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samedi 5 novembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (4)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第二週後半 (第五日〜第七日、週末訳読) を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第五日


練習 47. (109 頁)


単語欄の誤字:νεός, ᾱ́, όν の女性語尾のアクセントを欠く。

9. ζῷων のアクセントは ζῴων の誤り。τὰ μὲν ..., τὰ δὲ ... は ὁ μὲν ..., ὁ δὲ ...「ある者は……、またある者は……」の中性複数版。

10. δικαίου πολῑ́του は属格だけで「正しい市民の務め・なすべきこと」を意味する;これは練習 29-6. のように ἔργον のような名詞が省略されていると思ってもよい。文全体の骨格は κρῑ́νω だけが外側にあって、残りは対格不定法の被引用文。その主語が λαμβάνειν で動詞は不定詞の εἶναι で δικαίου πολῑ́του が述語、あとはすべて λαμβάνειν の目的語。


練習 48. (111 頁)


5. 解答に誤字:εὐεργασίᾱς → εὐεργεσίᾱς。


112 頁最下行:ἐτίμησα → ἐτῑ́μησα。


練習 49. (114 頁)


4. ἀξιόω は「対格の人や物が属格の報奨に値する」というのが基本であり、ここは属格の部分が不定詞に変わって「対格の人や物が〜するにふさわしい」という語法で、τὴν Πύλον がいわば対格主語で τειχίζεσθαι は受動態の不定詞「ピュロスが防衛強化されるにふさわしい」と見るのがよい。τειχίζεσθαι が中間態で τὴν Πύλον はその直接目的語として「(デーモステネースが自国のために) ピュロスを防衛強化する」ととるのは、不可能ではないかもしれないが必然性はない。

10. これは日本語にしても少々意味不明の文であるが、ニーキアースは前 4 世紀後半に活躍した画家で、自分が風呂に入ったか・食事をとったかどうかさえ忘れるほど仕事に没頭していたということ。原文はプルタルコス『モラリア』第 10 巻 (京大出版会の西洋古典叢書では第 9 巻所収) 786B–C 改変。


練習 50. (114 頁)


2. 誤字:ἐντεφανοῦντο → ἐστεφανοῦτο。語尾も間違っているので注意 (3 複 -‍ντο ではなく 3 単 -‍το)。

5. 問題文も解答もおかしい。「弓と投槍(τόλμη, ης, ἡ)と楯を用いて」に対し解答は « τόξοις καὶ παλτοῖς καὶ τόλμαις » となっているが、解答のとおり投槍は παλτόν であるし、τόλμη は投槍でも楯でもない。楯を意味するもっとも普通の語は ἀσπίς, ίδος, ἡ で (本書巻末語彙集にも出ている)、これを用いれば複数与格 ἀσπίσιν である。この曲用 (第三曲用歯音幹) はちょうどこの第二週第五日 §67 に出ているので、出題意図としてもおそらくこれが本来の正答であろう。


第六日


117 頁 χαρίεις の曲用表に誤字:中複主・呼 χορίεντα → χαρίεντα。


練習 51. (119 頁)


1. 現在不定詞 εἶναι は、副詞 πάλαι「昔」があるから時間としては不完了過去=「過去における現在」として訳す。このように現在と不完了過去は基準点がスライドしているだけなので不完了過去の不定詞は存在しない。過去完了の不定詞がないのも同じ理由による。◆ 動詞は受動態の λέγεται であるから、τὰ ζῷα は主文の主語 (λέγεται の主語) でもあり被引用文の主語 (εἶναι の主語) をも兼ねているというわけで、したがってこれと一致する述語の φωνήεντα は中性複数主格である。ここで動詞をもし λέγουσι という能動態の 3 複「一般に人々は〜と言っている=〜と言われている」に取りかえたとすれば、残りの単語の形はすべてそのままで τὰ ζῷα と φωνήεντα は中性複数対格と解釈されるわけである。

2. « δὶς παῖδες οἱ γέροντες »「老人は 2 度子ども (になる)」という格言そのもののほうが有名だと思う。老いると子どものときのように世話が必要な状態になるということ。

5. 注 (ロ) のようなことを形容詞の述語的用法と呼び、ふつうに修飾する限定的 (属性的) 用法に対する。これと関連して、形容詞の位置について冠詞と名詞との外側に置かれる形を述語的位置、内側もしくは冠詞をもう 1 つ使って修飾的に働く位置を限定的位置と呼ぶ。今回は述語的位置にあるから述語的用法として副詞的に訳すわけである。


練習 52. (120 頁)


5. 今度は ῎ᾱκοντας は限定的位置にあって「いやがる兵士たち」という修飾になっている。これをもし ῎ᾱκοντας τοὺς στρατιώτᾱς のように外側に出してしまうと述語的 (副詞的) になって、「兵士たちがいやがりながら進軍するよう命じた」という滑稽なことになってしまう。


123 頁 14 行:書たれた → 書かれた

124 頁 1 行:表わはす → 表わす


練習 53. (125 頁)


2. πέφῡκεν は φύω「生む」の完了受動態で、「生まれてある=生まれついている、生来そういう性質である」ということ。ここでは不定詞を伴って「〜する性質である、〜するのが自然である」。

6. 後段は、ἐπ’ ἴσᾱς ἡδονᾱ̀ς ἄγουσα が「同じ楽しみへと導くことで」という理由や手段を表す分詞句で、現在能動分詞 ἄγουσα は ἰσότης に一致した女性単数主格になっている。なお φιλίᾱν のアクセントが抜けている誤字。

8. ὀλίγον χρόνον「短い時間のあいだ」は期間の対格。

9. ἄνθρωπος ἀτυχῶν は無冠詞であるから、この分詞は模範解答のように「不幸なときには」と述語的にもとれるし、「不幸な人間は」と限定的にとることも許される。σῴζεθ’ は σῴζεται の末母音 αι が省音され、子音 τ が後続の有気音 ὑ の直前に立つことになったために同化して帯気音となった形 (§28)。


練習 54. (125 頁)


1. 解答に誤字:μεγλάῃ → μεγάλῃ、また文末のセミコロン · もピリオドの誤り。

2. 解答に誤字:έστρατευόμεθα の語頭を ἐ に。


第七日


練習 55. (129 頁)


単語欄のうち ποιητής, ου, ὁ が οῦ のアクセントを欠く。

1. θανάτου は価値の属格とみなしうる:「死に値すると判断された=死刑の判決を受けた」。

5. 巻末語彙集の「τροφός, ός, όν 養う」というのは少々わかりにくい語釈だが、語尾が 3 つあることから形容詞であって「養う (ような)、育てる (ような)」という意味の語。模範解答のとおり女性形としては「乳母」という女性名詞として定着しており、また中性形は「食物、栄養」の意味で使われる。復習になるが αὐτῆς が冠詞の内側に入っている限定的位置なので「同じ乳母」の意。外側 (述語的位置) であればもちろん「その乳母本人によって」という意味になる。

9. ἡγέομαι は語頭が長母音なので加音がついても変わらないから時制の区別に注意。3 単は現在なら ἡγεῖται だが、語尾が違って ἡγεῖτο なのでこれは不完了過去である。ちなみに完了なら ἥγηται、過去完了は ἥγητο であり 4 つとも非常によく似ている。また αὑτῷ の気音も見落とさないように (=ἑαυτῷ、再帰代名詞「彼自身に」)。◆ その彼が課せられたと考えている内容も少々難しい:査察し尋問する対象の人々が対格で言われており、この人たちはまず τοὺς οἰομένους「思っている人々」なのだが、どう思っているのかというと εἶναι σοφούς「(自分たちが) 賢いと思っている」、これはさきの対格主語に一致した男性複数対格なので自身のことだとわかる;そして続きが ὄντας οὔ であって、これは be 動詞に補語の σοφούς が省略されている形で、「(実際には) 賢くはない」というわけである。μέν ... δέ があるので「思ってはいるが実際はそうではない」という対比になっている。◆ 否定辞 οὐ はふつう無アクセントだがここでは文末に立っているのでアクセントがある:この語は後接辞 (§11) であってふつう後ろの語とあわせて発音される、つまり後ろに寄りかかる語なのでアクセントがないのだが、文末の場合は寄りかかるさきがないので自分で立っているというわけ。

10. 注 (ヘ) に誤字:女性名詞があるが → であるが。この注によれば Οἰνόη を受けている αὐτῷ は「地名だから中性」なのだという。これに関して、代名詞の性の用法として直接の説明は見いだせなかったが、Smyth, Greek Grammar, §1049 に、地名を受ける述語的形容詞が中性になるという例が出ている:ἔστι δὲ ἡ Χαιρώνεια ἔσχατον τὴς Βοιωτίᾱς.「カイローネイアはボイオーティアー地方の端にある」。また本問の場合、αὐτῷ に同格の説明として中性与格 φρουρίῳ が結びついているから、このつながりからも中性形のほうが収まりがよい一種の牽引という側面をも指摘できる (じっさい E. C. Marchant の注解は簡単に、この αὐτῷ は先行詞ではなく述語の性に従っていると言っている)。文の出典はトゥーキューディデース『歴史』2.18.2 で、原文 (一般的なテクスト) では αὐτῷ φρουρίῳ οἱ Ἀθηναῖοι という語順なので 2 語のあいだがいっそう緊密であり、これであれば性の牽引という説明がさらにもっともらしい。

ところでこの練習問題では完了時制がたくさん出てきたので、それが過去とは意味あいが違うということを確認しておこう。たとえば 4. の τέθαπται「葬られてある」というのは、アオリスト ἐτάφη が単純に歴史的事実としてマケドニアに「葬られた」というのとは違って、葬られた結果いま彼の遺体かなにかは現在その場所にあるということ、少なくとも話者はそう観念して言っているというわけである。6. の συντέτακται は「整理された結果として現在整っている」というわけで、「過去に整理された (が、それから乱れた可能性がある)」というのとは違う。同様に 7. βεβλάφθαι は「傷つけられた結果現在もその傷が残っている」、8. κέκρυπται は「隠された結果現在も隠れたままである」ということを言っている。2. καταλελειμμένοι ἦσαν や 10. ἐτετείχιστο のように過去完了であれば、その過去の時点において見て、「残された結果としてそのときキューロスのそばにいた」「築城された結果そのとき防壁があった」ということ。


練習 56. (130 頁)


3. τὸν πόδα は限定の対格「片足において」。


131 頁最下行:「未来及び完了」とあるが、命令法に未来はないので「未来及び」を削除。


練習 57. (132 頁)


8. 前半は οὐ μόνον ..., ἀλλὰ καὶ ...「〜だけではなく〜をも (英 not only ..., but also ...)」の否定辞 οὐ が命令法のため μή に変わっただけの形。分詞を否定する 2 つめの μή は一般論的に「およそ妬まないような者たちを」の意 (125 頁注 (イ) を参照)。◆ 後半に入って、現在能動分詞の男・中性複数与格は直説法現在能動態の 3 複と同形となるためややこしいが、ἀτυχοῦσι と πρᾱ́ττουσι は分詞の男複与「不幸である人々と」「行っている人々を」であるのに対し、φθονοῦσιν は直説法の動詞「妬んでいる」である。コツとしてはやはり μὲν ... δὲ ... は対比を表すわけだから形式としてもパラレルになるのがふつうで、ここでは 2 種類のタイプの人々が同じ男性複数与格の現在能動分詞で言われていて、残りは主動詞という仕組みである。

10. 模範解答は「兄弟を真の友と思え」となっているが、τοὺς ἀληθινοὺς φίλους のほうが冠詞つきなのであるからこちらが主語で「真の友は兄弟だと思え」のほうがよいはずである。それに命令の相手である「君」の兄弟たちがさきに念頭に置かれているのであれば、所有の意味の冠詞がつく τοὺς ἀδελφούς が自然であるから、その点でも解答はやや無理がある。


練習 58. (133 頁)


4. ἔλθετε は ἔρχομαι の命令法 2 アオ 2 複で、直説法の 2 アオ ἦλθον から加音を落として短い ε となった形 (不定法 2 アオ ἐλθεῖν において加音なしの本来の形がわかる)。ἀγγέλλω のほうも命令法アオリスト ἀγγείλατε でも構わないと思う。


週末訳読


ΔΥΟ ΠΗΡΑΙ (133 頁)


1 行:ἕκαστος は男性単数主格ゆえ主語の ἄνθρωπος に一致した述語的同格「人はそれぞれ」。また δύο πήρᾱς (および表題の δύο πῆραι) は「2 つ」であるが名詞は双数形ではなくふつうに複数形で言われていることにも注目したい。かならずしも双数を使う必要はないのである。

2–3 行:ἑκατέρᾱ ならびに次の文の ἡ μὲν ἔμπροσθεν と ἡ δὲ ὄπισθεν はむろん πήρᾱ が省略されているから女性単数主格なのである。ἀλλοτρίων と τῶν の (中性) 複数属格は κακῶν が省略されているから、そして属格目的語をとる動詞 γέμει をも省略されているから属格になっている。


ΕΚ ΤΟΥ ΕΥΑΓΓΕΛΙΟΥ ΤΟΥ ΚΑΤΑ ΜΑΘΘΑΙΟΝ (134 頁)


VII,7–8:きわめて有名な文句なので訳じたいに困難はなかろう。ただ、αἰτεῖτε, ζητεῖτε, κρούετε という命令法の動詞がいずれも時制は現在であるということは特筆に値する。命令法アオリストではなくて現在で言われているのである。つまり αἰτεῖτε であればたんに 1 回だけ「求めよ」というのとは違って、何度も継続的に「求めていろ、求めつづけろ」という意味なのであり、1 回求めただけで簡単に与えられるのではなく、不断に求めつづけなければ得られないのである (cf. D. A. Hagner, Matthew 1–13 [Word Biblical Commentary 33A], p. 174)。

VII,15–20:下から 3 行 ποιοῦν は現在能動分詞の中単主で、μή はやはり一般論として「よい実を作らないような木は」ということ。

単語欄の誤字:ἀπά-γω → ἀπ-άγω。


金言集 (137 頁)


5.「時節」という解答の訳語は少々はっきりしないが、この καιρός は「危機」や「重大なタイミング」と考えるとよい。そういうときにこそ真の友情が試されるということ。

7. αἰτί’ は αἰτία の省音。

8. σώμαθ’ は σώματα の省音で、ἡ の直前なので同化して τ が θ になっている。

mardi 13 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (3)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第二週前半 (第一日〜第四日) を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第一日


74 頁 4 行め、ἐκεῖνος の中性複数与格が ἐκείνιος となっているが ἐκείνοις の誤植。


練習 31. (76 頁)


3. ἔσχον は格言のアオリスト (46 頁)。

4. (女性単数の) 属格 αὐτῆς は前に出た女性「あの少女」を受ける 3 人称代名詞のかわりをする用法だが、(男性複数の) 主格 αὐτοί は κατελάβομεν に隠れている主語「私たち」に対する強意の用法である。とはいえ時代が下っていくと (たとえば新約聖書のギリシア語では) 主格もたんなる 3 人称代名詞「彼らは」の意味でふつうに使われるようになる。

5. ἔφυγον は φεύγω の、ἀπέθανον は ἀποθνῄσκω の第 2 アオリスト 3 人称複数。

6. ἔτεκον は τίκτω の 2 アオ 3 複。そして ἄν があることで、明示されていないが「もし避けなかったならばそうなっただろう」という、過去の事実に反する条件文の気もちが出ている。英訳するとすればこの ἔτεκον ἄν はただの過去ではなく would bring のように仮定法で訳すことになる。

10. τέ に限らずすでに見た μὲν ... δὲ ... などほかの後置辞でも同様であるが、Α τε καὶ Β「Α と Β と」という形で Α が複数の語からなる場合、1 語めの次に τε が挟まる。したがってこの τοξοτῶν τε ἀγαθῶν καὶ αὐλητῶν というのは τοξοτῶν ἀγαθῶν と αὐλητῶν というふうに分けられる。ただ今回の場合 ἀγαθῶν は結局ぜんぶにかかっていく (2 つめ以降は省略されている) と考えられる。


79 頁 μέγας の曲用表で女性単数与格 μεγάλη は μεγάλῃ、女性複数与格 μελάλαις は μεγάλαις の誤り。


練習 33. (79 頁)


