vendredi 9 septembre 2022

古川『ギリシヤ語四週間』解答補足 (1)

古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林、1958 年) は珍しくも練習問題の解答がついているギリシア語の学習書であるが、そのなかの一部、語形変化の練習をさせる問題 (練習 2, 5, 8, 15, 18) については、変化表のとおりとして解答が省略されている。ここではそれについて全問の解答を与えておく (この記事では第一週第四日までを扱い、練習 18 のみ次回に送る)。

また山ほどある希文和訳・和文希訳の問題についても、解答じたいは完備されているのだが最終的な答えだけで解説はないため、まったくの初心者にとっては説明不足に感じられるのではないかというおそれが多い。そこで、はなはだ不徹底ではあるが、私が思いつくままに解説めいたコメントをつけてみることにした。なるべく初心者のかゆいところに手が届くようにということを念じたが、どこまでくどくど説明すべきかは悩みどころで、一貫しない感じを与えるかもしれない。

目次リンク:[第一週] 第一日・第二日・第三日・第四日・第五日・第六日・第七日・週末訳読・[第二週] 第一日・第二日・第三日・第四日第五日・第六日・第七日・週末訳読


第二日


練習 2. (15 頁)


単 πρᾱ́ττω, πρᾱ́ττεις, πρᾱ́ττει, 両 πρᾱ́ττετον, πρᾱ́ττετον, 複 πρᾱ́ττομεν, πρᾱ́ττετε, πρᾱ́ττουσι(ν).

単 κελεύω, κελεύεις, κελεύει, 両 κελεύετον, κελεύετον, 複 κελεύομεν, κελεύετε, κελεύουσι(ν).

単 φεύγω, φεύγεις, φεύγει, 両 φεύγετον, φεύγετον, 複 φεύγομεν, φεύγετε, φεύγουσι(ν).

単 λέγω, λέγεις, λέγει, 両 λέγετον, λέγετον, 複 λέγομεν, λέγετε, λέγουσι(ν).

単 ἔχω, ἔχεις, ἔχει, 両 ἔχετον, ἔχετον, 複 ἔχομεν, ἔχετε, ἔχουσι(ν).


練習 5. (19 頁)


両数ではつねに主=呼=対、属=与、複数では主=呼なので、見やすさのため重複は省略した。さらに中性名詞では三数ともつねに主=呼=対なのでこれも繰りかえさなかった。

単 ὄνος, ὄνε, ὄνον, ὄνου, ὄνῳ, 両 ὄνω, ὄνοιν, 複 ὄνοι, ὄνους, ὄνων, ὄνοις.

単 φίλος, φίλε, φίλον, φίλου, φίλῳ, 両 φίλω, φίλοιν, 複 φίλοι, φίλους, φίλων, φίλοις.

単 φόβος, φόβε, φόβον, φόβου, φόβῳ, 両 φόβω, φόβοιν, 複 φόβοι, φόβους, φόβων, φόβοις.

単 ῥόδον, ῥόδου, ῥόδῳ, 両 ῥόδω, ῥόδοιν, 複 ῥόδα, ῥόδων, ῥόδοις.

単 τόξον, τόξου, τόξῳ, 両 τόξω, τόξοιν, 複 τόξα, τόξων, τόξοις.

単 ἴον, ἴου, ἴῳ, 両 ἴω, ἴοιν, 複 ἴα, ἴων, ἴοις.

単 δένδρον, δένδρου, δένδρῳ, 両 δένδρω, δένδροιν, 複 δένδρα, δένδρων, δένδροις.


練習 6. (19 頁)


9. φόβον ἵππων「馬の恐怖」という句があったとき、その属格は「馬に対する恐怖=馬を恐れる」という目的語的属格と「馬が抱く恐怖=馬が恐れる」という主語的属格、いずれにもとれる。それは文脈しだいである。この文では動詞が ἔχετε という 2 人称複数であって、「君たちは馬が恐れているか」では意味が通らないので、「君たちは馬を〜」と理解できるわけである。

10. 注 (ニ) にあるとおり、この文の与格 φίλῳ は λέγει にかけて「友人に向かって言う」ともとれるし、πέμπειν にかけて「友人のために送る」とも、どちらで理解してもよいのである。後者であれば発言の相手が、前者なら送る相手が明示されていないということ。


練習 7. (20 頁)


2.「おそれる」という動詞はまだ習っていないので、前の練習 6-9. に倣って φόβον ἔχειν+属格で言えばいいと判断する。ちなみにこの文と続く 5. で、問題文は「友よ,」「子供たちよ,」と呼びかけで始まっているのに、模範解答では呼格 ὦ φίλε, ὦ τέκνα は文末に置かれていることにも注目しよう。前の練習 6-7. も同様で、じつはこれは偶然ではない。呼格は「アッティカ散文では文初にあることは例外で,この位置は強意を伴う」(高津『ギリシア語文法』251 頁)、すなわち文頭以外に置くほうがふつうの言いかたなのである。この文ではたとえば « ἔχεις, ὦ φίλε, φόβον ὄνων ; » のように文中に挟むことも可能である。


第三日


練習 8. (23 頁)


女性形はまだ出ていないので、形容詞は男性形と中性形のみ解答を与える。練習 5. と同様、同形の格はまとめる。

単 ζυγόν, ζυγοῦ, ζυγῷ, 両 ζυγώ, ζυγοῖν, 複 ζυγά, ζυγῶν, ζυγοῖς.

男・単 ἀγαθός, ἀγαθέ, ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθοί, ἀγαθούς, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.
中・単 ἀγαθόν, ἀγαθοῦ, ἀγαθῷ, 両 ἀγαθώ, ἀγαθοῖν, 複 ἀγαθά, ἀγαθῶν, ἀγαθοῖς.

