mardi 12 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (6)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 21 課から第 24 課までを扱う。



第 21 課 ω 動詞の能動相アオリストの分詞,μι 動詞の能動相現在および第 2 アオリストの分詞,分詞の用法(つづき)


練習 21


1. 人は死すべきものであると私は知っている。

2. だがもしぶどう酒がもはやないならばキュプリス (=アプロディーテー) はいない。〔独立属格。〕

3. そのとき彼はほかの誰にも知られずに涙を流していた。〔λείβων が男性単数なので主語は「彼」。〕

4. 多くない (=小勢の) ラケダイモーン人たちの軍勢がちょうどイストモス (=コリントス地峡) まで進出していた。〔οὐ πολλή は緩叙法「多くない=少数の」で、女性単数なので στρατιᾱ́ を修飾している。細かいことだが「ラケダイモンの」Λακεδαίμονος ではなく「ラケダイモン人たちの」Λακεδαιμονίων であることにも注意 (わかったうえで省略するのは構わない)。〕

5. 彼らは自分たちを戦うように説き伏せたとしてペリクレースを責めていた。〔ἐν αἰτίᾳ ἔχειν「責める」。πείσαντα の男性単数対格は τὸν Περικλέᾱ に一致している。これは πείθω のアオリスト能動分詞。σφᾶς は間接再帰で主文の主語 (責めている人たち=ペリクレスに説得された人たち) を指している。間接再帰というのは少しわかりにくい用語だが、いまこの代名詞の含まれる分詞句 ὡς πείσαντα ... の主語はペリクレスであるから、主語じしんへのふつうの再帰的指示とは違うのである。すなわちもし「ペリクレスが自分 (彼じしん) を納得させた」という場合ならこれを直接再帰と呼ぶのに対して、その枠を越えた外側の主語に返っているから間接再帰と称する。〕

6. 神が与えるならば、嫉妬はなんら力をもたない。(神が) 与えないならば、苦労はなんら力をもたない。〔θεοῦ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει φθόνος, καὶ μὴ διδόντος, οὐδὲν ἰσχῡ́ει πόνος. のようにコンマを足したほうがわかりやすい。すなわち οὐδέν は διδόντος の目的語ではない。なぜそれがわかるかというと、前半と後半で διδόντος と μὴ διδόντος が対比されているわけだが、後者で分詞句の目的語たるには否定辞 μή にあわせて μηδέν でないといけないから、翻って前者でも同じ構造と判断できる。ἰσχῡ́ω は「力が」というより「価値・意味がある (ない)」としたほうが通りよいかもしれない。これは自動詞なので、 οὐδέν は目的語ではなく限定の対格「いかなる点でも〜ない」ととる。与える目的語は漠然と「恵み、恩寵」などと考えればよいか。神の助けなくしては何事も達成されないのだから人間の働きだけでは無意味ということ。〕

7. ホメーロスという後世の記憶への伝達者を得ていたことで、アキッレウスは幸福であったとアレクサンドロスは考えた。〔Ὁμήρου と κήρῡκος は同格の説明。「ホメーロスが伝達者だったので」という独立属格ではなく (そうだとしたら ὄντος が必要)、たんに ἔτυχε の属格目的語。〕

8. 多くの者が戦争において仲間や家族を助けたことで傷を負って死んだのに対して、(助ける) べきだったのに助けなかった者たちは健康 [無傷] で帰ったのか。〔δέον は直前の動詞 βοηθεῖν の繰りかえしを避けたものと解した。ὑγιεῖς は主語に一致した男性複数主格で、副詞的に訳す。〕

9. キオス人たちとほかの同盟者たちはラケダイモーンへと使節を送った。それらのことを伝えてリューサンドロスを船団の上に (=指揮者に) 要請するために。〔ἐροῦντας と αἰτήσοντας が目的を表す未来能動分詞・男性複数対格 (前者は形の上では現在分詞だが、λέγω を基準とみなせば未来分詞に相当する)。〕

