Affichage des articles dont le libellé est ゲーム関連. Afficher tous les articles
Affichage des articles dont le libellé est ゲーム関連. Afficher tous les articles

dimanche 18 juin 2023

ハーヴェステラ資料翻訳集成 (2) 楽園の終わり 四十一篇『遡行』

本稿では「楽園の終わり 四十一篇『遡行』」を対象とする。順番からいけば「十二篇」を扱うべきところだが、それについては前回簡単に触れてしまったのと、その意味するところは『楽園の遺書の断片』で種明かしがなされてしまっているので、新しく語りうることが少ないと思われたからである。

全体の目次リンクは「序論」冒頭部をご参照いただきたい。


日本語版:楽園の終わり 四十一篇『遡行』

楽園の終わりと呼ばれる説話集のひとつ。

『その楽園では 遡行を求めた……。

 赤き蛇が やってきた頃
 その楽園には 赤子の骸しかなかった。

 「時の遡行は 偽りだ。」
 「この場所にはなにもない。
  こんなものでは 私のイヴは……」

 罪人が赤き蛇を見ていた。
 罪人は 自らの罪を告白する。
 蛇は つまらなさそうに嘆息すると
 罪人に 銀の林檎を渡した。

 かくして罪人もまた楽園を後にした……』

日本語版の分析 (1):遡行の真実


「赤子の骸」と言われると非常にショッキングな絵面ではあるが、これは文字どおりの嬰児殺しではない。『遡行』と題されているこのエピソードの真実は、一言でいえば『ベンジャミン・バトン』(The Curious Case of Benjamin Button) であろう。この映画ないし短編小説をご存知ないかたのために簡単に説明すると、生まれたときに 80 歳の老人の姿であった表題の人物が、年を経るごとにだんだん若返っていって、最後には赤子の姿となって老衰で死ぬという設定である。

したがって、ここに言われている赤ん坊の遺体というのは、実際には寿命で死んだ老人たちということになるはずで、それほどおぞましい話ではない。あるいはベンジャミンよりももっと急速に若返ってしまったのかもしれないが、ともかく赤子殺しはなかったという結論じたいは動かないであろう。

体が若返っていくことを「遡行」と呼んだとして、これは世界の時間そのものを巻き戻せたわけではない。「赤き蛇」とあだ名される赤髪の青年が落胆しているのもそれが理由である。彼はおそらく、イヴが病気になるまえの時点にまで戻ってその原因を排除する、といったことを夢見ていたのだと思われる。「こんなものでは私のイヴは……」のあとには、「助けられない」といった主旨の言葉が予期される。


日本語版の分析 (2):楽園を滅ぼさぬ蛇


この第 41 篇の描く楽園は、青年が訪れた時点ですでに破滅していたという点が特徴といえるかもしれない。といっても私たちの知りうるのはたった 5 篇ではあるのだが、枠物語の外枠にも似た最初の第 1 篇と最後の第 118 篇を除けば、各篇は青年がひとつの楽園を訪れてはそこがなんらかの原因で滅びていく、という構成になっているはずであると、『プロジェクト凍結のお知らせ』の記す「寓話製造プロジェクト」の趣旨に従えばそのように想定されるのである。

ところでイヴ・楽園・蛇といったキーワードは明らかに旧約聖書の失楽園の物語にもとづいている。いま私は、現実世界においてシナリオライターはそれを元ネタにしたのだ、というメタ的な話をしているのではない。『ハーヴェステラ』の作中の地球=ロストガイアはフィクションではあるが現実の地球をモデルにしており、その世界には旧約聖書もあった (現にアリアが言及している)。したがって作中の『楽園の終わり』の書き手や読み手がもつであろう蛇に対するイメージもその影響を引きずっており、私たちの思うそれといささかの違いもなく、基本的には「楽園の暮らしを終わらせる元凶」たる悪者として観念されていると思われる。そのように考えると、第 41 篇の顛末が特異だと推定したくなるのも道理であろう。

だがこの寓話集の裏面には現実の楽園群に起こった史実があることを忘れてはならない。プロジェクトの趣旨から見て、楽園滅亡の原因については虚構はないはずであることを再確認しよう。したがってソフィアがこの寓話集を書いたとき、蛇というものは楽園を擾乱するものだという固定観念がいかに強力でも、事実を曲げてまで蛇を元凶に仕立てることは許容されなかったわけである。青年以外の原因によって滅びた楽園については、そのとおり記さなければならないという制約があった。そうすると案外、『楽園の終わり』には赤き蛇が原因で滅びるエピソードは多くないのかもしれない。

滅亡原因を偽ることができない以上、滅亡に彼が加担していないような楽園においてまで銀の林檎を原因かのように物語ることは寓話集制作の趣旨に真っ向から反してしまう。そのように考えてみると、じつはこの第 41 篇の結末の情報不足も理解できるように思われるのである。


日本語版の分析 (3):罪人は林檎を食べたか


赤髪の青年はすべてが終わったあとの楽園に到来して、ただひとり残っていた「罪人」に林檎を渡す。だが罪人ははたしてこの林檎を食べたのか、食べたならこの人になにが起こったのか。このエピソードで銀の林檎の作用についていっさい触れられていないことは、第 12 篇や第 75 篇と鋭い対照をなしており、大きな問題である。最終行では例に漏れず「罪人もまた楽園を後にした」からには、おそらく死なずに「棺の国」に参加したのかもしれないが、その決断が林檎と関係があるのかどうかもわからない。それに第 118 篇の表現と比較すればここで「罪人」は死んだという解釈も成り立ちうる。本当のところ生死さえ定かでないのである。

このあやふやさの原因こそ、以下の点に求められるのではないか。この楽園において、青年と林檎は滅亡になんら関与していない。それは史実である。それでも連続する全 118 篇の寓話集という体裁をとる以上、全体を引っぱる役割を担うシンボルである赤髪の青年と銀の林檎が不在では物語の結びつきが損なわれてしまう。そこで実際には役割を果たさなかったものを無理やり登場させたために、具体的なことをなにも語れなかったということは考えられないだろうか。

すなわち、本当は銀の林檎は渡されなかった、あるいはそもそも赤髪の青年は 41 番楽園を訪れなかった、という可能性さえ浮かんでくる。ただ、第 1 篇で論じたように私の理解ではソフィアにそこまで自由な物語の改変はできなかったと考えるので、後者は少々行きすぎである。この第 41 篇には失望した青年のセリフが 3 行用意されているが、これは本当に青年が語った言葉であるとみなしたい (供述資料説)。

これに対して林檎が渡されなかった可能性は十分あるとみている。理由は 2 つで、林檎が本当に使われたなら口にした結果まで記すほうが自然であるというのがひとつ。もうひとつは、「蛇は楽園の住人に林檎を食べることをそそのかすもの」との聖書的常識を知悉しているソフィアが、この定式を全編にわたり墨守することに凝り固まっていた、ということはいかにもありそうだからである。あるいはソフィアがそのように頭が固いのでないとしても、寓話集としての統一性を保つために意図的にそうしたのだと考えてもよい。そしてこのように考えてこそ、この第 41 篇における林檎の役割の空疎さに説明がつくというのが私の見解である。


英語版:End of Eden XLI: Time Travel

A story from The End of Eden:
“The Eden that sought time travel...
By the time the red serpent arrives,
there was naught but the corpses of
babies. ‘Time travel is a lie.’
‘There is nothing here. My Eve would not
be in such a place...’ The sinner looks
to the snake and confesses their sins.
The snake yawns, disinterested, and
hands them a silver apple. And so, the
sinner, too, left paradise behind...”

フランス語版:Fin d’Eden : Rétrospective

Une histoire tirée de la Fin d’Eden :
« L’Eden qui convoitait le voyage dans
le temps... Lorsque le serpent rouge
arrive, l’Eden est jonché de cadavres de
nourrissons. “Le voyage dans le temps
est un mensonge.” “Il n’y a rien ici.
Jamais mon Ève ne viendrait dans ce lieu
maudit...” Le pécheur se tourne vers le
serpent et confesse ses péchés. Le
serpent, indifférent, bâille et lui tend
une pomme argentée. Et c’est ainsi que
le pécheur quitta également le
paradis... »

ドイツ語版:Edens Ende XLI: Zeitreise

Eine Geschichte vom Ende Edens: „Das
Eden, das Zeitreisen suchte ... Als die
rote Schlange eintraf, gab es nichts
mehr als die Leichen der Babys.
‚Zeitreisen sind eine Lüge.‘ ‚Hier ist
nichts. An so einem Ort würde sich meine
Eva nicht aufhalten ...‘ Der Sünder sah
zur Schlange und beichtete seine Sünden.
Die Schlange gähnte gelangweilt und
reichte ihm einen silbernen Apfel.
So verließ der Sünder das Paradies ...“

スペイン語版:Fin de Eden XLI: Viaje temp.

Historia del fin de Eden:
El Eden que buscó viajar en el tiempo...
«Cuando la serpiente roja llegó, no había
más que cadáveres de bebés. “Los viajes
en el tiempo son mentira”, “No hay
nada aquí, mi Eva no se quedaría en un
lugar así...”. El pecador mira a la
serpiente y confiesa sus pecados. La
serpiente bosteza y le da una manzana
plateada. Y así, el pecador también
abandonó el paraíso...».

欧米語版の分析:行方知れずになったイヴ


まずはタイトルについて一言。英語版の Time Travel およびそれを訳した独 Zeitreise, 西 Viaje temp[oral] は文字どおり「時間旅行」であって、あまり適切ではないように思われる。どうやら英語では「遡行」を名詞 1 語で表すことが難しいようだ。フランス語の Rétrospective は文字どおり「後ろを (rétro-) 見る (spect-)」というわけで「回顧」の意味だが、ただ振りかえって見るだけではこれも「遡行」とはズレがある (また本文第 1 行では仏訳も「時間旅行」le voyage dans le temps と言っている)。同じ retro- を使うのであれば、私としては英訳に retrogression「後戻り、逆行」を提案したい。

「罪人」の性別は英語版では単数の they を使うことで明示を回避している。しかしこの努力にもかかわらず仏・独・西訳は男性の罪人にしている。なおこの「罪人」を表す語、英 sinner, 独 Sünder, 仏 pécheur, 西 pecador は法的な「犯罪者」ではなくて、道徳的・宗教的な「つみびとを表す語であることは注目に値する。とはいえこれをもって楽園時代に国家の法が機能していなかったとまでは言えまい。わかるのは、刑法上も罪になったかもしれないがそれ以上に道義上の罪咎をここでは問題にした、ということだけである。

「赤子の骸」のくだりについて、英・独・西は日本語版と同じく「〜しかなかった」を直訳しているが、フランス語版だけはそのショッキングさを引き立てるように「その楽園は乳飲み子の骸で埋めつくされていた」と言っており、これと関連して青年の発言中「この場所」にあたる部分に「呪わしき」という形容詞が付け足されている。次に述べる相違点ともあわせて、フランス語訳には強く感情が出ているといえる。

翻訳中もっとも大きな違いは青年のセリフの最終行である。日本語では「こんなものでは私のイヴは……」という部分が、英語では ‘My Eve would not be in such a place...’「私のイヴならこんな場所にいはしないだろう」となっている。またドイツ語とスペイン語もおおよそ同義だが、独 sich aufhalten, 西 quedarse という、つまり「とどまる、居残る」という再帰動詞を使っていて、いくぶん長い時間の滞在 (をしないこと) を考えている。そしてフランス語訳は上述したとおり maudit「呪われた」という形容詞と jamais「決して」という語を、それも文頭に出してきわめて強調しているほか、動詞に venir「来る」を用いているという違いがある:「私のイヴならこんな呪わしき地に来ることは絶対にありえないだろう」。

ちなみに動詞は英語では仮定法 would になっており、それを反映してドイツ語訳は接続法 II 式 würde、スペイン語は直説法過去未来 se quedaría、フランス語は条件法現在 viendrait である。いずれも仮定の感じが隠されていて、「私のイヴだったら」こんな場所にいたり来たりとどまったりはしないという表現である。イヴはいま青年とともにいないということがこの活用形だけで読みとれるわけだが、それに関連してもっと根本的な問題がある。

このように動詞からしてさまざまに食い違うのは、そもそも日本語が「イヴは……」というふうに述語をぼかしていたことが原因である。そしてそのせいで英訳者は文意を正しく汲みとれなかったと見える。いないもなにも、べつに青年はイヴを探しているのではなかったはずだ。イヴの居場所は最初からわかっており、彼はイヴの治療法を探して旅に出たのである。日本語版の原文は「こんなものでは」であり、つまりこの楽園の研究成果である「遡行」によっては「イヴは助けられない」という話だったはずだが、欧米語版ではイヴが行方不明になってしまったようだ。

改めて考えてみれば、日本語の「もの」と「こと」の区別は母語話者にとっても難しい。まして英語話者から見ればどちらも thing である。かりにここを「こんなことでは私のイヴは……」と思ってみると、「見つけようがない」と続いたとしても不自然ではない。それでも「……」の続きが具体的であれば困難はなかっただろうが、この言葉足らずのために解釈が難しくなり、誤訳が生じてしまったのかもしれない。

samedi 17 juin 2023

ハーヴェステラ資料翻訳集成 (1) 楽園の終わり 一篇『永遠』

第 0 番という番号をつけた「序論」からはや半年以上。ずいぶんと続きの執筆を遅らせてしまいました。アクセス履歴によればこの間にも「序論」や「人物名鑑」をご覧になりに訪れてくれたかたは毎日のようにおられ、『ハーヴェステラ』のファン層の熱心さを日々感じつつ、早く書かねばという焦りを募らせていました。こうしてようやく本論に着手することができて少しだけ肩の荷が下りた思いです。

