか裏があるという意味。〕

15. 愚か者たちは欠点を避けようとするあいだに、反対の (欠点) に走っていく。

16. 田舎者 [粗忽者] は小川が流れ終わるまで待っている。〔ぐずぐずためらわずに行動して好機をつかめというような意味。〕

17. 魂は、それがそこにあるときも離れるときにも、目に見えない。

18. 悲しみよ、いかにおまえが煩わしいものであろうと、私はおまえが悪であると認めることはないであろう。

19. 孤独は陰謀 [密かな危険] と不安に満ちているので、まさに理性は友情を準備 [獲得] することを忠告する。

20. というのも、われわれの時代は偉大な詩人たちをもたらしたにもかかわらず、私の才能に悪い世評はなかった。

21. 多くのことは、なされているあいだは醜いが、なされたあとは気に入られる。〔女の化粧のこと。この直後には彫像や指輪など工芸品の例証が加わる。樋口訳「多くのことは、つくられる中途は醜いものだ。出来上がってからが美しい」(平凡社ライブラリー版 112 頁);沓掛訳「作られている過程では醜いが、できあがってしまうと人の心を惹くようなものは多くある」(岩波文庫版 109–10 頁)。〕


XXVII. 数詞


§123.


1. (彼女は) この 3 ヶ月で誰にも見られていない。

2. (彼らは) 7 日間私たちのもとに滞在し、昨日、日の出に退去した。

3. 君は 2 500 セステルティウスでワインを売った。

4. 私たちがこの野蛮の地へ旅行してからもうちょうど 5 年になる。

5. 10 マイル (lit. 二歩幅の 1 万) 前進して、ほぼ 200 フィートの幅の川に到達した。

6. すでに 10 年間私たちはトロイアを包囲している。

7. 君はそのトガを 100 セステルティウスで買った。

8. (彼は) 37 歳で執政官に選ばれた。

9. 5 月 4 日 (lit. 5 月のノーナエの 4 日前) まで私の姉はここにとどまる。

10. いまから 20 年前に (彼は) 妻子とともにアフリカへ行った。

11. そしてこのことを知ると、3 人の大きな勇気の兵士たちはひそかに陣営から出た。〔quo = et eo で、eo cognito は独立奪格。virtutis magnae は記述的属格 (§39)。〕

12. 兵士たちは日没前に 30 マイルの行軍を終えた。

13. これらの魚は、各 1 アスの値段だったが、いまでは各 2 セステルティウスで売られている。〔セステルティウスは 4 アスなので、8 倍になっている。本来セステルティウスは名前のとおり 2.5 アスであったが、紀元前 141 年ころ 1 デナリウス=16 アスとなったのに伴って 1 セステルティウス=1/4 デナリウスの価値も 4 アスとなった。年代の判断について以下の問題 16. も参照。〕

14. (彼らが) 去って 2 時間になる。〔問題 4. と同じ cum の用法。〕

15. 当時プリーニウスは 18 年めの年を過ごしていた。

16. マウソーレウム (墓碑) という単語は、いまからほぼ 500 年前に死去したカーリアの王マウソールスの名に由来している (lit. から引き出されている)。〔マウソロスの死去は紀元前 353 年なので、この問題文は紀元後 150 年ころを想定していることになる。〕


XXVIII. 間接話法 (3)


§125.


1. なぜ (彼が) こんなことをしたのか私は知らない。

2. その老人が何を言いたがっているのか誰も理解できなかった。

3. 私たちに教えてください、どうか、タキトゥスの書で世界のその側面について読まれるところのことは本当なのかどうか。

4. 誰が発見したのか私たちは知らなかった。

5. (彼は) 私が何をもっているか私に尋ねた。

6. 詩人アイスキュロスは少なくとも正当な理由をもっていた、なぜ彼が自分の禿頭のことを後悔しているかについて。〔アイスキュロスの死因は、彼の禿頭を岩だと勘違いした鷲がそれで亀を割って食べるために上空からその頭めがけて落としたことだという。〕