単語欄 χαλεπός, ή, ον の中性語尾を όν に改める。

1. λελύσθαι は完了受動不定詞であるから、もちろん壊されるものが主語である。すなわち τὴν γέφῡραν がそれである (対格だからといって目的語と早とちりしないように。これは ἐκέλευσαν から見れば命じる対象=目的語であるが、λελύσθαι に対しては主語の関係にある)。

2. ἐλαύνω, 完受 ἐλήλαμαι はアッティカ式畳音 (55 頁) のもうひとつの例である:ἐλ に対して ἐλ-ηλ という形。

3. ἐτέθυτο は θῡ́ω の過去完了受動態 3 単 (πολλὰ θηρία は中性複数なので単数扱い)。完了・過去完了では υ が短くなることに注意。

5. 不定詞は中性単数名詞扱いなので述語 χαλεπόν が中性単数主格になっている。

6. διαρπάσαι は διαρπάζω の第 1 アオリスト不定詞。

9. 65 頁注 (ニ) ではあたかも Α τε καὶ Β と καὶ Α καὶ Β とは同じであるかのように説明されていたが、実際には後者のほうが強いのであって、前者を「Α も Β も」ほどに訳すと少々行きすぎになりやすい (Smyth, Greek Grammar, §2974)。模範解答のとおり、καὶ κατὰ γῆν καὶ κατὰ θάλατταν は「地上においても海上においても」という感じだが、σωτηρίᾱς τε καὶ ἐλευθερίᾱς のほうは「安寧をも自由をも」ほどの強さはないのでたんに「安全と自由」と訳されているわけである。


練習 34. (80 頁)


4. 後半は模範解答がおかしい。まず μεγαλὴν というアクセントは μεγάλην に直すべきであるが、そのうえで μεγάλην τῑμὴν ἦν αὐτοῖς という対格は変である。動詞が ἦν なら主語は主格 μεγάλη τῑμὴ でないといけない。あるいは対格はそのままで ἦν αὐτοῖς を εἶχον または ἔσχον に改めるのでもよい。


第二日


練習 35. (82 頁)


3. σεσώκατε は σῴζω の完了能動 2 複。

8. 誤字:ὑμῶν → ῡ̔μῶν。

10. ἄρξει は未来なので解答は「始めるだろう」に修正したほうがよかろう。この ἄρχω は属格目的語をとる (42 頁) ので μεγάλων κακῶν が属格になっているのである。


練習 36. (83 頁)


3. 模範解答が何点か誤っている。まず条件節の否定は οὐ ではなく μή (37 頁)。また δικώκω という動詞はないし、1 複なので διώκομεν である。最後に、μόνον はこのままでもありかもしれないが、「我々だけでも」という感じなら主語に同格の男複主 μόνοι のほうがよりよいと思う。μόνοι であれば唯一に限定されるのは「我々」だが、μόνον——これは中性単数対格の副詞用法である——だと文全体にかかる副詞なので「我々が彼らを追跡するだけだ」という意味になる。

4. ἀρέσκω の未来は ἀρέσω となることに注意。一般に、-(ι)σκω というのは現在幹 (現在と不完了過去) 特有の接尾辞であって、ほかの時制では消えるので、その未来は -σξω のようにはならない。ほかの例として εὑρίσκω「見つける」の未来は εὑρήσω、διδάσκω「教える」は διδάξω、ἀποθνῄσκω「死ぬ」は ἀποθανοῦμαι、など。なお (私のもっている版では) ἡ διάνοιά μου の 2 つめのアクセントがかすれてほとんど見えないので注意。


練習 37. (85 頁)


単語欄の誤字:ἀναρίθμητος のアクセント、ἐρυθρός, ᾱ́, όν の女性・中性語尾のアクセント、κρῑ́νω のアクセントが抜けている。

2. ἀνετρέφετο は ἀνατρέφω の不完了受動 3 単。

4. φυλαχθήσεται は φυλάττω の未来受動 3 単。

10. 4 つの方角のうち τᾱ̀ς ἀνατολᾱ́ς「東」だけ定冠詞つきの複数で言われているが、辞書によれば無冠詞の πρὸς ἀνατολᾱ́ς もあるし、複数が普通だが単数もないわけではないようだ。τῇ ἐρυθρᾷ θαλάττῃ, τῷ Εὐξένῳ πόντῳ 等々は道具の与格「〜によって」。


第三日


練習 39. (91 頁)


3. 解答に脱字:あなたを → あなたがたを。

5. φῦσαι は φύω の第 1 アオリスト不定詞。なお φύω の υ は、後代の詩人を別として基本的に母音の前では短く、それ以外では長い。したがって現在 φῠ́ω や不完了 ἔφῠον では短く、未来 φῡ́σω, 1 アオ ἔφῡσα, 完了 πέφῡκα では長い。

10. 主文は Σωκράτης ἔλεγεν だけで、残りは言っている内容の従属文。対格不定法で言われているその内容は μέν と δέ で対比されており、後半のほうでは ἀρίστην の女性対格から ἀρχήν の省略を読みとる。また動詞 εἶναι も 2 度めは省略されている。τὸ は中性名詞扱いの不定詞 γιγνώσκειν が後半の主語——従属文の主語なので対格——であることを示す。なお ἑαυτόν のアクセントは ἑαυτὸν に改める。


練習 40. (91 頁)


3. ἐλευθέρων は ἐλεύθερος の複数属格であるが、「自由にふさわしい」なら ἀξίους τῆς ἐλευθερίᾱς のほうが自然だと思う。

5. 解答で Ἀλκιβιάδην のアクセントが落ちている。


練習 41. (96 頁)


1. ἡμέρᾱς のアクセントが落ちている。

2. ἐρρῑ́πτοντο は ῥῑ́πτω の不完了中間態 3 複「自分を投げこんでいた=自分から飛びこんでいた」。もちろん受動態とも同形なので「投げこまれていた」も可。

4. ἐγένετο は γίγνομαι の第 2 アオリスト中間態 3 単。

6. 後半は同じ動詞の 3 複 ἕπονται が省略。


練習 42. (97 頁)


5. 模範解答の ἔλθομεν は ἤλθομεν の誤り。


第四日


98 頁の曲用表に誤字:φύλαξι(υ) → φύλαξι(ν)。


練習 43. (99 頁)


単語欄の誤字:ᾱ̓ετός, οῦ, ὁ の冠詞の気息記号、ならびに πιστός, ή, όν の中性語尾のアクセントを欠く。

2. τῶν νήσων は部分の属格「島々のうちの」で、これが女性名詞なので ταῖς πολλαῖς が女性。

8. 以前練習 16-8. で説明したように、μὲν ... δὲ を構造決定の手がかりにするとよい。μέν よりも前にある ἡ ἀρετή が共通の主語であり、μέν の直前の語から枝分かれが始まる:すなわち ἡ ἀρετή は (1) ἀγαπητὴ συνεργός である、τεχνίταις にとっては;(2) πιστὴ φύλαξ οἴκων である、δεσπόταις にとっては;(3) ἀγαθὴ συλλήπτρια である……;(4) βεβαίᾱ ... σύμμαχος である……。

10. ὀργῇ は限定 (観点) の与格「怒りという点では」。主語は女性名詞 2 つなので、ἴσον が中性なのは名詞扱い「同じもの」と考える。


練習 44. (101 頁)


3. 解答に誤字:πέρδρικα → πέρδικα。

5. 問題文に誤字:τῑμήν → τῑμὴν。


練習 45. (104 頁)


単語欄に誤字:θρηνέω-ῶ の融合後の曲アクセントを欠く。

2. ᾤκουν は οἰκέω の不完了能動 3 複。

3. ᾐτοῦντο は αἰτέω の不完了中間 3 複。この中間態は「自分たちのために」の間接再帰で、求める行為が自分たちに関わることである、もっといえば目的語の τὴν ψῡχήν の定冠詞が事実上の所有形容詞「自分たちの」の意味であることを明確化している。ποιέω は英 make や仏 faire のように、対格を 2 つとって「A を B にする」の用法がある。

5. τὸ は中性名詞扱いの不定詞 ἄρχεσθαι にかかっており、これが主語であることを示す。

6. βούλει は βούλομαι の現在中間 2 単。δεῖ は非人称の 3 単で、「(不定詞) することが必要である、せねばならない」という使いかたをする。

8. περὶ τῶν τῆς πόλεως は、属格 τῆς πόλεως「国家の」に中性複数の定冠詞 τὰ がつくことで「国家の事柄、国事」という名詞句となったものに、属格を支配する前置詞 περί がついた形。なお πόλεως というのは最終音節が長いのにアクセントが 3 番めまで遡っており規則に違反しているが、このわけはずっとあとで説明される (170 頁脚注 2)。

10. ηὐλήσαμεν は αὐλέω の 1 アオ能動 1 複、ὠρχήσασθε は ὀρχέομαι の 1 アオ中動 2 複。


練習 46. (106 頁)


1. πρὸ のアクセントが落ちている。

4.「求めた」なのでアオリスト ᾔτησαν でもいいだろう。さらにさきの練習 45-3. のように中間態で ᾐτοῦντο / ᾐτήσαντο と言っても構わないと思う。

5. δεῖ では意味上の主語 (必要・義務のある、せねばならない人) は与格に置かれる。

dimanche 11 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (2)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第一週後半 (第五日〜第七日、週末訳読) を扱う。なお誤字脱字については私のもっている平成 16 (2004) 年 9 月 10 日第 26 版を基準としている。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第五日


練習 18. (43 頁)


まず問題のまえの単語欄に「ὁδός, ου, ἡ 道」とあるが、属格語尾のアクセント οῦ が抜けているのを直しておく。

呼格は基本的に主格と同形で、違いは冠詞がないということだけなので繰りかえさず、異なる場合のみ括弧書きした。

単 ἡ ἱκανὴ σκιᾱ́, τὴν ἱκανὴν σκιᾱ́ν, τῆς ἱκανῆς σκιᾶς, τῇ ἱκανῇ σκιᾷ,
両 τὼ ἱκανᾱ̀ σκιᾱ́, τοῖν ἱκαναῖν σκιαῖν,
複 αἱ ἱκαναὶ σκιαί, τᾱ̀ς ἱκανᾱ̀ς σκιᾱ́ς, τῶν ἱκανῶν σκιῶν, ταῖς ἱκαναῖς σκιαῖς.

単 ἡ κοινὴ συμφορᾱ́, τὴν κοινὴν συμφορᾱ́ν, τῆς κοινῆς συμφορᾶς, τῇ κοινῇ συμφορᾷ,
両 τὼ κοινᾱ̀ συμφορᾱ́, τοῖν κοιναῖν συμφοραῖν,
複 αἱ κοιναὶ συμφοραί, τᾱ̀ς κοινᾱ̀ς συμφορᾱ́ς, τῶν κοινῶν συμφορῶν, ταῖς κοιναῖς συμφοραῖς.

単 ἡ ἀξίᾱ ἀρετή, τὴν ἀξίᾱν ἀρετήν, τῆς ἀξίᾱς ἀρετῆς, τῇ ἀξίᾳ ἀρετῇ,
両 τὼ ἀξίᾱ ἀρετᾱ́, τοῖν ἀξίαιν ἀρεταῖν,
複 αἱ ἄξιαι ἀρεταί, τᾱ̀ς ἀξίᾱς ἀρετᾱ́ς, τῶν ἀξίων ἀρετῶν, ταῖς ἀξίαις ἀρεταῖς.

単 ἡ δικαίᾱ ἡδονή, τὴν δικαίᾱν ἡδονήν, τῆς δικαίᾱς ἡδονῆς, τῇ δικαίᾳ ἡδονῇ,
両 τὼ δικαίᾱ ἡδονᾱ́, τοῖν δικαίαιν ἡδοναῖν,
複 αἱ δίκαιαι ἡδοναί, τᾱ̀ς δικαίᾱς ἡδονᾱ́ς, τῶν δικαίων ἡδονῶν, ταῖς δικαίαις ἡδοναῖς.

単 ἡ μακρᾱ̀ ὁδός, (呼 μακρᾱ̀ ὁδέ), τὴν μακρᾱ̀ν ὁδόν, τῆς μακρᾶς ὁδοῦ, τῇ μακρᾷ ὁδῷ,
両 τὼ μακρᾱ̀ ὁδώ, τοῖν μακραῖν ὁδοῖν,
複 αἱ μακραὶ ὁδοί, τᾱ̀ς μακρᾱ̀ς ὁδούς, τῶν μακρῶν ὁδῶν, ταῖς μακραῖς ὁδοῖς.

単 ἡ καλὴ πλάτανος, (呼 καλὴ πλάτανε), τὴν καλὴν πλάτανον, τῆς καλῆς πλατάνου, τῇ καλῇ πλατάνῳ,
両 τὼ καλᾱ̀ πλατάνω, τοῖν καλαῖν πλατάνοιν,
複 αἱ καλαὶ πλάτανοι, τᾱ̀ς καλᾱ̀ς πλατάνους, τῶν καλῶν πλατάνων, ταῖς καλαῖς πλατάνοις.

ὁδός と πλάτανος は女性名詞ではあっても第二曲用なので、単数呼格語末が -ε となる*。また πλάτανος は ἄνθρωπος 型でアクセント規則に従い、単主・呼と複主・呼以外ではアクセントが 1 つ後ろに引かれることにも注意。

* 細かいことを言うとこの ε は正確には格語尾ではなくて語幹に属するのであり、呼格の語尾はゼロである (高津『ギリシア語文法』62 頁)。裸の語幹 ὁδε- に「何もつけない」という操作を行ってできあがったものが呼格形 ὁδέ、と考えるのが正しい。であるから、「語末 (単語の終わり) が ε」と言うことはできるが「語尾が ε」と言うと不正確になる。


練習 19. (43 頁)


1. 属格 ψῡχῆς は前後どちらにかかってもよいし、冠詞がないので φωνή と σκιᾱ́ どちらが主語であってもよい。したがって (1) 声は魂の影、(2) 魂の影は声、(3) 魂の声は影、(4) 影は魂の声、以上 4 通りどれも可能であって、あとは意味を勘案して好きに決めるとよい。

4. 文の主語は Πίνδαρος, 動詞は λέγει であって、残りの部分は彼が言っている内容である。その内容は τὸν οἶνον イコール δρόνον τῆς ἀμπέλου だという主張であって、ここまでに習った範囲で考えれば λέγω が二重対格をとって「Α を Β と言う」という文型と解すしかないけれども、まだ習っていないが be 動詞の不定形 εἶναι が省略されている間接話法の文とも見ることができる (のちの練習 27-10. で詳しく説明する)。

5. 後半では同じ動詞 ἄρχουσι の繰りかえしを避けて省略されている。

6. 2 つめの ἡ は、これ以下が ἡ ὁδός にかかる修飾句であることを示すもの。内側に入れて ἡ ἐκ τῆς Μεσσένης εἰς τὴν Ἀρκαδίᾱν ὁδός と言うことも可能であり、こうすると ἡ は 1 個で済むが、これでは大枠をなす ἡ と ὁδός とが離れすぎてしまい読みにくいので、ばらして後ろにつけているわけである。

10. 上の 6. と同様、ἡ πρὸς εὐδαιμονίᾱν ὁδός と言ってもいい。ἡ が 2 つあることによって修飾関係であることが明確になっており、したがって「幸福への道」という句が主語なのであって、「道は幸福へと続いている」のように訳すのは不可。次の練習 20-2. とも比較せよ。


練習 20. (44 頁)


1. 以前の練習 13-4.「恥ずべき行いは生まれのよい人にふさわしくない」とほぼ同じパターンの文であるが、そちらでは「生まれのよい人」は属格であったのに対し今回の模範解答では与格で書かれている。これはどちらも可だが、ニュアンスがどう違うかはわからない。

3. 中性では主格=対格なのでわかりにくいが、模範解答の場合 συμπόσιον と ὅμοιον は中性単数対格である。これは前の練習 19-4. のごとく二重対格もしくは対格不定法で言ったもの。しかし、練習 17-1. のように ὅτι を使って ἔλεγεν ὅτι συμπόσιον χωρὶς οἴνου ὅμοιον οἰκίᾳ χωρὶς θυρῶν. と言ってもよく、この場合は主格ということになる。


練習 22. (49 頁)