10. ゼウスとアポッローンは弓術について争っていた。アポッローンが弓を張り矢を放つと、ゼウスはアポッローンが射たのと同じほど (の距離) を一跨ぎした。〔τόξον, ου, τό「弓」が語彙集から漏れているようである。ἀφέντος は ἀφίημι の 2 アオ能分・男性単数属格。〕


第 22 課 接続法能動相現在およびアオリスト,主文における接続法の用法,接続法を用いた条件文


練習 22


1. 私に反対するな。

2. その男が逃げるのを放っておくまい。

3. 犬どもは知らない人々を見れば吠えかかる。〔ὧν は牽引を受けており、論理的には省略されている先行詞が属格 τούτων となるべきところ。またこの〈関係代名詞 + ἄν + 接続法〉は条件文の代わりをしているので (§117)、たんに「知らない人に」よりは「知らない人がいれば、いようものなら」などと訳すほうがニュアンスが伝わる。〕

4. 食べよう、飲もう。明日には私たちは死ぬのだから。〔前半は勧奨の接続法。出典はパウロと書かれているが、パウロがこうした刹那主義的な主張をしているのではなく悪い例として彼は挙げているのである。〕

5. 馬鹿は笑うべきでないときでさえ笑う。

6. もし君が彼に金銭を与え彼を説得するならば、彼は君をも賢くするだろう。〔この話し手はソクラテスであり、相手である君とはヒポクラテスという名の青年 (著名な医学の祖とは別人)、そして彼とはプロタゴラス。青年はプロタゴラスに報酬を支払うので自分を賢くしてくれと依頼したところ断られて、ソクラテスに助けを求めにきている。〕

7. 不運について誰をも非難するな。なんとなれば運命とは (誰にでも) 共通であり未来は目に見えないのだから。

8. バラの盛りは短い。(ひとたび盛りが) 過ぎ去ったならば、求めたところで見つかるのはバラではなく茨であろう。〔βαιὸν χρόνον は期間の対格。ἤν は ἐᾱ́ν の別形。ζητῶν は ζητέω の現在能動分詞で、主語である「君」に一致した男性単数主格であり譲歩を表す:「探し求めるとしても」。εὑρήσεις は εὑρίσκω の直説法未来 2 単。〕

9. すべての (男) が結婚において不運なわけでもなく、(すべての男が) 幸運なわけでもない。だが悪い妻を得たならば不運である。よい (妻) を得れば幸運であるが。〔かなり難しい問題! 7. で名詞の τύχη「偶然、運命」を出した直後にひっかけてきているが、今度の τύχῃ, τυχών は名詞ではなく動詞 τυγχάνω (ここでは「属格のものを得る」の意) の、それぞれ接続法能動アオリスト 3 単とアオリスト能動分詞・男単主である。前者は名詞の単数与格とまったく同形。しかし後者は複数属格だとするとアクセントが τυχῶν にならねばならないので、そこでおかしいと気づく必要がある。〕

10. 儚き者たちよ! ある者が何であるか、また何でないか。影の (見る) 夢なのだ、人間とは。だが光輝が天与のものとして到来するとき、輝ける光と平穏なる生涯とが人々の上にある。〔冒頭の ἐπᾱ́μεροι は男性複数呼格ととる。ἔλθῃ は ἔρχομαι の接続法アオリスト 3 単。〕


第 23 課 希求法能動相現在・未来・アオリスト,主文における希求法の用法,目的文


練習 23


1. 君が幸福であるように。

2. キューロスが生きていればなあ。

3. あの手紙を送らなかったらなあ。〔前問の注を見よ。〕

4. 不正な者たちは罰せられないように逃げた。

5. おお不幸な人よ、あなたは (自分が) 誰であるか決して知ることのないように。〔出典が『オイディプス王』ということで察せられると思うが、発言者は妃イオカステで、あなた=オイディプスがみずからの父を殺し母と交わったのだという真相を知るべきでないということ。〕

