samedi 10 décembre 2022

小林『独習者のための楽しく学ぶラテン語』練習問題解答 (2)

小林標『独習者のための楽しく学ぶラテン語』(大学書林、1992 年) の解答。このページでは第 6 課から第 12 課を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照。


第 6 課 第一第二変化形容詞


練習問題 10


(1) ポリュドールスはギリシアの詩人である。フラックスの息子マールクスにギリシア語と哲学を教えている。

(2) ポリュドールスはマールクスに偉大なギリシア人たちの話を語る。快い話はマールクスを喜ばせる。

(3) フラックスは大きな屋敷をローマにもっている。(彼は) 多くの友人たちを夕食に呼ぶ。

(4) 主人フラックスと友人たちは広い食堂で夕食をとる。彼らは多量のよい葡萄酒を味わう。

(5) 女主人と侍女たちは小さな台所で座っている。侍女たちは疲れている。女主人が尋ねる:「なぜおまえたちは食事を食堂へ運ばないの、侍女たちよ」。


第 7 課 第一第二変化名詞形容詞の別形


練習問題 11


(1) 先生がマールクスに教える:「古代のローマ人の男たちは偉大だった」。

(2) 哲学者でなければ完全で満ち足りた生活を送ることはできない。

(3) フラックスが叫ぶ:「(わが) 息子マールクスよ、おまえはなぜ哀れな人々にお金を与えないのだ」。

(4) 美しい少女たちが広場から聖なる神殿へ入る。

(5) 哀れな奴隷たちが魂の自由な言葉を発することはできない。〔miserī, servī, animī はそれぞれ miser, servus, animus の (男性) 単数属格か複数主格の可能性がある。ここで miserī が離れた animī にかかるとすれば「哀れな心 (単属) の奴隷たち (複主) が自由な言葉を」ととることも可能。〕

練習問題 12


(1) Tū es magister bonus Rōmānōrum, magne poēta.〔「良き」が「先生」にかかるとして訳したが、「ローマ人たち」にかかるならば magister Rōmānōrum bonōrum。〕

(2) Mārcus habet multōs librōs Graecōs.

(3) Magnum erat imperium Rōmae.

(4) Nostrī diī sānant miseriam.

(5) Flaccus pulchrīs fīliābus dat virōs.


第 8 課 第三変化動詞,第四変化動詞


練習問題 13


(1) 時間は逃げ去る。

(2) なぜなら手紙は赤くならないから。

(3) 彼らは教えているとき学んでいる。〔教えることは学ぶこと。〕

(4) 名声は言葉によりて心に火をつけ、怒りを積みあげる。〔dictis は dictīs の誤り。〕

(5) しかしなぜ私たちは聞いていないのか。なぜなら私たちは言っていないから。

(6) 私たちは記憶で保持できる〔=覚えられる〕のと同じ量だけ知る (ことができる)。

練習問題 14


(1) Scrībimus Flaccō multās epistulās.

(2) Dominus servōs ad amīcōs mittit.

(3) Sī multum legis, multum discis.〔問題文のヒントにある短い si は誤字。〕

(4) Ōtium gignit vitium.

(5) Nōn cupiunt stultī scientiam.


第 9 課 人称代名詞,再帰代名詞,確定代名詞


練習問題なし


第 10 課 前置詞


練習問題なし


第 11 課 未完了過去時制,語順


練習問題 15


(1) Mārcus Saturam Horātiī legēbat : « Dum vītābant stultī vitia, in contrāria currēbant. »

(2) Plautus, poēta comicus Rōmānus, scrībēbat : « Hūmānum amāre erat, hūmānum autem ignōscere erat. »

(3) Terentius dīcēbat in fābulā : « Pecūniam in locō neglegere interdum maximum lucrum erat. »

(4) Seneca scrībēbat in epistulīs : « Immodica īra gignēbat insāniam. » « Nōn vītae, sed scholae discēbāmus. »

(5) Flaccus et amīcī audiēbant prōverbia in Sententiīs Pūbliliī Syrī et rīdēbant : « Animō virum pudīcae, nōn oculō ēligēbant. » « Malō in consiliō fēminae vincēbant virōs. » « Fēminae nātūram regere dēspērāre erat ōtium. »

練習問題 16


(1) Flaccī fīlius ad [in] theātrum currēbat.

(2) Magister multa prōverbia [multās sententiās] dīcēbat, sed Mārcus nōn audiēbat.

(3) Dormiēbās ? Nōn legēbās librum ?

(4) Margarītās ante porcōs mittēbāmus.

(5) Antiquī Rōmānī linguam Graecam nōn discēbant.


第 12 課 不規則動詞,不完全動詞


練習問題なし

vendredi 9 décembre 2022

小林『独習者のための楽しく学ぶラテン語』練習問題解答 (1)

小林標『独習者のための楽しく学ぶラテン語』(大学書林、1992 年) の解答を適当に作っていく。

目次リンク:あとで


第 2 課 sum 動詞の現在,未完了過去時制


練習問題 1


(1) — Quis erās tū ? — Ego eram Gāius Licinius Flaccus.

(2) — Quis erat ille ? — Erat Mārcus, meus fīlius.

(3) — Quī erant illī ? — Erant meī amīcī.

(4) — Rōmānī erātis ? — Rōmānī erāmus.

(5) Erat deus in nōbīs.

〔(5) 以外はほとんど文が意味をなさない笑止な練習問題。これだったらたんに「未完了過去の活用を書いて練習せよ」という設問のほうがよほどよい。〕


第 3 課 第一変化動詞,第二変化動詞,possum の変化


練習問題 2


(1) Nōn salūtat.

(2) Docēmus. Sed illī nōn docent.

(3) Cūr rīdēs ?

(4) Nōn laudāre poteram.

(5) Videt et narrat.

練習問題 3


(1) あなたがたはなにを命じるのか。

(2) リキニウスは教えることができるか。

(3) 愛することが傷つけるときもある。〔aliquandō「あるとき;ときどき」が巻末語彙集に載っていない。〕

(4) 詩人が物語り、私の友人たちがほめる。

(5) 彼らは食事もし笑いもする。


第 4 課 第二変化名詞,「性,数,格」


練習問題 4


dominus : 単主 dominus, 呼 domine, 属 dominī, 与 dominō, 対 dominum, 奪 dominō ; 複主・呼 dominī, 属 dominōrum, 与 dominīs, 対 dominōs, 奪 dominīs.〔複数呼格は主格とつねに同形なので以下繰りかえさない。〕

annus : 単 annus, anne, annī, annō, annum, annō ; 複 annī, annōrum, annīs, annōs, annīs.

lūdus : 単 lūdus, lūde, lūdī, lūdō, lūdum, lūdō ; 複 lūdī, lūdōrum, lūdīs, lūdōs, lūdīs.

mortuus : 単 mortuus, mortue, mortuī, mortuō, mortuum, mortuō ; 複 mortuī, mortuōrum, mortuīs, mortuōs, mortuīs.

Brūtus : 単 Brūtus, Brūte, Brūtī, Brūtō, Brūtum, Brūtō ; 複なし。

somnus : 単 somnus, somne, somnī, somnō, somnum, somnō ; 複 somnī, somnōrum, somnīs, somnōs, somnīs.

incendium : 単主・呼 incendium, incendiī, incendiō, incendium, incendiō ; 複 incendia, incendiōrum, incendiīs, incendia, incendiīs.〔中性では単数でも主=呼なので以下省略する。〕

forum : 単 forum, forī, forō, forum, forō ; 複 fora, forōrum, forīs, fora, forīs.

templum : 単 templum, templī, templō, templum, templō ; 複 templa, templōrum, templīs, templa, templīs.

以下略。

練習問題 5


(1) Flaccus nōn amat theātrum.

(2) Mārcus meus fīlius lūdum amat.

(3) Cum Flaccus in forō est, Mārcus sedet in theātrō.

(4) Mārcus cum amīcō [amīcīs] lūdum videt et rīdet.〔主語は Mārcus の単数で、友達はあくまで前置詞句なので動詞は単数形になる。もし友達を Mārcus et amīcī [Mārcus amīcīque] のように主格で並べたならば動詞は複数 vident, rīdent でないといけない。〕

(5) Flaccus in forō amīcum [amīcōs] salūtat.

練習問題 6


(1) 言葉は飛び、文書は残る。

(2) ブルートゥスよ、おまえもか。

(3) 主の年に。

(4) 死者たちは悲しまない。死者たちは噛みつかない。

(5) 眠りのなかで火事を見ることは危険を意味する。

(6) 模範は教え、しかして命じない。〔命令によってではなく模範を示すことによって教える、模範それじたいが教育的であるということ。exempla が複数主格の主語。ただしこれを複数対格の目的語ととって、「彼らは模範を教えるが命令はしない」と解することも文法的には可能。〕

(7) おまえは愛する私の息子だ。


第 5 課 第一変化名詞


練習問題 7


ignōrantia : 単 ignōrantia, ignōrantiae, ignōrantiae, ignōrantiam, ignōrantiā ; 複 ignōrantiae, ignōrantiārum, ignōrantiīs, ignōrantiās, ignōrantiīs.

insānia : 単 insānia, insāniae, insāniae, insāniam, insāniā ; 複 insāniae, insāniārum, insāniīs, insāniās, insāniīs.

īra : 単 īra, īrae, īrae, īram, īrā ; 複 īrae, īrārum, īrīs, īrās, īrīs.

以下略。

練習問題 8


(1) Philosophia ancilla theologiae est.

(2) Nātūra docet.

(3) Poēta scientiam laudat.

(4) Ancillae rogant, respondet domina.

練習問題 9


(1) 知は力なり。

(2) 無知は有害である。

(3) 医者が治療し、自然が癒やす。

(4) わが生命こそがたしかに疑い [危機] のなかにあるのだ。

(5) 怒りは狂気の始まり。

(6) 私はひげとギリシア風マントを見るが、哲学者を見ていない。〔哲学者らしい見せかけが哲学者を作るのではない、それらを備えているからといって哲学者になるわけではないということ。〕

jeudi 8 décembre 2022

ハーヴェステラ人物名鑑

『ハーヴェステラ』に出てくる全人物名の事典。五十音順。ネタバレ多数なので注意、かならずストーリークリア後にお読みください。

ここにいう「人物」とはいわゆる人間に限らず、個性をもったひとつの人格、作中の言葉でいえば「知性」のひとりひとりを指すものとします(+一部「知能」をも含む)。作中で名前が一度でも挙がった人物名は全員載せ(姿が出ない故人なども含む)、ごく一部名前がなくても役割のある人物は含めています(「〇〇の父親・母親」は省略)。

解説はなるべく簡潔を旨とし原則 2 文までに限ったため、情報を網羅したものではありません(と、当初早く完成させるためにそう決めていたのが、あとから書き足したものほど長くなっています;ほかのも少しずつ加筆していきたい)。2024 年 8 月 27 日最終更新。


ア行


アイク (Ike)
レーテの村の男の子。忙しい両親から放置されていることを気に病んで家出したところをデュランレプスに保護された。登場:レーテのクエスト「怪しい手紙」

アイナ
ブラッカの故郷の村長の娘。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

アイン (Ein)
プレーヤーの分身である主人公。月の揺り籠で眠っていたカイン種人類の意識を、リ・ガイアによってアベル種人類の肉体(その本来の持ち主については不明)へ移し入れられた存在。登場:メインストーリー 第一話〜

蒼き髪の乙女 (blue-haired maiden)
→ イヴ

赤髪の青年 (young man with flame-red hair)
「棺の国」を組織した人物で、なんらかの手段で若返りもしくは長命を得ていたほか、「赫き病」の特効薬である銀の林檎をもっていた。不治の病に冒されたイヴを救う手段を探し求めたが叶わずに命を絶った。登場:なし(貴重品文書のみ)

アジール (Asyl)
ネメアの街の自警団の青年。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

アネモイ (Anemoi)
オートマタ。冬のシーズライトの帰化現象によって現れた 21 世紀中葉の機械。災害予測ができ、ジーグフェルド司祭はこれを利用して神託と称する予言を行っていた。登場:メインストーリー 第三話 C

アマデウス (Amadeus)
キルケゴールとともに 12 年前にブラッカの故郷の村を滅ぼした喰罪種。晩年は喰罪種としての本能に逆らって穏やかな暮らしを送り、モルドールに殺された。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

アラン (Alan)
ラケルの父。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

アリア (Aria)
西暦 2078 年の「未来」から来た科学者。「厄災」解決のため若くして人類の先頭に立ち奮闘するが、レッドクイーンの星核に触れたことで二千年あまりのあいだ魂を囚われていた。フルネームはアリア・レベンタール。登場:メインストーリー 第一話〜

アルヴァ (Alvar)
アルジェーンに住む老人。身寄りがなく、エルマを本当の孫のように思っている。登場:アルジェーンのクエスト「嘘から出た本当」

アンリ (Annie)
ネメアの孤児院の女の子。本来はしっかりした行儀のいい子だが、養子の話を断りナナに譲るために悪い子のふりをする。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