7. (彼が) 私たちとともに行くことを欲するかどうか、知れ (=調べよ、確認せよ)。

8. 子どもたちよ、君たちは知っているか、どのようにしてハンニバルが自分の象たちにロダヌス川を渡らせたか。

9. 今日君は彼を見たか否か。

10. これら 3 つのリンゴを、誰も気づかないあいだに、女神が若者に与えた、そして教えた、どんな用途がそれらにあるかを。〔mala は「悪」ではなく「リンゴ」(mālum)。女神エリスが与えた「不和の林檎」のエピソードなら 1 つなので、アタランテーを引きつけるために女神アプロディーテーが与えた黄金の林檎の話だろう。〕

11. 君は覚えているか、何がダイダロスの息子のために作られたかを。〔もちろんイーカロスの翼である。〕

12. いまなお私は、なぜ私がその地方へ送られるのか知らない。

13. 君は降りるか、降りないか。—— 私は降りない;なぜなら私は枝の上に座っているから。〔なにか由来があるのかどうか不明。〕

14. 私は (君を) 嫌い、愛する。なぜ私がそうするのか、たぶん君は尋ねる。私は知らない、だが (そういうことが) 生じているのを感じ、悩んでいる。

dimanche 18 octobre 2020

樋口・藤井『詳解ラテン文法』練習問題解答 (6)

樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 21 課から第 24 課までの解答例。



XXI. 非人称構文


§96.


1. 私にはここにとどまることは気に入らない。

2. あの不幸な人のことが私にはすこぶる哀れに思われる。—— 私にもその人のことが哀れだ。

3. 君はそのように愚かに話すのが恥ずかしくないのか。

4. 私たちにとって裕福な男たちに嫁ぐことが大いに重要だ。

5. いつかその悪人は自分の恥知らずなことを後悔するだろう。

6. 皇帝ネローが歌っているとき、やむを得ない理由があってさえも誰にも劇場から出ていくことは許されなかった。

7. 君は病気の少女が [少女が病気で] 眠っていること、そしてすべてのことがここでは静かであるべきであることを知っているのではないのか。

8. ローマ人たちにとって毒を用いて戦争を行うことは習慣ではなかった。

9. 古代においては法律によって城壁の内部で人間が葬られる [埋葬される] ことは許されなかった。

10. ここから敵たちの町は遠く離れてはいないはずだ。

11. このように生き、このように死ぬことが私には楽しい。

12. わが母よ、あなたのことが私には哀れだ、自分のことが嫌だ。


XXII. 現在分詞・分詞の用法


§99.


1. 彼らのあいだにルーキウスと呼ばれている将軍が現れた。

2. 捕虜たちは敵たちによって解放され家に帰った。

3. そのような事実を聞いて私はびっくりする、父よ。

4. 騎兵たちはガリア人たちを凌駕し (lit. 凌駕されたガリア人たちを) 陣営まで追撃した。

5. 騎兵たちは、ガリア人たちを追って、彼らの陣営を奪った。〔secuti は男性複数主格で主語 equites に一致し、完了分詞だがデポネントなので能動の意味。〕

6. 私たちの奴隷は、あらゆる希望から見放され、頭を振りながら悲しげに退去した。

7. 旅人たちはそこで大きな川に驚嘆し長いあいだ立っていた。

8. 歌っている者の声は水夫たちの耳まで運ばれた [届いた]。

9. アンドロークレースは、偶然に洞窟から外に出たところ、兵士たちによって捕らえられ主人のもとへローマへ送られた。

10. ちょうど道の上で誰かがイチジクを売っているのを聞いたところだ。

11. 岩石のなかで発見されたのは文書で、血だらけの文字で書きつけられており、それを奴隷は走って主人のもとへ持ち帰った。

12. 母と娘は涙に暮れながら互いに抱きあっていた (lit. 互いに対する抱擁でつかんでいた)。

13. というのも、裕福な者たちだけに喜びが降りかかるものでもなく、生まれて死んで気づかれなかった (=無名のまま死んだ) 者が悪く生きたのでもないのだから。〔前半は solis が solus の複数与格で divitibus にかかる。後半は qui, natus, moriens がすべて単数主格なので主語を説明する分詞とわかる。〕

14. 私は (彼らが) 贈り物を運んでいてもギリシア人たちを恐れている。


XXIII. 不定法完了・未来,間接話法 (2)


§106.