1. 模範解答にはアオリスト不定詞 διῶξαι と現在不定詞 διώκειν とが併記されている。前者を使った場合は「追う」という行為そのものを単純に示し (不定詞の場合、時間的に過去という含みはかならずしもない)、後者であれば「(時間をかけて) 追っていく」という継続あるいは「追いはじめる」という始動の感じが出てくるように思う。遂行せよと命じられている行為そのものは同一であって、あくまで話者がその行為をどのようにイメージしているかという問題。45 頁の動作態に関する説明を確認せよ。

2.「ものである」という問題文から格言のニュアンスを読みとりアオリストを使うのが出題の意図だが、もちろん μαστεύουσιν と現在で言っても間違いということはない。οἱ ἄνθρωποι という定冠詞ですでに「およそ人間というものは」という一般論の感じは含まれている。


第六日


練習 24. (53 頁)


5. また「ものである」という一般論ふうの言いかただが、解答は現在形を使っている。これは「しばしば」という副詞が習慣・反復を含意する現在時制と相性がよく、反面アオリストとは相性が悪いためであろう。


練習 25. (57 頁)


1. 主語を明示しない 3 人称複数の動詞によって、とくに誰ということもない「人々」による行為を表しており、日本語では解答のとおりあたかも受動態のように訳すと自然。

7. 模範解答に誤字:棒げて → 捧げて。

8. καταλιπεῖν は καταλείπω の第 2 アオリスト不定詞。

9. εἰσβαλεῖν は εἰσβάλλω の第 2 アオリスト不定詞。


練習 26. (58 頁)


1. 衍字:閉めてくおく → 閉めておく。

3. 同じ動詞 εἰσβάλλω を使っているにもかかわらず、前の練習 25-9. では τὴν χώρᾱν は裸の対格、こちらの解答では εἰς τὴν χώρᾱν と前置詞つきになっている。これは後者のほうが散文的でありふれた言いかたのように思える。


第七日


60 頁 4 行め「その森に美しい」とあるがもちろん「その森は」の誤字。


練習 27. (61 頁)


単語欄に誤字:ἕτοιμος 用意のてきた → できた。

3. μόνη は Δίκη に対する述語的同格で、「ディケーだけが・ディケーが唯一……免れえない」のように副詞的に訳せる。ἀπαραίτητος は男女同形で、-ος であろうとここは女性単数主格である。

9. この ἀβέβαιος, ἀβεβαίοις も上と同様、女性単数主格と女性複数与格。さきの ἀπαραίτητος もこれも、否定の接頭辞 ἀ- がついた派生語であってこういうものはたいてい男女同形。

10. 説明していないくせに対格不定法構文 (accusativus cum infinitivo) の間接話法を本格的に使いはじめた。λέγω のような伝達動詞はこのように、ὅτι (英 that) のような接続詞を使わなくても、対格の主語と不定詞の動詞でもって文を引用することができる。これは直接話法に直すと Πλάτων λέγει : « ἡ παιδείᾱ τοῖς ἀνθρώποις δεύτερος ἥλιός ἐστιν. » というところを、被引用文の主格主語 ἡ παιδείᾱ ならびにそれに一致する述語 δεύτερος ἥλιος を対格に、また定動詞 ἐστίν を不定詞に変えた間接引用の形である。


練習 28. (62 頁)


2.「美しい樹木」は複数形 καλὰ δένδρα で訳しても悪いことはあるまい。そのさい中性複数の主語には 3 人称単数の動詞を使うので動詞は ἐστι であることに注意。

5. 前の練習 27-10. の解説を参照。主文の伝達動詞が不完了過去 ἔλεγε に変わっているが、被引用文の動詞は現在不定詞 εἶναι のままである。不定詞の時制はいわば相対時制であって、現在不定詞の表すできごとは話者から見た「現在時」ではなく、主文と「同時的」なできごと (この場合なら過去における現在) を表すのでこれでよい。そのためそもそも不完了過去の不定詞というのは存在しない。


練習 29. (65 頁)


4. 誤字:εἰναι → εἶναι。


練習 30. (65 頁)


5. これは模範解答がおかしい、というか問題文の括弧内がすでに変である。練習 29-1. と比べてみると、与格の人に ἦν ἔχθρᾱ「憎しみがあった」といえばもちろん与格の人が敵意の持ち主であるから、解答のとおりなら兄弟たちが主人を憎んでいたことになる。問題の本文を訳すなら τῷ δεσπότῃ ἦν ἔχθρᾱ τῶν ἀδελφῶν (または πρὸς τοὺς ἀδελφούς). が正しい。このさい ἔχθρᾱ に定冠詞 ἡ はかならずしも必要ではない、というより「兄弟への憎しみ」が新情報であるのだからつけないほうが日本語の感じに近いであろう。


週末訳読


金言集 (68 頁)


単語欄の誤字:ἀδόλεσχος → ᾱ̓δόλεσχος (問題文 6. では正しくマクロンがついている)。

7. κακόν が中性名詞として扱われており、δυσπάλαιστον はこれを修飾している。

10. τὰ χρηστὰ πρᾱ́ττειν「よいことを行うこと」が主語、ἔργον ἐλευθέρου が述語ととっているが、冠詞はない (τά は χρηστά を中性名詞化しているだけで、不定詞そのものは無冠詞) のでべつに逆にとってもかまわない:「自由人の (なすべき) 仕事は、よいことを行うことである」。

vendredi 9 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (1)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) は珍しくも練習問題の解答がついているギリシア語の学習書であるが、そのなかの一部、語形変化の練習をさせる問題 (練習 2, 5, 8, 15, 18) については、変化表のとおりとして解答が省略されている。ここではそれについて全問の解答を与えておく (この記事では第一週第四日までを扱い、練習 18 のみ次回に送る)。

また山ほどある希文和訳・和文希訳の問題についても、解答じたいは完備されているのだが最終的な答えだけで解説はないため、まったくの初心者にとっては説明不足に感じられるのではないかというおそれが多い。そこで、はなはだ不徹底ではあるが、私が思いつくままに解説めいたコメントをつけてみることにした。なるべく初心者のかゆいところに手が届くようにということを念じたが、どこまでくどくど説明すべきかは悩みどころで、一貫しない感じを与えるかもしれない。

目次リンク:[第一週] 第一日・第二日・第三日・第四日・第五日・第六日・第七日・週末訳読・[第二週] 第一日・第二日・第三日・第四日第五日・第六日・第七日・週末訳読


第二日


練習 2. (15 頁)


単 πρᾱ́ττω, πρᾱ́ττεις, πρᾱ́ττει, 両 πρᾱ́ττετον, πρᾱ́ττετον, 複 πρᾱ́ττομεν, πρᾱ́ττετε, πρᾱ́ττουσι(ν).

単 κελεύω, κελεύεις, κελεύει, 両 κελεύετον, κελεύετον, 複 κελεύομεν, κελεύετε, κελεύουσι(ν).

単 φεύγω, φεύγεις, φεύγει, 両 φεύγετον, φεύγετον, 複 φεύγομεν, φεύγετε, φεύγουσι(ν).

単 λέγω, λέγεις, λέγει, 両 λέγετον, λέγετον, 複 λέγομεν, λέγετε, λέγουσι(ν).

単 ἔχω, ἔχεις, ἔχει, 両 ἔχετον, ἔχετον, 複 ἔχομεν, ἔχετε, ἔχουσι(ν).


練習 5. (19 頁)


両数ではつねに主=呼=対、属=与、複数では主=呼なので、見やすさのため重複は省略した。さらに中性名詞では三数ともつねに主=呼=対なのでこれも繰りかえさなかった。

単 ὄνος, ὄνε, ὄνον, ὄνου, ὄνῳ, 両 ὄνω, ὄνοιν, 複 ὄνοι, ὄνους, ὄνων, ὄνοις.

単 φίλος, φίλε, φίλον, φίλου, φίλῳ, 両 φίλω, φίλοιν, 複 φίλοι, φίλους, φίλων, φίλοις.

単 φόβος, φόβε, φόβον, φόβου, φόβῳ, 両 φόβω, φόβοιν, 複 φόβοι, φόβους, φόβων, φόβοις.

単 ῥόδον, ῥόδου, ῥόδῳ, 両 ῥόδω, ῥόδοιν, 複 ῥόδα, ῥόδων, ῥόδοις.

単 τόξον, τόξου, τόξῳ, 両 τόξω, τόξοιν, 複 τόξα, τόξων, τόξοις.

単 ἴον, ἴου, ἴῳ, 両 ἴω, ἴοιν, 複 ἴα, ἴων, ἴοις.

単 δένδρον, δένδρου, δένδρῳ, 両 δένδρω, δένδροιν, 複 δένδρα, δένδρων, δένδροις.


練習 6. (19 頁)


9. φόβον ἵππων「馬の恐怖」という句があったとき、その属格は「馬に対する恐怖=馬を恐れる」という目的語的属格と「馬が抱く恐怖=馬が恐れる」という主語的属格、いずれにもとれる。それは文脈しだいである。この文では動詞が ἔχετε という 2 人称複数であって、「君たちは馬が恐れているか」では意味が通らないので、「君たちは馬を〜」と理解できるわけである。

10. 注 (ニ) にあるとおり、この文の与格 φίλῳ は λέγει にかけて「友人に向かって言う」ともとれるし、πέμπειν にかけて「友人のために送る」とも、どちらで理解してもよいのである。後者であれば発言の相手が、前者なら送る相手が明示されていないということ。


練習 7. (20 頁)


2.「おそれる」という動詞はまだ習っていないので、前の練習 6-9. に倣って φόβον ἔχειν+属格で言えばいいと判断する。ちなみにこの文と続く 5. で、問題文は「友よ,」「子供たちよ,」と呼びかけで始まっているのに、模範解答では呼格 ὦ φίλε, ὦ τέκνα は文末に置かれていることにも注目しよう。前の練習 6-7. も同様で、じつはこれは偶然ではない。呼格は「アッティカ散文では文初にあることは例外で,この位置は強意を伴う」(高津『ギリシア語文法』251 頁)、すなわち文頭以外に置くほうがふつうの言いかたなのである。この文ではたとえば « ἔχεις, ὦ φίλε, φόβον ὄνων ; » のように文中に挟むことも可能である。


第三日


練習 8. (23 頁)


女性形はまだ出ていないので、形容詞は男性形と中性形のみ解答を与える。練習 5. と同様、同形の格はまとめる。

単 ζυγόν, ζυγοῦ, ζυγῷ, 両 ζυγώ, ζυγοῖν, 複 ζυγά, ζυγῶν, ζυγοῖς.

男・単 ἀγαθός, ἀγαθέ, ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθοί, ἀγαθούς, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.
中・単 ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθά, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.

男・単 κακός, κακέ, κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακοί, κακούς, κακῶν, κακοῖς.
中・単 κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακά, κακῶν, κακοῖς.

単 ποταμός, ποταμέ, ποταμόν, ποταμοῦ, ποταμῷ, 両 ποταμώ, ποταμοῖν, 複 ποταμοί, ποταμούς, ποταμῶν, ποταμοῖς.

男・単 μῑκρός, μῑκρέ, μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκροί, μῑκρούς, μῑκρῶν, μῑκροῖς.
中・単 μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκρά, μῑκρῶν, μῑκροῖς.


練習 9. (25 頁)


9. οὐ ... ἀλλὰ ... の対比を活かすならば、「我々が友人を知るのは言葉によってではなく行いによってだ」と訳してもかまわない。次の練習 10-3. の問題文と見比べよ。


練習 10. (25 頁)


2.「五頭の馬で」は与格であるが、πέντε の形は変える必要がない。1 から 4 までの数詞は性と格によって曲用するのだが、5 以上は無変化なので簡単であり、なぜ練習 6. 以来ずっとこの数字を使っているかというとそういう事情である。

4.「神々を恐れること」はもちろん ὁ φόβος τῶν θεῶν のように属格句を外側に出してもいい。5. も同様、οἱ λόγοι τῶν τέκνων も可。


練習 11. (29 頁)


1. τὰ τῶν φίλων は前頁 §24 にあるごとく、「友人たちの」という属格句に中性複数の冠詞をつけて物を表す名詞と化したもの。

4. φίλω は前頁 §25 で説明されている、「友人」ではなくて「いとしい (英語の dear)」という意味の形容詞の中性両数呼格形。


練習 12. (29 頁)


1. τὰ τέκνα と冠詞つきで言うことで「自分たちの子どもたち」という所有を含意している。練習 11. の注 (イ) のとおり。

3. 疑問詞はふつう文頭に置く (高津文法 384 頁)。

4. 呼格が文末にあることについてはすでに上で練習 7-2. について解説したことを参照。ἀδελφός の呼格のアクセント位置が ἀδελφέ でなく ἄδελφε となることは例外であって覚えるしかないが、第二曲用ではこれだけ。

5. κελεύω で命ずる相手は対格にとることは練習 6. の注 (ハ) で見た。


第四日


練習 13. (33 頁)


10. 最上級の絶対的用法。すなわち文字どおり「もっとも多くの」ではなく、とくに比較対象を定めずたんに「きわめて多くの」の意。


練習 14. (34 頁)


5. 解答で εἰκάζομεν のアクセントが抜けている。


練習 15. (37 頁)


ἀναφέρω:単 ἀνέφερον, ἀνέφερες, ἀνέφερε(ν), 両 ἀνεφέρετον, ἀνεφερέτην, 複 ἀνεφέρομεν, ἀνεφέρετε, ἀνέφερον.

ἀντέχω:単 ἀντεῖχον, ἀντεῖχες, ἀντεῖχε(ν), 両 ἀντείχετον, ἀντειχέτην, 複 ἀντείχομεν, ἀντείχετε, ἀντεῖχον.

διαφέρω:単 διέφερον, διέφερες, διέφερε(ν), 両 διεφέρετον, διεφερέτην, 複 διεφέρομεν, διεφέρετε, διέφερον.

συλλέγω:単 συνέλεγον, συνέλεγες, συνέλεγε(ν), 両 συνελέγετον, συνελεγέτην, 複 συνελέγομεν, συνελέγετε, συνέλεγον.

μεταγράφω:単 μετέγραφον, μετέγραφες, μετέγραφε(ν), 両 μετεγράφετον, μετεγραφέτην, 複μετεγράφομεν, μετεγράφετε, μετέγραφον.

ἐκπέμπω:単 ἐξέπεμπον, ἐξέπεμπες, ἐξέπεμπε(ν), 両 ἐξεπέμπετον, ἐξεπεμπέτην, 複 ἐξεπέμπομεν, ἐξεπέμπετε, ἐξέπεμπον.


練習 16. (37 頁)


8. Ἀλεξίθεος と ὁ Ἀθηναῖος は同格「アテーナイ人であるアレクシテオス」。μέν ... δέ は 2 つのものを対比し、そのさい対比する語句がそれぞれ 2 語以上であれば 1 語めの直後に置く、ということに注意して文の構造を理解する。したがってこの文全体の成り立ちは、まず Ἀλεξίθεος ὁ Ἀθηναῖος τῶν ἀνθρώπων までは共通で、次で枝分かれをして τοὺς χρηστοὺς ἐν τοῖς λόγοις と τοὺς ἀχρήστους κατὰ τὸν βίον との 2 つ* を対比しており、ここでまた合流して動詞 ᾔκαζε が両者を共通の目的語にとっているという形。

* この文の場合これら 2 者は別々のものではなく、同じ人々の 2 種の側面を言ったものと解せるが、μέν ... δέ では別個の 2 つを対比することも多いので、「枝分かれ」とイメージしておくと便利だと思う。対比される 2 者は形式上もパラレルになることがしばしばで、2 行に並べて書いてみると見やすい。今回ならどちらも τοὺς (ἀ)χρηστους+前置詞句という形。

mardi 30 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(5) しし座・ぎょしゃ座

伝エラトステネス『星座論』摘要 Epitome Catasterismorum の翻訳。この記事では 12. しし座と 13. ぎょしゃ座の 2 章を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


12. Λέων〔しし座〕


Οὗτός ἐστι μὲν τῶν ἐπιφανῶν ἀστέρων· δοκεῖ δ’ ὑπὸ Διὸς τιμηθῆναι τοῦτο τὸ ζῴδιον διὰ τὸ τῶν τετραπόδων ἡγεῖσθαι. τινὲς δέ φασιν, ὅτι Ἡρακλέους πρῶτος ἆθλος ἦν εἰς τὸ μνημονευθῆναι. φιλοδοξῶν γὰρ μόνον τοῦτον οὐχ ὅπλοις ἀνεῖλεν, ἀλλὰ συμπλακεὶς ἀπέπνιξεν.