イヴ (Eve)
アリアの次にレッドクイーンに触れて「幼年体チャイルドフッド 2」となった蒼い髪の女性と思われる名前。寓話集『楽園の終わり』では「蒼き髪の乙女」と称され、赤髪の青年の妹とされる。登場:なし(貴重品文書のみ)

イザベラ
スコットのおそらく妻(エマとともに名前が挙がるため、どちらが妻でどちらが娘かは曖昧)。故人。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

イスティナ (Istina)
ネメアの孤児院の先生。元「影のアサシン」と呼ばれる暗殺者だった。登場:メインストーリー 第三話 A〜

イリス (Iris)
夏のシーズライトに関係している水の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 B〜

ヴィラマンド (Viramand)
→ シュリカ

ヴェルト゠ガイスト (Welt Geist)
→ ガイスト

エアリル (Aeril)
春のシーズライトに関係している風の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 A〜

エディ (Eddy)
ラケルをかばっていた子どもたちのうちの男の子。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

エペ
シュリカの話に出てくる、免罪花を身につけていなかったためにキルケゴールに操られることを免れた人物で、おそらく同僚の神官か。テルと同じく愛称のようで正式な名は不明。登場:メインストーリー 第三話 C
◇ 欧米語版ではシュリカのセリフに対応する内容がなく、日本語版のみの登場。性別不明だが、テルシテスと同様にギリシア神話からとられた名前とすれば、正式な名はエペイオスまたはエペイゲウスと推測され、男性か。

エマ
スコットのおそらく娘(イザベラの項を参照)。故人。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

エミリー (Emily)
不治の病で余命いくばくもない女性。詩を書くのが趣味。登場:キャラクターストーリー ディアンサス

エモ (Emo)
シャトラの酒場の歌姫。セイレーン族最後の生き残り。登場:メインストーリー 第三話 B〜

エリー (Ellie)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの女の子。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

エルマ (Elma)
アルジェーンの住民の女性。アルヴァを騙して遺産をせしめようとしていた。登場:アルジェーンのクエスト「嘘から出た本当」

オーナー (Landlord)
シャトラの酒場のオーナー。本名はニコラウス。エモを騙して働かせ、しまいには売り飛ばそうとしたり、かと思えば高価な衣装を用意してやったりと、愛憎相半ばする複雑な執着をもっている。登場:メインストーリー 第三話 B、シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

オルテラ (Otella)
ティエラの予備個体として作られた人造人間。ティエラとしての記憶ももっており、そのためにアジールに執着する。登場:キャラクターストーリー アジール


カ行


ガイア (Gaia)
科学者集団アニムスにより制作された、星そのものを計算機に仕立てたガイアコンピュータの OS。ネットワークから抽出した人類の集合的無意識が滅びを希求していると判断し、ガイアダスト(死季)を発生させた。正式名称は「星の少女 Gaia type」。登場:メインストーリー 最終話(姿は第六話も)

ガイスト (Geist)
魔族。死季解決を目指すクラウドの首班だったがロストガイアを訪れたのち変節、人類の進化を促すため「適切な滅亡」を与えようとシーズライト破壊に向けて暗躍した。敗北後の新人格は「殻の楽園」構想に方針転換し、一行に人類の真実を伝えカイン・アベルいずれが生き残るべきかの選択を迫る。登場:メインストーリー 第三話 A〜最終話(姿は第一話〜)

ガイスト MK-II (Geist Mk-II)
ガイスト旧人格が制作した小型支援デバイス。旧人格・新人格いずれの構想をも乗りこえて一縷の希望を証明した一行に、旧人格の「遺言」としてシーズライトの帰化現象や星の記憶領域仮説を伝える。登場:メインストーリー 最終話

鍛冶屋 (Smithy)
レーテの村で鍛冶屋を営む年配の女性。「中世」の村人にもかかわらずロストガイアやカレノイドの素材を知悉しており、ハイネの作った機械や銃、アリアディアンサスのもつ未来の武器さえも改良できる常軌を逸した技術力を有する。登場:メインストーリー 第一話〜

カリステフス (Callistephus)
月の揺り籠を防衛するレーベンエルベのリーダー。登場:メインストーリー 第七話〜第八話

“彼” (him, his)
地球人類ではじめて月に到達した人物(=アメリカの宇宙飛行士ニール・アームストロング)。セレーネからモノライトを託された。登場:カレノイド

キルケゴール (Kierkegaard)
表向きには季石教団の司祭ジーグフェルドと名乗る。アルジェーンの全住民を食い荒らそうとしていた喰罪種で、12 年前アマデウスとともにブラッカの故郷を滅ぼした。登場:メインストーリー 第三話 C

グラッド (Gladd)
ビスハイム商会の人間で、商会の跡取りである酒場のマスターに嫌がらせをし彼を連れ戻そうとした。登場:シャトラのクエスト「続・マスターの秘密」「終・マスターの秘密」

クラリエ (Clarie)
アルジェーン聖堂の懺悔室(のち、お悩み相談室)の担当神官で、非常なお人好し。登場:アルジェーンのクエスト「雪を積む女」「善意という名の罪」「彼女が積み上げてきたもの」

クリス
季石教団の巡礼師見習い。巡礼師の仕事についていけずバックレ、シャトラの酒場で飲んだくれているのを目撃されている。登場:ブレイクタイム

クレス (Cres)
レーテの村の医者。どこに行っても通用する腕前と評されており、ほかの街の住民からも頼られている。登場:メインストーリー 第一話〜

クロド
ブラッカの幼馴染。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

コロちゃん (Mr. Coco)
商才がないとしてコロネル族の里を追放され、行き倒れていたところをミーナに拾われた。実際にはしゃべることができ、追放もアルジェーンの宿屋にもぐりこむための偽装であった。登場:アルジェーンのクエスト「教都の宿屋の秘密」「コロちゃんの内緒話」


サ行


サファギン (Sahagin)
遠見の丘の「あやしい池」に住みつくサハギン。登場:不定(水辺バイオーム完成後)

ジェド (Jade)
リリアとともに駆け落ちの途中、海難事故により記憶を失う。もとアルジェーンの神官の家の息子。登場:シャトラのクエスト「逃避の結末」「再会の約束」

ジェームズ
アリアの父と親交があった、21 世紀後半の進化心理学者。人間のもつ心あるいは自我とは、肉体的な弱さを補償するために発生した器官だという説を唱えた。登場:メインストーリー 第六話

シェリー (Cherie)
ネメアの街に住む娘。もとシャトラに住んでいたが、幼いころ魔物に襲われる事故で両親と生き別れ、そのさいの怪我で記憶を失っていた。本来の名前はリン。登場:ネメアのクエスト「海を見たい娘」「蘇る記憶」「桜のいたずら」

ジーグフェルド
→ キルケゴール

ジャバウォッキー (Jabberwocky)
スクラップド・エデンの白い魔族。もともと大隔壁の外の世界に興味をもっており、外に出る主人公一行に同行、道案内や機械の読みとりなどに協力する。登場:メインストーリー 第五話〜第六話

ジュノー (Juno)
秋のシーズライトに関係している火の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

シュリカ (Shrika)
季石教団に所属する、「翼主の子」と称される最強の巡礼師。もと孤児であったが才能を見いだされてジーグフェルド司祭に拾われた。フルネームはシュリカ・ヴィラマンド。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

シリィ (Shirii)
冬のシーズライトに関係している土の大妖精。登場:メインストーリー 第三話 C〜

シリン (Shirin)
レーテの村外れの空き家を管理している女性。ベルクの恋人。登場:レーテのクエスト「ユーレイ屋敷のウワサ」「かえらぬ傭兵」「待ち続けたふたり」

スコット (Scott)
機械のボディに人格を移した人間。数百年前にスクラップド・エデンの閉鎖環境に嫌気が差して外に出たまま行方不明になっていた。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

ゼニス
レーテの村長が冒険者だった時代の仲間。手紙が書けなくなってからは孫のセラに代筆させていた。故人。登場:レーテのクエスト「村長のペンフレンズ」

セラ (Serra)
ゼニスの孫娘。村長の新たな文通相手となる。登場:レーテのクエスト「村長のペンフレンズ」

セレーネ (Selene)
現在の形にされるまえの月が本来有していた星の意思。シーズライトを打ちこみ勝手に月をテラフォーミングした魔族に対抗すべく、アベル種人類を生みだした。登場:カレノイド

ソフィア
高次人工知能。野蛮だったアベル種を教化するために『汎化聖典』を編纂し、季石教団の教母マザーとなった。およそ千年前にリ・ガイアに落下する以前には『楽園の終わり』プロジェクトを進めていた。登場:キャラクターストーリー シュリカ

ソルバス (Sorbus)
魔族。人口調整の任務としてある村を滅ぼしたが、それに罪悪感を覚えて孤児院に匿名でプレゼントを行っていた。(その旧人格は消去されているという意味で)故人。登場:ネメアのクエスト「消えた送り主」

村長 (Mayor)
レーテの村の村長。登場:メインストーリー 第一話〜


タ行


チャイルドフッド 1 (Childhood 1)
→ アリア

チャイルドフッド 2 (Childhood 2)
→ イヴ

ディアンサス (Dianthus)
登場:メインストーリー 第二話〜

ティエラ (Tiella)
記憶喪失でアジールに保護されていた女性。正体は生体兵器である竜を制御する OS として作られた未来の人造人間。登場:メインストーリー 第三話 A

ディム (Dim)
クレスの弟。診療所を手伝っている。登場:メインストーリー 第一話〜

デュランレプス (Duranrepes)
魔族。家出して翡翠の森にいたアイクを保護していた。登場:レーテのクエスト「怪しい手紙」

テルシテス (Thersites)
季石教団の不良神官で、シュリカの幼馴染。もともと信仰に熱心ではなかったが、教母マザーの真実を知ったことで反マザー派の首魁となり、教団を瓦解させることでシュリカの解放を狙った。登場:メインストーリー 第三話 C、キャラクターストーリー シュリカ

テレサ (Theresa)
アルジェーンに住む女の子。ラケルをかばっていた子どもたちのうちの 1 人。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

トゥイードルディー (Tweedledee)
白い魔族のなかでは珍しく新しいもの好きで、リ・ガイアに行きたがったりボディの改造パーツをほしがったりしている。登場:スクラップド・エデンのクエスト「ボクをリ・ガイアに連れてって!」

通せんぼしてた神官 (Blocking Priest)
自宅に押し入った泥棒を過剰防衛で殺害しかけ、露見を恐れ神官のふりをして家を封鎖していた青年。本名は知られず、クエスト解決後も「通せんぼしてた神官」名義で手紙を送ってくる。登場:アルジェーンのクエスト「通せんぼの真実」

トッド (Todd)
ネメアに住むシスコンの兄。妹ミシェラを過保護にしすぎて疎まれている。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

トリー
ブラッカの妹分で、ロットとは双子。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

トルガ (Tolga)
シャトラの町の灯台守だが、灯台の明かりがもとで死亡事故が起きてから気を病んで飲んだくれていた。登場:シャトラのクエスト「失われた灯火」「灯台守の罪」「未来を照らす灯火」

ドレル (Dorell)
ネメアの街に住む男性。飲んだくれのろくでなしであったが、妻モーラが天の卵に攫われて生死不明となってからは心を入れかえ彼女を探していた。登場:ネメアのクエスト「帰らぬ妻」


ナ行


謎の人物
ロストガイアのフィールド上、ランドマークタワーに酷似したビルの陰におり、「刀と鞘」を探して渡すとサムライのジョブを伝授して消える。その正体も、どれほどの期間どのようにしてロストガイアで生存していたのかも不明。登場:不定(メインストーリー 第六話以降)

ナナ (Nana)
ネメアの孤児院の女の子。姉のように慕うアンリとともにホラーツ夫妻の養子となる予定。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

ニコラウス (Nikolaus)
→ オーナー

ニナ (Nina)
酒場のマスターに恋する女性。思いこみが強く、クエストクリア後は主人公に執心しアルジェーンに移って新居を探している。登場:シャトラのクエスト「マスターの秘密」

ニバリス (Nivalis)
登場:メインストーリー 第四話〜最終話

ノエラ (Noella)
アルジェーンに住む女の子。ラケルをかばっていた子どもたちのうちの 1 人。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

ノスタルジック・プレイヤー (Nostalgia Player)
→ ファンタスマゴリア


ハ行


ハイドランツァ (Hydolanzer)
ガイストの部下の魔族。登場:メインストーリー 第二話(姿は第一話〜)

ハイネ (Heine)
シャトラの町の発明家。登場:メインストーリー 第三話 共通〜

ハース (Haas)
ミシェラの彼氏。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

バドル
ブラッカに狩りを教えてくれた兄貴分。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

バルド
悪辣な商売で財を成したビスハイム商会の会長だが、病床にありもう長くないと見られている。酒場のマスターの父。登場:シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

