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mercredi 16 mai 2018

獣の数字 666 解釈のパターン数

ヨハネの黙示録 13 章末尾に登場する謎めいた数字 666 のことを聞いたこともないという人はほとんどいないだろう。まさにそれが謎と言われるとおり、これがなにを表しているかにはさまざまの説がある。しかしもっとも有名でなおかつ有力視されているのが、皇帝ネロを表すという見かたであることもまた周知の事実であろう。まず本稿の議論の前提として、どのようにして 666 が皇帝ネロを意味するのかを簡単に説明することから始めよう。

旧約聖書の言語であるヘブライ語にせよ、新約のギリシア語にせよ、古代の文字は数価というものをもっていて、単語を書き表すのと同じ通常の「アルファベット」(ここでは広義の意味) でもって数字を表していた。いやヘブライ文字とギリシア文字どころではない、シリア文字、コプト文字、ゲエズ文字、アルメニア文字、グルジア文字、ゴート文字……、聖書学に関係して思い浮かぶ古代の文字はほぼすべてがそうであったといっても誇張にはなるまい (いわゆるローマ数字をもっていたラテン文字はきわめて特殊な部類)。

だからいま名を挙げたどの文字体系でもいいが、どれもあまり一般の人にはなじみがなかろうから、どれでもいいということはべつに日本語のカナを使って解説しても問題はなかろう。イロハニホヘト……のようにこれらの文字には固有の順番が決まっている。そこでイを数字の 1、ロを 2、ハを 3、……ということに決めるとして、ヌ=10 までいったら次の文字ルは 11 ではなく 20、ヲは 30、等々でツ=100 まで進む、その次は 200、300、……という要領である。そうすると 11 は 10 + 1 でヌイ、123 は 100 + 20 + 3 でツルハ、という感じに、2 桁 3 桁の数字を同じ文字数で表すことができる。現代の私たちはアラビア数字の位取り記数法を知っているので、こんなことをしなくても 1 も 10 も 100 も同じ 1 (=イ) という文字を適切な位に据えるだけでよいではないかと思うが、当時はその発想がなかったのである。

さてヘブライ文字でもギリシア文字でもこんなふうにして数字を表していた。ここで各文字が一定の数価をもっているということを逆手にとると、ふつうの単語をもそれを構成する数字に読みかえるという一種の暗号が作れることになる。たとえばさきほど説明したカタカナの数字表記法にのっとると、「ヨハネ」という文字列はヨ=60、ハ=3、ネ=200 であるから、263 と言ってヨハネを意味するというようなものである。もっともこれはいま私が創案した「カタカナの数価」にもとづいた話なので、当時のギリシア語の読者がヨハネ=263 と考えていたわけでないことはわざわざ注意するまでもあるまい。

とにかくこのようにして、数字から逆にもとの言葉を解読するという暗号が可能になる。この暗号というか文字を数と結びつけるヘブライ語の数秘術のことをゲマトリアという。そしてヘブライ文字で נרון קסר‎ (NRŌN QSR [ネローン・ケサル]、皇帝ネロ) と書くと 50 + 200 + 6 + 50 + 100 + 60 + 200 で 666 となるわけだ。ここまでが予備知識である。

しかし少しでも数学的な思考力のある人ならたちどころに気がつくだろう、このような分解が一意ではなく、したがって 666 だからネロという結論が演繹的に出てくるわけではないということに。もとより 666 の解釈には複数の説があり、このようなヘブライ文字のほかにたとえばギリシア文字で読めばとか、ローマ数字で考えればとか、そもそも数秘術とはみなさないとかいろいろ解きかたがあるのであるが、よしんばヘブライ文字のゲマトリアに限定して解釈したとしても皇帝ネロしかないということにはならないわけだ。

もっと簡単な話、かりに争点が 6 という数字だったとしよう。6 は 1 + 5 とも 2 + 4 とも 3 + 3 とも分けられるし、1 + 2 + 3 にも 2 + 2 + 2 にも、さらに細かく分割することもできる。分けずに 6 のままということも可能である。しかもこれらは単語を表す文字列なのであるから、たとえば dog と god が英語でべつの単語であるように、数字の加法とは違って並びもまた役割をもつ。こういうことを考えれば、たったの 6 でもいくつもの解釈可能性 (後述するが 32 通り) があるのであって、666 ほど大きな値となればいったいどれほどの膨大な組みあわせになるだろうか。それを求めてみようというのが本稿の目的である。

