Edmund Goodwin 編、Robert Thomson 改訂の First Lessons in Manx (初版 1901 年、改訂版 1965 年) によってマン島語 (マニン・ゲール語) の文法を勉強するノート。副読本として適宜 J. Kewley Draskau, Practical Manx (Liverpool U.P., 2008) および G. Broderick, A Handbook of Late Spoken Manx (De Gruyter, 1984–86) をも参考にした。
目次リンク:第 1 回を参照のこと。
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95. §59 では助動詞 ve と jannoo を用いてほかの動詞の諸時制を形成する方法をまとめた。ve によって作られる時制、すなわち現在・未完了・完了・過去完了・条件形過去は、この方法でのみ作られる。しかし jannoo による時制、すなわち未来・過去・条件形・命令形には、べつの作りかたもある。このことはすでに命令形については既知であるが (§§6, 26, 27)、ほかの 3 時制についても同様なのである。その代替的でより古い形は、動詞の語幹に屈折語尾を付すことで生成される。
動詞の語幹はふつう命令形単数と同じであり、その作りかたの知識が屈折諸時制 (inflected tenses) を使うために必須である。語幹 (あるいは命令形単数) は動名詞と同一の場合もある:aase 成長する、att 膨らむ、caghlaa 変わる、çhea 逃げる、çhyndaa 変わる、変える、取引する、creck 売る、ee 食べる、eeck 支払う、guee 祈る、insh 伝える、irree 上がる、iu 飲む、jarrood 忘れる、lhaih 読む、lhie 横になる、reill 支配する、roie 走る、sneeu 回転する、soie 座る、stroie 破壊する、tayrn 引く、traaue 耕す。
より頻繁なのは、語幹を得るために接尾辞を除く必要があるもので、そのうちもっとも多いのは -ey である:bentyn, benn- 触る、credjal, cred- 信じる、eiyrt, eiyr- 駆る、運転する、freggyrt, freggyr- 答える、gialdyn, giall- 約束する、jeeaghyn, jeeagh- 見る、leeideil, leeid- 導く、loayrt, loayr- 話す、shassoo, shass- 立つ、togherys, toghyr- 曲げる、toilliu/toilçhyn, toill- 値する、troggal, trog- 上げる、tuittym, tuit- 落ちる。-agh- をもつ動詞はすべて語幹が -ee に終わる:cooinaghtyn, cooinee-〔思いだす〕。
動名詞から接尾辞を差し引くのと並んで、語幹末の子音が口蓋化音となって母音の変化を伴うものがある:bwoalley, bwoaill- 打つ、coayl, caill- 失う、craa, crie- 揺する、dooney, dooin- 閉ざす、freayll, freill- 保つ、shooyl, shooill- 歩く。〔「口蓋化音」の原語は palatal であるが、例からも明らかにこれは調音点が硬口蓋の子音を指すのではなくて、口蓋化した子音すなわち狭子音 slender consonant を意味している。〕
また幹末の流音または鼻音は成節的に (かつたいていは口蓋化音に) なることがある:çhaglym, çhaggil- 集める、cosney, cossyn- 獲得する、etlagh, ettyl- 飛ぶ、fosley, foshil- 開く、など。
学習者は読解中に出会ったときこうした可変的な語幹を認識できるようになるべきである。ただし話し言葉における実際的な目的からすると jannoo を用いた代替的な構文もつねに利用可能である。
この語幹にもとづいた屈折諸時制の形成については §§175–179 を見よ。とりわけ、-agh-動詞において語幹の一部をなす -ee はいかなる状況でも残るのに対して、ほかの動詞の未来独立形における屈折語尾である -ee は、未来従属形やその他の時制においては現れないことに注意せよ。
175. 規則動詞。
規則動詞は不規則動詞と同じ屈折形をもつが、活用全体を通して単一の語幹を用いる。語尾は次のとおり:
未来独立形 1 単 -ym, 1 複 -mayd, その他 -ee。従属形 1 単 -ym, 1 複 -mayd, その他 ゼロまたは -ee。関係形 -ys。
過去独=従 ゼロまたは -ee。
条件独=従 1 単 -in, その他 -agh。
命令形 2 単 ゼロまたは -ee, 2 複は 2 単+-jee。
分詞 -it。
176. coayl「失う」の活用 (屈折時制のみ;その他については §§6, 24, 59 を見よ)。語幹 caill-:
