樋口勝彦・藤井昇『詳解ラテン文法』(研究社、1963 年、新装版 2008 年) の第 13 課から第 16 課までの解答例。私の解答は極力逐語訳を心がけているため、十分にわかりよくない箇所もあろうから、既存の邦訳をところどころ紹介して学習者の参考に供することにする。
著者たちの言語知識の該博さには何度も感嘆しているが、今回、第 15 課 56 頁の注 2 にインドネシア語の例が出てきたことには肝をつぶした (しかも訳文もついていないのでどういう意味かわからない)。これまでもフランス語・スペイン語・ドイツ語・ロシア語・ギリシア語の例を引きあいに出されたことはたびたびあったし、それらの言語はたしかにラテン語を学ぼうという人間ならわからないほうが悪いという側面なきにしもあらずだが、さすがにインドネシア語を説明なしに使うのは要求が高すぎるだろう……。
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XIII. 動詞の活用 (7)
§63.
(1) 活用練習
1. lūdō : 直説法・過去・受動態 lūdēbar, lūdēbāris, lūdēbātur, lūdēbāmur, lūdēbāminī, lūdēbantur.
2. fīō : 直説法・現在 fīō, fīs, fit, fīmus, fītis, fīunt.
3. vereor : 直説法・現在 vereor, verēris, verētur, verēmur, verēminī, verentur.
4. rapiō : 不定法・現在・受動態 rapī.
5. afferō : 命令法・現在・受動態 afferre, afferiminī.
6. dēleō : 直説法・未来・受動態 dēlēbor, dēlēberis, dēlēbitur, dēlēbimur, dēlēbiminī, dēlēbuntur.
(2) 和訳
1. 私はときどき商人たちの詐欺による怒りで燃えあがらされる。
2. 甘く華麗である、祖国のために死ぬことは。
3. それほどの指揮官によって破られることはほとんど不名誉ではなかった。
4. ローマの卓越した詩人とホラーティウスは呼ばれていた。
5. 私たちはいつふたたび平和を享受するだろうか。
6. 私たちは喜んで君のもとにしばらく滞在しよう。
7. 憐れみたまえ、と私は祈る、そして私を悪から救い出したまえ。
8. パーン神が優しいニュンペー [ニンフ] たちに牧笛で歌に調子をあわせている。
9. 君たちはすでに長いこと町で待たされている。
10. 月と星が貧しい天文学者たちによって見られる。
11. 食料とぶどう酒が広場で奴隷たちによって買われるだろう。
12. 私は私への愛で焦がされる。
13. 美しい女たちは歌で、貪欲な女たちは金で魅了される。
14. 君は少年たちに清酒を与えることに努める。
15. 偉大な王よ、私たちの馬たちはあなたにただちに贈られるだろう。
16. 難しいが、私は試みるつもりだ。
17. ぶどう酒は心を準備し、(それを) 情熱に適したものにする;気がかりは逃げ、多量の清酒によって洗い流される。〔樋口訳「酒は勇を奮い立て、そして男を情熱に駆らしむるのだ。分別は深酒に駆逐され、とけて消えてしまうものだ」(平凡社ライブラリー版 21 頁);沓掛訳「酒は勇気を奮い起こさせ、男どもを情熱に燃え立たせる。生の酒をたんまりくらうと憂いはどこかへ吹き飛び、雲散霧消してしまう」(岩波文庫版 20 頁)。巧みな訳でいずれも faciunt の目的語を「男 (ども)」と補っているが、構文上は素直に読めば animōs が parant と faciunt の共通の目的語だろう (animōs を aptōs にするということで性数格も一致している)。もちろん人の心・精神はその人そのものでもあるから大差はないが。〕
XIV. 指示代名詞と īdem, ipse; 場所の副詞
§68.
1. ここに詩人オウィディウスの魅力的な本がある。
2. これらのことはほとんど信じられないように私には思われる。
3. ドミティアーヌスは本当に残酷さそのもので喜んでいた。
4. これらの著作家たちについて多くのことを私はプリーニウスの書簡のなかで読んだだけである。
5. これらのことを同じときに同じ属州で君自身がしたのだ。
6. 君たちの母は容姿 [美貌] と等しい [釣りあった] 知恵をもっている。
7. (おまえの) それは友情ではなく商売だろう。
8. 演説は輝かしく壮大で、しかもとくに機知に富んだものであるようにせよ。
9. 君の子どもが私を迎えに来た;彼は私に君からの手紙を届けた。
10. 徳はいかなる他の報酬をも望まなかった、称賛の (=称賛という) これを除いては。〔ちなみに注にある scil. とは scīlicet「つまり、すなわち」の略。〕
11. 怠惰は身体を弱くし、労働は強くする;前者は尚早の老年時代を、後者は長い青年時代を返す。
12. これらすべての町々が都を取り巻いている。
13. 私は君を好きではない、サビディウスよ、なぜかを言うことはできないが;ただこれを言えるだけである、私は君を好きではないと。
14. 同じ君が (あるときは付きあうのに) 難しくも易しくも、楽しくも不快でもある;私は君とともに生きられないし、君なしでも (生きられ) ない。〔動詞は es なので主語は隠れた tū、これに īdem が同格なのでその人は男性とわかる。〕
15. いかほど接吻の後には満ちた誓願 (=誓願が満ちること) に欠けていようか。ああ、野暮だ、廉恥ではない、そのことは。〔注に eī は「与格を取る間投詞」とあるが、訳しかたは判然としない。この mihi は訳しようがないと見え、Loeb 版の英訳でもたんに ‘ah!’ となっている。樋口訳「接吻を得たのちには、きみの念願成就にはもうわずかだ。ああ、悲しいかな。野暮というものだ、そんなのは慎みではない」(平凡社ライブラリー版 48 頁);沓掛訳「接吻を奪ってからは、満願成就までなにほどのことがあろうか。ああ、なんたることぞ。そんなのは恥じらいではない、野暮というものだ」(岩波文庫版 46 頁)。〕
16. しかし君は彼を十分に知らなかったし、君を彼も (十分に知らなかった)。〔46 頁注 7 にもあるとおり中性対格 verum は「しかし」の意になる。nōverās は過去完了だが過去の意 (38 頁注 3)。〕
17. 泣くことはある種の喜びである。
XV. 完了分詞・動詞の活用 (8)
§71.