バン (Van)
レーテの村の男の子。登場:メインストーリー 第一話〜

バンダースナッチ (Bandersnatch)
スコットの友人であった白い魔族。登場:スクラップド・エデンのクエスト「バイバイ ヒューマン」

ビスハイム
→ バルド、フィオレ、マスター

ファンタスマゴリア (Phantasmagoria)
オートマタ。もとは幻灯園のうちノスタルジータウンというエリアのみを管轄する「郷愁再生装置」ノスタルジック・プレイヤーで、来園者の記憶を読みとり過去の幸せな思い出を見せる機能をもつ。人類が消え去ったあと、客の来ない寂しさに耐えかねてその力を頼ってきた他の AI たちを配下に収め、園全体を支配するに至った。幸福な幻影のなかで静かに眠ることこそ最善と判断しアリアたちを攻撃する。登場:メインストーリー 第六話

フィアソラ (Fiasola)
ハイネの相棒であり姉のような存在だった発明家の女性。セイレーン族。ハイネより先に潜水艦を完成させるが、深海にて消息を絶った。登場:キャラクターストーリー ハイネ

フィオレ (Fiore)
酒場のマスターの妹。ビスハイム商会を改革して真っ当な商売に立ち戻らせようとしている。登場:シャトラのクエスト「終・マスターの秘密」

ブブゼラ様 (Lord Vuvuzela)
子どもたちの宝物の泥団子を盗んだサハギン。光り物を集めてキングサハギンを目指していた。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ブラッカ (Brakka)
アルジェーンで出会う黒衣の傭兵。喰罪種キルケゴールアマデウスへの復讐を目的としている。登場:メインストーリー 第三話 C〜

ヘテロヴィリウス (Heterovilius)
登場:幻影城のクエスト「壁の向こう側」

ベルク (Berg)
レーテの村出身の傭兵で、村外れの空き家の主。シリンとは恋人。登場:レーテのクエスト「かえらぬ傭兵」「待ち続けたふたり」

ベント (Vent)
レーテの村の男の子。登場:メインストーリー 第一話〜

ホラーツ夫妻 (Hollatz)
ネメアに住む裕福な商人とその夫人。アンリを養子に引きとろうとしている。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

ボロゴーヴ (Borogove)
スクラップド・エデンの白い魔族。失われた料理の研究のため料理納品を求める。登場:メインストーリー 第五話〜


マ行


マグノリス (Magnolis)
魔族。海洋環境の保全を担当しており、海面上昇や珊瑚礁の修復などを研究している。登場:シャトラのクエスト「シャトラの危機」

マザー
→ ソフィア

マスター (Bartender)
シャトラの酒場のマスター。ビスハイム商会の跡取り息子であったが、強引なあるいは違法な商売で拡大する実家を嫌って若いころ出奔した。本名はレオン・ビスハイム。登場:メインストーリー 第三話 B〜

マスターコロネル (Chief Conellu)
シャトラの町の地下で謎の店を開いているコロネル族。コロネル人形を集めている。登場:不定(メインストーリー 第三話 B 以降)

ミシェラ (Miscela)
トッドの妹。過保護な兄が面倒になり、彼氏のことを報告できずにいた。登場:ネメアのクエスト「妹の里帰り」

ミーナ (Mina)
アルジェーンの宿屋の看板娘。コロちゃんを拾い宿屋の一室で匿っていた。登場:アルジェーンのクエスト「教都の宿屋の秘密」「コロちゃんの内緒話」

ミリカ (Milika)
レーテの村の女の子。登場:メインストーリー 第一話〜

モノケロス (Monokeros)
ユニコーンと色違いの一角獣。出生の秘密を知った結果やぶれかぶれになり「王の使い」を名乗ってアルジェーンを脅迫、ユニコーンとの一騎打ちに敗れる。登場:キャラクターストーリー ユニコーン

モーラ (Maura)
ドレルの妻。登場:ネメアのクエスト「帰らぬ妻」

モルドール
喰罪種アマデウスを殺害した人物。ブラッカの聖銃のような武器をもたなかったゆえにアマデウスを喰うことでとどめを刺し、そのため自らも喰罪種になりかけていたところをブラッカに引導を渡された。登場:キャラクターストーリー ブラッカ


ヤ行


ユニコーン (Unicorn)
ロストガイアの架空の生き物で、魔族により実験的に作りだされた存在。リデル姫に忠誠を誓う騎士であるという虚構の記憶を植えつけられており、姫を探している。登場:メインストーリー 第二話〜


ラ行


ライ (Lye)
ベルクと組んで傭兵業を行っている男性。登場:レーテのクエスト「かえらぬ傭兵」

ライト (Wright)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの男の子の片方。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ラケル (Rachel)
アルジェーンに住む女の子。もと病弱だったため過保護な両親に外で遊ぶことを禁じられていた。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

リ・ガイア (ReGaia)
地球の星核をクローンしたさいに生まれたガイアの複製体。ガイアが地球人類の集合的無意識を抽出して滅びを与えたように、レーベンエルベの集合知を学習しその「祈り」に応えるために死季の解決を目指し、両世界を知る主人公アインを導く。登場:メインストーリー 第一話〜最終話

リーザ (Liza)
ネメアの孤児院の料理担当の女性。登場:ネメアのクエスト「消えた送り主」

リスレット (Lislette)
レーテの村に住む女性。村の枯れ井戸から夜な夜な不気味な声がすることで不安がっている。登場:レーテのクエスト「井戸の呼び声」

リデル姫 (Princess Liddell)
ルイス城に住む王女ということになっている架空の人物。ユニコーンが敬愛する主君。『ルイス城通信号外』では「ルイス姫」と呼ばれている。登場:メインストーリー 第三話 閑話〜第四話、キャラクターストーリー ユニコーン

リフォーム屋 (Renovator)
レーテの村でリフォーム屋を営む青年。どんな仕事も一晩あれば片づける。登場:メインストーリー 第一話〜

リリア (Lilia)
ジェドとともに駆け落ちをした女性。出身はアルジェーン。登場:シャトラのクエスト「逃避の結末」「再会の約束」

リン (Lyn)
→ シェリー

ルイス王 (King Lewis)
ルイス城に住む国王ということになっている架空の人物。登場:メインストーリー 第四話

ルイス姫
→ リデル姫

ルリ (Lugli)
シャトラに住む女の子。シェリーの妹。登場:ネメアのクエスト「海を見たい娘」「蘇る記憶」「桜のいたずら」

レヴァン (Levan)
ロデアムと幼馴染の傭兵。登場:アルジェーンのクエスト「彼女が積み上げてきたもの」

レオ (Leo)
ネメアの孤児院の男の子。年長でみんなの兄貴分として振る舞っているが、夜にこっそり抜け出しては魔物に殺された両親の墓に参っている。登場:ネメアのクエスト「二つのヒミツ」

レオン
→ マスター

レギア (Regia)
魔族。花粉症の治療薬を研究して旅をしている。登場:ネメアのクエスト「隠れ薬師の長い旅」

レザノア (Rezanoa)
ネメアの孤児院の先生。登場:ネメアのクエスト「いたずらの真相」

レベンタール夫妻 (Lebenthal)
アリアの両親。いずれも星核研究の第一人者だったが、娘が魂を失ったあと最終的にガイアダストの解決を断念、殻の楽園構想を進める途上で臨界実験により殉死した。登場:メインストーリー 第六話〜第八話

ログ (Rog)
シャトラの灯台守トルガの息子。登場:シャトラのクエスト「失われた灯火」「灯台守の罪」「未来を照らす灯火」

ロズニー (Rosny)
イスティナの古巣である暗殺組織の女性。登場:キャラクターストーリー イスティナ

ロックス (Rox)
サハギンのブブゼラ様に宝物をとられた子どもたちのうちの男の子の片方。登場:シャトラのクエスト「サハギンを追え!」

ロット
ブラッカの弟分で、トリーとは双子。故人。登場:キャラクターストーリー ブラッカ

ロデアム (Rodeum)
商人。レヴァンとは幼馴染で、行商のさいはいつも彼に護衛を依頼している。登場:アルジェーンのクエスト「彼女が積み上げてきたもの」

ロニヤ (Roniya)
ラケルの母。登場:アルジェーンのクエスト「親の心 子の心」

samedi 3 décembre 2022

ハーヴェステラ資料翻訳集成 (0) 序論

『ハーヴェステラ』の作中には、本編には関わらないが明らかに作品世界の謎を解く鍵と目される、全部で 12 の文書が世界各地で発見される。これからそれらについて、日本語版のみならず各国語版とも比較しながら詳しく読み解いていくつもりだが——これは以前に行った「シンオウ神話翻訳集成」シリーズと同様の試みである——、その前段階として本稿ではざっと全体からわかることについて、いささか散漫ではあるが思いつくまま考察めいたことをしたためて序論に代えたい。

〔関連記事:ハーヴェステラ人物名鑑 (作中に現れるすべての個人名を集め、それぞれに短い解説を付した)。〕

貴重品欄の並びに沿って掲げるとそれら 12 件の文書のタイトルは
  • 『蒼き髪の挟まった手記』
  • 『棺の国 調査記録・前』
  • 『棺の国 調査記録・中』
  • 『棺の国 調査記録・後』
  • 楽園の終わり 一篇「永遠」
  • 『楽園の終わり 十二篇「増殖」』
  • 楽園の終わり 四十一篇「遡行」
  • 『楽園の終わり 七十五篇「無限」』
  • 『楽園の終わり 百十八篇「失楽」』
  • 『楽園の遺書の断片』
  • 『幼年体の確保報告』
  • 『プロジェクト凍結のお知らせ』
である。ただし入手できる順番——つまり制作者によって意図された情報開示の順番——にこれを直せば、まず『楽園の終わり』の 12, 41, 75, 1、次に『棺の国』が中・前・後の順、それから『蒼き髪』、『遺書の断片』、『凍結のお知らせ』、最後がラストダンジョンで手に入る『幼年体の確保報告』となる。いま挙げられなかった『楽園の終わり』118 は爆弾 Lv. 2 さえあればいつとりにいっても構わないが、敵のレベルを考えればだいたい『凍結のお知らせ』の前か後に入るだろう。


文書の成立順の特定


するとなぜ入手順と並び順が大きく異なっているかがひとつの問題となる。『楽園の終わり』の順番は番号順、『棺の国』も前中後のほうが見やすいから直したというのはわかりやすいが、それだけなら『楽園の終わり』1, 12, 41, 75, 118、『棺の国』前・中・後、そして『蒼き髪』など残りの文書という順番でも構わないはずだ。

そうではなく『蒼き髪』を最初に出して次に『棺の国』、それから『楽園の終わり』と逆転しているのはなぜかと考えてみると、2 通りの理由が想定しうる。それは 12 の文書をぜんぶ集めきったあとにこの順に読めば全貌の理解が容易になる、そういう体系的な順番に整理したのだということ。そしていま言ったことと無関係ではないのだが、おおよそそれが作中における文書の成立順とも一致しているのだと思われる。文書の書かれた年代の順番に読めばわかりやすいというのはもっともなことだろう。実際にはこの 2 つの理由の折衷だと思われる。

もう少し詳しく流れを見ていこう。最後の『凍結のお知らせ』によれば、『楽園の終わり』という説話集は高次人工知能ソフィア——これはのちの季石教団の教母マザーと同じ名前だが——によってアベルのために編纂されたものである。その内容が「アベル種に対する不適切な情報開示」になるおそれがあるということでプロジェクトは差し止められたということだから、当然まず『楽園の終わり』が成ったあとにそれを検閲した結果『凍結のお知らせ』に至ることになる。

『楽園の遺書の断片』とあわせて考えれば明らかに、『楽園の終わり』は実際に起こった複数の (おそらく 118 ヶ所の) 楽園の崩壊の事実をもとに、それを寓話の形に仕立てたものである。そのさいソフィアがもとにしたデータが『遺書の断片』そのものであるかは不明だが、魔族の勤勉さを考えると記録じたいはおそらく楽園の崩壊が発覚したあと遅滞なく行われたであろうから、これに限っては成立順と貴重品欄の並びが反転していると考えられる。

さて『楽園の終わり』のなかでも第一篇に着目すると、ここには明らかに『蒼き髪の挟まった手記』の内容と顕著な符合が見られる。『手記』じたいはその蒼い髪の女性当人による証言と考えるのが素直なので、その人が生きて字を書けた時期のものとみなさねばならない。それはむろん〈第 1 の楽園〉が崩壊するまえのことであって、彼女らの楽園の滅亡をもとに『楽園の終わり』1 が書かれたわけであるから、ここの前後関係はおのずから明らかである。

『手記』『棺の国』『楽園の終わり』を総合して考えれば、蒼い髪の女性を助けるために赤髪の青年が銀の林檎をもって楽園を巡る旅に出た、その途上で彼を指導者とする棺の国が成立していったという筋書きが見えてくる。総じてこれらは謎めいた文書であって、たとえば「銀の林檎」とは何物なのかといった不明な点は数多くあるが、いま言ったところの大枠の流れについては比較的明瞭に読みとれる。

『棺の国 調査記録』は、「棺」と呼ばれる謎の移動国家に興味をかきたてられて調査に出た、ある楽園の住人による記録である。この人は最終的に「棺」の長である赤髪の青年に接触し、彼から得た「銀の林檎」をもって出身の楽園に戻る。このことからわかるとおり、この文書は赤髪の青年が棺の国を組織したあと、まだ無事な楽園が残っていたころの記録なのであって、『手記』と『楽園の終わり』の中間の時点に位置づけられねばならない。

