mardi 14 juillet 2015

Valfells and Cathey『古アイスランド語入門課程』第 1 課

Sigrid Valfells and James E. Cathey, Old Icelandic: An Introductory Course, Oxford UP, 1981 をもとにした勉強用の抄訳 abridged translation です.


第 1 課 Lesson I


1. 文法 Grammar


(A) 名詞と形容詞の性 Gender in Nouns and Adjectives

古アイスランド語〔以下 OI〕の名詞のおのおのは男性・女性・中性のいずれかに属する.名詞を修飾する形容詞はその性に一致する.


(B) 名詞と形容詞の数 Number in Nouns and Adjectives

単数でのみ現れる少数の抽象名詞を除いて,OI の名詞のおのおのは単数または複数になりうる.形容詞は名詞の数に一致する.


(C) 語幹と語尾 Stems and Endings

(1) 名詞と形容詞:屈折する語の基本形は語幹 stem である.多くの名詞はその基本語幹 basic stem に続く幹母音 thematic vowel によって特徴づけられる:(víking-a-)「ヴァイキング」,(bœj-i-)「農場,開拓地 farm, settlement」.幹母音は実際の語につねに現れるわけではなく,しばしば基底形の音声的な形を変える.名詞および形容詞語幹には性数によって異なる,主格・対格・属格・与格の格語尾がつく.

この課で見る男性単数名詞,およびそれを修飾する形容詞は,単数主格に格語尾 -r をとる.女性単数名詞・形容詞は単数主格語尾をとらない (ゼロ語尾).中性単数は語尾 -t, または長い強勢母音のあとでは -tt をとる.

語幹に語尾がつくとき,語の発音とつづり字の変化が非常にしばしば起こる.それゆえたとえば男性または女性名詞の幹母音は実際の単数主格形には決して現れず (中性語幹には幹母音がない athematic),男性単数主格語尾 -r はさまざまに変化する.基底形と実際の単数主格形とのあいだの以下の対応を見よ:
男性:名詞(víking-a- + -r)víkingr「ヴァイキング」
(mann- + -r)maðr「男」
(fugl-a- + -r)fugl「鳥」
(bœj-i- + -r)bœr「農場,開拓地」
形容詞(norsk- + -r)norskr「ノルウェーの」
(djarf- + -r)djarfr「大胆な daring」
女性:名詞(kona- + zero)kona「女,妻」
(vík- + zero)vík「入り江 bay」
形容詞(væn- + zero)vœn「美しい handsome」
中性:名詞(skip- + zero)skip「船」
(sumar- + zero)sumar「夏」
形容詞(búin- + -t)búit「用意された prepared」
(fríð- + -t)frítt「美しい fair, beautiful」
(kald- + -t)kalt「冷たい,寒い cold」
(góð- + -t)gott「よい good」
(mikil- + -t)mikit「多い much, plentiful」
(nýj- + -t)nýtt「新しい」

(2) 動詞:動詞も語幹としばしばそれを特徴づける幹母音,そして屈折語尾からなる.動詞の幹母音はふつう実際の (表層の) 形に現れ,基本語幹の音声を変える.動詞語尾 -r は直説法現在 3 人称単数を表す.be 動詞は不規則で,その直説法現在 3 人称単数は er である.以下は若干の例:
(finn- + -r)finnr「見つける finds」
(lif-i- + -r)lifir「生きる lives」
(land-i/j- + -r)lendir「上陸する lands」


(D) 音韻の注意 Phonological Notes

上記のような基底形からの語の派生から,OI のいくつかの音韻規則が見てとれる:

(1) ð, d の同化 assimilation:ð と d は,t の前に生起するとき t になる.この同化の結果の tt は,これが第 3 の子音の後に生起するときには,単一の t に単純化される,というのも子音 + 二重子音という系列は OI では許されないからである.それゆえ kalt は実際には (kald- + -t) → (kaltt) → kalt という過程による.ð → t の変化については上記 fritt を見よ.(góð- + -t) → gott において母音が短くなるのは不規則である.

