mardi 30 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(5) しし座・ぎょしゃ座

伝エラトステネス『星座論』摘要 Epitome Catasterismorum の翻訳。この記事では 12. しし座と 13. ぎょしゃ座の 2 章を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


12. Λέων〔しし座〕


Οὗτός ἐστι μὲν τῶν ἐπιφανῶν ἀστέρων· δοκεῖ δ’ ὑπὸ Διὸς τιμηθῆναι τοῦτο τὸ ζῴδιον διὰ τὸ τῶν τετραπόδων ἡγεῖσθαι. τινὲς δέ φασιν, ὅτι Ἡρακλέους πρῶτος ἆθλος ἦν εἰς τὸ μνημονευθῆναι. φιλοδοξῶν γὰρ μόνον τοῦτον οὐχ ὅπλοις ἀνεῖλεν, ἀλλὰ συμπλακεὶς ἀπέπνιξεν.

Λέγει δὲ περὶ αὐτοῦ Πείσανδρος ὁ Ῥόδιος, ὅτι καὶ τὴν δορὰν αὐτοῦ ἔσχεν, ὡς ἔνδοξον πεποιηκώς. οὗτός ἐστιν ὁ ἐν τῇ Νεμέᾳ ὑπ’ αὐτοῦ φονευθείς.

[...] ὁρῶνται δὲ ὑπὲρ αὐτὸν ἐν τριγώνῳ κατὰ τὴν κέρκον ἀμαυροὶ ἑπτά, οἳ καλοῦνται πλόκαμοι Βερενίκης Εὐεργέτιδος.

これは (もっとも) 目立つ星々のうちのひとつである。ゼウスによってこの (黄道十二宮のうちの) 宮は栄誉に与った、それは (すべての) 四つ足の (動物たちの) 先頭に立っているがゆえである。ある人たちの言では、ヘーラクレースの最初の難業が想起されるべきであった。というのは (彼は) 栄光を欲していて、これ〔=獅子〕だけを武器なしでつかみあげ、首を絞めて窒息させたのだ。

またこれについてロドスのペイサンドロスは、(ヘーラクレースは) これ〔=獅子〕の皮をも取り、戦勝の勲章となしたものだと言っている。これはネメアーで彼によって殺された (獅子) である。

これ〔=しし座〕の上にはまた、三角形をなして、尾に沿って暗い 7 つの (星々) があり、これらはベレニーケー・エウエルゲティスの髪と呼ばれている。

ロドスのペイサンドロスは前 7 世紀の叙事詩人。ベレニーケー・エウエルゲティス (ベレニーケー 2 世、エウエルゲティスは「慈悲深き女、恩恵者」という意味の称号) は前 3 世紀なかばの人で、プトレマイオス朝エジプトの王妃。すなわちこの部分の伝えは明らかに新しい層に属する。なお 5. かんむり座の物語では、この同じ星々がアリアドネーの髪と言われていたこともあわせて思いおこそう。

ところで——そういう写本証拠はないようなので私の想像にすぎないが——第 1 段落最後の文の μόνον は μόνος に直したい気もする。μόνον τοῦτον であれば、ヘーラクレースが対決したさまざまな怪物たちのうちで「この獅子だけを」素手で殺した (ほかはすべて武器によった)、という意味であるが、もし μόνος にしてよいなら、栄光を求めたヘーラクレースは「単身で」この獅子と対決した、という意味になる。こちらのほうが英雄譚らしいのではなかろうか (かりにそうだとすれば、μόνον になったのは直後の τοῦτον に引きずられてのことと想定しうる)。


13. Ἡνίοχος〔ぎょしゃ座〕


Οὗτός ἐστιν Ἐριχθόνιος, ἐξ Ἡφαίστου καὶ Γῆς γενόμενος· τοῦτον λέγουσιν, ὅτε ὁ Ζεὺς εἶδεν πρῶτον ἐν ἀνθρώποις ἅρμα ζεύξαντα ἵππων, θαυμάσαι ὅτι τῇ τοῦ Ἡλίου ἀντίμιμον ἐποιήσατο διφρείαν, ὑποζεύξας ἵππους λευκούς. πρῶτόν τε Ἀθηνᾷ πομπὴν ἤγαγεν ἐν ἀκροπόλει· καὶ ἐποιήσατο πρὸς τούτοις ἐπιφανῆ τὴν θυσίαν αὐτῆς σεμνύνων.