以上によって成立の時系列はほぼはっきりした。『蒼き髪の挟まった手記』『棺の国 調査記録』『楽園の遺書の断片』『楽園の終わり』『プロジェクト凍結のお知らせ』、この 5 つの成立順はこれで確定する。残されたのは『幼年体の確保報告』の位置づけだけであるが、じつはこれがかなりの難問なのである。


『幼年体の確保報告』という外れ値 (アウトライア)


『幼年体の確保報告』は形式的にはもっとも短い文書であって、内容としてもほかの文書からはほとんど独立している。「イヴ」という名前が『楽園の終わり』41, 118 と共通している——それを介して間接的に『蒼き髪』ともつながっている——以外には明示的な関連がまるでない。むしろこれは、メインストーリー第六話の星核螺旋研究所において明らかになったアリア意識喪失後の情報を補完し、それを『蒼き髪』へと接続していく役割をもっているのであろう。

したがって内容の点から見ればこれは全体の外側、つまりいちばん最後に置かれるほうが合理的でないかと思われる。そもそも『凍結のお知らせ』は『楽園の終わり』と直接的関係がある文書なのだから、『楽園の終わり』『遺書の断片』『凍結のお知らせ』はひとまとまりにされるほうが自然である。また入手順=ゲームの都合から言っても、『確保報告』は最後に手に入るアイテムであるから最後に置かれるのが自然である。にもかかわらず、あえて間に挟まる不自然な位置に置かれている理由はなんだろうか。体系順でも入手順でもない、それら両方に反してでもあえてここに並べられた理由とはなにか。

可能性としてはいくつか考えられる。まずこれまで論じきたったとおり、ほかの文書がおおよそ成立順に並んでいることと比べるなら、この『確保報告』も同じで、体系順より成立順が優先されたのだと考えれば全体に説明がつく。それはすなわち、『確保報告』はソフィアが『楽園の終わり』を完成させてから「寓話製造プロジェクト」が凍結されるまでのあいだの時点に成ったのだ、ということを示唆する。これは少々想像がゆきすぎかもしれないが、有意味な結論を導くという点で私としては本命の説である (後段で改めてその帰結を論じる)。

それともまた、このままでじつは体系順になっているのだという可能性もある。つまり私がまだ正しく諸文書を解釈できていないだけであって、じつは「イヴ型幼年体」云々は私の考える以上に密接に『楽園の終わり』と関連しているのかもしれない。もとより『楽園の終わり』とはイヴのために赤髪の青年=赤き蛇が策動する物語なのだから、関連が存することじたいは論をまたないのであるが。あるいはそもそも順番に深い意味などないのかもしれない。


イヴが月の揺り籠に届くまで


いずれにせよ『幼年体の確保報告』をほかの文書とあわせ読むことでわかる全貌を、全体のまとめがてらに解説してみよう。それはガイア滅亡後の最初の千年間——後述するように二千年間ではない——の失われた歴史の輪郭とも言いかえられる。

『手記』および『楽園の終わり』1 に見られるとおり、蒼き髪の乙女=イヴは不治の病に冒され余命いくばくもなかったが、彼女を救うため「永遠」を求めた赤髪の青年によって、「女王」=レッドクイーンに引きあわされた。その結果アリアとまったく同様に、魂とでも呼ぶべきものを星核に囚われて幼年体「チャイルドフッド 2」と化す。星核螺旋研究所での情報やアリアのキャラクターストーリーから見えてくるように、この状態になった「幼年体」は脳の動きがまったく停止したまま、体だけは生きつづけるらしい。

だが『楽園の終わり』118 にあるとおり、最終的に赤髪の青年=赤き蛇は求めていたものを見いだせずに終わり、「棺の国」は空中分解して 1 人となった彼は失意のなか「赫き霧」となって消える。そうなるまでのあいだイヴはおそらく、赤髪の青年が指導者を務める「棺の国」で庇護され存在を秘匿されていたのだと思われる。彼が研究者の手にみすみすイヴを委ねるとは思えないからだ。彼が消えてしまったあとはじめて発見されたイヴは「新たな幼年体」として「確保」された、それが『確保報告』なのであろう。ちなみに確保されたイヴが保存されている「オービタル・クレイドル」とは月の揺り籠の英名である。

ここで不審を抱いた読者もいるかもしれない。そもそも「棺の国」=月の揺り籠なのではないのか、そう考えれば赤髪の青年によるイヴの秘匿などという根拠のない想像を差し挟まずとも簡潔に解釈できるではないか、と。みずからこれらの文書を考察しようと試みた人ならいちどは思い至ったであろう発想である。

『棺の国 調査記録・前』によれば「彼の国は大地を東から西へと歩んでいく」とある。東から西に進むといえば、誰しも太陽や月を思い浮かべるはずだ。そして月の揺り籠に並んでいるカイン種人類の眠るポッドはたしかに棺桶を連想させるところがある。だから棺の国=月の揺り籠と考えてみれば、赤髪の青年はその長=揺り籠の管理者としてイヴ=チャイルドフッド 2 をポッドに収めた、この時点でただちに『確保報告』と相成った——ひょっとすると青年自身が報告者だったかもしれない——と考えれば流れとしては成立する。

だがそれはさまざまな点で諸文書の描写と食い違っている。まず棺の国の構成員は「ひとりひとりが棺をかついでおり、その有様はまるで幽鬼の葬列のようだ」と言われている。ポッド=棺のなかにすっぽり入っていることを「担いでいる」と称するのははなはだ無理があるし、「葬列」というのも長い列をなして行進するものであるから、縦横に並び全体で円形をなして静止している月の揺り籠の様子には少々似つかわしくない。

『調査記録・中』で「“棺” の目的は楽園の記録の調査」と言われていることともそぐわない。ポッドを保管する目的の揺り籠が外部に手出しをする理由などないからだ。作中でも月の揺り籠には直下の幻影城から軌道エレベータを起動して昇っていったとおり、揺り籠のほうから積極的に外部と行き来する手段は確認できない。同じく『中』によれば、棺の国は楽園を訪れるごとに「新たな棺を葬列に加え」ているが、このようないわば新国民を順次増やしていくというところも揺り籠らしくない。揺り籠に新たな搭乗員を募る余裕などないであろう。このように、閉鎖的で静的な揺り籠に対して、棺の国はある意味積極的で拡張的であるという、顕著な対照がある。

もうひとつダメ押しに、『楽園の終わり』118 において「棺の列はやがてほつれていき、果てには赤髪の青年だけが残っていた」と言われている。これに対しレーベンエルベの管理のもとカイン種人類を未来のために保存している揺り籠のポッドであれば、勝手にばらばらになって解散してしまうなどという事態は考えられない (揺り籠は複数あるとガイストが言っていたが、そのいずれであっても)。だいいち人間である彼が揺り籠の「長」として起きて活動しているということからして奇妙ではないか。以上のとおり、棺の国を月の揺り籠とみなすことは不可能である。

というわけで私は、『確保報告』の記すとおりイヴが月の揺り籠に確保されるまでのあいだ、赤髪の青年はどこかべつの場所で彼女を秘密裏に隠していたのであろうと考えざるをえなかったのである。もともと彼ら 2 人が「女王」に会いにいったあとの足どりは知られていない。棺の国がどんなものかは結局わからないが、移動国家の長というくらいだから匿うことじたいは可能だったであろう。話は前後するが、じつはこの秘匿という発想はもともと先述の成立順についての考えから導かれたものなのである。

『調査記録・後』において棺の国の長である青年は、「成立時期を考慮すると計算が合わない」ほど異常に若いと言われている。こう表現されるからには少なくとも数十年か、ひょっとすると数百年前から棺の国は存在しているのであろう。そして幼年体イヴはそれだけのあいだ彼のもとで匿われていた。そう考えることが成立順とも符合していることを次に見ていこう。


諸文書の成立時期と、凍結された『楽園の終わり』がなぜ出回っているか


ガイアが滅びてから作中の現在に至るまでには二千年の時が流れているわけだが、諸文書の成立時期はもっと絞りこむことができる。なぜなら『楽園の終わり』はソフィアがアベル種のために編纂したもの、つまり魔族が埋めこんだシーズライト 4 機の働きによってリ・ガイアにアベル種人類が発生してから、ソフィアがリ・ガイアに墜落するまでのあいだに準備されたものだからである。

シュリカのキャラクターストーリーで語られるとおり、ソフィアはその後なんらかの事故によって軌道上から落下、リ・ガイアに墜落して季石教団の教母マザーとなる運びとなるが、それがおよそ千年前という話である。この時点で彼女は衛星軌道上のレーベンエルベとは連絡が切れ、聖堂地下の開かずの間に籠もり独自にマザーとしてアベル種人類を教化していく。ルイス城の魔族が配り制御しているはずのモノライトの使用を季石教団が差し止めようとするとか、季石教団の司祭の不祥事をルイス城通信が後追いで糊塗するとかいった、ちぐはぐな動きから魔族とマザーは連携がとれていないことがわかるからだ。

したがって時系列としてはこうなる。千年以上前、ソフィアがまだ軌道上にいたころ古代アベルのために『楽園の終わり』を編纂するが、上位権限によりプロジェクトが凍結される。『お知らせ』には「処置:人工知能ソフィアの凍結」と書かれているとおり、これは寓話集編纂事業のみならずソフィアという AI そのものが停止されたのである。だがちょうど千年ほど前、なんらかの事故によってソフィアはリ・ガイアに落下、魔族からは行方不明となる。いちばん新しい『お知らせ』がそれより前ということは、結局すべての文書が千年以上前のものであることになる。

ちなみにこの事故でレーベンエルベのシステムと物理的につながりが切れたおかげでソフィアの知能は復活したのだと考えられる。アベル種に広めるべきでないとして差し止められたはずの『楽園の終わり』が結局リ・ガイアに流布されているのはこういうわけで理解できる。おそらくソフィアが寓話製造プロジェクトごと凍結されるとき、どうせ凍結される彼女にはプロジェクトの処遇までいちいち通知されなかったのであろう。『楽園の終わり』を広めるな、という命令を受けることはなかったわけである。受けたのに通信途絶をいいことに自己判断で勝手に変更した、と想定するよりはこのほうがもっともらしいだろう。

現在私たちがもっている、最終的にリ・ガイアに流布された『楽園の終わり』が、千年以上前に作られた当初のままかどうかは定かでない。マザー=ソフィアは野蛮だったアベル種に道徳を教え啓蒙するために、改めて地球の諸宗教をベースに『汎化聖典』を編纂したが、説話集『楽園の終わり』のほうもその季石教団の教えに沿う形で微調整したということは十分に考えられるだろう。しかしともかくそれはわかりようのないことなので話を戻そう。


文書の配列の意図


最古の『蒼き髪』と次の『調査記録』、そして『調査記録』と『楽園の終わり』とのあいだには、それぞれ数十年から数百年の隔たりがあるはずである。前者についてはさきにも触れたとおり、『蒼き髪』のあと赤髪の青年は楽園を巡る旅を始め「棺の国」を組織するに至り、『調査記録』では異常に若いと評されているから。後者については『調査記録』のあとすべての楽園が滅びて「棺の国」が解散、赤髪の青年が絶望して消えてしまうほどの時間、さらにそれが判明して『楽園の終わり』としてまとめられるだけの時間を要するからである。

ここでだいぶまえの話に戻るのだが、赤髪の青年は消えてしまうまでのあいだ「イヴ」を秘密裏に保護していたはずだ、というのが私の考えであった。そうするとこの秘匿が解けたタイミングで『幼年体の確保報告』が来ることになる。『楽園の終わり』118 が事実とすれば、赤き蛇=赤髪の青年が消え去るとともに最後の楽園も終わる、それはとりもなおさず (断片となるまえの)『楽園の遺書』が完成した瞬間でもある。楽園の滅亡が記録されるのとイヴが確保されるのは事実上同時のことである。

これにて全体の成立順は『蒼き髪』『棺の国 調査記録』『楽園の遺書』『幼年体の確保報告』『楽園の終わり』『凍結のお知らせ』とすべて判明したことになった。そのうえでゲーム中の貴重品欄の表示順は、話を理解しやすいように『楽園の終わり』だけを 2 つまえに移動させた、なんとなれば『遺書』と『確保報告』はそれぞれ『楽園の終わり』12 と 41, 118 をさきに見せておいたほうが効果的だから、というところで並びの意味は解決ということにしたい。


より大きな謎の数々


以上で私は資料とストーリーから読みとれることをもとに、なるべく不確かな想像を加えることなく確実にわかることだけを論じるようにしてきた。唯一重大な仮定に頼ったのは、『確保報告』の位置を決定するために「青年はイヴを秘匿していたはずだ」とした部分だけであり、それ以外については作中の情報から文字どおり読みとれることとその論理的帰結のみを基礎としたつもりである。