本稿では「楽園の終わり 一篇『永遠』」を扱います。目次は「序論」の冒頭部のリストによって兼ねるので、そちらをご利用ください。


『楽園の終わり』の史実性


本論に入るまえに最初にはっきりさせておくと、『楽園の終わり』はあくまで高次人工知能ソフィアが編纂した寓話集であるから、書かれていることすべてをそのまま事実の記録と受けとるわけにはゆかない。どこまでが実際の事実でどこからが脚色かを判断するための材料にも乏しいために、扱いには十分な注意を要する難しい文書群だといえる。

とは言っておきながら、その困難はかなりな程度緩和されうると楽観的に見ることもできる。理由はいくつかあり、『楽園の遺書の断片』や『蒼き髪の挟まった手記』などべつの資料による記録から内容をクロスチェックしうること、また滅亡を避けるための教訓物語として用意された以上、滅亡原因については確実に事実をもとにしていると考えられることが挙げられるが、これまで指摘されていないと思われるもうひとつの根拠がある。それはまさしく編纂者が人工知能だということに起因しており、これらは「寓話集」と名乗ってはいるのだが、本物の寓話に見られるような比喩性や創作性が低いように見受けられることである。

顕著なのは、われわれがアクセスしうる 5 篇を見るかぎり、この寓話集には動物がまったくと言っていいほど登場しない点である。唯一の例外と見える「赤き蛇」というのも実際には「赤髪の青年」のあだ名にすぎず、あとは諍いを続ける「六十四」の人物 (第 12 篇)、「赤子の骸」を作りだした遡行の「罪人」(第 41 篇)、楽園からの脱出を求める人々と、無限を生きのびた「無垢なる乙女」(第 75 篇)、そしてこの第 1 篇に現れる「蒼き髪の乙女」、「医師」、「不治の病に横たわる人々」、どれもこれも通常の人間である。ただひとり神的な存在である「翼の少女」さえ、れっきとした現実の存在であることを私たちは知っている。この寓話集にはひとり残らず実在性の高い人物しか出てきていないのである。

人工知能であるソフィアは、ファンタジックな物語を創作するような想像力にはまったく欠けていたのだと思われる (2023 年に生きるわれわれは画像生成 AI や ChatGPT の飛躍的な発展を知っているが、本作はそれらの擡頭以前に作られたという文脈を含みおかれたい)。彼女がしたこととはつまり、現実の記録をもとにちょっと名前をぼかしたりするくらいの浅い加工であって、この「寓話集」にはほとんど実際のできごとがそのまま描かれているのだ、というのが私の考えである。

『プロジェクト凍結のお知らせ』においてこのプロジェクトが「アベル種に対する不適切な情報開示の恐れ」を理由として凍結されたことからもこのことは裏づけられる。漏れてはならない真の情報がかなり判明に読みとれてしまうからこそこのような処置が下ったわけで、裏を返せばこの「寓話集」からは相当程度の事実を読みとってよいということになろう。

もう 1 点思いおこされたいのは、ソフィアはのちに季石教団の教母「マザー」となって君臨するが、その宗教の教典として彼女は『汎化聖典』を、地球の歴史上の諸宗教の教典から継ぎ接ぎして作ったということである。ここでも彼女はもともとある文書を切り貼りして編集する能力には長けているが、一からまったく新しいものを執筆する創造力を発揮してはいないのである。


日本語版:楽園の終わり 一篇『永遠』

楽園の終わりと呼ばれる説話集のひとつ。

『その楽園では 永遠を求めた……。
 不治の病に 横たわる人々。
 蒼き髪の乙女と 傍らの医師。
 「妹君の生命はもう……」
 くずおれる赤髪の青年。

 禁断の銀の果実を手にした青年を
 翼の少女が止める。
 「絶望を手に どこへいこうというの?」
 「決まっている。別の楽園へ」

 かくして 彼は楽園を後にした……』

日本語版の分析 (1):ソフィアはどのようにして知りえたか


全部で 118 篇ある『楽園の終わり』のなかでも、この第 1 篇はとりわけ脚色の少ない写実的な語りだと評価できる。前半における「赤髪の青年」「蒼き髪の乙女」そして「医師」の 3 名のやりとりは、『蒼き髪の挟まった手記』の語るところとぴったり符合している。ただし乙女が青年の「妹」と呼ばれている点についてだけは、『手記』に見られる表現と比べて幾分か疑義を挟む余地がある。それに関しては『手記』の分析で改めて触れることにしよう。

医師と、病人と、彼女に親しい青年と。この余命宣告の場面が史実にもとづくことはともかく確かだが、不可解なのはどのようにして著者であるソフィアがそれを知ったかという点である。可能性としてはざっと 3 つほど想定できる。そしてこれらは排反ではなくすべて同時に成立しうる。

ひとつはソフィアがこの場面を直接目撃した、あるいは電磁的記録によって見聞きしたというもの (次回以降の議論の便宜のため、直接見聞説と名づけておく)。患者のプライバシー保護を考えると肯いがたい可能性ではあるが、山ほどの病人がいる終末世界において倫理観が低下していたということは随所で確認できる事実である (星核螺旋研究所のレポートでは、意識のないアリアを被検体「チャイルドフッド 1」としたことに触れて、「世相が平和なら人権意識が問われる所だが、もうそんなことを言っていられる状況ではない」と告白している)。

少々想像の行きすぎかもしれないが、ソフィア自身がもともと医療用 AI であって現場に居あわせていたとか、診察記録へのアクセス権があったといったこともありえなくはない。そんなことを考えるのは、アベル種人類のために寓話集を独自に立案し、のちにマザーとなる彼女の面倒見のよさや人類への慈しみを知っているからである (本作のプレーヤーには言うまでもないことだが、人工知能たちには「個性」がありそれぞれ考えかたが違っている。魔族にクラウドという用語があったとおり、任務によっても思考の傾向は方向づけられている)。

第 2 の線としては、『蒼き髪の挟まった手記』に直接依拠して書かれたというもの (手記資料説)。これがおそらくいちばん思いつきやすい可能性であろう。しかし私としてこれが本命とは思えないのは、ソフィアが参照したにしては『手記』が研究所の床に打ち捨てられていたのはおかしいという点である。ソフィアが読んでからそこに捨てた、あるいは誰かがそこに捨てたのをソフィアが見つけた、どちらの前後関係にしても不自然な結果である。

ありそうなのはカメラによって遠隔で読みとったという方法だろうか。重要な研究所なのだからそこらじゅうにカメラは取りつけられていただろうし、研究所が放棄されたあとのセキュリティはないも同然だった (内部にモンスターははびこっていたが、主人公たちも入るだけなら素通りできた)。そして 2 000 年経っても電源が生きているくらいなので、ソフィアが衛星軌道上にいた時代にも言うまでもなく使えたはずだ。あとはカメラの分解能さえ十分ならば、現場に行かずしても『手記』を閲覧できたことになる。ソフィア自身はいちどもそこを訪れていないから拾えなかったということである。

もうひとつ、私が第 3 の可能性として考えるのは、「赤髪の青年」その人の供述をもとにしたというものである (供述資料説)。それを示唆する根拠が作中に明示されているわけではないが、彼はおそらく接近禁止であったと思われるレッドクイーンを勝手に「イヴ」に触れさせたり、いかがわしい「銀の林檎」を配って歩いたり、それによって「棺の国」という怪しげな勢力を組織したり、極めつけには 118 ある楽園へ侵入して滅亡の原因になったりしている。楽園散在の時代にどれほど法律が実効性をもっていたかは疑問だが、明らかに彼は複数の犯罪に問われうる立場にある。

したがって彼はどこかのタイミングで拘束され供述調書をとられたということも十分ありえよう。青年の足跡や動機が詳しく判明しているのも、本人から聞いた話なのであれば当然である。この場合、最終 118 篇の結末だけは青年を美化する創作ということになる。あるいはこの部分も事実であり青年は翼の少女のまえで死んだのだとしても、そこに青年自身の手になる日記や遺書が残されていて、それを資料にできたと考えてもよい。この場合も死にざまだけは当人には語りようがないのだから、「赫き霧となって散っていった」という 1 行は創作ということになるが。

話題が第 118 篇の内容にまで及び、少し話が長くなってしまった。ともかくここでは、前半の余命宣告の場面をソフィアが事実に即して語りえたということが確認できたのがまず 1 点あるのだが、そこをいくとむしろ不思議に思われるのは後半かもしれない。ソフィアはどうして「翼の少女」と青年との会話を知っていたのか、いやそもそもどうして「翼の少女」の存在を認識していたか。ソフィアに創作の能力はほとんどなかったと考える私の立場ではいっそうこの点は問題となりうる。

だがじつはこれはそれほど難題ではない。このために「青年自身の供述」という論を提示したのであって、当事者本人が語ったとおりにソフィアは物語を構成したということであればどこにも困難は存在しないのである。そうすると今度は「青年がどこまで事実を語ったのか」が気になってくるだろうが、それはもともとあった「ソフィアが執筆のさいにどこまで脚色を交えたか」という問題から責任の所在がスライドしただけであって、新たな課題が生じたわけではない。

また、「翼の少女」の存在じたいについては別口でソフィアが知りえた可能性があることも指摘しておきたい。それは第六話で見た星核螺旋研究所の映像記録に一瞬だけ姿が映っていたことである。上でソフィアが『手記』を研究所のカメラ経由で目視した可能性に言及したが、同じように研究所の映像データも閲覧できたかもしれない。このさい引っかかるのは、あの映像再生の場面で一瞬だけ映ったガイアの姿に誰も言及しなかった——まるでアリアにも現在は見えていないようだった——ことであり、ひょっとするとガイアは主人公にしか見えないのかもしれないと思ったのだが、これは単独でも大きな疑問点なのでまたべつの機会に考えてみたい。いずれにせよ、かりにソフィアに創作能力があったとしてもだが、偶然に「翼の少女」という真実を言いあてるというのは考えがたく、この存在についてもなんらかの情報源に依拠したと考えるほうが自然である。


日本語版の分析 (2):銀の果実とは絶望のことである


『ハーヴェステラ』発売から 7 ヶ月を経たいま、改めて虚心坦懐にこれらの文書を読みなおしたとき、私はいままで大きな思い違いをしていたのかもしれないと思うようになった。

赤髪の青年の目的は (妹か恋人かはわからないが) 蒼き髪の乙女=イヴの病を治すことである。一方、『棺の国 調査記録・後』によって私たちは、彼のもつ「銀の林檎」が「赫き病」を癒やす特効薬であることを知っている。どうもここがごっちゃになって、またストーリーでも死季/ガイアダストの問題が非常にクローズアップされていたこともあって、「赫き病」=死季の病=イヴの病といつの間にやら短絡してしまっていた。が、これはまったくの勘違いであった。

青年のもつ銀の果実はイヴを癒やせる薬ではない。すなわち赫き病はイヴの患っていた病とは異なるのである。この第 1 篇を冷静に読むとそれがはっきりとわかる。なぜか。後半に書かれているとおり、青年は楽園を出発するまえからすでに「禁断の銀の果実」をもっているからである。青年はイヴの命が長くないと告げられて、彼女がまだ生きているうちに銀の果実をもって別の楽園へ向かった。これが端的な事実なのである。銀の果実は彼らの暮らす楽園に最初からあったのである。

そうすると銀の果実はいったいどんな効能をもつものなのか。こういう疑問を念頭に改めて文章を眺めてみると、じつは驚くほどわかることは少ないことに気づく。先述した『棺の国』の印象が強いため見誤りやすいが、『楽園の終わり』本編においては、第 12 篇で増殖する 64 人のクローンたちの「口論」を収めたことと、第 75 篇で「無限」によって苦しむ住民たちのもとで「無限は終焉を迎え」たと記されている、たったこの 2 例だけなのである (ちなみに私はこの第 75 篇で描かれている楽園こそ『棺の国』調査者の故郷かもしれないと疑っているので、そうするとこれらは 3 例とは数えられないことになる)。

これら 2 例ないし 3 例の共通点を考えてみたいところだが、第 75 篇の物語は「無限」の正体がはっきりしないため効果のほうも杳として知れないし、『棺の国』にしても「赫き病」という病名がわかる以外にはほとんど情報がない。調査者が述べているのは「林檎を食べれば癒やしを得られよう」という青年の「言葉に偽りはなかった」ことであり、ともかく調査者じしんの主観として「癒やしを得られ」たと感じたということだけである。こちらも赫き病の症状がわからないことがネックだといえる。

しかしじつははっきりとした答えが、やはり本文のなかに記されているのである。もういちど読んでみよう。「禁断の銀の果実を手にした青年」を呼び止めた翼の少女は、彼の様子を見て「絶望を手に」どこへ行くのかと問う。……これが答えである。紛れもない、「銀の果実=絶望」、一見どんなに意味不明に見えてもこれが真実なのである。私は本稿のはじめに、著者ソフィアの言ってみれば文学的能力の低さを確認した。したがって、これは比喩や詩的表現などではないのだ、と考える。だいいち比喩だとすれば「手に」というのは不自然だろう。「絶望を胸に」などと言うはずだ (人工知能であるソフィアは文学的創造力は低くとも、言葉を文法どおり運用するリテラシーは非常に高いと想定される)。