といっても、その文字列が意味をなす単語になるためにはどんな並びでもいいということにはならない。たとえば英語で dog と god は可能でも、それ以外の順列 odg, ogd, dgo, gdo は英語においては単語にも句にもなっていない。だから想定される膨大な場合の数のうち実際に許容されるのは比較的わずかであろう。だが一方で英語などのアルファベットがこのように正しい単語になりづらいのは、母音と子音が適切に交互に並んでいなければならないこと、さらに許される子音連続の種類も限られていることが大きな理由だが、ヘブライ文字 (アブジャド) では基本的に母音を書き表さず、母音は読み手が子音間に補って読むので (上の NRŌN QSR = NeRŌN QeSaR を思いおこされたい。この Ō は mater lectionis というもので、最悪これもなくてもネローンと読みうる)、アルファベット言語ほどには減らないという可能性もある。とはいえこのことを正しく考慮するためにはヘブライ語のネイティブなみの知識が必要になってしまうから、いま私たちはこの事情をすっかり捨象して、単純にパターンの数を算出することだけを目指そう。

このときいくつかの点に注意する必要がある。まず第 1 にはすでに説明したとおり、並びが意味をもつということ。それから、分割の項として認められるのは 1, 2, ..., 9, 10, 20, ..., 90, 100, 200, ..., 900 の 27 個の正整数だけで、たとえば 11 や 12 はさらに分割されなければならないということ。この理由は前述した「カタカナの数価」の解説から理解されるだろう。なお目標が 666 の分割であるから実際には 700, 800, 900 が必要になることはないが。

このような意味の「n の分割」のパターン数を Γ(n) とおく。最終目標は Γ(666) である。まず 1 の分割は 1 そのものしかないので、Γ(1) = 1 である。次に 2 の分割は 2 そのものと 1 + 1 の 2 通りなので、Γ(2) = 2。3 の分割は 3 そのものと、1 + 2 および 2 + 1、そして 1 + 1 + 1 の合計 4 通りだから、Γ(3) = 4。

ここまででパターンが見えてくる。このようなものを求めるさい、場合分けの方針としては「何個の項に分割するか」を考えるのがひとつの常套手段であり、じっさいいま 3 の分割についてそのような順で提示をしたが、今回はあまり賢明でない。ここでは「初項が何であるかに応じて場合分けをするほうが、うまいこと漸化式を立てられるようである。並びが違えば異なる文字列になるという特徴のおかげで、このような場合分けが MECE な (=重複がなく漏れもない) 分けかたになるのである。

すなわち、3 の分割の場合には、初項が 1 であれば 1 + 2 と 1 + 1 + 1 の 2 通りがあったわけであるが、このとき初項 1 を除いた後ろの部分は 2 の分割そのものであるから、すでに求めていた 2 の分割の場合の数がそのまま利用できたのである。

この方法で 4 の分割を求めてみると、初項 1 のとき残りは 3 の分割で 4 通り (4 = 1 + 3, 1 + 1 + 2, 1 + 2 + 1, 1 + 1 + 1 + 1)、初項 2 のとき残りは 2 の分割で 2 通り (4 = 2 + 2, 2 + 1 + 1)、初項 3 のとき残りは 1 の分割で 1 通り (4 = 3 + 1)、そして初項 4 のとき残りの文字列はないので 4 そのものの 1 文字という 1 通り (4 = 4) で、合計して Γ(4) = 4 + 2 + 1 + 1 = 8。わかりやすく先述のイロハニで例示してみれば、いま足し算で示した順にイハ・イイロ・イロイ・イイイイ・ロロ・ロイイ・ハイ・ニに対応し、この 8 通りの「語」ないし「文」がすべて同じ 4 を表すのである。

そこで、いま分割の項として使える数の集合を H = {1, 2, ..., 9, 10, 20, ..., 90, 100, 200, ..., 900} とおき、さらに Γ(0) = 1 と約束することにすれば、一般に Γ(n) = ∑k ∈ Hk ≤ n Γ(nk) と書くことができる (あるいは、形式的に負の数に対しても Γ(−m) = 0 (m ≥ 1) と定めておけば、シグマの範囲のうち第 2 の条件 kn は不要になる)。

すると n = 10 までは単純にそれより小さい 0 ≤ k < n による Γ(k) の和で、たとえば Γ(5) = Γ(4) + Γ(3) + Γ(2) + Γ(1) + Γ(0) = 16、もっといえばこれは作りかたからただの 2 のべき乗になるので Γ(6) = 32, Γ(7) = 64, Γ(8) = 128, Γ(9) = 256, Γ(10) = 512 である。

