vendredi 10 juillet 2015

Lauer『古典アルメニア語文法』目次

Max Lauer, Grammatik der classischen armenischen Sprache, Wien: Wilhelm Braumüller, 1869 をもとにした和訳です (今回は序言と目次のみ).古いもので権利関係の心配がないため,省略なしの全文訳としています.原著は 19 世紀のもので,Google Books などで全文が閲覧できます.

本書の公刊された 1869 年,いまから約 150 年まえという時代は,印欧語比較文法におけるアルメニア語の重要性がまだ十全に認識されておらず,それどころかこの言語はペルシア語とともにインド・イラン語派イラン語群に属するものと考えられていた状況でした.そのことを証すように,ボップの比較文法の表題にもアルメニア語の名前はありません.とはいえそうした時代に書かれたことは,古典語の記述文法としての本書の価値を落とすものではないでしょう.ただし 1 点だけ注意しておきたいことは,本文中にしばしば出てくる「現代……語 Neu-」という表現で,そこでひきあいに出されている現代アルメニア語や現代ペルシア語などなどにおける音韻や文法事項はもちろんこの 21 世紀のものとはしばしば異なります.

いつものとおり,重要な用語を中心に必要に応じて原語を併記しています.そのさい,19 世紀のドイツ語なのでしばしば現代のものとつづりが異なることに注意してください (t がしばしば th であることや,現代なら k, w と書くところで c, v が使われていることなど).亀甲括弧〔  〕は訳者による短い補足や言い訳です.長い補足は [訳注] として各段落のあとに付します.原文のゲシュペルトが強調を表す場合には太字で表し,人名や著作名の場合にはノーマルウェイトでカギ括弧に入れるか無視します.

もとより序言と目次とは全体の要約でありますが,訳者はアルメニア語文法に関する知識をもっていないので現段階では文意不明の箇所が少なくなく,読み進めるにつれて随時このページに変更を加える可能性があります.


序言 Vorrede


この簡潔な『古典アルメニア語文法』は,アルメニア語文献の研究への導入を目的とする.本書はそれゆえすべての文法事項を詳細にではなく,授業と独習のために音論・語論・文論 Laut-, Wort- und Satz-Lehre から必要部分だけを可能なかぎり簡潔かつ明瞭に提示するつもりである [訳注 1].もし個別の箇所,とりわけ語論が,本書の目的にとって必要と見えるよりも詳細に取り扱われているとしたら,著者の意図の理由は,当該の箇所を,今日までに見られたよりもよく,あるいはまた以前の文法的取り扱いに反して,純粋な科学的観点 rein wissenschaftlichen Standpunkte から照らしだすことにある [訳注 2].
[訳注 1] 音論 Lautlehre, 語論 Wortlehre, 文論 Satzlehre という名称は日本語でもドイツ語でも古めかしい言いかたで,今日の呼称で言えばおおむね音韻論 Phonologie, 形態論 Morphologie, 統語論ないし構文論 Syntax に対応するだろう.
[訳注 2] 科学的 wissenschaftlich とは今日ふつうに言う「学問的」というくらいの意味であり,日本語の「科学」がしばしば含みもっている自然科学・数理科学という限定はない.

文論は,この文法で短く紹介しているように,著者がまったく自身の研究の結果とみなしうるものである.

それゆえ,アルメニア文法をただにあるいはもっぱらに言語比較〔比較言語学〕Sprachvergleichung の目的で研究する人々にとっても,本書は有用であろう,というのも名詞および動詞幹 Nominal- und Verbal-Stämme はサンスクリットで慣習的な方法で扱われ,格・時制・人称形成要素 Casus-, Tempus- und Personal-Bildungselemente, 数詞・代名詞幹 Numeral- und Pronominal-Stämme は,対応するサンスクリットの語形成法に帰着してあり,それはボップ Bopp の比較文法 vergleichende Grammatik [訳注 1] が第 2 版でひきつづき基礎を置いており,言語学の領域におけるほかの著者たちも適切な意見を得ているものである.他方でアルメニア語の音論は深い取り扱いから後退している,なぜならばそうしたことはインド・ゲルマン語 indogermanischen [訳注 2] の,とりわけ,そう見えるように,スラヴ語 slavische Sprachen の,音の環境〔音韻体系?〕Lautverhältnisse についての知識があってはじめて可能であり,この言語をはじめて学習するのには単純に無用かつ混乱を招くからである.
[訳注 1] フランツ・ボップ Franz Bopp (1791–1867) は印欧語比較言語学の祖の 1 人で,本文に言う『比較文法』の正式なタイトルは Vergleichende Grammatik des Sanskrit, Send, Griechischen, Lateinischen, Litauischen, Altslavischen, Gothischen und Deutschen (『サンスクリット,ゼンド,ギリシア語,ラテン語,リトアニア語,古スラヴ語,ゴート語,ドイツ語の比較文法』.なおゼンドとはアヴェスター語の (誤った) 旧称) と称する 6 巻本の大作である.その初版は 1833 年から 1852 年にかけて出版され,第 2 版は 1857–61 年.
[訳注 2] もっぱらドイツの言語学で使われる,インド・ヨーロッパ語の別名.

著者ははじめ,アルメニア語の筆記体 Cursivschrift の使用を差し控えることができると考えたが,のちにはその考えを捨て,文字表 Schrifttafel のなかの同じものを著作に含めた.

