jeudi 15 juin 2017

グリーンランド語入門 (2) 単語の組み立てかた

グリーンランド語入門第 2 回の範囲は,Kölbl, Grönländisch, S. 24–27 です (全体の目次は前回をご覧ください).原著の章のタイトルは „Baukasten I: Wie Grönländisch funktioniert“ (積み木箱 1:グリーンランド語の機能のしかた) ですが,日本語にするとこれでは意味がわからないので,少しひねって見出しを「単語の組み立てかた」としてみました.


単語の組み立てかた


グリーンランド語でポイントとなるのは付加音節 (Anhängesilbe) です.3 段階に分けて説明します.〔今回は „Baukasten I“ ですが,後の S. 59ff. と S. 92f. に II「重要な接尾辞」と III「接尾辞の順序」があるということです.つまり仕組みそのものの説明はこの回で完結します.〕


付加音節 (または接尾辞)


地名の Qeqertarsuaq, Kangerlussuaq, Narsarsuaq から始めましょう.地名はたいてい意味をもっており,ここでは「大きな島」「大きなフィヨルド」「大きな平原」です.そう言えば „suaq“ が「大きな」のような意味をもちそうだと想像できるでしょう.

〔Qeqertarsuaq はグリーンランド西岸沖に浮かぶ,本島に次いで大きな島 (といっても約 250 倍の開きがあり,日本で言えば四国の半分足らずの大きさ) であるディスコ島南岸の港町であり (人口 845 人:2013 年),ディスコ島そのものを指す名前でもあります.Kangerlussuaq は 190 km の長さをもつ西部グリーンランド最大のフィヨルドの最奥に位置する町 (人口 499 人:2016 年) であるとともに,やはりそのフィヨルドの名前も兼ねます.Narsarsuaq はグリーンランド南部の町で (人口 145 人:2015 年),サガにもある赤毛のエイリークの定住した「東植民地 Eastern Settlement」に含まれる土地です (エイリークの屋敷のあったブラッタフリーズ Brattahlíð はここから南西わずか 5 km).Kangerlussuaq と Narsarsuaq には空港があり,これらはグリーンランドにある民間の (軍用でない) 空港としては最大の 2 つです.〕

グリーンランド語の中心的な考えかたは,基本語 (Grundwort) に対しそれを説明ないし明確化する接尾辞 (Suffix) をくっつけ,それでもって誰が何をどのようにするかを表すというものです.ときにはひとつの接尾辞に,ドイツ語〔日本語〕で言うところの形容詞や動詞,あるいはなかば文でさえあるような,さまざまな意味が対応することがあります.それらはときに副次的意味 (Nebenbedeutung) をもっており,+suaq は「大きな」ですがさらに「否定的な negativ」「醜い,嫌な hässlich」「愚かな dumm」等々の含みを伴うことがあります.


音の同化 (Lautangleichung)


接尾辞の付加による単語の変化はやりかたがあります.2 つの異なる子音 (たとえば g + l) が並ぶとき,前者は消滅 (verschwinden) し後者は二重化 (verdoppeln) します.これが「イグルー (iglu)」がグリーンランド語の illu に対応する理由で,g は二重化した l のために消滅しているのです.ts および〈r + ほかの子音〉の結合という例外を除いて,グリーンランド語の単語では 2 つの異なる子音が並ぶことはありません.


同化接尾辞・切断接尾辞


接尾辞には 2 通りがあります.〔グリーンランド語に関する日本語の本がないため,この訳語は私が勝手に発明しているだけなので注意してください (こうしたことは今後も頻発します).そのために重要な用語には原語を併記しています.もしかすると既存の本,たとえば前々回紹介した久保 1985 か言語学大辞典のようなものにはすでに定訳があるかもしれませんが…….〕

1. 同化接尾辞 (angleichendes Suffix):その接尾辞の直前にある子音を同化させます.母音の場合は影響しません.この種の接尾辞は „+“ の記号で表すことにします:+suaq「大きい」,+lu「と」.

kuuk「川 Fluss」+ suaq = kuus|suaq「大きな,幅の広い川」,kangerluk「フィヨルド」+ suaq = kangerlus|suaq「大きな,広いフィヨルド」.kuuk + lu = kuul|lu「と川」,kangerluk + lu = kangerlul|lu「とフィヨルド」.

〔ただし母音で終わる場合〕illu「家」+ lu = illu|lu「と家」.〔「と」の位置に注意してください.たとえば「川と家」は „kuuk illulu“ となります.これもまたラテン語の接続詞 -que などを思いだしますね:flumen domusque のように第 2 要素の後ろにくっつくのでした.〕

-q だけは同化のさい -r になり,このとき後続子音〔つまり接尾辞の最初の子音〕は発音上でのみ二重化します〔前回説明した〈r + 子音〉の発音規則を確認してください〕:

qimmeq「犬」+ suaq = qimmer|suaq [キンッスアク]「大きな (悪い) 犬」,narsaq「平原」+ suaq = narsar|suaq [ナッスアク]「大きな,広い平原」.

2. 切断接尾辞 (abschneidendes Suffix):その接尾辞の直前にある子音を失わせます.これは „-“ の記号で表します.この接尾辞の前に母音が立つ場合にはそのままにします.これに属するものはたとえば -lik「に与える versehen mit」があります:nuliaq「妻」は q で終わるので,この q は落として -lik を付加し,nulia|lik「妻と (結婚する)」となります.


A-法則 (A-Regel)


短い a がべつの母音に付加されるとき,後者はつねに a になります.それゆえたとえば語尾 -uvoq「だ ist」がつくとき,nuna「土地 Land」+ uvoq = nuna|avoq「土地だ ist Land」となります.


旧正書法と新正書法:igdlu と illu


1973 年,グリーンランドでは抜本的な正書法改革が行われました.それ以来グリーンランド語は,発音されるとおりに書かれるようになっています.ただし地図などではいまだに旧正書法のつづりに出会うことがありますから,簡単に注意をしておきます.旧正書法はむしろ文法的関係に立脚していました.これには屈折に際した形の変化がわかりやすいという利点があったのですが,その反面つづりの規則が複雑化していました.とりわけ発音上の多数の音声同化が文字の上に表されていませんでした.


グリーンランド語の品詞


グリーンランド語は本質的に名詞と動詞によって成り立つもので,これに代名詞と場所および時間の言明が加わります.形容詞は接尾辞や特殊な動詞などによって表され,また接続詞もその他の特別な動詞の形によって補われます.

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