6. いったい誰であれいかにして小さな労苦で大きなものを得られようか。〔σμῑκροῖς πόνοις は手段の与格。ἕλοι は αἱρέω の希求法アオリスト 3 単。可能性の希求法。〕

7. それに私はわざと君を起こそうとしなかったのだ。君がなるだけ心地よく過ごせるように。〔死刑執行を目前にしたソクラテスを訪ねてきた友人クリトンが、牢屋で熟睡している彼を見て驚いたところ。ἤγειρον は ἐγείρω の未完了過去で、ここでは「〜しようとした」という用法 (§40)。目的文の ὡς が導入されたばかりだが、最上級を伴う「できるだけ〜」という意味も忘れずに。〕

8. もし君の召使たちのうちの誰かが病気であれば、君は (その人が) 死なないように医者たちを呼ぶだろうか。

9. どこかでヘーラクレイトスは言っている。万物は行き何物もとどまるものはないと。そして彼は在るものを川の流れになぞらえて言う、君は二度同じ川に踏み入ることはできないと。〔2 つめの καί のまえでいったん文が切れる。ἀπεικάζων は主語に一致した状況説明の分詞。ὡς はここでは ὅτι と同じ。〕

10. 僕は鏡でありたい/いつも君が僕を見てくれるように/僕は肌着になりたい/いつも君が僕を着てくれるように/僕は水になりたい/そうして君の肌を洗おう/妻よ、僕は香油になりたい/そうして僕が君を塗りつくそう。〔鏡だけで終わればよかったのに、ずいぶんと変態じみている。λούσω と ἀλείψω は直説法未来 1 単と同形だが接続法アオリスト 1 単ととるべき、しかし訳しかたはあまり変わらない。γύναι は γυνή の呼格。〕


第 24 課 希求法を用いた条件文,ὅτι, ὡς によって導入される間接話法,話法転換時の動詞の法の変化,間接疑問


練習 24


1. 彼は私を見るといつも逃げていた。〔ἴδοι は ὁράω の希求法アオリスト 3 単。〕

2. 彼はよいと思われたことをやっていた。〔δόξειεν は δοκέω の希求法アオリスト 3 単。〕

3. それゆえ彼は何を言おうかと困惑して黙っていた。

4. 彼はそんなことを言う者は誰であれたわごとを言っているのだと言った。

5. クロイソスは誰がその男のあとに 2 番めを見るかと尋ねていた。〔繁栄を極めたリュディア王クロイソスは自分が世界中でもっとも幸せな者だと考えていたが、賢者ソロンが 1 位はアテナイのテロスだと答えたのでそれに次ぐ 2 位は誰かと尋ねている。〕

6. もし私が恩人たちを追い出すようなことをすれば、彼は私を褒めないだろう。〔この「褒めない」も緩叙法でむしろ「非難する」くらいの意味か。〕

7. もし君が友人をもっているようであれば君は幸福だと私は思う。

8. 指揮官が (考慮せ) ねばならないようなことをクレアルコスだけが考慮していると彼らは見ている。〔δεῖ には不定詞 φρονεῖν が省略されていると見る。ἄρχων は本書の語釈には「支配者」しかないがここでは軍隊の「指導者、指揮官」の意。〕

9. ソークラテースは言った。ほかの人々は食べるために生きているが自分は生きるために食べていると。

10. だがダーレイオスが死んでアルタクセルクセースが王になったとき、ティッサペルネースがキューロスをその兄に対して彼への陰謀を企てているとして中傷 [讒言] する。〔κατέστη は καθίστημι の第 2 アオリスト 3 単。「その兄」とはキュロスの兄アルタクセルクセスのことであり、次の αὐτῷ も同じ者を指す。最後の ὡς は練習 21.5 の注と同様、この陰謀という話が書き手ではなく文中の主語ティッサペルネスの主張であることを含意している。〕

samedi 9 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (5)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 17 課から第 20 課までを扱う。