未来独 1 単 caillym, 1 複 caillmayd, その他 caillee。従 1 単 gaillym, 1 複 gaillmayd, その他 gaill。関係形 chaillys。
過去独=従 chaill。
条件独 1 単 chaillin, その他 chaillagh。従 1 単 gaillin, その他 gaillagh。
命令形 2 単 caill, 2 複 caill-jee。
分詞 caillit。
177. 母音または f- で始まる規則動詞の活用。aase「育つ」(語幹 aas(e)-) および faagail「残す」(語幹 faag-):〔ここから表が簡略化されている。1 複は自明だから省略したのであろう。〕
未来独 aasym, aasee。従 n’aasym, n’aase。関係形 aasys。
過去独=従 d’aase。
条件独 aasin, aasagh。従 n’aasin, n’aasagh。
命令形 aase。〔分詞 aasit。〕
未来独 faagym, faagee。従 vaagym/n’aagym, vaag/n’aag。
過去独=従 d’aag。
条件独 aagin, aagagh。従 vaagin/n’aagin, vaagagh/n’aagagh。
命令形 faag。分詞 faagit。
178. -agh-動詞、すなわち動名詞が -agh, -aghey, -aghyn, -aght, -aghtyn に終わるもの。-agh- を -ee- に変えて語幹を作る。この語尾は未来独立形の -ee を吸収する。例:cooinaghtyn, cooinee-「思いだす」。
未来独 cooineeym, cooinee。従 gooineeym, gooinee。関係形 chooineeys。
過去独=従 chooinnee。
条件独 chooineein, chooineeagh。従 gooineein, gooineeagh。
命令形 cooinee。分詞 cooinit。
179. -agh-動詞であって語頭が母音または f- のものは、§178 の屈折と §177 の子音変異を有する。例:ooashlaghey「崇拝する」、follaghey「隠れる」。語幹 ooashlee-, follee-:〔ここから 1 単も省略され 3 単で代表される。〕
未来独 ooashlee eh, follee eh。従 n’ooashlee eh, vollee/n’ollee eh。
過去独=従 d’ooashlee mee, d’ollee mee。
条件独 ooashleeagh eh, olleeagh eh。従 n’ooashleeagh eh, volleeagh/n’olleeagh eh。
96. 受動態はマン島語では 3 通りの表現法がある:(a) ve と -it 分詞を用いるもので、英語とまったく同じ:t’eh scruit それは書かれている、va shin caillit 私たちは滅ぼされた。これはマン島語ではそれほど一般的な構文ではなく、動作ではなく状態について述べられている場合にのみふさわしい:va ny dorryssyn dooint ドアは閉ざされていた、これは閉じた位置にあったということ。
(b) (a) と似た構文だが、分詞ではなく句を用いる。この句は er と、主語に一致する所有詞と、動名詞とからなる:t’eh er ny screeu, va shin er nyn goayl (所有詞は §59 におけると同じ形をもつ)。これがもっとも一般的な構文であって、主語の人称・数がなんであれこの句を 3 人称単数男性に固定する傾向がある (すなわち er ny+軟音化した動名詞) のだが、これは推奨されるべきではない。
(c) 第 3 に、goll「行く」と er と動名詞 (この場合は er のあとでも子音変異しない) という形を用いうる:hie mee er coayl 私は滅ぼされた、hed ad er coayl 彼らは滅ぼされるだろう、ga nagh ragh shoh er credjal たとえこのことが信じられないにせよ。
97. マン島語に関係小辞 (relative particle) はない。関係節では動詞が最初にきて、独立形の 3 人称単数に置かれる。規則動詞は未来時制においてのみ特別の関係形をもち、これは軟音化して -ys に終わる。
ayr ain, t’ayns niau 天にましますわれらの父
shen yn dooinney loayr rhym ayns y traid それが通りで私に話しかけた男だ
quoi loayrys rish y vainshter? 誰が主人に話しかけるだろうか
関係詞が先行詞を含む場合、すなわち ‘that which’, ‘the things that’ といった意味のとき、あるいは関係詞が ooilley「すべての」に後続する場合、それがとる形は ny である:
ny ta scruit aym, t’eh scruit 私が書いたことは書かれている (ヨハネ 19:22)