であれば、銀の果実とは絶望の具象化、食べれば絶望を引きおこすものなのではないだろうか。もっと現実に引きつけて言うなら、強い鎮静作用と考えてもよい。絶望がどうして薬といえるのか、これだけで納得してもらえたなら話は終わりなのだが、まだ不思議に思われるかもしれないのでもう少し言葉を補おう。絶望が薬になるということは、それと対になるもの、すなわち希望こそが病だという運びになる。実のところそういう発想を作中においてはっきり確認できるガイストのセリフがある (第七話、月の揺り籠・全知の集積所における):
やめておけ ディアンサス。
一度 その希望というものに蝕まれた
私だから言えることだが その希望とやらは
ある種のバグだ。
希望なんてものは 願いを糧に育ち
思考の中に巣食う魔物だ。
やがて 破滅という怪物に育つな。
これにはいわゆる抑うつリアリズム (depressive realism) の理論に通じるところがある。聞いたことはないだろうか。うつ病を患っている人のほうがじつは世のなかを客観的に正確に把握しているのであって、逆に正常とされる人のほうが認知が歪んでいてポジティブに見誤っているのだ、という考えかたである。世界は本来耐えがたいものであり、人間は希望をもつことによって厳しい現実から目をそらして生きているというわけだ。希望こそが病的状態なのであって、それを「癒やす」ために絶望を薬とする、という理屈が通ることを承服してもらえただろうか。

「死に至る病とは絶望のことである」というキルケゴールの有名な言葉は、たとえその著書『死に至る病』そのものを読んだことがなくとも誰でも聞き覚えがあるだろう。まして第三話 C のボスにキルケゴールの名をあてがったシナリオライターその人が知らなかったはずもない。絶望が病である、この定式を反転させると希望が病であることになるのはたった一歩の飛躍である。既存の抑うつリアリズム理論と、死に至る病と、この 2 つの材料が古屋氏の発想源であったのかもしれない。

繰りかえしになるが、私の主張する「禁断の銀の果実を手に=絶望を手に」とは書いてあるとおりに読んだだけなのである。突飛なことはなにもなく、書いてあることをすなおに読めばそう解さざるをえない。私じしんどうして最近まで気づかなかったのか不思議なほどで、まさしくコロンブスの卵というべきか。

そしていま示した説が第 12 篇の描写とも符合していることを確認しよう。自分こそが本物だと信じて争っていたクローンたちは、絶望の林檎を口にしたことで自己の存在証明への執着がなくなり、生き残りの権利を相手に譲るようになった。その結果 64 が 32 になり、32 が 16 になり、最後の 1 人になるまで続いたのである。なお、生に頓着しないということは積極的に死を望むこととイコールではない。絶望とは望みの絶えていることなのだから、生を希望しないだけでなく死への希望すらもたないということなのだ。だから最後の 1 人はあえて死ぬ必要はなかったのである。

第 75 篇との整合性はどうだろう。ここはすでに「絶望が繰り返される楽園」となっているのに、改めて絶望の林檎を口にする意味はあるといえるのか。それには『アンナ・カレーニナ』よろしく、希望とはひとつのものであるが絶望には人の数だけ絶望がある、と答えよう。第 75 の楽園を覆っていた絶望と、銀の果実により与えられた絶望はべつの種類のものであり、だからこそこの絶望によって解放がもたらされたのだ。

最後に、銀の果実がイヴに使えない理由もこれではっきりとわかる。この禁断の果実は生への執着を取り除く絶望なのだ。イヴに生きていてほしい青年が、そんなものを彼女に与えるはずもない。というより、そもそも彼女は最初から生に執着していなかった。『蒼き髪の挟まった手記』で彼女は、「不思議と落胆はなかった」「私の番が来ただけだ」と達観して語っている。たとえ銀の果実を口にしたとしても、イヴにはなんらの変化もなかったかもしれない。


英語版:End of Eden I: Eternity

A story from The End of Eden:
“The Eden that sought eternity, filled
with those blighted by incurable
disease. A blue-haired maiden and a
doctor by her side. ‘There is nothing
more we can do...’ A young man with
flame-red hair collapses. He is
stopped, forbidden silver fruit in hand,
by a winged girl. ‘Where are you going,
with such despair in your grasp?’
‘To another Eden,’ he says.
And so, he left paradise behind...”

フランス語版:Fin d’Eden I : Éternité

Une histoire tirée de la Fin d’Eden :
« L’Eden qui convoitait l’éternité,
peuplé d’âmes brisées par une maladie
incurable. Une jeune femme aux cheveux
bleus et un médecin à ses côtés. “Il n’y
a plus rien à faire.” Un jeune homme aux
cheveux roux s’effondre, un fruit
argenté interdit dans la main. Il est
rattrapé par une fille ailée : “Où
vas-tu, avec un tel désespoir au creux
de ta main ?”
“Dans un autre Eden”, répond-il. Et
c’est ainsi qu’il quitta le paradis... »

ドイツ語版:Edens Ende I: Ewigkeit

Eine Geschichte vom Ende Edens: „Das
Eden, das die Ewigkeit suchte, voll mit
jenen, die von einer unheilbaren
Krankheit befallen waren. Eine
blauhaarige Magd und ein Arzt an ihrer
Seite. ‚Wir können nichts mehr tun ...‘
Ein junger Mann mit feuerrotem Haar
brach zusammen. Ein geflügeltes Mädchen
hielt ihn an, mit silbernem Obst in der
Hand. ‚Wohin gehst du so voller
Verzweiflung?‘ ‚Zu einem anderen Eden‘,
sagt er. So verließ er das Paradies ...“

スペイン語版:Fin de Eden I: Eternidad

Historia del fin de Eden:
«Un Eden en busca de la eternidad lleno
de afectados por una enfermedad
incurable. Una muchacha de pelo azul y
un médico. “No podemos hacer nada más”.
Un joven pelirrojo se desmaya. Lo detiene
una muchacha alada que lleva una manzana
plateada en la mano. “¿Adónde te diriges
con tal desazón en tu mirada?”.
“A otro Eden”, replica él.
Y así dejó atrás el paraíso...».

欧米語版の分析:青年の棄てた楽園


基本的に日本語版の忠実な翻訳になっているので、翻訳からとくにわかることと相違点だけをピックアップしよう。「医師」の性別は日本語と英語では不明だが、仏・独・西ではすべて男性になっている。現れている「銀の果実」は単数である。おかしなこととして、フランス語版では青年は医師の宣告を受けて崩れ落ちる時点ですでに「禁断の銀の果実」を手に握っている。またドイツ語版とスペイン語版では「翼の少女」のほうが銀の果実をもっているのだが、これでは次以降のエピソードと整合しないので誤訳と判定せざるをえない。

以上は他愛もないことだが、ひとつだけ注目に値する相違点として、「楽園」を表す語の不統一を指摘できる。英語版を含めて 4 言語とも、表題『楽園の終わり』および本文最初の行の「その楽園では永遠を求めた」と青年のセリフ「別の楽園へ」という部分では固有名詞として大文字書きの Eden を用いているのに、最終行の「彼は楽園を後にした」だけは英 paradise およびそれと同様の語を使っているのである。

ひとつにはこれは、作中の用語として「楽園」と「エデン」が同義語の言いかえであることを示唆している、あるいはその事実を背景としている。日本語版の文書では「楽園」で一貫しているが、一方で物語中で訪れる場所のほうはふつうカタカナの「エデン」と呼ばれていたので、(章題「遺棄楽園」や「殻の楽園構想」のような手がかりは随所にあるにせよ) あの白いエデンと寓話中の楽園とを結びつけるにはわずかな飛躍があった。それに比べると欧米語版のこの文書の表現は、2 つの語のつながりが文書だけでも、または文書とストーリーのあいだでも接続がスムーズになる効果があるかもしれない。

しかし劇的なのは英語版における he left paradise behind という無冠詞の paradise である。仏・独・西では定冠詞つきになっており、いまいる楽園 (青年とイヴの故郷であるエデン) を指示するためには当然そうでなければならない。だが英語版は the paradise とは書かなかったのである。この無冠詞の paradise は物理的な地である彼らのシェルターを指しているのではない。地名としてのエデンではない。これは抽象名詞である。青年はただたんに「楽園を後にした」だけでなく、精神的な「安楽の状態」を捨て去り旅に出たということを言っているのである。心利く英語話者ならばかならずやここに the がない違和感に気がつき、その含意を感じとるであろう。さりげなくも青年の悲愴な覚悟をはっきりと示す翻訳の妙である。

dimanche 8 janvier 2023

ファイアーエムブレムエンゲージ 人名の由来と意味

本稿では『ファイアーエムブレム エンゲージ』に登場するキャラクターの名前の由来と思われるものとその意味をまとめて解説する。

本作のキャラクターの命名規則には国ごとにはっきりした特色が見られる。また従来の作品と比べたとき実際の欧米語の人名や神話から採られた名前が少なく、その反面明らかに人間の名前ではないものが多く使われていることが特徴と言える。その意味で悪く言えば重みがないというかおちゃらけた雰囲気が強いと感じられる。

以下でそれぞれの名前には欧米語版 (とくに英語版) の名前を併記したが、日本語の公式サイトのキャラクター紹介にあるつづりと欧米語版のゲーム中のものが異なっている場合がいくつかある。このような場合は「スタルーク (日 Staluke, 英 Alcryst)」のように表示した。従来作と同様、英語版とフランス語版その他でさらに異なるというものもおそらくあるであろうが、これはまだ確認できていない。


聖地リトス (神竜陣営)


★ 竜族の名はフランス語の光と闇で対照になっている (後掲する邪竜ソンブルの項も参照)。また不確かだが守り人たちについてもフランス語として解釈可能な語感ではある。

リュール (日 Lueur, 英 Alear)
フランス語でリュール lueur は「光」、とくに「微光、淡い光」を意味する。ちなみにヒーローズの召喚師のデフォルト名エクラもフランス語エクラ éclat「輝き、閃光」からきており、どちらもプレーヤーの分身としてつながりが意図されていると思われる。◆ 欧米語版の Alear の由来は不明。スペイン語で alear は「羽ばたく;元気を取り戻す」と「合金にする」という 2 つの異なる動詞。関連があるとは言いきれないがなかなか意味ありげで、エンゲージシンクロ時の翼や髪の色の混ざりかたを連想させるところがある。

ルミエル (Lumera)
フランス語リュミエール lumière「光」。

ヴァンドレ (Vander)
不明だが、響きはかなりフランス語的といえる。ヴァンドレ Vandré という地名はフランスに存在する。

クラン (Clanne)
不明。フランとあわせて双子らしい対になる響きを適当に決めたものか。ただ、Clanne というつづりを捨ててカタカナをもとにフランス語にこだわってみれば、クラン cran「自制心;勇気」かそれともク (ー) ラン coulant「流暢な;人あたりのよい、協調的な」ないし courant「滑らかな;普通の、一般的な」を候補に挙げられる。

フラン (Framme)
不明。framme はスウェーデン語で「眼前にある、前にいる」という副詞であるが、こんなのは偶然の一致にすぎない。上と同じくカタカナから考えれば、フランス語フラン franc「率直な、あけっぴろげな、まっすぐな」は彼女のイメージに近い (franc は男性形だが)。あるいはクランが coulant ならよりよく対になる foulant「押しつぶす、圧縮する」でもありうる。◆ クランもフランも短く特徴の少ない響きゆえ、ひとつが由来というのではなく——たんなる語感優先説も含めて——いろいろかけていると考えてもよいのではないか。

◆ リトス Lythos はギリシア語リトス λίθος (lithos) から。この語は「石」を意味するふつうの単語だが、とくに「宝石」を指す場合もあるほか、文脈によっては「墓石」や「祭壇」をも意味しうる。指輪を飾るのは宝石であるし、大陸中央に位置する聖地リトスは神竜の祭壇、そして海底に封じられた邪竜の墓標でもあろう。

◆ ソラネルの名は明らかに「空・寝る」の言葉遊び。欧米語名 Somniel も「眠り」を意味する語根 somn- (cf. ラテン語 somnus「眠り」、somnium「夢」;英語 in-somnia「不眠」) から成っている。


フィレネ王国


★ フィレネ人の名前はどれも例外なくフランス語の実際の人名であり、ほとんどはフランスの有名ブランドの名前からとったものと思われる。

アルフレッド (Alfred)
上のように言ったものの、アルフレッドだけはあまりフランス語らしくない。これはゲルマン系の名前——イギリスや北欧ではメジャ——であり、いちおうフランス人名としても通用するが、本国での名づけ例は前世紀を通して逓減し 1970 年代以来ほぼ消滅している。◆ 彼は作中で最初に仲間になる王子であり、リュールが FEH のエクラとすればアルフレッドはアルフォンスと似た立場にある。それで音の類似を意識した名前なのではないかと推測される。またブランド名としてはジュエリーブランドのフレッドからか。◆ 名前の意味は「エルフの助言」。後半要素はコンラート (Echoes) と共通している。つまりこの名前は alf-red と切れるのであって、じつはアルフォンス al-fons(e) とは成り立ちが異なる。後者の al- はゲルマン語の adal-, aðal-「高貴な」の潰れたもので、エーデルガルト (風花雪月) の前半要素と共通。

セリーヌ (Céline)
フランス語の女性名で、言わずと知れたファッションブランドの名。語源は古代ローマの氏族名カエリヌス Caelinus で、これは caelus「空、天」に由来する。最初の PV でセリカ (Echoes) とのシンクロが紹介されたとおり、セリカとの名前のつながりも意識されているはずである (セリカ Celica の由来じたい定かではないが、これもおそらくラテン語 caelus の形容詞女性形 caelica「天の」に比定しうるか)。

ルイ (Louis)
フランス語のありふれた男性名で、ブランドだとすればやはりルイ・ヴィトンが由来だろう。原義は「戦において名高い」のような意味で、同じ名前の女性形がルイーズ (烈火)、またチェコ語形がアロイス (風花雪月)。