第 17 課 πᾶς, μέγας, πολύς の変化


練習 17


1. すなわち全地が著名なる人々の墓である。〔これだけでは理解しがたいと思うので、その前後を含めて原文を久保正彰訳で引用する。対応箇所は下線部:「いま安らぎを与えているこの土ばかりがかれらの骨を収めているのではない。かれらの英名は末ながく、わが国に思いをいたすものの言葉にも行ないにも、おりあるたびに語り伝えられる。世にしるき人々にとって、大地はみなその墓というべく、その功はふるさとにきざまれた墓碑にとどまらず、遠き異郷においても生ける人々の心に碑銘よりしるき不文の碑となって生きつづけていく。」(トゥキュディデス『戦史』中公クラシックス版 72 頁)〕

2. 大きな都市は大きな孤独である。

3. この人々は全員黒い武具をもっていた。

4. 恐ろしいものは多いが、何物も人間より恐ろしいものではない。

5. 哀れな母親たちはその速い船のなかにとどまるだろう。

6. 腹の快楽はあらゆるよきものの始めであり根である。

7. その当時、政治上のことごとの多くを 9 人の執政官が行っていた。〔同じトゥキュディデスからの引用だが、上掲の中公クラシックス版は抄訳であり残念ながらこのあたりは省略されている。岩波文庫版では上巻 169 頁、ちくま学芸文庫版では上巻 105 頁。前者の注によるとこれは、はるか昔の王政とトゥキュディデスの時代の民主政との中間の貴族政治のことを説明している。〕

8. 文献学者カッリマコスは、大きな本は大きな悪に等しいと言っていた。〔主文の動詞は ἔλεγεν。いまさら注意も不要だと思うが、間接話法の主語・述語なので τὸ μέγα βιβλίον と ἴσον は対格。〕

9. ひとつひとつの仕事において、より劣った者もいればより優れた者もいる。だが人々のうち誰一人としてその人自身が [単身で] あらゆることに長けた者はいない。

10. なぜなら 6 日のうちに主は天と地と海と、それらのうちにあるすべてのものとを作り、7 日めには休息したからである。このことのゆえに主は第 7 日を祝福し、それを聖なるものとした。〔出エジプト記 20:11。第 2 文「第 7 日」はふつうの日本語訳聖書では「安息日」を祝福したと書いてあるはずである。それはヘブライ語版と七十人訳ギリシア語聖書との違いのためである。〕


第 18 課 μι 動詞:ἵστημι と δίδωμι の直説法能動相現在・未完了過去・アオリスト


練習 18


1. 恩人たちには感謝を返すべきである。

2. 不運は人々をより賢明にさせる。

3. われわれは保証を与えることも受けることも欲している。

4. ソークラテースは多くの時間 (=長いあいだ) 履物なしに立った。〔πολὺν χρόνον は期間の対格 (cf. §46.1)。〕

5. 父 (なるゼウス) は彼に一方を与えたが、もう一方は拒んだ。

6. アテーナイ人たちにはその場所に立って戦うのがよいと思われた。〔ἐδόκει は δοκέω の未完了 3 単で、これだけで「(与格の人にとって) よいと思われる」、またはさらに進んで「〜することに決定する」の意。〕

7. なぜ君たちは橋のそばに見張りを立たせなかったのか。〔第 1 アオリストなので他動詞「立たせる」。〕

8. だがそのとき、ミーレートスを除いたイオーニアー地方の諸都市がキューロスのほうへと離反した (=寝返った)。〔今度は第 2 アオリストなので自動詞である。πρὸς Κῦρον は注のとおり。ミレトスも寝返ろうとしていたのだが、この一帯の統治をペルシア王から任されていたティッサペルネス——王弟キュロスを讒訴した彼の敵である——が現地にいたためそれができなかった。〕

9. 誰であれ友人を裏切らないような人は、私の考えるところ、人間たちにおいても神々においても大きな名誉をもつ (=大いに尊敬される)。〔μεγάλην は女性単数対格で τῑμήν にかかっている。〕

