出典および凡例については第 1 回のエントリを参照のこと。Nyström och Sapir 第 1 課の続きから。
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5. Fem
Og wen ir eð-dar? ではあれは何ですか?
Eð-dar ir įe grån, eð. あれはモミの木です。grån f. = gran c.「モミ、トウヒ、エゾマツ」〔Steensland 式では gron〕。こういう動植物の名前の翻訳は辞書で一対一の単語対応を見ても難しく、間違いかもしれないが、いまはたいした問題ではないので無精させていただく。似た事例のケーススタディとして新谷 (2017)「アンデルセンの Grantræet はモミの木ではない?」を参照のこと。
Ukin ir ą̊ i ferg, ą̊-dar grånę? そのモミの木はどんな色ですか? ukin = vilken, vem, hurdan「どの、どれ、どんな種類の」。grånę は既知形〔この変化は第 8 課〕。3. の an-dar rattjin や 4. の an-dar erin にも見られるように、指示詞 ą̊-dar がつくと既知形になるようだ。
Ą̊ ir fel gryön. それは緑色です。gryön = grön「緑色の」。
Grånär irå gryöner. モミの木は緑色です。grånär は複数主格既知形。irå 現在 3 人称複数 < wårå。gryöner は一致によって女性複数主格形〔形容詞の変化は第 7 課〕。ドイツ語・オランダ語・フリジア語などの西ゲルマン語を除き、叙述用法 (述語位置、i predikativ (självständig) ställning) の形容詞は性数の一致をするから、スウェーデン語話者には自明の事柄であって文法的説明がない。
Jär sir an iet aus åv noger. ここではある種の家が見られます。jär sir an = här ser man「ここでは見られる (=人は見る)」〔男性単数の 3 人称代名詞 an は不定の主語にもなる。スウェーデン語では han と man を区別〕、iet aus åv noger = något slags hus (逐語的には ett hus av något)「なんらかの種類の家」。aus n. = hus n. の対応はエルヴダーレン語で語頭の h- が規則的に消えたためで、代名詞 an = han, ą̊ = hon も同様の例。
An dug it sją̊ åv ukk eð-dar auseð ir byggt. その家がなんの素材で建てられているのかわかりません (=見ることができない)。an は前文と同じく不定主語。dug 現在単数? < dugå = duga「する、適する」〔ここでは kunna「できる」の意〕、åv ukk(u) = av vad, av vilket material「何から、どんな素材から」。
Fråmånað ausę ir eð ien kall og įe kelingg. 家のまえに男と女がいます。fråmånað = framför, före「〜の前に」、kall m. = man, karl「男」、kelingg f. = kvinna「女」。ausę は単数与格既知形または複数主・対格既知形、ここでは前者〔前置詞の与格支配〕。動詞 ir が男女 2 人 (英語なら there are) ではなく eð に一致して単数であるのは、スウェーデン語 det är とパラレルとして理解できるか。
Sir du wen dier djärå? 彼らが何をしているかわかりますか? du pron.2sg. = du「君、あなた」、dier pron.3pl. = de「彼ら」。
Ja, dier knupå min ymsu. ええ、いろんなことで忙しくしていますね。knupå = pyssla「(med 〜で) 忙しい」、min = med〔この前置詞は単語欄に出ていないが本当にスウェーデン語話者が推測できるのだろうか? 第 2 課の文法解説 (与格支配の前置詞) に出る〕、ymsu = allt möjligt, både det ena och det andra「あらゆること、あれやこれや」。
Kalln kumb min watusilån og bjär wattneð. 男性は (桶をぶら下げた) 天秤棒を担いで水を運んでいます。watusilå (古く watusili) m. = ok n.「くびき (英 yoke)」、bjär wattneð = bär vatten〔wattneð 既知形 < wattn「水」は意味上は不定なのに定形標識がつく例。Sapir (2006), p. 25〕。
Keliendję stand nest jäldem. 女性は火のそばに立っています。stand 単数現在? < standa = stå「立っている」、nest = hos, vid、jäld m. = eld c.「火」。
Yvyr ånum aindjer eð ien ketil. その (=火の) 上には鍋がかけられています。yvyr ånum = över den m.「それの上に」〔yvyr など若干の場所の前置詞は与格および対格支配で、その使いわけはドイツ語などと同様。代名詞は男性名詞 jäld を受けたもの。ånum は an の与格、第 3 課〕、aindjer 単数現在 < aindja = hänga「吊るす」、ketil m. = gryta c., kittel c.「鍋」。
Eð-dar ir ien byönn. これは熊です。byönn m. = björn c.「熊」。
Byönn bruker wakken i aprill. 熊は 4 月に目覚めるもの (習性) です。bruka = bruka はここでは「〜する習慣である」の意。wakken = vakna、aprill m. = april。
An kuogär autyr åyvę. (それは) 巣穴から外を窺っています。kuogär 単数現在 < kuogå = titta「見る (look, glance, gaze, stare)」、autyr = utantill; utur, ur、åyve n. = ide n.「冬眠の巣穴」〔Steensland 式では åive。語尾 -ę は与格既知形で、「その熊の」という所有が前提されている。中性名詞の格変化は第 6 課〕。
Brukum sją̊ ferdär etter åm, men int so kringgt sos luokkallär bruka. (私たちは) 熊の足跡を見ることができるでしょうが、ロカ村の人々 (がそうしている) ほど頻繁にではありません。brukum 現在 1 人称複数 < bruka〔1・2 人称複数では代名詞主語が省略されることがある。Sapir (2006), p. 30〕、ferd f. = färd; (fot)spår「旅;足跡 (efter 〜の)」、etter = efter, efteråt、åm = honom「彼に、それに」〔an の与格で ånum の別形、第 3 課〕、sos = som, såsom, liksom、luokkallär = lokakarlarna, folket i byn Loka「ロカ村の人々」。
Isn-jär byönn jät ien fisk. この熊は魚を食べています。fisk m. = fisk c.「魚」〔黙って使われているが主格と同形の対格。対格の説明は第 3 課〕。
Og wen ir eð-dar? それからあれは何ですか?