クロエ (Chloé)
現代フランスで人気の女性名——90 年代後半から 2020 年までほぼつねにトップ 10 にありつづけた——で、もちろんファッションブランドの名。大元はギリシア語クロエー χλόη (khloē)「緑の新芽」。

ブシュロン (Boucheron)
これもフランス語の名だがファーストネームではなく姓である。ジュエリーブランドの名前。しかしその名前の意味は「肉屋、食肉処理業者」である。

エーティエ (Etie)
由来不明。フランス人名とすればエティエンヌ Étienne の女性形エティエネット Étiennette を短縮したものであろうが、いずれかと関係する名前のブランドもしくは創業者がいるかどうかわからない。エティエンヌは英語名スティーヴン、ギリシア語名ステパノスに対応し、「冠」の意。

ジャン (Jean)
きわめてありきたりな——そのせいか最近まったく人気のない——フランス人名。英語のジョン、ドイツ語のヨハン (聖戦) にあたる。ちなみにドニ (覚醒) とはどちらも良成長スキルをもつ村人で、ありふれた——古臭い?——フランス人名をつけられているという共通点がある。

イヴ (Ève)
これも名づけのきっかけとしてはファッションブランドであろうからイヴ・サンローランが由来だろう。だがフランス語でイヴ Yves というと男性名である。聖書に出てくる最初の女性のイヴはフランス語ではエーヴ Ève であり、欧米語版はちゃんとこのアクサンつきの È になっている;このことは翻訳者が、フィレネ人はフランス人名で一貫しているのだという意識を自覚的にもっていたことを証している。

◆ 以上のとおりフランス人名で統一されたフィレネ王国であるが、フィレネ Firene という国名はむしろイタリア語ふうの響きである (フランス語のつづりとしてはありえない形;たとえばフィレーヌ Firène とすればよりフランス語っぽくなる)。王族をはじめとした人々のデザインや趣味・口癖には花をモチーフにした点が多く、名前の由来はおそらく「花の都」フィレンツェ Firenze から 1 文字削ったものかと想像される。


ブロディア王国


★ ブロディア人はすべて鉱物の名前からつけられている。人間の名前にも使われるものとそうでないものがある。

ディアマンド (Diamant)
金剛石=ダイアモンドのこと。diamant はフランス語のつづり (もっともフランス語では最後の t は読まずディアマン)。そう一般的ではないが英語ではダイアモンド Diamond, 現代ギリシア語ではジアマンド Διαμάντω (Diamantō) を女性名に使うことはあるようだ。

スタルーク (日 Staluke, 英 Alcryst)
水晶=クリスタルのもじりで、欧米語版の Alcryst を見ればさらにはっきりしている (crystal の最後の 2 文字を頭に持ってきた形)。したがって実際にはない名前。むしろクリスタルのままであればふつうに英語の人名として通用する (これも女性名だが)。

アンバー (Amber)
英語で () (はく) のこと。アンバー・コナーやアンバー・ハードなどの著名人を思い起こせばわかるとおり、現実には女性の名前である。

ジェーデ (Jade)
英語でジェイド jade は () (すい) のこと。名前に使われるのは比較的新しいここ 40–50 年くらいのことだが、最近では一般的な女性名であり、とくにフランス——発音はジャード Jade——では 2014 年以来 8 年連続で女児の名トップ 3 (うち 2014, 20–21 年には第 1 位) に輝いている大人気の名前。

ラピス (Lapis)
() () =ラピスラズリ lapis lazuli からとったものであろうが、ラピスだけではただの「石」である。ラズリーはペルシア語ラージュワルド لاجورد (lâjvard) がアラビア語ラーズワルド لازورد (lāzuward) を経由して中世ラテン語に入ったもの——全体で「空の石」ほどの意——で、この語頭の L が冠詞と誤認されて消えた結果が仏 azur, 英 azure。すなわちアズール (覚醒)、ラズワルド (if) の由来でもある。

シトリニカ (Citrinne)
黄水晶=シトリン citrine から。実在の名前ではないが、かわいらしさのなかに気品を併せ含むいいセンスといえる。

ユナカ (Yunaka)
ユナカ石=ユナカイト unakite から。もちろん人名ではないが、たまたま日本語の女性名としても通りそうな響きだからそのまま使ったのだろう。

モリオン (Morion)
黒水晶=モリオン morion から。

◆ ブロディア Brodia の名前の由来について確実なことは不明。ただこれも鉱物という線で考えればブロンズ bronze のもじりかもしれない:-‍ia はたんなる国名を作る接尾辞 (e.g. イタリア、ルーマニア、ロシア) なので、「青銅の国」ブロンジアからブロディアは近い。質実剛健な尚武の国柄というイメージにも合致する。


ソルム王国


★ 食べもの、それもほとんどはイタリアのお菓子の名前からとられている。当然どれも人間の名前ではない。

ミスティラ (日 Misutira, 英 Timerra)
ティラミス tiramisu のアナグラム。ティラミスはイタリア語の命令文 tirami su「私を引き上げて、元気づけて」が名前の由来。◆ 欧米語版の Timerra も実際にはない名前だが、スペイン語 tierra「土、地面、大地」をほのめかしている可能性がある。次のフォガートの項を参照。

フォガート (Fogado)
アッフォガート affogato のもじり。affogato はイタリア語で「溺れた、溺死・窒息させられた」の意で、アイスクリームやジェラートを飲みもので沈めることからその名前がある。◆ また欧米語版のつづりからはポルトガル語 fogo「火、炎」、fogacho「小さい炎;燃える思い」を連想させる部分もある。ミスティラとともに、ソルムの砂漠の熱い大地を火と土という 2 つの元素で象徴したものかもしれない。これは日本人ではなく欧米の翻訳者の独創だろう。◆ 後づけかもしれないがハンガリー語フォガドー fogadó「歓迎・歓待するような」も彼の性格によく合致しており、そうだとすれば三重の意味を担わされていることになる。

パネトネ (Panette)
イタリアはミラノの伝統菓子パネットーネ panettone から。

メリン (Merrin)
お菓子に使うメレンゲ——イタリア語ではメリンガ meringa——からと思われる。あるいはあくまで完成形のお菓子で統一するなら、メリンガを用いたケーキのメリンガータ meringata。

パンドロ (Pandreo)
フランス南部の田舎のパン、パン・ド・ロデーヴ pain de Lodève からか。

ボネ (Bunet)
北イタリアの名物菓子ボネ bonet から。イタリア語読みはボネットだが、フランスに近いためかフランス語読みも一般的なようだ。

セアダス (Seadall)
イタリア・サルデーニャ島の伝統菓子セアダス seadas から。

スフォリア (Sfoglia)
イタリアはナポリ地方の焼き菓子スフォリアテッラ sfogliatella から。

◆ ソルム Solm の由来は定かでないが、ラテン語ソルム solum「地面、土地」はかなり有力な候補か。さらにソール sol「太陽」とかけているかもしれない。これが正しいとすれば土と火の 2 元素からなるという点で Timerra, Fogado と共通の発想にもとづいているといえる。


イルシオン王国


★ (伝統あるアンナさんは例外として) 全員植物の名前からつけられている。やはり一部を除いては人名ではない。

アイビー (Ivy)
英語で (つた) のこと。英語圏で女性名としてわりと古くから細々と使われているが、ほんの 10 年ほどまえからイギリスでは急激に人気の名前となってきており——2011 年に 168 位だったのが 2021 年では 5 位!——、それを追うようにアメリカでもこの 4, 5 年間で人気を伸ばしている。

オルテンシア (Hortensia)
セイヨウアジサイのこと。スペイン語の女性名でもあり、古代ローマの氏族名ホルテンシウス Hortensius に由来する。これは hortus「庭」から派生し、「庭師」のような意味。現代での名づけ例はかなり少ない。

ロサード (Rosado)
スペイン語で「薔薇の、薔薇色の」という形容詞の男性形。PV で彼が初登場したとき——声優は当初不明だった——日本では性別がわからないと話題になったが、欧米語名はあからさまに男性の語尾 -‍o をもっていることから誰が見ても男性だとはっきりしていた。この事情はルセア (烈火) が英語版で Lucius というあまりに男らしい名前で風情がなかったことと軌を一にしている。

ゴルドマリー (Goldmary)
キク科の花、マリーゴールドから。

カゲツ (Kagetsu)
「金のなる木」という別名をもつ植物カゲツ (花月) から。ちなみに英語では jade plant とも言い、ジェーデと共通する名前である。

ゼルコバ (Zelkov)
(けやき) の属名 Zelkova から。この語はグルジア語ヅェルクワ ძელქვა (ʒelkva) からきており、原義は「石の柱」。

アンナ (Anna)
アンナさんに由来というものはなく、しいて言えば『暗黒竜』のアンナさんその人が由来だというべきだろう。その名前そのものはヘブライ語ハンナ חַנָּה (H̱annāh) に遡り、「恵み、恩恵」の意。

ハイアシンス (Hyacinth)
ユリ科の花、ヒヤシンスの英語読み。ヒヤシンスの名はギリシア神話においてアポローンに愛され事故によって殺された美少年ヒュアキントス Ὑάκινθος (Hyakinthos) に由来する。

◆ イルシオン Elusia の由来はおそらく英語のイリュージョンに相当する各国語、とくにスペイン語であれば ilusión でイルシオンと読む。「幻覚、幻影、幻想」といった意。◆ 欧米語版はそのままでは素直すぎる——英 illusion, 独 Illusion, 仏 illusion, 伊 illusione でほぼ同じつづり——ゆえに少しひねったものだろう。語尾 -‍ia についてはブロディアの項も参照。


グラドロン (邪竜陣営)


★ 四狗は全員がフランス語の色の名前をそのままつけられている。

ソンブル (Sombron)
フランス語ソンブル sombre「闇」。名詞として「闇」の意味に用いるのは文語的で、ふつうは形容詞で「暗い;黒っぽい;陰気な、不吉な」の意。

セピア (Zephia)
フランス語セピア sépia「イカスミ;セピア」、いわゆるセピア色のこと。

グリ (Griss)
フランス語グリ gris「灰色の」。

マロン (Marni)
フランス語マロン marron「栗;栗色の」。

モーヴ (Mauvier)
フランス語モーヴ mauve「ゼニアオイ;薄紫色の」。最初の 2 人と比べてマロンとモーヴは植物の名前を兼ねていることは意味ありげで、イルシオン出身を示唆するものかもしれない。

◆ グラドロン Guradoron の由来については残念ながらさして思いあたるものがない。悪の軍勢として強大 (grand-) で重々しい (grav-) 感じの響きを適当に考案したものか?


その他


ヴェイル Veyle
不明だが、「謎の少女」という称号から考えれば謎のヴェールということで素直に英語の veil ではないか。Veyle というつづりはフランス東部のアン県を流れる川の名前と一致するが、これはソーヌ川の支流、つまりローヌの支流の支流というマイナな川であって、はじめからこの名が念頭にあったとは考えにくい。◆ 彼女の正体については実際に発売されてみなければわからないが、じつは竜族で何千年も生きているとすればフランス語ヴィエイユ vieille「老いた、高齢の (女性形)」ともかかっているかもしれない。

◆ 最後に、エレオス大陸の名はギリシア語エレオス ἔλεος (éleos)「哀れみ、慈悲、情け」に由来すると思われる。加えてアクセント位置だけが異なるエレオス ἐλεός (eleós) ——ギリシア語は日本語の雨/飴などと同様、アクセントで単語を区別する——は、フクロウの一種の名前でもある。かりに意図されたものとすればリュール/エクラ、アルフレッド/アルフォンスに次ぐ第 3 の FEH とのパラレリズムといえる。◆ 欧米語版のつづりは Elyos で、旧約聖書の神の呼び名のひとつエル・エリヨン El Elyon —— עֶלְיוֹן (ʿElyôn) は「いと高き、至尊なる」の意——に近づいている。Elyos からはまたギリシア神話の死後の楽園エーリュシオン Ἠλύσιον (Ēlysion) を連想する人も多いかもしれない。

jeudi 8 décembre 2022

ハーヴェステラ人物名鑑

『ハーヴェステラ』に出てくる全人物名の事典。五十音順。ネタバレ多数なので注意、かならずストーリークリア後にお読みください。

ここにいう「人物」とはいわゆる人間に限らず、個性をもったひとつの人格、作中の言葉でいえば「知性」のひとりひとりを指すものとします(+一部「知能」をも含む)。作中で名前が一度でも挙がった人物名は全員載せ(姿が出ない故人なども含む)、ごく一部名前がなくても役割のある人物は含めています(「〇〇の父親・母親」は省略)。

解説はなるべく簡潔を旨とし原則 2 文までに限ったため、情報を網羅したものではありません(と、当初早く完成させるためにそう決めていたのが、あとから書き足したものほど長くなっています;ほかのも少しずつ加筆していきたい)。2024 年 8 月 27 日最終更新。


ア行


アイク (Ike)
レーテの村の男の子。忙しい両親から放置されていることを気に病んで家出したところをデュランレプスに保護された。登場:レーテのクエスト「怪しい手紙」

アイナ
ブラッカの故郷の村長の娘。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

アイン (Ein)
プレーヤーの分身である主人公。月の揺り籠で眠っていたカイン種人類の意識を、リ・ガイアによってアベル種人類の肉体(その本来の持ち主については不明)へ移し入れられた存在。登場:メインストーリー 第一話〜

蒼き髪の乙女 (blue-haired maiden)
→ イヴ

赤髪の青年 (young man with flame-red hair)
「棺の国」を組織した人物で、なんらかの手段で若返りもしくは長命を得ていたほか、「赫き病」の特効薬である銀の林檎をもっていた。不治の病に冒されたイヴを救う手段を探し求めたが叶わずに命を絶った。登場:なし(貴重品文書のみ)

