Edmund Goodwin 編、Robert Thomson 改訂の First Lessons in Manx (初版 1901 年、改訂版 1965 年) によってマン島語 (マニン・ゲール語) の文法を勉強するノート。副読本として適宜 J. Kewley Draskau, Practical Manx (Liverpool U.P., 2008) および G. Broderick, A Handbook of Late Spoken Manx (De Gruyter, 1984–86) をも参考にした。
目次リンク:第 1 回を参照のこと。
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10. 冠詞。マン島語に不定冠詞はない。したがって dooinney は英語の man と a man いずれをも意味する。
定冠詞は yn:yn dooinney (英 the man), yn soilshey (the light)。後続の名詞が子音で始まるとき、冠詞の最後の n はしばしば落ちる:y dorraghys (英 the darkness)。先行する無強勢の語が母音で終わるとき、冠詞の最初の y はしばしば落ちる:da’n dooinney (英 to the man), veih’n dooinney (from the man)。
As va’n fastyr, as y moghrey yn nah laa.「そして夕と朝が 2 日めにあった (創世記 1:8)」
複数名詞につく定冠詞は ny。
11. 名詞や代名詞は対格でも形を変えない。mee は「私は」と「私を」、oo は「君は」「君を」いずれでもある。t’ad fakin y dooinney 彼らはその男を見る、ta’n dooinney fakin ad その男は彼らを見る。
目的語が代名詞であるとき、べつの構文も可能でこれは書き言葉に頻繁である。例として:
t’eh dy my akin 彼は私を見る
t’eh dy dty akin 彼は君を見る
t’eh dy akin 彼は彼/それを見る
t’eh dy fakin 彼は彼女/それを見る
t’eh dyn vakin 彼は私たち/君たち/彼らを見る
動名詞〔ここでは fakin〕の変異 (§§186, 188) に注意せよ。my, dty, dy (男性) のあとでは軟音化 (lenition)、dyn のあとでは鼻音化 (nasalisation) をする〔女性の dy はなにも起こさない〕。この構文は 1・2 人称単数においてもっとも普通である。さらなる例:
ta shin dy dty voylley 私たちは君をほめる
ta dty lhatt as dty lorg dy my gherjaghey あなたの棒と杖が私を慰める (詩篇 23:4)
my ta dty hooill yesh dy dty hayrn gys peccah, pluck assyd ee, as tilg void ee あなたの右の目があなたを罪へと引き寄せるならば、それをえぐりだして捨てなさい (マタイ 5:29)
ta mish dyn goyrt shiu magh myr eayin mastey moddee-oaldey 私は狼のなかの仔羊としてあなたがたを送りだす (ルカ 10:3)
〔この時点で、my, dty, dy, dyn がどういう代名詞なのかとか、(代名詞でないほうの) dy がなんなのかとか、わからないことが多すぎるので、こんな例文を出されても途方に暮れる。とりあえず第 1 文は簡単で、dty のあとで軟音化した形が voylley なので、基本形は moylley「ほめる」である。
〔第 2 文からは、dty が your の意味で使われていることが見てとれる。そこで所有小辞を先取りして調べてみると (§66)、1 単 my, 2 単 dty, 3 単男 e, 女 e, 複数は人称によらず nyn で、3 単の e は男性のみ軟音化、nyn は鼻音化を引きおこすというので、完全に一致していることに気づく。ということは 3 単は dy e がつづまって dy だけに、また複数は dy nyn がつづまって dyn になったものであろうと推測される。
〔最後の 2 文はこんな序盤に掲げるにはわからない単語や文法事項が多すぎる。第 3 文ではまず冒頭の my は代名詞ではなく英 if の意の接続詞である。それから後半に 2 回出る ee に注目しよう。これは dty hooill yesh「あなたの右の目」を受けたもので、sooill「目」が女性名詞だから ee で受けたわけである。その sooill は dty のあとなので軟音化して h になっている。yesh は jesh「右の」の軟音化で、形容詞が後置修飾ということがわかる;こちらは女性単数名詞の後ろにあるので軟音化を受けたのである。動詞は hayrn < tayrn「引く」、これも軟音化。このように、軟音化の規則がわからないと辞書を引くことすらできないので難しい。なお pluck という動詞は英語をそのまま借用しているであろうから、そのままマン島語の命令形として通用しているのがおもしろい。