Eð-dar ir iet baur, eð. あれは倉庫です。baur n. = härbre, visthusbod「倉庫、貯蔵所」。
Og war stand eð-dar baureð? ではその倉庫はどこに立っているのですか。
Nų stand eð iem ą̊ gardem. いまは家の庭に立っています。nų = nu、iem = hem「家 (で)」〔中性名詞および副詞〕、ą̊ gardem = på gården〔gard m. = gård c.「庭」。前置詞 ą̊ は与格支配〕。
Avið it apt eð dar olltiett? いつもはそれはそこにないのですか。avið apt = har ni haft〔avið は åvå の現在 2 複、apt は同じく完了分詞〕。
Näi, för ar eð stendeð auti buðum. ええ、以前は店の外に立っていました。ar 現在単数 < åvå、stendeð = stått、auti = ute, uti、buð f. = affär, bod。否定疑問への同意なので näi「いいえ」は日本語の肯定。
Ir eð iet gåmålt baur? 古い倉庫なのですか? gåmålt は属詞位置で baur に一致し中性単数形。
Ja, eð-dar baureð ir allt liuotgåmålt, eð. ええ、その倉庫は本当に恐ろしく古いものです。liuot- = väldigt「ひどく、とてつもなく (強調)」。
Irið i baurę kringgt? あなたがたはよくその倉庫にいる (来る) のですか。irið 現在 2 人称複数 < wårå。
Näi, irum it dar noð kringgt. いいえ、そう頻繁にはそこにいません (来ません)。irum 現在 1 人称複数 < wårå、it noð kringgt = inte så ofta, sällan「頻繁ではない、めったにない」。
§ 男性名詞、未知形と既知形。
A. M1a (唇音で終わる語):ien kripp — krippin「子ども」、ien wep — wepin。
B. M1b (k または子音 + g で終わる語):ien korg — kordjin、ien påyk — påytjin。〔前舌音 i の影響で破擦音になり、正書法にも反映される。〕
C. M1c (歯音・歯茎音・そり舌音で終わる語) と M3f. (母音で終わる語):ien kall — kalln、ien såmår — såmårn、ien uott — uottn、ien eri — erin。〔これら歯音のあとの語末 -n は成節的 stavelsebildande、本書 s. 7。〕
§ 代名詞。人称代名詞、単数 ig, du, an, ą̊, eð; 複数 wįð, ið, dier。〔wįð と ið は省略されることがあり、じっさい上の 7–8. でもいちども現れていない。〕
指示代名詞 isn, isų, ittað(-jär)「これ」、an-dar, ą̊-dar, eð-dar「それ」。
不定冠詞 ien byönn, įe kulla, iet aus。
§ 動詞の現在形。
A1 グループ (dalska, spilå)。エルヴダーレン語では非常にしばしば、動詞の主要形 (temaformer) をその不定形から知ることができない。〔エルヴダーレン語の動詞の主要形とは、不定形・現在単数・過去単数・完了分詞の 4 形。〕
スウェーデン語と同じく、エルヴダーレン語には強変化動詞と弱変化動詞がある。弱変化動詞 (A) はここでは 5 つのグループに分けられる。これらのグループのうちもっとも大きいのは A1 の dalska/spilå グループである。dalska 型の動詞は長音節、spilå 型は短音節である。主に次のことが言える:
A1 グループの動詞の現在形は以下の規則に従って活用する:
dalska 型。ig, du, an dalsker, (wįð) dalskum, (ið) dalskið, dier dalska「tala dalmål エルヴダーレン語を話す」。bruka「bruka 使う;〜する習慣である;〜するつもりである」、ietta「heta 〜という名前である」もこの型。
spilå 型。ig, du, an spilär, spilum, spilið, dier spilå「spela 遊ぶ」。kuogå「titta 見る」、luvå「lova 約束する、誓う」もこの型。
不規則動詞。重要な動詞 wårå「vara 〜である」と åvå「ha 持っている」は以下のように活用する。wårå: ig, du, an ir, irum, irið, dier irå。åvå: ig, du, an ar, amme, avið, dier åvå。
6. Sjäks
Jär sir an iet aus åv noger. ここではある種の家が見られます。jär sir an = här ser man「ここでは見られる (=人は見る)」〔男性単数の 3 人称代名詞 an は不定の主語にもなる。スウェーデン語では han と man を区別〕、iet aus åv noger = något slags hus (逐語的には ett hus av något)「なんらかの種類の家」。aus n. = hus n. の対応はエルヴダーレン語で語頭の h- が規則的に消えたためで、代名詞 an = han, ą̊ = hon も同様の例。