Λέγει δὲ περὶ αὐτοῦ Πείσανδρος ὁ Ῥόδιος, ὅτι καὶ τὴν δορὰν αὐτοῦ ἔσχεν, ὡς ἔνδοξον πεποιηκώς. οὗτός ἐστιν ὁ ἐν τῇ Νεμέᾳ ὑπ’ αὐτοῦ φονευθείς.

[...] ὁρῶνται δὲ ὑπὲρ αὐτὸν ἐν τριγώνῳ κατὰ τὴν κέρκον ἀμαυροὶ ἑπτά, οἳ καλοῦνται πλόκαμοι Βερενίκης Εὐεργέτιδος.

これは (もっとも) 目立つ星々のうちのひとつである。ゼウスによってこの (黄道十二宮のうちの) 宮は栄誉に与った、それは (すべての) 四つ足の (動物たちの) 先頭に立っているがゆえである。ある人たちの言では、ヘーラクレースの最初の難業が想起されるべきであった。というのは (彼は) 栄光を欲していて、これ〔=獅子〕だけを武器なしでつかみあげ、首を絞めて窒息させたのだ。

またこれについてロドスのペイサンドロスは、(ヘーラクレースは) これ〔=獅子〕の皮をも取り、戦勝の勲章となしたものだと言っている。これはネメアーで彼によって殺された (獅子) である。

これ〔=しし座〕の上にはまた、三角形をなして、尾に沿って暗い 7 つの (星々) があり、これらはベレニーケー・エウエルゲティスの髪と呼ばれている。

ロドスのペイサンドロスは前 7 世紀の叙事詩人。ベレニーケー・エウエルゲティス (ベレニーケー 2 世、エウエルゲティスは「慈悲深き女、恩恵者」という意味の称号) は前 3 世紀なかばの人で、プトレマイオス朝エジプトの王妃。すなわちこの部分の伝えは明らかに新しい層に属する。なお 5. かんむり座の物語では、この同じ星々がアリアドネーの髪と言われていたこともあわせて思いおこそう。

ところで——そういう写本証拠はないようなので私の想像にすぎないが——第 1 段落最後の文の μόνον は μόνος に直したい気もする。μόνον τοῦτον であれば、ヘーラクレースが対決したさまざまな怪物たちのうちで「この獅子だけを」素手で殺した (ほかはすべて武器によった)、という意味であるが、もし μόνος にしてよいなら、栄光を求めたヘーラクレースは「単身で」この獅子と対決した、という意味になる。こちらのほうが英雄譚らしいのではなかろうか (かりにそうだとすれば、μόνον になったのは直後の τοῦτον に引きずられてのことと想定しうる)。


13. Ἡνίοχος〔ぎょしゃ座〕


Οὗτός ἐστιν Ἐριχθόνιος, ἐξ Ἡφαίστου καὶ Γῆς γενόμενος· τοῦτον λέγουσιν, ὅτε ὁ Ζεὺς εἶδεν πρῶτον ἐν ἀνθρώποις ἅρμα ζεύξαντα ἵππων, θαυμάσαι ὅτι τῇ τοῦ Ἡλίου ἀντίμιμον ἐποιήσατο διφρείαν, ὑποζεύξας ἵππους λευκούς. πρῶτόν τε Ἀθηνᾷ πομπὴν ἤγαγεν ἐν ἀκροπόλει· καὶ ἐποιήσατο πρὸς τούτοις ἐπιφανῆ τὴν θυσίαν αὐτῆς σεμνύνων.

Λέγει δὲ καὶ Εὐριπίδης περὶ τῆς γενέσεως αὐτοῦ τὸν τρόπον τοῦτον. Ἥφαιστον ἐρασθέντα Ἀθηνᾶς βούλεσθαι αὐτῇ μιγῆναι, τῆς δὲ ἀποστρεφομένης, καὶ τὴν παρθενίαν μᾶλλον αἱρουμένης, ἔν τινι τόπῳ τῆς Ἀττικῆς κρύπτεσθαι, ὃν λέγουσι καὶ ἀπ’ ἐκείνου προσαγορευθῆναι Ἡφαίστιον· ὃς δόξας αὐτὴν κρατήσειν καὶ ἐπιθέμενος, πληγεὶς ὑπ’ αὐτῆς τῷ δόρατι, ἀφῆκε τὴν ἐπιθυμίαν, φερομένης εἰς τὴν γῆν τῆς σπορᾶς· ἐξ ἧς γεγενῆσθαι λέγουσι παῖδα, ὃς ἐκ τούτου Ἐριχθόνιος ἐκλήθη.

Καὶ αὐξηθεὶς τοῦθ’ εὗρε, καὶ ἐθαυμάσθη, ἀγωνιστὴς γενόμενος. ἤγαγε δὲ ἐπιμελῶς τὰ Παναθήναια, καὶ ἅμα Ἡνίοχον ἔχων παραβάτην, ἀσπίδιον ἔχοντα, καὶ τριλοφίαν ἐπὶ τῆς κεφαλῆς. ἀπ’ ἐκείνου δὲ κατὰ μίμησιν ὁ καλούμενος ἀποβάτης.

Ἐσχημάτισται δ’ ἐν τούτῳ ἡ Αἴξ καὶ οἱ Ἔριφοι. Μουσαῖος γάρ φησι Δία γεννώμενον ἐγχειρισθῆναι ὑπὸ Ῥέας Θέμιδι. Θέμιν δὲ Ἀμαλθείᾳ δοῦναι τὸ βρέφος. τὴν δέ, ἔχουσαν Αἶγα, ὑποθεῖναι, τὴν δ’ ἐκθρέψαι Δία· τὴν δὲ Αἶγα εἶναι Ἡλίου θυγατέρα, φοβερὰν οὕτως, ὥστε τοὺς κατὰ Κρόνον θεοὺς βδελυττομένους τὴν μορφὴν τῆς παιδός, ἀξιῶσαι Γῆν κρύψαι αὐτὴν ἔν τινι τῶν κατὰ Κρήτην ἄντρων. καὶ ἀποκρυψαμένην ἐπιμέλειαν αὐτῆς τῇ Ἀμαλθείᾳ ἐγχειρίσαι· τὴν δὲ τῷ ἐκείνης γάλακτι τὸν Δία ἐκθρέψαι.

Ἐλθόντος δὲ τοῦ παιδὸς εἰς ἡλικίαν, καὶ μέλλοντος Γίγασι πολεμεῖν, οὐκ ἔχοντος δὲ ὅπλα, θεσπισθῆναι αὐτῷ τῆς Αἰγὸς τῇ δορᾷ ὅπλῳ χρήσασθαι, διά τε τὸ ἄτρωτον αὐτῆς καὶ φοβερόν, καὶ διὰ τὸ εἰς μέσην τὴν ῥάχιν Γοργόνος πρόσωπον ἔχειν. ποιήσαντος δὲ ταῦτα τοῦ Διός, καὶ τῇ τέχνῃ φανέντος διπλασίονος, τὰ ὁστᾶ δὲ τῆς Αἰγὸς καλύψαντος ἄλλῃ δορᾷ, καὶ ἔμψυχον αὐτὴν καὶ ἀθάνατον κατασκευάσαντος, αὐτὴν μέν φασιν ἄστρον οὐράνιον κατασκευάσαι, τινὲς δέ φασι Μυρτίλον ὀνόματι τὸν ἡνίοχον εἶναι, τὸν ἐξ Ἑρμοῦ γεγονότα.

これはヘーパイストスとゲー [ガイア] から生まれたエリクトニオスである。彼のことはこう言われている。ゼウスが (彼を) 人間たちのなかで馬たちを戦車につないだ最初の者として見たとき、(彼が) 白馬たちを軛の下につないで、ヘーリオスのしかたに倣った (巧みな) 操縦をしたのに感嘆した。また彼ははじめてアテーナーのために、アクロポリスにおける (犠牲の) 送りを行って、彼ら〔=アテーナイ人〕のところで彼女の祭儀を顕揚し (その儀式を) 有名にした。

第 1 段落の 2 文めはなかなか込み入っている。不定法アオリスト θαυμάσαι「感嘆した」の主語は、このままではゼウスととるのはかなり厳しく、むしろ対格主語エリクトニオスが感嘆したととるほうが文法には合致する。サントーニのテクストはゼウスを主語とするために、まず定動詞 εἶδεν を ἰδὼν に改めたうえ、θαυμάσαι も καὶ θαυμάσας として、2 つのアオリスト分詞 (男性主格) がゼウスの連続した行為と読めるようにしている。

ヘーリオスに倣ったというのは、太陽神ヘーリオスが扱いのきわめて難しい太陽の馬車 (戦車) を御して日ごと天空を駆けているという伝承による。その難しさについては、彼の息子パエトーンが父の諌めを聞かずに無理やりその戦車を借り、暴走させて死んだという神話に見られるとおり。アテーナー女神の祭礼についての箇所は、エリクトニオスが伝説上のアテーナイの 2 代めの王で、後述するパンアテーナイア祭を創始したことを言っているものか。

エウリーピデースも彼〔=エリクトニオス〕の誕生について、こんなふうにして言っている。ヘーパイストスはアテーナーへの情欲に駆られて彼女と交わりたいと欲したのだが、彼女は反対の考えで、処女であることのほうを望んでいたので、アッティカ (地方) のさる場所に身を隠した、(その場所は) 彼〔=ヘーパイストス〕にちなんでヘーパイスティオンと呼称されたと言われている。彼は彼女を力ずくで物にしようと考えてそれを試みたところ、彼女によって槍で突き刺されたが、性欲〔=精液〕を放って、地へとその種がもたらされる。それ〔=子種〕より子が生まれ、彼はそのことからエリクトニオスと名づけられた。

エウリーピデースは言うまでもなく前 5 世紀に活躍した三大悲劇詩人の 1 人であるが、ここで言われている作品は伝存していない。ハードの英訳の注によるとこれはタイトル不明の劇であり、『エレクテウス』とも別だとしている。

エリクトニオスという名は本当のところ語源不詳らしいが (Beekes, Etymological Dictionary of Greek, s.v. Ἐριχθόνιος)、χθών「地、地面」と関連づける語源俗解が古代よりあった。この物語の場合は「地そのものである者」とでも訳すか (ἐρι- は強めの接頭辞)。あるいは第 1 要素を ἔριον「羊毛」ととって、「羊毛と大地の者」とも解された;これは上の物語とは少し細部が異なって、ヘーパイストスの放った精液がアテーナーの脚にかかったため彼女はそれを羊毛で拭きとって大地に捨てた、そこから子が生まれたとする伝承があるのである。

そうして彼は成長したあとそのこと〔=自分の生まれ〕を知って驚き、戦士として身を立てる。また念入りにパンアテーナイア祭を催し、同時に御者 [戦車の操者] として、小盾と頭にはトリロピアー [三つ羽飾りのついた兜] を装備した同乗者 [パラバテース] をもっていた。彼にちなんで、いわゆる飛び降りる者 [アポバテース] とはこれを真似たものである。

ἅμα Ἡνίοχον「同時に御者として」をサントーニは ἅρμα ἡνιόχει「戦車を御している」に改めており、このほうがよいかもしれない。前者では「御者」は対格であり、これを目的語とする動詞 (分詞) ἔχων の主語は主文の ἤγαγε の主語エリクトニオスだから、彼と御者はまるきり別人とならざるをえないが、ἡνιόχει と読めば彼じしんが戦車を操っていることになる。

飛び降りる者 [アポバテース] というのは戦車競技において走っている戦車から飛び降りるのである。それから戦車と馬に伴走するのか、あるいは戦車が所定のゴールについた瞬間から飛び降りて残りのトラックを走ったものか、さらにはもういちど飛び乗るなどという説もあり、よくわかっていないようだ。いずれにせよ、戦車競走じたいしばしば死傷者が出るほどスピードの出るものであり、いまで言えばバイクレースで走っているバイクから飛び降りてその勢いそのままに走り出す、というような危険な競技には違いない。

この (星座) のなかには (雌) 山羊と仔山羊たちも造形されている。というのはムーサイオスによれば、ゼウスは生まれるなりレアーによってテミスに託され、それからテミスはアマルテイアにこの嬰児を渡した。その彼女は (雌) 山羊をもっており、これの下に置いて、これがゼウスを養育した。この山羊はヘーリオスの娘であって、(容貌が) かくも恐ろしく、クロノスに従う神々がこの女の子の容姿を忌み嫌って、ゲー [ガイア] に対し彼女をクレーテー [クレタ] 島の地下の洞窟のうちのあるひとつに隠すことを要求したほどだった。それで (ゲーは雌山羊を) 匿ったあと、それの世話をアマルテイアに託した。そして彼女〔=アマルテイア〕はその女〔=雌山羊〕の乳でゼウスを養育したのだということだ。

アテーナイのムーサイオスは前 6 世紀の伝説的な詩人。アマルテイアは伝承によっては山羊の名であるともされるが、ここでは明らかに山羊を所有するクレタ島のニュンペー [ニンフ] とされている。だが山羊じしんが太陽神ヘーリオスの娘とされ、描写も詳しく重要な役目を担っているのに比して、アマルテイアの存在感は希薄で物語上不必要とも見え、これでは同一視されるのも無理はない。エラトステネースはその同一視に抗するためにわざわざこのような説明をムーサイオスの伝えとして残したのだろうか。

この子〔=ゼウス〕は成年に至ると、巨人 [ギガース] たちと戦争をせんとし、しかして武具をもたなかったので、彼にはこの雌山羊の皮を武具として用いるべしという神託が与えられた。というのはそれの傷つかなさと恐ろしさのゆえ、そして背の中央にゴルゴーンの顔をもっていたことのゆえであった。ゼウスがそのとおりにすると、その技によって (彼の強さが) 倍加したと見えた。それから山羊の骨を残りの皮で覆って、彼女を生きかえらせてさらに不死とした。(そしてゼウスは) 彼女を天の星としたのだと言われるが、またべつの人々によるとこの御者はミュルティロスという名前でヘルメースから生まれた息子だともいう。

巨人と訳した語 Γίγασι はギガースの複数与格であるが、サントーニは Τιτᾶσι (ティーターンの複数与格) に改めており、ハードの英訳も Titans である。前段落でクロノスたちの名前が挙がっているところを見ればたしかにそうとりたくなるのだが、ここで山羊の武具と言われているのは明らかにアイギスであり、ゼウスがそれをどの戦いで用いたものかは実際よくわからないのである (ティーターノマキアーであれギガントマキアーであれ)。

なお最後にとってつけたように紹介されている異説で、ミュルティロスとはオイノマーオス王——娘ヒッポダメイアへの求婚者を拒みつづけ、最後にはペロプスの策略で事故死させられた——の御者の名前である。

samedi 27 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(4) おとめ座・ふたご座・かに座

伝エラトステネス『星座論』摘要 Epitome Catasterismorum の翻訳。この記事では 9. おとめ座、10. ふたご座、11. かに座の 3 章を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


9. Παρθένος〔おとめ座〕


Ταύτην Ἡσίοδος ἐν Θεογονίᾳ εἴρηκε θυγατέρα Διὸς καὶ Θέμιδος, καλεῖσθαι δὲ αὐτὴν Δίκην. λέγει δὲ καὶ Ἄρατος, παρὰ τούτου λαβὼν τὴν ἱστορίαν, ὡς οὖσα πρότερον ἀθάνατος, καὶ ἐπὶ τῆς γῆς σὺν τοῖς ἀνθρώποις ἦν, καὶ ὅτι Δίκην αὐτὴν ἐκάλουν. μεταστάντων δὲ αὐτῶν, καὶ μηκέτι τὸ δίκαιον συντηρούντων, οὐκέτι σὺν αὐτοῖς ἦν, ἀλλ’ εἰς τὰ ὄρη ὑπεχώρει, εἴτα στάσεων καὶ πολέμων αὐτοῖς ὄντων, διὰ τὴν παντελῆ αὐτῶν ἀδικίαν, ἀπομισήσασαν εἰς τὸν οὐρανὸν ἀνελθεῖν.