アルメニア語の選文集 Chrestomathie の不足と,アルメニア語の印刷物や辞書を入手することの難しさとから著者は,紀元後 5 世紀の古典アルメニア語の作家,モフセス・ホレナツィ Moses von Chorene の『アルメニア史 Geschichte Armeniens』を,説明的・批判的・文法的・歴史的な註と完全な語彙集を付して,アルメニア語の選文集として即席に用いようとの考えを起こされた.

印刷の美しさと工房の設備に関して,帝立王立印刷所 kaiserl. königl. Staatsdruckerei およびフェアレーガー Verleger 氏に感謝する.

トリーア,1869 年 3 月.
著者


目次


序言

第 I 部 音論 Lautlehre


アルファベット Alphabeth
母音 Vocale
半母音と二重母音 Halbvocale und Diphthongen
子音 Consonanten
符号類 Lesezeichen

第 II 部 語論 Wortlehre


A. 語形変化 Wortbeugung
I. 名詞 Substantivum
2. 名詞語幹:総論.変化分類 Nominalthemen im allgemeinen. Declinationseintheilung
3. 名詞語幹:各論 Die nominalthemen im besondern
  1. 母音型弱語幹・強語幹 Die vocalischen schwachen und starken Themen
  2. 子音型弱語幹・強語幹 Die consonantischen schwachen und starken Themen
4. 格の形成 Bildung der Casus
  変化表 Declinationstabelle
  A. 母音型変化 Vocalische Declination
  B. 子音型変化 Consonantische Declination
  C. 不規則変化 Unregelmässige Declination

II. 形容詞 Adjectivum
比較級 Comparativus
最上級 Superlativ

III. 数詞 Numeralia
1. 基数詞 Numeralia cardinalia
2. 序数詞 Numeralia ordinalia
3. 倍数詞 Numeralia multiplicativa
4. 配分数詞 Numeralia distributiva
5. 数名詞 Zahlsubstantiva
6. 数副詞 Zahladverbien

IV. 代名詞 Pronomen
1. 人称代名詞 Pronomina personalia
2. 指示詞 Demonstrativa
  a) 指示代名詞 Pronomina demonstrativa
  b) 指示小詞 Demonstrativpartikeln
3. 所有代名詞 Pronomina possessiva
4. 疑問代名詞 Pronomina interrogativa
5. 関係代名詞 Pronomen relativum
6. 定代名詞 Pronomen definitivum
7. 不定代名詞 Pronomina indefinita
8. 再帰代名詞 Pronomina reciproca
9. 集合代名詞 Pronomina collectiva
10. 相関代名詞 Pronomina correlativa

V. 動詞 Verbum
A. 規則動詞 Regelmässiges Verbum
I. 総論 Im allgemeinen
1. 活用分類と語幹形成 Conjugationseintheilung und Stammbildung
2. 時制と法 Tempora und Modi
3. アオリスト・未来・接続法を作る ց ց als Bildungsmittel für Aoristus, Futurum und Conjunctivus
4. アルメニア語動詞の人称語尾 Die Personalendungen des armenischen Verbums
II. 動詞各論 Das Verbum im Besondern
1. 単純時制 Einfache Tempora
  a) 特別の時制 Tempora specialia
   現在 Präsens
   未完了 Imperfectum
  b) 一般の時制 Tempora generalia
   アオリスト:総論 Die Aoristi im allgemeinen
   第 I アオリスト Aoristus I
   第 II アオリスト Aoristus II
   未来:総論 Die Futura im allgemeinen
   第 I 未来 Futurum I
   第 II 未来 Futurum II
2. 複合時制 Zusammengesetzte Tempora
3. 法 Die Modi
  接続法 Conjunctivus
  命令法 Imperativus
  不定法 Infinitivus
  分詞 Participia
4. 受動態 Passivum
  活用表 Conjugationstabelle
B. 存在動詞 Verba substantiva
C. 不規則動詞 Unregelmässige Verba

VI. 不変化詞 Indeclinabilia
1. 副詞 Adverbia
2. 前置詞 Präpositionen
3. 接続詞 Conjunctionen
4. 間投詞 Interjectionen

B. 語形成 Wortbildung
I. 名詞の形成 Bildung der Nomina
1. 接尾辞による名詞の形成 Bildung der Nomina durch Suffixe
2. 合成による名詞の形成 Bildung der Nomina durch Composition

II. 動詞の形成 Bildung der Verba
1. 派生動詞 Abgeleitete Verba
2. 複合動詞 Zusammengesetzte Verba

第 III 部 文論 Satzlehre


I. 語順 Wortstellung

II. 一致 Übereinstimmung

III. 格論 Casuslehre
1. 主格 Nominativus
2. 対格 Accusativus
3. 属格 Genitivus
4. 与格 Dativus
5. 奪格 Ablativus
6. 具格 Instrumentalis

IV. 動詞論 Die Lehre vom Verbum
A. 時制とその意味 Die Tempora und ihre Bedeutung
1. 現在 Präsens
2. 未完了 Imperfectum
3. アオリスト Die Aorista
4. 未来 Die Futura
5. 複合時制 Die Tempora composita

B. 法とその意味 Die Modi und ihre Bedeutung
1. 直説法 Der Indicativus
2. 接続法 Der Conjunctivus
3. 命令法 Der Imperativus
4. 不定法 Der Infinitivus
5. 分詞 Die Participia

C. 受動態 Das Passivum

D. 動詞の支配 Rection der Verba

文字表 Schrifttafel

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