An dug it sją̊ åv ukk eð-dar auseð ir byggt. その家がなんの素材で建てられているのかわかりません (=見ることができない)。an は前文と同じく不定主語。dug 現在単数? < dugå = duga「する、適する」〔ここでは kunna「できる」の意〕、åv ukk(u) = av vad, av vilket material「何から、どんな素材から」。
Fråmånað ausę ir eð ien kall og įe kelingg. 家のまえに男と女がいます。fråmånað = framför, före「〜の前に」、kall m. = man, karl「男」、kelingg f. = kvinna「女」。ausę は単数与格既知形または複数主・対格既知形、ここでは前者〔前置詞の与格支配〕。動詞 ir が男女 2 人 (英語なら there are) ではなく eð に一致して単数であるのは、スウェーデン語 det är とパラレルとして理解できるか。
Sir du wen dier djärå? 彼らが何をしているかわかりますか? du pron.2sg. = du「君、あなた」、dier pron.3pl. = de「彼ら」。
Ja, dier knupå min ymsu. ええ、いろんなことで忙しくしていますね。knupå = pyssla「(med 〜で) 忙しい」、min = med〔この前置詞は単語欄に出ていないが本当にスウェーデン語話者が推測できるのだろうか? 第 2 課の文法解説 (与格支配の前置詞) に出る〕、ymsu = allt möjligt, både det ena och det andra「あらゆること、あれやこれや」。
Kalln kumb min watusilån og bjär wattneð. 男性は (桶をぶら下げた) 天秤棒を担いで水を運んでいます。watusilå (古く watusili) m. = ok n.「くびき (英 yoke)」、bjär wattneð = bär vatten〔wattneð 既知形 < wattn「水」は意味上は不定なのに定形標識がつく例。Sapir (2006), p. 25〕。
Keliendję stand nest jäldem. 女性は火のそばに立っています。stand 単数現在? < standa = stå「立っている」、nest = hos, vid、jäld m. = eld c.「火」。
Yvyr ånum aindjer eð ien ketil. その (=火の) 上には鍋がかけられています。yvyr ånum = över den m.「それの上に」〔yvyr など若干の場所の前置詞は与格および対格支配で、その使いわけはドイツ語などと同様。代名詞は男性名詞 jäld を受けたもの。ånum は an の与格、第 3 課〕、aindjer 単数現在 < aindja = hänga「吊るす」、ketil m. = gryta c., kittel c.「鍋」。
7. Sju
Eð-dar ir ien byönn. これは熊です。byönn m. = björn c.「熊」。
Byönn bruker wakken i aprill. 熊は 4 月に目覚めるもの (習性) です。bruka = bruka はここでは「〜する習慣である」の意。wakken = vakna、aprill m. = april。
An kuogär autyr åyvę. (それは) 巣穴から外を窺っています。kuogär 単数現在 < kuogå = titta「見る (look, glance, gaze, stare)」、autyr = utantill; utur, ur、åyve n. = ide n.「冬眠の巣穴」〔Steensland 式では åive。語尾 -ę は与格既知形で、「その熊の」という所有が前提されている。中性名詞の格変化は第 6 課〕。
Brukum sją̊ ferdär etter åm, men int so kringgt sos luokkallär bruka. (私たちは) 熊の足跡を見ることができるでしょうが、ロカ村の人々 (がそうしている) ほど頻繁にではありません。brukum 現在 1 人称複数 < bruka〔1・2 人称複数では代名詞主語が省略されることがある。Sapir (2006), p. 30〕、ferd f. = färd; (fot)spår「旅;足跡 (efter 〜の)」、etter = efter, efteråt、åm = honom「彼に、それに」〔an の与格で ånum の別形、第 3 課〕、sos = som, såsom, liksom、luokkallär = lokakarlarna, folket i byn Loka「ロカ村の人々」。
Isn-jär byönn jät ien fisk. この熊は魚を食べています。fisk m. = fisk c.「魚」〔黙って使われているが主格と同形の対格。対格の説明は第 3 課〕。
8. Åtta
Og wen ir eð-dar? それからあれは何ですか?