10. ある詩人は言う。神々は、動物たちを作ったときに、なんらかの贈り物をそれぞれに配分した。雄牛たちには角を与えた。馬たちには蹄を、鳥たちには翼を、そしてほかの者たちにはなにかほかのそういったものを (与えた)。しかし人間たちにはなにもそういうものを与えなかったが、男たちには徳を、女たちには美しさを (与えた)。このために、女がすべてのもののなかで最強なのである。なんとなれば、男たちは徳によってすべてのものに勝つが、女たちは美しさによって男たちに勝つからである。〔ἀρετή は訳しにくい言葉で、「徳」と訳したのではあまり意味がわからない (徳でどうやって牛や馬やその他の動物に勝つのか?)。これはそのもののあるべき資質や強みといったようなもので、鳥のアレテーは飛ぶこと、馬のアレテーは走りの速さ、などと例解できる。したがってこの男たちに関しては力強さや勇敢さ、あるいはそれこそ「男らしさ」と訳してもいい。そういう意味では——いまどきこういうことを言うとポリコレ的に問題になりそうだが、少なくともこの詩人の主張に沿うなら——女のアレテーは美しさであって、男だけがアレテーを与えられているのではない。〕


第 19 課 μι 動詞:τίθημι, ἵημι, εἶμι, δείκνῡμι


練習 19


1. 私たちはすぐに家へ立ち去る。

2. 君はその魚を放つべきだ。

3. 時だけが正しい人を示す。〔μόνος は χρόνος に一致した述語的同格で、副詞的に訳せる。〕

4. 君はチーズを革袋のなかへしまった。

5. 彼は若者たちに知恵への愛を吹きこんでいた。〔たぶんソクラテスのこと?〕

6. 牛たちはみな川へ行った。

7. ゆえに彼は手から剣を地面へと放した。

8. よいものから悪いものを作ることは、悪いものからよいものを (作る) よりも容易である。

9. 父ピリッポスはここに息子を 12 歳で埋葬した、大いなる希望ニーコテレースを。〔「十二のとしに おのが子を 父ピリッポス この塚に はうむりぬ、世にあまりある 望みをかけしニーコテレースを」(呉茂一訳『ギリシア・ローマ抒情詩選―花冠』52 頁)。δωδεκέτη は τὸν παῖδα に対して修飾ではなく述語的位置にある:「息子を埋葬した、そのとき息子は 12 歳であった」。〕

10. クセルクセースがギリシアに向けて進軍していたとき、ラケダイモーン人たちはテルモピュライで隘路を守っていた。そして戦闘のまえに同盟者のうちのある者が言った:「夷狄どもが矢を射かけるときはいつでも、太陽を大量の矢によって隠してしまう、それらの大量さはそれほどなのである」。そこでスパルタ人、名はディエーネケース (という者) が、言った:「客人よ、私たちにとってよいことのすべてをあなたは知らせている。というのももしメーディアー人どもが太陽を隠すなら、影の下で戦いは行われるだろう、日向ではなしに」。〔ὀνόματι は限定の与格「名前の点ではディエネケス」。豪胆で恐れ知らずの人物で、矢の雨が空を曇らすおかげで涼しい日陰で戦えるなら結構なことではないか、という冗談を言っている。〕


第 20 課 ω 動詞の能動相現在・未来・第 2 アオリストの分詞,分詞の用法


練習 20


1. 人間は死から逃げながら (それを) 追っている。

2. 私たちは心をひとつにすることで強くありつづけるだろう。〔μενοῦμεν は未来 1 複。現在分詞 ὁμονοοῦντες の男性複数主格は隠れた主語「私たち」に一致している。〕

3. 学んだ [学のある] 人々を信頼するべきである。〔μαθοῦσιν は μανθάνω の第 2 アオリスト能動分詞・男性複数与格。能動なので学ぶ主体であり、「学んだこと (内容)」と訳すのは無理。〕

