田中利光『ラテン語初歩』(岩波書店、初版 1990 年、改訂版 2002 年) 第 41 課から第 43 課までの解答例 (旧版・新版両対応)。これまで規則的に 4 課ごとに 1 つの記事にしてきたが、今回のみ 3 課とする。この理由は次回の記事を見れば一目瞭然だろう。
ところでこれまでの課でも薄々感じていたことだが、旧版にだけあった問題文のなかにはいわゆる法諺、法律や裁判に関係する格言のたぐいがかなりある。今回に限っても第 42 課の 10. と 11.、第 43 課の 11. と 12. がそれであり、こうした金言が削られたこともやはり新版の無粋な点だ。もっとも以前の課には自然法に関する 1600 年代の文も見られたように、これらの法諺のうち少なからぬ部分は古代にはなかった、より新しい中世〜近世の法律家の言葉なのかもしれない。そうだとすればこれは古典語の教科書として古典時代〜聖書時代のラテン語の純度を高めようという意図からなされたものだろう。
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XLI 分詞 (2) ——完了受動相,未来能動相.状況を示す分詞
§383 (旧 §359). [練習問題 79]
1. プラトーンは書きながら死んだ。
2. ギリシアは捕まったが野蛮な征服者たちを捕まえた。〔ローマ人によって征服されたが、文化的には相手を征服したということ。〕
3. 一度逃された機会はユピテルでさえも捉えられない。
4. 恋は目から生じて胸のなかへ落ちる。
5. 私は毎日なにかをさらに学びながら老人になる。
旧 1. =新 1.
旧 2. =新 2.
旧 3. カエサルは兵士たちを励まして出発した。〔cohortātus は受動分詞の形だが形式所相動詞なので意味は能動。〕
旧 4. =新 3.
旧 5. 神の (両) 目と (両) 耳は (私たちが) 気づいていないとしても私たちを見張っている。〔現在能動分詞 sentientēs は nōs に同格の複数対格。文法的には耳目に一致する複数主格ともとれるが、神が気づいていないのは無理ということでこれは採用しない。〕
旧 6. 自分の境遇に満足して生きている者は幸せである。
旧 7. =新 4.
旧 8. タルタロス [地獄] でタンタロスは渇きながら、(両) 唇から逃げていく川に触れたいと欲するが (触れることが) できない。
旧 9. 私は多くのことを書いたが、それらのことを欠点のあるものと考えたので、改良してくれるであろう火に私自身が与えた (=くべた)。〔quae は関係代名詞の中性複数対格。〕
旧 10. 私は本を要求している君に送った。
旧 11. =新 5.
§384 (旧 §360). [練習問題 80]
1. (Eī) labōrantēs cōgitā(vē)runt.
2. Ea capta eum [illum] cēpit.
3. Amor semel ortus statim āmissus [sublātus] est.
4. Amor saepe ex oculīs oriens in pectus cadit.
5. (Eī) nihil discentēs senēs fīunt.
旧 1. (Eī) labōrantēs cōgitant.
旧 2. (Is) cōgitāre cōnans nōn potest.
旧 3. Omnia ab eō tācta aurum facta sunt.〔fīō の完了。〕
旧 4. Juvenis amābat puellam nōn sentientem.
旧 5. =新 3.
XLII 奪格の独立的用法
§389 (旧 §364). [練習問題 81]
1. 橋が速やかに完成されたのでカエサルは兵士たちをゲルマーニアに渡した。
2. 勝利があやふやなのでカエサルは兵士たちの心を鼓舞した。
3. アシアが破られるとローマの将軍は多くの奴隷たちをローマへ送った。
4. 病気の息子が眠っているときに母はほんの少しのあいだ休憩した。
5. 息子が死んだ。そのことが見られると (=それを見て) 母は泣きはじめた。
旧 1. =新 1.
旧 2. =新 2.
旧 3. =新 3.
旧 4. =新 4.
旧 5. =新 5.