Eð-dar ir iet baur, eð. あれは倉庫です。baur n. = härbre, visthusbod「倉庫、貯蔵所」。
Og war stand eð-dar baureð? ではその倉庫はどこに立っているのですか。
Nų stand eð iem ą̊ gardem. いまは家の庭に立っています。nų = nu、iem = hem「家 (で)」〔中性名詞および副詞〕、ą̊ gardem = på gården〔gard m. = gård c.「庭」。前置詞 ą̊ は与格支配〕。
Avið it apt eð dar olltiett? いつもはそれはそこにないのですか。avið apt = har ni haft〔avið は åvå の現在 2 複、apt は同じく完了分詞〕。
Näi, för ar eð stendeð auti buðum. ええ、以前は店の外に立っていました。ar 現在単数 < åvå、stendeð = stått、auti = ute, uti、buð f. = affär, bod。否定疑問への同意なので näi「いいえ」は日本語の肯定。
Ir eð iet gåmålt baur? 古い倉庫なのですか? gåmålt は属詞位置で baur に一致し中性単数形。
Ja, eð-dar baureð ir allt liuotgåmålt, eð. ええ、その倉庫は本当に恐ろしく古いものです。liuot- = väldigt「ひどく、とてつもなく (強調)」。
Irið i baurę kringgt? あなたがたはよくその倉庫にいる (来る) のですか。irið 現在 2 人称複数 < wårå。
Näi, irum it dar noð kringgt. いいえ、そう頻繁にはそこにいません (来ません)。irum 現在 1 人称複数 < wårå、it noð kringgt = inte så ofta, sällan「頻繁ではない、めったにない」。
文法
§ 男性名詞、未知形と既知形。
A. M1a (唇音で終わる語):ien kripp — krippin「子ども」、ien wep — wepin。
B. M1b (k または子音 + g で終わる語):ien korg — kordjin、ien påyk — påytjin。〔前舌音 i の影響で破擦音になり、正書法にも反映される。〕
C. M1c (歯音・歯茎音・そり舌音で終わる語) と M3f. (母音で終わる語):ien kall — kalln、ien såmår — såmårn、ien uott — uottn、ien eri — erin。〔これら歯音のあとの語末 -n は成節的 stavelsebildande、本書 s. 7。〕
§ 代名詞。人称代名詞、単数 ig, du, an, ą̊, eð; 複数 wįð, ið, dier。〔wįð と ið は省略されることがあり、じっさい上の 7–8. でもいちども現れていない。〕
指示代名詞 isn, isų, ittað(-jär)「これ」、an-dar, ą̊-dar, eð-dar「それ」。
不定冠詞 ien byönn, įe kulla, iet aus。
§ 動詞の現在形。
A1 グループ (dalska, spilå)。エルヴダーレン語では非常にしばしば、動詞の主要形 (temaformer) をその不定形から知ることができない。〔エルヴダーレン語の動詞の主要形とは、不定形・現在単数・過去単数・完了分詞の 4 形。〕
スウェーデン語と同じく、エルヴダーレン語には強変化動詞と弱変化動詞がある。弱変化動詞 (A) はここでは 5 つのグループに分けられる。これらのグループのうちもっとも大きいのは A1 の dalska/spilå グループである。dalska 型の動詞は長音節、spilå 型は短音節である。主に次のことが言える:
- 長音節動詞は語尾 -a (不定形), -er (現在単数形)
- 短音節動詞は語尾 -å (不定形), -är (現在単数形)
- 現在 3 人称複数形は不定形と同一。dalska > dier dalska
A1 グループの動詞の現在形は以下の規則に従って活用する:
dalska 型。ig, du, an dalsker, (wįð) dalskum, (ið) dalskið, dier dalska「tala dalmål エルヴダーレン語を話す」。bruka「bruka 使う;〜する習慣である;〜するつもりである」、ietta「heta 〜という名前である」もこの型。
spilå 型。ig, du, an spilär, spilum, spilið, dier spilå「spela 遊ぶ」。kuogå「titta 見る」、luvå「lova 約束する、誓う」もこの型。
不規則動詞。重要な動詞 wårå「vara 〜である」と åvå「ha 持っている」は以下のように活用する。wårå: ig, du, an ir, irum, irið, dier irå。åvå: ig, du, an ar, amme, avið, dier åvå。
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