Λέγει δὲ καὶ Εὐριπίδης περὶ τῆς γενέσεως αὐτοῦ τὸν τρόπον τοῦτον. Ἥφαιστον ἐρασθέντα Ἀθηνᾶς βούλεσθαι αὐτῇ μιγῆναι, τῆς δὲ ἀποστρεφομένης, καὶ τὴν παρθενίαν μᾶλλον αἱρουμένης, ἔν τινι τόπῳ τῆς Ἀττικῆς κρύπτεσθαι, ὃν λέγουσι καὶ ἀπ’ ἐκείνου προσαγορευθῆναι Ἡφαίστιον· ὃς δόξας αὐτὴν κρατήσειν καὶ ἐπιθέμενος, πληγεὶς ὑπ’ αὐτῆς τῷ δόρατι, ἀφῆκε τὴν ἐπιθυμίαν, φερομένης εἰς τὴν γῆν τῆς σπορᾶς· ἐξ ἧς γεγενῆσθαι λέγουσι παῖδα, ὃς ἐκ τούτου Ἐριχθόνιος ἐκλήθη.

Καὶ αὐξηθεὶς τοῦθ’ εὗρε, καὶ ἐθαυμάσθη, ἀγωνιστὴς γενόμενος. ἤγαγε δὲ ἐπιμελῶς τὰ Παναθήναια, καὶ ἅμα Ἡνίοχον ἔχων παραβάτην, ἀσπίδιον ἔχοντα, καὶ τριλοφίαν ἐπὶ τῆς κεφαλῆς. ἀπ’ ἐκείνου δὲ κατὰ μίμησιν ὁ καλούμενος ἀποβάτης.

Ἐσχημάτισται δ’ ἐν τούτῳ ἡ Αἴξ καὶ οἱ Ἔριφοι. Μουσαῖος γάρ φησι Δία γεννώμενον ἐγχειρισθῆναι ὑπὸ Ῥέας Θέμιδι. Θέμιν δὲ Ἀμαλθείᾳ δοῦναι τὸ βρέφος. τὴν δέ, ἔχουσαν Αἶγα, ὑποθεῖναι, τὴν δ’ ἐκθρέψαι Δία· τὴν δὲ Αἶγα εἶναι Ἡλίου θυγατέρα, φοβερὰν οὕτως, ὥστε τοὺς κατὰ Κρόνον θεοὺς βδελυττομένους τὴν μορφὴν τῆς παιδός, ἀξιῶσαι Γῆν κρύψαι αὐτὴν ἔν τινι τῶν κατὰ Κρήτην ἄντρων. καὶ ἀποκρυψαμένην ἐπιμέλειαν αὐτῆς τῇ Ἀμαλθείᾳ ἐγχειρίσαι· τὴν δὲ τῷ ἐκείνης γάλακτι τὸν Δία ἐκθρέψαι.

Ἐλθόντος δὲ τοῦ παιδὸς εἰς ἡλικίαν, καὶ μέλλοντος Γίγασι πολεμεῖν, οὐκ ἔχοντος δὲ ὅπλα, θεσπισθῆναι αὐτῷ τῆς Αἰγὸς τῇ δορᾷ ὅπλῳ χρήσασθαι, διά τε τὸ ἄτρωτον αὐτῆς καὶ φοβερόν, καὶ διὰ τὸ εἰς μέσην τὴν ῥάχιν Γοργόνος πρόσωπον ἔχειν. ποιήσαντος δὲ ταῦτα τοῦ Διός, καὶ τῇ τέχνῃ φανέντος διπλασίονος, τὰ ὁστᾶ δὲ τῆς Αἰγὸς καλύψαντος ἄλλῃ δορᾷ, καὶ ἔμψυχον αὐτὴν καὶ ἀθάνατον κατασκευάσαντος, αὐτὴν μέν φασιν ἄστρον οὐράνιον κατασκευάσαι, τινὲς δέ φασι Μυρτίλον ὀνόματι τὸν ἡνίοχον εἶναι, τὸν ἐξ Ἑρμοῦ γεγονότα.