しかるにこのようなただでさえ謎めいた文書群を相手にするにあたって、堅実な論理だけで突き止められることはあまり多くない。たとえば私は「棺の国」が月の揺り籠ではないということを論証したが、では「棺の国」とはなんなのかという、もっと大きく興味深い謎についてはなんら答えを与えられないでいる。赤髪の青年とは、蒼き髪の乙女とは誰か、銀の林檎とは何物でそれが「絶望」だというのはいかなる意味か、といった疑問についてもしかり。これが論理の限界であって、いっそう真実に迫るには想像力が必要とされる——、そう認めざるをえない (もっともこれで作中の情報を余すところなく使いきったというには時期尚早なので、なお突き詰められる部分はありそうだが)。

そうした疑問について語りたい思いつきはまだまだあるのだが、それにしてもこの記事はすでにかなり長くなってしまった。このあたりでいったん筆を擱いて、次回の記事から改めて、ひとつひとつの文書についてより細密な検討を始めることにしたい。

samedi 5 novembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (4)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) 練習問題解答の補足解説。この記事では第二週後半 (第五日〜第七日、週末訳読) を扱う。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第五日


練習 47. (109 頁)


単語欄の誤字:νεός, ᾱ́, όν の女性語尾のアクセントを欠く。

9. ζῷων のアクセントは ζῴων の誤り。τὰ μὲν ..., τὰ δὲ ... は ὁ μὲν ..., ὁ δὲ ...「ある者は……、またある者は……」の中性複数版。

10. δικαίου πολῑ́του は属格だけで「正しい市民の務め・なすべきこと」を意味する;これは練習 29-6. のように ἔργον のような名詞が省略されていると思ってもよい。文全体の骨格は κρῑ́νω だけが外側にあって、残りは対格不定法の被引用文。その主語が λαμβάνειν で動詞は不定詞の εἶναι で δικαίου πολῑ́του が述語、あとはすべて λαμβάνειν の目的語。


練習 48. (111 頁)


5. 解答に誤字:εὐεργασίᾱς → εὐεργεσίᾱς。


112 頁最下行:ἐτίμησα → ἐτῑ́μησα。


練習 49. (114 頁)


4. ἀξιόω は「対格の人や物が属格の報奨に値する」というのが基本であり、ここは属格の部分が不定詞に変わって「対格の人や物が〜するにふさわしい」という語法で、τὴν Πύλον がいわば対格主語で τειχίζεσθαι は受動態の不定詞「ピュロスが防衛強化されるにふさわしい」と見るのがよい。τειχίζεσθαι が中間態で τὴν Πύλον はその直接目的語として「(デーモステネースが自国のために) ピュロスを防衛強化する」ととるのは、不可能ではないかもしれないが必然性はない。

10. これは日本語にしても少々意味不明の文であるが、ニーキアースは前 4 世紀後半に活躍した画家で、自分が風呂に入ったか・食事をとったかどうかさえ忘れるほど仕事に没頭していたということ。原文はプルタルコス『モラリア』第 10 巻 (京大出版会の西洋古典叢書では第 9 巻所収) 786B–C 改変。


練習 50. (114 頁)


2. 誤字:ἐντεφανοῦντο → ἐστεφανοῦτο。語尾も間違っているので注意 (3 複 -‍ντο ではなく 3 単 -‍το)。

5. 問題文も解答もおかしい。「弓と投槍(τόλμη, ης, ἡ)と楯を用いて」に対し解答は « τόξοις καὶ παλτοῖς καὶ τόλμαις » となっているが、解答のとおり投槍は παλτόν であるし、τόλμη は投槍でも楯でもない。楯を意味するもっとも普通の語は ἀσπίς, ίδος, ἡ で (本書巻末語彙集にも出ている)、これを用いれば複数与格 ἀσπίσιν である。この曲用 (第三曲用歯音幹) はちょうどこの第二週第五日 §67 に出ているので、出題意図としてもおそらくこれが本来の正答であろう。


第六日


117 頁 χαρίεις の曲用表に誤字:中複主・呼 χορίεντα → χαρίεντα。


練習 51. (119 頁)


1. 現在不定詞 εἶναι は、副詞 πάλαι「昔」があるから時間としては不完了過去=「過去における現在」として訳す。このように現在と不完了過去は基準点がスライドしているだけなので不完了過去の不定詞は存在しない。過去完了の不定詞がないのも同じ理由による。◆ 動詞は受動態の λέγεται であるから、τὰ ζῷα は主文の主語 (λέγεται の主語) でもあり被引用文の主語 (εἶναι の主語) をも兼ねているというわけで、したがってこれと一致する述語の φωνήεντα は中性複数主格である。ここで動詞をもし λέγουσι という能動態の 3 複「一般に人々は〜と言っている=〜と言われている」に取りかえたとすれば、残りの単語の形はすべてそのままで τὰ ζῷα と φωνήεντα は中性複数対格と解釈されるわけである。

2. « δὶς παῖδες οἱ γέροντες »「老人は 2 度子ども (になる)」という格言そのもののほうが有名だと思う。老いると子どものときのように世話が必要な状態になるということ。

5. 注 (ロ) のようなことを形容詞の述語的用法と呼び、ふつうに修飾する限定的 (属性的) 用法に対する。これと関連して、形容詞の位置について冠詞と名詞との外側に置かれる形を述語的位置、内側もしくは冠詞をもう 1 つ使って修飾的に働く位置を限定的位置と呼ぶ。今回は述語的位置にあるから述語的用法として副詞的に訳すわけである。


練習 52. (120 頁)


5. 今度は ῎ᾱκοντας は限定的位置にあって「いやがる兵士たち」という修飾になっている。これをもし ῎ᾱκοντας τοὺς στρατιώτᾱς のように外側に出してしまうと述語的 (副詞的) になって、「兵士たちがいやがりながら進軍するよう命じた」という滑稽なことになってしまう。


123 頁 14 行:書たれた → 書かれた

124 頁 1 行:表わはす → 表わす


練習 53. (125 頁)


2. πέφῡκεν は φύω「生む」の完了受動態で、「生まれてある=生まれついている、生来そういう性質である」ということ。ここでは不定詞を伴って「〜する性質である、〜するのが自然である」。

6. 後段は、ἐπ’ ἴσᾱς ἡδονᾱ̀ς ἄγουσα が「同じ楽しみへと導くことで」という理由や手段を表す分詞句で、現在能動分詞 ἄγουσα は ἰσότης に一致した女性単数主格になっている。なお φιλίᾱν のアクセントが抜けている誤字。

8. ὀλίγον χρόνον「短い時間のあいだ」は期間の対格。

9. ἄνθρωπος ἀτυχῶν は無冠詞であるから、この分詞は模範解答のように「不幸なときには」と述語的にもとれるし、「不幸な人間は」と限定的にとることも許される。σῴζεθ’ は σῴζεται の末母音 αι が省音され、子音 τ が後続の有気音 ὑ の直前に立つことになったために同化して帯気音となった形 (§28)。


練習 54. (125 頁)


1. 解答に誤字:μεγλάῃ → μεγάλῃ、また文末のセミコロン · もピリオドの誤り。

2. 解答に誤字:έστρατευόμεθα の語頭を ἐ に。


第七日


練習 55. (129 頁)


単語欄のうち ποιητής, ου, ὁ が οῦ のアクセントを欠く。

1. θανάτου は価値の属格とみなしうる:「死に値すると判断された=死刑の判決を受けた」。

5. 巻末語彙集の「τροφός, ός, όν 養う」というのは少々わかりにくい語釈だが、語尾が 3 つあることから形容詞であって「養う (ような)、育てる (ような)」という意味の語。模範解答のとおり女性形としては「乳母」という女性名詞として定着しており、また中性形は「食物、栄養」の意味で使われる。復習になるが αὐτῆς が冠詞の内側に入っている限定的位置なので「同じ乳母」の意。外側 (述語的位置) であればもちろん「その乳母本人によって」という意味になる。

9. ἡγέομαι は語頭が長母音なので加音がついても変わらないから時制の区別に注意。3 単は現在なら ἡγεῖται だが、語尾が違って ἡγεῖτο なのでこれは不完了過去である。ちなみに完了なら ἥγηται、過去完了は ἥγητο であり 4 つとも非常によく似ている。また αὑτῷ の気音も見落とさないように (=ἑαυτῷ、再帰代名詞「彼自身に」)。◆ その彼が課せられたと考えている内容も少々難しい:査察し尋問する対象の人々が対格で言われており、この人たちはまず τοὺς οἰομένους「思っている人々」なのだが、どう思っているのかというと εἶναι σοφούς「(自分たちが) 賢いと思っている」、これはさきの対格主語に一致した男性複数対格なので自身のことだとわかる;そして続きが ὄντας οὔ であって、これは be 動詞に補語の σοφούς が省略されている形で、「(実際には) 賢くはない」というわけである。μέν ... δέ があるので「思ってはいるが実際はそうではない」という対比になっている。◆ 否定辞 οὐ はふつう無アクセントだがここでは文末に立っているのでアクセントがある:この語は後接辞 (§11) であってふつう後ろの語とあわせて発音される、つまり後ろに寄りかかる語なのでアクセントがないのだが、文末の場合は寄りかかるさきがないので自分で立っているというわけ。

10. 注 (ヘ) に誤字:女性名詞があるが → であるが。この注によれば Οἰνόη を受けている αὐτῷ は「地名だから中性」なのだという。これに関して、代名詞の性の用法として直接の説明は見いだせなかったが、Smyth, Greek Grammar, §1049 に、地名を受ける述語的形容詞が中性になるという例が出ている:ἔστι δὲ ἡ Χαιρώνεια ἔσχατον τὴς Βοιωτίᾱς.「カイローネイアはボイオーティアー地方の端にある」。また本問の場合、αὐτῷ に同格の説明として中性与格 φρουρίῳ が結びついているから、このつながりからも中性形のほうが収まりがよい一種の牽引という側面をも指摘できる (じっさい E. C. Marchant の注解は簡単に、この αὐτῷ は先行詞ではなく述語の性に従っていると言っている)。文の出典はトゥーキューディデース『歴史』2.18.2 で、原文 (一般的なテクスト) では αὐτῷ φρουρίῳ οἱ Ἀθηναῖοι という語順なので 2 語のあいだがいっそう緊密であり、これであれば性の牽引という説明がさらにもっともらしい。

ところでこの練習問題では完了時制がたくさん出てきたので、それが過去とは意味あいが違うということを確認しておこう。たとえば 4. の τέθαπται「葬られてある」というのは、アオリスト ἐτάφη が単純に歴史的事実としてマケドニアに「葬られた」というのとは違って、葬られた結果いま彼の遺体かなにかは現在その場所にあるということ、少なくとも話者はそう観念して言っているというわけである。6. の συντέτακται は「整理された結果として現在整っている」というわけで、「過去に整理された (が、それから乱れた可能性がある)」というのとは違う。同様に 7. βεβλάφθαι は「傷つけられた結果現在もその傷が残っている」、8. κέκρυπται は「隠された結果現在も隠れたままである」ということを言っている。2. καταλελειμμένοι ἦσαν や 10. ἐτετείχιστο のように過去完了であれば、その過去の時点において見て、「残された結果としてそのときキューロスのそばにいた」「築城された結果そのとき防壁があった」ということ。


練習 56. (130 頁)


3. τὸν πόδα は限定の対格「片足において」。


131 頁最下行:「未来及び完了」とあるが、命令法に未来はないので「未来及び」を削除。


練習 57. (132 頁)


8. 前半は οὐ μόνον ..., ἀλλὰ καὶ ...「〜だけではなく〜をも (英 not only ..., but also ...)」の否定辞 οὐ が命令法のため μή に変わっただけの形。分詞を否定する 2 つめの μή は一般論的に「およそ妬まないような者たちを」の意 (125 頁注 (イ) を参照)。◆ 後半に入って、現在能動分詞の男・中性複数与格は直説法現在能動態の 3 複と同形となるためややこしいが、ἀτυχοῦσι と πρᾱ́ττουσι は分詞の男複与「不幸である人々と」「行っている人々を」であるのに対し、φθονοῦσιν は直説法の動詞「妬んでいる」である。コツとしてはやはり μὲν ... δὲ ... は対比を表すわけだから形式としてもパラレルになるのがふつうで、ここでは 2 種類のタイプの人々が同じ男性複数与格の現在能動分詞で言われていて、残りは主動詞という仕組みである。

10. 模範解答は「兄弟を真の友と思え」となっているが、τοὺς ἀληθινοὺς φίλους のほうが冠詞つきなのであるからこちらが主語で「真の友は兄弟だと思え」のほうがよいはずである。それに命令の相手である「君」の兄弟たちがさきに念頭に置かれているのであれば、所有の意味の冠詞がつく τοὺς ἀδελφούς が自然であるから、その点でも解答はやや無理がある。


練習 58. (133 頁)


4. ἔλθετε は ἔρχομαι の命令法 2 アオ 2 複で、直説法の 2 アオ ἦλθον から加音を落として短い ε となった形 (不定法 2 アオ ἐλθεῖν において加音なしの本来の形がわかる)。ἀγγέλλω のほうも命令法アオリスト ἀγγείλατε でも構わないと思う。


週末訳読


ΔΥΟ ΠΗΡΑΙ (133 頁)