Λέγονται δὲ καὶ ἕτεροι λόγοι περὶ αὐτῆς πλεῖστοι. οἱ μὲν γὰρ αὐτήν φασιν εἶναι Δήμητραν, διὰ τὸ ἔχειν στάχυν, οἱ δὲ Ἶσιν· οἱ δὲ Ἀταργάτιν· οἱ δὲ Τύχην, διὸ καὶ ἀκέφαλον αὐτὴν σχηματίζουσιν.

ヘーシオドスは『神統記』中で彼女を、ゼウスとテミスの娘でディケー [正義] という名だと言っている。またアラートスも彼〔=ヘーシオドス〕からの伝えをとって、彼女は当初は不死〔=女神〕であって地上で人間たちとともにいて、(人間たちは) 彼女をディケーと呼んでいた、と言っている。彼らが変節してしまい、もはや正しきを堅持しないようになると、(ディケーは) もはや彼らとともにはいなくなり、山中へと引っこんでいった。やがて彼らのまったき不正義のゆえに、内乱や戦争が彼らのあいだに起こると、これを憎んだ彼女は天へと上り去ったという。

また彼女については異なる説もたくさん言われている。すなわちある人々は (これが) 穀物の穂をもっているがゆえにデーメーテールであると言い、またある人々はイーシスと、またある人々はアタルガティスと、またある人々はテュケーであるとして、それゆえに彼女を頭のない形に見立てている。

デーメーテールはギリシアの、イーシスはエジプトの、アタルガティス (別名デルケトー) はシリアの女神で、いずれも豊穣を司る大女神である。「穀物の穂」と訳した στάχυς にはスピカ (おとめ座 α 星) の意味もあり、この星を指して言っているものに相違ない。テュケーは運の擬人化された女神であるが、「頭がない」という描像は比較的新しいようだ:「彼女はヘレニズム時代まではまだ抽象名詞的で,十分には人格化されなかった.この時代に彼女は量るべからざる《運》の女神となり,ときに盲目の姿で表わされ,崇拝された」(高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』)。


10. Δίδυμοι〔ふたご座〕


Οὗτοι λέγονται Διόσκουροι εἶναι· ἐν δὲ τῇ Λακωνικῇ τραφέντες ἐπιφάνειαν ἔσχον, φιλαδελφίᾳ δὲ ὑπερήνεγκαν πάντας. οὔτε γὰρ περὶ ἀρχῆς, οὔτε περὶ ἄλλου τινὸς ἤρισαν. μνήμην δὲ αὐτῶν Ζεὺς θέσθαι βουλόμενος τῆς κοινότητος, Διδύμους ὀνομάσας, εἰς τὸ αὐτὸ ἀμφοτέρους ἔστησεν ἐν τοῖς ἄστροις.

彼らはディオスクーロイだと言われている。彼らはラコーニアー [スパルタ] で育てられ名声を得た。兄弟愛にかけてはあらゆる人々をしのいだ。(兄弟のどちらが上かという) 主導権についても、ほかの何事についても争わなかった。そこでゼウスは彼らの連帯を記念せんと欲して、双子〔=ふたご座〕と命名し、両人を星々のなかの同じ場所に立たせたのだ。

ディオスクーロイとは文字どおりには「ゼウスの息子たち」の意で、大神がスパルタ王妃レーダーに生ませたカストールとポリュデウケース [ポルックス] の兄弟を指す。もっともカストールのほうは人間の子で父親は正式な夫のテュンダレオースであるとする伝えが現在周知であろうが、エラトステネースは明らかにこの解釈をとっていない (片方だけがゼウスの子となればどうしたって差はつくであろうから;それは同様の関係にあるヘーラクレースとイーピクレースの場合に顕著である)。


11. Καρκίνος, Ὄνοι καὶ Φάτνη〔蟹と驢馬と飼い葉桶=かに座〕


Οὗτος δοκεῖ ἐν τοῖς ἄστροις τεθῆναι δι’ Ἥραν, ὅτι μόνος, Ἡρακλεῖ τῶν ἄλλων συμμαχούντων, ὅτε τὴν Ὕδραν ἀνῄρει, ἐκ τῆς λίμνης ἐκπηδήσας ἔδακεν αὐτοῦ τὸν πόδα, καθάπερ φησὶ Πανύασις ἐν Ἡρακλείᾳ. Θυμωθεὶς δ’ ὁ Ἡρακλῆς δοκεῖ τῷ ποδὶ συνθλάσαι αὐτόν· ὅθεν μεγάλης τιμῆς τετύχηκε καταριθμούμενος ἐν τοῖς ιβʹ ζωδίοις.

Καλοῦνται δέ τινες αὐτῶν ἀστέρες ὄνοι, οὓς Διόνυσος ἀνήγαγεν εἰς τὰ ἄστρα· ἔστι δὲ αὐτοῖς καὶ φάτνη παράσημον· ἡ δὲ τούτων ἱστορία αὕτη.

Ὅτε ἐπὶ Γίγαντας ἐστρατεύοντο οἱ θεοί, λέγεται Διόνυσον καὶ Ἥφαιστον καὶ Σατύρους ἐπὶ ὄνων πορεύεσθαι. οὔπω δὲ ὁρωμένων αὐτοῖς τῶν Γιγάντων, πλησίον ὄντες ὠγκήθησαν οἱ ὄνοι· οἱ δὲ Γίγαντες ἀκούσαντες τῆς φωνῆς ἔφυγον· διὸ ἐτιμήθησαν ἐν τῷ Καρκίνῳ εἶναι ἐπὶ δυσμάς.

Ἔχει δὲ ὁ Καρκίνος ἐπὶ τοῦ ὀστράκου ἀστέρας λαμπροὺς βʹ· οὗτοί εἰσιν οἱ ὄνοι. τὸ δὲ νεφέλιόν ἐστιν ἡ ἐν αὐτῷ ὁρωμένη φάτνη, παρ’ ᾗ δοκοῦσιν ἑστάναι.

これはヘーラーによって星々のあいだに置かれたと思われる。というのはこれは、(ヘーラクレースが) ヒュドラーを退治しようとしていたとき、ほかの者たちはヘーラクレースに加勢したのに、(蟹だけが) ただひとり沼から飛び出して彼の足に咬みついたのだと、たしかにそのとおりパニュアシスが (叙事詩)『ヘーラクレイア』のなかで言っている。だが赫怒したヘーラクレースは足でこれを踏み砕いたらしい。このことから (この蟹は) 大いなる名誉を得て黄道十二宮のなかに数えられているのだ。

この (星座の) なかのいくつかの星々は驢馬と呼ばれており、これはディオニューソスが星々のなかに上げたものだ。そこには飼い葉桶も目印としてある。これらについての解説は次のとおりである。

巨人たちを相手に神々が戦争していたころ、ディオニューソスとヘーパイストスとサテュロスたちとが、驢馬に乗って出ていったと言われている。まだ彼らのことを巨人たちが見つけていないうちに、近づいていた驢馬たちが嘶きを上げた。すると巨人たちはその声を聞いて逃げた。このために彼ら〔=驢馬たち〕は蟹〔=かに座〕のなかの西側にいる栄誉を受けたのである。

この蟹は甲殻の上に明るい星を 2 つもっている。これらが驢馬たちである。また星雲はそれ〔=かに座〕のなかに見えている飼い葉桶であり、それのそばにそれら〔=驢馬たち〕は立っているように見える。

冒頭、蟹を天上に上げたのがヘーラーであると述べているのは、彼女がこの蟹をヘーラクレースの試練への妨害として遣わしたという伝承を反映しているであろう。ハリカルナッソスのパニュアシスは前 5 世紀の叙事詩人で、『ヘーラクレイア』はわずかな断片しか残されていない。

最後の一文「また星雲は〜」は少々話が不自然である。むしろ「またそれのなかに見えている星雲は飼い葉桶であり」と読むために、修飾語の位置・語形を変えて τὸ δὲ ἐν αὐτῷ ὁρώμενον νεφέλιόν ἐστιν φάτνη と直したい。もとのギリシア語テクストでは「それのなかに見えている」は「飼い葉桶」にかけざるをえないのであるが、サントーニの希伊対訳本ではギリシア語はもとのままにしながらなぜかイタリア語訳のみ「星雲」にかけるよう読みかえている:«L’ammasso nebuloso visibile al centro del Cancro è la Mangiatoia»。なおハードの英訳ではこの段落は省かれている;星座の形の説明だからであろうが、ここがないと第 2 段落の「飼い葉桶」が意味不明になりかねないので本稿ではあえて訳出した。

vendredi 26 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(3) へびつかい座・さそり座・うしかい座

伝エラトステネス『星座論』摘要 Epitome Catasterismorum の翻訳。この記事では 6. へびつかい座、7. さそり座、8. うしかい座の 3 章を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


6. Ὀφιοῦχος〔へびつかい座〕


Οὗτός ἐστιν ὁ ἐπὶ Σκορπίου ἑστηκώς, ἔχων ἐν ἀμφοτέραις χερσὶ τὸν ὄφιν. λέγεται δὲ εἶναι Ἀσκληπιός, ὅν Ζεύς, χαριζόμενος Ἀπόλλωνι, εἰς τὰ ἄστρα ἀνήγαγεν. τοῦτον τέχνῃ ἰατρικῇ χρώμενον, ὡς καὶ τοὺς ἤδη τεθνηκότας ἐγείρειν, ἐν οἷς καὶ Ἱππόλυτον ἔσχατον τοῦ Θησέως. καὶ τῶν θεῶν δυσχερῶς τοῦτο φερόντων, εἰ αἱ τιμαὶ καταλυθήσονται αὐτῶν, τηλικαῦτα ἔργα Ἀσκληπιοῦ ἐπιτελοῦντος, λέγεται τὸν Δία ὀργισθέντα κεραυνοβολῆσαι τὴν οἰκίαν αὐτοῦ, εἶτα διὰ τὸν Ἀπόλλωνα τοῦτον εἰς τὰ ἄστρα ἀναγαγεῖν· ἔχει δὲ ἐπιφάνειαν ἱκανήν, ἐπὶ τοῦ μεγίστου ἄστρου, λέγω δὴ τοῦ Σκορπίου ὤν, εὐσήμῳ τῷ τύπῳ φαινόμενος.

最終文でサントーニに倣い τοῦ Σκορπίου の次に ὤν を加えた。また彼女は第 3 文頭 τοῦτον τέχνῃ ἰατρικῇ χρώμενον の対格も属格 τούτου ... χρωμένου に改めている、すなわちこの箇所を絶対属格句とみなしている。私としてもそちらのほうが読みやすく文の流れがよくなると思うが、アルマ版でも読めないことはないので旧状を維持した。

これは蠍〔=さそり座〕の上に立っている男で、両手で蛇をつかんでいる。アスクレーピオスであると言われており、彼のことをゼウスが、アポローンに対する厚意として、星々のなかへ上げた。彼〔=アスクレーピオス〕は、すでに死んでいた者たちをも蘇らせるような医術を用いており、その (蘇らされた者の) なかでテーセウスの (息子) ヒッポリュトスが最後となった。しかし神々は、アスクレーピオスがあまりに偉大な仕事を成しとげているゆえに、もし彼らへの尊敬が毀損されるとすればそれは耐えがたいと考えていたので、ゼウスは激怒して彼〔=アスクレーピオス〕の家を雷撃した、それからアポローンのために彼を星々のなかへ上げたと言われている。(この星座は) 最大の星々すなわち蠍〔=さそり座〕の上にあって、十分な視認性があるので、その形がやすやすと見られる。

医神アスクレーピオスはアポローンの息子であり、本文でアポローンへの配慮と 2 度言っているのは息子を殺された彼への慰めあるいは償いという意味である。

この章でアルマ師の仏訳には大きな訳し抜けがある。私の訳で示すと「しかし神々は……考えていたので」がまるまる抜けており、いきなりゼウスが理由なしに雷撃を敢行しているのである。もうひとつ細かいことを言うと、アスクレーピオスの家をではなく直接 le tua「彼を殺した」と訳されている。


7. Σκορπίος〔さそり座〕


Οὗτος διὰ τὸ μέγεθος εἰς δύο δωδεκατημόρια διαιρεῖται· καὶ τὸ μὲν ἐπέχουσιν αἱ χηλαί, θάτερον δὲ τὸ σῶμα καὶ τὸ κέντρον· τοῦτόν φασιν ἐποίησεν Ἄρτεμις ἀναδοθῆναι τῆς κολώνης τῆς Χίου νήσου, καὶ τὸν Ὠρίωνα πλῆξαι, καὶ οὕτως ἀποθανεῖν, ἐπειδὴ ἐν κυνηγεσίῳ ἀκόσμως αὐτὴν ἐβιάσατο· ὃν Ζεὺς ἐν τοῖς λαμπροῖς ἔθηκε τῶν ἀστέρων, ἵν’ εἰδῶσιν οἱ ἐπιγινόμενοι ἄνθρωποι τὴν ἰσχύν τε αὐτοῦ καὶ τὴν δύναμιν.

誤字と思われる Κολόνης をサントーニに従い κολώνης に改めた。彼女はまたこの τῆς κολώνης の前に前置詞 ἐκ を補っている。

これはその巨大さゆえに (黄道の) 十二分割部 2 つぶんにわたって分かたれている。その一方を両鋏が、また他方を胴体と (尻尾の) 針が占めている。言うところでは、これをしてアルテミスがキオス島の丘より飛び出さしめ、オーリーオーンをば刺さしめて、かくて (彼は) 死した、なんとなれば (彼は) 犬猟の最中に破廉恥にも彼女を暴行しようとしたからである。これ〔=蠍〕をゼウスは星々のなかでも (もっとも) 明るいところに置いた。(将来に) 生まれくる人間たちがそれの力と強さとを知るようにと。

アルマ師の仏訳はキオス島をクレタ島と勘違いしているのだが、オーリーオーンがクレタ島の蠍に殺されたとする伝承もたしかにあるようだ (とはいえその場合アルテミスを怒らせた理由は別のこと、もしくはそもそも彼女とは関係がなくふつうに長生きしたうえでそうなったらしい。32. オリオン座の項目、およびシャーデヴァルト『星のギリシア神話』邦訳 34 頁を参照)。ちなみにキオス島はオーリーオーンが別件で訪れたことがある:そこのオイノピオーン王の娘メロペーに彼は求婚したもしくは襲った、ために王は怒って彼を盲目にして放逐したという話である。

また最後の文では、蠍の功績を讃えて言ったように読める「力と強さと」という語句を、仏訳はどういうわけか qualités nuisibles「有害な性質」と訳している。


8. Ἀρκτοφύλαξ〔熊の守り手=うしかい座〕


Περὶ τούτου λέγεται, ὅτι Ἀρκάς ἐστιν ἐκ Καλλιστοῦς καὶ Διὸς γεγονώς, ὃν κατακόψας Λυκάων, ἐξένισε, τὸν Δία παραθεὶς ἐπὶ τράπεζαν· ὅθεν ἐκείνην μὲν ἀνατρέπει· ἀφ’ οὗ ἡ Τραπεζοὺς καλεῖται πόλις. τὴν δὲ οἰκίαν αὐτοῦ κεραυνοῖ, τῆς ὠμότητος αὐτὸν μυσαχθείς· τὸν δὲ Ἀρκάδα πάλιν συμπλάσας ἔθηκεν ἄρτιον, καὶ ἐν τοῖς ἄστροις ἀνήγαγεν.

