田中利光『ラテン語初歩』(岩波書店、初版 1990 年、改訂版 2002 年) 第 48 課から第 51 課までの解答例 (旧版・新版両対応)。改訂版のお客さんにとっては今回が最後ということになる。一方初版には第 53 課まであるので、次が最終回である。
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XLVIII 動名詞の代わりに用いられる動形容詞
§442 (旧 §412). [練習問題 93]
1. 衣服は最初に寒さを追い払うために案出された。
2. 自分に寛大な者は自分の怒りを抑えることに無力である。
3. すべての物事を知ることを熱望しているのが哲学者である。〔ふつうの意味で「主語」は哲学者であり、「哲学者は〜熱望している」という文だが、もとの語順 (テーマ/レーマ構造) を尊重してこのように訳しておく。〕
4. 真の哲学者は国家を管理することに適している。〔哲人政治のこと。〕
5. 牛は重荷を運ぶのに適している。
旧 1. =新 2.
旧 2. =新 1.
旧 3. =新 3.
旧 4. =新 4.
旧 5. =新 5.
旧 6. 身体も才能もそのすべての力は自由を守るために結集されるべきである。〔ingenī は属格 ingeniī の約音。〕
旧 7. アッティクスは哲学者たちの指令を暮らしのために使っていた。〔vītam agere「人生を過ごす=暮らす、生活する」。〕
旧 8. 哲学者たちは栄光を軽蔑することについて書く。
旧 9. 少年は最上級の本を読むことによって学ぶ。
旧 10. 多くの人たちは多くのことを見るという欲求によって海を越えて駆ける。〔dēsīderiō は奪格、videndī は属格、multa は複数対格なので、この文だけは動形容詞の代用法ではなくただの動名詞。じつは、ここでは対格目的語が中性の形容詞 multa なので動形容詞 (videnda) は使えず動名詞でないといけない (中山『標準ラテン文法』§59 C. [2])。〕
旧 11. 心と富によって [において] 準備ができている。〔動形容詞となにも関係がないのになぜここに置いた?〕
§443 (旧 §413). [練習問題 94]
1. Vestis prīmō frīgorum dēpellendōrum causā reperta est.
2. Puerī suae cupiditātis cohibendae impotentēs sunt.
3. Multa cognōscendī avidus nōn ferē est philosophus.〔動名詞を使う。動形容詞なら multōrum cognōscendōrum だが、これは重い語尾 -ōrum が重なるため望ましくない (新 §440, 旧 §410)。〕
4. Vērī philosophī aptī rēbuspūblicīs gerendīs sunt.
5. Bōs est aptus ferendō onerī.
旧 1. =新 2.
旧 2. =新 3.
旧 3. Lībertātis dēfendendae causā lībertās fīnienda est.
旧 4. Veste reperiendā [Vestem reperiendō] hominēs frīgus dēpulērunt.〔括弧内に動名詞による表現を併記したが、この場合は動形容詞のほうが自然 (松平・国原『新ラテン文法』§599)。〕
旧 5. Mūsica est apta animō colendō.
XLIX 命令法能動相
§454 (§423). [練習問題 95]
1. 食え、飲め、遊べ;死の後にはなんらの楽しみもない。
2. (君たちは) 手をつけるな、味わいもするな。
3. 死を覚えておれ。
4. 義務を行え。
5. 汝自身を知れ。
旧 1. 分けて命令せよ (=分割して統治せよ)。
旧 2. =新 5.
旧 3. (君たちは) 手をつけるな、味わうな、触れるな。
旧 4. 死んだ人間を都のなかで埋めもしくは焼くべからず (=埋葬も火葬もするな)。
旧 5. =新 1.
旧 6. 私たちに平和を与えよ。
旧 7. 君の意見を言え。
旧 8. 少年よ、息子を学校へ連れていけ。
旧 9. 勇敢に苦しみを耐えよ。
旧 10. =新 4.
旧 11. =新 3.
旧 12. 真実を言うことにも聞くことにも慣れよ。
旧 13. 祈り、働け。〔どうもこの本は語頭で大文字の場合マクロンをつけないようである。Orā は ōrō の第一命令法。〕
旧 14. 与えよ、そうすれば君たちに (も) 与えられるだろう。〔dabitur は非人称受動。〕
§455 (旧 §424). [練習問題 96]
1. Nōlī(te) edere neque bibere [Nē ēderi(ti)s nēve biberi(ti)s].
2. Tange et gustā.
3. Mementōte morī.
4. Facite officia.
5. Cognōscite vōs ipsōs.
旧 1. Nē vīderis, neque audīveris, neque dīxeris.
旧 2. Tolle (et) lege.
旧 3. Dīcite opīniōnem vestram.
旧 4. Honorā patrem tuum et mātrem tuam.