これはヘーパイストスとゲー [ガイア] から生まれたエリクトニオスである。彼のことはこう言われている。ゼウスが (彼を) 人間たちのなかで馬たちを戦車につないだ最初の者として見たとき、(彼が) 白馬たちを軛の下につないで、ヘーリオスのしかたに倣った (巧みな) 操縦をしたのに感嘆した。また彼ははじめてアテーナーのために、アクロポリスにおける (犠牲の) 送りを行って、彼ら〔=アテーナイ人〕のところで彼女の祭儀を顕揚し (その儀式を) 有名にした。

第 1 段落の 2 文めはなかなか込み入っている。不定法アオリスト θαυμάσαι「感嘆した」の主語は、このままではゼウスととるのはかなり厳しく、むしろ対格主語エリクトニオスが感嘆したととるほうが文法には合致する。サントーニのテクストはゼウスを主語とするために、まず定動詞 εἶδεν を ἰδὼν に改めたうえ、θαυμάσαι も καὶ θαυμάσας として、2 つのアオリスト分詞 (男性主格) がゼウスの連続した行為と読めるようにしている。

ヘーリオスに倣ったというのは、太陽神ヘーリオスが扱いのきわめて難しい太陽の馬車 (戦車) を御して日ごと天空を駆けているという伝承による。その難しさについては、彼の息子パエトーンが父の諌めを聞かずに無理やりその戦車を借り、暴走させて死んだという神話に見られるとおり。アテーナー女神の祭礼についての箇所は、エリクトニオスが伝説上のアテーナイの 2 代めの王で、後述するパンアテーナイア祭を創始したことを言っているものか。

エウリーピデースも彼〔=エリクトニオス〕の誕生について、こんなふうにして言っている。ヘーパイストスはアテーナーへの情欲に駆られて彼女と交わりたいと欲したのだが、彼女は反対の考えで、処女であることのほうを望んでいたので、アッティカ (地方) のさる場所に身を隠した、(その場所は) 彼〔=ヘーパイストス〕にちなんでヘーパイスティオンと呼称されたと言われている。彼は彼女を力ずくで物にしようと考えてそれを試みたところ、彼女によって槍で突き刺されたが、性欲〔=精液〕を放って、地へとその種がもたらされる。それ〔=子種〕より子が生まれ、彼はそのことからエリクトニオスと名づけられた。

エウリーピデースは言うまでもなく前 5 世紀に活躍した三大悲劇詩人の 1 人であるが、ここで言われている作品は伝存していない。ハードの英訳の注によるとこれはタイトル不明の劇であり、『エレクテウス』とも別だとしている。

エリクトニオスという名は本当のところ語源不詳らしいが (Beekes, Etymological Dictionary of Greek, s.v. Ἐριχθόνιος)、χθών「地、地面」と関連づける語源俗解が古代よりあった。この物語の場合は「地そのものである者」とでも訳すか (ἐρι- は強めの接頭辞)。あるいは第 1 要素を ἔριον「羊毛」ととって、「羊毛と大地の者」とも解された;これは上の物語とは少し細部が異なって、ヘーパイストスの放った精液がアテーナーの脚にかかったため彼女はそれを羊毛で拭きとって大地に捨てた、そこから子が生まれたとする伝承があるのである。

そうして彼は成長したあとそのこと〔=自分の生まれ〕を知って驚き、戦士として身を立てる。また念入りにパンアテーナイア祭を催し、同時に御者 [戦車の操者] として、小盾と頭にはトリロピアー [三つ羽飾りのついた兜] を装備した同乗者 [パラバテース] をもっていた。彼にちなんで、いわゆる飛び降りる者 [アポバテース] とはこれを真似たものである。