2 つめのコンマのあと、サントーニに従い関係代名詞 ἣν を ὃν に改めた。前者だとカリストーを切り刻んだことになるが、続く話と整合しない。

これについてはこう言われている。彼〔=うしかい座となったアルカス〕はカリストーとゼウスから生まれた息子であり、彼をリュカーオーンが切り刻んで、ゼウスを饗応して食卓 [トラペザ] の上に並べられた。そこで (ゼウスは怒って) それをひっくりかえした。このことからトラペズースの町はそう呼ばれている。そして (ゼウスは) その残酷さゆえに彼〔=リュカーオーン〕を忌み嫌って、彼の家を雷で撃った。そしてアルカスをふたたび寄せ集めて形作り五体満足となし、星々のあいだに上げてやった。

1. おおぐま座で見たとおりリュカーオーンはカリストーの父、したがってアルカスの祖父にあたる。この物語をこの星座の縁起として採用する場合、星座の描くものは熊と化した母カリストーとともにいる狩人アルカスということになる。

一方うしかい座と呼ばれるその見かたもすでにホメーロスが知っていたものであって、Βοώτης の訳語である。その場合牛飼いはイーアシオーンという名の、デーメーテール女神に愛された男であって、大きな星座のほうは熊ではなく車——牛に牽かせている犂もしくは穀物を載せた車——と見られることになる。

jeudi 25 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(2) りゅう座・ヘルクレス座・かんむり座

伝エラトステネス『星座論』摘要 Epitome Catasterismorum の翻訳。この記事では 3. りゅう座、4. ヘルクレス座、5. かんむり座の 3 章を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


3. Δράκων〔りゅう座〕


Οὗτός ἐστιν ὁ μέγας τε καὶ δι’ ἀμφοτέρων τῶν Ἄρκτων κείμενος. λέγεται δὲ εἶναι ὁ τὰ χρύσεα μῆλα φυλάσσων, ὑπὸ δὲ Ἡρακλέους ἀναιρεθείς, ᾧ καὶ ἐν τοῖς ἄστροις τάξις ἐδόθη δι’ Ἥραν, ἣ κατέστησεν αὐτὸν ἐπὶ Ἑσπέρας, φύλακα τῶν μήλων.

Φερεκύδης γάρ φησιν, ὅτε ἐγαμεῖτο ἡ Ἥρα ὑπὸ Διὸς, φερόντων αὐτῇ τῶν θεῶν δῶρα, τὴν Γὴν ἐλθεῖν φέρουσαν τὰ χρύσεα μῆλα· ἰδοῦσαν δὲ τὴν Ἥραν θαυμάσαι, καὶ εἰπεῖν καταφυτεῦσαι εἰς τὸν τῶν θεῶν κῆπον, ὃς ἦν παρὰ τῷ Ἄτλαντι. ὑπὸ δὲ τῶν ἐκείνου παρθένων ἀεὶ ὑφαιρουμένων τῶν μήλων, κατέστησε φύλακα τὸν ὄφιν, ὑπερμεγέθη ὄντα.

Μέγιστον δὲ ἔχει σημεῖον· ἐπίκειται δὲ αὐτῷ Ἡρακλέους εἴδωλον, ὑπόμνημα τοῦ ἀγῶνος, Διὸς θέντος, ἐναργέστατον τῇ σχηματοποιΐᾳ.

これは大きな (蛇) で、両熊〔=おおぐま座とこぐま座〕のあいだに横たわっている。黄金の林檎 (複数形) を守る者で、ヘーラクレースによって殺されたと言われている。これに対して星々のあいだに座がヘーラーにより与えられた。彼女はこの者をヘスペラー〔=ヘスペリデスの園〕における林檎の守護者に任命した。

というのはペレキューデースの伝えでは、ヘーラーがゼウスに嫁するとき、彼女のため神々がさまざまの贈り物をもってきたのだが、ゲー [ガイア] は黄金の林檎をもってやってきた。それを見てヘーラーは感嘆し、アトラースのそばにあった神々の園に植えることを命じたという。ところがこの男〔=アトラース〕の娘たちによって絶えずその林檎が奪われるものだから、はなはだ強大なるこの蛇を番人として任命したのだ。

また (この星座には) 最大の目印がある。これの上にはヘーラクレースの肖像〔=ヘルクレス座〕が据えられているが、それは (ヘーラクレースと竜との) 戦いについてのきわめて目立つ記念として、ゼウスがその形に配して置いたのである。

アルマ師の仏訳では最後の段落 (「また最大の目印〜」以下すべて) がすっぽり抜け落ちており、ただちに星々の数についての説明 (拙訳では省略) に飛んでいる。ハードによる英訳にもこの段落は欠けている。それゆえ私としてもこれは天文の分野として省くか迷ったのだが、ゼウスの意図を語るという点では神話に属するとも見られるので含めることとした。

これと次の 4. ヘルクレス座の話は、有名なヘーラクレースの 12 功業の第 11、ヘスペリデスの園から黄金の林檎を首尾よく手に入れることに言及しているわけだが、そのもっとも一般的な筋では、英雄はプロメーテウスの入れ知恵によってアトラースを謀って自分のかわりに林檎をとってこさせるのであって、自身は園まで行っていないし竜と戦ってもいない。とはいえ異説の 1 つとしてそういうものがあったことはアポロドーロスも報告している。


4. Ὁ ἐν γόνασιν〔ひざまずく男=ヘルクレス座〕


Οὗτος, φασίν, Ἡρακλῆς ἐστιν ὁ ἐπὶ τοῦ Ὄφεως βεβηκώς. ἐναργῶς δὲ ἕστηκε τό τε ῥόπαλον ἀνατετακώς, καὶ τὴν λεοντῆν περιειλημμένος. λέγεται δέ, ὅτε ἐπὶ τὰ χρύσεα μῆλα ἐπορεύθη, τὸν ὄφιν τὸν τεταγμένον φύλακα ἀνελεῖν. ἦν δὲ ὑπὸ Ἥρας δι’ αὐτὸ τοῦτο τεταγμένος, ὅπως ἀνταγωνίζηται τῷ Ἡρακλεῖ. ὅθεν ἐπιτελεσθέντος τοὺ ἔργου μετὰ κινδύνου, ἄξιον ὁ Ζεὺς κρίνας τὸν ἆθλον μνήμης, ἐν τοῖς ἄστροις ἔθηκε τὸ εἴδωλον.

Ἔστι δὲ ὁ μὲν ὄφις μετέωρον ἔχων τὴν κεφαλήν, ὁ δ’ ἐπιβεβηκὼς αὐτῷ, τεθεικὼς τὸ ἓν γόνυ, τῷ δ’ ἑτέρῳ ποδὶ ἐπὶ τὴν κεφαλὴν ἐπιβαίνων, τὴν δὲ δεξιὰν χεῖρα ἐκτείνων, ἐν ᾗ τὸ ῥόπαλον ὡς παίσων, τῇ δ’ εὐωνύμῳ χειρὶ τὴν λεοντῆν περιβεβλημένος.

これは蛇〔=りゅう座〕の上に立っている [踏みつけている] ヘーラクレースであると言われている。見たところ彼は自分の棍棒を振りあげて、獅子の毛皮を身にまとって立っている。そして黄金の林檎をめぐって争われたとき、(ヘーラクレースは) 番人として配されていた蛇を殺したと言われている。(この蛇が) ヘーラーによって配されていたのは、ヘーラクレースの敵役を演じるようにという、まさにそのことのためであった。それゆえに、(ヘーラクレースの竜退治という) 危難を伴う仕事が完遂されたとき、ゼウスはこの争闘を記憶に値すると判定して、天井にその絵姿を置いたのだ。

蛇のほうは頭をもたげているが、(ヘーラクレースは) これの上に立っており、一方の膝をつき、もう一方の足でもってその頭を踏みつけて、右の手を振りかざし、その手のなかにはまさに殴らんとして棍棒をもっている。そして吉兆の手〔=左手〕には獅子の毛皮を巻きつけている。

第 2 文頭 ἐναργῶς「見たところ、見るからに」を、サントーニは (カール・ロバートに従って) ἐν ἀγῶνι「戦闘中で」と読んでいるが、これは採用する必要を感じない。

ἀνταγωνίζηται は接続法現在中動態。この点サントーニのテクストは ἀνταγωνίσηται としており、こちらは接続法アオリスト中動態。われわれはどちらをとるべきかというと、少なくとも古典語としてはどちらもおかしいと言わざるを得ない。というのはここは ὅπως の導く目的節であるが、主文は ἦν という未完了過去で——あるいは ἦν ... τεταγμένος で過去完了受動態の迂言形 (それは 3 複以外にも使われえた) と数えることもできるが、どちらにせよ——副時称であるから、目的節は希求法というのが正用のはずである。したがってこの文は希求法が廃れつつある時期の証言なのであろうが、結局最初のどちらをとるべきかという問題については決定打がない。相としてはどちらも一理あり、ヘーラーの意図の描きかたの違いにすぎないし、その区別を日本語訳にうまく反映するのは難しい。


5. Στέφανος〔かんむり座〕


Οὗτος λέγεται ὁ τῆς Ἀριάδνης. Διόνυσος δὲ αὐτὸν εἰς τὰ ἄστρα ἔθηκεν, ὅτε τοὺς γάμους οἱ θεοὶ ἐν τῇ καλουμένῃ Δίᾳ ἐποίησαν· ᾧ πρώτῳ ἡ νύμφη ἐστεφανώσατο παρὰ Ὡρῶν λαβοῦσα καὶ Ἀφροδίτης.

Ἡφαίστου δὲ ἔργον εἶναί φασιν, ἐκ χρυσοῦ πυρώδους καὶ λίθων Ἰνδικῶν. ἱστορεῖται δὲ καὶ διὰ τούτου τὸν Θησέα σεσῶσθαι ἐκ τοῦ λαβυρίνθου, φέγγος ποιοῦντος. φασὶ καὶ τὸν πλόκαμον ταύτης εἶναι τὸν φαινόμενον ἐπὶ τῆς κέρκου τοῦ Λέοντος.

これはアリアドネーの (冠) であると言われている。ディオニューソスがこれを星々のなかへ置いた。それは神々がディーアーという名の (島) で婚儀を行ったときのことで、この (複数の婚儀の) 最初に、このニュンペー〔=アリアドネー〕がホーライ [季節女神たち] とアプロディーテーとから授けられて得た (のがこの冠である)。

それはヘーパイストスの作品であって、燃えるような黄金とインドの (宝) 石とからできていると言われている。またさらに、かのテーセウスが迷宮から救われたのは光を放つこれによってだった、とも語られている。また獅子〔=しし座〕の尾の上に見えるものは彼女の髪の房だとも言われている。

テクストに混乱があるように思われる。まず第 1 段落、アルマ版のギリシア語本文ではディオニューソスが αὐτὴν「彼女を」星座としたと訳さざるをえないのであるが、「冠を」だとすれば αὐτὸν と改めるべきである。これはたんなる誤植と思われ、かんむり座の話であるし星座の形からしても当然こう見るべきであろう。仏訳はおまけに島の名を勝手にデーロス島に変更しているのであるが、べつの島である。

また最後の「獅子の尾の上に」という箇所の前置詞 ἐπὶ「〜の上に」をサントーニは ὑπὸ「〜の下に」と改めている。ハードの英訳も below the Lion’s tail だし、そもそもアルマ師にしてからがなぜか右欄の仏訳のほうだけ sous としている。この髪の房というのは、当時まだ独立した星座と数えられていなかったかみのけ座のことを指すらしいが、それがしし座の尾より上なのか下なのか、天文学 (史) に無知な私には判断がつかない。かみのけ座については 12. しし座の項に別伝もあるのであわせて参照されたい。

神話の内容としても不可解な点がある。第 1 段落を読むとこの冠は、ディオニューソスとアリアドネーとの結婚のさいの贈り物と読めるが、通常の筋によればテーセウスとの出会いはそれ以前のこと——彼女はまずテーセウスと結ばれたがナクソス島 (ディーアー島はこれの別名と言われる) に置き去りにされ、そこをディオニューソス神が見初める——であって、冠によってこの英雄がミーノータウロスの迷宮から助かったというのは矛盾している。古代の人はこういう矛盾をあまり気にしなかったらしい。

mercredi 24 août 2022

伝エラトステネス『星座論』(1) おおぐま座・こぐま座

伝エラトステネス『星座論』Καταστερισμοί 摘要は、前 3 世紀の学者キュレネのエラトステネスの著作を後代の誰かが要約したもので、古代ギリシア語で書かれた当時の星座の起源を伝える重要文献であるが、いまだ日本語訳は刊行されていない。これを少しばかり訳してみようというのが今回の記事である。このページでは 1. おおぐま座と 2. こぐま座を扱う。



Web 上にはいちおう竹迫忍氏のサイトに紹介があり、日本語ではそれが唯一の先行訳ということになるが、難なしとしない。それは L’Abbé Nicolas Halma (ニコラ・アルマ師、カトリック司祭・天文学史家、1755–1828) による昔の仏訳 (1821 年) を、これまた古い機械翻訳ソフト (1993 年版) に英訳させたものをもとにご自身で日本語訳されたということで、要するに重々訳というわけである。仏訳はおおむねちゃんとしたものであるがよくよく検討するとところどころ誤訳や訳し抜けがある。また 30 年まえの翻訳ソフトによる英訳の質は推して知るべしで、誤訳どころかごく初歩的な取り違えが山ほどある。そしてその結果英文として成り立っていないものを日本語にしようというのであるから、どうしても勘違いや想像による補完によってさらに改変が加わる。この三重のフィルタによって翻訳結果にはかなり奇妙な部分や間違いが多くなってしまっている。

「エラトステネス 星座」などでググってみるとそれがトップに来る、この現状をそのままにはしておれないというのが私の動機であって、ギリシア語から直接訳しここに掲載するものである。あわせてギリシア語の学習者に役立つよう、また私の翻訳の当否を検証しやすいよう、原文を翻刻して併載した。このテクストは原則として下記の底本のとおりとし、句読点まで忠実に再現したが、スティグマは一貫して στ の 2 文字に改めたほか、ときに大文字小文字を変更したりアクセントを修正したりした。また若干数、後掲のサントーニのテクストを参照し、そちらの読みを採用したり改行を加えたりした箇所がある。

底本は竹迫氏の用いたのと同じアルマ版のギリシア語テクスト——それは Google Books やフランス国立図書館でデジタイズされており、こちらのサイトにまとまっている——を使ったが、近年のサントーニの希伊対訳本 (Anna Santoni, Epitome dei Catasterismi, 2009) をも適宜参考にした (これに依存した部分については以下で逐一断る)。最新・最良の刊本はビュデ版の Jordi Pàmias i Massana et Arnaud Zucker, Catastérismes, 2013 のようだが、これは閲覧できていない。

なお、テクストのうち各章の最後の数行は省略することをお断りしておく。それは各星座を構成する星々の数と形を列挙した部分であって、私はギリシア神話には強い関心をもっているが天文には残念ながらいまのところ興味がないためである。Oxford World’s Classics シリーズに収められた Robin Hard による最新の英訳 Constellation Myths, 2015 においても当該部分は省かれており、あまり重要でないと判断するのは私だけではないらしい。


1. Ἄρκτος ἡ μεγάλη〔おおぐま座〕


Ταύτην Ἡσίοδός φησι Λυκάονος θυγατέρα ἐν Ἀρκαδίᾳ οἰκεῖν, ἑλέσθαι δὲ μετὰ Ἀρτέμιδος τὴν περὶ τὰς θήρας ἀγωγὴν ἐν τοῖς ὄρεσι ποιεῖσθαι, φθαρεῖσάν τε ὑπὸ Διὸς ἐμμεῖναι λανθάνουσαν τὴν θεόν. φωραθῆναι δὲ ὕστερον, ἐπίτοκον ἤδη οὖσαν, ὀφθεῖσαν ὑπ’ αὐτῆς λουομένην. ἐφ’ ᾧ ὀργισθεῖσαν τὴν θεὸν ἀποθηριῶσαι αὐτήν, καὶ οὕτως τεκεῖν, ἄρκτον γενομένην, τὸν κληθέντα Ἀρκάδα.

Οὖσαν δ’ ἐν τῷ ὄρει θηρευθῆναι ὑπὸ αἰπόλων τινῶν, καὶ παραδοθῆναι μετὰ τοῦ βρέφους τῷ Λυκάονι. μετὰ χρόνον δέ τινα δόξαι εἰσελθεῖν εἰς τὸ τοῦ Διὸς ἄβατον ἱερὸν ἀγνοήσασαν τὸν νόμον· ὑπὸ δὲ τοῦ ἰδίου υἱοῦ διωκομένην καὶ τῶν Ἀρκάδων, καὶ ἀναιρεῖσθαι μέλλουσαν διὰ τὸν εἰρημένον νόμον, ὁ Ζεὺς διὰ τὴν συγγένειαν αὐτὴν ἐξείλετο, καὶ ἐν τοῖς ἄστροις αὐτὴν ἔθηκεν. Ἄρκτον δὲ αὐτὴν ὠνόμασε διὰ τὸ συμβεβηκὸς αὐτῇ σύμπτωμα.