アジール (Asyl)
ネメアの街の自警団の青年。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

アネモイ (Anemoi)
オートマタ。冬のシーズライトの帰化現象によって現れた 21 世紀中葉の機械。災害予測ができ、ジーグフェルド司祭はこれを利用して神託と称する予言を行っていた。登場:メインストーリー 第三話 C

アマデウス (Amadeus)
キルケゴールとともに 12 年前にブラッカの故郷の村を滅ぼした喰罪種。晩年は喰罪種としての本能に逆らって穏やかな暮らしを送り、モルドールに殺された。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

アラン (Alan)
ラケルの父。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

アリア (Aria)
西暦 2078 年の「未来」から来た科学者。「厄災」解決のため若くして人類の先頭に立ち奮闘するが、レッドクイーンの星核に触れたことで二千年あまりのあいだ魂を囚われていた。フルネームはアリア・レベンタール。登場:メインストーリー 第一話〜

アルヴァ (Alvar)
アルジェーンに住む老人。身寄りがなく、エルマを本当の孫のように思っている。登場:アルジェーンのクエスト「嘘から出た本当」

アンリ (Annie)
ネメアの孤児院の女の子。本来はしっかりした行儀のいい子だが、養子の話を断りナナに譲るために悪い子のふりをする。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

イヴ (Eve)
アリアの次にレッドクイーンに触れて「幼年体チャイルドフッド 2」となった蒼い髪の女性と思われる名前。寓話集『楽園の終わり』では「蒼き髪の乙女」と称され、赤髪の青年の妹とされる。登場:なし(貴重品文書のみ)

イザベラ
スコットのおそらく妻(エマとともに名前が挙がるため、どちらが妻でどちらが娘かは曖昧)。故人。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

イスティナ (Istina)
ネメアの孤児院の先生。元「影のアサシン」と呼ばれる暗殺者だった。登場:メインストーリー 第三話 A〜

イリス (Iris)
夏のシーズライトに関係している水の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 B〜

ヴィラマンド (Viramand)
→ シュリカ

ヴェルト゠ガイスト (Welt Geist)
→ ガイスト

エアリル (Aeril)
春のシーズライトに関係している風の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 A〜

エディ (Eddy)
ラケルをかばっていた子どもたちのうちの男の子。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

エペ
シュリカの話に出てくる、免罪花を身につけていなかったためにキルケゴールに操られることを免れた人物で、おそらく同僚の神官か。テルと同じく愛称のようで正式な名は不明。登場:メインストーリー 第三話 C
◇ 欧米語版ではシュリカのセリフに対応する内容がなく、日本語版のみの登場。性別不明だが、テルシテスと同様にギリシア神話からとられた名前とすれば、正式な名はエペイオスまたはエペイゲウスと推測され、男性か。

エマ
スコットのおそらく娘(イザベラの項を参照)。故人。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

エミリー (Emily)
不治の病で余命いくばくもない女性。詩を書くのが趣味。登場:キャラクターストーリー ディアンサス

エモ (Emo)
シャトラの酒場の歌姫。セイレーン族最後の生き残り。登場:メインストーリー 第三話 B〜

エリー (Ellie)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの女の子。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

エルマ (Elma)
アルジェーンの住民の女性。アルヴァを騙して遺産をせしめようとしていた。登場:アルジェーンのクエスト「嘘から出た本当」

オーナー (Landlord)
シャトラの酒場のオーナー。本名はニコラウス。エモを騙して働かせ、しまいには売り飛ばそうとしたり、かと思えば高価な衣装を用意してやったりと、愛憎相半ばする複雑な執着をもっている。登場:メインストーリー 第三話 B、シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

オルテラ (Otella)
ティエラの予備個体として作られた人造人間。ティエラとしての記憶ももっており、そのためにアジールに執着する。登場:キャラクターストーリー アジール


カ行


ガイア (Gaia)
科学者集団アニムスにより制作された、星そのものを計算機に仕立てたガイアコンピュータの OS。ネットワークから抽出した人類の集合的無意識が滅びを希求していると判断し、ガイアダスト(死季)を発生させた。正式名称は「星の少女 Gaia type」。登場:メインストーリー 最終話(姿は第六話も)

ガイスト (Geist)
魔族。死季解決を目指すクラウドの首班だったがロストガイアを訪れたのち変節、人類の進化を促すため「適切な滅亡」を与えようとシーズライト破壊に向けて暗躍した。敗北後の新人格は「殻の楽園」構想に方針転換し、一行に人類の真実を伝えカイン・アベルいずれが生き残るべきかの選択を迫る。登場:メインストーリー 第三話 A〜最終話(姿は第一話〜)

ガイスト MK-II (Geist Mk-II)
ガイスト旧人格が制作した小型支援デバイス。旧人格・新人格いずれの構想をも乗りこえて一縷の希望を証明した一行に、旧人格の「遺言」としてシーズライトの帰化現象や星の記憶領域仮説を伝える。登場:メインストーリー 最終話

鍛冶屋 (Smithy)
レーテの村で鍛冶屋を営む年配の女性。「中世」の村人にもかかわらずロストガイアやカレノイドの素材を知悉しており、ハイネの作った機械や銃、アリアディアンサスのもつ未来の武器さえも改良できる常軌を逸した技術力を有する。登場:メインストーリー 第一話〜

カリステフス (Callistephus)
月の揺り籠を防衛するレーベンエルベのリーダー。登場:メインストーリー 第七話〜第八話

“彼” (him, his)
地球人類ではじめて月に到達した人物(=アメリカの宇宙飛行士ニール・アームストロング)。セレーネからモノライトを託された。登場:カレノイド

キルケゴール (Kierkegaard)
表向きには季石教団の司祭ジーグフェルドと名乗る。アルジェーンの全住民を食い荒らそうとしていた喰罪種で、12 年前アマデウスとともにブラッカの故郷を滅ぼした。登場:メインストーリー 第三話 C

グラッド (Gladd)
ビスハイム商会の人間で、商会の跡取りである酒場のマスターに嫌がらせをし彼を連れ戻そうとした。登場:シャトラのクエスト「続・マスターの秘密」「終・マスターの秘密」

クラリエ (Clarie)
アルジェーン聖堂の懺悔室(のち、お悩み相談室)の担当神官で、非常なお人好し。登場:アルジェーンのクエスト「雪を積む女」「善意という名の罪」「彼女が積み上げてきたもの」

クリス
季石教団の巡礼師見習い。巡礼師の仕事についていけずバックレ、シャトラの酒場で飲んだくれているのを目撃されている。登場:ブレイクタイム

クレス (Cres)
レーテの村の医者。どこに行っても通用する腕前と評されており、ほかの街の住民からも頼られている。登場:メインストーリー 第一話〜

クロド
ブラッカの幼馴染。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

コロちゃん (Mr. Coco)
商才がないとしてコロネル族の里を追放され、行き倒れていたところをミーナに拾われた。実際にはしゃべることができ、追放もアルジェーンの宿屋にもぐりこむための偽装であった。登場:アルジェーンのクエスト「教都の宿屋の秘密」「コロちゃんの内緒話」


サ行


サファギン (Sahagin)
遠見の丘の「あやしい池」に住みつくサハギン。登場:不定(水辺バイオーム完成後)

ジェド (Jade)
リリアとともに駆け落ちの途中、海難事故により記憶を失う。もとアルジェーンの神官の家の息子。登場:シャトラのクエスト「逃避の結末」「再会の約束」

ジェームズ
アリアの父と親交があった、21 世紀後半の進化心理学者。人間のもつ心あるいは自我とは、肉体的な弱さを補償するために発生した器官だという説を唱えた。登場:メインストーリー 第六話

シェリー (Cherie)
ネメアの街に住む娘。もとシャトラに住んでいたが、幼いころ魔物に襲われる事故で両親と生き別れ、そのさいの怪我で記憶を失っていた。本来の名前はリン。登場:ネメアのクエスト「海を見たい娘」「蘇る記憶」「桜のいたずら」

ジーグフェルド
→ キルケゴール

ジャバウォッキー (Jabberwocky)
スクラップド・エデンの白い魔族。もともと大隔壁の外の世界に興味をもっており、外に出る主人公一行に同行、道案内や機械の読みとりなどに協力する。登場:メインストーリー 第五話〜第六話

ジュノー (Juno)
秋のシーズライトに関係している火の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

シュリカ (Shrika)
季石教団に所属する、「翼主の子」と称される最強の巡礼師。もと孤児であったが才能を見いだされてジーグフェルド司祭に拾われた。フルネームはシュリカ・ヴィラマンド。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

シリィ (Shirii)
冬のシーズライトに関係している土の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 C〜

シリン (Shirin)
レーテの村外れの空き家を管理している女性。ベルクの恋人。登場:レーテのクエスト「ユーレイ屋敷のウワサ」「かえらぬ傭兵」「待ち続けたふたり」

スコット (Scott)
機械のボディに人格を移した人間。数百年前にスクラップド・エデンの閉鎖環境に嫌気が差して外に出たまま行方不明になっていた。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

ゼニス
レーテの村長が冒険者だった時代の仲間。手紙が書けなくなってからは孫のセラに代筆させていた。故人。登場:レーテのクエスト「村長のペンフレンズ」

セラ (Serra)
ゼニスの孫娘。村長の新たな文通相手となる。登場:レーテのクエスト「村長のペンフレンズ」

セレーネ (Selene)
現在の形にされるまえの月が本来有していた星の意思。シーズライトを打ちこみ勝手に月をテラフォーミングした魔族に対抗すべく、アベル種人類を生みだした。登場:カレノイド

ソフィア
高次人工知能。野蛮だったアベル種を教化するために『汎化聖典』を編纂し、季石教団の教母マザーとなった。およそ千年前にリ・ガイアに落下する以前には『楽園の終わり』プロジェクトを進めていた。登場:キャラクターストーリー シュリカ

ソルバス (Sorbus)
魔族。人口調整の任務としてある村を滅ぼしたが、それに罪悪感を覚えて孤児院に匿名でプレゼントを行っていた。(その旧人格は消去されているという意味で)故人。登場:ネメアのクエスト「消えた送り主」

村長 (Mayor)
レーテの村の村長。登場:メインストーリー 第一話〜


タ行


チャイルドフッド 1 (Childhood 1)
→ アリア

チャイルドフッド 2 (Childhood 2)
→ イヴ

ディアンサス (Dianthus)
登場:メインストーリー 第二話〜

ティエラ (Tiella)
記憶喪失でアジールに保護されていた女性。正体は生体兵器である竜を制御する OS として作られた未来の人造人間。登場:メインストーリー 第三話 A

ディム (Dim)
クレスの弟。診療所を手伝っている。登場:メインストーリー 第一話〜

デュランレプス (Duranrepes)
魔族。家出して翡翠の森にいたアイクを保護していた。登場:レーテのクエスト「怪しい手紙」

テルシテス (Thersites)
季石教団の不良神官で、シュリカの幼馴染。もともと信仰に熱心ではなかったが、教母マザーの真実を知ったことで反マザー派の首魁となり、教団を瓦解させることでシュリカの解放を狙った。登場:メインストーリー 第三話 C、キャラクターストーリー シュリカ

テレサ (Theresa)
アルジェーンに住む女の子。ラケルをかばっていた子どもたちのうちの 1 人。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

トゥイードルディー (Tweedledee)
白い魔族のなかでは珍しく新しいもの好きで、リ・ガイアに行きたがったりボディの改造パーツをほしがったりしている。登場:スクラップド・エデンのクエスト「ボクをリ・ガイアに連れてって!」

通せんぼしてた神官 (Blocking Priest)
自宅に押し入った泥棒を過剰防衛で殺害しかけ、露見を恐れ神官のふりをして家を封鎖していた青年。本名は知られず、クエスト解決後も「通せんぼしてた神官」名義で手紙を送ってくる。登場:アルジェーンのクエスト「通せんぼの真実」

トッド (Todd)
ネメアに住むシスコンの兄。妹ミシェラを過保護にしすぎて疎まれている。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

トリー
ブラッカの妹分で、ロットとは双子。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

トルガ (Tolga)
シャトラの町の灯台守だが、灯台の明かりがもとで死亡事故が起きてから気を病んで飲んだくれていた。登場:シャトラのクエスト「失われた灯火」「灯台守の罪」「未来を照らす灯火」

ドレル (Dorell)
ネメアの街に住む男性。飲んだくれのろくでなしであったが、妻モーラが天の卵に攫われて生死不明となってからは心を入れかえ彼女を探していた。登場:ネメアのクエスト「帰らぬ妻」


ナ行


謎の人物
ロストガイアのフィールド上、ランドマークタワーに酷似したビルの陰におり、「刀と鞘」を探して渡すとサムライのジョブを伝授して消える。その正体も、どれほどの期間どのようにしてロストガイアで生存していたのかも不明。登場:不定(メインストーリー 第六話以降)

ナナ (Nana)
ネメアの孤児院の女の子。姉のように慕うアンリとともにホラーツ夫妻の養子となる予定。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

ニコラウス (Nikolaus)
→ オーナー

ニナ (Nina)
酒場のマスターに恋する女性。思いこみが強く、クエストクリア後は主人公に執心しアルジェーンに移って新居を探している。登場:シャトラのクエスト「マスターの秘密」

ニバリス (Nivalis)
登場:メインストーリー 第四話〜最終話

ノエラ (Noella)
アルジェーンに住む女の子。ラケルをかばっていた子どもたちのうちの 1 人。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