〔第 4 文、mish はすぐ下の §13 で説明される代名詞の強勢形である。goyrt は dyn のあとなので鼻音化した coyrt「与える」、これはすでに §6 で見た動詞である。そのほかの語はいまいちいち確認する必要はないだろう。〕
12. 形容詞は原則としてそれが修飾する名詞のあとに置かれる。cree dooie「優しい心」、dooinney boght「貧しい男」、dooinney berçhagh「裕福な男」。2 つの頻用の形容詞、shenn「古い」と drogh「悪い」はふつう名詞のまえに置かれ、そのとき軟音化を引きおこす (§186.13, 17)。
13. 人称代名詞に特別の強調が置かれるとき、いわゆる強勢形が要求される:単数 mish, uss, eshyn, ish, 複数 shinyn, shiuish, adsyn。これらは ta と縮約して、t’ou uss, t’eshyn, t’adsyn となる。
14. 語彙。
ayns 〜のなかに (英 in)
as と、そして (英 and)
dy 〜に (英 to)
cre 何。cre ta 〜は何か、cre vel 〜はどこか。
cred 何
c’raad どこ
mooar 大きい
rieau かつて、これまでに
ve それは〜だった
noa 新しい
schoill [女] 学校
schoillar [男] 学者
lioar [女] 本
pabyr [男] 紙
thie [男] 家
cashtal [男] 城
slieau [男] 山
beg 小さい
cronk [男] 丘
boayl [男] 場所、地点
ynnyd [女] 場所、立場
mie よい
〔cre ta が what is? で cre vel が where is?。疑問詞が同じで小辞が変わるだけで尋ねる内容が変わるというのは不思議だが、Broderick の辞書にもそうあり、間違いではなくそういうもののようだ。〕
ayns y に続く名詞はしばしば軟音化する (§186.12, 17)。また女性単数名詞のあとで形容詞は軟音化する (§184.4)。
マン島語に中性はない。生きものであろうとなかろうとすべての名詞は男性か女性かに分類される。dorrys「扉」は男性で、代名詞 eh で代理される。uinnag「窓」は女性で、ee で代理される。性が不明のとき、無生物を指すのに使われるのは男性形 eh。形式主語のように ‘it is’ がなにも特定の名詞を指さぬとき、しばしば t’eh のかわりに te、また v’eh (§16) のかわりに ve と書かれる。
drawer, dresser など英語からの借用語がときに使われるが、これらは可能なかぎり控えられるべきである。
童謡
C’raad t’ou goll? どこへ行くの。
Goll dy schoill. 学校へ。
C’raad ta’n lioar? 本はどこ?
Ayns y drawer. 引きだしの中。
C’raad ta’n drawer? 引きだしはどこ?
Ayns y dresser. 戸棚の中。
C’raad ta’n dresser? 戸棚はどこ?
Ayns y thie. 家の中。
C’raad ta’n thie? 家はどこ?
Ayns y clieau. 山の中。
C’raad ta’n slieau? 山はどこ?
Ayns y voayl ve rieau. かつてあったところ〔?〕
〔前置詞+冠詞のあとでは男女問わず軟音化し、とくに sl は cl になる (ふつう s は h になるところ)。〕
15. 日本語に訳せ。
Ta dooinney ayns y thie. 男が家のなかにいる。
Cha vel schoill ayns yn ynnyd. 学校はその場所にはない。
Cre vel yn lioar veg? その小さな本はどこにあるか。
Cre t’ou uss jannoo ayns y schoill noa? 君はその新しい学校で何をしているか。
C’raad ta’n cashtal mooar? その大きい城はどこにあるか。
Nagh vel oo fakin nagh vel pabyr ayns y thie? 君は家のなかに紙がないことを見ていないか。
Cha vel ad dy my chlashtyn. 彼らは私 (の言うこと) を聞かない。〔§11 の構文 t’ad dy my chlashtyn の ta を否定形 cha vel にしたもの。〕
T’ad gra dy vel cronk mooar ayns y voayl. 彼らはその地点に大きい丘があると言う。
Nagh vel shiu jannoo eh? 君たちはそれをしていないのか。
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