1. 敵たちはローマ人たちに戦争をしかけようとしていた。

2. 「私には思い出されるように思われる」と彼は言う/言った、「かつてエーゲ海で航海することは海賊のせいで危険であったことを。」

3. 「要するに彼は私を愚弄したのだと疑っています」と商人は笑いながら言う/言った。

4. それについて罰を君が受けないであろうことを私は望む。

5. 君は正しく言う、ほとんどすべてのローマ人たちが禿頭を嫌っていると。〔omnes は複数 (主・) 対格の形なので直後の女性単数対格 calvitiem にかかるのではない。〕

6. ホラーティウスの祖国はウェヌシアの町だった、そこへ私は私たちが明日到着することを望んでいる。

7. アポッローはアテーナイ人たちに言っていた、彼らは木造の壁によって守られるであろうと。

8. 私は彼を、たとえ彼がカルターゴー人であったとしても、高邁な外国人であったといつも思っていた。

9. これらのことについてあなたは言ってください、兄さん、というのも私はあなたがコルネーリウス・ネポースの書でこれらのことを最近読んだと考えているから。

10. 君は聞いたか、彼が何度か母を殺そうと試みたということを。

11. 彼は望んでいた、彼自身が兵士たちによって将軍の称号で呼ばれるであろうことを。

12. 希望と不安のあいだで、恐怖と怒りのあいだで、信じなさい、すべての日は君にとって最後の日として明けることを。〔crede は命令法現在。diluxisse の不定法完了は格言的完了。supremum は omnem diem に同格で、これだけなら「最高の、最後の」どちらともとれるが、英訳や独訳をいくつか参照するとどれも「最後の」と訳していた。〕


XXIV. ABLATIVUS ABSOLUTUS


§108.


1. 金を受けとると (lit. 金が受けとられると)、シビュッラは本を渡した。

2. そしてそのことを言うと、王は若者のほうへ近づいた。

3. テーセウスは怪物を殺すと無事で戻った。

4. 水をそこから汲むと、(彼らは) 王のもとへ無事で退却した。

5. 母は息子を呼ぶと、言った、「穀物はもう熟していると見えるか。」

6. 夜のはじめに、ネローは、毛皮の帽子を頭にはめると、道々と飯酒店をめぐってさまよいはじめた。

7. ローマ人たちをカンナエの戦いで打ち破ると、ハンニバルは数多の町々を占領した、そして最後には誰も抵抗しないなかローマへ出発し、都の近くにある山々に陣取った。〔urbi はローマのことで propinquus が要求する与格になっている。〕

8. 蝋が太陽の熱で柔らかくなると、不幸な少年イーカロスの翼はとけてしまった。

9. 著名な競技者ポリュダマースは、かつて突然の嵐で岩穴のなかへ若干の仲間たちとともに避難することを強いられたと言われている。

10. 追い剥ぎは金を奪いとると森のなかへ女とともに急いで戻った。

11. 奴隷の怒りは金貨を見ると少しずつ静まりはじめた。

12. すでに日が暮れてくると、旅人たちはある別荘に厚遇をもって迎えられた。

13. クィーントゥス・オグルニウスとガーイウス・ファビウス・ピクトルが執政官のときにピーケーヌムの住民たちが戦争を引き起こし、続く (=翌年の) 執政官プーブリウス・センプローニウスとアッピウス・クラウディウスによって破られた。〔紀元前 269 年と 268 年のこと。commovere は完了 3 複 commoverunt の別形で、不定法現在とは mo の長短が違う。〕

樋口・藤井『詳解ラテン文法』練習問題解答 (5)

樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 17 課から第 20 課までの解答例。

今回の学びとして特筆されるのは、(1) 第 17 課 62 頁、英語の he says that ... の that 節のような quod, quia のような用法は古典ラテン語にはなく後に生じたものであること (だから間接話法に対格不定法を用いる)、(2) 第 18 課 64 頁、古典ラテン語には英語の同格の of のような表現はなく、かならず insula Britannia のような同格の並置になること、(3) 同課 65 頁注、quandō は「いつ」という疑問詞であってやはり古典期には接続詞として「〜するとき」には使わないこと、(4) 第 19 課 69 頁注、et nēmō や et nihil とは絶対に言わず neque quisquam, neque quicquam などを用いること、などが挙げられる。

