樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 17 課から第 20 課までの解答例。
今回の学びとして特筆されるのは、(1) 第 17 課 62 頁、英語の he says that ... の that 節のような quod, quia のような用法は古典ラテン語にはなく後に生じたものであること (だから間接話法に対格不定法を用いる)、(2) 第 18 課 64 頁、古典ラテン語には英語の同格の of のような表現はなく、かならず insula Britannia のような同格の並置になること、(3) 同課 65 頁注、quandō は「いつ」という疑問詞であってやはり古典期には接続詞として「〜するとき」には使わないこと、(4) 第 19 課 69 頁注、et nēmō や et nihil とは絶対に言わず neque quisquam, neque quicquam などを用いること、などが挙げられる。
まだほかにもあったが、とりあえずこの 4 点をとくに取りあげたのは、「古典期にはない、そういう言いかたはしない」とはっきり断言していることに注目したいからだ。こういうことを教えるためにはどれだけラテン語について知りつくしていなければならないか。教科書や文法書には紙幅の制限のために書ききれないことはいくらでもあろうから、本に書いていないからといってそういう用法が存在しないとは限らない。だからこそこのように、「ない」ということを明言してくれる本が貴重なのだ。
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XVII. 対格+不定法,間接話法 (1)
§78.
1. 私たちはいま帰ることができると私は思う。
2. 父は子どもたちが自分のところに連れてこられるように命じていた。
3. 君はこの忠実な犬が死ぬことに耐える必要はない。
4. 遠く広く、陸に海に旅行するのが彼は習慣であった、そして楽しくて信じられないような多くのことを語ることができた。
5. (彼らは) 自分たちがキリスト教徒であることを否定した。
6. フォルトゥーナがいつも強い者たちを助けることを誰が知らないか。
7. 君は君がここに私とともにとどまりたいと言った。
8. 未知の危険への恐怖が、私たちが森へ入りこむことを阻んだ。
9. いつ君は知らされたのか、君の仲間たちが安全であることを。〔certior factus es「君は知らされた」は te certiorem facio「君に知らせる」が受動態になったため主格になったもの。〕
10. 君が私に、君が確かに、私は覚えているぞ、グラエキーヌスよ、およそ人はひとつの時に (=同時に) 2 人の女を愛することはできないと言っていた (ことを)。〔uno は tempore にかかる、時の奪格。〕
XVIII. 同格・名詞の変化 (4)
§84.
(1) 曲用練習
1. 単数 impetus, impetūs, impetuī, impetum, impetū; 複数 impetūs, impetuum, impetibus, impetūs, impetibus.
2. facies, faciēī, faciēī, faciem, faciē.
3. cornū, cornūs, cornū, cornū, cornū; cornua, cornuum, cornibus, cornua, cornibus.
4. sōlis occāsus, occāsūs, occāsuī, occāsum, occāsū; occāsūs, occāsuum, occāsibus, occāsūs, occāsibus.〔sōlis は属格で変化しないので繰りかえしを省いた。〕
5. spēs, speī, speī, spem, spē.
(2) 和訳
1. 多年にわたって事情はそのようであった。〔se habere「(ある状態) である」。〕
2. あの若者はいまなおロドス島に行きたがっていた。
3. その間に仲間たちは金を求めるためにローマへ派遣された。
4. ルーキウスはすでに父を眺めて [見つけて] しまっていた、そして手をただちに彼のほうへ伸ばしていた。
5. カトゥッルスは優美な詩句をほとんど毎日作った。
6. ヘルクレースは手そのもので (=素手で) 獅子を引き裂いた。
7. 君は君の欠点によって滅びる;健康 [生存] のすべての希望を捨てよ。
8. ひな鳥たちはまだ飛ぶことができなかった;そのため母は毎日食料を探しに離れているのが常だった。
9. 皇帝ネローは少年のときに音楽の技に慣れ親しんだ。
10. 日没のとき旅人たちはまだローマへたどりついていなかった。
11. 本当に、言ってくれ、死者たちの幻影は暗闇をめぐって飛びまわっていて、人間によって眺められることができるのか。
12. あらゆることはこの哲学者にとって不思議に、かつ見聞きするにふさわしいように思われていた。
13. 勝者は報酬 [戦利品] をとった。
14. 確かな友は不確かな状況にあって識別される。
15. 学べ、哀れな者たちよ、そして物事の原因を知れ。
16. 敗者たちにとって (唯) 一の安寧 [救い] は、なんらの安寧 [救い] をも望まないことだ。〔victis は vinco の完了分詞の複数与格。〕
XIX. 関係・疑問・不定代名詞 (形容詞),与格の用法
§91.