しかし 11 以降はそうではない。11 の場合には初項 11 というのがありえないからである。そこで Γ(11) = 1 023, Γ(12) = 2 045, Γ(13) = 4 088, Γ(14) = 8 172, Γ(15) = 16 336, Γ(16) = 32 656, Γ(17) = 65 280, Γ(18) = 130 496, Γ(19) = 260 864 というように 2 のべき乗から少しずつ離れていく。なお計算法からわかるようにここまでの値は、フィボナッチ数列の一般化の一種で直近 10 項の和をとるデカナッチ数 (decanacci numbers; デカボナッチとも) に一致することになる。

だが 20 でまた事情が変わることになる。20 では新たに初項 20 という場合が付け加わるためである。こうして Γ(20) = 521 473, Γ(21) = 1 042 434, ..., Γ(29) = 265 818 368 である。この段階に至って、(管見のかぎり) 既存のいかなる名前つきの数列からも逸脱することになる。たぶん、このような数列を定義し求めた人は過去いないのであろう。

さらにいくつか続きを求めてみれば、Γ(30) = 531 376 129, Γ(40) = 541 467 712 002, Γ(50) = 551 750 949 002 947, Γ(60) = 562 229 479 206 711 000 (この最後の桁の 000 は正確ではなく、私が表計算ソフトで求めているため下の位が省略されてしまっている) といった要領で爆発的に増えていく。Γ(100) はおよそ 606 171 774 527 530 000 000 000 000 000 (≈ 6.062 × 1029)、Γ(200) はおよそ 731 645 916 580 603 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 (≈ 7.316 × 1059) である。

それゆえ概算ではあるが、求めるべき Γ(666) は約 1.109 × 10200 となろう。恐るべき数である。もちろんすでに注意したとおり、この 201 桁にも上る莫大な数のうちかなりの部分は意味をなさない文字列になるはずだが、それらをすべて排除してもなお相当の数になるであろうことは疑いない。そのなかのわずかにたった 1 つの可能性が皇帝ネロ נרון קסר だというわけだ。

このようなことを見落として「666 をヘブライ文字で解釈すると皇帝ネロになる」などと安易に「解説」すると大恥になるので気をつけていただきたい。נרון קסר ならば 666 になるというのは正しくとも、逆に 666 ならば נרון קסר になるというのは正しくないのである。

ちなみにこれはまったく余談であるが、נרון קסר のうちヌン・ソフィート (語末形) ן は通常のヌン נ と違って 50 でなく 700 になるらしいのに、一般的な 666 の解釈では同じ 50 として扱われているのはなぜなのだろう。

dimanche 6 septembre 2015

小脇『聖書ヘブライ語文法』練習問題解答 (1)

小脇光男『聖書ヘブライ語文法 改訂版』(青山社,2013) の練習問題解答を自習がてらに作ってみました.とりあえず第 1 課から第 4 課まで (本文 pp. 10–32) です.続くかはわかりません.またヘブライ文字や翻字に入力ミスの多数あることを恐れます (入力方法に慣れが必要で,たとえば בְּרֵאשִׁית と表示するには .b.ir_e'.u^sIt と打つためです).お気づきの点があればコメント欄またはメールにてお知らせください.

samedi 25 avril 2015

ヘブライ文字の順番の覚えかた

予告どおり前回のエントリ「ギリシア文字の順番の覚えかた」に引きつづき,今回はヘブライ文字について自分なりの覚えかたをまとめておく.コンセプトはまったく同様に,すでになじんでいる既知の文字の知識を活かして共通部分を見つけること,これに尽きるのであるが,今回その「既知」とするものはラテン文字ではなく,ギリシア文字の順番についての知識を前提とする.というのも,それはギリシア文字のよい復習になるというだけではなく,ヘブライ文字とギリシア文字とはどちらもそう変わらない時期に,共通の親であるフェニキア文字から派生したものであり,ほとんど苦労なく対応が一目瞭然だからである.ラテン文字との対応については最後に一言するにとどめる.

