vendredi 8 décembre 2017

アリスの最初のスウェーデン語訳

1865 年に『不思議の国のアリス』の初版が刊行されたあと,ルイス・キャロル本人の監督のもと 1869 年にドイツ語訳とフランス語訳が出版された.その次に出た翻訳がスウェーデン語訳である.それは 1870 年のことで,タイトルは Alice’s äfventyr i sagolandet, 訳者は Emily Nonnen である.ただしこれはキャロル非公認の翻訳であったらしい (スウェーデン語版 Wikipedia より).

これもあいにく PDF やテキストファイルとしては手に入らないのだが,画像としてはスウェーデンの Litteraturbanken というサイトでファクシミリ版が閲覧できる.私はスウェーデン語は勉強したことがないのでちゃんとした検討は不可能だが,どうも忠実な直訳ではなさそうだ.I 章最初の段落はこうなっている:
Lilla Alice tyckte att det var bra tråkigt att sitta bredvid systern på den mossiga bänken och ingenting ha att göra; ett par gånger hade hon tittat in i boken, som systern låste uti; men det fanns hvarken plancher eller samtal i den, »och hvad kan det vara för roligt i en bok utan plancher eller samtal», tänkte Alice.
参考のために原文を掲げれば,次のとおり:
Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’
比較してみればいくつか違いがあることがわかる.もちろん細かな前置詞や接続詞の違い,また her にあたる語が sister (syster) につくかわりにただの既知形になっていることなどは,おそらくそのほうがスウェーデン語として自然なのだろうということで説明ができるし,もうひとつ once or twice が ett par gånger (lit. a pair of times) になっているのも同じ理由から不問としてよさそうであるが,それら以外にも相違点は見受けられる.

すなわち,スウェーデン語訳の第 1 文 (最初のセミコロンの前まで) では英語にはない形容詞 lilla (小さな) と mossiga (苔むした) が付け加わっているし,主節の動詞は tyckte att (lit. thought that) となってまるっきり文構造が変わっている (原文では「退屈になりはじめていた」なのにスウェーデン語ではすでに退屈に思ってしまっている).またアリスのセリフ中にある use (役に立つ) も roligt (おもしろい,funny の意味) に言いかえられている.これらの 4 点は明らかに意味の改変と言うことができるだろう.

私は今回デンマーク語版のアリスを読むにあたって,英語 (1865 年) とドイツ語 (1869 年) とデンマーク語 (1875 年) の比較をしてみようと思いたち,そういえばこれらのあいだにはスウェーデン語訳 (1870 年) があったなと思いだして,読めないまでも同じゲルマン語でしかもデンマーク語とよく似ているはずのスウェーデン語ならなにかの参考にはなるのでないかと考えたのだが,どうやらこの調子の翻訳では私の期待した用途に役立てるのは難しそうである.

Aucun commentaire:

Enregistrer un commentaire