1. 私が君から聞いているところのこれは何か。
2. 借金で圧迫されているとある人に私はちょうど道で会ったばかりだ。
3. 何を読んでいたのだ、弟よ。——スエートーニウス・トランクィッルスの本を読んでいた、それによって父が昨晩言っていたところのことについて私が思い出させられるところの。
4. 誰か広場にいるか。
5. 君は誰とともにその畑を耕していたのか。
6. なんであれ (彼が) 脅迫したことを (彼は) 遂行するだろう。〔minatus erit < minor はデポネント動詞なので、(未来) 完了でも「脅迫する」という能動の意味。彼の脅しは脅しでなく本当に実行するということか?〕
7. 各人が持っているところのものを、ほかの者たちが欲する。
8. ローマ市民たちによって知られているべきところのことを (彼らは) すべて学ぶ。
9. 彼らのなかにはラテン語を用いるとある老人がいた。
10. どの土地を、妹よ、私たちはすでに眺めているか。
11. 偶然に死んだ牛を私たちは海に投げた。〔forte は fors, fortis の奪格。〕
12. 約 7 日間この町に私たちはとどまった。
13. ネローは誰かの損害または危険なしには遊ぶことさえ欲しなかった。
14. そも何かを君の婢女は話したか。
15. 何のことについて兵士は君たちと話したか。
16. これはかの (有名な) ウェスウィウス山だ、何度も近隣の畑や町々を大きな災いで覆ったところの。
17. どの道で私たちは都から立ち去るか。
18. いったい何を愚かにもおまえはやったのだ、息子よ。
19. 私は長いこと眺めたが、何物をも見なかった。
20. 証人なしに悲しむ者が本当に悲しんでいるのだ。
21. 夜は少女たちにとってありがたい、その (彼女たちの) 首を下で支える腕をもっている。
22. 偶然が運ぶであろうところのものを私たちは平静な心で耐えるであろう。
23. 眠りとは冷たい死の似姿でなければ何であるか。
24. よく隠れている者はよく生きる。〔注のとおり格言的完了ととる。〕
25. 何であれ彼らの言うことを私はほめる。
26. 神々が愛するところの者は若くして死ぬ。〔adulescens は主語 (省略されている quem の先行詞 is) の同格。〕
XX. 代名詞型形容詞・その他
§94.
1. 私は蛇のいかなる痕跡もそこに発見しなかった。
2. 一方の執政官は死亡し、他方の (執政官) は負傷した。
3. 都全体の外観が変わってしまった。
4. 私は何事もまったくしていない。
5. ある獣たちは水の住民であり、またある (獣たち) は地の (住民である)。
6. まさに元老院においては何者も敵でないというわけではない。
7. ある者たちはべつの町々から来ていた。
8. (彼は) ラテン語でなければ (=以外は) 何も知らない。
9. 一方の人は老年によってすでに衰弱してしまっていたが、他方はまったく若かった。
10. ほかの者たちは空しく叩き女主人を呼んでいた;私とともに少女はぐったりとして頭を置いたものとして持っていた (=置いていた)。
11. 美しい女たちは遊んでいる;貞淑なのは誰もが求めなかった女である。
12. 皆にとってひとつは労働 (から) の休息、ひとつは皆にとって骨折り。
13. 双方の軍隊が双方にとって視野のなかにあった。
14. そのようにすべてに容赦することは何にも (容赦し) ないことより残虐である。
15. 誰のために (生きているの) でない者が必然的に自分のために生きているのではない。
16. いまやぞっとさせる塵 (として) 横たわっている者、これがかつてひとつの愛の奴隷だったのだ。〔horrida pulvis は qui の同格。もし関係文の外の先行詞だととると (pulvis は男女どちらにもなるようだが、ここでは horrida で女性扱いなので) 続く hic の男性が浮いてしまうから。horridus「ごつごつした;荒れた;ぞっとさせる」も pulvis, -veris, m. f.「塵、砂」も巻末の単語集にないのは不手際だろう。〕
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