旧 5. Este ambitiōsī, puerī.〔呼格はふつう文頭に立たない (旧 §80 注 1.)。「栄光を求めよ」なのですなおに glōriam petite や quaerite などと言ってもよさそうだが、わざわざ ambitiōsus の説明があるのはたぶんこのためだろう。〕
L 能相欠如動詞の命令法.主文〔旧:単文〕における接続法
§466 (旧 §434). [練習問題 97]
1. 私についてこい。
2. へつらうな。
3. つねに善なることを、お互いに対しても全員に対しても追い求めよ。
4. そして君が施しをするとき、君の右 (手) がなにをしているか君の左 (手) が知らないようにせよ。〔前半は独立奪格、nesciat は 3 人称命令、faciat は間接疑問の接続法。〕
5. 君の隣人を君自身のように愛するように。
旧 1. =新 1.
旧 2. しばしば警告を使え、よりまれに罰せよ。〔ūtere は ūtor の命令法、rārius は rārus の比較級中性単数対格=副詞の比較級。〕
旧 3. 真に (=偽りなく) かつ自由に話せ。
旧 4. =新 2.
旧 5. お互いに嘘をつくな。
旧 6. 盗んでいた者は、もう盗むな。
旧 7. 姦淫しないように;殺さないように;盗まないように;貪らないように。〔新版では §468 [引用句 28]。〕
旧 8. =新 3.
旧 9. =新 4.
旧 10. =新 5.
旧 11. 他人を傷つけないように自分のものを使え。
旧 12. 門は開いている:出発せよ、都から出ていけ。
§467 (旧 §435). [練習問題 98]
1. Nōlī mē sequī [Nē mē secūtus sīs].
2. Nē blandītī/ae sītis.
3. Semper, quod bonum est, sectāre et in omnēs.〔「お互いに対しても」は消えたが、「すべての人に対しても」の「も」が残っているので、et は必要。〕
4. Tē faciente eleēmosynam, nesciant sinistrae tuae quid faciant dexterae tuae.
5. Dīligētis proximum vestrum sicut vōs ipsōs.
旧 1. Nōlī ēgredior [Nē ēgressus/a sīs].
旧 2. Spem habeāmus.
旧 3. Nē fūrātus sīs.
旧 4. Sequiminī mē.
旧 5. Nē mentiāre.〔勧奨を表す接続法現在で、不特定の人を一般的に指す 2 人称単数。中山『標準ラテン文法』§66 A. [1] b. にはまさにこの文で「嘘はつかないことだ」という訳文が与えられている。しかしこの『初歩』の説明の範囲でなら 1 複 mentiāmur「つかないようにしよう」でもよいかも。ただの否定命令「嘘をつくな」とは異なるように「つくものじゃないよ」という問題文のニュアンスを本書の説明で訳すのは無理。〕
LI 目的分詞 (supine)
§478 (旧 §445). [練習問題 99]
1. 女性たちは見物するために来る;彼女たち自身 (も) 見られるために来る。
2. おんどりは太陽とともに眠りにいく。
3. 愚かさは狩りをするために嫌がっている犬たちを連れていくことにある。〔たんに「〜連れて行くことは愚かである」と言うなら形容詞の中性単数主格 stultum を述語にすればよいので、いちおう違うふうに訳した。〕
4. 未来よりも知るに難しいことは何か。
5. おべっか使いは聞くには楽しいこと、しかし事実の点では (=実際は) 有害なことを言う。
旧 1. アエドゥイー族は、自分たちと自分たちの (財産) を守れなかったので、援助を求めるために使節たちをカエサルのもとへ送った。〔ハエドゥイーのほうが見慣れているが、Aeduī は別形か?〕
旧 2. ヘルウェーティイー族との戦争が終わると、ほとんど全ガリアの使節たち、(すなわち) 諸部族の首長たちが、カエサルのもとへ祝賀しに集まってきた。〔lēgātī と prīncipēs は同格。遠山『対訳 カエサル「ガリア戦記」第 I 巻』の同所を参照。〕
旧 3. =新 1.
旧 4. =新 2.
旧 5. =新 3.
旧 6. =新 4.
旧 7. それは言うには易しいが行うに難い。
旧 8. =新 5.
旧 9. ある寡婦がある裁判官のもとへ不法を告訴するために来ていた。
旧 10. 王は総督のもとへ挨拶するために行った。
§479. [練習問題 100]
1. (Ea) spectātum venit; venit spectētur ut ipsa.
2. Gallus cum sōle it cubitum.
3. (Is) vēnātum dūxit invītam/um canem.
4. Nihil est difficilius cognitū quam nostra futūra.
5. Adūlātōrēs jūcunda audītū sed rē perniciōsa dīcunt.
旧版ではこの課に和文羅訳問題はない。かわりに次の第 52 課にも羅文和訳だけがあり、全体としては同じ「練習問題 100」で終わる。そのあと第 53 課として 11 編の「読み物」が続くが、このうち 6 編は新版で「文例」の 1 から 6 として最後のほうの課 (XLI, XLII, XLV, XLVIII, XLIX, LI) に分散して配されている。
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〔2021 年 12 月 24 日追記〕『ラテン語初歩』を読了されたかた、ここまでたいへんお疲れさまでした。このたび本書の姉妹編である、同著者による『新ギリシャ語入門』の練習問題解答例を同様に作成したので、ラテン語に続けて古典ギリシア語 (または新約聖書ギリシア語) を学んでみたいという向きにおすすめしています。本書と同じ方式で取り組みやすく適度にやりがいのある入門書で、独習にもうってつけの本です。
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