ノスタルジック・プレイヤー (Nostalgia Player)
→ ファンタスマゴリア


ハ行


ハイドランツァ (Hydolanzer)
ガイストの部下の魔族。登場:メインストーリー 第二話(姿は第一話〜)

ハイネ (Heine)
シャトラの町の発明家。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

ハース (Haas)
ミシェラの彼氏。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

バドル
ブラッカに狩りを教えてくれた兄貴分。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

バルド
悪辣な商売で財を成したビスハイム商会の会長だが、病床にありもう長くないと見られている。酒場のマスターの父。登場:シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

バン (Van)
レーテの村の男の子。登場:メインストーリー 第一話〜

バンダースナッチ (Bandersnatch)
スコットの友人であった白い魔族。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

ビスハイム
→ バルド、フィオレ、マスター

ファンタスマゴリア (Phantasmagoria)
オートマタ。もとは幻灯園のうちノスタルジータウンというエリアのみを管轄する「郷愁再生装置」ノスタルジック・プレイヤーで、来園者の記憶を読みとり過去の幸せな思い出を見せる機能をもつ。人類が消え去ったあと、客の来ない寂しさに耐えかねてその力を頼ってきた他の AI たちを配下に収め、園全体を支配するに至った。幸福な幻影のなかで静かに眠ることこそ最善と判断しアリアたちを攻撃する。登場:メインストーリー 第六話

フィアソラ (Fiasola)
ハイネの相棒であり姉のような存在だった発明家の女性。セイレーン族。ハイネより先に潜水艦を完成させるが、深海にて消息を絶った。登場:キャラクターストーリー ハイネ

フィオレ (Fiore)
酒場のマスターの妹。ビスハイム商会を改革して真っ当な商売に立ち戻らせようとしている。登場:シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

ブブゼラ様 (Lord Vuvuzela)
子どもたちの宝物の泥団子を盗んだサハギン。光り物を集めてキングサハギンを目指していた。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ブラッカ (Brakka)
アルジェーンで出会う黒衣の傭兵。喰罪種キルケゴールアマデウスへの復讐を目的としている。登場:メインストーリー 第三話 C〜

ヘテロヴィリウス (Heterovilius)
登場:幻影城のクエスト「壁の向こう側」

ベルク (Berg)
レーテの村出身の傭兵で、村外れの空き家の主。シリンとは恋人。登場:レーテのクエスト「かえらぬ傭兵」「待ち続けたふたり」

ベント (Vent)
レーテの村の男の子。登場:メインストーリー 第一話〜

ホラーツ夫妻 (Hollatz)
ネメアに住む裕福な商人とその夫人。アンリを養子に引きとろうとしている。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

ボロゴーヴ (Borogove)
スクラップド・エデンの白い魔族。失われた料理の研究のため料理納品を求める。登場:メインストーリー 第五話〜


マ行


マグノリス (Magnolis)
魔族。海洋環境の保全を担当しており、海面上昇や珊瑚礁の修復などを研究している。登場:シャトラのクエスト「シャトラの危機」

マザー
→ ソフィア

マスター (Bartender)
シャトラの酒場のマスター。ビスハイム商会の跡取り息子であったが、強引なあるいは違法な商売で拡大する実家を嫌って若いころ出奔した。本名はレオン・ビスハイム。登場:メインストーリー 第三話 B〜

マスターコロネル (Chief Conellu)
シャトラの町の地下で謎の店を開いているコロネル族。コロネル人形を集めている。登場:不定(メインストーリー 第三話 B 以降)

ミシェラ (Miscela)
トッドの妹。過保護な兄が面倒になり、彼氏のことを報告できずにいた。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

ミーナ (Mina)
アルジェーンの宿屋の看板娘。コロちゃんを拾い宿屋の一室で匿っていた。登場:アルジェーンのクエスト「教都の宿屋の秘密」「コロちゃんの内緒話」

ミリカ (Milika)
レーテの村の女の子。登場:メインストーリー 第一話〜

モノケロス (Monokeros)
ユニコーンと色違いの一角獣。出生の秘密を知った結果やぶれかぶれになり「王の使い」を名乗ってアルジェーンを脅迫、ユニコーンとの一騎打ちに敗れる。登場:キャラクターストーリー ユニコーン

モーラ (Maura)
ドレルの妻。登場:ネメアのクエスト「帰らぬ妻」

モルドール
喰罪種アマデウスを殺害した人物。ブラッカの聖銃のような武器をもたなかったゆえにアマデウスを喰うことでとどめを刺し、そのため自らも喰罪種になりかけていたところをブラッカに引導を渡された。登場:キャラクターストーリー ブラッカ


ヤ行


ユニコーン (Unicorn)
ロストガイアの架空の生き物で、魔族により実験的に作りだされた存在。リデル姫に忠誠を誓う騎士であるという虚構の記憶を植えつけられており、姫を探している。登場:メインストーリー 第二話〜


ラ行


ライ (Lye)
ベルクと組んで傭兵業を行っている男性。登場:レーテのクエスト「かえらぬ傭兵」

ライト (Wright)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの男の子の片方。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ラケル (Rachel)
アルジェーンに住む女の子。もと病弱だったため過保護な両親に外で遊ぶことを禁じられていた。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

リ・ガイア (ReGaia)
地球の星核をクローンしたさいに生まれたガイアの複製体。ガイアが地球人類の集合的無意識を抽出して滅びを与えたように、レーベンエルベの集合知を学習しその「祈り」に応えるために死季の解決を目指し、両世界を知る主人公アインを導く。登場:メインストーリー 第一話〜最終話

リーザ (Liza)
ネメアの孤児院の料理担当の女性。登場:ネメアのクエスト「消えた送り主」

リスレット (Lislette)
レーテの村に住む女性。村の枯れ井戸から夜な夜な不気味な声がすることで不安がっている。登場:レーテのクエスト「井戸の呼び声」

リデル姫 (Princess Liddell)
ルイス城に住む王女ということになっている架空の人物。ユニコーンが敬愛する主君。『ルイス城通信号外』では「ルイス姫」と呼ばれている。登場:メインストーリー 第三話 閑話〜第四話、キャラクターストーリー ユニコーン

リフォーム屋 (Renovator)
レーテの村でリフォーム屋を営む青年。どんな仕事も一晩あれば片づける。登場:メインストーリー 第一話〜

リリア (Lilia)
ジェドとともに駆け落ちをした女性。出身はアルジェーン。登場:シャトラのクエスト「逃避の結末」「再会の約束」

リン (Lyn)
→ シェリー

ルイス王 (King Lewis)
ルイス城に住む国王ということになっている架空の人物。登場:メインストーリー 第四話

ルイス姫
→ リデル姫

ルリ (Lugli)
シャトラに住む女の子。シェリーの妹。登場:ネメアのクエスト「海を見たい娘」「蘇る記憶」「桜のいたずら」

レヴァン (Levan)
ロデアムと幼馴染の傭兵。登場:アルジェーンのクエスト「彼女が積み上げてきたもの」

レオ (Leo)
ネメアの孤児院の男の子。年長でみんなの兄貴分として振る舞っているが、夜にこっそり抜け出しては魔物に殺された両親の墓に参っている。登場:ネメアのクエスト「二つのヒミツ」

レオン
→ マスター

レギア (Regia)
魔族。花粉症の治療薬を研究して旅をしている。登場:ネメアのクエスト「隠れ薬師の長い旅」

レザノア (Rezanoa)
ネメアの孤児院の先生。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

レベンタール夫妻 (Lebenthal)
アリアの両親。いずれも星核研究の第一人者だったが、娘が魂を失ったあと最終的にガイアダストの解決を断念、殻の楽園構想を進める途上で臨界実験により殉死した。登場:メインストーリー 第六話〜第八話

ログ (Rog)
シャトラの灯台守トルガの息子。登場:シャトラのクエスト「失われた灯火」「灯台守の罪」「未来を照らす灯火」

ロズニー (Rosny)
イスティナの古巣である暗殺組織の女性。登場:キャラクターストーリー イスティナ

ロックス (Rox)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの男の子の片方。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ロット
ブラッカの弟分で、トリーとは双子。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

ロデアム (Rodeum)
商人。レヴァンとは幼馴染で、行商のさいはいつも彼に護衛を依頼している。登場:アルジェーンのクエスト「彼女が積み上げてきたもの」

ロニヤ (Roniya)
ラケルの母。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

samedi 3 décembre 2022

ハーヴェステラ資料翻訳集成 (0) 序論

『ハーヴェステラ』の作中には、本編には関わらないが明らかに作品世界の謎を解く鍵と目される、全部で 12 の文書が世界各地で発見される。これからそれらについて、日本語版のみならず各国語版とも比較しながら詳しく読み解いていくつもりだが——これは以前に行った「シンオウ神話翻訳集成」シリーズと同様の試みである——、その前段階として本稿ではざっと全体からわかることについて、いささか散漫ではあるが思いつくまま考察めいたことをしたためて序論に代えたい。

〔関連記事:ハーヴェステラ人物名鑑 (作中に現れるすべての個人名を集め、それぞれに短い解説を付した)。〕

貴重品欄の並びに沿って掲げるとそれら 12 件の文書のタイトルは
  • 『蒼き髪の挟まった手記』
  • 『棺の国 調査記録・前』
  • 『棺の国 調査記録・中』
  • 『棺の国 調査記録・後』
  • 楽園の終わり 一篇「永遠」
  • 『楽園の終わり 十二篇「増殖」』
  • 楽園の終わり 四十一篇「遡行」
  • 『楽園の終わり 七十五篇「無限」』
  • 『楽園の終わり 百十八篇「失楽」』
  • 『楽園の遺書の断片』
  • 『幼年体の確保報告』
  • 『プロジェクト凍結のお知らせ』
である。ただし入手できる順番——つまり制作者によって意図された情報開示の順番——にこれを直せば、まず『楽園の終わり』の 12, 41, 75, 1、次に『棺の国』が中・前・後の順、それから『蒼き髪』、『遺書の断片』、『凍結のお知らせ』、最後がラストダンジョンで手に入る『幼年体の確保報告』となる。いま挙げられなかった『楽園の終わり』118 は爆弾 Lv. 2 さえあればいつとりにいっても構わないが、敵のレベルを考えればだいたい『凍結のお知らせ』の前か後に入るだろう。


文書の成立順の特定


するとなぜ入手順と並び順が大きく異なっているかがひとつの問題となる。『楽園の終わり』の順番は番号順、『棺の国』も前中後のほうが見やすいから直したというのはわかりやすいが、それだけなら『楽園の終わり』1, 12, 41, 75, 118、『棺の国』前・中・後、そして『蒼き髪』など残りの文書という順番でも構わないはずだ。

そうではなく『蒼き髪』を最初に出して次に『棺の国』、それから『楽園の終わり』と逆転しているのはなぜかと考えてみると、2 通りの理由が想定しうる。それは 12 の文書をぜんぶ集めきったあとにこの順に読めば全貌の理解が容易になる、そういう体系的な順番に整理したのだということ。そしていま言ったことと無関係ではないのだが、おおよそそれが作中における文書の成立順とも一致しているのだと思われる。文書の書かれた年代の順番に読めばわかりやすいというのはもっともなことだろう。実際にはこの 2 つの理由の折衷だと思われる。

もう少し詳しく流れを見ていこう。最後の『凍結のお知らせ』によれば、『楽園の終わり』という説話集は高次人工知能ソフィア——これはのちの季石教団の教母マザーと同じ名前だが——によってアベルのために編纂されたものである。その内容が「アベル種に対する不適切な情報開示」になるおそれがあるということでプロジェクトは差し止められたということだから、当然まず『楽園の終わり』が成ったあとにそれを検閲した結果『凍結のお知らせ』に至ることになる。

『楽園の遺書の断片』とあわせて考えれば明らかに、『楽園の終わり』は実際に起こった複数の (おそらく 118 ヶ所の) 楽園の崩壊の事実をもとに、それを寓話の形に仕立てたものである。そのさいソフィアがもとにしたデータが『遺書の断片』そのものであるかは不明だが、魔族の勤勉さを考えると記録じたいはおそらく楽園の崩壊が発覚したあと遅滞なく行われたであろうから、これに限っては成立順と貴重品欄の並びが反転していると考えられる。

さて『楽園の終わり』のなかでも第一篇に着目すると、ここには明らかに『蒼き髪の挟まった手記』の内容と顕著な符合が見られる。『手記』じたいはその蒼い髪の女性当人による証言と考えるのが素直なので、その人が生きて字を書けた時期のものとみなさねばならない。それはむろん〈第 1 の楽園〉が崩壊するまえのことであって、彼女らの楽園の滅亡をもとに『楽園の終わり』1 が書かれたわけであるから、ここの前後関係はおのずから明らかである。

『手記』『棺の国』『楽園の終わり』を総合して考えれば、蒼い髪の女性を助けるために赤髪の青年が銀の林檎をもって楽園を巡る旅に出た、その途上で彼を指導者とする棺の国が成立していったという筋書きが見えてくる。総じてこれらは謎めいた文書であって、たとえば「銀の林檎」とは何物なのかといった不明な点は数多くあるが、いま言ったところの大枠の流れについては比較的明瞭に読みとれる。

『棺の国 調査記録』は、「棺」と呼ばれる謎の移動国家に興味をかきたてられて調査に出た、ある楽園の住人による記録である。この人は最終的に「棺」の長である赤髪の青年に接触し、彼から得た「銀の林檎」をもって出身の楽園に戻る。このことからわかるとおり、この文書は赤髪の青年が棺の国を組織したあと、まだ無事な楽園が残っていたころの記録なのであって、『手記』と『楽園の終わり』の中間の時点に位置づけられねばならない。