まだほかにもあったが、とりあえずこの 4 点をとくに取りあげたのは、「古典期にはない、そういう言いかたはしない」とはっきり断言していることに注目したいからだ。こういうことを教えるためにはどれだけラテン語について知りつくしていなければならないか。教科書や文法書には紙幅の制限のために書ききれないことはいくらでもあろうから、本に書いていないからといってそういう用法が存在しないとは限らない。だからこそこのように、「ない」ということを明言してくれる本が貴重なのだ。



XVII. 対格+不定法,間接話法 (1)


§78.


1. 私たちはいま帰ることができると私は思う。

2. 父は子どもたちが自分のところに連れてこられるように命じていた。

3. 君はこの忠実な犬が死ぬことに耐える必要はない。

4. 遠く広く、陸に海に旅行するのが彼は習慣であった、そして楽しくて信じられないような多くのことを語ることができた。

5. (彼らは) 自分たちがキリスト教徒であることを否定した。

6. フォルトゥーナがいつも強い者たちを助けることを誰が知らないか。

7. 君は君がここに私とともにとどまりたいと言った。

8. 未知の危険への恐怖が、私たちが森へ入りこむことを阻んだ。

9. いつ君は知らされたのか、君の仲間たちが安全であることを。〔certior factus es「君は知らされた」は te certiorem facio「君に知らせる」が受動態になったため主格になったもの。〕

10. 君が私に、君が確かに、私は覚えているぞ、グラエキーヌスよ、およそ人はひとつの時に (=同時に) 2 人の女を愛することはできないと言っていた (ことを)。〔uno は tempore にかかる、時の奪格。〕


XVIII. 同格・名詞の変化 (4)


§84.


(1) 曲用練習


1. 単数 impetus, impetūs, impetuī, impetum, impetū; 複数 impetūs, impetuum, impetibus, impetūs, impetibus.

2. facies, faciēī, faciēī, faciem, faciē.

3. cornū, cornūs, cornū, cornū, cornū; cornua, cornuum, cornibus, cornua, cornibus.

4. sōlis occāsus, occāsūs, occāsuī, occāsum, occāsū; occāsūs, occāsuum, occāsibus, occāsūs, occāsibus.〔sōlis は属格で変化しないので繰りかえしを省いた。〕

5. spēs, speī, speī, spem, spē.

(2) 和訳


1. 多年にわたって事情はそのようであった。〔se habere「(ある状態) である」。〕

2. あの若者はいまなおロドス島に行きたがっていた。

3. その間に仲間たちは金を求めるためにローマへ派遣された。

4. ルーキウスはすでに父を眺めて [見つけて] しまっていた、そして手をただちに彼のほうへ伸ばしていた。

5. カトゥッルスは優美な詩句をほとんど毎日作った。

6. ヘルクレースは手そのもので (=素手で) 獅子を引き裂いた。

7. 君は君の欠点によって滅びる;健康 [生存] のすべての希望を捨てよ。

8. ひな鳥たちはまだ飛ぶことができなかった;そのため母は毎日食料を探しに離れているのが常だった。

9. 皇帝ネローは少年のときに音楽の技に慣れ親しんだ。

10. 日没のとき旅人たちはまだローマへたどりついていなかった。

11. 本当に、言ってくれ、死者たちの幻影は暗闇をめぐって飛びまわっていて、人間によって眺められることができるのか。

12. あらゆることはこの哲学者にとって不思議に、かつ見聞きするにふさわしいように思われていた。

13. 勝者は報酬 [戦利品] をとった。

14. 確かな友は不確かな状況にあって識別される。

15. 学べ、哀れな者たちよ、そして物事の原因を知れ。

16. 敗者たちにとって (唯) 一の安寧 [救い] は、なんらの安寧 [救い] をも望まないことだ。〔victis は vinco の完了分詞の複数与格。〕


XIX. 関係・疑問・不定代名詞 (形容詞),与格の用法


§91.