1 行:ἕκαστος は男性単数主格ゆえ主語の ἄνθρωπος に一致した述語的同格「人はそれぞれ」。また δύο πήρᾱς (および表題の δύο πῆραι) は「2 つ」であるが名詞は双数形ではなくふつうに複数形で言われていることにも注目したい。かならずしも双数を使う必要はないのである。

2–3 行:ἑκατέρᾱ ならびに次の文の ἡ μὲν ἔμπροσθεν と ἡ δὲ ὄπισθεν はむろん πήρᾱ が省略されているから女性単数主格なのである。ἀλλοτρίων と τῶν の (中性) 複数属格は κακῶν が省略されているから、そして属格目的語をとる動詞 γέμει をも省略されているから属格になっている。


ΕΚ ΤΟΥ ΕΥΑΓΓΕΛΙΟΥ ΤΟΥ ΚΑΤΑ ΜΑΘΘΑΙΟΝ (134 頁)


VII,7–8:きわめて有名な文句なので訳じたいに困難はなかろう。ただ、αἰτεῖτε, ζητεῖτε, κρούετε という命令法の動詞がいずれも時制は現在であるということは特筆に値する。命令法アオリストではなくて現在で言われているのである。つまり αἰτεῖτε であればたんに 1 回だけ「求めよ」というのとは違って、何度も継続的に「求めていろ、求めつづけろ」という意味なのであり、1 回求めただけで簡単に与えられるのではなく、不断に求めつづけなければ得られないのである (cf. D. A. Hagner, Matthew 1–13 [Word Biblical Commentary 33A], p. 174)。

VII,15–20:下から 3 行 ποιοῦν は現在能動分詞の中単主で、μή はやはり一般論として「よい実を作らないような木は」ということ。

単語欄の誤字:ἀπά-γω → ἀπ-άγω。


金言集 (137 頁)


5.「時節」という解答の訳語は少々はっきりしないが、この καιρός は「危機」や「重大なタイミング」と考えるとよい。そういうときにこそ真の友情が試されるということ。

7. αἰτί’ は αἰτία の省音。

8. σώμαθ’ は σώματα の省音で、ἡ の直前なので同化して τ が θ になっている。

vendredi 14 octobre 2022

マン島語と比べたスコットランド・ゲール語入門 (11)

マン島語 (マニン・ゲール語) の基礎知識を前提としてスコットランド・ゲール語 (アルバ・ゲール語) の文法を勉強するノート。テキストとしては R. Ò Maolalaigh, Scottish Gaelic in Twelve Weeks を用いる。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第 11 課


§94. 法動詞 feum (英 must) と faod (英 may) は不完全動詞 (defective verb) であり、ふつう未来と条件法でしか現れない。faod にあたる M. fod は未来・過去・条件法がある。また英 must は M. ではコピュラ+egin+da で表される。

feumaidh mi — shegin dou「私は〜せねばならない」
faodaidh tu — fod oo「君は〜してもよい」

dh’fheumadh Iain — begin da Ean「ジョンは〜せねばならなかった」
dh’fhaodadh Anna — dod Ann「アンは〜してもよかった」

§95. ゲール語動詞の不定形は動名詞である (第 3 課 §17)。不規則動詞 rach と thig の不定形はふつう a dhol と a thighinn であるが、dol と tighinn も使われる (M. goll, çheet)。不定形は以下の助動詞や成句で使われる:

(a) 法動詞 feum と faod
(b) 義務を表す法的な成句
(c) 欲求・愛好・希望・能力・記憶を表す数々の成句
(d) 運動や意図を表す動詞
(e) sguir「やめる」

(a) feumaidh tu falbh — shegin dhyt immeeaght「君は去らねばならない」
faodaidh tu a thighinn — fod oo çheet「君は来てもよい」
dh’fhaodainn a dhol — dod mee goll「私は行くことができた」

(b) is fheàrr dhut sguir「君はやめたほうがいい」
bu chòir dhut falbh — by chair dhyt immeeaght「君は去るべきだった」

(c) tha mi airson seinn「私は歌いたい」
bu toil le Iain suidhe — by vie lesh Ean soie「ジョンは座りたかった」

(d) chaidh Iain a cheannach — hie Ean dy chionnaghey「ジョンは買いにいった」
thàinig Anna a dh’fhaicinn — haink Ann dy akin「アンは見にきた」

(e) sguir iad a chaoineadh — scuirr ad veih keaynagh「彼らは泣くのをやめた」

上例のとおり、英 ‘to’ が訳されるのは (d) と (e) の場合であり、子音の前では a*、母音または f+母音の前では a dh’ である。

§95a. 前置詞句で表される不定詞の間接目的語は単純に動名詞に後続する:

Bu toil leam bruidhinn ri Seumas. — By vie lhiam loayrt rish Jamys.「私はジェームズに対して話したいのだが」
Bu chòir dhut fuireach ruinn. — By chair dhyt fuirraght rooin.「君は私たちとともにいるべきだった」

語彙 (抄)

fuireach — fuirraght「暮らすこと」
éisteachd — eaishtagh「聞くこと (英 listening)」
snàmh — snaue「泳ぐこと」

練習問題 1

1. I like to eat. — Is toil leam ithe. — Shinney lhiam ee.
2. I have to leave. — Feumaidh mi falbh. — Shegin dou immeeagh.
3. He would like to help. — Bu toil leis cuideachadh. — By vie lesh cooney.
4. She wants to speak. — Tha i airson [ag iarraidh] bruidhinn. — T’ee geearree loayrt.
5. He was going to come. — Bha e a’ dol a thighinn. — V’eh goll dy jeet.
6. She came to watch. — Thàinig i a choimhead. — ?
7. They expect to live in Oban. — Tha dùil aca fuireach anns an Òban. — ?
8. You should go to Dublin. — Bu chòir dhut a dhol gu Baile Àtha Cliath. — By chair dhyt goll gys Balley Aah Cleeah.
9. Aren’t you going to listen? — Nach eil thu a’ dol a dh’éisteachd? — Nagh vel oo goll dy eaishtagh?
10. Peggy can swim. — Is urrainn do Pheigi snàmh. — Foddee Peggy snaue.

§95b. 不定詞の直接目的語。不定詞の前に a*/a dh’ がある場合、名詞の目的語は不定詞の直後:

Thàinig Seumas a dh’ithe biadh. — Haink Jamys dy ee bee.「ジェームズは食べ物を食べにきた」
Chaidh iad a cheannach leabhraichean. — Hie ad dy chionnaghey lioaryn.「彼らは本を買いにいった」
Tha Peigi a’ dol a leughadh a’ phàipeir. — Ta Peggy goll dy lhaih y phabyr.「ペギーはその紙を読みにいくところだ」

後続する名詞目的語は、定名詞の場合ふつう属格で現れる。

§95c. 倒置 (inversion)。不定詞の前に a*/a dh’ がない場合、すなわち英語の ‘to’ が訳されない場合、不定詞の目的語は不定詞の前に来る。すなわち通常の語順が倒置され、a* が目的語と不定詞のあいだに挿入される。この a* は母音または fh- の前ではふつう発音を反映して書かれない。M. にはこのような区別はなく、ふつうに後ろに置くと思う。

An urrainn dhut Gàidhlig a bhruidhinn?「君はゲール語を話せるか」
Dh’iarr an tidsear orm an doras (a) fhosgladh. 「先生は私にドアを開けるように頼んだ」

練習問題 2

1. I must do my work. — Feumaidh mi an obair agam a dhèanamh. — Shegin dou jannoo yn obbyr aym.
2. She can speak Gaelic. — Is urrainn dhi Gàidhlig a bhruidhinn. — Foddee ee loayrt Gaelg.
3. You should buy a new car. — Bu chòir dhut càr ùr a cheannach. — By chair dhyt kionnaghey car noa.
4. John wants to write a book. — Tha Iain ag iarraidh leabhar a sgrìobhadh. — Ta Ean geearree screeu lioar.
5. You had better close the door after you. — Is fheàrr dhut an doras a dhùnadh nad dheidh. — Share dhyt dooinney yn dorrys dty lurg.
6. We couldn’t pay the doctor. — Cha b’urrainn dhuinn an dotair a phàigheadh. — Cha dod shin pay a fer-lhee.
7. We are going to get milk. — Tha sinn a’ dol a dh’fhaighinn bainne. — Ta shin goll dy gheddyn bainney.
8. Ann came to pick up her son. — Thàinig Anna a thogail a mic. — ?
9. Donald remembers reading that book. — Tha cuimhne aig Domhnall air an leabhar sin a leughadh. — S’cooin lesh Donald lhaih y lioar shen.
10. Peggy could speak Gaelic. — B’urrainn do Peigi Gàidhlig a bhruidhinn. — Dod Peggy loayrt Gaelg.

§96. 不定詞の直接目的語が代名詞の場合、不定詞に後続するのではなく、所有代名詞となって不定詞の前に置かれる。つまり ‘I would like to do it.’ は ‘I would like its doing.’ のように言われるわけである:bu toil leam a dhèanamh — by vie lhiam dy yannoo.

Tha Iain ag iarraidh a cheannach. — Ta Ean geearree dy chionnaghey.「ジョンはそれを買いたい」
Dh’iarr iad orm an dùnadh. — Hirr ad orrym e ghooney.「彼らは私にそれを閉じるよう求めた」
An urrainn dhuibh ar faicinn an-diugh? — Foddee shiu nyn vakin shin jiu?「あなたは今日私たちに会えますか」

a*/a dh’ が不定詞の前につく場合、所有代名詞はそれと組みあわさって gam*, gad*, ga*, ga, gar, gur, gan/gam となる:

Tha sinn a’ dol ga choimhead.「私たちはそれを見にいく」
Thàinig na caileagan ga dùsgadh.「少女たちは彼女を起こしにきた」

§96a. 不定詞の目的語が指示代名詞 seo, sin, siud の場合はふつうの名詞同様に扱う:

Thàinig Anna a dhèanamh sin. — Haink Ann dy yannoo shen.「アンナはそれをしにきた」
Feumaidh mi seo a ràdh. — Shegin dou gra shoh.「私はこれを言わねばならない」

§97. 動詞 tha の不定形は bhith である。これはほかの不定詞/動名詞のように tha を含む迂言構文に用いることはできない。

Bu toigh leam a bhith an Glaschu. — Bare lhiam ve ayns Glaschu.「私はグラスゴーにいたいのですが」
Tha Domhnall a’ dol a bhith ag obair. — Ta Donald goll dy ve ec obbyr.「ドナルドは仕事をしにいくところだ」

語彙 (抄)

iasg (m1) — eeast「魚」
tarraing — tayrn「引くこと」
glanadh — glenney「清掃すること」
creidsinn — credjal「信じること」

練習問題 3

1. He likes to eat it (m.). — Is toil leis a ithe. — S’mie lesh dy ee.
2. Ann hoped to sing it (m.) at the ceilidh. — Bha dùil aig Anna a sheinn aig a’ chéilidh. — ?
3. John was afraid to pull it (f.). — Bha an t-eagal air Iain a tarraing. — Ta Ean goaill aggle roish a tayrn.
4. The young boys have to clean them. — Feumaidh na balaich òga an glanadh. — Shegin da ny guillyn aegey nyn n’ghlenney.
5. Calum went to watch her. — Chaidh Calum ga coimhead. — ?
6. Mary prefers to teach it (f.). — Is fheàrr le Màiri a teagasg. — Share lesh Moirrey a ynsaghey.
7. You should believe us. — Bu chòir dhut ar creidsinn. — By chair dhyt nyn gredjal.
8. Ann is going to waken them. — Tha Anna a’ dol gan dùsgadh. — Ta Anna goll dy nyn noostey.
9. We would like to help you. — Bu toil leinn do chuideachadh. — Bare lhien dty chooney.
10. James remembers saying that. — Tha cuimhne aig Seumas air sin a ràdh. — S’cooin lesh Jamys gra shen.