以上によって成立の時系列はほぼはっきりした。『蒼き髪の挟まった手記』『棺の国 調査記録』『楽園の遺書の断片』『楽園の終わり』『プロジェクト凍結のお知らせ』、この 5 つの成立順はこれで確定する。残されたのは『幼年体の確保報告』の位置づけだけであるが、じつはこれがかなりの難問なのである。


『幼年体の確保報告』という外れ値 (アウトライア)


『幼年体の確保報告』は形式的にはもっとも短い文書であって、内容としてもほかの文書からはほとんど独立している。「イヴ」という名前が『楽園の終わり』41, 118 と共通している——それを介して間接的に『蒼き髪』ともつながっている——以外には明示的な関連がまるでない。むしろこれは、メインストーリー第六話の星核螺旋研究所において明らかになったアリア意識喪失後の情報を補完し、それを『蒼き髪』へと接続していく役割をもっているのであろう。

したがって内容の点から見ればこれは全体の外側、つまりいちばん最後に置かれるほうが合理的でないかと思われる。そもそも『凍結のお知らせ』は『楽園の終わり』と直接的関係がある文書なのだから、『楽園の終わり』『遺書の断片』『凍結のお知らせ』はひとまとまりにされるほうが自然である。また入手順=ゲームの都合から言っても、『確保報告』は最後に手に入るアイテムであるから最後に置かれるのが自然である。にもかかわらず、あえて間に挟まる不自然な位置に置かれている理由はなんだろうか。体系順でも入手順でもない、それら両方に反してでもあえてここに並べられた理由とはなにか。

可能性としてはいくつか考えられる。まずこれまで論じきたったとおり、ほかの文書がおおよそ成立順に並んでいることと比べるなら、この『確保報告』も同じで、体系順より成立順が優先されたのだと考えれば全体に説明がつく。それはすなわち、『確保報告』はソフィアが『楽園の終わり』を完成させてから「寓話製造プロジェクト」が凍結されるまでのあいだの時点に成ったのだ、ということを示唆する。これは少々想像がゆきすぎかもしれないが、有意味な結論を導くという点で私としては本命の説である (後段で改めてその帰結を論じる)。

それともまた、このままでじつは体系順になっているのだという可能性もある。つまり私がまだ正しく諸文書を解釈できていないだけであって、じつは「イヴ型幼年体」云々は私の考える以上に密接に『楽園の終わり』と関連しているのかもしれない。もとより『楽園の終わり』とはイヴのために赤髪の青年=赤き蛇が策動する物語なのだから、関連が存することじたいは論をまたないのであるが。あるいはそもそも順番に深い意味などないのかもしれない。


イヴが月の揺り籠に届くまで


いずれにせよ『幼年体の確保報告』をほかの文書とあわせ読むことでわかる全貌を、全体のまとめがてらに解説してみよう。それはガイア滅亡後の最初の千年間——後述するように二千年間ではない——の失われた歴史の輪郭とも言いかえられる。

『手記』および『楽園の終わり』1 に見られるとおり、蒼き髪の乙女=イヴは不治の病に冒され余命いくばくもなかったが、彼女を救うため「永遠」を求めた赤髪の青年によって、「女王」=レッドクイーンに引きあわされた。その結果アリアとまったく同様に、魂とでも呼ぶべきものを星核に囚われて幼年体「チャイルドフッド 2」と化す。星核螺旋研究所での情報やアリアのキャラクターストーリーから見えてくるように、この状態になった「幼年体」は脳の動きがまったく停止したまま、体だけは生きつづけるらしい。

だが『楽園の終わり』118 にあるとおり、最終的に赤髪の青年=赤き蛇は求めていたものを見いだせずに終わり、「棺の国」は空中分解して 1 人となった彼は失意のなか「赫き霧」となって消える。そうなるまでのあいだイヴはおそらく、赤髪の青年が指導者を務める「棺の国」で庇護され存在を秘匿されていたのだと思われる。彼が研究者の手にみすみすイヴを委ねるとは思えないからだ。彼が消えてしまったあとはじめて発見されたイヴは「新たな幼年体」として「確保」された、それが『確保報告』なのであろう。ちなみに確保されたイヴが保存されている「オービタル・クレイドル」とは月の揺り籠の英名である。

ここで不審を抱いた読者もいるかもしれない。そもそも「棺の国」=月の揺り籠なのではないのか、そう考えれば赤髪の青年によるイヴの秘匿などという根拠のない想像を差し挟まずとも簡潔に解釈できるではないか、と。みずからこれらの文書を考察しようと試みた人ならいちどは思い至ったであろう発想である。

『棺の国 調査記録・前』によれば「彼の国は大地を東から西へと歩んでいく」とある。東から西に進むといえば、誰しも太陽や月を思い浮かべるはずだ。そして月の揺り籠に並んでいるカイン種人類の眠るポッドはたしかに棺桶を連想させるところがある。だから棺の国=月の揺り籠と考えてみれば、赤髪の青年はその長=揺り籠の管理者としてイヴ=チャイルドフッド 2 をポッドに収めた、この時点でただちに『確保報告』と相成った——ひょっとすると青年自身が報告者だったかもしれない——と考えれば流れとしては成立する。

だがそれはさまざまな点で諸文書の描写と食い違っている。まず棺の国の構成員は「ひとりひとりが棺をかついでおり、その有様はまるで幽鬼の葬列のようだ」と言われている。ポッド=棺のなかにすっぽり入っていることを「担いでいる」と称するのははなはだ無理があるし、「葬列」というのも長い列をなして行進するものであるから、縦横に並び全体で円形をなして静止している月の揺り籠の様子には少々似つかわしくない。

『調査記録・中』で「“棺” の目的は楽園の記録の調査」と言われていることともそぐわない。ポッドを保管する目的の揺り籠が外部に手出しをする理由などないからだ。作中でも月の揺り籠には直下の幻影城から軌道エレベータを起動して昇っていったとおり、揺り籠のほうから積極的に外部と行き来する手段は確認できない。同じく『中』によれば、棺の国は楽園を訪れるごとに「新たな棺を葬列に加え」ているが、このようないわば新国民を順次増やしていくというところも揺り籠らしくない。揺り籠に新たな搭乗員を募る余裕などないであろう。このように、閉鎖的で静的な揺り籠に対して、棺の国はある意味積極的で拡張的であるという、顕著な対照がある。

もうひとつダメ押しに、『楽園の終わり』118 において「棺の列はやがてほつれていき、果てには赤髪の青年だけが残っていた」と言われている。これに対しレーベンエルベの管理のもとカイン種人類を未来のために保存している揺り籠のポッドであれば、勝手にばらばらになって解散してしまうなどという事態は考えられない (揺り籠は複数あるとガイストが言っていたが、そのいずれであっても)。だいいち人間である彼が揺り籠の「長」として起きて活動しているということからして奇妙ではないか。以上のとおり、棺の国を月の揺り籠とみなすことは不可能である。

というわけで私は、『確保報告』の記すとおりイヴが月の揺り籠に確保されるまでのあいだ、赤髪の青年はどこかべつの場所で彼女を秘密裏に隠していたのであろうと考えざるをえなかったのである。もともと彼ら 2 人が「女王」に会いにいったあとの足どりは知られていない。棺の国がどんなものかは結局わからないが、移動国家の長というくらいだから匿うことじたいは可能だったであろう。話は前後するが、じつはこの秘匿という発想はもともと先述の成立順についての考えから導かれたものなのである。

『調査記録・後』において棺の国の長である青年は、「成立時期を考慮すると計算が合わない」ほど異常に若いと言われている。こう表現されるからには少なくとも数十年か、ひょっとすると数百年前から棺の国は存在しているのであろう。そして幼年体イヴはそれだけのあいだ彼のもとで匿われていた。そう考えることが成立順とも符合していることを次に見ていこう。


諸文書の成立時期と、凍結された『楽園の終わり』がなぜ出回っているか


ガイアが滅びてから作中の現在に至るまでには二千年の時が流れているわけだが、諸文書の成立時期はもっと絞りこむことができる。なぜなら『楽園の終わり』はソフィアがアベル種のために編纂したもの、つまり魔族が埋めこんだシーズライト 4 機の働きによってリ・ガイアにアベル種人類が発生してから、ソフィアがリ・ガイアに墜落するまでのあいだに準備されたものだからである。

シュリカのキャラクターストーリーで語られるとおり、ソフィアはその後なんらかの事故によって軌道上から落下、リ・ガイアに墜落して季石教団の教母マザーとなる運びとなるが、それがおよそ千年前という話である。この時点で彼女は衛星軌道上のレーベンエルベとは連絡が切れ、聖堂地下の開かずの間に籠もり独自にマザーとしてアベル種人類を教化していく。ルイス城の魔族が配り制御しているはずのモノライトの使用を季石教団が差し止めようとするとか、季石教団の司祭の不祥事をルイス城通信が後追いで糊塗するとかいった、ちぐはぐな動きから魔族とマザーは連携がとれていないことがわかるからだ。

したがって時系列としてはこうなる。千年以上前、ソフィアがまだ軌道上にいたころ古代アベルのために『楽園の終わり』を編纂するが、上位権限によりプロジェクトが凍結される。『お知らせ』には「処置:人工知能ソフィアの凍結」と書かれているとおり、これは寓話集編纂事業のみならずソフィアという AI そのものが停止されたのである。だがちょうど千年ほど前、なんらかの事故によってソフィアはリ・ガイアに落下、魔族からは行方不明となる。いちばん新しい『お知らせ』がそれより前ということは、結局すべての文書が千年以上前のものであることになる。

ちなみにこの事故でレーベンエルベのシステムと物理的につながりが切れたおかげでソフィアの知能は復活したのだと考えられる。アベル種に広めるべきでないとして差し止められたはずの『楽園の終わり』が結局リ・ガイアに流布されているのはこういうわけで理解できる。おそらくソフィアが寓話製造プロジェクトごと凍結されるとき、どうせ凍結される彼女にはプロジェクトの処遇までいちいち通知されなかったのであろう。『楽園の終わり』を広めるな、という命令を受けることはなかったわけである。受けたのに通信途絶をいいことに自己判断で勝手に変更した、と想定するよりはこのほうがもっともらしいだろう。

現在私たちがもっている、最終的にリ・ガイアに流布された『楽園の終わり』が、千年以上前に作られた当初のままかどうかは定かでない。マザー=ソフィアは野蛮だったアベル種に道徳を教え啓蒙するために、改めて地球の諸宗教をベースに『汎化聖典』を編纂したが、説話集『楽園の終わり』のほうもその季石教団の教えに沿う形で微調整したということは十分に考えられるだろう。しかしともかくそれはわかりようのないことなので話を戻そう。


文書の配列の意図


最古の『蒼き髪』と次の『調査記録』、そして『調査記録』と『楽園の終わり』とのあいだには、それぞれ数十年から数百年の隔たりがあるはずである。前者についてはさきにも触れたとおり、『蒼き髪』のあと赤髪の青年は楽園を巡る旅を始め「棺の国」を組織するに至り、『調査記録』では異常に若いと評されているから。後者については『調査記録』のあとすべての楽園が滅びて「棺の国」が解散、赤髪の青年が絶望して消えてしまうほどの時間、さらにそれが判明して『楽園の終わり』としてまとめられるだけの時間を要するからである。

ここでだいぶまえの話に戻るのだが、赤髪の青年は消えてしまうまでのあいだ「イヴ」を秘密裏に保護していたはずだ、というのが私の考えであった。そうするとこの秘匿が解けたタイミングで『幼年体の確保報告』が来ることになる。『楽園の終わり』118 が事実とすれば、赤き蛇=赤髪の青年が消え去るとともに最後の楽園も終わる、それはとりもなおさず (断片となるまえの)『楽園の遺書』が完成した瞬間でもある。楽園の滅亡が記録されるのとイヴが確保されるのは事実上同時のことである。

これにて全体の成立順は『蒼き髪』『棺の国 調査記録』『楽園の遺書』『幼年体の確保報告』『楽園の終わり』『凍結のお知らせ』とすべて判明したことになった。そのうえでゲーム中の貴重品欄の表示順は、話を理解しやすいように『楽園の終わり』だけを 2 つまえに移動させた、なんとなれば『遺書』と『確保報告』はそれぞれ『楽園の終わり』12 と 41, 118 をさきに見せておいたほうが効果的だから、というところで並びの意味は解決ということにしたい。


より大きな謎の数々


以上で私は資料とストーリーから読みとれることをもとに、なるべく不確かな想像を加えることなく確実にわかることだけを論じるようにしてきた。唯一重大な仮定に頼ったのは、『確保報告』の位置を決定するために「青年はイヴを秘匿していたはずだ」とした部分だけであり、それ以外については作中の情報から文字どおり読みとれることとその論理的帰結のみを基礎としたつもりである。

しかるにこのようなただでさえ謎めいた文書群を相手にするにあたって、堅実な論理だけで突き止められることはあまり多くない。たとえば私は「棺の国」が月の揺り籠ではないということを論証したが、では「棺の国」とはなんなのかという、もっと大きく興味深い謎についてはなんら答えを与えられないでいる。赤髪の青年とは、蒼き髪の乙女とは誰か、銀の林檎とは何物でそれが「絶望」だというのはいかなる意味か、といった疑問についてもしかり。これが論理の限界であって、いっそう真実に迫るには想像力が必要とされる——、そう認めざるをえない (もっともこれで作中の情報を余すところなく使いきったというには時期尚早なので、なお突き詰められる部分はありそうだが)。

