dimanche 12 juillet 2015

Lauer『古典アルメニア語文法』第 II 部 A.I.1–3

Max Lauer, Grammatik der classischen armenischen Sprache, Wien: Wilhelm Braumüller, 1869 をもとにした和訳です.諸注意点については目次をご覧ください.


第 II 部 語論 Wortlehre


A. 語形変化 Wortbeugung


――――――

I. 名詞 Substantivum

1. 性の標識 Genusbezeichnung

文法的性 grammatische Geschlecht, すなわちいわゆるモツィオーン Motion [訳注] によってなされる生物の自然性の標識,およびたんに言語意識 Sprachbewusstsein における男性・女性・中性の語尾と概念に従った無生物の所与の分離は,アルメニア語では名詞についても,また形容詞と分詞についても存在しない.ただ ուհի だけが,しばしば直接に自然の女性の文法的標識として働く;たとえば Տիգրան「ティグラン Tigran」〔男性名の一〕,女性形 Տիգրանուհի〔ティグラヌヒ Tigranuhi, 女性名の一〕,արքայ「王 rex」,արքայուհի「女王 regina」,սուրբ「聖人 sanctus」,սրբուհի「聖女 sancta」;同様に,非常にまれではあるが,դուխտ「娘 filia」や անոյշ「甘い,美しい suavis」がついた固有名詞の例:Տիգրան, 女性形 Տիգրանադուխտ, Վարդ「ヴァルド Ward」,女性形 Վարդանոյշ.
[訳注] Motion とは文法用語で,性に応じた語形変化,あるいは接尾辞による男性名詞から女性名詞への転換,を指す.

外国語からアルメニア語に入ってきた固有名 Eigenname では,文法的な性標識が保たれている.例:Յովհաննէս「ヨハンネス Joannes」,Յովհաննէ「ヨハンナ Joanna」.

自然性の特別な標識によって,理性的な生きものは種名 Gattungsnamen をつけられる.այր「男 vir」は男性の標識に,կին または էգ「女 femina」は女性の標識に,そして動物のそれには արու または ործ「雄 masculinum」および էգ または մատակ または քած「雌 femininum」が対応する.例:մարդ「人間 homo」,այրմարդ「男 vir」,կինմարդ, էգմարդ「女 femina」,ձի「馬 equus」,արուձի, որձձի「〔牡の〕馬 equus」に対して էգձի, մատաիձի, քածձի「牝馬 equa」.


2. 名詞語幹:総論 Nominalthemen im Allgemeinen

アルメニア語の名詞語幹は母音型 vocalisch と子音型 consonantisch にわかれ,両者ともまた弱 schwach と強 stark にわかれる.弱語幹 schwache Themen は単数主格・対格・呼格と,大部分では複数の同じ格の,また強語幹 starke Themen は単数と複数の残りの格の,基礎になる.変化の区別 Declinationsunterschied はただ強語幹によって示される.つまりこれらはある母音 (母音型強語幹) かある子音 (子音型強語幹) かで終わる.母音型変化と子音型変化の区別はそこにもとづいている.母音型変化は末尾の強幹母音 ա, ո, ի, ու にしたがって 4 通りにわかれる.同様に子音型変化も,末尾の強幹子音に先行する母音 ա, ե, ի, ու にしたがって 4 通りにわかれる.それぞれの幹母音 Themavocal がいずれであるかは,学習によって習得されねばならない.これについてありうる規則は以下の段落に与えられる.幹母音 ո と ե はアルメニア語のなかでは ա による弱化 Schwächung であり,すなわち実際には 3 つの基本母音 a, i, u が変化の区別のもとになっている.母音型および子音型変化の幹母音 ա にしばしば先行する ե は,〔ドイツ語の〕j のように ա にもたれるもので,幹母音には属さず,本来の y, j に由来する.


3. 名詞語幹:各論

手引のためにここでは,弱語幹が単数主格を,強語幹が属格を示すことを注意しておこう.

1. 母音型弱語幹・強語幹 Die vocalischen schwachen und starken Themen

母音型弱語幹を母音型強語幹から基本的に区別するのは,そこでは幹母音 ա, ո, ի, ու が脱落していること,しかし最後にふたたび幹末母音として現れることである.弱母音型 ու-幹はしばしば,脱落した幹母音 ու のかわりに ր [原注] をとっているが,これは強幹ではふたたび ու に場所を譲る.
[原注] この ր はサンスクリットの a-幹にも,(限定接尾辞 ն とともに) ռն の形で,アルメニア語における脱落した幹母音 ա のかわりに現れる.例:ձմեռն「冬 hiems」,ゼンド zima〔ゼンドはアヴェスター語のこと.なおスラヴ語のほとんどでも同つづり зима/zima が「冬」を意味する〕.しかしそのような形態はアルメニア語では完全な子音幹になっている.

弱幹 Տրդատ「ティリダテス Trdat (Tiridates)」に対し Տրդատա.  弱幹 մարդ「人間 homo」に対し մարդո.  弱幹 բախտ「運 fortuna」に対し բախտի.  弱幹 մահ「死 mors」に対し մահու.  弱幹 մեղր「蜜 mel」に対し մեղու.

語幹の弱形における幹母音の脱落を通して,しばしばこれへの補助母音 Hilfsvocal とりわけ ի と ու の挿入と,ի の է への,ならびに ու の ոյ への延長 Dehnung が,必要になる.

しかし補助母音と延長は強幹ではふたたび消失する.例:弱幹 միտ「霊 spiritus」に対し մտի.  弱幹 քուն「眠り somnum [訳注]」に対し քնո.  弱幹 զէն「武器 arma」に対し զինու.  弱幹 զրոյց「会話 sermo」に対し զրուցի.
[訳注] この部分,なぜ対格形 somnum で書いてあるのかは不明である.

1 つの同じ弱幹にしばしば 2 つの強幹が存在する.第 1 は ո または ի または ու で,第 2 は ա で終わるものである.例:弱幹 տեղի「場所 locus」に対し տեղւո と տեղեա.  弱幹 մխտ「霊 spiritus」に対し մտի と մտա.  弱幹 բարձր「高い altus」に対し բարձու と բարձա.

ո, ի, ու で終わる強幹は単数属格および奪格の,ա で終わるものは単数具格および複数斜格 Casibus obliquis〔sg. casus obliquus = Dtsch. schiefer Fall〕のもとになる.〔つづく〕

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