第 1 段落ではアルマ版の ἐπὶ τόκου をサントーニのテクストに従い 1 語の形容詞 ἐπίτοκον と読んだ。

ヘーシオドスの伝えでは、彼女〔=おおぐま座となるカリストー〕はリュカーオーンの娘でアルカディアーに住んでいたが、アルテミスとともに山々で狩りに携わる暮らしを行うことを選んだ。彼女はゼウスによって傷つけられた〔=犯された〕ものの、女神〔=アルテミス〕には知られずにともに過ごしていた。ところがのちに、入浴しているときに彼女〔=アルテミス〕に見られて、すでに出産間際であることを見破られた。これを知って女神は怒り、彼女を獣に変えてしまった。こうして熊 [アルクトス] となった彼女は、アルカスと呼ばれる息子を生む。

さて彼女は山中でさる山羊飼いたちによって捕らえられてしまい、幼子とともにリュカーオーンに引き渡されたという。いくばくかして彼女は、ゼウスの不可侵の神殿に入りこむことを思いついたが、(それを禁じる) 法を知らなかったためである。彼女は自分の息子とアルカディアー人たちとによって追われ、先述の法によってあわや殺されるところであったが、ゼウスは家族関係のゆえに彼女を救ったうえ、星々のなかに彼女を据えた。そして彼女に降りかかった (熊に変えられたという) 災難のゆえに、熊〔=おおぐま座〕と彼女を名づけたのだ。

周知のとおりアルテミスは処女神であり、自分に従う者たちにも男女問わず貞潔なることを求めた。息子の名アルカスとは「アルカディアー人」の意で、彼は始祖としてこの氏族に名を与えており、この話は一族の起源を語る縁起譚をなしている。息子の彼がこぐま座となったとする説もあるが、次の章で見るとおりエラトステネースは明らかにこれをとっていない。

なお、アルマ師の仏訳では「そして彼女に降りかかった〜」という最後の一文が欠落している。


2. Ἄρκτος ἡ μικρά〔こぐま座〕


Αὕτη ἐστὶν ἡ μικρὰ καλουμένη, προσηγορεύθη δὲ ὑπὸ τῶν πλείστων Φοινίκη, ἐτιμήθη δὲ ὑπὸ τῆς Ἀρτέμιδος· γνοῦσα δὲ ὅτι ὁ Ζεὺς αὐτὴν ἔφθειρεν, ἠγρίωσεν αὐτήν· ὕστερον δὲ σεσωσμένῃ λέγεται δόξαν αὐτῇ περιθεῖναι, ἀντιθεῖσαν ἕτερον εἴδωλον ἐν τοῖς ἄστροις, ὥστε δισσὰς ἔχειν τιμάς.

Ἀγλαοσθένης δὲ ἐν τοῖς Ναξιοῖς φησι τροφὸν γενέσθαι τοῦ Διὸς Κυνόσουραν, εἶναι δὲ μίαν τῶν Ἰδαίων νυμφῶν, ἀφ’ ἧς ἐν μὲν τῇ πόλει τῇ καλουμένῃ Ἱστοῖς τοὔνομα τοῦτο ἦν, ἣν οἱ περὶ Νικόστρατον ἔκτισαν, καὶ τὸν ἐν αὐτῇ λιμένα, καὶ τὸν ἐπ’ αὐτῇ τόπον Κυνόσουραν κληθῆναι. Ἄρατος δὲ αὐτὴν καλεῖ Ἑλίκην, ἐκ Κρήτης οὖσαν, γενέσθαι δὲ Διὸς τροφόν, καὶ διὰ τοῦτο ἐν οὐρανοῖς τιμῆς ἀξιωθῆναι.

小〔=こぐま座〕と呼ばれているその当のものであるが、ほとんどの人からはポイニーケー [フェニキア] と呼ばれた。アルテミスからは尊重されたが、ゼウスが彼女〔=ポイニーケー〕を傷つけたことを知ると、(アルテミスは) 彼女を野獣としてしまった。だがのちには (アルテミスは) 救われた彼女に名声を授け、星々のなかに (ポイニーケーの) もう 1 つの肖像を配して 2 倍の尊敬を得られるようにしてやった、と言われている。

アグラオステネースがその (著書)『ナクシオイ [ナクソス島について]』のなかで言うところでは、(この星座は) ゼウスの乳母キュノスーラで、イーデー山のニュンペー [ニンフ] たちのうちの 1 人である。ヒストイと呼ばれている町では彼女〔=キュノスーラ〕にちなんで名前がそうであった。これはニコストラトスを取り巻く人々が建設した町で、そこでは港も周囲の土地もキュノスーラと呼ばれたという。他方アラートスはこれをヘリケーと呼んでおり、クレーテー [クレタ] 島出身でゼウスの乳母となった、そのことのゆえに天上における名誉にふさわしいとされたのだとしている。

タイトルの ἡ μικρά という女性形からもわかるのであるが、エラトステネースはこの熊をメス (女性) とみなしており、本文の説明のとおりそのもととなった女性としてポイニーケー、キュノスーラ、ヘリケーという 3 名の候補を挙げている。おおぐま座のカリストーの息子アルカスは 8. で見るうしかい座になったと考えられている。つまりこの場合「こぐま」とは、おおぐま座の親熊が産んだ子供の「仔熊」ではなく、たんに大きさが小さいという「小熊」だということになる。

アルマ師の仏訳が誤訳しているのだが、おおぐま座と違ってこちらの場合、天に上げて名声を授けたのはゼウスでなくアルテミスである。それは ἀντιθεῖσαν というアオリスト能動分詞の女性対格によってわかるのである (主語がゼウスなら ἀντιθέντα でないといけない)。

第 2 段落で τοὔνομα τοῦτο ἦν「名前がそうであった」は削除したほうが文がスムーズに思われる (サントーニ版では角括弧 [·] に入れられている)。キュノスーラにちなんでそう呼ばれているのは港と周囲の土地であって、ヒストイという町の名のほうはどう関係があるのかわからない。

mercredi 11 mai 2022

アポロドーロス『ギリシア神話』(4) I.4.1–5

アポロドーロス『ギリシア神話』の翻訳と文法メモ。この記事では第 I 巻第 4 章を扱う。テクストは Perseus で見られるフレイザーによる Loeb 版を利用した。

目次リンク:第 1 回を参照。


[1] τῶν δὲ Κοίου θυγατέρων Ἀστερία μὲν ὁμοιωθεῖσα ὄρτυγι ἑαυτὴν εἰς θάλασσαν ἔρριψε, φεύγουσα τὴν πρὸς Δία συνουσίαν:

コイオスの娘たちのうちアステリアーは鶉に似たものと化して海へ身を投げた。ゼウスとの交わりを逃れるためだった。

→ 再帰代名詞。

καὶ πόλις ἀπ᾽ ἐκείνης Ἀστερία πρότερον κληθεῖσα, ὕστερον δὲ Δῆλος.

そして彼女 (の名) から以前アステリアーと呼ばれた市がのちにデーロスとなった。

→ 副詞の比較級 (というか中性形の副詞用法)。

Λητὼ δὲ συνελθοῦσα Διὶ κατὰ τὴν γῆν ἅπασαν ὑφ᾽ Ἥρας ἠλαύνετο, μέχρις εἰς Δῆλον ἐλθοῦσα γεννᾷ πρώτην Ἄρτεμιν, ὑφ᾽ ἧς μαιωθεῖσα ὕστερον Ἀπόλλωνα ἐγέννησεν.

レートーはゼウスと交わったがヘーラーによってあらゆる地の上を追われつづけた。デーロスにたどりついて最初にアルテミスを生み、彼女によって助産せられて次にアポッローンを生むまで。

→ 第 2 アオリスト分詞、(ἅ)πας の変化、時量的加音、αω 型の現在、関係代名詞、述語的同格 (前の文と違って今度の ὕστερον は副詞ではない、形容詞の男性単数対格)。

Ἄρτεμις μὲν οὖν τὰ περὶ θήραν ἀσκήσασα παρθένος ἔμεινεν, Ἀπόλλων δὲ τὴν μαντικὴν μαθὼν παρὰ Πανὸς τοῦ Διὸς καὶ Ὕβρεως ἧκεν εἰς Δελφούς, χρησμῳδούσης τότε Θέμιδος:

さてアルテミスは狩りに関する事柄を行い、処女のままとどまった。アポッローンのほうはゼウスとヒュブリスとの子パーンのもとで予言 (の術) を学んでデルポイにやってきたが、(そこでは) 当時テミスが神託を与えていた。

→ 冠詞による前置詞句の名詞化、鼻音幹アオリスト、絶対属格。

ὡς δὲ ὁ φρουρῶν τὸ μαντεῖον Πύθων ὄφις ἐκώλυεν αὐτὸν παρελθεῖν ἐπὶ τὸ χάσμα, τοῦτον ἀνελὼν τὸ μαντεῖον παραλαμβάνει.

神託の座を守っているピュートーンという蛇が、彼が大穴へと近づくことを妨げていたので、これを排除して神託の座を受けつぐ。

→ εω 型の現在能動分詞、説明の同格名詞、第 2 アオリスト分詞。κωλύω「妨げる」の従える不定詞には μή がつくことが多いはずだが (田中・松平 §587)、ここでは使われていない。

★ χάσμα「大穴、裂け目」とはデルポイの巫女が神がかりとなるためそこから湧くガスを吸っていたと伝えられるところのもの。

κτείνει δὲ μετ᾽ οὐ πολὺ καὶ Τιτυόν, ὃς ἦν Διὸς υἱὸς καὶ τῆς Ὀρχομενοῦ θυγατρὸς Ἐλάρης, ἣν Ζεύς, ἐπειδὴ συνῆλθε, δείσας Ἥραν ὑπὸ γῆν ἔκρυψε, καὶ τὸν κυοφορηθέντα παῖδα Τιτυὸν ὑπερμεγέθη εἰς φῶς ἀνήγαγεν.

そしてまもなくティテュオスをも殺す。これはゼウスとオルコメノスの娘エラレーとの息子であった。彼女をゼウスは、一緒になったあと、ヘーラーを恐れて地の下へ隠し、孕まれた巨大な子ティテュオスを光のなかへ連れだしたのだった。

→ 期間の対格、緩叙法、アオリスト受動分詞。

οὗτος ἐρχομένην εἰς Πυθὼ Λητὼ θεωρήσας, πόθῳ κατασχεθεὶς ἐπισπᾶται: ἡ δὲ τοὺς παῖδας ἐπικαλεῖται καὶ κατατοξεύουσιν αὐτόν.

彼はピュートーに来ていたレートーを見て、欲望に囚われて (彼女を) 引き寄せる。だが彼女は子どもたちを呼びだし、彼らが彼を弓矢で撃ち倒す。

→ 原因の与格、αω 型の現在中動態。

κολάζεται δὲ καὶ μετὰ θάνατον: γῦπες γὰρ αὐτοῦ τὴν καρδίαν ἐν Ἅιδου ἐσθίουσιν.

彼は死後にも懲らしめられている。というのはハゲタカどもが彼の心臓を冥府で食べているのである。

→ 単音節の唇音幹第 3 変化名詞。


[2] ἀπέκτεινε δὲ Ἀπόλλων καὶ τὸν Ὀλύμπου παῖδα Μαρσύαν.

またアポッローンはオリュンポスの子マルシュアースをも殺した。

οὗτος γὰρ εὑρὼν αὐλούς, οὓς ἔρριψεν Ἀθηνᾶ διὰ τὸ τὴν ὄψιν αὐτῆς ποιεῖν ἄμορφον, ἦλθεν εἰς ἔριν περὶ μουσικῆς Ἀπόλλωνι.

というのは彼は笛を発見して——これはアテーナーが彼女の容貌を見苦しくするというので投げ落としたのである——、音楽についてアポッローンと争うに至った。

★ 笛を吹くときに頬をふくらませた顔が滑稽だということ。

συνθεμένων δὲ αὐτῶν ἵνα ὁ νικήσας ὃ βούλεται διαθῇ τὸν ἡττημένον, τῆς κρίσεως γινομένης τὴν κιθάραν στρέψας ἠγωνίζετο ὁ Ἀπόλλων, καὶ ταὐτὸ ποιεῖν ἐκέλευσε τὸν Μαρσύαν:

彼らは勝者が欲するとおりのことを敗者に処するということで合意すると、判定がなされるときキタラーを (上下) 転倒してアポッローンは公演しだし、同じことをするようマルシュアースに命じた。

→ 絶対属格、τίθημι のアオリスト中動分詞と接続法アオリスト、完了中動分詞、クラシス。

τοῦ δὲ ἀδυνατοῦντος εὑρεθεὶς κρείσσων ὁ Ἀπόλλων, κρεμάσας τὸν Μαρσύαν ἔκ τινος ὑπερτενοῦς πίτυος, ἐκτεμὼν τὸ δέρμα οὕτως διέφθειρεν.

彼ができないでいるとアポッローンがより優れているとみなされ、マルシュアースをある背高の松の木から吊り下げて、皮膚を切りとって (=生皮を剥いで) 殺害した。

→ εω 型の現在能動分詞、不規則な比較級、νῡμι 動詞のアオリスト、不定代名詞。

★ 弦楽器と違って縦笛は当然上下ひっくりかえしたら音が鳴らない。明らかに不当な勝負。


[3] Ὠρίωνα δὲ Ἄρτεμις ἀπέκτεινεν ἐν Δήλῳ. τοῦτον γηγενῆ λέγουσιν ὑπερμεγέθη τὸ σῶμα: Φερεκύδης δὲ αὐτὸν Ποσειδῶνος καὶ Εὐρυάλης λέγει. ἐδωρήσατο δὲ αὐτῷ Ποσειδῶν διαβαίνειν τὴν θάλασσαν.

またオーリーオーンをアルテミスはデーロス (島) で殺した。彼は大地から生まれ体が巨大だったと言われている。だがペレキューデースは彼をポセイドーンとエウリュアレーとの (息子) と言っている。彼にポセイドーンは海を渡る (力) を授けた。

→ 間接話法と対格不定法、観点の対格。

οὗτος πρώτην μὲν ἔγημε Σίδην, ἣν ἔρριψεν εἰς Ἅιδου περὶ μορφῆς ἐρίσασαν Ἥρα:

彼はシーデーを最初の妻としたが、彼女を容姿について争ったことでヘーラーが冥府へ落とした。

→ 述語的同格。

αὖθις δὲ ἐλθὼν εἰς Χίον Μερόπην τὴν Οἰνοπίωνος ἐμνηστεύσατο. μεθύσας δὲ Οἰνοπίων αὐτὸν κοιμώμενον ἐτύφλωσε καὶ παρὰ τοῖς αἰγιαλοῖς ἔρριψεν.

今度は彼はキオスへ来てオイノピオーンの娘メロペーに求婚した。だがオイノピオーンは彼を酔わせ、眠っている彼を盲目にして海辺に捨てた。

ὁ δὲ ἐπὶ τὸ Ἡφαίστου χαλκεῖον ἐλθὼν καὶ ἁρπάσας παῖδα ἕνα, ἐπὶ τῶν ὤμων ἐπιθέμενος ἐκέλευσε ποδηγεῖν πρὸς τὰς ἀνατολάς.

だが彼はヘーパイストスの鍛冶場へ来て 1 人の子どもを攫い、肩のうえに乗せて、日が昇るほうへ案内するよう命じた。

→ 数詞 1 の変化。

ἐκεῖ δὲ παραγενόμενος ἀνέβλεψεν ἐξακεσθεὶς ὑπὸ τῆς ἡλιακῆς ἀκτῖνος, καὶ διὰ ταχέων ἐπὶ τὸν Οἰνοπίωνα ἔσπευδεν.

たどりついたそこで太陽の光線によって治癒せられて視力を回復し、すばやくオイノピオーンのところへ急行した。


[4] ἀλλὰ τῷ μὲν Ποσειδῶν ἡφαιστότευκτον ὑπὸ γῆν κατεσκεύασεν οἶκον, Ὠρίωνος δ᾽ Ἠὼς ἐρασθεῖσα ἥρπασε καὶ ἐκόμισεν εἰς Δῆλον:

しかし彼のためにはポセイドーンが、地の下にヘーパイストスによる家を建ててやった。だがオーリーオーンにエーオースが欲情して攫い、デーロスへ連れ去った。

ἐποίει γὰρ αὐτὴν Ἀφροδίτη συνεχῶς ἐρᾶν, ὅτι Ἄρει συνευνάσθη.