4. 愛する者たちの怒りはわずかな時間しか力をもたない [持続しない]。

5. というのもよい生まれでありながら悪い者は多いからだ。〔主語は πολλοί で ὄντες εὐγενεῖς は譲歩の分詞節。直訳は「多くの人が、よい生まれでありながら悪い」。κακός「悪い」はじつにあらゆる意味での悪さ——人格の邪悪な、能力の劣悪な、容貌の醜悪な、または勇敢さに欠ける臆病・卑怯など——を意味する。この箇所もかなり漠然とした、「見かけは高貴でも立派な人物とは限らない」という説教であり、エレクトラが生き別れの弟オレステス (まだ正体を隠している) と再会するシーンで、老臣が彼女に忠告しているところ。〕

6. およそ妻を娶らぬ男は、悪いものをもっていない (=もたずにすむ) のである。〔女というものは災い、結婚は人生の墓場 (現在通俗的な意味で) という謂い。〕

7. キュプリス (=アプロディーテー) はクニドスのキュプリス (像) を見て言った:「ああ、ああ、プラークシテレースはどこで裸の私を見たの」。〔ἰδοῦσα は ὁράω の第 2 アオリスト分詞・女性単数主格。εἶδε の直接目的語は με で、女性対格 γυμνήν はそれに対する述語的同格:「私が裸でいるところを見た」。〕

8. 人間が万物の尺度である。あるものについてはあることの、あらぬものについてはあらぬことの (尺度である)。〔ἐστίν のアクセントは ὡς, οὐκ のあとでは ἔστιν となる (§52.4)。この ἔστιν と ὄντων はかならずしも存在ととらなくても、「〜である」と解してもよいのではないか。つまり、とある (或る) ものが何々であるとか何々でないとかいうことは人間理性の判断する問題であるということ?〕

9. かつは若者たちを堕落させ、かつは国家の信ずる神々を信じずしてほかの新奇なる神霊どもを (信じている)、ソークラテースは正しくないことを行っている、と彼は言っている。〔主文の主語は φησίν で、対格主語 Σωκράτη が ἀδικεῖν しているというだけの文。残りのところは現在分詞 διαφθείροντα と νομίζοντα がソクラテスの男性対格に一致して彼の行状を説明している。〕

10. 生きることは悪いと言った者に対して、「生きることがではない」と犬儒派のディオゲネースは言った、「そうではなく、悪く生きることが (悪いのだ)」と。

vendredi 8 avril 2022

水谷『古典ギリシア語初歩』練習問題解答 (4)

水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店、1990 年) の練習問題の解答例。このページでは第 13 課から第 16 課までを扱う。



第 13 課 形容詞および副詞の比較,ἡδῑ́ων の変化


練習 13


1. 恋より甘いものはない。〔直訳は「何物も恋より甘くない」。〕

2. ピンダロスが言うように、水がもっともよい。〔ピンダロスによるオリュンピア祝勝詩 (紀元前 476 年のオリュンピア競技会において騎馬競争の部で優勝したシュラクサイのヒエロンを讃えたもの) の劈頭の句。しかしいったい何のなかで・どういう意味で水が最良だというのかは不詳である。William H. Race (1981), ‘Pindar’s “Best is water”: Best of What?’ によると、四大元素のうちで水が最良なのである、あるいは無条件に万物のうちで最良なのである、という有力な 2 つの解釈はいずれも正しくなく、人間の 3 つの条件のうち生命という点では水が最良なのだ (残り 2 つは、財産に関しては黄金が最良、そして名誉に関してはオリュンピア祭が最良、と続く)、という解釈がよいとする。〕

3. だが技術は必然 (の定め) よりもはるかに弱い。〔プロメテウスが人間に与えた技術は大神ゼウスには及ばず、そのゼウスでさえモイライの定める必然の運命には抗しえない。μακρῷ は差異の与格で、比較級・最上級を強める。これと同じく英語の by far も日本語の「はるかに」も、距離の長さ・遠さでもって差異の程度を強調するのはおもしろい。〕