旧 6. 自然が導き手であれば私たちは決して道を誤らないだろう。
旧 7. なぜ君は私の話を笑うのか。—— 名前が変えられて君について (その) 話は語っている (からだ)。〔今ふうに言えば「ブーメラン」。〕
旧 8. 昔のローマ人たちはみな支配されることを欲していた、自由の甘美さがまだ経験されていなかったので。
旧 9. もし剣を誰かが君のもとに、精神が健全であるときに預け、(その人が) 気が狂っているときに返せと言ってきたとしたら、返すことは罪で、返さないことが義務であろう。〔2 つめのコンマまでが sī の条件文、quis は aliquis の代わり、insāniens は別人ではなくて主語の同格。sānā mente は「この課に出てきているから」というメタ解釈で独立奪格ととったが、単純に手段もしくは随伴の奪格「健全な精神で」でも大差なし。新版では §391 [引用句 25]。〕
旧 10. 原告が証明しないならば、被告は釈放される。
旧 11. 原因が止まれば結果は止まる。
旧 12. 役人たちへの敬意が失われると、国家は崩壊する。
§390 (旧 §365). [練習問題 82]
1. Ponte celeriter confectō Caesar mīlitēs in Germāniam trādūcet.
2. Dubiā victōriā Caesar mīlitum animōs confirmat.
3. Asiā victā dux Rōmānus multōs servōs Rōmam mittet.
4. Fīliō aegrōtō dormiente māter paululum requiēscēbat.〔「休むのだった」という言いかたはよくわからないが、和訳が完了なので違うものを書かせたいはずと思う。未完了は過去の習慣・反復「休むものだった」。〕
5. Fīlia mortua est. Quō vīsō māter flēre coepit.
旧 1. Tribus epistulīs scrīptīs paululum requiēvī.〔もし「手紙」に litterae を使う場合は基数詞 trēs では間違いで (それでは「3 文字」の意味になる)、配分数詞を用いて trīnīs litterīs でないといけないが、これはこの本では習わない。というか数詞じたいまだ先の課なのに、格変化もする「3」をヒントもなしに使わせるのは不適切。そのゆえにこれも新版で消えたのだろう。〕
旧 2. Tē magistrō bene intellegimus.
旧 3. Fīliā mortuā māter flēvit.
旧 4. Puellam vīdens puer rīsit.
旧 5. Puerō rīdente discessit puella.
XLIII 形容詞の比較
§404 (旧 §377). [練習問題 83]
1. この青年はあの青年より思慮深い。
2. ロバは馬ほど速くはないが、より忍耐強い。
3. 誰がもっとも美しいか君は知らない。
4. 将来の悪の不知は (将来の悪の) 知より有用である。
5. 不確実なことを確実とみなし、偽りのことを真実と (みなす) ことより愚かなことは何か。〔修辞疑問文。〕
旧 1. 傷の治療は傷よりもしばしば苦痛である。
旧 2. 受けるよりむしろ与えるほうが幸いである。〔新版では §406 [引用句 26]。〕
旧 3. ソークラテースはすべての人間のなかでもっとも賢い。
旧 4. =新 4.
旧 5. 何物も徳より美しく心惹かれるものはない。
旧 6. すべてのブリタンニア人のなかでずばぬけてもっとも人間的 (=文化的) なのはカンティウム [ケント] に住んでいる者たちである。
旧 7. =新 5.
旧 8. =新 2.
旧 9. ときには忘れることができることがむしろ覚えていることよりも願わしいことがある。
旧 10. 君はなにも知っていないということ、このひとつのことを知ることよりもいっそう難しいことを君はなにも発見しないだろう。〔difficilius は文頭の nihil を修飾する中性単数対格。〕
旧 11. 怒りを通して呼び起こされた罪を犯す者は、より緩やかに罰せられねばならない。
旧 12. 事実は言葉よりも強力である。
旧 13. 中間を (行けば) 君はもっとも安全に行くだろう。〔tūtissimus は省略されている主語 tū の同格。〕
§405 (旧 §378). [練習問題 84]
1. Haec puella pulchrior est quam illa (puella).
2. Equus vēlōcior est quam asinus.
3. Nescīmus quid sit ūtilissimum.〔間接疑問なので接続法を使うことに注意。旧版では旧 §290 (新 §310) への参照指示がある。新版でそれが消えたのは、新版では和訳問題との対応のおかげで間違うおそれが減じたためか。〕
4. Scientia futūrōrum malōrum est difficillima.
5. Falsa vērīs [vērōrum] simillima sunt.〔similis で似ている対象は与格もしくは属格。〕
旧 1. =新 1.
旧 2. =新 2.
旧 3. =新 3.
旧 4. =新 4.
旧 5. =新 5.
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