(1) 活用練習
1. accipiō : 直説法・完了・受動態・男性 acceptus sum, acceptus es, acceptus est, acceptī sumus, acceptī estis, acceptī sunt.
2. canō : 直説法・完了・受動態・女性 can(tā)ta sum, can(tā)ta es, can(tā)ta est, can(tā)tae sumus, can(tā)tae estis, can(tā)tae sunt.
3. afficiō : 直説法・完了・受動態・男性 affectus sum, affectus es, affectus est, affectī sumus, affectī estis, affectī sunt.
4. tollō : 直説法・完了・受動態・中性 sublātum sum, sublātum es, sublātum est, sublāta sumus, sublāta estis, sublāta sunt.
5. dō : 直説法・完了・受動態・中性 datum sum, datum es, datum est, data sumus, data estis, data sunt.
6. hortor : 直説法・完了・男性 hortātus sum, hortātus es, hortātus est, hortātī sumus, hortātī estis, hortātī sunt.
7. vereor : 直説法・完了・女性 verita sum, verita es, verita est, veritae sumus, veritae estis, veritae sunt.
8. scrībō : 直説法・未来完了・受動態・男性 scriptus erō, scriptus eris, scriptus erit, scriptī erimus, scriptī eritis, scriptī erunt.〔本書は scrīptum のマクロンを付さない。〕
9. mittō : 直説法・過去完了・受動態・男性 missus eram, missus erās, missus erat, missī erāmus, missī erātis, missī erant.
10. pōnō : 直説法・完了・受動態・男性 positus sum, positus es, positus est, positī sumus, positī estis, positī sumt.
(2) 和訳
1. 君たちはローマ民族の偉大な名を恐れたのではないか。〔Romani だけなら複数主格で主語 vōs に同格として「君たちローマ人は偉大な名を恐れたのではないか」ともとれるが、その意味だと populi が複数なのはおかしいので、これは単数属格。〕
2. これらの地域では海戦がかつて行われたのか。
3. この戦いについて私は一度も聞いたことがない。なにが起こったのか、私は懇願する (=お願いします)。
4. これらのことは私に詩人カトゥッルスによって書かれた歌について思い出させる。
5. これはホラーティウスが生まれたところのイタリアの地域ではないのか。
6. 将軍の手紙は強い兵士たちによって運んでこられた。
7. 私は全員から私の旅行について尋ねられた。
8. 夜の第 2 時に村に到着された。〔非人称受動。〕
9. みなは夕食をとったあと暇しながら座っていた。
10. 私たちは友人たちによって説得された。〔非人称受動。「私たちに対し友人たちによる説得が行われた」と理解すればよい。〕
11. 賽は投げられた。
12. 捕まったギリシアは野蛮な勝利者を捕まえ、学芸を野卑なラティウムにもたらした。〔前半の文は、ギリシアはローマ人に戦争で負けたが文化的には逆に勝利したという意。〕
13. たぶんわれわれの名前もそれらに混ぜられるであろうし、私の書いたものがレーテー [忘却の川] の水に与えられることはないだろう。〔nostrum は謙遜の 1 人称複数 (42 頁注 2)。istis は iste の複数与格で、先達の高名な詩人たちを指す。樋口訳「たぶんこれらのなかに私の名も仲間入りさせてもらえることだろう。私の作は忘却の河の水に投ぜられることはないであろう」(平凡社ライブラリー版 118 頁)。〕
14. 少女の美貌は逃走によって増した。〔forma が主語、aucta ... est が完了受動態の動詞、fuga は奪格。〕
XVI. 動詞の活用 (9)・禁止の表現
§75.
1. 友人はもう 1 人の私である、と言われている。〔念のため、注にあるギリシア語文も「友人はもう 1 人の自分である」という意味。〕
2. これを私は今日か明日かにしたい。
3. そのようにするな、お願いだ。
4. 父は当然息子をそのような危険にさらしたくなかった。
5. 黙っていろ、どうか、マールクスよ。私たちは間違っているように見える。
6. すぐに黒い雲が海から生じるのが見えた。
7. 悪であると私には見える、死は。
8. そのような怪物について話すな、頼む。
9. なぜ君は田舎でみじめに生きることをむしろ欲するのか、頼む (=言ってくれ)。
10. ハンニバルよ、あなたは勝利することを知っているが、勝利を利用することを知らない。
11. 光の初めに (=夜明けに) ようやく町を離れるのがふさわしく思われた。
12. 戦争によってアテーナイ人たちはいたるところで押されはじめた。
13. 悪について無知ではない (ので)、私は不幸な人たちを援助することを学ぶ。
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