§98. 完了 (perfect) を作るには迂言構文を用いる。すでに現在時制として学んだ構文の aig — ∅ (英 at) を air — er (英 after) に置きかえるだけ (M. では er のあとの動名詞は鼻音化するのが正式=Goodwin §59):

Tha Iain a’ tighinn. — Ta Ean çheet.「ジョンは来る」
Tha Iain air tighinn. — Ta Ean er jeet.「ジョンは来てある」

直接目的語は倒置され動名詞の前に置かれる (M. では変わらない):

Tha Calum air leabhar a cheannach. — Ta Calum er kionnaghey lioar.「カルムは本を買ってある」
Tha Niall air Gàidhlig a ionnsachadh. — Ta Neil er ynsaghey Gaelg.「ニールはゲール語を学んである」

目的語に定冠詞がついているとき、それは前置詞 air のあとでも前置格形をとらないことに注意〔この目的語はあくまで動名詞の目的語の対格であって、air に支配されているわけではないからであろう〕:

Tha Raibeart air an cù a bhiadhadh mar-thà.「ロバートはすでに犬に餌をやってある」

§98a. 過去完了 (pluperfect) は上で見た迂言完了構文において tha をその過去形 bha — va に置きかえるだけ。

§98b. 未来完了 (future perfect) は上で見た迂言完了構文において tha をその未来形 bidh — bee に置きかえるだけ。

§98c. 条件法完了 (conditional perfect) は上で見た迂言完了構文において tha をその条件形 bhiodh — veagh に置きかえるだけ。

なお過去完了は an deidh と不定詞によって次のように作ることもできる:an deidh do Sheumas tilleadh「ジェームズが戻ったあと」(文字どおりには「ジェームズによる戻りのあと」)、an deidh dhomh mo bhracaist a ghabhail「私が自分の朝食をとったあと」。

§98d. 直前完了 (immediate perfect) は、通常の完了構文において air の前に dìreach「ちょうど」を挿入して作られる:

tha Màiri dìreach air tighinn「メアリーはちょうど到着したところだ」
tha iad dìreach air falbh「彼らはいましがた出発したところだ」

練習問題 4

1. Robert has just gone. — Tha Raibeart dìreach air falbh. — Ta Robert jeeragh er immeeagh.
2. Joan has come. — Tha Seonag air a thighinn. — Ta Joan er jeet.
3. John has written the letter. — Tha Iain air an litir a sgrìobhadh. — Ta Ean er screeu y screeuyn.
4. He has put on weight. — Tha e air cuideam a chur air. — ?
5. They have gone out. — Tha iad air a dhol a-mach. — T’ad er n’gholl magh.
6. Mary will have started in the university next week. — Bidh Màiri air tòiseachadh anns an oilthigh an t-seachdain seo tighinn. — Bee Moirrey er n’ghoaill toshiaght ayns yn olloo-schoill yn çhiaghtin shoh çheet.
7. Ann has sold the old house at last. — Tha Anna air an seann taigh a reic mu dheireadh. — Ta Ann er creck y shenn thie fy yerrey.
8. James would have learnt Gaelic. — Bhiodh Seumas air Gàidhlig a ionnsachadh. — Veagh Jamys er ynsaghey Gaelg.
9. John has eaten too much already. — Tha Iain air cus a ithe mar-thà. — Ta Ean er hannah ee rouyr.
10. After Neil had gathered all of the information. — An deidh do Niall an t-eòlas gu léir a chruinneachadh. — ?

§99. ri+名詞 (ほとんどは動名詞) は次のことを意味しうる:(i) 何事かに従事していること、(ii) 何事かがなされるべきこと。

(i) bha na balaich ri eughachd「少年たちは叫んでいる」
tha Iain ri sgrìobhadh an comhnaidh「ジョンはいつも書いている」
bha Anna ri ceòl fad a beatha「アンは一生涯音楽とともにあった」

(ii) 定式は〈tha+主語+ri+所有代名詞 a*+動名詞〉:

tha obair ri a dhèanamh「なされるべき仕事がある」
tha gu leòr ri a ràdh「言われるべきことは多い」
tha Iain ri a mholadh「ジョンは称えられるべきだ」

§100. gu+動名詞は「まさに〜せんとして、ほとんど」の意:

tha e gu bristeadh「それは壊れようとしている」
tha iad gu brith deiseil「彼らはほとんど準備できている」

語彙 (色に関する)

geal — gial「白い、明るい」
dubh — doo「黒い」
gorm — gorrym「(暗い) 青色の、緑色の」
uaine — geayney「緑色の」(れっきとした同源語 < OIr. úaine。)
glas — glass「灰色の、灰緑色の」
liath — lheeah「(明るい) 青色の、灰色の」
dearg — jiarg「(明るい) 赤色の」
ruadh — ruy「(暗い) 赤色の」
buidhe — bwee/buigh「黄色の」
donn — dhoan/dhone「茶色の」
bàn — bane「(髪の) 明るい、青ざめた」

§101. 序数詞はたいてい基数詞に -th(e)amh または -(e)amh を付して作られる。1, 2, 3 は例外で特別な形をもつ。序数詞はふつう定冠詞がつく。以下の例は fear「もの」に付して示す:

1 a’ cheud* fhear — yn chied er「最初のもの」
2 an dàrna/dara fear — yn nah er「2 番めのもの」
3 an treas/trìtheamh fear — yn trass er
4 an ceathramh fear — yn chiarroo er
5 an cóigeamh fear — yn wheiggoo er
6 an siathamh fear — yn çheyoo er
7 an seachdamh fear — yn çhiaghtoo er
8 an t-ochdamh fear — yn hoghtoo er
9 an naoitheamh fear — yn nuyoo er
10 an deicheamh fear — yn jeihoo er
11 an t-aonamh fear deug — yn chied er jeig
12 an dàrna/dara fear deug — yn nah er yeig〔Sc. が dheug となっていないことに注意。〕
13 an treas/trìtheamh fear deug — yn trass er jeig
20 am ficheadamh fear — yn (f)eedoo er

21 以降はやはり 20 進法と 10 進法の 2 通りが可能:

21 an t-aonamh fear ar fhichead / am ficheadamh fear is a h-aon
30 an deicheamh fear ar fhichead / an tritheadamh fear
31 an t-aonamh fear deug ar fhichead / an tritheadamh fear is a h-aon
40 an dà fhicheadamh fear / an ceathradamh fear

語彙 (抄)

dòirt — deayrt「注ぐ」
fàs — faas「育つ」
ged-ta — ga ta「しかしながら、にもかかわらず」
grian — grian (f.)「太陽」

mercredi 12 octobre 2022

マン島語と比べたスコットランド・ゲール語入門 (10)

マン島語 (マニン・ゲール語) の基礎知識を前提としてスコットランド・ゲール語 (アルバ・ゲール語) の文法を勉強するノート。テキストとしては R. Ò Maolalaigh, Scottish Gaelic in Twelve Weeks を用いる。

目次リンク:第 1 回を参照のこと。


第 10 課


§85. 規則動詞の条件法/過去習慣独立形。Sc. では条件法と過去習慣時制とは同一の形である。〔M. でも同様、というかそもそも M. では過去習慣という名がない。Ir. では両者は異なる。〕条件法/過去習慣時制の独立形と従属形との違いは軽微である。すなわち語尾は同じであって、独立形は軟音化し従属形はしないという点だけが異なる。

独立形の作りかたは、1. 動詞語根の頭子音を軟音化し、2. 母音および f+母音には dh’ をつけ、3. 以下の接尾辞を加える:1 単 -‍(a)inn, 1 複 -‍(e)amaid, その他 -‍(e)adh+人称代名詞。M. では 1 単だけが独自の語尾 -‍in を持ち、残りは -‍agh。

(狭子音の例) cuir「置く」の場合:chuirinn, chuireadh tu, chuireadh e/i, chuireamaid, chuireadh sibh, chuireadh iad。M. では verrin, verragh oo, eh, etc.

(広子音かつ母音始まりの例) òl「飲む」:dh’òlainn, dh’òlamaid, dh’òladh tu, e, etc. M. では末子音の区別も母音の d‍-接頭もなく、iuin, iuagh oo etc.

条件法/過去習慣では 2 単の代名詞は tu を用いる。代名詞 mi と sinn は語尾 -‍(a)inn, -‍(e)amaid のなかに組みこまれている。こういうものを総合的 (synthetic) な動詞形と呼び、反対に代名詞が動詞から分離されているものを分析的 (analytic) な形と呼ぶ。いくつかの方言では 1 複で -‍(e)amaid のかわりに分析形を用いる:chuireamaid でなく chuireadh sinn。〔これは M. と軌を一にしている。〕

2 音節の動詞でふつう r, l, n, ng で終わるものは、条件法語尾を付すさいに第 2 音節を失う。〔これは第 8 課 §64b で未来時制について見たのと同じこと。〕tachair, thachradh「起こっただろう」、fosgail, dh’fhosgladh「開いただろう」、bruidhinn, bhruidhneach「話しただろう」、tarraing, thàirrneadh「引いただろう」。また innis, dh’innseadh「伝えただろう」。幹末の -‍nn, -‍ng は n に簡約される。

§85a. 規則動詞の条件法/過去習慣従属形。語頭が軟音化されず、また母音や f+母音に dh’ を接頭されないという点以外は独立形と同じ。ただし、cha* は規則どおり軟音化を起こすし nach も f は軟音化させることには注意。

Nach canadh tu sin a Sheumais? — Nagh niarragh oo shen, Yamys?「君はそう言ったものじゃなかったか、ジェームズ」
Càite an cuireadh iad na beathaichean? — C’raad verragh ad ny baaghyn?「彼らは動物たちをどこに置いたものだったか」(M. では c’raad のあとは独立形。)
Nach fhalbhadh Anna aig dà uair? — Nagh immeeagh Ann ec jees er y chlag?「アンは 2 時ちょうどに出るものじゃなかったか」

§85b. tha の条件法/過去習慣独立形は bhinn, bhiomaid, bhiodh tu etc. — veign, veagh。従属形は軟音化の有無以外完全に同じで、binn, biomaid, biodh tu etc. — beign, beagh。

tha の条件法/過去習慣形が動名詞を含む迂言構文で使われた場合、単純な条件法/過去習慣時制ではなく継続的な意味になる:bhinn ag òl — veign giu「私は飲んでいたものだった」。

§86.「もし (英 if)」を表すゲール語は 2 つある、すなわち ma — my と nan — dy である。後者は条件法/過去習慣時制とともにのみ使われる。前者はそれ以外すべての時制、すなわち現在・未来・過去。nan は従属小辞、ma は独立小辞。〔ma — my は未来時制では関係形。〕

§86a. ma の用例:

Ma dh’fhàg thu an-sin e, càite am bheil e? — My d’aag oo ayns shen eh, c’raad t’eh?「君がそれをそこに置いたのだったら、それはどこにあるか」
Tha mise a’ dol ann ma tha Anna a’ tighinn. — Ta mish goll ayn my ta Ann çheet.「アンが来るなら私はそこへ行く」
Chì mi thu ma bhios tu ann. — Hee’m oo my vees oo ayn.「君がそこにいるなら私は君に会うだろう」

主節が過去・現在・未来のとき、条件節はそれと同じ時制になり、‘if’ は ma で訳される。

§86b. nan の用例。条件文の主節が条件法のとき、条件節のほうも条件法となり、‘if’ は nan で訳される。英語ではこのような場合 if 節は過去時制になる。

Thogainn an iuchair nam fàgadh tu ann i. — Teiyin yn ogher dy vaagagh/n’aagagh oo ayn ee.「君が鍵をそこに置いたのだったら私はそれを拾っただろうに」

§87. mura「もし〜でなければ」。否定の条件節であるが、肯定形が ma でも nan でも同じく mura になる。M. でも同じく mannagh。これは従属小辞。

Innis dhomh mura bheil thu a’ tighinn. — Insh dou mannagh vel oo çheet.「君が来ないのなら私に教えてくれ」
Chan fhaic mi thu mura bi thu ann. — Cha vaikym oo mannagh bee oo ayn.「君がそこにいないのなら私は君に会わないだろう」
Leughainn am pàipear mura binn sgìth. — Lhaihin y pabyr mannagh beign skee.「私が疲れていなかったらその紙 [新聞?] を読んだだろうに」

mura は規則動詞の過去従属形 (また不規則動詞でも同じタイプであれば) の do の前では mur となる。

Dèan an obair agad a Sheumais mur do rinn thu fhathast i. — Jean yn obbyr ayd Yamys mannagh ren oo foast ee.「ジェームズ、君はまだやっていないのなら自分の仕事をやれ」

§87a.「もし〜がなかったなら (英 if it were not for)」は mura b’e で訳される。〔M. には er-be dy (「〜でなかったなら」、英 were it not that すなわち if it were not for the fact that) という表現があり、これは dy のために従属節を伴うが、もし dy なしに er-be だけ言えたとしたら Sc. によく似ているのでないか。〕

Dh’fhalbhamaid a-mach an-diugh mura b’e an droch shìde.「悪天候がなかったなら私たちは今日外出しただろうに」
Bhiodh Anna toilichte mura b’e Seumas.「ジェームズがいなかったならアンはうれしかっただろうに」

§88.「〜かどうか」は英語では ‘if’ であるが、このように条件的な意味でない場合は ma や nan は使われない。そのかわりに単純に疑問小辞 an を用いる。M. では dy。

Chan eil fios agam an dàinig Seumas. — Cha nel fys aym dy daink Jamys.「ジェームズが来たかどうか私は知らない」

練習問題 1

1. I wouldn’t put up with that. — Cha chuirinn suas ri sin. — ?
2. When did you used [sic] to wake up in the morning? — Cuine a dhùisgeadh tu anns a’ mhadainn? — Cuin ghooishtagh oo ayns y voghrey?
3. Why would John believe that? — Carson a chreideadh Iain sin? — Cre’n oyr chreidagh Ean shen?
4. They used to wash themselves in the river. — Nigheadh iad iad fhéin anns an abhainn. — Niee ad ad-hene ayns yn awin.
5. We found a place where we could draw breath. — Lorg/Fhuair sinn àite far an gabhadh sinn anail. — Hooar shin boayl raad ghoghe shin fea.
6. They wouldn’t eat a bite. — Chan itheadh [Cha ghabhadh] iad greim. — Cha n’eeagh ad greim.
7. I would only take a small drop. — Cha ghabhainn ach druthag bheag. — Cha ghoin agh bine beg.
8. Would you post this letter for me? — Am postadh tu an litir seo dhomh [air mo shon]? — Postagh oo y screeuyn shoh dou [er-my-hon]?
9. They would understand a fair amount of it, certainly. — Thuigeadh iad cuid mhath dheth gu dearbh. — ?
10. I would open the door for you if I knew you were there. — Dh’fhosglainn an doras dhut [air do shon] nam biodh fios agam gun robh thu ann. — Osh(i)lin yn dorrys dhyt [er-dty-hon] dy beagh fys aym dy row oo ayn.