1. 私が君から聞いているところのこれは何か。

2. 借金で圧迫されているとある人に私はちょうど道で会ったばかりだ。

3. 何を読んでいたのだ、弟よ。——スエートーニウス・トランクィッルスの本を読んでいた、それによって父が昨晩言っていたところのことについて私が思い出させられるところの。

4. 誰か広場にいるか。

5. 君は誰とともにその畑を耕していたのか。

6. なんであれ (彼が) 脅迫したことを (彼は) 遂行するだろう。〔minatus erit < minor はデポネント動詞なので、(未来) 完了でも「脅迫する」という能動の意味。彼の脅しは脅しでなく本当に実行するということか?〕

7. 各人が持っているところのものを、ほかの者たちが欲する。

8. ローマ市民たちによって知られているべきところのことを (彼らは) すべて学ぶ。

9. 彼らのなかにはラテン語を用いるとある老人がいた。

10. どの土地を、妹よ、私たちはすでに眺めているか。

11. 偶然に死んだ牛を私たちは海に投げた。〔forte は fors, fortis の奪格。〕

12. 約 7 日間この町に私たちはとどまった。

13. ネローは誰かの損害または危険なしには遊ぶことさえ欲しなかった。

14. そも何かを君の婢女は話したか。

15. 何のことについて兵士は君たちと話したか。

16. これはかの (有名な) ウェスウィウス山だ、何度も近隣の畑や町々を大きな災いで覆ったところの。

17. どの道で私たちは都から立ち去るか。

18. いったい何を愚かにもおまえはやったのだ、息子よ。

19. 私は長いこと眺めたが、何物をも見なかった。

20. 証人なしに悲しむ者が本当に悲しんでいるのだ。

21. 夜は少女たちにとってありがたい、その (彼女たちの) 首を下で支える腕をもっている。

22. 偶然が運ぶであろうところのものを私たちは平静な心で耐えるであろう。

23. 眠りとは冷たい死の似姿でなければ何であるか。

24. よく隠れている者はよく生きる。〔注のとおり格言的完了ととる。〕

25. 何であれ彼らの言うことを私はほめる。

26. 神々が愛するところの者は若くして死ぬ。〔adulescens は主語 (省略されている quem の先行詞 is) の同格。〕


XX. 代名詞型形容詞・その他


§94.


1. 私は蛇のいかなる痕跡もそこに発見しなかった。

2. 一方の執政官は死亡し、他方の (執政官) は負傷した。

3. 都全体の外観が変わってしまった。

4. 私は何事もまったくしていない。

5. ある獣たちは水の住民であり、またある (獣たち) は地の (住民である)。

6. まさに元老院においては何者も敵でないというわけではない。

7. ある者たちはべつの町々から来ていた。

8. (彼は) ラテン語でなければ (=以外は) 何も知らない。

9. 一方の人は老年によってすでに衰弱してしまっていたが、他方はまったく若かった。

10. ほかの者たちは空しく叩き女主人を呼んでいた;私とともに少女はぐったりとして頭を置いたものとして持っていた (=置いていた)。

11. 美しい女たちは遊んでいる;貞淑なのは誰もが求めなかった女である。

12. 皆にとってひとつは労働 (から) の休息、ひとつは皆にとって骨折り。

13. 双方の軍隊が双方にとって視野のなかにあった。

14. そのようにすべてに容赦することは何にも (容赦し) ないことより残虐である。

15. 誰のために (生きているの) でない者が必然的に自分のために生きているのではない。

16. いまやぞっとさせる塵 (として) 横たわっている者、これがかつてひとつの愛の奴隷だったのだ。〔horrida pulvis は qui の同格。もし関係文の外の先行詞だととると (pulvis は男女どちらにもなるようだが、ここでは horrida で女性扱いなので) 続く hic の男性が浮いてしまうから。horridus「ごつごつした;荒れた;ぞっとさせる」も pulvis, -veris, m. f.「塵、砂」も巻末の単語集にないのは不手際だろう。〕