4. 犬は人間にとってもっとも親しい。

5. 友よりも美しい財産はなにひとつ存在しない。

6. 母は父よりも 10 歳年下だと彼は言った。〔δέκα ἔτεσι「10 年だけ」も差異の与格。〕

7. 私たちは他人の過ちを自分の (過ち) よりも容易に目のなかにもつ (=目につく)。〔ῥᾷον は副詞の比較級。〕

8. 国家は、最善の国制をあたうかぎり速やかにかつ良く得たとき、もっとも幸福に過ごすだろう。〔τάχιστα, ἄριστα, εὐδαιμονέστατα は副詞の最上級。アオリスト分詞 λαβοῦσα の訳しかたは一意に決めがたい:「得たならば」という条件、「得ることで」という手段、あるいは現実に「得たので」という理由の説明でもありうる。分詞において時制はかならずしも時の違いを表すものではないので、アオリストでも「得る」のは現在または未来のできごとであってよいのである。〕

9. アポッローンの神託がデルポイにおいてなされた:ソポクレースは賢いが、エウリーピデースはさらに賢く、ソークラテースはすべての人たちのうちでもっとも賢い。

10. プロメーテウスはまず最初に人間たちと野獣たちを作った。次に彼は野獣たちがより多いことを見つつ、いくらかの (野獣) を人間に変えた。そしてそのことのゆえに、人間の身体と野獣の魂をもつ者たちがいまだにいるのである。〔第 2 文 ὁρῶν の現在分詞は、この動作が主文の動詞と同時的 (主文がアオリストなので時間的には過去のできごと) で、相としては継続的「見つつ、見ながら」であることを表す。第 3 文頭 τοῦτο は前文の内容を指す。οἵ の導く関係節のなかは、μὲν ... δὲ ... の対比を活かすなら「身体は人間だが魂は野獣である」のように訳すと自然。〕


第 14 課 母音融合動詞


練習 14


1. 時間は明らかでないことを明らかにする。

2. 1 羽のツバメは春を作らない。〔ことわざ。英語にも入っており ‘One swallow does not make a summer.’ と言う。1 羽来たからといってすぐに春 (夏) になるわけではないということ。〕

3. 神々が愛する者 (=神々に愛される者) は若くして死ぬ。〔νέος は述語的同格。死ぬという動作が起こるとき若い状態であるということ。〕

4. なぜなら彼は (自分が) 最良であるとみなされることをではなく (実際に最良で) あることを欲しているから。〔οὐ ... ἀλλὰ ... で 2 つのものを対比しており、それが δοκεῖν と εἶναι という 2 つの不定詞で、ἄριστος はそれらの述語として共有されている。難解に見えるが、ἄριστος εἶναι θέλει. だけにしてみれば誰でも簡単に読めるだろう。〕

5. シケリアーをローマ人たちはローマの蔵と呼んでいた。

6. ネストールの舌からは、ちょうど蜜のように言葉が流れ出たものだった。

7. よい友人が 1 人もいないような人は誰であれ生きる価値がない。〔マジすか。というのは置いといて、ὅτῳ は不定関係代名詞 ᾧτινι の別形で、役割は所有の与格。「その人のところによい友人がいない人は誰でも」。〕

8. 不正を働くこととは、ほかの人たちよりも多くを持とうと求めることである。

9. というのも、人々にとって嵐のときに船で海をゆくことよりも大きな危険があろうか。〔直訳すれば「どんな危険が……より大きいか」という疑問文だが、明らかに修辞疑問であって「それより大きな危険はない」の意。〕