まずヘブライ文字をただ羅列してみると,
אבגדהוזחטיכלמנסעפצקרשת
のようである.ギリシア文字と対応づけて表にしてみよう.次のように区切る.ヘブライ文字は右から左に並ぶので,表中では内側は内側のものどうし,外側は外側のものどうしが対応している.
א, ב, ג, ד, ה
:α, β, γ, δ, ε
ו
ז, ח, ט, י, כ, ל, מ, נ
:ζ, η, θ, ι, κ, λ, μ, ν
ס, ע, פ
:ξ, ο, π
צ, ק
ר, ש, ת
:ρ, σ, τ
ここに右列のギリシア文字にはいっさい抜けがない.ギリシア文字 24 字の上から 19 文字が,1 つも欠けることなく順番に現れており,前回ギリシア文字とラテン文字とを比較したときに J やら Q やらが飛ばされたこととは対照的である.また,文字の名前も少なからず似ていることに注意されたい.アルファとアレフは A-L-Ph, ベータとベートは B-T, ガンマとギメルは G-M, デルタとダレットは D-L-T, 等々.これはもちろん偶然ではなく,双方の母体となったフェニキア文字の各字母の名前を受けついでいるためである.この特徴はラテン文字と見比べたのでは見えてこない.

表では一見われわれの知る古典ギリシア語の音価に照らしてみれば対応が苦しいように見える部分もあるが,これらはいずれも歴史的に正しい対応である.まず ה に対する ε, ח に対する η, ע に対する ο の 3 つに注意しよう.ヘブライ文字と同様,親のフェニキア文字はセム系の文字であり子音を表す字母しかもたなかったところ,ギリシア文字はそれを継承するにあたって母音を表すべくいくつかの文字の音価を変更したのである.

もう 1 つ気になりそうなのは ס に対する ξ だが,これはなかなか複雑である.字形としてはヘブライ文字の ס のほうが仲間はずれであり,これに対応する本来のフェニキア文字はむしろ Ξ のように,横 3 本線に縦棒をひっぱった形で,魚の骨の形が由来だという.ギリシア文字の Ξ も手書きでは漢字の「王」とそっくりに縦棒で結ぶことがあるが,そうすればこれのほうが原形をとどめているのだろう.ס という丸い字形の由来は調べがつかなかった (丸といえば 1 つ後ろの ע だが,関係は不明).一方,音価については複子音を表す現行の ξ のほうがはみだし者である.当初 /ks/ の表記のしかたは古代ギリシア世界全土で一定せず,ΧΣ や ΚϺ など 2 文字を使って書いた地域がさまざまにあったが,Ξ を使うイオニア式のアルファベットが前 4 世紀なかばころまで (アテナイでは前 403 年の正書法改革によって義務的) に広く受けいれられたという.

これで表の埋まっている部分については説明が済んだことにして,残るヘブライ文字は 3 つであるが,これもじつはすべて対応するギリシア文字が存在する.ו にはディガンマ ϝ が,צ にはサン ϻ が,そして ק にはコッパ ϙ が対応する.これらは古典期までにすでに廃れていた古い文字で,たとえばディガンマについて見ると,この音価は ו と対応するといったように /w/ であるが,その音はわれわれの習う古典期のギリシア語にはない (消えた具体的な時期は方言によって異なる).残る 2 文字の消えた理由は,セム語では区別してもギリシア語では音素的区別をなさない音だったからである.サンはすでに前段落の最後に断りなく現れているが,/s/ の音を表したとされている.コッパはその字形や ק との対応からもわかるとおり /q/ である.これらを加えたものを再掲してまとめとしよう.
א, ב, ג, ד, ה
:α, β, γ, δ, ε
ו
:ϝ
ז, ח, ט, י, כ, ל, מ, נ
:ζ, η, θ, ι, κ, λ, μ, ν
ס, ע, פ
:ξ, ο, π
צ, ק
:ϻ, ϙ
ר, ש, ת
:ρ, σ, τ
さて,ギリシア文字ではなくもっとなじみのあるラテン文字によって対応表を作ることももちろん可能である.ラテン文字はギリシア文字およびそれに範をとったエトルリア文字から派生しておりいくぶん時代が隔たるが,できないことではないから必要に応じて試されるとよい.その方法をここでとらなかったのは,多少とも無理のある解釈をしなければならなくなるからであるが,若干のヒントを与えておく.ディガンマ ϝ は見てのとおりラテン文字 F のもとになった文字であるし,ו の現代の音 /v/ じたい /f/ と通じるז と対応する ζ が,ある意味では G に対応する (ギリシア文字を参考にしてラテン文字ができたとき,不要だった ζ の位置に G を足した) というのは前回のエントリの話である.この 2 点を許せば,ABCDEFGH(ט)I, KLMN(ס)OP(צ)QRST のようにおおむねそろっていることになる.