ἅμα Ἡνίοχον「同時に御者として」をサントーニは ἅρμα ἡνιόχει「戦車を御している」に改めており、このほうがよいかもしれない。前者では「御者」は対格であり、これを目的語とする動詞 (分詞) ἔχων の主語は主文の ἤγαγε の主語エリクトニオスだから、彼と御者はまるきり別人とならざるをえないが、ἡνιόχει と読めば彼じしんが戦車を操っていることになる。

飛び降りる者 [アポバテース] というのは戦車競技において走っている戦車から飛び降りるのである。それから戦車と馬に伴走するのか、あるいは戦車が所定のゴールについた瞬間から飛び降りて残りのトラックを走ったものか、さらにはもういちど飛び乗るなどという説もあり、よくわかっていないようだ。いずれにせよ、戦車競走じたいしばしば死傷者が出るほどスピードの出るものであり、いまで言えばバイクレースで走っているバイクから飛び降りてその勢いそのままに走り出す、というような危険な競技には違いない。

この (星座) のなかには (雌) 山羊と仔山羊たちも造形されている。というのはムーサイオスによれば、ゼウスは生まれるなりレアーによってテミスに託され、それからテミスはアマルテイアにこの嬰児を渡した。その彼女は (雌) 山羊をもっており、これの下に置いて、これがゼウスを養育した。この山羊はヘーリオスの娘であって、(容貌が) かくも恐ろしく、クロノスに従う神々がこの女の子の容姿を忌み嫌って、ゲー [ガイア] に対し彼女をクレーテー [クレタ] 島の地下の洞窟のうちのあるひとつに隠すことを要求したほどだった。それで (ゲーは雌山羊を) 匿ったあと、それの世話をアマルテイアに託した。そして彼女〔=アマルテイア〕はその女〔=雌山羊〕の乳でゼウスを養育したのだということだ。

アテーナイのムーサイオスは前 6 世紀の伝説的な詩人。アマルテイアは伝承によっては山羊の名であるともされるが、ここでは明らかに山羊を所有するクレタ島のニュンペー [ニンフ] とされている。だが山羊じしんが太陽神ヘーリオスの娘とされ、描写も詳しく重要な役目を担っているのに比して、アマルテイアの存在感は希薄で物語上不必要とも見え、これでは同一視されるのも無理はない。エラトステネースはその同一視に抗するためにわざわざこのような説明をムーサイオスの伝えとして残したのだろうか。

この子〔=ゼウス〕は成年に至ると、巨人 [ギガース] たちと戦争をせんとし、しかして武具をもたなかったので、彼にはこの雌山羊の皮を武具として用いるべしという神託が与えられた。というのはそれの傷つかなさと恐ろしさのゆえ、そして背の中央にゴルゴーンの顔をもっていたことのゆえであった。ゼウスがそのとおりにすると、その技によって (彼の強さが) 倍加したと見えた。それから山羊の骨を残りの皮で覆って、彼女を生きかえらせてさらに不死とした。(そしてゼウスは) 彼女を天の星としたのだと言われるが、またべつの人々によるとこの御者はミュルティロスという名前でヘルメースから生まれた息子だともいう。

巨人と訳した語 Γίγασι はギガースの複数与格であるが、サントーニは Τιτᾶσι (ティーターンの複数与格) に改めており、ハードの英訳も Titans である。前段落でクロノスたちの名前が挙がっているところを見ればたしかにそうとりたくなるのだが、ここで山羊の武具と言われているのは明らかにアイギスであり、ゼウスがそれをどの戦いで用いたものかは実際よくわからないのである (ティーターノマキアーであれギガントマキアーであれ)。

なお最後にとってつけたように紹介されている異説で、ミュルティロスとはオイノマーオス王——娘ヒッポダメイアへの求婚者を拒みつづけ、最後にはペロプスの策略で事故死させられた——の御者の名前である。

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