男・単 κακός, κακέ, κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακοί, κακούς, κακῶν, κακοῖς.
中・単 κακόν, κακοῦ, κακῷ, 両 κακώ, κακοῖν, 複 κακά, κακῶν, κακοῖς.

単 ποταμός, ποταμέ, ποταμόν, ποταμοῦ, ποταμῷ, 両 ποταμώ, ποταμοῖν, 複 ποταμοί, ποταμούς, ποταμῶν, ποταμοῖς.

男・単 μῑκρός, μῑκρέ, μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκροί, μῑκρούς, μῑκρῶν, μῑκροῖς.
中・単 μῑκρόν, μῑκροῦ, μῑκρῷ, 両 μῑκρώ, μῑκροῖν, 複 μῑκρά, μῑκρῶν, μῑκροῖς.


練習 9. (25 頁)


9. οὐ ... ἀλλὰ ... の対比を活かすならば、「我々が友人を知るのは言葉によってではなく行いによってだ」と訳してもかまわない。次の練習 10-3. の問題文と見比べよ。


練習 10. (25 頁)


2.「五頭の馬で」は与格であるが、πέντε の形は変える必要がない。1 から 4 までの数詞は性と格によって曲用するのだが、5 以上は無変化なので簡単であり、なぜ練習 6. 以来ずっとこの数字を使っているかというとそういう事情である。

4.「神々を恐れること」はもちろん ὁ φόβος τῶν θεῶν のように属格句を外側に出してもいい。5. も同様、οἱ λόγοι τῶν τέκνων も可。


練習 11. (29 頁)


1. τὰ τῶν φίλων は前頁 §24 にあるごとく、「友人たちの」という属格句に中性複数の冠詞をつけて物を表す名詞と化したもの。

4. φίλω は前頁 §25 で説明されている、「友人」ではなくて「いとしい (英語の dear)」という意味の形容詞の中性両数呼格形。


練習 12. (29 頁)


1. τὰ τέκνα と冠詞つきで言うことで「自分たちの子どもたち」という所有を含意している。練習 11. の注 (イ) のとおり。

3. 疑問詞はふつう文頭に置く (高津文法 384 頁)。

4. 呼格が文末にあることについてはすでに上で練習 7-2. について解説したことを参照。ἀδελφός の呼格のアクセント位置が ἀδελφέ でなく ἄδελφε となることは例外であって覚えるしかないが、第二曲用ではこれだけ。

5. κελεύω で命ずる相手は対格にとることは練習 6. の注 (ハ) で見た。


第四日


練習 13. (33 頁)


10. 最上級の絶対的用法。すなわち文字どおり「もっとも多くの」ではなく、とくに比較対象を定めずたんに「きわめて多くの」の意。


練習 14. (34 頁)


5. 解答で εἰκάζομεν のアクセントが抜けている。


練習 15. (37 頁)


ἀναφέρω:単 ἀνέφερον, ἀνέφερες, ἀνέφερε(ν), 両 ἀνεφέρετον, ἀνεφερέτην, 複 ἀνεφέρομεν, ἀνεφέρετε, ἀνέφερον.

ἀντέχω:単 ἀντεῖχον, ἀντεῖχες, ἀντεῖχε(ν), 両 ἀντείχετον, ἀντειχέτην, 複 ἀντείχομεν, ἀντείχετε, ἀντεῖχον.

διαφέρω:単 διέφερον, διέφερες, διέφερε(ν), 両 διεφέρετον, διεφερέτην, 複 διεφέρομεν, διεφέρετε, διέφερον.

συλλέγω:単 συνέλεγον, συνέλεγες, συνέλεγε(ν), 両 συνελέγετον, συνελεγέτην, 複 συνελέγομεν, συνελέγετε, συνέλεγον.

μεταγράφω:単 μετέγραφον, μετέγραφες, μετέγραφε(ν), 両 μετεγράφετον, μετεγραφέτην, 複μετεγράφομεν, μετεγράφετε, μετέγραφον.

ἐκπέμπω:単 ἐξέπεμπον, ἐξέπεμπες, ἐξέπεμπε(ν), 両 ἐξεπέμπετον, ἐξεπεμπέτην, 複 ἐξεπέμπομεν, ἐξεπέμπετε, ἐξέπεμπον.


練習 16. (37 頁)


8. Ἀλεξίθεος と ὁ Ἀθηναῖος は同格「アテーナイ人であるアレクシテオス」。μέν ... δέ は 2 つのものを対比し、そのさい対比する語句がそれぞれ 2 語以上であれば 1 語めの直後に置く、ということに注意して文の構造を理解する。したがってこの文全体の成り立ちは、まず Ἀλεξίθεος ὁ Ἀθηναῖος τῶν ἀνθρώπων までは共通で、次で枝分かれをして τοὺς χρηστοὺς ἐν τοῖς λόγοις と τοὺς ἀχρήστους κατὰ τὸν βίον との 2 つ* を対比しており、ここでまた合流して動詞 ᾔκαζε が両者を共通の目的語にとっているという形。

* この文の場合これら 2 者は別々のものではなく、同じ人々の 2 種の側面を言ったものと解せるが、μέν ... δέ では別個の 2 つを対比することも多いので、「枝分かれ」とイメージしておくと便利だと思う。対比される 2 者は形式上もパラレルになることがしばしばで、2 行に並べて書いてみると見やすい。今回ならどちらも τοὺς (ἀ)χρηστους+前置詞句という形。

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