10. あるアテーナイ人があるときペリクレースに尋ねた:「ペリクレースよ」と彼は言った、「支配者が心にもって [留めて] おかねばならない第 1 のことは何か」。すると (ペリクレースは答えて) 言った:「(その支配者じしんが) 人間であるということだ」。「では第 2 のことは何か」。「立派にかつ公正に支配せねばならないということだ」。また最後にその男は言った:「第 3 のことは何か」。するとペリクレースは言った:「いつまでも支配してい (られ) るわけではないということだ」。


第 15 課 流音・鼻音幹動詞の未来,人称代名詞


練習 15


1. 私はアルパにしてオー・メガ、始めであり終わりである。〔オー・メガ (オメガ) というのは中世以後の名称であり、古代ではたんにオー ὦ。ネストレ゠アーラント第 28 版にもあたってみたが、本文に採用していないばかりか異読資料欄にも μέγα の語はないので、古い写本にはいっさい見られないことがわかる。〕

2. 何者もあなたより賢くはない、ソークラテースよ。

3. 私にはこれが、あなたにはあれが気に入る。

4. すなわちわれわれの心は各人のうちにおいて神である。

5. 涙はわれわれにとって苦悩と災いの (=を癒やす) 薬である。

6. 君にこれを与える、というのは君は私の母を尊重しているから。

7. 誰が君たちとともにあの国にとどまるだろうか。〔μενοῦσιν は未来 3 複。〕

8. 君の私への手紙はなんと長かったか。〔ἡ πρὸς ἐμέ は ἡ ἐπιστολή への修飾句として冠詞がついている。〕

9. 君たちは君たちの父祖から得た徳を投げ捨てるつもりか。〔ἀποβαλεῖτε は未来 2 複、ἐλάβετε は第 2 アオリスト 2 複。〕

10. 敵たちを破ったある兵士たちはラッパ手を捕らえた。そしてまさに彼を殺さんとしたとき、「男たちよ」と彼は言った、「私を殺すな。なぜなら私はあなたがたのうちの誰をも殺さなかった。そのラッパ以外に、私はなにひとつ物をもっていないのを見てくれ」。すると (兵士たちは) 彼に向かって言った、「まさにそのことのゆえにおまえは死ぬにふさわしい。というのはおまえはみずからは戦わず、ほかの者たちを戦いに駆り立てているからだ」。〔ὁρᾶτε はここまでに習った事項では直説法現在 2 複「あなたがたは見ている」ととるしかないが、ここはむしろ命令法現在 2 複と解すほうが自然だろう。ἀποθανεῖν は ἀποθνῄσκω の第 2 アオリスト不定詞。〕


第 16 課 -ύς, -εῖα, -ύ 型および -ής, -ές 型の形容詞


練習 16


1. 経験のない者たちにとって戦争は甘美である。

2. その場所にはうまい水の泉がある。〔γλυκύς は味覚に快いということで、べつに砂糖のように甘い必要はない。英語の sweet も水について使うと fresh と同義で「悪くなっていない、大丈夫な」あるいは「真水の」の意味があるが、ギリシア語でも同様の用法がある。この文も「飲める水」くらいの意味かもしれない。〕

3. 彼はその人に、そのことは本当であるかどうかと尋ねる。

4. 好機は人間のところでは短い尺度をもつ。〔チャンスをつかめる時間は短いということ。〕

5. しばしば真実から嘘を分けることは困難である。

6. 詩人ヘーシオドスは徳の道を険しいと称していた。

7. 教育は、幸運な人々にとっては飾りであるが、不幸な人々にとっては避難所である。

8. 学問なき天性 [才能] は盲目であるが、天性なき学問は不完全にとどまる。

9. 足は速いが、風はもっと速く、思考はもっとも速い。

10. 人生は短いが、技術は長い。好機は速く (過ぎ去り)、経験は危うく (=あてにならず)、判断は難しい。〔最初の 2 項は ars longa, vita brevis というラテン語の形でも有名。ヒポクラテスの言葉なので、τεχνή「技術」(英 art) とは本来は医術について、それを修めるのにかかる時間の長さを言ったものだが、近代になって「芸術」の話に転用されるようになった。〕