ta ooilley ny haink roym’s nyn maarlee as nyn roosteyryn 私のまえに来た者はみな盗人で強盗である (ヨハネ 10:8)
ta mish loayrt shen ny ta mee er n’akin 私は私が見たことを話す (ヨハネ 8:38)
否定関係詞は nagh で、これには従属形の動詞が従う:
eshyn nagh vel goll stiagh er y dorrys ... t’eh shen ny vaarliagh 扉によって入らぬ者……これは盗人である (ヨハネ 10:1)
98. ‘if’ に相当するマン島語は 2 つある。(a) my+現在時制:my t’eh clashtyn「彼が聞こえていれば」、または未来:my vees eh「そうであれば」(動詞の関係形については §39)、または過去:my v’eh「彼が〜だったら」(このとき彼がそうだったという陳述は真とみなしている;英語〔および日本語〕のそれはふつう「そうではなかった」ということを含意しているが、そういうものは次の (b) に属する)。
(b) dy+条件時制従属形:dy beagh eh ayns shoh「もし彼がここにいたとしたら (実際にはいない)」、または条件過去形:dy beagh eh er ve ayns shen「もし彼がそこにいたのだったら (実際にはいなかった)」。Cf. dy beagh shiuish nyn gloan da Abraham, yinnagh shiu obbraghyn A.「もしあなたがたがアブラハムの子らであったなら、アブラハムのわざを行うだろう」(ヨハネ 8:39)。
どちらも否定は mannagh であり、これには従属形の動詞が従う:mannagh vel shen firrinagh「もしそれが本当でないなら」、mannagh beign er ve ayns shen, cha beign er chredjal eh「もし私がそこにいなかったのだったら、私はそれを信じなかっただろう」。
等価だがよりまれな表現として、er-be dy+従属形の動詞というものがあり、‘were it not that’ を意味する:er-be dy row yn çhiarn hene er nyn lieh「もし主ご自身が私たちの側にいなかったらば」(詩篇 124:1)。
99. すでに §7 で、dy に従属形の動詞が続く形を英語の接続詞 ‘that’ と等価なものと、また nagh がその否定形であることを見た。これらによる子音変異については §188 を見よ。
〔§188. (2) 規則動詞の未来と条件時制の従属形は、cha, dy, nagh のあとで鼻音化するが、このさい影響を受けるのは §187 の第 1 列、すなわち無声音だけである。
〔§187. 鼻音化 (nasalisation) あるいは暗音化 (eclipsis)。以下の変化が生じる:
p → b b → m
t, th → d, dh d, dh → n
c, k → g g → n’gh, ng
qu → gu j → n’y
çh → j
f → v
また語頭の母音には n- が接頭される。〕
dy+未来従属形 (ve 以外のすべての動詞の;ve の場合は dy row) は願望を表すのに用いられる:casherick dy row dt’ennym, dy jig dty reeriaght, dt’aigney’s dy row jeant「汝の名が聖化されるように、汝の王国が来たるように、汝の意思がなされるように」、dy jean y çhiarn shin y vannaghey「主がわれわれを祝福するように」。
2 人称以外の命令形は、英語の構文と同様に作られる。すなわち ‘let’ と名詞または代名詞の間接目的語によってである:lhig dou goll「私に行かせろ」、lhig dooin fakin ad [ad y akin]「私たちに彼らと会わせろ=彼らと会おう」、lhig da’n ven çheet stiagh「その女に入らせろ」、lhig jee çheet stiagh「彼女に入らせろ」、等々。
100. すでに §20 で、fys「知識」(物事や事実のであって、人についてのは §113 を見よ) が ve+前置詞 ec+英語で言うところの主語、および er+英語の目的語と組みあわさって、「知っている」にあたるマン島語ができることを見た:ta fys aym er ny reddyn shen「私はそれらのことを知っている」。
否定形の現在では動詞が落ちて fys が ’s に簡約されることがある:cha ’s aym (= cha (nel fy)s aym)「私は知らない」。fys はまた鼻音化した形でも見られる:kevys da, kevys daue「彼/彼らはどうして知っているか」。
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