というのは彼女に対しアプロディーテーが、間断なく愛を抱くように仕向けたからである。(エーオースが) アレースと共寝したということで。


[5] ὁ δ᾽ Ὠρίων, ὡς μὲν ἔνιοι λέγουσιν, ἀνῃρέθη δισκεύειν Ἄρτεμιν προκαλούμενος, ὡς δέ τινες, βιαζόμενος Ὦπιν μίαν τῶν ἐξ Ὑπερβορέων παραγενομένων παρθένων ὑπ᾽ Ἀρτέμιδος ἐτοξεύθη.

それでオーリーオーンは、ある者たちの言うところでは、円盤投げでアルテミスに挑戦したために滅ぼされたと、またある者たちによると、ヒュペルボレオイ人たちのところから来ていた処女たちのうちの 1 人オーピスを暴行したためにアルテミスによって射られたと言われている。

→ アオリスト受動態と ὑπὸ+行為者、部分の属格。

Ποσειδῶν δὲ Ἀμφιτρίτην τὴν Ὠκεανοῦ γαμεῖ, καὶ αὐτῷ γίνεται Τρίτων καὶ Ῥόδη, ἣν Ἥλιος ἔγημε.

ポセイドーンはオーケアノスの娘アンピトリテーを娶り、彼にはトリートーンとロデーが生まれる。この後者はヘーリオスが妻とした。

mardi 10 mai 2022

アポロドーロス『ギリシア神話』(3) I.3.1–6

アポロドーロス『ギリシア神話』の翻訳と文法メモ。この記事では第 I 巻第 3 章を扱う。テクストは Perseus で見られるフレイザーによる Loeb 版を利用した。

目次リンク:第 1 回を参照。


[1] Ζεὺς δὲ γαμεῖ μὲν Ἥραν, καὶ τεκνοῖ Ἥβην Εἰλείθυιαν Ἄρην, μίγνυται δὲ πολλαῖς θνηταῖς τε καὶ ἀθανάτοις γυναιξίν.

さてゼウスはヘーラーを娶って、ヘーベー、エイレイテュイア、アレースをもうける一方、多くの死すべき者と不死なる者の女たちと交わる。

→ εω 型の現在、οω 型の現在、-νῡμι 動詞の現在。

ἐκ μὲν οὖν Θέμιδος τῆς Οὐρανοῦ γεννᾷ θυγατέρας ὥρας, Εἰρήνην Εὐνομίαν Δίκην, μοίρας, Κλωθὼ Λάχεσιν Ἄτροπον,

そしてウーラノスの娘テミスからは、娘として〈時の巡りの女神〉ホーラーたち〔複ホーライ〕すなわち〈平和〉エイレーネー、〈秩序〉エウノミアー、〈正義〉ディケーと、〈運命の女神〉モイラたち〔複モイライ〕すなわちクロートー、ラケシス、アトロポスを生み、

→ Perseus 版では ὥρας のあとがピリオドになっているが、コンマの誤記。

ἐκ Διώνης δὲ Ἀφροδίτην, ἐξ Εὐρυνόμης δὲ τῆς Ὠκεανοῦ χάριτας, Ἀγλαΐην Εὐφροσύνην Θάλειαν, ἐκ δὲ Στυγὸς Περσεφόνην, ἐκ δὲ Μνημοσύνης μούσας, πρώτην μὲν Καλλιόπην, εἶτα Κλειὼ Μελπομένην Εὐτέρπην Ἐρατὼ Τερψιχόρην Οὐρανίαν Θάλειαν Πολυμνίαν.

またディオーネーからはアプロディーテーを、オーケアノスの娘エウリュノメーからは〈優美の女神〉カリスたち〔複カリテス〕すなわちアグライエー、エウプロシュネー、タレイアを、ステュクスからはペルセポネーを、ムネーモシュネーからは〈芸術の女神〉ムーサたち〔複ムーサイ〕、すなわち長女としてカッリオペー、続いてクレイオー、メルポメネー、エウテルペー、エラトー、テルプシコレー、ウーラニアー、タレイア、ポリュムニアーを。

★ すでに 1 章 4 節で注意したとおりアプロディーテーがゼウスの娘になっている。またここではペルセポネーの母もデーメーテールではなくステュクスとされているが、それにもかかわらずのちの 5 章ではデーメーテールが失踪したペルセポネーを探して心を痛める。


[2] Καλλιόπης μὲν οὖν καὶ Οἰάγρου, κατ᾽ ἐπίκλησιν δὲ Ἀπόλλωνος, Λίνος, ὃν Ἡρακλῆς ἀπέκτεινε, καὶ Ὀρφεὺς ὁ ἀσκήσας κιθαρῳδίαν, ὃς ᾄδων ἐκίνει λίθους τε καὶ δένδρα.

カッリオペーとオイアグロスから、しかし名目上はアポッローンから、ヘーラクレースが殺したリノスと、歌うことで石や木を動かしたキタラーの弾き語り手オルペウスが (生まれた)。

→ 関係代名詞、鼻音幹の第 1 アオリスト、εω 型のアオリスト (の能動分詞)、現在能動分詞、εω 型の未完了過去。なお Perseus 版の ᾁδων は ᾄδων の誤記 (アクセントの欠如と気息記号が逆)。

ἀποθανούσης δὲ Εὐρυδίκης τῆς γυναικὸς αὐτοῦ, δηχθείσης ὑπὸ ὄφεως, κατῆλθεν εἰς Ἅιδου θέλων ἀνάγειν αὐτήν, καὶ Πλούτωνα ἔπεισεν ἀναπέμψαι.

彼の妻エウリュディケーが蛇に咬まれて死んだとき、彼は彼女を連れ戻すことを欲してハーイデースへと下っていき、(彼女を) 送りかえすようプルートーンを説得した。

→ 絶対属格句、第 2 アオリスト能動分詞、αὐτός の人称代名詞用法、アオリスト受動分詞と行為者を表す ὑπό、ἔρχομαι の第 2 アオリスト、歯音+σ アオリストの音韻変化。

ὁ δὲ ὑπέσχετο τοῦτο ποιήσειν, ἂν μὴ πορευόμενος Ὀρφεὺς ἐπιστραφῇ πρὶν εἰς τὴν οἰκίαν αὑτοῦ παραγενέσθαι:

すると彼は、もしオルペウスが自分の家に帰りつくまで歩きながら振りかえらなかったならば、そうするであろうと約束した。

→ 不定法未来、〈ἐᾱ́ν+接続法,直説法未来〉で実現可能な未来の仮定、接続法アオリスト受動態 (第 2 受動)、πρίν の用法 (高津基礎 §186.f)、再帰代名詞、不定法アオリスト中動態。ὑπέσχετο は ὑπισχνέομαι のアオ中「約束した」とも ὑπέχω のアオ中「同意した、請けあった」ともとれる。この文はいかにも初級文法の総動員という感じで練習問題におあつらえ向き、現に水谷の練習 30.5 がやや改変してはいるがこの前後を長々と利用している。しかし水谷の πρίν の説明 (§150.2) は十分ではない:この文で πρίν に対する主文は μὴ ... ἐπιστραφῇ という否定であり、このとき「〜するまで」の意味では ἕως に倣うとして §149 を参照させているが、そこの説明に従えば πρίν 節の動詞は人称形でなければならず、不定詞を従えうることは述べられていないのである。

ὁ δὲ ἀπιστῶν ἐπιστραφεὶς ἐθεάσατο τὴν γυναῖκα, ἡ δὲ πάλιν ὑπέστρεψεν.

だが彼は信じられずに振りかえって妻を見た。それで彼女はふたたび戻っていってしまった。

→ アオリスト受動分詞 (第 2 受動)、αω 型のアオリスト、唇音+σ アオリストの音韻・綴字変化。

εὗρε δὲ Ὀρφεὺς καὶ τὰ Διονύσου μυστήρια, καὶ τέθαπται περὶ τὴν Πιερίαν διασπασθεὶς ὑπὸ τῶν μαινάδων.

それからオルペウスはディオニューソスの秘教をも発見し、狂女マイナスたち〔複マイナデス〕によって引き裂かれてピエリアーのあたりに埋葬されてある。

→ 完了受動態。


[3] Κλειὼ δὲ Πιέρου τοῦ Μάγνητος ἠράσθη κατὰ μῆνιν Ἀφροδίτης (ὠνείδισε γὰρ αὐτῇ τὸν τοῦ Ἀδώνιδος ἔρωτα), συνελθοῦσα δὲ ἐγέννησεν ἐξ αὐτοῦ παῖδα Ὑάκινθον,

クレイオーはアプロディーテーの怒りに従ってマグネースの息子ピエロスに欲情し——というのも (クレイオーは) 彼女をアドーニスへの愛のことで面罵したのだ——、(彼と) 一緒になって彼から息子ヒュアキントスを生んだ、

→ 時量的加音、デポネント動詞、歯音+σ アオリスト、第 2 アオリスト能動分詞。

οὗ Θάμυρις ὁ Φιλάμμωνος καὶ Ἀργιόπης νύμφης ἔσχεν ἔρωτα, πρῶτος ἀρξάμενος ἐρᾶν ἀρρένων.

この者にピランモーンとニュンペーのアルギオペーとの息子タミュリスが愛を抱き、(男が) 男たちを愛しはじめる最初の者となった。

→ ἔχω のアオリスト、述語的同格の形容詞、喉音+σ アオリスト、アオリスト中動分詞、αω 型の不定法現在。

ἀλλ᾽ Ὑάκινθον μὲν ὕστερον Ἀπόλλων ἐρώμενον ὄντα δίσκῳ βαλὼν ἄκων ἀπέκτεινε,

しかしヒュアキントスのことはのちにアポッローンが、恋人であった彼を円盤投げのさいに誤って殺してしまった。

→ 副詞の比較級、αω 型の現在受動分詞、εἰμί の現在分詞、道具の与格、述語的同格の形容詞。

Θάμυρις δὲ κάλλει διενεγκὼν καὶ κιθαρῳδίᾳ περὶ μουσικῆς ἤρισε μούσαις, συνθέμενος, ἂν μὲν κρείττων εὑρεθῇ, πλησιάσειν πάσαις, ἐὰν δὲ ἡττηθῇ, στερηθήσεσθαι οὗ ἂν ἐκεῖναι θέλωσι.

他方タミュリスは、美貌とキタラーの弾き語りにおいて際立っており、音楽についてムーサたちと競った。もし自分がより優れていると判明したならば彼女たち全員とねんごろになるということ、一方自分が劣ったとしたら彼女らの欲するところのものをなんであれ奪われるということに合意して。

→ 観点の与格、τίθημι の第 2 アオリスト (の中動分詞)、実現可能な未来の仮定、不規則な比較級、接続法アオリスト受動態、不定法未来受動態、関係代名詞+ἄν、接続法現在。

καθυπέρτεραι δὲ αἱ μοῦσαι γενόμεναι καὶ τῶν ὀμμάτων αὐτὸν καὶ τῆς κιθαρῳδίας ἐστέρησαν.

それでムーサたちが上を行ったので、彼から両目とキタラーの技とを奪った。

→ 規則的な比較級。


[4] Εὐτέρπης δὲ καὶ ποταμοῦ Στρυμόνος Ῥῆσος, ὃν ἐν Τροίᾳ Διομήδης ἀπέκτεινεν: ὡς δὲ ἔνιοι λέγουσι, Καλλιόπης ὑπῆρχεν.

またエウテルペーとストリューモーン河 (の神) からレーソス、この者をトロイアーにおいてディオメーデースが殺した。ただしある者たちが言うところでは彼 (レーソス) はカッリオペーから出た (=カッリオペーが母である) という。

Θαλείας δὲ καὶ Ἀπόλλωνος ἐγένοντο Κορύβαντες, Μελπομένης δὲ καὶ Ἀχελῴου Σειρῆνες, περὶ ὧν ἐν τοῖς περὶ Ὀδυσσέως ἐροῦμεν.

またタレイアとアポッローンからコリュバースたち〔複コリュバンテス〕が、メルポメネーとアケローイオス (河神) からセイレーンたち〔複セイレーネス〕が生まれた。この者たちについてはオデュッセウスについての箇所で語ろう。

→ λέγω の補充形未来。


[5] Ἥρα δὲ χωρὶς εὐνῆς ἐγέννησεν Ἥφαιστον: ὡς δὲ Ὅμηρος λέγει, καὶ τοῦτον ἐκ Διὸς ἐγέννησε.

ヘーラーは夫婦の床から離れてヘーパイストスを生んだ。ただしホメーロスが言うところでは彼をもゼウスから生んだ (=彼もゼウスとの息子である) という。

★ ヘーラーがヘーパイストスを単身で生んだエピソードが、アテーナーの誕生よりさきに置かれており、したがってここではヘーラーの動機が不明である。

ῥίπτει δὲ αὐτὸν ἐξ οὐρανοῦ Ζεὺς Ἥρᾳ δεθείσῃ βοηθοῦντα: ταύτην γὰρ ἐκρέμασε Ζεὺς ἐξ Ὀλύμπου χειμῶνα ἐπιπέμψασαν Ἡρακλεῖ, ὅτε Τροίαν ἑλὼν ἔπλει.

だが彼をゼウスは天から落とす。縛られたヘーラーを (ヘーパイストスが) 助けにきたときのことである。というのはゼウスは彼女をオリュンポスから吊るしたのだ、ヘーラクレースがトロイアーを奪取したあと航海していたさなかに (ヘーラーは) 嵐を送りこんだので。

→ νῡμι 動詞。Perseus 版の Ἥρα を Ἥρᾳ に改めた。χειμῶνα が期間の対格「冬のあいだ (吊るした)」に見えてまぎらわしい。

★ ヘーパイストスを落としたのはゼウスということになっており——それもかなり理由が明確で詳しい——、ヘーラーが落とした説はまったく語られていない点が注目に値する。

πεσόντα δ᾽ Ἥφαιστον ἐν Λήμνῳ καὶ πηρωθέντα τὰς βάσεις διέσωσε Θέτις.

ヘーパイストスはレームノス (島) に落ちて歩行が不自由にされたが、テティスが彼を救済した。

→ 観点の対格。


[6] μίγνυται δὲ Ζεὺς Μήτιδι, μεταβαλλούσῃ εἰς πολλὰς ἰδέας ὑπὲρ τοῦ μὴ συνελθεῖν, καὶ αὐτὴν γενομένην ἔγκυον καταπίνει φθάσας,

またゼウスはメーティスと交わる。彼女は一緒になるまいとして多くの姿に変じるが、ゼウスは孕ませた彼女を先んじて呑みこんだ。

→ μή+不定詞、冠詞+不定詞、男女同形の形容詞、φθάνω。

ἐπείπερ ἔλεγε Γῆ γεννήσειν παῖδα μετὰ τὴν μέλλουσαν ἐξ αὐτῆς γεννᾶσθαι κόρην, ὃς οὐρανοῦ δυνάστης γενήσεται. τοῦτο φοβηθεὶς κατέπιεν αὐτήν:

というのはゲーが言っていたからである、いま彼女 (=メーティス) から生まれんとする娘のあとに生まれるであろう息子は、天の支配者になるであろうと。彼はこのことを恐れて彼女を呑みこんだ。

→ 間接話法の対格不定法、不定法未来、αω 型の不定法現在受動態、未来中動態。

ὡς δ᾽ ὁ τῆς γεννήσεως ἐνέστη χρόνος, πλήξαντος αὐτοῦ τὴν κεφαλὴν πελέκει Προμηθέως ἢ καθάπερ ἄλλοι λέγουσιν Ἡφαίστου, ἐκ κορυφῆς, ἐπὶ ποταμοῦ Τρίτωνος, Ἀθηνᾶ σὺν ὅπλοις ἀνέθορεν.

誕生の時が至ったとき、彼の頭を斧でもってプロメーテウスが、あるいはほかの人たちの言に従えばヘーパイストスが撃つと、頭頂からトリトーン河の上にアテーナーが武具とともに飛びだした。

→ ἵστημι の第 2 アオリスト、絶対属格句、道具の与格。πλήξαντος αὐτοῦ だけ読んで絶対属格と早合点しそうになるが (じっさい τὴν κεφαλήν だけでも「彼の頭を」を意味しうるので)、そうではなく Προμηθέως ἢ ... Ἡφαίστου までが属格主語。