そうした疑問について語りたい思いつきはまだまだあるのだが、それにしてもこの記事はすでにかなり長くなってしまった。このあたりでいったん筆を擱いて、次回の記事から改めて、ひとつひとつの文書についてより細密な検討を始めることにしたい。

jeudi 18 novembre 2021

シンオウ神話翻訳集成 (16) ポケモン図鑑:アルセウス

旧作『ダイヤモンド/パール』における「シンオウ神話」の読みなおしを期して、ここに日本語版と欧米 5 言語版との翻訳比較ならびに考察を試みる。この記事ではアルセウスのポケモン図鑑説明文を扱い、ひとまずの区切りとする。明日はいよいよ『ブリリアントダイヤモンド/シャイニングパール』の発売日である。


各言語版のテクストは以下の各国語版ポケモン wiki より引用した (閲覧した版はこの記事時点における最新版)。ただし改行位置などについて細かな改変をとくに断らずに加えた場合がある。


日本語版:アルセウス

[D]
1000ぼんの うでで うちゅうを
つくった ポケモンとして
しんわに えがかれている。
[P, Y, AS]
うちゅうが まだ ない ころに
さいしょに うまれた ポケモンと
しんわの なかで かたられている。
[Pt, BW(2)]
なにも ない ばしょに あった
タマゴのなかから すがたを あらわし
せかいを うみだしたと されている。
[HGSS, X, OR]
タマゴから すがたを あらわして
せかいの すべてを うみだしたと
シンオウしんわに かたられている。
後 3 者は「始まりの話」ならびにプレート銘文と整合する内容を部分的に繰りかえしており、同一の伝承に拠ったものであろう。これらのうち、「宇宙」という語はプレート銘文にのみ、またアルセウスが「タマゴ」から発したという点は「始まりの話」にのみ見られるもので、伝承の系統を割りだす手がかりとなりうる。

この説明文に特異な点はダイヤモンド版の「1000 本の腕」という部分である。この図鑑のほかにはいっさい見られない独自伝承であり、ここにも作中世界においてプレーヤーのアクセスできない資料の存在がほのめかされている。千本の腕といえば日本人がまっさきに想起するのは千手観音であろうが、千手観音は創造神ではなくその千の手と目によって衆生を救う菩薩であるのに対して、アルセウスは世界を創造したあと眠りについているし、千手観音は二十八部衆という文字どおり 28 の善神を眷属としているのに比べアルセウスには 6 体しかいないなど、ほかの点でもとくに共通点といえるものは見あたらない。

しかしながら、インドに手がかりを求めるのはあながち見当はずれでないかもしれない。インド神話の古層、リグ・ヴェーダの創造神話は曖昧模糊としてわからない部分が多いようであるが、顕著な類似点がいくらか見受けられる (以下、上村勝彦『インド神話』ちくま学芸文庫、2003 年、34 頁以下による)。ヴェーダにおける創造説のひとつとして、「一切を造った者」を意味するヴィシュヴァカルマンは、あらゆる方角に目・腕・足をもつ天地の創造者であったという。また、これとはべつの話として、「万有そのもの」でありのちに造物主プラジャーパティ——この名はさきに「始まりの話」の記事でも少し触れた——と同一視される原人プルシャは千頭・千眼・千足を有し、過去と未来にわたって存する一切の存在であるとされる。いずれも直接に「千本の腕」という表現こそ見られないが、創造神の風貌の描写としてはかなり似通ったところがあるといえるのではないか。

なお繰りかえしになるが、ミオ図書館で読める「始まりの話」はアルセウスにまつわる最重要の資料であり、そちらの記事でもアルセウスに関してさまざまな点を論じているので、あわせてお読みいただきたい。


英語版:Arceus [アールキーアス]

[D] It is described in mythology as the Pokémon that shaped the universe with its 1,000 arms.
[P] It is told in mythology that this Pokémon was born before the universe even existed.
[Pt] It is said to have emerged from an egg in a place where there was nothing, then shaped the world.
[HGSS] According to the legends of Sinnoh, this Pokémon emerged from an egg and shaped all there is in this world.
[D] 神話において千本の腕で宇宙を形作ったポケモンとして描かれている。
[P] 神話においてこのポケモンは宇宙が存在すらしなかったときに生まれたと伝えられている。
[Pt] なにもなかったところにタマゴから生じ、それから世界を形作ったと言われている。
[HGSS] シンオウの伝説によると、このポケモンはタマゴから生じてこの世界にある一切を形作った。
HG/SS 版では「神話」ではなく legends「伝説」と訳されている点が目を引く。この連載のはじめ、『シンオウ神話』の記事のまえがきにおいて私は、神話・伝説・昔話の区別が作中で曖昧であるという問題について触れた。欧米語でも日本語と同じように——というより日本語におけるそれらの区分はヨーロッパの研究伝統に従っているのだから話が逆であって、神話という単語じたい明治期に作られた翻訳語である——myth, legend, folktale の 3 者は適切に使いわけられねばならないのに、日本語が「神話」と言っているところを legends と対応させる英訳 (と独訳) には問題がある (この点を認識しているのか不明だが、仏・伊・西訳は mythologie にあたる語で映している)。せっかくの機会なので、連載も終盤に至ったこの場においてその点をもう少し詳しく検討してみよう。

myth はギリシア語 μῦθος (mȳthos) に由来し、その原義は「言われたこと、言葉、語り、物語」というほどのもので、「神」という含みは本来ないけれども、現在では「神話」、すなわち「神や女神の行いに関する物語」としてふつう用いられる。一方で legend はラテン語の動形容詞 legendum から来ているから「読まれるべきもの」が本義である。キリスト教の聖人の祝日に読まれたものであって「聖人伝、聖人の生涯に関する物語」を指したが、しだいに聖人だけに限定されず「歴史上の人物に関する架空の物語」を意味するようになった。日本語に即して言えば「義経伝説」がうってつけの例で、源義経はむろん平安時代末期に生きた実在人物であるが、彼が平泉で死なず大陸に渡ってチンギス・ハンになったなどというのは明らかに架空の「伝説」である。現代でも「全盛期のイチロー伝説」などというのはまさしくこの語の完璧な用例といえる。最後に、folktale は文字どおり「民衆の物語」であって、とくに誰ということもない「一般の人を主人公とする超自然的な物語」と定義できる。「ヘンゼルとグレーテル」のように人名が含まれている場合でも、これは日本語にすれば「太郎くんと花子ちゃん」のような名前であって具体的に特定できる人物ではない。

ここまでをまとめると、3 つのジャンルのうち「myth=神話」は神々、「legend=伝説」は歴史上の人物、「folktale=民話、昔話」は名もなき人というように、登場人物の性格にもとづいて区分けすることができる。また物語の舞台設定に関しても、「神話」ははるか太古の神代の時間——あるいは無時間——を背景とするに対して、「伝説」はその主人公の生きた時代として歴史上のおおよその時間と場所がはっきりしている——筋書きは架空であっても具体的な現実の人名・地名が出てくる——、また「昔話」はいつ・どこのこととは知れないが人間の時代である昔の話と分けられる。べつの整理のしかたとして、史実と虚構、聖と俗という 2 次元の図にプロットしてみると、「神話」は聖なる虚構の話、「昔話」は俗なる虚構の話、そして「伝説」はどちらの軸に関してもちょうど中間あたりに置かれる。

❀ とはいえかならずしもつねにきれいに分類できるとは限らないことはすでに触れたとおりだし、3 者の区分を画する特徴はこのほかにもあり——物語の意味が字義どおりか象徴的かという象徴性の度合とか、神話は信じられた真実の語りであるのに対して昔話は作りごとと承知のうえで楽しむという聞き手の信じかたおよび娯楽性の有無とか。伝説はいずれの観点でもおおよそ中間に位置する——、上のものはあくまでもっともわかりやすい基準として解説したまでである。また神話と昔話の時間についてはユクシーの項目のフランス語版解説で述べたこともあわせて参考にされたい。

さて、このような定義をポケモン世界に応用するとき、ひとつの重大な問題が浮上する。それはポケモンに限らずファンタジーの世界で「神」とされる存在が実在する場合、神話と伝説との境目が溶融してしまうということだ。神が実在するのであればその虚構性に関して「伝説」との差が失われ、かつその行いの時は人の代に引きつけられ歴史上の時間におけるできごとになってしまうので、「神話」という言葉は意味をなさないことになりはしないか。まだ聖俗という縦軸が残っており、「神話」というときにはその主人公を神として崇めているニュアンスが「伝説」よりも強いと考えられるから、完全に区分が消失するわけではないとしても、程度の問題に還元されてしまうとは言えそうだ。そう考えてみると、ここで問題とした HG/SS 版のテクストが「伝説」の語を用いたことは、アルセウスの実在性を暗々裡に主張していると好意的に解釈することもできる。


ドイツ語版:Arceus [アルスース、アルツォイス]

[D] Die Mythologie nennt dieses Pokémon als Former des Universums, wobei es seine tausend Arme eingesetzt hat.
[P] Die Mythologie erzählt, dass dieses Pokémon geboren wurde, bevor das Universum überhaupt existierte.
[Pt] Man sagt, es sei im Nichts aus einem Ei geschlüpft und habe dann die Welt geformt.
[HGSS] In den Legenden Sinnohs heißt es, es sei aus einem Ei erschienen und hätte die gesamte Welt geschaffen.
[D] 神話はこのポケモンを宇宙の造形者と呼び、それに際してその千本の腕を用いたものとしている。
[P] 神話はこのポケモンが、宇宙がそもそも存在するよりまえに生まれたと語っている。
[Pt] それは空虚のなかにタマゴから孵化し、それから世界を形作ったのだと言われている。
[HGSS] シンオウの伝説においてタマゴから現れ全世界を創造したものと言われている。
以下、すでに英語版について説明したことに新たに付け加えることはない。

名前の発音について、実際にドイツ語圏の人たちがどう呼んでいるかはわからない。c の字はドイツ語では——ck や (s)ch というダイグラフを除いて——単独ではふつう用いられず、用いる場合は [ts] の音になるのが原則だが、c を使うのはたいてい外来語のためもとの言語の発音に従うことも多く一概には言えない。規則どおり読めばアルツォイスであるが、ceu という連続はドイツ語にはめったに見いだされず、手もとの辞書 (小学館『独和大辞典』第 2 版、アプリ版) ではわずかに Annonceuse と Berceuse の 2 例しかない。これらはいずれもフランス語からの借用語であって [søː] という発音になるので、これを念頭に置けばアルスースと読む人もあるかもしれない。もっとも、アルセウスの命名の由来はアルケー (ἀρχή「始まり」) +ゼウス (Ζεύς) であって、ゼウス Zeus はドイツ語ではツォイスと呼ばれるので、この語源を意識している人はやはりアルツォイスに傾きそうである。


フランス語版:Arceus [アルセユス]

[D] La mythologie le décrit comme le Pokémon qui a façonné l’univers avec ses 1 000 bras.
[P] Dans la mythologie, ce Pokémon existait déjà avant la formation de l’univers.
[Pt] On dit que son œuf a éclos dans le néant et qu’il est à l’origine de la création du monde.
[HGSS] La mythologie de Sinnoh veut qu’il soit apparu sous forme d’œuf et ait créé le monde.
[D] 神話はそれを、千本の腕で宇宙を造形したポケモンとして描いている。
[P] 神話によると、このポケモンは宇宙の形成以前にすでに存在していた。
[Pt] そのタマゴは虚無のなかで孵化し、それが世界創造の起源であると言われている。
[HGSS] シンオウの神話はそれがタマゴの形で現れ世界を創造したと説いている。


イタリア語版:Arceus [アルチェウス]

[D] Nella mitologia è descritto come il Pokémon che ha dato forma all’universo con le sue 1000 braccia.
[P] Nei racconti mitologici si dice che questo Pokémon sia nato ancor prima dell’universo.
[Pt] Si dice che sia nato da un uovo in mezzo al nulla e che poi abbia dato origine al mondo.
[HGSS] Secondo la mitologia di Sinnoh, Arceus è nato da un uovo e poi ha creato il mondo.
[D] 神話においてそれは千本の腕で宇宙に形を与えたポケモンとして描かれている。
[P] 神話の語るところではこのポケモンは宇宙がまだないときに生まれたと言われている。
[Pt] 虚無の中心においてタマゴから生まれ、それから世界を誕生させたと言われている。
[HGSS] シンオウの神話によれば、アルセウスはタマゴから生まれそれから世界を創造した。


スペイン語版:Arceus [アルセウス]

[D] La mitología lo describe como el Pokémon que dio forma al Universo con sus 1000 brazos.
[P] La mitología cuenta que este Pokémon nació antes de que el Universo existiera.
[Pt] Se dice que surgió de un huevo en un lugar en el que no había nada. Y luego dio forma al mundo.
[HGSS] Según la mitología de Sinnoh, Arceus surgió de un huevo y después creó todo el mundo.
[D] 神話はそれを、千本の腕で宇宙に形を与えたポケモンとして描いている。
[P] 神話はこのポケモンが宇宙の存在するよりまえに生まれたと語っている。
[Pt] なにもなかった場所にタマゴから発したと言われている。そしてそれから世界に形を与えた。
[HGSS] シンオウの神話によると、アルセウスはタマゴから発し、次いで世界を創造した。


総括

  • ダイヤモンド版の図鑑にしか見られず出所不明の「千本の腕」を除くと、図鑑説明はおおむね始まりの話プレート銘文と共通の伝承を資料としている。
  • 現実のレベルでは「千本の腕」はインド神話の影響かもしれない。
  • 神話・伝説・昔話は日本語でも欧米語でもそれぞれ区別される概念であるが、ポケモン世界では曖昧である。
  • あえて伝説という言葉を用いるとき、神の聖性は薄らぐかわりに実在性が強調される (英語版・ドイツ語版)。