(2) 語幹末の l-: 男性単数主格 fugl において格語尾 -r は現れていない.これは基本語幹が子音 + l で終わるときにつねに起こる.他方,語幹が ll- で終わるときには男性単数主格の -r は現れる:(full- + -r) → fullr「いっぱいの full」.この同化の問題には第 IV 課で立ち戻る.

(3) 強勢のない音節における同化:第 1 強勢をもたない音節においてはある種の同化と単純化が起こる:(búin- + -t) → (búitt) → búit, (mikil- + -t) → (mikitt) → mikit.

(4) -r の前の nn: 語幹 (mann-) の単数主格形はつねに maðr である.この -r の前における nn の ð への同化はしばしば起こる,ただし多くの場合に両方の変種が使われる:munnr と muðr「口 mouth」,Unnr と Uðr (女性の個人名).

(5) 中性単数主格 -t の二重化 doubling:語尾 -t (その他の子音語尾も同様) は,第 1 強勢のある長母音の後ではつねに二重化する:(nýj- + -t) → nýtt, (há- + -t) → hátt「高い high」.


(E) 語順 Word Order

OI の宣言文 declarative sentence の基本構造は

主語 Subject + 動詞 Verb (+ 副詞 Adverb) (+ 目的語 Object)

である.‘Ingólfr Arnarson er norskr víkingr.’  副詞または副詞句が第 1 位の主語にかわって文頭に立つことがある;動詞は第 2 位を保ち,

副詞 Adverb + 動詞 Verb + 主語 Subject (+ 目的語 Object)

の語順になる.例:‘Þar er fugl ok fiskr.’

名詞を修飾する形容詞は名詞に先行することも後続することもある.先行する場合はなんらか強調的であるか,名詞の属性としてより基本的なときである.名詞を修飾する形容詞の位置はしばしば,反復や単調さを避けるための文体論的な stylistic 目的で変わる:‘Ingólfr er norskr víkingr ok maðr ríkr ok djarfr.’

名詞と代名詞を含む所有詞句 possessive phrase では,代名詞に特別の強調が置かれる場合を除いてつねに,代名詞がそれの修飾する名詞に後続する:‘Skip hans er gott.’


3. 氷文英訳 (和訳) Text


Ingólfr Arnarson er norskr víkingr ok maðr ríkr ok djarfr. インゴールヴル・アルナルソンはノルウェーのヴァイキング [男] で,力強く大胆な男である.

Kona hans er Hallveig Fróðadóttir. 彼の妻はハッルヴェイグ・フローザドーッティルである〔現代の発音ではハットルヴェイグ〕.

Hon er góð kona ok væn. 彼女はよい妻で美しい.

Skip hans er gott ok vel búit. 彼の船 [男] は立派でよく装備が整っている.

Hann siglir sumar eitt frá Nóregi til vestrs ok finnr land eitt. 彼はある夏 [中] にノルウェーから出帆し,ある土地 [中] を見つける.

Þat er nýtt land ok engi maðr lifir þar. それは新しい土地で,誰もそこに住んでいない.

Þar er fugl ok fiskr nógr. そこには十分な鳥 [男] と魚 [男] がいる.

Vatn er þar bæði heitt ok kalt. 水 [中] はそこでは熱くも冷たくもある〔そこには熱い水も冷たい水もある〕.

Gras er grœnt ok mikit. 草 [女] は緑でたっぷりある.

Ingólfr lendir þar ok byggir hús. インゴールヴルはそこに上陸し家 [中] を建てる.

Margt fólk fylgir honum síðan til Íslands ok byggir þar víða. 多くの人々 [中] がそれからアイスランド [中] まで彼に従い,そこで多くの場所に〔家を〕建てる.

Bœr Ingólfs er kallaðr Reykjavík. インゴールヴルの開拓地 [男] はレイキャヴィーク [女] と呼ばれる.

Þar er nú hǫfuðstaðr Íslands. そこはいまではアイスランドの首都 [男] である.


〔2. 語彙,4. ドリル,5. 英文氷訳,は省略〕

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