§89. 形容詞の比較級・最上級

(a) 同等比較のパターンは次のとおり:

cho+形容詞+ri+名詞 (M. では cho は cha とも書く)
cho sgìth ri seann chù — cho skee as shenn choo「老犬のように疲れた」

Tha Anna cho làidir ri Iain. — Ta Ann cho lajer as Ean.「アンはジョンと同じくらい強い」

(b) ゲール語では比較級と最上級は同一であり、前につく小辞で区別されるだけである:比較級の場合は nas、最上級であれば as (M. ではそんな小辞さえなく完全に同じ)。規則的な形容詞では、比較級・最上級は末子音を狭子音化して e を付すことで作られる。例によって狭子音化が先行母音に影響する場合がある。nas と as は f を軟音化する。

òg, òige — aeg, saa「若い」
àrd, àirde — ard, syrjey「高い」
dearg, deirge — jiarg, jiargey「赤い」
sean, sine — shenn, shinney「古い」
trom, truime — trome, strimmey「重い」
tiugh, tighe — çhiu, çhee「厚い」

若干の形容詞は語尾 -‍e をつけるさい第 2 音節が落ちる:

ìseal, ìsle — injil, inshley「低い」
uasal, uaisle — ooasle, ooashley「高い、高貴な」
milis, mìlse — millish, miljey「甘い」

母音で終わる形容詞は比較級・最上級でも変わらない:brèagha「美しい、愛らしい」、buidhe「黄色い」、toilichte「幸せな」。

§90. 不規則な形容詞のうち最重要のもの:〔不規則動詞や名詞のリストが一致しなかったように、これもやはり M. と完全一致するわけではない。すでに上で見た aeg, saa「若い」や ard, syrjey「高い」は M. では不規則である。〕

mór, motha — mooar, smoo「大きい」
beag, lugha — beg, sloo「小さい」
math, feàrr — mie, share「よい」
dona, miosa — olk, smessey「悪い」
gearr/goirid, giorra — giare, girrey「短い」
làidir, treasa/làidire — lajer, stroshey「強い」
teth, teotha — çheh, çhoe「熱い」

(b1) 比較級は〈nas+形容詞の狭子音化+-e+na〉:

Tha mi nas fheàrr a-nis, tapadh leat. — Ta mee s’mie nish, gura mie ayd.「私はいまでは (具合が) いい、ありがとう」
Tha Anna nas sine na Catrìona. — Ta Ann ny shinney na Catherine.「アンはキャサリンより年上だ」
Am bheil Iain nas òige na Peigi? — Vel Ean ny saa na Peggy?「ジョンはペギーより年下か」

(b2) 最上級は〈as+形容詞の狭子音化+-e〉:

an gille as òige — yn guilley saa「最年少の少年」
an taigh as motha — y thie smoo「最大の家」

nas と as が用いられるのは、それらが現れる節の主動詞が現在または未来時制のときである。主動詞が過去または条件法/習慣過去であるとき、その形はそれぞれ na bu* と a bu* (母音または f+母音の前では na b’, a b’) が用いられる。しかしながら、若い話者たちのあいだではいかなる状況でも nas, as が用いられる傾向がある。〔これは M. の s’ が実際にはコピュラであるということを思いおこすと容易に理解できる。そして古いマン島語では by を使うルールもあった。Sc. の nas, as の s も正体はコピュラなのであろう。〕

Bha na balaich na bu mhiosa. — Va ny guillyn ny by messey.「その少年たちはより悪かった」
Thàinig an nighean a bu bhrèagha. — Haink yn inneen b’aalin.「もっとも美しい少女が来た」
Sin an ceòl a b’fheàrr a chuala mi riamh. — Shen y kiaull ny by mie cheayll mee rieau.「それは私がこれまでに聞いたなかでもっとも美しい音楽だ」

語彙 (抄)

teaghlagh (m1) — lught thie「家族」
doirbh, duilich — doillee「難しい」
beairteach — berçhagh「裕福な」

練習問題 2

1. I would say that John is older than Mary. — Chanainn gun bheil Iain nas sine na Màiri. — Yiairrin dy vel Ean ny shinney na Moirrey.
2. If the weather were better we would sit outside. — Nam biodh an t-sìde na b’fheàrr, shuideamaid [shuidheadh sinn] a-muigh. — Dy beagh yn emshyr ny bare, hoieagh shin mooie.
3. I told you that you would win the biggest prize. — Dh’innis mi dhut gum buinigeadh tu an duais a bu mhotha. — ?
4. William lived in Oban when he was younger. — Dh’fhuirich Uilleam anns an Òban nuair a bha e na b’òige. — Chum(m) Illiam ayns yn Oban tra v’eh ny saa.〔Sc. の解答が誤って Bha Uilleam ag obair ...「ウィリアムは働いていた」になっていたので改めた。〕
5. James is the eldest in his family. — Se Seumas as sine anns an teaghlach. — (She) Jamys ny shinney ayns y lught thie.
6. It is easier when the knife is sharper. — Tha e nas fhasa nuair a tha an sgian nas géire. — T’eh ny sassey tra ta’n skynn ny gyere.
7. Peggy is stronger than Alan although she is smaller than him. — Tha Peigi nas treasa na Ailean ged a tha i nas lugha na e. — Ta Peggy ny stroshey na Alan ga t’ee [ga dy vel ee] ny sloo na eh.
8. That is the highest tree that I ever saw. — Sin a’ chraobh as àirde a chunnaic mi riamh. — Shen y billey syrjey honnick mee rieau.
9. Gaelic is as difficult as English. — Tha a’ Ghàidhlig cho doirbh ris a’ Bheurla. — Ta’n Gaelg cho doillee as y Bhaarle.
10. The teacher is not as rich as the lawyer. — Chan eil an tidsear cho beairteach ris an fhear-lagha. — Cha nel yn ynserder cho berçhagh as y leighder.

§91. 英語の ‘that’ にあたる a と gun を区別することが大事である。a は関係代名詞で、gun は接続詞。a は名詞や副詞の後ろに使われ、独立小辞であり独立形の動詞を従える。gun はつねに動詞 (ふつう「言う、伝える、聞く、考える」といった意味の動詞) の後ろに使われ、従属形の動詞を従える。

Có a rinn seo? — Quoi ren shoh?「誰がこれをしたのか」
Dé a dh’òl thu? — C’red d’iu oo?「君は何を飲んだのか」
an t-òran a sheinn Seumas — yn arrane ghow Jamys「ジェームズが歌った歌」
Sann an-dé a chaidh Iain a Ghlaschu. — Jea hie Ean dys Glaschu.「ジョンがグラスゴーへ行ったのは昨日だ」
Thuirt Iain gun robh sneachda an Glaschu. — Dooyrt Ean dy row sniaghtey ayns Glaschu.「グラスゴーには雪があったとジョンは言った」
Tha mi a’ smaoineachadh gun dàinig Iain. — Ta mee smooinaghtyn dy daink Ean.「ジョンは来たと私は思っている」

英語ではどちらの that も省略されることがあるが、ゲール語では a も gun も省略不可。

nach — nagh は a — ∅ と gun — dy どちらの否定形としても働く。〔このさい、前者の否定であっても動詞は従属形。〕

an t-òran nach do sheinn Seumas — yn arrane nagh ghow Jamys「ジェームズが歌わなかった歌」
Chuala mi nach do dh’fhalbh Anna. — Cheayll mee nagh d’immee Ann.「アンは去らなかったと私は聞いた」

§91a. is 文を結ぶ gun。is を含む文はなんであれ se = is + e で始めることができることをすでに見た。gun が is 文をそれに先行する動詞句に結びつけるために用いられているとき、gun と is は組みあわさって gur となり、これは以下のように e に h を接頭する:

Thuirt Iain + se tidsear a tha ann an Anna → Thuirt Iain gur h-e tidsear a tha ann an Anna.「アンは教師だとジョンは言った」
Tha mi a’ smaoineachadh gur h-e damhan-allaidh a tha ann.「それは蜘蛛だと私は思う」
Dh’innis Iain dhomh gur h-e Màiri a sheinn aig a’ chéilidh.「ケーリーで歌ったのはメアリーだとジョンが教えてくれた」

§91b. sann 文を結ぶ場合も、gun は is と組みあわさって gur となり、h- を ann に接頭する:

Dh’innis Iain dhomh + sann air a’ bhus a chunnaic e Catrìona → Dh’innis Iain dhomh gur h-ann air a’ bhus a chunnaic e Catrìona.「ジョンは彼がキャサリンを見たのはそのバス上でだったと教えてくれた」
Chuala mi gur h-ann an-diugh a tha an clas.「授業があるのは今日だと私は聞いた」

練習問題 3

1. Thuirt Iain + bha e a-muigh an-raoir → Thuirt Iain gun robh e a-muigh an-raoir.「ジョンは彼が昨夜外にいたと言った」
2. Chuala mi + thàinig Seumas → Chuala mi gun dàinig Seumas.「ジェームズが来たと私は聞いた」
3. An rud + chunnaic mi → an rud a chunnaic mi「私が聞いた事柄」
4. An naidheachd + chuala tu → an naidheachd a chuala tu「君が聞いた知らせ」
5. Thuirt Anna + se ministear a tha ann → Thuirt Anna gur h-e ministear a tha ann.「彼は牧師だとアンは言った」
6. Tha mi a’ smaoineachadh + se co-latha breith Sheumais a tha ann an-diugh → Tha mi a’ smaoineachadh gur h-e co-latha breith Sheumais a tha ann an-diugh.「今日はジェームズの誕生日だと思う」
7. Leugh mi + sann an-diugh a thachair e → Leugh mi gur h-ann an-diugh a thachair e.「それが起こったのは今日だと私は読んだ」
8. Tha iad a’ ràdh + sann an Glaschu a bha iad a’ fuireach → Tha iad a’ ràdh gur h-ann an Glaschu a bha iad a’ fuireach.「彼らが住んでいたのはグラスゴーにだと彼らは言っている」

§92. 形容詞の複数1 音節の形容詞だけが複数形をもつ。多音節の形容詞は複数でも形を変えない。複数の主格・前置格・属格形は同一

形容詞の複数形を作るには、末子音に -‍a または -‍e をつける;広子音で終わる形容詞には -‍a、狭子音で終わる形容詞には -‍e である。(M. でもやはりほぼ単音節の形容詞に限り、広狭の区別なく -‍ey。)

mór, 複 móra — mooar, mooarey「大きい」
beag, beaga — beg, beggey「小さい」
mìn, mìne — mynn, mynney「なめらかな/細かい」
tinn, tinne — çhing, çhingey「病気の」

複数形容詞は狭子音で終わる複数名詞 (すなわち第 8 課 §68 にいう B 型複数) の後ろでは軟音化される。(M. の言いかたでは「母音変化のみによって作られる複数」の後ろでは軟音化。)

(A 型:軟音化しない) na caileagan òga — ny caillinyn aegey「幼い少女たち」
(B 型:軟音化する) na cait dhubha — ny kiyt dhoo「黒い猫たち」

練習問題 4

1. caileagan òga「幼い少女たち」
2. an fheadhain gheala「白いもの」
3. cait dhubha「黒猫たち」
4. clasaichean móra「大きいクラス」
5. balaich mhodhail「行儀のよい少年たち」
6. daoine làidir「強い男たち」
7. bùird ghlana「清潔なテーブル」
8. pàistean matha「よい子どもたち」
9. leabhraichean inntinnneach「おもしろい本」
10. boireannaich bheairteach「裕福な女たち」

§93. 人を表す数詞 (personal numeral)。dithis「2 人」、triùir「3 人」、ceathrar「4 人」、cóignear「5 人」など。これは M. にはない。

これはこれまでに見た数詞と違って単独で名詞として用いられる:thàinig ceathrar a-steach dhan an t-seòmar「4 人が部屋のなかへ入ってきた」。

dithis と triùir は女性名詞であり、以降はすべて男性名詞。一般にこれらのあとでは軟音化した複数形容詞が用いられる:an dithis mhóra「大きい 2 人の人」、an triùir bheaga「小さい 3 人の人」。

これらの数詞を限定する名詞が後続することがあり、その場合それは複数属格に置かれる。定冠詞がついていないとき複数属格は自動的に軟音化することを思いだそう:sianar dhaoine「6 人の男たち」、seachdnar ghillean「7 人の少年たち」。